Side:夏姫


一夏がISを起動した……より正確に言うなら、試験用のストライクに選ばれたと言う事なのだが、束さんとスコールさん以下、亡国企業の幹部会議
の末に、一夏の存在は取り敢えず公表しない事にしたらしいな。今はまだ。
理由としては、今のタイミングで発表すると、各国からの干渉が考えられる上に『ISを扱える女性は至高の存在』だと考えてる『女性権利団体』が
一夏によからぬアプローチを掛けてくる可能性があったから――まぁ、その可能性を考えれば、発表を見送るのは妥当か。

だが、何時までも秘匿しておくと言う訳でなく、アタシとマリアと一夏が高校に進学する時になったら発表するって事らしい。
そして、其れもまた妥当な判断だ――そのタイミングで発表すれば、一夏をIS学園に通わせる事が出来るし、アタシとマリアもIS学園に通う事が出
来るようになるから、学園内での一夏の護衛も出来る。

何よりも、IS学園に通って居れば、女性権利団体の腐れ脳共からのちょっかいを受ける事も無いだろうからね。

――IS学園は、現在唯一の『世界立』の学校だと言っても過言じゃない場所だから、其処に襲撃を掛けた事が明らかになったら、女性権利団体と
言えども、刑罰を回避する事は出来ないだろうからな。

まぁ、其れは其れとして、一夏はストライクを起動したあの日から、IS操縦者としての腕を磨くために日々訓練だ。
一夏の訓練だけじゃなく、初の男性操縦者のデータを取るって目的もあるんだろうけど、この訓練が一夏の力を底上げしているのは間違い無い。



「未だだ!俺はまだやれるぜ秋姉!!」

「グレネードとミサイル喰らってもまだ動けるだと!?……上等だぜ一夏!こうなりゃとことんやってやらぁ!!」



始めの内は何も出来ずに負けてたオータムさんとも、僅か半年で互角にやり合う事が出来るレベルになってる訳だからな。――其れを考えると、
一夏には元々ISの適性があったのかも知れないね?

ストライクに選ばれた事で其れが開花したと言うのなら、一夏は間違い無くこの世界を変える存在になるだろうな……











Infinite Breakers Break2
『The World begins move』










一夏とオータムさんのデータ取りの為の模擬戦は、ソードストライカーを装備した一夏のストライクが、終始しつこいまでに近接戦闘を挑んだ事も有
って、タイムアップの判定で一夏の勝ちになったわ。
亡国企業きっての武闘派であるオータムさんを、判定とは言え破るとは、一夏の力は本物だな。

で、今アタシが何をしてるのかと言うと……

「イーゲルシュテルンを4門に増やして、V字アンテナはこう言う風に変えよう。
 バックパックには、高機動用のウィングスラスターを装備して、其れをバインダーにする形でバラエーナを……腰部アーマーにはレール砲を装備
 してもよさそうだな。」

愛機である『ストライク』を改造中。
ストライクは、束さんが開発した『対IS用IS』の試作機5機の中でも、特出した性能を持ってた――『ストライカーパック』って言うバックパックを換装
する事で、あらゆる場面に対応できる万能性は、他の4機には見られない特徴だ。
そして、その能力を最大限に発揮するには、機体本体の性能も高くなければ無理――故に、ストライカーパックの性能を100%引き出す為にも、ス
トライクの機体性能は、他の4機を大きく凌駕していた。

だからアタシは、このストライクを『アタシ専用』に作り替えたら、可成りの力を発揮するんじゃないかと思って、改造に踏み切った。



「おんや?何してんだいなっちゃん?」

「束さん。……何って、ストライクを改造してるんですよ。」

「なっちゃんの愛機のストライクを、自ら改造とは興味が湧くね?――ちょ~~~~っと、見せて貰っても良いかな?」

「其れは、寧ろアタシからお願いしたいくらいですよ。
 ISの生みの親からの意見と言うのは、とても貴重だと思いますから。」

「ふむふむ……へぇ?……私が開発したIS用の小型核融合エンジンの搭載を前提とした武装……?
 攻、守、速のバランスが良いのは元より、近、中、遠のどの距離でも戦う事が出来る万能性を持たせつつ、なっちゃんが最も得意とする射撃と砲
 撃に比重を置いてるか……なっちゃん、君は天才なのかな?」



……は?いや、何でそうなるんですか束さん?
アタシのストライク改造案を見て、如何してそうなるのでしょうか?



「此れは良い、すごく良いよなっちゃん。良い改造案だ。
 でもね、この改造後のストライク……私がなっちゃん用に新たに開発してた『フリーダム』と殆ど同じ武装を搭載してるんだ――違いと言えばイー
 ゲルシュテルンが4門に増えてるって言う事位。
 でもって、その僅かな差でなっちゃんの改造案の方が、束さんの『フリーダム』よりも高性能になってるのさ。」

「束さんが設計した新型以上って、本当に?」

「束さんは冗談は言うけど嘘は吐かないよ。
 なっちゃんの改造ストライクは、私の考えた新型を上回ってるのさ――実際にストライクを使ってたなっちゃんだからこそ、自分に最も合う形での
 改造案が出て来たのかも知れないけどね。
 でも、そう言う事なら、この改造ストライクをなっちゃんの新たな専用機にして、基礎フレームが出来ただけのフリーダムは、マリちゃんの専用機
 として再開発しよう、そうしよう♪」



アタシが、IS操縦者だったからこその改造か……確かに、アタシの事はアタシが一番よく知ってる訳だから、自分で自分の機体を改造したら、第三
者が開発するよりもアタシ専用になるのは道理か。
なら、此のままストライクを改造していくけど、名前は如何した物かな?
ストライクは装備するストライカーパックによって『エールストライク』『ランチャーストライク』『ソードストライク』って名称が分かれてたが、アタシが改
造した此の子は、いったい『何』ストライクと呼ぶべきなんだろうか?



「なら、其の子に、なっちゃん用の新型機として開発してた『フリーダム』の名をプレゼントしても良いかな?
 と言うか、其の子にこそ『フリーダム』の名は相応しいと思うから、なっちゃんが嫌でなければ、『フリーダム』の名を貰ってくれないかな?」

「束さん……寧ろ光栄です。その名、有り難く頂戴します。――時に、形式番号はどうなるんです?」

「フリーダムの形式番号は『ZGMF-X10A』だよ。」

「X10Aフリーダム、か。」

ストライク、アナタは今日からフリーダムだ……改めて宜しく頼む。
それにしても、私の専用機がフリーダム……自由とはね?――マリアの新型専用機には、どんな機体名を付ける心算なんですか束さん?



「プロヴィデンス……天帝だね。
 マリちゃんにはBT兵器の適性がある事も分かってるから、その能力を120%発揮できる機体を作る心算だよ。
 其れと同時進行で、いっ君の専用機も作るけどね~~。この半年で、いっ君の戦闘データは充分に取る事が出来たから、其れを元にしていっ君
 専用の機体をね!」

「マリアの専用機と一夏の専用機の開発……幾ら束さんでもきついんじゃないんですか?」

「ハッハッハ!此れ位は大した事ないのだよなっちゃん!
 マリちゃんの新型専用機は、フリーダムの基礎フレームを再開発して作れるし、いっ君の専用機はストライクを発展させて作る心算だからね?
 まぁ、なっちゃんがストライクの改造案を見せてくれたから、いっ君の専用機はストライクの発展形にしようと思ったんだけどさ♪
 いやぁ、なっちゃんのおかげでストライクのポテンシャルの高さを改めて実感できたからねぇ?これ程の機体を、強化しない手はないっしょ!!
 開発意欲に燃えて来たぁ!!!」



行っちゃたよ……一瞬束さんの背後に、盛大に噴火する富士山を見た気がするわ。
だけど、其れだけ束さんがやる気を出したんなら、マリアと一夏の専用機の性能は凄まじい事になるだろうな?――束さんが最初から兵器として
開発した『対IS用IS』が個人の専用機として開発されたら、其の力は計り知れないからね。

まぁ、先ずは自分の機体の改造を終わらせて、此の子をフリーダムにしてやらないとだな。――とは言っても殆どの作業は終わってるから、後はデ
ータをインストールするだけだ。
なので、インストール開始!!




――3分後



無事にインストールが完了して、アタシのストライクはフリーダムとして新たに生まれ変わった――ストライクの時は、赤白青のトリコロールカラーが
特徴だったけど、改造後のフリーダムは白を基調としながらも、胸部は濃紺、腹部は青に変わってるから、可成り印象が違うわね?
V字アンテナの形状変更や、ツインカメラアイが黄色から緑に変わってるのも大きいだろうね。

だけど、この改造はアタシ的には満足だな?……スペックだけを見るなら、アタシの望んだ結果だからね。



「フリーダム……確かに良い機体ね?
 此れだけの物を独自の改造で思いついてしまうのだから、夏姫の力はハンパじゃないわね――その腕を見込んで、お願いしたい事があるのだ
 けれど聞いて貰えるかしら?」

「スコールさん?」

貴女がお願いしたい事が有るって言うのは珍しいですね?――一体どんなお願いでしょうか?



「貴女の腕を見込んでの改造よ――私の専用機になったブリッツを改造して貰えないかしら?
 オータムがデュエルの専属パイロットになった事で、自動的に私はブリッツの担当になったのだけど、少し扱い辛くてね……私専用に、ブリッツを
 改造して貰えないかしら?」

「ブリッツの改造ですか。」

ブリッツは試作された5機の中でも最も特殊な機体(無人機であるイージスは別だけど。)だったから乗り手を選ぶ訳か?
オータムさんは普通に乗り熟してたけど、スコールさんには少し扱い辛い訳か……特にスコールさんの場合は、身体の事があるから、完全な専用
機じゃないと本来の力を出す事も難しいな。

――分かりましたスコールさん。お望み通り、ブリッツの改造をさせてもらいます。改造に当たって、何か要望があれば言って下さい。



「そうねぇ……メイン武装である『トリケロス』を使い易くしてほしいわね?
 スレイプニルはあまり使わないからオミットしてくれて良いわ。……後は、頭部のデザインを変更してくれるとありがたいわね。
 束には悪いけれど、ブリッツの頭部デザインは、個人的にあまり好みじゃないのよ。」

「ISの生みの親のデザインを好みでないと申しますか……」

アタシはブリッツの頭部デザインは忍者みたいで好きなんだが、まぁ好みは人夫々だからな。
了解しましたスコールさん。期待に応えられるように頑張ってみますので、完成を楽しみにしていて下さい。



「ふふ、楽しみにしてるわよ夏姫。」



お任せを。
さてと、其れじゃあ作業を開始するか。
そう言えば、追加武装に関しては何も言ってなかったけど……其れに関してはアタシに全面的に任せるって事なのかな?――なら、やりたいよう
にやらせて貰うとするよ。
フリーダムの装備として考えてたけど、バラエーナを装備する関係から見送った装備があるから其れを搭載してみるか。



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で、3日後。
ブリッツの改造が終わって、新たに生まれ変わった『ブリッツゴールドフレーム天(アマツ)』は、スコールさんに大層気に入って貰えたみたいでよか
ったよ。
頭部デザインは、束さんが無人の量産機として開発した『アストレイ』の物に変えて、トリケロスはシールドの一部を実体刃として使えるように改造
し、スレイプニルをオミットした代わりに、近接格闘用武器兼高機動用空力制御翼『マガノイクタチ』を新たに装備。
それと、マガノイクタチに付属する射出武器『マガノシラホコ』も追加装備――で、ミラージュコロイドはオミットしてないから、改造前とは比較になら
ない性能になってるな此れは。

実際に試験起動では、難易度マックスのドローンとの戦闘をSSランクでクリアしたからね……スコールさんの身体の機械部分とISが同調する様に
したのも大きかったかもしれないな。

でだ、この日は何と束さんが一夏とマリアの専用機を完成させた日でもある。
アタシは1機の改造で3日掛かったのに、2機の新型を3日で開発するとか、流石は束さんと言うか何と言うか……高校生の身でISを開発した頭脳
は伊達じゃないって事ね。
果たしてマリアと一夏の機体はどんなモノになったのか……



「其れじゃあ、マリちゃんといっ君の専用機のお披露目と行こうか!
 先ずはマリちゃんの機体!『ZGMF-X13A プロヴィデンス』!!
 マリちゃんにはBT兵器の適性があるから、其れを最大限に生かす為に、束さん謹製のBT兵器『ドラグーン』を搭載した超攻撃的ISだよ!
 ビームライフルとビームサーベルも威力重視で作ってあるからね?……多少の取り回しの悪さはあるけど、ドラグーンでの多角的攻撃がメインに
 なるから、其れはあまり問題じゃないかな。
 可成り特殊な機体だけど、束さんのシミュレートではマリちゃんならこの機体を使い熟す事は可能――そして、マリちゃんなら私のシミュレート以
 上の結果を出してくれる筈だよ。
 シミュレートはあくまでもデータに基づく予測だから、実際には其れを上回るなんて事は幾らでもあるからね。」

「此れが私の専用機……ならば、貴女のシミュレート以上に此の機体を使い熟して見せるわプロフェッサー。
 何よりも、プロヴィデンス――『天帝』の名に恥じない様に乗りこなさなくては、此の子に対しても失礼になるもの。」



先ずはマリアの機体だけど、此れは可成り先鋭的な機体になったな?
BT兵器なんて、最近になってイギリスが漸く開発に着手した新鋭武装だって言うのに、其れを普通に装備するとは……否、束さんならBT兵器を
実用レベルで開発するなんて朝飯前だったか。
見た目は重装甲で動きが重そうだけど、束さんの事だから、機動力が死なないような工夫はされてる筈――こう言ったら何だが、マリアの専用機
は、現行IS最強かも知れないな。
マリア自身も、プロヴィデンスを気に入ったみたいだからね。



「続いてはいっ君の専用機、『GAT-X105E 02S ブレードストライク』!
 ストライクを強化改修した『ストライクEタイプ』に、ソードストライカーパックを発展させた『ブレードストライカーパック』を装備した機体だね。
 レーザーブレード『シュベルトゲベール』を2本装備した近接戦闘特化型だけど、ストライカーパックに装備された二連装リニアガンと、本体に装備
 されてるビームライフルショーティーで、距離が離れた相手とも戦う事が出来るようになってるんだ。
 それと、この機体のコアはいっ君が起動させたストライクの物を使ってるからね。」

「此れが俺の専用機……大型ブレードの二刀流が出来るとか、男的にはロマンあふれる機体だぜ束さん!
 しかも、コアは俺が起動させたストライクの物って……完全に俺の専用機って事だろ?……これからも宜しく頼むぜ、相棒!!」



で、一夏の機体は、これまで得られたデータから、近接戦闘に特化した機体になったみたいだ。
ストライクを強化改修したって言う『ストライクEタイプ』(アンテナの形や、フェイスガードのスリットの位置が違うから外見はストライクとは可成り異な
る。)に新たに開発したって言う『ブレードストライカーパック』を装備した機体だな。

シュベルトゲベールを2本装備するって言うのは、普通なら常識を疑う所だけど、一夏なら身の丈以上の大型ブレードでの二刀流だって難なく熟す
だろうさ――近接戦闘に限れば、一夏はアタシとマリアを遥かに凌駕してるからね。
この機体は、正に一夏の為に作られた機体だって言えるな……マジでハンパないな束さんは。
そして、その新型機を『相棒』と呼ぶか一夏……否、アタシだってフリーダムの事は相棒だと思ってるが、其れをストレートに口に出来るとは――も
しかしたら、一夏の此の真っ直ぐさもストライクは感じたのかも知れないな。

何にしても、此れでアタシ達の専用機は完成した――後は、IS学園に入学できるようになるまで待つだけか。
尤も、亡国企業としての任務があるから、あまりのんびりする事は出来ないだろうけどな。








――――――








Side:千冬


一夏が居なくなってから1年か……ドイツでの、軍の教導官の任務を終えて日本に帰ってきたら、今度はIS学園の教師にか。
何かの時に役に立つかと思って取得していた教員免許がこんな所で役に立つとは思わなかったが、此処ならば収入も安定しているから、一秋に
苦労をかける事は無いだろうが……私が教師とは、笑い話にもならん。

家族を守る事が出来なかった人間に、人を教え導く事が出来るとも思えんからな……



「……そんなに怖い顔をしていたら、生徒達を委縮させてしまうわよ織斑先生?」

「ミューゼル先生か……済まない、少し考え事をしていたのでな。」

「……弟さんの事よね?
 貴女の心中は察するけど、果たして本当に一夏君は死んだのかしら――状況証拠から死亡が断定されたと言うだけで、彼の死が物理的に立証
 された訳ではないわ。
 だとしたら、彼が生きてる可能性は、ゼロじゃないんじゃないかしら?」

「!!!」

言われてみれば確かに其の通りだ!
一夏の死は、状況判断に基づくものだが、一夏の遺体が発見された訳じゃない――だとしたら一夏は生きてる可能性があるだと?……ハハ、まさ
かこんな簡単な事に気付かなかったとはお笑いだ。
だが、仮に生きていたとしても、何故一夏は戻って来ないのだろうか?
……戻りたくない程に、実家は一夏にとって苦痛の場所でしかなかったと言うのか?――もしもそうだとしたら、私は姉失格だな……其れに気付く
事すら出来なかったのだからな。

もしも生きてると言うのならば、お前は今一体何処で何をしてるんだ、一夏……








――――――








Side:夏姫


一夏を救出してから1年……本当に色んなことがあったな。
専用機の開発に加えて、任務用の『ストライク・ダガー』を装備して女尊男卑を掲げる施設を破壊した事は数知れないし、違法な軍事施設を潰した
のだって1つや2つじゃないからな。

……ドイツの山奥の研究施設を襲撃した際に、生身でISとやり合う人と出会って、そのまま仲間に引き込む事が出来たのは僥倖だったね。
本人曰く『ドイツが研究開発してた遺伝子強化試験体』の1体に、別世界で役目を終えた魂が憑依したって言う事らしいが、其の力は凄まじい事こ
の上ないから、此方側に引き込ませて貰ったがな。
『リインフォース・クロニクル』……彼女の力は本物だわ。

で、今日はどうしたんです束さん?
アタシとマリアと一夏……『ISラビットインダストリー』の専用機持ち3人を呼び出すなんて、只事じゃないですよね?――若しかして、超高難易度の
ミッションでも出ました?



「いんや、そうじゃないよ。
 えっとね、実は昨日、中国で代表候補性を決める試験が行われたんだよ。」

「中国って……若しかして鈴も!!」



鈴……凰鈴音、一夏の恋人だったな?
一夏の話では中学に上がる頃に中国に戻ってしまったと言う事だが、その彼女にIS適性があったとしたら、代表候補性になっていたとしても何ら
不思議はないか……寧ろ問題は、其れだけの情報をサラッと取得してる束さんだけど。

でも、其の子が代表候補になったなら態々言う事は無いですよね束さん?



「その通りだよなっちゃん。
 いっ君の良い人である鈴ちゃんは、ペーパーテストを全問正解、実技でも試験生同士の総当たりの模擬戦で全勝を飾ったにも関わらず、代表候
 補から外されたのさ。
 んで、代表候補の座に座ったのは次点の奴なんだけど……コイツの親が可成りの資産家で、中国のIS委員会を買収した可能性が可成り高いん
 だわ。
 ペーパーテストの結果は公表されないって言うのを悪用したとも言えるね……兎に角、類い稀なIS操縦者が、馬鹿のエゴで潰されたんだよ。」

「……束さん、そのクソ野郎ぶっ殺しても良いですよね?生憎、俺は、惚れた女を泣かされて黙ってられる程、人間出来てねぇんです。」

「……いっ君、殺意の波動に目覚めかけてるよ……」



何だ、その裏口代表候補性は?……一夏がブチ切れるのは当然の事だな。
自分が愛した女が泣かされて、其れで黙ってるなんてのは男として失格だからね――だけど束さん、貴女は其れを如何にかする策を考えてるんじ
ゃないですか?



「ほッほう、流石に鋭いねなっちゃん?
 その通り!我が『ISラビットインダストリー』は、鈴ちゃんを新装備のテストパイロットとしてスカウトする事にしました!!」

「「「はぁ!?」」」


企業代表としてスカウトするって本気ですか束さん?
実技でもペーパーテストでも一番だった鈴音を此のまま埋もれさす事は出来ないから、其れを企業代表としてスカウトするのは全然OKかも知れな
いが、其れは同時に彼女を此方側に引き込む事にもなるんですよ?



「そんな事は分かってるよ。
 だけど、鈴ちゃんの存在は、絶対に必要になって来る――いっ君がどうしてもダメだって言うなら諦めるけど、束さんとしては鈴ちゃんが欲しい。」

「ですよね……如何する一夏?」

「如何するもこうするも……束さん、鈴をスカウトしてください!
 アイツはこんな所で消えて良い奴じゃない――其れに、束さんの言うように、鈴の力は絶対に必要になって来る筈だから、仲間にするなら早い
 方が良いに決まってる!」



一夏が了承したなら、鈴の加入は確実だな。――ふふ、着々と準備が進んでるのは間違い無いようだね。








――――――








Side:鈴音


ムカつく!ムカつく!!ムカつく!!!
此れだけのムカつきを覚えたのは、一秋がアタシに言い寄って来た時以来だわ!!――模擬戦を全勝で終えたアタシが、代表候補から外れるな
んて、普通は考えられない!
次点の奴にだって圧倒的に勝ったのに……此れは、賄賂が絡んでるわね絶対に!!――クソ!!

「ただいま!!」

「あら、良いタイミングで帰って来たわね鈴。貴女にお客さんが来てるわよ?」

「アタシに客ですって?」

機嫌がマックスに悪い時に、一体何処の誰よ?
お母さんに促されるままにリビングに移動すると、黒いスーツを身に纏ったオレンジの髪の女の人が居た……貴女がお客さんなのかしら?



「此れは此れは、はじめてお目にかかります凰鈴音さん。
 私はISラビットインダストリーのスカウトを務めている『巻紙礼子』と言います。」

「ISラビットインダストリーって、最近業績を伸ばしてるIS関連の企業よね?
 ……そんな新鋭企業のスカウトさんが、アタシに何の用なのかしら?」

「実は、我が社では新たなISの武装を開発していまして、その武装の為のテストパイロットを探していたのです。
 ――が、条件に見合うモノは中々居なくて、此方としても苦慮していたのですが、貴女ならテストパイロットして十二分なデータが取れると思いま
 して、テストパイロットとしてスカウトしに来たんですよ。」



アタシをテストパイロットに、ねぇ?悪くない話だけど……



「……其れと、貴女の一番大切な人が、我が社で働いていますから。」

「!!!!」

ISラビットインダストリーのスカウトを務めてるって言う巻紙さんの提案は破格だったけど、だけどそれ以上にISラビットインダストリーにはアタシの
大切な人が居るですって!?
其れって本当なんでしょうね!!



「嘘か真か、其れを決めるのは貴女ですよ凰鈴音。」

「だよね……言ってくれるじゃない!」

なら、その話は受けるわ。
アタシの大切な人……一夏が其処に居るなら行かない理由が無いからね!!――待ってなさい一夏、今会いに行くから!!



……序に、お母さんもISラビットインダストリーの社員食堂のスタッフとして勧誘されて、条件が良かったのでISラビットインダストリーの食堂のおば
ちゃんとして再就職する事になるとは予想外だったわね。

でも、其れは其れとして生きてたんだね一夏……お母さんの言う通り、アンタは生きてるって信じてた甲斐があったってもんよ!!
もうすぐ会えるんだね一夏……楽しみにしてるわ。













 To Be Continued… 



キャラクター設定



・リインフォース・クロニクル

夏姫達が違法研究所を潰してる最中に出会った銀髪金眼の美女。
ドイツの遺伝子強化実験体の身体に、異世界の魂が入り込んで生まれたイレギュラーで、其の力は生身でISとタメを張る程。
外見は『リリカルなのは』の『リインフォース・アインス』の目の色を金色にした感じ。