クラス対抗戦から数日経ったある日、生徒会長である蓮杖夏姫は、手にした書類に目を通すと、何の躊躇いも無く其れに署名し、生徒会長の印を押す――乱
と鈴を除く二組の生徒全員の連名で提出された『クラス代表変更の嘆願書』と『凰乱音のクラス代表推薦状』にだ。
既に嘆願書と推薦状には、学園長である轡木十蔵、実技の最高責任者である織斑千冬、一年二組の担任であるクラーラ・スミリノフの署名と捺印がされてい
るため、この二つの書類は正式に受理された事になる訳だ。
「クラス対抗戦の結果次第では、こうなる事もあるのではないかと思っていましたが……まさか、乱音さんと鈴音さんを除いた二組の生徒全員の連名とは。」
「彼女は、凰鈴音はそれ程までに二組での印象が悪かったのだろうさ……まぁ、自分達が選んだ乱君から、強引にクラス代表の座を奪い取っただけでも許し
難いのに、クラス対抗戦は全敗となれば尚の事だ。
しかも、織斑君とローランディフェルネィ君との試合はパーフェクト負けだった訳だからね。」
鈴がクラス対抗戦で全敗したのを見た二組の生徒は、『やっぱり二組の代表は乱の方が相応しい』と考え、『クラス代表のリコール』を学園に申し入れたので
ある……まぁ、夏姫の言う様に強引に乱から代表の座を奪って、自信満々に偉そうな事言ってたくせに結果はパーフェクト負けが二試合もあった全敗だから
ね?そら、リコールもしたくなるわ。
「しかし、クラス代表を変更してしまったら、中国が何か言ってこないでしょうか?」
「其れに関しては心配ないよ虚君。
確かに学園が一方的にクラス代表を変更したのならば何か言ってくる可能性が大きいが、今回の件は二組の生徒の総意の元に行われるモノであって、其
れに対して中国が何か言う権利は存在しないからね。
何よりも、この書類が受理されたからと言って、即クラス代表が変更になる訳ではないし、乱君の方が凰鈴音よりもクラス代表に相応しいと言う証明が必要
になるからね……まぁ、直ぐに結果は出るだろうけれど。」
とは言え、クラス代表を鈴から乱に変更するには、それ相応の理由が必要になる――前述したクラス代表戦の結果だけでは変更理由としては若干弱い部分
があるので、推薦された乱の方が鈴よりも優秀であると言う事を証明する必要があるのだ。……証明とか証拠は大事だね。
「直ぐに結果が出る、ですか?」
「中国が送って来た文書は覚えているだろう?アレには乱君と凰鈴音の直接対決はさせるなと書いてあった……万が一にも凰鈴音が負けるような事態は避
けたい思惑なのだろうけど、邪推すれば凰鈴音では乱君に勝てないと考えている、と取る事も出来るだろう?
国が実力を不安視している代表候補生と、国が自信を持って、それこそ飛び級をさせてまで入学させて来た代表候補生では雲泥の差がある。
乱君が、凰鈴音よりも二組の代表に相応しいと言う証明は、あっさりと為される筈さ。」
そう言えば中国からの文書にはそんな事書いてありましたなぁ?だが、確かに言われてみれば『鈴と乱の直接対決はさせないように』ってのは、『鈴じゃ乱に
勝つ事が出来ないので、直接対決はさせない方向でヨロ!』とも取れるわな。
中国の政府関係者やIS関係者はそんな事にも気付かなかったのか?否、下の人間は気付いたのかも知れないが、『言っても取り合って貰えなかった。』、『
お偉方には其れが分からんのですよ!』と言った感じだったのだろう……恐るべき縦割り権力社会!
「直接対決が出来ない状況で、どうやって其れを証明するのでしょう?其れも、中国が納得する形で。」
「簡単だよ。乱君に、織斑君、正義君、ローランディフェルネィ君と試合をして貰う――凰鈴音がクラス対抗戦で戦ったのと同じ相手とね。
その結果を比較する事で、疑似的にではあるが乱君と凰鈴音の実力差を証明する事が出来る。その結果と、試合の記録映像を送ってやれば、中国も納得
せざるを得ないさ。」
「分かりました。では、至急アリーナの方を手配しますね。」
「あぁ、宜しく頼む。」
クラス代表のリコールになるか否かは、乱の試合結果次第になるようだ。
因みにこの試合、関係者以外には非公開で行われる筈だったのだが、何処から情報が漏れたのか、試合当日のアリーナには略全生徒が集まる結果になっ
ていた……女子の情報収集能力と情報伝達力はマジで驚かされる事があるわ。
夏と刀と無限の空 Episode9
『クラス対抗戦後の彼是とEt cetera』
誰が言ったか『クラス対抗戦・番外編』と銘打たれた乱の試合は、結果だけ言うと一勝一敗一分けであり、此れは準優勝だったロランと同じ成績であり、全敗
した鈴より好成績であるのは誰の目にも明らかだろう。
内訳で言えば、陽彩には勝ち、ロランとは引き分け、一夏には負けと言う感じなのだが、試合内容もまた鈴よりも遥かに素晴らしかった。
陽彩戦は、互いに近接戦闘を得意としている事もあって、激しい斬り合いになったのだが、経験で上回る乱が要所要所で陽彩に有効打を叩き込んだ事で、タ
イムアップの判定勝ちに。
ロラン戦は、互いに得意間合いの取り合いになりながらも、自分の間合いを取った際に激しく攻め合った事もあり、互いにシールドエネルギーが尽きて相討ち
と言う凄まじい幕切れに。
一夏戦は、陽彩戦同様に激しい斬り合いになったが、近接戦闘において切れる手札の多い一夏が最終的に押し切ったと言う感じ――とは言え、乱は一夏の
シールドエネルギーを30%程削る事が出来たので、同じ負けであってもパーフェクト負けした鈴よりも試合内容では上回ったと言えるだろう。
体格は略同じで、使用機体も似たような物を使って、何故ここまでの差が出てしまったのか……元の才能の差もあるだろうが、尤も大きな要因として衝撃砲
『龍砲』の使い方にあったと言える。
鈴は、『砲身も砲弾も見えないんだから、遠距離から龍砲ぶっ放せば楽勝よ!』との考えの下に龍砲を使っていたのだが、乱は逆に『砲身も砲弾も見えない
龍砲は、近距離戦でこそ威力を発揮する』と考えて使っていたのだ。
鈴の考えも間違いじゃあないし、実際に見えない砲撃ってのは脅威ではあるんだが、一夏がやったように『使用者の視線』から何処に撃って来るかを予測さ
れると言う弱点がある訳よ。
だが、乱の考え方の場合、その弱点は無くなるのだ。
近距離で使う場合でも、視線から読まれる可能性は十分にあるのだが、その視線は『近距離攻撃で次に攻撃する場所』か、『龍砲で攻撃する場所』と言う二
択を相手に迫る事が出来るのだ。二択を迫るってのは、格ゲーでも有効な戦術だな。
そして、この方法は単純な二択攻撃ではなく、相手に常に龍砲の存在を遠距離で使った場合以上に警戒させる事が可能で、プレッシャーを掛けやすいと言う
メリットもある訳よ。
更に、乱の『甲龍・紫煙』には龍の頭を模したアンロックユニットがあり、龍砲も其処に搭載されているのだが、この龍の頭と言うのが曲者なんだわ。
相手は如何したって、その形状から『龍砲は龍の口の部分から放たれる』と思い込んでしまいがちなのだが、実は龍の頭の何処からでも撃てる為、龍の頭を
向ける角度で、撃つ場所をミスリードすると言うトリックプレイも可能なのだ……アルェ?中国から技術提供を受けた台湾で開発された機体の方が、総合性能
上がってないですかね此れ?
龍砲こそ、オリジナルの甲龍とは違って一門になってるモノの、それを補って有り余る性能を獲得してるし、近接ブレードも青龍刀からロングブレードとショート
ブレードと取り回しの良いモノに改良されてる訳だからね――元となったモノよりも、更に良い物を作り上げるとは、台湾の技術者の技能は、中国の技術者よ
りも遥かに上って事なんだろうなきっと。
まぁ、要するに龍砲の使い方の違いで、乱は鈴とは全く違う試合結果を残す事になったとも言える訳さ……この近距離龍砲を、一夏はモノの数発で見切った
ってんだから、マジハンパねぇ。此れが真の主人公って奴か。
陽彩?見切る事が出来ずに喰らってたよ?ぶっちゃけ機体がエクシアじゃなかったら、判定負けじゃなくでKO負けだったね。
何にせよ此の結果を持ってして、乱の方が鈴よりも優秀であり、二組の代表として相応しい事が証明され、二組のクラス代表は鈴から乱に正式に変更される
事が決定されたのだった。
この一連の出来事に、陽彩は『鈴が二組の代表じゃなくなるだと?……また原作と違う事が!』とか何とか言っていたのだが、即座に『待てよ?クラス代表を
下ろされて傷心の鈴を慰めてやれば、俺の好感度上がるじゃん!』とか考えちゃう辺り、ポジティブ思考なのか何なのか良く分からん。
否、ポジティブとかそれ以前に、コイツは所謂『原作ヒロイン』を全部奪ってハーレムとか考えてるクズ野郎だったな……何だってモッピーにチョロインにまな板
はコイツに惚れてるん?謎だわ。
尚、乱がクラス代表に返り咲いた事を祝うプチパーティが開催され、其処で一夏が用意した一口サイズの多種多様なスウィーツは、女子達のハートをガッチリ
掴んでいたみたいだった。因みに一番の人気は、『マシュマカロン』を模したマカロンだった……一夏、主夫力だけじゃなくて、パティシエとしての能力も可成り
高いみたいだな。
――――――
さて、鈴が乱とクラス代表を代わる事になったと言う事を記した文書と、鈴のクラス対抗戦の試合映像と乱のクラス対抗戦・番外編の映像をIS学園から送られ
た中国では、眼鏡を掛けた女性が中国IS委員会の上層部の老人達を厳しい目で睨みつけていた。
女性の名は『楊麗々(ヤンレイレイ)』。
中国の代表候補生管理官にして、五年前までは中国の国家代表を務めていた人物であり……そして、鈴のIS学園行きに最後まで反対していた人物だ。
「私は凰代表候補生は、『才能は兎も角、実力と精神面が未熟であるため、それが充分に成長するまでIS学園には行かせるべきではない』と言いましたが、
彼方達は、台湾に先を越されるのを恐れ、私の忠告を無視して彼女を学園に編入させた……そして、その結果が此れです。
台湾の代表候補生である凰乱音から強引にクラス代表の座を奪っておきながら、クラス対抗戦では全敗……其れも、世界初の男性IS操縦者にして、ブリュ
ンヒルデの弟である織斑一夏と、オランダの国家代表であるロランツィーネ・ローランディフェルネィにはパーフェクト負け。
更には凰乱音は、後日行われた試合で、二人目の正義陽彩には判定勝ちし、ロランツィーネ・ローランディフェルネィには相討ちの引き分け、織斑一夏には
負けはしたモノの、シールドエネルギーは30%程減らして見せ、何方が上だったのかと言う事を三段論法とは言え示された……此れは、我が国にとってマ
イナス以外の何物でもありませんが、全ての責任は私の忠告を無視して、彼女をIS学園に向かわせた、彼方達『中国IS委員会』に全ての責任がある。
この責任、如何取るお心算か、お聞かせ願いたい。」
「其れは、その……」
楊の指摘に、老人達はシドロモドロになって答える事が出来ない……其れはそうだろう、楊の忠告を無視して鈴をIS学園に送り込んだのが『クラス対抗戦全
敗』と言う結果だけでなく、乱にクラス代表を奪い返されると言う事態になったのだから。
楊は鈴の才能は十分だと思っていたが、実力は才能頼りでまだ甘く、精神面で幼い部分があるので其れを鍛えてからIS学園に入学させるべきだと考えてお
り、同時に其れさえ充分に鍛えれば、最強のIS乗りになると考えていただけに、将来を見据えて現段階でのIS学園行きには反対したにも拘らず、台湾がIS学
園に代表候補生を送り込んだ事を危惧した中国は、楊の忠告を無視して鈴をIS学園に送り込み、この結果を招いたのだから、楊の怒りは当然と言えよう。
「本音を言わせて貰うのであれば、今すぐにでも凰代表候補生を帰還させ、再教育をしたい所なのですが、其れは彼方方が認めないでしょう。
ですが、このまま彼女をIS学園に在籍させていたのでは、国民や他の代表候補生からの不満が溢れ出るのは火を見るよりも明らかですので、そうならない
為にも、凰代表候補生には特別任務として男性操縦者のデータを此方が設定した期限内に送らせようと思います。
彼女は二人目の男性IS操縦者である正義陽彩と懇意にしていた筈ですので、他の代表候補生に行わせるよりも彼女の方が適任……可成り強引だとは思
いますが、此れならば国民や他の代表候補生も一応は納得させる事が出来る筈。」
「そうだ、そうしよう!凰鈴音君には、男性操縦者のデータを取る事に専念して貰おうじゃないか!」
「但し、期限内にデータが提出されなかった其の時は、今度こそ彼女は強制的に此方に呼び戻し、私が一年間みっちり再教育しますのでその心算で。」
「うむ、其れで構わん!それ位の事ならば、彼女はきっとやってくれる筈だ。」
冷や汗ダラダラだった老人達は、楊の提案を聞くと、是非もなく其れに飛びついた……鈴の働き如何では、自分達の首が飛ぶのを回避出来るんじゃないかと
思ったんだろう。……尤も、鈴がその任を果たす事が出来なかったその時は、纏めて首が吹っ飛ぶ訳だが、取り敢えず今が何とかなれば其れでOKなのだろ
う。目先の事しか考えてねぇなマジで。
何にしてもまぁ、鈴は首の皮一枚繋がって中国への強制送還は免れる事が出来た……時に、首の皮一枚繋がって言うけど、首の皮一枚繋がったとしても既
に手遅れじゃね?首の皮一枚しか繋がってないって、其れもう殆ど斬首完了じゃんよ?
首の皮一枚繋がってればOKって、妖怪か何かなのか?……うん、日本語には謎が多い。
――――――
乱が無事に二組のクラス代表に返り咲いた数日後の放課後、IS学園の第二道場では、KOFや天下一武道会もビックリな戦いが展開されていた――其の戦
いを行ってるのは、方や赤い空手着のズボンだけを穿き、上半身は黒いTシャツを着て、ズボンの上から黒帯を巻いた一夏と、上着はグレー、袴は青の袴姿
の刀奈だ。……一夏はストⅤのケンで、刀奈はSvCCHAOSのギースの2Pだね此れは。
「ふ!はぁ!!」
「ハッ!フッ!セイヤ!!」
攻める刀奈と、其れを巧みなガードで防ぐ一夏……いや、違うな。一夏が行ってるのはガードじゃなくてブロッキングだ此れ。ケンのコスチュームでブロッキン
グとか、疾風迅雷脚での確定反撃でも狙ってんのかねぇコイツは?否、衣装はⅤだから、其れはないか。
さて、一夏と刀奈が戦っているのは、一夏達が新たに立ち上げた『古武術部』のスパーリングと言う訳ではなく、入部希望者に対してのデモンストレーションを
行ってる最中だからだ。
設立当初こそ、織斑姉妹、更識姉妹、そして虚しか部員が居なかった古武術部だが、四組のクラス代表決定戦後辺りから入部希望者がちらほらと現れ、クラ
ス対抗戦後には、入部希望者が一気に増えたのである。
元々、世界初の男性IS操縦者が立ち上げた部活と言う事で話題にはなっていたのだが、『古武術ってなんぞ?』と言う疑問があり、入部を躊躇っていた生徒
が多かったみたいなんだけど、クラス対抗戦での一夏の活躍を見て、『そんな疑問を持つくらいなら、入部して知ればいい』と言う考えに、謎の思考チェンジを
して入部に踏み切ったらしい……若干意味が分からない。
でもって、そんな入部希望者に対し、部長である刀奈と副部長の一夏がデモンストレーションとして、『魅せるスパーリング』を行ってるって訳さ。
因みに、入部希望者の中には、ロランに乱、ヴィシュヌにグリフィンの姿も見える。彼女達もまた、この古武術部に興味があるのだろう――ヴィシュヌはムエタ
イを、グリフィンはブラジリアン柔術をやってるから余計にだろうね。
尚、コメット姉妹の姿が無いのは、彼女達は既に軽音部からの熱烈なラブコールを受けて、軽音部に入部してるからだ……まぁ、カナダだけでなく、世界で人
気の双子アイドルが軽音部のボーカルになったって言うのは話題性があるし、学園祭でライブをやる時にも集客が見込めるから、軽音部が熱心に勧誘したっ
てのは分かるけどね。
さて、古武術部の入部希望者の中にはちょいと意外な奴が居た……そう、勘違い系自称オリ主の正義陽彩だ。
クラス対抗戦で一夏にボロ負けした陽彩は、試合後は大きなショックを受けていたが、直ぐに『ISでの勝負では負けても、生身の勝負ならチートな身体能力を
持ってる俺が勝てるんじゃね?』と思い、古武術部への入部を決めたのだ。……否、ドンだけ都合の良い脳味噌してんだコイツ?
確かにお前は神(見習い)から貰ったチートな身体能力があるし、トレーニングをしてる事で劣化せずにチートの維持が出来てるけど、一夏は伸ばした右腕に
刀奈が腰掛ける事が出来るのよ?しかも、其れだけのパワーがありながら決して太いムキムキマッチョじゃないってのが凄すぎるだろ。細マッチョ舐めんな。
そもそもにしてトレーニングはしてても基本はチートに頼ってる陽彩と、日々ストイックにトレーニングをして己を高めてる一夏では、根幹の強さが段チでありま
すのよ。――まぁ、其れが分からないから『自称オリ主』、『オリ主(笑)』なんだけどね。
だが、そう思って入部を希望した陽彩だが、目の前で繰り広げられている一夏と刀奈のデモンストレーションに、クラス対抗戦の時以上の衝撃を受けていた。
「(一夏も楯無も動きに一切無駄がねぇ……楯無の鋭い攻めも凄いが、一夏の野郎の防御も侮れねぇ……く、一夏の野郎、生身でも強いってのかよ!)」
「ふ、はぁ!烈風拳!レイジング……ストォォォォォォム!!」
「(だけど、其れは古武術じゃねぇ!いや、古武術と言えば古武術だけど、なんか色々間違ってねぇか其れ!?)」
受けていたのだが、刀奈が一夏の防御を崩して叩き込んだ連続技には心の中で突っ込みを入れざるを得なかった……刀奈が一夏に叩き込んだ連続技を詳
しく説明すると、ローキックでガードを崩してからボディに掌底を叩き込み、其処から大振りな後回し蹴りに繋いでから、烈風拳で浮かせてから追撃のレイジン
グストームを叩き込むって言う、SvCChaosのギースの極悪連続技だった訳だからね。って言うか、烈風拳とレイジングストームは一体如何やったのか謎だ。
喰らった一夏がケロッとしてる辺り、ISを利用した技なのかも知れない……其れなら喰らっても、人体にはノーダメージだから一夏がケロッとしてるのも分かる
からね。
でもって、今度は一夏が反撃開始!大きく跳躍してから急降下する飛び蹴りで刀奈を強襲すると、其処からステップからの膝蹴りを叩き込み、ショルダーアタ
ック→肘打ちのコンボを繋いでから踏み込んでの横蹴りを炸裂させ……
「真・昇龍拳!!」
其処から、真・昇龍拳を叩き込んだ……いや、見事なコンボだとは思うけど、格ゲーのコンボを普通に現実で再現するな?って言うか、一夏と刀奈がやってく
れたコンボは、どっちも体力ゲージを満タンから六~七割持って行くって言う可成りの鬼コンボだからね。
まぁ、普通ならこれで一夏の勝ちなのだが、今回はデモンストレーションと言う事で互いに手加減をしていたため、真・昇龍拳を喰らった刀奈は空中で華麗に
姿勢を整えて着地して見せた。
「以上を持ちまして、私、更識刀奈と、織斑一夏によるデモンストレーションは終了とさせて貰うけれど、楽しんで貰えたかしら?」
「『古武術部』って名称だけど、格闘技経験者でも未経験者でも大歓迎だし、古武術とは全く関係ない近代武術でも入部は全然OKだぜ。
現に俺も、古武術に分類される合気道や琉球空手だけじゃなくて、マーシャルアーツやシステマって言う現代格闘技も修めてるからな……やる気があるな
ら誰でも来いってな。」
「「「「「「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」」」」」」
「やる気があるなら誰でも来いか……その強気な態度、嗚呼益々君は私の心を乱すのだね一夏。そして、そんな君の隣にいる刀奈もまた美しい……一夏と
刀奈、此れは正に神が作り上げた最高のカップルなのかも知れないな。」
「ロラン、アンタ何言ってんの?」
「気にしたら負けですよ乱……ロランは、一度トリップすると中々戻ってこれないみたいですからね。」
「脳天に斜め四五度でチョップ喰らわせたら正常に戻るかな?」
「失礼な事を言わないでくれたまえ乱、ヴィシュヌ!私は至って正常だよ……其れからグリフィン、貴女のチョップを喰らったら下手すると記憶が吹っ飛びかね
ないのでやらないでくれると助かる。」
でもって、一夏の若干ダークヒーローが入った一言に、女子達の多くは黄色い悲鳴上げ、ロランは何かがリミットオーバーし、乱とヴィシュヌが突っ込み的なや
り取りをして、グリフィンが物理攻撃でロランを正常に戻そうとしていた。まぁ、ロランは此れが正常運転なんだけどね。
まぁ、ブラジリアン柔術黒帯の実力のグリフィンのチョップを頭に喰らったら色々と失ってしまう可能性があるから、其れを拒否したのは当然と言えるだろう。
因みに、ブラジリアン柔術――引いてはグレイシー柔術の源流は、大正時代にブラジルに渡った日本人柔道家の『前田光男』が修めていた『天神真楊流柔術
』であり、刀奈が修めている武術でもあるのだ。
其れは兎も角として、このデモンストレーションで入部希望者のハートを掴んだのは間違いないだろう――真の魅せる試合って言うのは、ショーマンだけでな
く、実力があってこそ出来るモノなのだ。つまり、一夏と刀奈の実力はISを使わない生身のバトルでも相当に高いと言う事になるのだ……まぁ、その一夏と刀
奈を軽くあしらえる千冬と、その彼氏である稼津斗は……うん、僕はもう何も言わない。
ともあれ、デモンストレーションが終われば、後は体験入部で基礎トレーニングを体験してもらうだけなのだが……
「織斑、俺と勝負しな!」
「……正義、またお前かよ。ってか、居たのか。」
此処で陽彩が一夏に喧嘩を吹っ掛けた。
一夏と刀奈の戦いに心の中で盛大に突っ込んでいた陽彩だが、しかし正気を失うって事はなく、一夏と刀奈のデモンストレーションが終わった瞬間に一夏へ
の挑戦状を叩き付けたのだ。
其れに一夏は心底ウンザリした表情を浮かべるが……それも致し方あるまい。
クラス対抗戦前に学園のルールをガン無視して試合を申し込んだモノの其れは正論で撃退し、クラス対抗戦では圧倒的な実力差を見せつけてパーフェクト勝
ちしたってのに、また挑まれたらウンザリもするわな。
と言うか、其れ以前に陽彩の存在に気付いてなかったっぽいけどね。
「居たよ!ってか、女子の中に男子が一人なんだから普通気付くだろ!?」
「いや、気付かん。
ぶっちゃけ女子の視線の方に意識が行って、其の中にたった一人だけ居る野郎の事にまで気が回らんって……想像してみ?例えばお前の試合に熱視線
を送ってる女子の大群の中に俺が居て、極めて普通にお前の試合見てたら、お前俺に気付くか?」
「あ~~~……其れは、気付かねぇな、うん。」
「加えてだ、さっきの俺の相手は刀奈、つまり俺の彼女な訳よ?
超絶美人な彼女が、袴って言う中々レアなコスチュームで自分と戦ってんだ、如何したって目の前の事に集中しちゃうだろ、女子からの視線以上に。」
「お~~……何か分かる気がする。俺も目の前に春麗コスの鈴が居たらそっちに意識が行くわ。」
って、何か変な方向で意気投合してねぇか男子二人?
いや、まぁ確かに一夏の言ってる事は一理あるとは思うようん。だから、陽彩が其れに同意するのも分かるっちゃ分かるんだけど、良いのか此れ?……一夏
よ、若しかしてこのままこの会話を続けて、陽彩に勝負挑まれた事を有耶無耶にしようとしてるんじゃないだろうな?
「春麗コスか……ZEROシリーズの春麗のジャージはダサかったな。」
「アレジャージだったのか?俺は袖なしの全身タイツかと思ってた。」
「一部ではボディペイントって噂もあったらしいけどな。」
「其れは……ゲーム自体が発禁になるだろ――じゃねぇ!危うく流されるところだったぜ……俺と勝負しろ織斑!負けっ放しってのは性に合わねぇんだ!」
「ちっ、このまま有耶無耶に出来ると思ったのに気付きやがったか。」
はい、有耶無耶にする気満々だった。って言うか、今舌打ちしやがりましたよコイツは……ドンだけ陽彩と戦うのが嫌なのか。あからさまに『ウゼー』、『面倒く
さい』ってのが顔に出てるからなぁ?
クラス対抗戦でフルボッコにした、中華風貧乳娘の関係者ってのが、余計に戦うのを拒否りたい理由になってるのかも知れんけどな。
「良いじゃない、相手をして上げなさいよ一夏。貴方なら、余裕で勝てるでしょ?」
「どうせ此処で断っても、またしつこく勝負を挑んでくるのは間違いないから、此処で力の差を分からせておくべきだと思う。」
「おそらくそいつは、『ISバトルでは負けても、生身のバトルなら勝てる』とか思ってるんだろうさ……それが間違いだと教えてやれ。」
「彼女達の言う通りだ一夏、彼の相手をしてやると良い……そして、華麗に勝利して見せておくれ。織斑一夏、この私が唯一認めた最強の男よ!」
だがしかし、刀奈、簪、円夏、ロランから『相手にしてやれ』と言われては、一夏も『嫌だ』とは言えないだろう――何より、この場に集まった女子達は、『ISを使
わない生身のバトルでは、一夏と陽彩の何方が強いのか?』と言う事に興味が湧いているみたいだからね。
「って言われてもなぁ……俺には何の得もないしなぁ……」
此の状況では一夏も陽彩からの挑戦を断る事は難しいのだが、それでも踏ん切りが付かないのは、一夏自身には全く何の得もないからだ。
負ける気はないが、既に先日のクラス対抗戦で陽彩には勝っている為、勝っても改めて実力差を示したに過ぎないし、只無駄に疲れるだけなのだから、其り
ゃやる気も起きんわな。
「そう言わないで受けて上げなさいよ一夏……勝ったら、今度の日曜日に一日メイド服で一夏専用のメイドになってあげるから♪」
「よーし、やるか正義。」
だが、其れも刀奈の破壊力抜群の一言で、一気にやる気に火が点いたらしい……そらまぁ、激ラブな彼女がメイド服着て一日専用のメイドになってくれるとな
れば、やる気も出るわ。何より、刀奈のメイド服とかマジで破壊力が核爆弾級だからね。
え?簪も一緒になって姉妹メイドになったらどうなるかって?……その破壊力は超新星爆発級ですはい。
まぁ、そんな訳で始まった一夏と陽彩の戦いだったのだが、ハッキリ言ってまるで勝負になっていなかった。
陽彩は確かにチートな身体能力があり、身体能力だけならば可成り高いのだろうが、一夏の身体能力は其れ以上なだけでなく、一夏は空手に柔道、合気道
にマーシャルアーツと様々な格闘技を身に付けており、しかも身に付けた格闘技は全てで段持ちなのだから、剣道しか出来ない陽彩など敵じゃないのだ。
「く……生身でも……テメェ、ドンだけだってんだよ?生身でも俺を上回るとか、在り得ねぇぞマジで……!」
「さて、ドレ位かなんて自分でも分からねぇよ……だが、今の俺でも千冬姉や稼津斗さんにはまだまだ及ばないんだ――もっともっと精進して上を目指さない
とだぜ!」
陽彩の攻撃をいなし、捌いていた一夏は、一瞬の隙を突いて陽彩の懐に飛び込むと、鋭い肘打ちを喰らわせ、其処からボディアッパーを叩き込み、更にアッ
パーで顎をカチ上げ、そしてそのままアッパーを振り抜く!……ストZERO3の滅・昇龍拳が、真・昇龍拳に変わった時の攻撃だ此れ。
当初は、レベル3の真空竜巻旋風脚よりもダメージが低いから狙う意味は無いって言われてたけど、ZERO3⤴⤴(ダブルアッパーズ)では、満タンから六割持っ
てく技になったから狙う価値が出たんだわ。
其れは其れとして、此の真・昇龍拳を喰らった陽彩は意識を完全に削り取られてKO!……鳩尾に肘打ち叩き込まれた上に、顎を打ち抜かれたらそりゃ意識
も吹っ飛ぶわな。
「俺の、勝ちだ。」
「はい、一夏の勝ち~~♪」
でもって、一夏が拳を突き上げて勝利宣言をして、その一夏に刀奈が抱き付いて一夏の勝利に華を添えていた……ホントにお似合いだなお前等?いっその
事、もう結婚しても良いんじゃね?
IS学園は治外法権だから、日本国憲法が定めてる婚姻年齢なんぞ無視する事が出来る訳だからね。
まぁ、其れは兎も角、一夏はISバトルだけでなく、生身の戦闘でも陽彩よりも上だと言う事を証明し、其れはこの試合を動画に撮っていた生徒によってSNSで
拡散され、一夏の強さは一気に世界中に知れ渡る事になったのだった。
其れと同時に、陽彩は『二人目の男性IS操縦者の実力は大した事が無い』と拡散される事になった……一夏に挑まなければこんな事には成らなかったのか
も知れないが、挑んでしまったのだからこの結果は仕方ないだろう。
一夏と陽彩の戦いで言える事があるとすれば、其れは『チート特典では、努力で培われた実力には遠く及ばない』って事だろうな……一夏は見事に、陽彩の
チート転生特典を上回って見せたのだからね。
ま、神見習いのチート転生じゃ、神に溺愛された一夏に勝てる筈がないんですけどね~~♪……取り敢えず陽彩、お前はオリ主などではなく、頑張った所で
踏み台でしかないみたいだから、其れを自覚しとけ?
まぁ、コイツは何があってもテメェが踏み台って事は認めないだろうけどね……時には潔く認める事も大切だって言っても、コイツには絶対に通じないんだろう
なぁ――ま、妄想の勝利を掴むまで頑張り給え転生者君。
お前が足掻けば足掻くだけ、一夏の評価が上がるだけなんだけどね……ったく、神(見習い)は、本気で如何してコイツをこの世界に転生させたのか、キッチ
リと話しをする必要があるかもな。
――――――
場所は変わってアメリカのテキサス州。
広い荒野を、黒いジーパンに黒いシャツ、黒い革ジャンを纏った男が一人歩いている……黒目黒髪が特徴で、それ以上に左目の下の斬り傷痕が目を引く日
本人だ。
――ピロリン
その男のスマートフォンが通知を知らせ、男は其れを手に取って通知を確認する――どうやら、LINEの通知があったようだ。
「『偶には連絡をよこせ。交際相手を放っておくな』……仰る通りです千冬さん。返す言葉もないな。」
その通知は、千冬からのLINEのメッセージだったらしく、其処には言外に『会えないのは寂しいぞ?』との思いが込められているみたいだった……千冬さんも
中々に乙女ですな。
「そう言えば、日本ではそろそろゴールデンウィークだし、一度戻ってみるか……一夏や刀奈にも久しぶりに会いたいし、千冬さんに寂しい思いをさせちまった
事の埋め合わせもしないとだからな。」
そう呟くと、青年――澤稼津斗は、スマートフォンで日本行きの飛行機のチケットを購入し、ゴールデンウィークは日本で過ごす事を決めたようだ……千冬さん
が交際している最強の存在が、数年振りに日本の地にやってくる訳だね。
果てさて、ゴールデンウィークでは何が起きるのか……それは、現段階では全く持って分からないとしか言えないだろう。――取り敢えず、平和に終わる事を
節に願っておこう。
まぁ、この願いは高確率で無視されるんだろうけどね……世界最強のブリュンヒルデと、その彼氏がデートをする事になったら、其れは絶対に只で終わるとは
思えないからね……最終兵器カップルは、普通に怖いねうん。
果てさて、今年のゴールデンウィークは何が起きるのか……取り敢えず、街を壊滅させる事だけは止めてねマジで。
To Be Continued 
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