Side:夏姫


まさかモンド・グロッソの第2回大会の最中に一夏が誘拐されるとは、マッタク持って予想外だったわね?……犯人の目的は、恐らく千冬さんの二
連覇阻止なんだろうけど、一夏を誘拐したって言う事を直接千冬さんに伝えてなかったら、その目的は果たされない可能性が高い。
日本政府に伝えたのなら、政府は自国の名誉の為に一夏を斬り捨てるだろうし、一秋の馬鹿に伝えてたら一夏誘拐の事実を握り潰しかねないか
らな。

だから此処は、アタシ達が動くのが最上だね。



『ストライク、発進スタンバイ。ストライカーパックは『エール』を装備します。
 進路クリア。ストライク、発進どうぞ。』


「蓮杖夏姫。ストライク、行きます!!」

束さん設計の空中戦艦『ジャッジメントドラグーン』のカタパルトから出撃して一路一夏の元にね!
続いてマリアのバスターと、無人機であるイージスが出撃して、最後はオータムさんなんだけど、今回はブリッツじゃないんだ?



「今回はデュエルでな。
 束が『デュエルに装甲と武装を追加してみたから、使ってみて。』って言うからな……だが、コイツは良いぜ?デュエルは装備が貧弱だったのは
 間違いねぇが、束の考えた追加装備で其れが解消されてるからな!
 アサルトデュエルの初陣、派手に暴れてやんぜ!!」

「デュエルの強化系……うん、ノーマルの頃よりも格段にかっこよくなってるわ此れは。」

「青を基調とした追加装甲も見事だわ……流石はプロフェッサーね。」



まぁ、束さんが直々に強化したなら、アサルトデュエルの性能は折り紙付きって言う所かな?……少なくとも、並のISじゃ敵わないだろうな。
そして其れはアタシのストライクと、マリアのバスターにも言える事だ……だから、覚悟して貰うぞ誘拐犯。――アタシの弟分を誘拐した代償は、決
して安い物じゃない。其れをその身で味わわせてやるわ!!











Infinite Breakers Break1
『Rescue Of The One Summer』










Side:一夏


千冬姉が出場してる『第2回モンド・グロッソ』の決勝戦を観戦する為に、一秋と一緒に訪れたドイツの地で、何故か俺は誘拐されて、絶賛椅子に
縛り付けられてます。
幾ら武道の心得があるとは言っても、ナイフや銃を持った大人6人以上を相手にする事は出来ず、まんまと捕まっちまった訳だが……何を望んで
るんだアンタ達は?



「目的は織斑千冬の二連覇阻止――ある国のお偉いさんから頼まれてね?成功すればアメリカドルで100万ドルの報酬が支払われる。
 大事な弟が誘拐され、助ける為には決勝を棄権するしかないとなれば、幾ら世界最強と言われてる彼女でも……ねぇ?」

「手段は悪くないと思うけど、アンタ等俺を誘拐したって事を千冬姉に直接言ったのか?」

「いんや坊主、日本政府にだ。」

「なら意味ないな。日本政府に伝えたってんなら千冬姉は決勝に出るよ。
 十中八九、日本政府は千冬姉の二連覇――引いては日本の名誉の為に、俺が誘拐された事実を伏せる筈だぜ?」

「なんですって!?」



考えてもみろよ?日本の政治家の上にいる連中なんて、自分の保身と利益の為には平気で部下の官僚をトカゲのしっぽ斬りするような奴等なん
だぜ?
千冬姉が二連覇を発生すれば、世界最高のIS乗りを有する国としての立場が確固たるモノになって国際社会での発言権も増す……其れだけの
利益と俺1人の命、天秤がどっちに傾くかなんて分かり切ってる事だろ。
信じられないならテレビの電源を入れてみろよ――きっと千冬姉が黄色い歓声浴びながらブレオンのイカレタ機体で戦ってるんじゃないのか?
あんな機体で決勝まで駒を進めるとか、千冬姉が凄いのか、其れとも他の出場選手が雑魚なのか、其れは分からないけどさ。



「煩いわねガキが!少し黙ってなさい!!」



――ズバァァァァ!!



痛ってぇ……抵抗できない生身の人間相手に、ISのブレード振るうか普通?
斬られたのは、眉間の辺りだし、皮膚を斬られただけだから死にはしないだろうけど、此れは確実に傷痕が残るよな?
……再会した時に、鈴が怖がらないと良いんだけどな。――いや、鈴なら怖がるどころか『ワイルドな感じで良いじゃない!』とか言いそうだ。



「つか、随分と落ち着いてるな坊主?怖くないのかこの状況が?」

「いや、無暗に騒ぐのはみっともないかなぁって。もっと言うなら、本気でキレた千冬姉の方が100倍怖いから、此れ位は怖くないし。」

「本気でキレたブリュンヒルデか。確かにオッかねぇな……取り敢えずその傷は、止血剤を塗っておいたが痕は残っちまうだろうな?
 てか、お前ももう少し考えて行動したらどうだ?もしもこの坊主の言う通りにならず、日本政府が織斑千冬にこの事実を告げたら、彼女が助けに
 来るんじゃないのか?
 ――その時に、コイツに傷が付いてたら、本気でキレたブリュンヒルデが降臨しちまうぜ?」

「ふん、その時は其れこそ、そのガキを人質にするまでよ。
 私達が去るまで動くな。動いたらこのガキの頭を吹っ飛ばすとでも言えば、幾らブリュンヒルデであっても攻撃は出来ないでしょう?」



如何だろうなぁ?千冬姉の本気の殺気は、普通に人が失神するからなぁ?
まぁ、そんな事にはならないけどな……だって、誘拐犯が見てた小型モニターには、専用機『暮桜』を纏って決勝戦に出場する千冬姉の姿が映っ
てたからな。
はぁ……此れは確実に殺される流れだよな俺?



「如何やら坊主の言ったとおりになっちまったみてぇだが……如何すんだい?此れで依頼は失敗だぜ?」

「なら……そいつを殺すしかないわね。」

「……お前さん、本気で言ってるのかい?
 俺達はあくまで膨大な報酬が目当てだった筈だ。其れがなくなった今、この坊主を殺して何になる?坊主をこのまま此処に残してトンズラするの
 が最上なんじゃねぇのかい?」

「煩いわね!男のくせに盾突く心算!?
 目的が達成できなかった事以上に、そのガキが気に入らないのよ!妙に落ち着き払ってて!!
 みっともなく命乞いでもしてくれた方が、まだ気分が優れるわ!」



いや、其れは絶対嘘だな。断言できる。
こう言うタイプは、命乞いをしたら命乞いをしたで、『往生際が悪い上にみっともなくてムカつく』とか言う奴だ……女尊男卑の中でも最低最悪なパ
ターンだなこの人。



「無茶苦茶だなオイ?……ならせめて、死ぬ前のお願い位は聞いてやってもいいだろ?」

「ふん、せめてもの情けとして其れ位は聞いてやるわ。」

「何処に情けがあるんだか……坊主、死んじまう前に何か望みは有るか?」

「……なら、千冬姉の試合を見せてくれ。
 アンタ等に誘拐されなければ、俺は会場で千冬姉の二連覇を目にしてた筈なんだからな?――其れ位は良いだろ。」

「だな。」



んで、俺の前にモニターを持って来てくれた訳だけど……何つーか一方的だったな千冬姉は?
ブレオンなのに、万能型の相手を圧倒するとか本気か?――結局終始攻めた千冬姉が、パーフェクト勝利って感じで決勝は幕を閉じたか……同
時に、此処までか俺の人生は……



「良かったわね、織斑千冬は二連覇を達成したわ。恨むなら、貴方の国の政府を恨みなさい。」



ISのライフルの銃口が向いてるのは俺の頭……喰らったら即死だな――この人が、どこぞのモノクル戦車乗り並みのノーコンでない限りは。
ゴメン鈴……諦めたくはないけど、この状況じゃどうしようもないぜ……



――バガァァァァァァァァァァァン!!



って、思った瞬間に倉庫の屋根が吹き飛んだ!?い、一体何が起きたんだ?



「織斑一夏を確認……此れより任務を遂行するわ!」



吹き飛んだ屋根の向こうに居たのは、4機の全身装甲のIS。
白と赤と青のトリコロールカラーが特徴的な機体と、ダークグリーンとベージュのカラーリング機体、グレーと蒼のカラーリングの機体と、赤い機体…
……何なんだ、この人達は一体?



「何よアンタ達!」

「答える義理はない。」

「馬鹿な事をした自分達を恨むのね。」

「まぁ、IS纏ってるバカ以外は殺すなって言われてるから、お前等はブッ飛ばす程度で済ましてやるけどな!!」

『任務遂行シマス。』



その答えが出るよりも早く、俺の目の前で戦いが始まった――いや、其れは戦いなんてもんじゃない。
トリコロールカラーの機体は、オッサン達のライフルやショットガンって言う武器だけを、ビームライフルで破壊して、ダークグリーンの機体と蒼の機
体はスモークグレネードで犯人の視界を殺して、赤い機体は的確にオッサン達の意識を刈り取っていく……マジですげぇなオイ?

そんな訳で戦闘が始まって5分が経つ頃には、俺を誘拐した一味のオッサン達は仲良く地面とキスする事になって、IS纏ってた女の人は、変形し
た赤い機体によって壁に縫い付けられてた。……アレは抜け出せないよな。
てか、あの機体に乗ってる人大丈夫か?可成り無理な変形をしてる様な気がするんだが……



「この、この!離しなさいよ!!」

『不可。此ノママ抹殺対象ヲデリートスル……終ワリダ。』



――ドガァァァァァァァァァァァン!!



俺がそんな事を考えてる間に、赤い機体はゼロ距離からのビーム発射!……で、其の後にはISが解除された女の人が……気絶してた。
抹殺対象とかデリートするとか言ってたけど、本当に殺す訳じゃないんだな?……少しホッとしたぜ。
――で、助けて貰って言うのもなんだけど、何でアンタ等は俺を助けたんだ?俺を助けた事で得られるメリットなんて無いだろ?



「メリットとか、デメリットとかじゃいわ――可愛い弟分を助けるのに理由が要るかしら、一夏?」

「へ?……まさか、お前、夏姫なのか!?」

白い機体が解除されて現れたのは、幼馴染で姉貴分だった蓮杖夏姫!
3年前、白騎士事件の後で行方不明になって、親族が捜索願出したけど見つからなくて……そして、捜索は打ち切られて、親族が死亡届を出して
葬式までやったのに……本当は生きてたんだな!!



「予想通り、アタシは死んだ事にされた訳か……遺産に群がるハイエナは救えないな。
 見つからなかった種明かしをするなら、貿易船に紛れ込んでイギリスに渡ったから。国内に居ない人間を、幾ら国内を探したって見つかる筈が
 無いからね。
 其れで、イギリスで出会ったのが、一緒に居る2人。マリアとオータムさんだよ。」

「マリア・C・レインよ。初めまして、織斑一夏さん。」

「オータムだ。ま、宜しくな。」



緑とベージュの機体に乗ってたのがマリア、蒼とグレーの機体に乗ってたのがオータムさんか。……って、2人?
じゃあ、誘拐犯のリーダー……ってか、IS纏って偉そうにしてた女の人を吹き飛ばしたのは人じゃないって事か?……若しかして無人機とか?



「正解よ一夏。相変わらず鋭いな?
 イージスは変形機構を搭載した無人機。そして、イージスを含め、アタシ達のISを作ったのは束さんだ。」

「束さんが!?」

「そして、貴方の事を救出する様に言ったのもプロフェッサーよ。」

「マジか……」

束さんも白騎士事件以降行方不明になってたけど、ちゃんと無事に生きてるんだな――いや、千冬姉とタメ張れる程のオーバースペックな束さん
が、簡単にくたばる筈がないとは思ってたけど。



「マジだ。
 さてと……目的である一夏の救出は達成したけど、此れから如何する一夏?望むなら会場までイージスに送らせるけど。」

「……否、良い。
 其れよりも、俺も束さんの所に連れてってくれないか夏姫?――正直な事を言うと、もうあの場所には帰りたくないんだ。」

「え?」

「はい?」

「如何言うこった?」



夏姫は知ってるよな?俺と一秋の不仲は。
アイツは、なんでも卒なく熟す事で周囲から『天才』って呼ばれて先生や大人達の前では模範的な奴だったけど、裏では其れを鼻にかけて、俺の
事を馬鹿にしてただろ?――てか、俺の努力を嘲笑ってたろ。
相手にするのも面倒だから無視してたが、其れがどんどんエスカレートしてさ……正直アイツとは一緒の家に居たくもないんだ。
千冬姉が居てくれたらまた違ったのかも知れないけど、千冬姉は俺達がちゃんと生活できるように働いてるせいで滅多に家に帰って来る事はな
かったからさ。
其れに、一秋は俺が居なくなっても何とも思わないだろうし、俺が居なくなればその分だけ千冬姉の負担も減る――何よりも、俺はもう『一秋の付
属品』で生きてたくないからな。



「お前とあの天才(笑)の仲が良くないのは知ってたが、まさか其処までになってたとはね……確かに、其処まで兄弟仲が冷え込んでるなら、家に
 帰るのは酷以外の何物でもないな。千冬さんが滅多に家に居ないのなら尚更だ。
 ……分かった、一緒に来い一夏。束さんも、お前に会えたら喜ぶだろうからね。」

「サンキュ、夏姫。」

俺と一秋の不仲を知ってる夏姫なら分かってくれると思ったぜ。

そう言う訳で俺は束さんの所に行く事になったんだが、その前にオータムさん改め秋姉が(好きに呼んでいいって言うから、『オータムだから秋姉
だな』って冗談で言ったら、何やらクリティカルヒットしたらしくて、『その呼び方で頼む』って言われた。)誘拐犯のオッサン達を叩き起こして、其れ
成りの金を渡して、此処で見た事を口外にしない事を約束させた上で現場から立ち去らせた。
ボイスレコーダーで会話を録音してたし、あのオッサン達は案外良い人っぽかったから多分無暗に口を割らないだろうな。
で、イージスに撃滅された女の人は……此処から逃げる事が出来ない様に、無情にも夏姫が乗ってた機体『ストライク』のコンバットナイフ『アーマ
ーシュナイダー』を両手に刺されて壁に磔にされた。
秋姉曰く『こうすれば、お前の血痕と合わせて、犯人グループが仲間割れを起こし、その上で織斑一夏を殺害したって言う状況が作れる』って事ら
しい……世間的には、織斑一夏は死んだ事になる訳か。
……鈴と千冬姉にはショックを与えちまうかもな……まぁ、ショックを受けても潰れる事は無いと思うから、其処は安心してるけどな。



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んで、変形したイージスのクローに捕まえられる形で空の散歩を楽しむ事数十分、束さんが居るって言う要塞に到着。(途中でドイツ軍のIS部隊が
追って来たけど、マリアが放った閃光弾とチャフ散布弾のおかげでまく事が出来た。)
島1個が丸々要塞になってるってのには驚いたけど、中は可成り近代的なんだな?特撮に出て来そうな秘密基地ってのは、男子的には思いっき
りツボだけどな!!



「いっくーーーーん!!」

一撃必殺!!

「まさかの極限流奥義!?」



んで、突進して来た束さんを、腰の入った正拳突きで一撃必殺!……カウンターで入ったからダメージは2倍だな。……束さんには大したダメージ
じゃないだろうけどさ。



「おぉう!見事な一撃だねいっ君!
 この一撃はちーちゃんのアイアンクローをも上回ってるかもしれない――否、確実に超えてる!!いっ君の努力は、確実に身になってるよ!」

「サイですか……てか、元気っすね束さん……」

「ハッハッハ!束さんは何時だって元気なのだよいっ君!
 でも無事でよかった……あの馬鹿と一緒に居るのは辛かったよね?……今日からは、此処が君の家だよ、いっ君。」

「俺が無事なのは、束さんが俺を助けるように夏姫達に頼んだお陰ですよ。――取り敢えず、お世話になります。」

「良いって良いって!
 其れよりも、いっ君は世間的には死んだ事にされるだろうから、新しい戸籍が必要だよね?……マッタクゼロから作るのは手が掛かるから、いっ
 君はなっちゃんの双子の弟にしよう!
 許より生まれはなっちゃんの方が先だから問題ないし、姓が変わって『蓮杖一夏』になれば、他人の空似で通す事も出来るからね!
 我ながら良いアイディア!それで行きましょう、そうしましょう!!」



って、俺の新たな戸籍を作るってマジですか!?
其れだけなら未だしも、夏姫の双子の弟って……いや、其れもアリか?元々夏姫は姉貴分だったからな――夏姫が良ければだけどさ。



「アタシは構わないわ。一夏は元々弟みたいな存在だったからね。」

「なら、其れでお願いして良いかな束さん?」

「OK任せなさい!!」



こうして俺は、夏姫の双子の弟になった。――此れから宜しくな『夏姫姉』!








――――――








Side:千冬


一夏が誘拐されて殺害された……其れを聞いたのは、モンド・グロッソで二連覇を達成した直後だった。
最初はとても信じることが出来なかった……だから自ら現場に足を運んだのだが――其処で目にしたのは如何ともしがたい光景だったな。
血塗れで壁に磔にされた女に、床に残る血痕――そして壁にスプレーで吹き付けられた『A child killed.(ガキは始末した。)』の文字。
鑑定の結果、血痕は一夏の物と断定され、状況判断から一夏の死が認定された……私は、二連覇の栄冠と引き換えに、最も大事なモノの片割
れを失ってしまった……まったく、ブリュンヒルデが聞いて呆れる――!!

結局私は、大事な弟を助けてやる事が出来なかった……一秋が無事だったのがせめてもの救いかも知れないが、家族を守れなかった事実を変
える事は出来ないからな……








――――――








Side:鈴音


テレビから流れる其れを聞いた時、アタシは自分の耳を疑った。
『モンド・グロッソを二連覇した織斑千冬の弟、織斑一夏が誘拐されて殺害された』なんて……一夏が死んだなんて、そんな嘘でしょ!?
この前だって『千冬姉の二連覇を目に焼き付けて来るぜ!』ってメールをくれたのに……其れなのに死んだなんて……嘘だよね一夏……一夏ぁ
ぁぁぁ!!
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!



「確りしな鈴!!」


「ふぇ、お母さん?」

「アンタが好きになった一夏君は、そう簡単にくたばっちまうような情けない男だったのかい?――違うだろ!
 こっちに戻る日に、空港まで見送りに来てくれた一夏君は本気でアンタの事を思ってくれてただろ?そんなあの子が、アンタを残して簡単に死ぬ
 と思ってるのかい?
 大体にして、一夏君の遺体が確認された訳じゃないだろ?――あくまでも状況から死を判断しただけだろう?……生きてる可能性だって十分に
 あるんじゃないのかい?」

「!!!」

そうだ……お母さんの言う通りよ!!
あの一夏が簡単に死ぬ筈がない……こう言っちゃなんだけど、一夏の生命力は台所に出る『黒光りするG』すら凌駕してるから、生きてる可能性
の方が高い――!!
でも、一夏が生きてるんだとしたら、アタシが塞ぎ込んでる事は出来ないわ!!
生きてるなら何時かは再会できるから、その時の為に、もっと『女』を磨いて、一夏に相応しい人にならないとだからね――そうね……IS適性があ
る事も分かった事だし、どうせなら国家代表でも目指してみようかしら?
国家代表ともなれば名は知られるから、何処かに居る一夏に届くかもしれないしね。

アンタは死んでない……生きてるって信じてるわ一夏――だから、再会する時を楽しみにしてなさい?アンタが吃驚する位の女になってやるんだ
から!!








――――――








Side:夏姫


一夏がアタシ達と合流して1ヶ月。
其れはつまり、アタシの事を『夏姫姉』と呼ぶようになって1ヶ月……まぁ、この呼ばれ方に不満はないけど、此の1ヶ月で分かったのは、一夏が予
想以上に『家族愛』に飢えてたって事ね。
まぁ、一秋との不仲と、千冬さんが家に居なかった事を考えれば当然かもしれないけどな。

そのせいか、アタシを『夏姫姉』、オータムさんを『秋姉』って呼ぶだけじゃなく、一夏は組織全体を家族と見てる節があるわ――まぁ、悪い事では
無いと思うけどね。



「夏姫姉、今夜の晩飯のリクエストってなんかある?」

「チキンカツを使ったカツ丼……通称『親子カツ丼』を希望するわ!」

「OK、任されたぜ!!」



何よりも一夏との姉弟関係も巧く行ってるからね。
でも、だからこそ、こんな事が起こるなんて予想してなかったわ――其れこそ束さんだって予想してなかった筈だ。



「うわ!?おっとっと……」


――バシュゥゥゥン!!


「へ?」

「一夏お前……!!」

バランスを崩した一夏が、偶然近くにあった試験用のストライクに触れて、其れを起動してしまうなんて言う事はね。――此の場所で起動したって
言うのが不幸中の幸いと言うか……外で起動してたら大変な事になっただろうな。
しかし、まさか世界最初の『男性ISパイロット』になったのが一夏だったとはな……取り敢えず、束さんには色々頑張って貰わないとだ。
此れからの対応をどうするかは考えるとして、ISを操る事の出来る男の存在は、この世界にとって間違いなく起爆剤となるのは確実だわ――如何
やらお前は、其の第一号として選ばれたみたいだな一夏。



「かも知れないけど、このIS悪くないよ。
 俺の身体に馴染むって言うか……最初から俺の為だけに作られたみたいだ。」

「お前の為にか……」

其れは否定できないかも知れん――束さんは、最近『男』でもISを起動できるように、試作機を色々と研究してたからね。
何れにしても未公表とは言え、一夏が世界初の『男性IS操縦者』になったのは間違いない。

一夏が――『男』がISを動かした。この事実が公表されたら世界が大きく動くのは間違いないわ――否、大きく動いて然るべきだからな。














 To Be Continued…