先の大戦から二年が経過したコズミックイラ75、世界は未だ平和にはなっていなかった。
地球とプラントが戦闘状態にあると言う訳ではないのだが、先の大戦での『ロゴス掃討作戦』を生き延びたロゴスの構成員が再度ロゴスを、そしてブルーコスモスを組織し、地球のザフト軍基地への侵攻を行っていたのだ。
それと同時に連合からの独立運動も起こり、地球連合は連合としての体をなさなくなってしまっていた……尤も、主義も思想も違う者達が唯一の共通意志である『反コーディネーター』が根幹にあった事を考えれば、その思考を持つ人間が薄くなって来た連合がこうなるのは時間の問題だったのかもしれないが。
そんな中――
カナジ郊外 AM1:00
其処ではブルーコスモスの部隊が、地球にあるプラントの経済特別区『オルドリン市』にむかってモビルスーツを発進させていた。
攻撃を受けたオルドリン市では、ザフトの部隊がブルーコスモスの部隊を迎え撃っていたが、地球連合の一部を掌握しているブルーコスモスとザフトの地球部隊では数の差が圧倒的であり、更に地球のザフト部隊のモビルスーツはジンなどの旧式が使われていたので戦局は不利であった――尤も、ザクやグフと言った機体はプラント本国を防衛する為の部隊に配備されているから地球部隊の機体が旧式になるのは致し方ないのだが。
だが、ザフトとてやられっぱなしではない。
『コンディションレッド発令。コンディションレッド。アフリカ共和国、オルドリン自治区領内へブルーコスモスと思われる部隊が侵攻。パイロットは搭乗機へ。各隊員は速やかに所定の作業を開始せよ。』
オルドリン市の遥か上空の宇宙空間にザフトの最新鋭艦である『スーパーミネルバ級』の『ミレニアム』が現れ、モビルスーツパイロットは夫々の搭乗機に乗り込んで行く。
「ブルーコスモスのクソッタレ共が……強化人間作っておきながらコーディネーターは認めないとか、アイツ等の頭の中には脳味噌の代わりにマルコメ味噌でも詰まってんのか?」
「イチカさん、其れマルコメ味噌に失礼っす。」
そして其のモビルスーツのパイロットは、イチカ、キラ、シン、ルナマリア、ステラ、ムゥ、更にマドカとレイと歴戦のエース級の揃い踏みだ。
彼等は世界平和監視機構『コンパス』の一員であり、ブルーコスモスの侵攻を止めるべく日夜戦いを続けているのだ――因みにコンパスの総裁はラクスで副総裁はカタナである。
副総裁となったカタナはラクスのサポートを行う事でモビルスーツに乗る機会は激減してしまったが、カタナのサポートによって政治的な面でラクスが助けられている場面も少なくない。
なお、カタナはコンパスの副総裁になった際にラクスからくノ一装束と陣羽織を送られており、現在は其れを着用している。
「そんで、今回はどうすんだキラ?」
「ブルーコスモスの主力部隊は僕とイチカで抑える。あとは市民の避難誘導を優先しながら敵機の撃破を!戦火を拡大させたくないから此れで行く。」
「了解。ちゅー訳でお前等……市民の避難を妨げる奴が居たら容赦なく撃破しろ、俺が許可する。」
「「「「「「了解!!!」」」」」」
「OK!そんじゃ行きますか!!イチカ・オリムラ。ストライク、行くぜ!!」
「キラ・ヤマト。フリーダム、行きます!」
「シン・アスカ。ジャスティス、行きます!」
「ルナマリア・ホーク。ゲルググ、出るわよ!」
「ステラ・ルーシェ。ゲルググ、出る!」
「マドカ・オリムラ。ゲルググ、出るぞ!」
「レイ・ザ・バレル。ゲルググ、発進する。」
「アグネス・ギーベラント。ギャン。行くわ。」
ミレニアムから新型のフリーダムとジャスティス、そしてストライクの後継機とザフトの最新型量産機が発進して地球に降下しブルーコスモスの部隊の鎮圧に向かうのだった――そして此処から新たな物語の幕開けとなった。
機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE101
『新たなる序曲~Eine neue Ouvertüre~』
オルドリン市ではブルーコスモスの部隊とザフトの部隊が激しい戦闘を繰り広げていた。
旧式とは言え、連合よりもモビルスーツの開発では先んじていたザフトのジンは連合の後発量産機である105ダガーやウィンダムを相手に回して互角以上に戦っていたのだが、如何せん数の差を埋めるには厳しく、少しずつ劣勢になって行った。
「お、オイ……マジかよ!!」
「そこまでしてコーディネーターを殺したいのかブルーコスモスは……!!」
更に其処に存在其の物が最終兵器とも言える超大型可変モビルスーツ『デストロイ』が投入されて来たのだ。
デストロイの弱点は明らかなっているとは言え、今や型落ちとなった旧式のジンで対処出来るレベルの相手ではない――そしてデストロイの登場によって更に押し込まれたザフトの部隊の最終防衛線を突破したブルーコスモスの部隊は逃げ惑うコーディネーターに武器を向けるが……
――バシュゥゥゥン!!
――バガァァァン!!
突如としてウィンダムの頭部が何者かのビームに撃ち抜かれて爆発し機能を停止した。
そして、其の発射元を辿ると、其処には流星の如く輝きを放って降下して来た八機のモビルスーツの姿があった。
「大気圏突入直後に更にこれだけの高速移動をしながら的確に頭部だけを撃ち抜くとかマジでハンパないなキラ?」
「此れ位誰でも出来るよね?」
「出来たらザフトは全部隊スーパーエース級のパイロットが配備されとるってのよ。」
それはコンパスのモビルスーツ部隊『ヤマト隊』の面々だった。
先ずはライジングフリーダムがウィンダムの頭部をビームライフルで撃ち抜き、続いてZストライクがビームライフルショーティでマシンガンのような超高速のビーム連射で105ダガーを蜂の巣にして見せた。
「此方は世界平和監視機構『コンパス』。
攻撃部隊に告ぐ。直ちに戦闘を停止せよ。」
此処でキラがブルーコスモスの部隊に戦闘停止を申し入れるがブルーコスモスの部隊は其れを聞き入れず、デストロイがモビルスーツ形態に変形して胸部の三連スキュラを放ってヤマト隊を攻撃。
ヤマト隊の面々は其れを華麗に回避し夫々のやるべき事を行う事に。
「またこんなモノを……」
「ったく、大人しく戦闘停止すりゃ長生き出来たモノを……恨むならテメェの判断力のなさを恨めよ!」
デストロイから分離した腕部、そして地上のモビルスーツからのビーム攻撃を回避したライジングフリーダムとZストライクは夫々が搭載されている火器を全開にしてのフルバーストで一気にブルーコスモスのモビルスーツの数を減らす。
だがデストロイから分離した腕部は其の攻撃を回避し、ビームを撒き散らしながら空を飛び、市民を攻撃していく。
だが其の攻撃を赤、黒、白、ダークレッド、計四機のゲルググメナースが防ぎ、イモータルジャスティスはビームライフルで敵機を攻撃していく。
「アグネス、援護しろ!!」
「はぁ、何言ってんの?アタシの機体は近接型。援護はアンタよ!!」
ギャンシュトロームも近接戦闘で次々と敵機を撃破していく。
一方で上空ではデストロイから分離した腕がライジングフリーダム、Zストライクと交戦していた。
デストロイの腕部は五本の指全てが大口径のビーム砲になっているだけでなく陽電子リフレクターをも備えた攻守に優れたビット兵装であり、普通であれば苦戦は免れないのだが、スーパーコーディネーターであるキラと、超戦闘特化型コーディネーターのイチカは其の限りではない。
ライジングフリーダムとZストライクはビーム攻撃を華麗に回避し、ライジングフリーダムは陽電子リフレクターが展開されるよりも早く右腕をビームサーベルで斬り裂き、Zストライクは二本のシュベルトゲベールを連刃刀に連結させ、其の破壊力をもってして展開された陽電子リフレクター諸共左腕をぶった切って見せた。
そして両腕を失ったのはデストロイにとっては致命的だ――デストロイの本体には陽電子リフレクターは搭載されておらず、更に本体装甲はPS装甲をはじめとした特殊装甲ではなく通常装甲なので防御力は並の量産機と同じなのだから。
それでもデストロイは苦し紛れに胸の三連装スキュラを放とうとするが、其れよりも早くライジングフリーダムがフルバーストを放って三連スキュラを潰し、トドメとばかりにZストライクがシュベルトゲベールの二刀流でデストロイを十七分割して爆発四散!
「俺達、出る幕ないじゃん……」
「ステラ達、市民護ってるよシン?」
「あ~~……うん、そうだな。そうだったなステラ。」
シン達も市民を護りながらブルーコスモスのモビルスーツを次々と撃破していく。
此の事態にブルーコスモスの部隊は戦線を下げる事を決定し、部隊は後退を始めたのだが……此処でヤマト隊にまさかの通信が入って来た。
『此の戦闘の裏にはミケールが居る。カナジを制圧し、ミケールを引き摺り出せ。』
「なんだって?」
「マジ!?」
ミケールとはブルーコスモスの残党を率いるユーラシア連邦の大佐だ。
ザフトが戦うのも、ミケーレを討ち取れば其処で終わると考えてのモノだったのだが、現行での戦闘継続は市民に不必要な被害を出す事になる。
「戦闘を停止して下さい、ミケール大佐は此処にはいません!此れ以上の戦闘は市民に影響が出ます!」
「ま、やり過ぎはダメだな。」
カナジ市内に入ったライジングフリーダムはジンを不殺戦法で戦闘不能にし、Zストライクはブルーコスモスの部隊をシュベルトゲベール二刀流で一刀両断していった。
そうして瞬く間に両軍ともモビルスーツが戦闘不能となり戦闘停止を余儀なくされたのだった。
「隊長、イチカさん……」
「やっぱり、シンとはモノが違うわね。」
その光景にシンは驚きを新たにし、アグネスはイチカとキラの力に恍惚の表情を浮かべていた。
――――――
一夜明けたオルドリン市には市民用のテントが設立され、コンパスによる炊き出しや医療支援が行われていた。
コンパスによって即座に仮設住居や仮設の医療機関が開設され、簡易トイレや仮設の入浴所なども開設され、市民の避難生活に必要な物資も続々と届けられていた。
そして炊き出しとなったらイチカが黙っている筈がない。
「イチカさん、長ネギ、ニンジン、ダイコン、豚肉、ゴボウ、サトイモ、シメジ、こんにゃく、油揚げ炒め終わりました~~!!」
「其処に粉末のかつお出汁と昆布出汁二袋ずつ入れて具材が浸るまで水を加えて沸騰したら味噌1kgと醤油1ℓぶち込め!」
「イチカ……おにぎり、出来た。」
「うん、よく頑張ったなステラ。並のおにぎりの二倍はあるのは……まぁ良いとしよう。」
イチカは炊き出しとしておにぎりと豚汁をシンやステラ達と作っていたのだが、九種の具材の豚汁に加え、おにぎりも基本の梅干し、塩サケ、昆布の佃煮だけでなく、醤油漬け筋子、生明太子、チャーシューマヨネーズ、麻婆ミンチ、ドライカレー等々味のバリエーションも豊富で、市民達に食の楽しさを伝えていた。
そして炊き出しを終えたイチカ達は現場に駆け付けたアークエンジェルと合流し、キラが隊長として全員の帰還をアークエンジェルの艦長であるマリューに告げ着艦許可を求めた。
「被害の状況は?」
「今の所は死者二百五十七名、うち民間人が六十八名。多分、もっと増えるわ。」
「加えて今回も母艦は無し、モビルスーツ部隊だけと来てる……此の状況、お前はどう考えるキラ?」
「イチカ……恐らくだけどミケーレのネットワークだね。」
「だが奴さんの参戦はない。ザフトに国境侵犯させるのが狙い……で、合ってるかい魔乳さん。」
「私も同じ考えよイチカ君……だけど、その呼び方はいい加減やめてくれないかしら?」
「辞めるなら、四年前に、辞めている~~By一条康明。」
「イチカさん……だけど、アイツ等何時までこんな事続ける気なんですか!
最初から帰還を想定してない作戦なんて、機体もパイロットも持ちませんよ!」
それを許可したマリューをはじめとしたアークエンジェルのクルーと暫し会話をしたコンパスの面々だが、此処でシンが爆発した。
4年前の大戦で目の前で両親を喪ったシンにとっては、ザフトも連合も互いに戦力の潰し合いになっている上に民間人が犠牲になっている此の状況に我慢する事が出来なかったのだろう。
「でも続いてる。」
「其れが最大の問題な訳なんだが、それを是正する手段が無いのが更なる問題かもな……」
しかし現状では其れが続いてしまっている……それが問題だと分かっていても現状では是正する手段はない――其れを聞いたシンも其れ以上は何も言わなかった……言えなかったのだ。
「実際、根の深い問題だぜ。」
ムゥが口にした一言は今の世界情勢を端的に表していたと言えるだろう。
だが、其れでもコンパス部隊は戦う事を止める事はないだろう――戦いの先に平和を勝ち取る事が出来ると信じて……
――――――
C.E73――『ブレイク・ザ・ワールド』に端を発した地球連合とプラント間の新たな戦いは、『アベンジャーズ』の横槍その他諸々で様相を様々に変化させながらようやく終結の時を迎え、世界は暫し平和な時間を享受する事になった。
だがしかし、ナチュラルとコーディネーターの溝は未だ埋まらず、各地で起こった独立運動に加え、ミケール大佐率いるブルーコスモスがゲリラ的な戦闘を繰り返し、対立と憎しみは尚も各地に燻り続けていた。
状況を憂いたオーブ、プラント、大西洋連邦の指導者は世界平和監視機構『コンパス』を設立し、その初代総裁に『ラクス・クライン』を招聘した。
――――――
――プラント最高評議会ビル内 エヴィデンス01 レプリカオブジェ
「デュランダル議長、御心配をおかけしました。」
「頭を上げてくれラクス嬢……ジャガンナートとて悪意があった訳ではないと思う。
彼は彼で平和な世界を望んでいるのだ……だが、其の世界平和がコーディネーターによって作られるモノだと信じてやまないのが困りモノだよ……ナチュラルを全て排除してコーディネーターだけの世界を作ると言う思想は、ブルーコスモスのナチュラル至上主義と変わらない考え方だからね。
だが、それとは別に軍内部からの憤懣も高まっていると聞く……早急に、今度こそブルーコスモスを完全に終わらせなくてはならないだろう。」
「えぇ、その通りね議長。
現状ではコンパスが矢面に立っているから暴発を抑える事が出来ているけれど……」
「確かにその通りだが、其れでも限界と言うモノはあるだろうカタナ君?」
「それは勿論だけれどね。
今の情勢が厳しい事は理解しているわ……だけど、憎しみを忘れる事が出来ないのは愚か者とは理解していてもやはり私達も感情に支配されてしまうわ。
失ったモノがあまりにも大き過ぎたモノ。」
L5宙域プラントのアプリリウ市にあるプラント最高評議会ビルにて行われた会議後、プラント最高評議会議長のデュランダルとコンパス総裁のラクス、同じくコンパスにて副総裁を務めるカタナは少し疲れた様子で話をしていた。
その会議ではプラント内でも強硬派であるジャガンナートが先のブルーコスモスとの戦闘に関してラクスに対し『我が軍の被害はどれほどかご存じないのか?此度のヤマト隊長の行いは無慈悲であると言わざるを得ない!』と、戦闘停止の為にザフト軍のモビルスーツを不殺とは言え戦闘不能にしたキラの行為を咎めて来たのだ。
ラクスとしてはキラの真意は分かっていたモノの、それを言ったところで強硬派のジャガンナートには理解されないと思い口は開かなかったのだが、其処で反撃に出たのがカタナだった。
キラの行動を『戦闘を強制的に終わらせて市民の安全を確保するためだった事と、ミケールの思惑に乗ってザフトを越境させない為の行為であり、結果としてはブルーコスモスに攻撃の理由を与えない為だった』と猛反撃。
其れでもジャガンナートは強硬姿勢を貫こうとしたのだが、カタナには計千年を超える前世の記憶と経験があり、暗部『更識』の長として弁も立つのでジャガンナートの主張を悉く論破して黙らせたのだ……それでも、コンパスの総裁であるラクスに噛み付いたジャガンナートは相当に肝が据わっているのかもしれないが。
「うむ……して、カナジにミケールは?」
「居なかった……ヤマト隊長からはそう聞いています。」
「矢張りと言うべきか……彼の潜伏先はユーラシアの軍事干渉地帯かな?」
「その可能性が高いと……」
「其処まで分かっていても手が出せないのが、我々の現状か……」
「そうなってしまうわね。」
「時に、ミレニアムが戻るのは一カ月ぶりだったかな?」
「そう言えば、それくらいにはなるかしらラクス様?」
「そうですわね。」
「イチカ君とキラ君も今回は少しは休養できそうかね?」
「はい、予定では。フレイも久しぶりに会えるので張り切っていますわ。」
「それは良かった。
しかし、実に不思議なモノだ……イチカ君とキラ君は性格的には全く正反対であるにも関わらずどこか似たモノを感じてしまう……そう、まるで絶対値が同じながら真逆のベクトルに存在しているかのようなね。」
「優しいのです、キラもイチカも……」
「その優しさが、イチカは敵を倒す事、キラ君は仲間を護る事に回されている、其れだけの事なのよね……」
「真の強さは優しさにこそ宿るか……納得出来る理論だね。」
取り敢えず現状ではコンパスが矢面に立っている限りはザフトの部隊が暴発する事はないが、其れでも現状をなるべく早く改善する必要があるのは間違いない事だった。
「世界平和を実現する事は難しいが、だからこそ遣り甲斐もあるか……永い人類史の中で誰一人として成し遂げられなかった世界平和だが、君達とならばそれが実現できると信じているよ。」
「えぇ、必ずや実現させましょう。」
「出来るわよ、私達ならね。」
一行はプラントビル内に戻って行ったのだが――
「タオ閣下。」
「宜しく、国防委員長。」
「では、こちらに。」
其の裏では、フードを被った謎の男がザフト国防委員長であるジャガンナートと秘密裏に接触していた……そしてこれが後に大きな戦火の引き金になるとはだれも思っていなかった――そう、ジャガンナートですら……
To Be Continued 
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