Side:一夏


俺を助けてくれた千冬さんにそっくりの女の子は、自分を『織斑マドカ』と名乗り、更には『織斑計画』とやらで生み出された千冬さんのスペア――代
替品だって言ってたけど、其れ一体どう言う事なんだ?
只の千冬さんのクローンって訳でもないよな?



「へ?千冬さんのクローンじゃないの?アタシはそう捉えてたんだけど……」

「私も鈴と同様に考えていたのだが、お前は違うのか一夏?」

「いや、俺も千冬さんのクローンってのは真っ先に思い浮かんだんだけど、ただのクローンだったら、自分の事をスペアとは言わないんじゃないかっ
 て思ってさ。
 スペアって言い方を考えると、ただのクローンじゃなくて、千冬さんが何らかの理由で四肢や内臓を失った時に、失われた部位を提供するドナーと
 して作られたんじゃないか?
 まったく同じ遺伝子を持った者なら、拒絶反応もなく移植やらが出来るだろうからな。」

「フフフ、思った以上に鋭いじゃないか兄さん?
 その通り、私はちー姉さんのスペア兼、ドナーとして作られた存在だよ――故に、私とちー姉さんは100%同じ遺伝子の持ち主……10歳以上歳
 の離れた一卵性双生児と言える関係さ。」

「笑えない事だが、まさか私のクローンが存在しているとはな……」



ホント、驚きだよな?
クローン人間が技術的に出来るって事は知ってたけど、其れを現実にした奴が居るってのは驚く他ないぜ……しかも、よりにもよって世界最強って
言われてる千冬さんのコピーとか、ふざけてるにも程があんだろ?
いや、だからと言ってマドカが悪い訳じゃないけどな?

つっても、如何にも『織斑計画』ってのはきな臭い感じがするぜ――若しかして、その計画は俺と千冬さんの親が蒸発した事と何か関係が有ったり
するのか?
だとしたら、其れが一体どんなものだったのか、ちゃんと知っておかねぇとだぜ!










Infinite Breakers Break62
狂気の計画~Project Mosaic~』










Side:マドカ


『織斑計画』の彼是に関しては、胸糞の悪くなる内容もあるから、興味本位で聞くのならばここから去れと言ったのだけれど、誰1人として去らない
所を見ると、計画の全容を知る覚悟はあると言うところか。
兄さんと姉さん達以外の連中も、良い目をするじゃないか――此れならば、あの狂った計画の全容を話しても問題はないだろうな。

では、話すとしよう。
先ほども言ったが、織斑計画とは『最高の戦闘力を持った人類』を、より正確な言い方をするならば『最高の身体能力を持つ人間』を生み出す為の
計画だった――この時点で、かなりぶっ壊れた思想の計画なのは分かるだろうがな。



「最高の身体能力とは、随分と抽象的だが、基本的にはどう言うモノを作り出す予定だったんだ?」

「文字通りのモノだよ夏姉さん。
 運動能力、身体の耐久力、自然治癒能力、免疫力、そう言ったもの全てが、普通の人間では到達出来ない水準に達した『超人』を作ろうと言うの
 さ……何故そんな事を思い立ったのは知らんが、大方『作ってみたかったから』程度の理由だろうさ。」

「何とも、傍迷惑な理由だと思うなぁ其れ……」

「ま、しーちゃんの言う事は尤もだけど……でもその気持ちは分かるかも。
 科学者って言うのは、技術的に出来るって事が分かると、倫理観とか無視してそれをやりたくなっちゃう部分があるからね――ぶっちゃけ、ヤタノ
 カガミの開発も、技術的に可能だから踏み切った部分はあるし。
 まぁ、開発費の高騰って言う手痛いしっぺ返しを喰らったから、箒ちゃんのアカツキにしか搭載されてない唯一無二の装甲になっちゃったけど。」



束博士、それでも貴女はまだ人としての最低限の倫理観は失っていないから良い。
だが、織斑計画を推し進めた連中にはそんな最低限の倫理観すら残ってはいなかった――あったのは、己の目的を果たそうと言う欲望だけで、倫
理観など犬に食わせてしまえ的な連中だったらしい。

連中は、幾多ものトライ・アンド・エラーを繰り返しながら、計画を進めて行った……連中の期待した水準に達しなかった実験体は、即座に処分され
たらしい。
そうして、幾つもの失敗の果てに生まれた、1000体目にして唯一の成功例が、貴女だちー姉さん。



「な……!私自身が、作り出された存在だと言うのか……!?」

「ちー姉さんは覚えていないだろうがそう言う事になるな。
 そして、その完成形を量産しようとして生まれたのが夏兄さんと、あの地獄に100万回叩き落としても絶対に更生しないであろう糞馬鹿ビビンチョ
 だ……あんなのが夏兄さんと同じ顔をしているだけで腹が立つ。」

「糞馬鹿ビビンチョって……言うなオイ?
 でも、お前が言った事が本当だとしたら、俺と千冬さんも同じ遺伝子の持ち主って事になるのか?」

「待て一夏、どうしてそうなる?」

「そうよ、いくら何でも其れは無いでしょ?
 あくまでも千冬義姉さんは完成体であって、アンタとは違うと思うんだけど……?」

「確かにそうかもしれないけどさ、量産をするならマッタクのゼロから作るよりも、元となるデータがあった方が作りやすいだろ?
 となれば、量産型は千冬さんの遺伝子を元に作られた可能性が高いんだ――染色体の情報だけを男性のモノに書き換えたうえでな。」

「成程な……筋力や、それに比例した身体の頑丈さは、どうしたって女性体よりも男性体の方が上だ――量産化するのならば、より頑丈な方が都
 合が良かったと言う訳か。
 その量産化で生まれたのが一夏と一秋、そう言う事だなマドカ?」



その通りだよ夏姉さん。
あの糞馬鹿が量産型のプロトタイプで、夏兄さんが其れに改良を加えて完成した量産型の初号機と言った所だ――因みに、私の製造も並行して行
われていたんだが、量産型の方が先に出来てしまったので、夏兄さんと言う訳だ。



「って事は、一秋の野郎が子供の頃は間違いなく天才だったのは……」

「量産型プロトタイプは稼働直後から高い能力を発揮出来るように設定されていたからさ――尤も、その場合、鍛錬や実戦経験による成長をし辛い
 と言う事が判明し、プロトタイプ初号機、つまり夏兄さんは稼働直後の能力は平均的だけど、鍛錬や実戦経験による成長が大きくなるように設定さ
 れていると言う訳さ。
 尤も、夏兄さん以降の量産型は、悉く失敗作だったらしく、成功した数は5%に満たないらしい。」

序に言っておくと、オンリーワンとして生み出されたちー姉さんに関しては、量産化によるコストを度外視して作られたために、初期能力が高い上に
成長値も大きいと言う、ある種のチート個体だった訳だがな。



「そんな計画があったとはな……だが、其れだと分からない事がある――私の記憶だ。
 一夏が物心つく前から両親はいなかったから、幼い頃の一夏の記憶は私が聞かせた話が元になってるだろうが……その大元である、私の記憶
 は如何なっているんだ?
 私は覚えているぞ、ある日両親が、私と一夏を置いて居なくなってしまった事を!」

「ちー姉さん、矢張り其処に気が付くか――まぁ、当然だがな。」

だが、逆に問うぞちー姉さん……貴女は、両親の顔を覚えているか?そして、両親の名前は?――そして、貴女の両親は何が好きで、貴女に何を
してくれた?
誕生日、クリスマスにお正月……両親は、貴女に何をしてくれたか覚えているか?



「其れは……其れは……馬鹿な、思い出せない?
 いや、思い出せないのではなく、分からない、だと?――そんな馬鹿な、なぜ分からない!!両親が蒸発したという事は分かっているのに、何故
 両親の名前も顔も分からないんだ!!!」

「ふ、簡単な事だちー姉さん……其れは、貴女の記憶は偽の記憶だからさ。」

「偽の記憶、だと?どう言う事だ!!」



ちー姉さんと夏兄さんと糞馬鹿と私の完成をもって、織斑計画は更なるステージに進む筈だったが、此処で予想だにしない事態が起きた――天然
で、最強スペックを備えた篠ノ之束の存在を奴等が知ってしまったんだ。
自分達が作り出そうとしていたモノと、略同スペックを備えていた篠ノ之束の存在は、連中を計画の続行から、貴女の捕縛へと意識をシフトさせてし
まったのさ。
高額な開発費を払って目的のモノを作るよりも、天然物を捕獲して解析した方が早いと判断したのかも知れないが……貴女の存在が、織斑計画を
凍結させたのは間違いないよ束博士。



「うわぉ……ISだけじゃなくて、私の与り知らないところで、束さんは色々と世界に影響を与えてたっぽい?」

「今の話を聞いて、『まぁ、姉さんだからな』と妙に納得してしまった私が居る件について。」

「其れは仕方ないんじゃないか箒?
 こう言っては何だが、束さんが何をやったところで、『まぁ、束さんだからな』で済むんじゃないかと思うよアタシは……楯無だってそう思うだろ?」

「そうね。
 大概の事は『束さんだから』で何とかなると思うわ――なんて言っても、束博士は現存する人類において間違いなく最強の天才だもの♪」

――【天才にして天災】


「みんな容赦ない!?
 って言うか、たっちゃんが一番遠慮無用!?天才は兎も角、天災ってなにさ!!束さんは、大地震や雷や火事や台風じゃないんだけどね!!」

「いや、微妙に否定は出来んだろう束?」

「親友が一番酷かった!!束さんショック!!」



……え~と、何やら盛り上がってるみたいだけど話を戻すぞ?
さっきも言ったように、束博士の存在が知られた事で織斑計画は凍結される事になったんだが、計画のデータは完全には破棄されずに残り、其の
データを利用する国が存在ていた。
まぁ、その殆どが資金面で頓挫したり、何度やっても成功例が出来なかった事で計画を放棄したりした訳なんだが、とある国は完成品の質を落とす
事で成功例を生み出し、そして量産化にこぎつけた。



「オイ、その国とはもしや……」

「お察しの通り、お前の祖国だドイツの黒兎。
 まぁ、遺伝子研究やクローン技術の研究なんぞはナチスドイツ時代から行われていた事らしいから、その手の資料は探せば幾らでも有ったんじゃ
 ないのか?
 過去の研究資料と、現代の研究データの両方があれば、問題点を洗い出して成功例を導くのは難しくないだろうからな。」

「って事はだ、俺とラウラは従兄妹みたいな関係と言えなくもないって事か?」

「おぉ!と言う事は兄上か!そして織斑先生は姉上と言う事だな!!」

「……ラウラよ、従兄妹間ではあまりそう言う呼び方はしないから、誤解するなよ?……クラリッサの奴め、まだ妙な知識を吹き込んでいるのか。」



……ドイツの黒兎隊長は、天然だったのか。人は見かけによらないな。
まぁ、ドイツが例外的に織斑計画のデータを基にした研究を成功させはしたが、織斑計画の凍結によって、ちー姉さんも夏兄さんも、私も、あの糞馬
鹿及び何体か完成していた量産型は全て廃棄される筈だったんだが――計画の発案者は、自分が作り出した研究成果を廃棄する事は出来なかっ
たらしい。
そこで、そいつは偽の記憶データを作って、ちー姉さんと夏兄さんと、あの糞馬鹿にインストールして麻酔で眠らせた上で、今の織斑家となっている
家に放り込んだって訳さ――勿論、戸籍データを捏造した上でな。
後は、その状況で目覚めれば両親が蒸発したと思い込んだ姉弟の出来上がりと言う訳さ。



「と言う事は、私の幼い頃の記憶は偽物だったと言うのか?……この記憶が偽物だとは、冗談にしても性質が悪すぎるが、そう考えると腑に落ちる
 部分があるのは否定できん。
 両親が蒸発したとき、思えば私達姉弟を支援してくれる縁者は1人もいなかったからな……薄情な連中とも思ったが、そもそもにして私達には親
 類・縁者の類は存在していなかったのだから当然の事ではあった訳だ。」

「確かに、今になって冷静に考えれば織斑の親類・縁者が全く俺達に接触してこなかったってのはどう考えてオカシナ事だもんな。
 ん?でもそうなると、両親が蒸発したと思ってた日からの記憶は兎も角、其れまでの記憶は後からくっつけられたモノって事だよな?……若しかし
 て一秋の野郎が才能に胡坐をかいた俺様野郎になっちまったのは、後からインストールされた偽の記憶のせいだったりするのか?」

「いや、其れは無いぞ夏兄さん。
 偽の記憶は、あくまでもその記憶をインストールするだけで、性格なんかには全く影響を与えないモノだって聞いているからな……詰まる所、アイ
 ツは生まれ持っての下衆野郎だったと言う事だろうな。」

「製造された天然物の下衆野郎とは、最悪過ぎるとしか言えんが……そうは思わないか静寐?」

「製造された天然物って矛盾してる気がするけど、最悪過ぎるって言う事に関しては同意するよ夏姫……清香は如何思う?」

「アレは、どう考えても最低最悪の下衆野郎としか言いようないよ?そうでしょ癒子?」

「当然でしょ?って言うか、臨海学校の時に夏姫を殺そうとした時点でギルティ。其れはアレの金魚のフンもだけどね。――と言う訳であの2人への
 判決を宜しくお願いします、布仏本音裁判長。」

「命令無視と、無断出撃と、殺人未遂罪で、累計懲役1800年なのだーー!」

「容赦ねぇなのほほんさん。
 って、ちょっと待てよ?俺と千冬さんと一秋の記憶は植え付けられたモノだって言うのは理解したが、お前の記憶はどうなってるんだマドカ?」



まぁ、其処には思い至るよな。
結論だけ言うのならば、私には偽の記憶はインストールされなかったんだよ夏兄さん――夏兄さん達に偽の記憶をインストールした奴は、私にも同
様の記憶をインストールする心算だったらしいんだが、何らかの理由で其れが出来ずに、苦肉の策として私には偽の記憶を植え付けずに野に放っ
たらしい。
偽の記憶を持たない者が織斑家に居るのは不都合だと考えたのだろうさ。



「なんだよ其れ……って事は何か?
 偽の記憶がインストール出来なかったって言うだけで、俺と千冬さんは妹と離れ離れにさせられたってのか?……冗談キツイぜオイ。」

「まぁ、処分されなかっただけマシと思うべきだろうなこの場合は。」

私も眠らされた状態で野に放たれたんだが、目が覚めたらなんと其処は日本ではない外国、其れもお世辞にも治安が良いとは言えない所で、よく
無事に目を覚ます事が出来たと思ったよ。
当時はまだ4歳だったが、既に身体能力は大人を上回っていたから、ギャングやチンピラがうろついて居る様な場所でも生きる事が出来たと言う事
に関しては、織斑計画に感謝だ――尤も、其れでも何時かはくたばっていただろうが如何やら私は中々に悪運が強かったらしくて、私が暮らしてい
た場所を偶然訪れていた、ジャンク屋のギルドに所属している男と出会った事で、私の運命は一変した。
その男は、私みたいな子供が、治安の悪い場所でストリートチルドレンをやってるのを見過ごす事が出来なかったらしく、私をジャンク屋のギルドに
誘ってくれたんだ。



「ジャンク屋のギルド……聞いた事があるわね?
 確か、世界中に存在してるジャンク屋の多くが登録をしているギルドよね?――ジャンク屋同士の情報交換や、ジャンク品の管理を担っている組
 織で、紛争地帯での人道支援やジャーナリストの護衛なんかも仕事にしているんじゃなかったかと記憶しているわ。」

「それで合っているよ更識楯無。」

もっと言うのならば、ジャンク品を研究して新たな製品の開発なんかもやっているがな。
兎も角、私は私を誘った男――(ロウ)に付いて行ってギルドの一員となったんだ。
籠のジャンク屋には、数年後にフォルテも所属するようになったがな。



「はぁ!?フォルテ、お前ギリシャ代表候補だけじゃなくてジャンク屋ギルドの一員だったのかよ!!」

「実はそうっす。
 黙ってたのは悪かったっすけど、ダリルもアメリカ代表候補とISRIの企業代表だけじゃなくて、亡国企業所属って事を黙ってたからお相子っす!」

「うわぁ、其れを言われると何も言えないオレが居る!!」



フォルテ、お前自分がジャンク屋ギルド所属だって言う事は言ってなかったのか?――亡国企業みたいな秘密結社でもないんだから、所属先を明
かした所で不都合はないのだからな?



「所属してる団体が不明って、ミステリアスで良いと思わないっすかマドっち?」

「微塵も思わん。明かして問題ないモノならば明かしてしまえ!お前は私と違って、正式なIS学園の生徒なのだから!!って言うか、せめて恋人に
 位素性を明かしておけ、このバカ!!」

「バカって言ったー!一応私の方が年上っすよマドっち!!」

「知るか!!」

フォルテは良い友人なんだが、こう言った所で抜けてると言うか、そう言う所があるのが珠に瑕だ――っと、話が逸れてしまったな。
兎も角、私はジャンク屋ギルドの一員となって、生きて来たんだが、そうやって生きている内にISの適性がある事が判明して、何と言うかジャンク屋
のギルドは、総力を挙げて私の専用機の開発に乗り出してな……そして生まれたのが、私のテスタメントなんだ。
ジャンク屋のギルドの技術の粋を結集した機体だから、性能は束博士が開発したモノにも後れは取らない――私が話すべき事は、此処までだな。



「織斑計画には言いたい事が山ほどあるが……マドカ、お前は何故この場に現れた?」

「ちー姉さんと、夏兄さんに会いたかったからかな。
 彼方側が私の事を覚えていないとしても、一度ちゃんと会っておきたかったんだ……まぁ、その望みは叶ったから、もうこれ以上望む事はない。」

「本当に、そうか?」



――ギュ……



!?ち、ちー姉さん!?



「私達に会えたからそれで充分?これ以上望む事は無いだと?……馬鹿を言うな。
 お前は私だ、だからお前の本心は分かるぞ?……ジャンク屋ギルドの仲間が居たとは言え、お前は家族を知らなかったからずっと寂しい思いをし
 ていたのだろう?
 お前の本心は、私か蓮杖弟に甘えたかったんじゃないのか?……なら、我慢せずにそうすれば良い。私がお前の姉だと言うのならば、其れ位は
 快く受け入れてやる。」

「ちー姉さん……」

流石にそれは反則だろう?
そんな事を言われたら、我慢なんて出来る筈がないじゃないか……あぁ、そうだよ。
私はずっと彼方達に会いたかっただけじゃなく、一緒に家族として過ごしたかったんだ――他愛のない事で、笑う事が出来る、そんな生活を夢に見
ていた……!!



「なら、此処からリスタートだマドカ。
 随分と遠回りしちまったが、だからと言って遅すぎるって事でもないから、今此処から俺達は家族にならないか?――まぁ、俺は既に織斑じゃなく
 なってるからアレかも知れないけど……家族ってのは、名前や血で決まるもんじゃないだろ?」

「夏兄さん……そうだな、その通りだ。」

夏兄さんと夏姉さんは、血の繋がりはなくとも、本当の姉弟のようだからね――ならば、私もそのようにならなくてはかも知れないな……ちー姉さん
と夏兄さんと再会出来たのを奇貨としてな。

ギルドの方からは、シャルロット・ブリーズの護衛と不穏分子の排除が済んだら、後は好きにして良いと言われているから、いっその事正式な手続き
をしてIS学園に入るのも良いかも知れないな。

「ちー姉さん、私がIS学園に入りたいと言ったら如何する?」

「そうだな……取り敢えず、お前と私の関係やら何やらを不自然にならないように説明する方法を考える事になりそうだ――歳の離れた妹と言う事
 で、周囲を納得させねばならないからな。」

「悩むべき所は其処なのか!?」

「学園への入学がお前の望みならば、私が反対する理由もない。と言うか、ISの適性があるのならば学園に通った所で問題はないからな。
 まぁ、入学手続きだの専用機の開発元だの専用機の学園への登録など、面倒な事はあるが、其れは全部私がやる事でもない――お前との関係
 性を周囲に如何説明するかの方が悩むと言うモノだ。」

「そう言うモノなのか……まぁ、その辺はちー姉さんのセンスに任せよう。」

正直な所、織斑計画と私達の真実を話したらどうなるのかと言う不安もあったんだが、思い切って正体を明かし、織斑計画の全容を明かした価値は
あったな――少なくとも、お釣りがくるくらいの価値はあったのは間違いないさ。
これからの生活が楽しみだが、その生活を楽しむ為にも、まずは女権団を処理しないとだな。








――――――








Side:一夏


俺と千冬さんの妹だって言うマドカの登場に、織斑計画――挙げ句の果てに俺は作られた存在だっとか、ビックリ番組の演出にしたってやりすぎじ
ゃないかって感じだが、生憎と全て現実なんだよな。
偽の記憶に関しては何も思うところはねぇよ……両親が蒸発したってのが嘘の記憶であっても、其処から先の人生で蓄えられた記憶や経験は、偽
物じゃないからな。
だけど、俺が作られた存在だったてのは、流石に面食らったぜ……まさか、リアル人造人間が存在してて、其れが自分だってのはな。



「一夏、こんな所にいたのか。」

「夏姫姉……ちょっと、夜風に中りたくてさ。」

「……流石のお前でも、マドカの話はショックが大きかったか?」



……流石って言うかなんて言うか、鋭いな夏姫姉――あぁ、その通りだよ。
マドカの話は、頭では納得出来ても、心はそうは行かないんだ……俺のこれまでの人生を否定する気はないけど、だからと言って、自分が人工的
に作られた存在だっていう事実を簡単に受け入れる事が出来るかって言うと、其れはぶっちゃけ難しいんだよなぁ……こう言っちゃなんだけど、よく
アッサリと受け入れられたもんだと思うぜ千冬さんは?



「それはまぁ、人生経験の差と言う奴だろうな――だが、そう難しく考える事は無いだろう一夏?」



――ギュ……



「へ?夏姫姉?」

「お前の出生がどうであれ、お前がアタシの弟である事は変わりない。
 アタシとお前は姉弟だ……その事実の前では、お前の出生の真実などは、実に些細ない事だと思わないか?――出生が如何であっても、今のお
 前は、アタシの弟である『蓮杖一夏』として生きている……それで良いんじゃないか?
 それでも不安があると言うのならば、その不安がなくなるまで、アタシがお前の恐れを振り払ってやる……だから、遠慮せずにアタシを頼れ。」

「夏姫姉……うん、そうさせて貰うよ。」

「それでいい。
 色々な事が立て続けに起こった事で、疲れているだろうから、大浴場で疲れを癒してやると良いさ――近い内に女性権利団体と一戦を交える事
 になるだろうから、今の内に英気を養っておけ。」



そう言えば、そんな傍迷惑な奴が居たな――まぁ、一戦を交える事になったとしても、負ける心算は無いからな……つっても、女性権利団体なんて
言う連中に負ける確率なんて、0.001%未満だろうけどな。
何にしても、速攻で叩き潰してやる……覚悟するんだな!!



「ふ、その意気だ一夏……作戦開始まではまだ時間があるが、精神力を高めるのは悪いどころかプラスにしかならないから、引き続き精神修業を
 怠るなよ?
 強い身体と、強い精神が同居すれば、其れはもう最強と言えるものだからな。」

「OK、分かってるぜ夏姫姉!!」

「分かっているならば其れでいい……アタシはもう戻るが、お前も遅くならないうちに戻れよ?
 ……鈴と箒が、お前の帰りを待ちわびてるだろうからな――ま、今夜はゆっくりと休むと良いさ……ではな一夏――SleepDreamと言う奴だ。」



――ちゅ……



「って何してんの夏姫姉!!」

「其処まで驚くか?
 デコチューくらい、姉弟間では普通だろう?一々反応する事でもないだろうに――そもそも、額へのキスは親愛の表れでもあるんだ……姉から弟
 へのエールとでも思えばいいさ。
 女権団との戦い、お前の活躍を期待しているぞ一夏。」



そう来たかよ……なら、其れには応えないとだな?
何にしても、近い内に女権団との戦いが始まるのは決定だから、そうなったその時は精々暴れさせてもらうぜ――女権団は、最早存在する価値す
らなくなった訳だからな。
これを機に、まとめて叩き斬ってやるぜ女権団!!



「ふふ、如何やら今のでやる気が出ただけじゃなくて、色々と吹っ切れてしまったみたいだな?」

「かもな。
 自分の出生を気にしてたら、女権団との戦いに影響が出るとか思って、開き直っただけかもしれないけどな。」

俺の出生については驚きだったが、だからと言って、今の俺が嘘って訳でもないからな――だったら全てを受け入れて生きてやるさ!!
……どんな生まれであっても、今の俺は『蓮杖一夏』だからな。

取り敢えず、今日は夏姫姉に言われた通り、大浴場で疲れを癒してゆっくり休むとするか……鬼ごっこにバトルに、流石に疲れたからな。











 To Be Continued… 





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