その日、プラントの首都にある複合商業施設の大型野外ホールは人々がごった返していた。
「すっごい人っすねぇ……」
「ラクスのライブとなれば当然と言えば当然だけどな。」
その理由は今日この場所でラクスのライブが行われるからだ。
イチカ達はラクスの護衛と同時に会場の警備に当たっていた――ミネルバ隊だけでなくジュール隊も同じ任務に就いており、会場の監視カメラはカンザシの専用PCと連動しており、リアルタイムで不審者を特定する事が可能となっていた。
「はい、不審者確保ぉ!」
「盛り上がるライブに水をさすんじゃねぇ!!」
なので不審者は事を起こす前に制圧されていた――尚、此度の不審者の一人はイチカの飛びつきジャンピングDDTでKOされ、もう一人はシンがSTOを掛けようとしたところにイチカがフライングネックブリーカードロップをブチかましてダメージを倍増させてKOさせた。
KOされた男達は病院に運ばれたのだが、治療後は裁判すら行われずにムショ入り確定だろう――プラントの歌姫に刃を向けると言うのは其れだけで大罪なのだから。
不穏分子を制圧した後に行われたラクスのライブでは、トンデモナイサプライズが用意されていた。
「皆さ~ん、お久しぶりですわ~~♪
ラクス・クライン、プラントに戻って来ましたわ~~♪」
「此れほど大勢の人が集まってくれた事に感謝いたしますわ♪」
其れはラクスだけでなくミーアもステージに現れた事だ。
この日のライブの為にラクスに自分と同じ忍び装束と陣羽織を渡し、ミーアも其れを着用してステージに上がったモノだから『ラクスが二人になった』と思った人が居ても致し方ないだろう。
そして当然ラクスと瓜二つであるミーアに対して様々な意見が飛び交ったのだが……
「彼女、ミーア・キャンベルは私が幼少期に生き別れてしまった双子の妹ですわ。」
此処でラクスがトンデモナイ嘘を会場に集まったファン達に向けて放った……普通に考えたら眉唾なのだが、其れを信じさせてしまうレベルのカリスマ性がラクスにはあったと言えるだろう。
信じている人は一定数いたのだが、勿論ラクスが『冗談ですわ~~♪』と言って観客をずっこけさせてはいたが。
そうしてこのライブは大成功を収め、ラクスとミーアはプラントの歌姫の称号をほしいままにするのだった。
「ラクスのファンの野郎共は、ラクスには既に心に決めた激ラブな彼氏が居るって知ったらどうなるんだろうな?」
「ショック死するんじゃないですかね?」
「真にラクスのファンなら、彼女の幸せを最優先に考えるべき……だと思う。」
「ステラ……アンタ物凄く良い事言ったわ!」
「えへへ……ルナに褒められた。」
「何なのよ、この可愛い生き物はぁ!!」
なお、ライブ後の握手会ではラクスだけでなくミーアの列に並ぶ客も少なくなく、ミーアもまたアイドル歌手としての確固たる地位を確立していくのだった。
機動戦士ガンダムSEED INFINITY PHASE100
『平和を満喫せよ~Genieße die Ruhe~』
ラクスとミーアのジョイントライブから数日後、イチカはプラントにあるテレビ局を訪れていた。
と言うのも、テレビ局の企画で『プロアマ不問の料理対決』なる番組が制作される事になり、イチカはプロ部門とアマ部門の両方で出場を打診され、イチカも特に断る理由もなかったので出場を快諾し、デュランダルも『君の腕前を披露してくれたまえ』と前向きな意見だった。
尚、プロ部門とアマ部門の両方にエントリー出来たのはイチカはミネルバの料理長なのでプロと言えるが、自分の店を持ってないと言う意味ではアマとも言えるからだった。
先ずはアマ部門のテーマは『カレー』だった。
庶民的なイメージのあるカレーだが、スパイスの組み合わせや具材によって其の味が大きく変わるため、アマ部門の料理としては最高のお題と言っても過言ではないだろう。
そのアマ部門にて、多くの出場者がメインの食材に牛肉を選ぶ中、イチカは鶏肉とエビを選択していた。
鶏肉とエビ以外には特に奇をてらった食材は選ばなかったのだが玉ネギだけは大玉を十個と言う凄まじい数を選んでいた――で、先ずは大量の玉ネギを微塵切りにしてオリーブオイルとバターで飴色になるまで炒めながら別のフライパンで鶏肉を皮目がパリパリになるまで焼き、エビはフリッターにしてから鶏肉と共に飴色になった玉ネギに合わせ、其処にすりおろしたニンジン、湯むきしたトマトを五個分、スライスしたエリンギとマッシュルーム、缶詰のトウモロコシを加え、カレー粉大さじ五杯、デミグラスソース、オイスターソース、中濃ソース、ナンプラー、味噌、とんこつラーメンのスープの素を加えてじっくり煮込み、最後に追いスパイスとして粉コショー、一味唐辛子、五香粉、ケイジャンスパイスを加えて完成。
トッピングにはお馴染みの福神漬けに加えて素揚げしたレンコン、オクラ、ナスなどの野菜類とエビカツが添えられた。
このカレーはアマ部門で絶賛される事になった――多くの出場者が高級食材である牛肉を選んだ中での鶏肉とエビのカレーは新鮮であり、たまねぎの甘さとトマトの酸味がスパイスをマイルドにしつつもスパイシーさを引き立てており、素揚げにされた野菜とエビカツの事なる食感がカレーの味に更なる深みを与えていたのだ。
結果イチカのカレーは十人の審査員から十点満点評価で合計九十九点を獲得して見事優勝となったのだった……尚、アマ部門の審査員の一人は『絶対に満点評価をしない』と言われている審査員だったので、実質的には百点だったと言えるだろう。
続くプロ部門でのテーマは『炒飯』である。
中華の基本の炒飯だが、基本であるがゆえに奥深く、パラパラ仕上げかシットリ仕上げでも大分味に差が出るモノなので、プロの腕前を競うには良い感じのテーマだと言えるだろう。
炒飯の作り方は大きく分けて二つあり、先ずは先に卵を炒めてから米を炒めて具材と合わせて味付けした後に最後に炒めた卵と合わせる方法と、先に米に卵を混ぜてから炒めて一旦取り出し、具材を炒めて味付けしたところに炒めた卵飯を合わせる方法で、出場者の殆どがその何方かを使っていたのだが、此処でもイチカの独創性が光った。
イチカは炊いた米にマヨネーズを混ぜ合わせると、熱した中華鍋に油を引かずにマヨネーズ飯を投入して強火で一気に炒めてパラパラに仕上げ、一旦炒めた飯を取り出すと、マヨネーズから出た油分で微塵切りのネギとショウガ、豚のひき肉を良く炒め、具材に火が通ったところでオイスターソース、豆板醤、甜麺醤、豆鼓醤、花椒パウダーを加えて四川麻婆風の肉味噌を作った。
そして其処に先程のマヨネーズご飯を加えると、最大火力で一気に炒めて余分な水分と油分を飛ばし、最高のパラパラを持つ麻婆炒飯の完成だ。
此れだけでも絶品の炒飯なのだが、イチカは更に金華ハムで出汁をとったスープを作ると、そのスープを炒飯に注いでスープ炒飯に仕上げて見せただけでなくスープ炒飯をフランベして余計な油分を完全に飛ばして見せたのだ。
こうして完成したスープ炒飯はマヨネーズでしっかりコーティングされた米はスープの水分を吸う事なくパラパラ感を維持し、全体の軽い味わいを出汁が効いたスープが更に引き立ててより深い味わいを演出していた。
此のスープ炒飯にはプロ部門の審査員全員が十点満点の評価を下し、イチカはプロ部門でも文句なしの点数で優勝をかっさらってアマとプロの二冠を達成したのだった。
――――――
ある日のプラントのライブハウスには、イチカとシンとキラとアスランとルナマリアが集結して演奏の練習をしていた。
実はこの五人、戦争終結後に『バンド・オブ・ファイターズ』、通称『B・O・F』を結成して主にオーブやプラントを中心にライブハウスでのライブを行ってマイナーバンドではトップクラスのユニットとなっていた。
イチカがギター、シンがベース、アスランがドラムでキラはキーボード、ルナマリアはボーカルだ。
ルナマリアの歌唱力はラクスには劣るとは言え並のアイドルは凌駕しており、特にシャウトとビブラートの力は非常に高く、女性としてはやや低音気味の歌声もファンの心を掴んでいた。
そして本日練習しているのは新曲の『遠雷』だ。
間奏にベースのシンがラップを挟む難しい構成なのだが、バッチリ決まれば最高にかっこいい事この上ない。
「強く響き合ったまま離れて行った幼い記憶。何かが終わって僕等は、始まりを感じてる。冷たい雨の中……」
『いくつもの未来を感じろ、真っ白になる前に!」
先ずはルナマリアの独唱から始まり、続いたロックの部分でシンがラップパートをベースを演奏しながら見事にやり抜け、ルナマリアの透き通ったやや低めの歌声がライブハウスに響き渡っていた。
それから更に一時間、イチカ達は練習を行うのだった。
「今日もお疲れ様っと……こんな時間だから飯食ってくか?焼肉とか如何よ?」
「焼肉……最高っすよイチカさん!!」
「それじゃあラクスとフレイに食事は外でして来るって連絡入れないとね。」
「俺もカガリとメイリンに連絡を入れないとだな。」
「イチカさんはカタナさんに連絡入れなくていいんですか?」
「カタナは今日はロランとマドカとステラ、それとマユちゃんと出掛けてるから向こうは向こうで食べて来るだろ。」
「連絡しなくても分かるんすね。」
「前世からの付き合いだからな。」
練習を終えた一行は焼肉屋に向かうと其処で夕食に。
オーブ産の黒毛牛――西暦時代で言う所の黒毛和牛が食べられる最上級の食べ放題コースに無料ドリンクバーをつけて一人当たり4500円(SEEDワールドの貨幣名称分からんので円で)は安いだろう。
「先ずは厚切りのタン塩、黒毛オーブ牛のカルビとハラミとロース行きますか!」
「キムチとナムル四点盛りも外せないですよね!」
「凄いね、ユッケだけじゃなくてレバ刺しやセンマイ刺しもあるんだ。」
「海鮮焼きも充実しているな?エビと殻付きホタテも頼むか。」
「野菜もあった方が良いですよね。たまねぎと長ネギとシイタケにエリンギっと♪」
若者五人での焼肉食べ放題となればオーダーのペースも速く、イチカ達の席には給仕用ロボットが絶え間なく訪れる状況となっていた。
そして同じ頃……
「やっぱりお寿司は美味しいわね♪」
「なめろうの軍艦とは珍しいが、うむ美味だ。」
「穴子……ステラは煮たアナゴの方が好き。」
「カジキマグロ美味しい~~♪」
カタナ達は回転寿司屋で寿司を堪能していた。
カタナとロランが十皿、マユが八皿だったのに対し、ステラはまさかの二十五皿と中々の健啖家ぶりを見せてカタナ達を驚かせていたのだった――そして帰り際に店内にあるカプセルトイを回し、カタナは『モチになりたかったネコ』、ロランは『サーファーネコ』、ステラは『メンダコ君』、マユは『ダイオウグソクムシ君』をゲットしたのだった。
――――――
終戦後の平和は長くは続かず、ブルーコスモスは残党等によって再結成され反コーディネーター運動を再開させ、地球のザフト軍基地に対しての攻撃やコーディネーターが住む地域への攻撃を開始した。
それに対しプラントのザフト、オーブ、連合の大西洋連邦が共同で世界平和監視機構『コンパス』を設立し、総裁がラクス、副総裁がカタナとなり、実働のモビルスーツ部隊はキラが隊長、イチカが副隊長となり、隊員にはシン、ルナマリア、ステラ、レイ、そして大戦期にはミネルバ隊とは別の部隊で活躍し、『月光のワルキューレ』の二つ名を持つ赤服のアグネス・ギーベンラートが選抜されていた。
更に同じ頃、ユーラシア連邦から独立した一派が『ファウンデーション』なる組織を立ち上げていた。
そうした情勢の中、後に『フリーダム強奪事件』と呼ばれる事件が勃発。
輸送中のストライクフリーダムが何者かに強奪される事件が起きたのだが、これはファウンデーションが一早く対処し、『ブラック・ナイト』の名を持つモビルスーツでストライクフリーダムを圧倒し、強奪犯はコックピットを貫かれて死亡したのだった。
キラが乗っていなかったのでストライクフリーダムは本来の力の半分も発揮出来なかったとは言え、先の大戦で一度の被弾もしなかったストライクフリーダムを圧倒するブラック・ナイトの性能は相当に高いとみて間違いないだろう。
そして、戦争終結から二年の歳月が経ち、世界は三度大きなうねりに呑み込まれて行くのだった……
To Be Continued 
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