一夏が鈴をコテンパンにした後の観客席は、主に四組と三組を中心に盛り上がっていた……まぁ、中国の代表候補生を完封してのパーフェクト勝利を修めた
のだから、盛り上がるなってのが無理な要求なんだろうけどね。
逆に鈴が所属している二組の生徒は、鈴の二連敗にお通夜な雰囲気――なんて事にはならず、『織斑君強っよ!』、『てか自分の武器一切使ってなかった
よね?』、『鈴音弱くない?』、『乱より強いとか吹かしすぎ。』との意見を口にしていた。
まぁ、要するに、二組の総意でクラス代表になった乱から、無理やりクラス代表の座を奪い取った事で、鈴は二組の生徒からの印象も滅茶苦茶悪くなってる
訳だ……自分から評価落してどうすんでしょうねこの中華風貧乳娘は?


「スカッとする程のフルボッコだったわねぇ……普段は試合以外では絶対に女性には手を上げない一夏がアレだけコテンパンにしたのだから、相当に怒って
 たんでしょうね。
 まぁ、私も貧乳ちゃんのやった事は許せないからアレくらいはやって欲しいと思っていたから全然OKだけど♪
 さて、一夏は荒々しくコテンパンにしたけれど、ロランはどんな感じで貧乳ちゃんを殺ってくれるのか楽しみだわ♪」

――【滅殺希望】


そんな中、四組のチアガール部隊でチアリーダーを務めた刀奈は一夏が鈴をフルボッコにした事に満足しながらも、ロランはどんな形で鈴をボッコボコにする
のか期待していた。てか、扇子の文字が怖い。あと、『やってくれるのか』の字が違う。


「まぁ、あの程度の奴ならばロランも楽勝だろうが、其れ以前にあのまな板娘、次の試合に出てくる事が出来るのか?最悪の場合、棄権も在り得るかもだ。」

「あの自信過剰が棄権とかするとは思えないよ円夏?」

「普通に負けたのならば其れは私もないと思うんだが、奴は兄さんの怒りを至近距離で喰らったからなぁ?恐怖に支配されて戦意を失っても不思議じゃない
 んだよ。
 兄さんに本気の怒気を向けられた事が無いから分からないだろうがな、ガチで怒った兄さんには姉さんが恐怖を覚える程なんだぞ?」

「「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」」


更に此処で円夏が爆弾投下!!如何やら一夏の本気の怒りは、世界最強ですら恐怖を覚える程だったらしい……ってか、何故に千冬さんはその怒気を向
けられてしまったのか微妙に、いいや、大いに気になるところではあるねぇ、うん。


「お義姉さん、一体何をやっちゃったの?」

「其れはだな……いや、此ればかりは話すのは止めておこう。
 流石に姉さんの威信に関わる事だし、何よりも此れを話してしまった事がバレたら最悪の場合、私は明日の朝日を拝む事が出来なくなってしまうからな。」

「スッゴク気になるけど、命の危険があるんじゃ言えないわよね……後で、一夏に個人的に聞いてみましょう。」


クラスメイトの前では話せないからと言って、寮で個人的に聞くと言う魂胆は如何なモノかと思いますぞ刀奈さん?
そしてサラッと当たり前のように千冬さんの事を『お義姉さん』って呼んじゃうんですね~~……いやまぁ、将来的に間違いじゃないんだろうけど、少々気が早
いんじゃないかと思うんですわ。……って突っ込みすら無粋なんだろうなぁきっと。
千冬さんが一体何をしでかして一夏の逆鱗に触れてマジギレさせてしまったのかは非常に気になる所ではあるモノの、クラス対抗戦も残るはロランvs鈴、一
夏vs陽彩の二試合なので、残りの試合を満喫する事にしよう。そうしよう。










夏と刀と無限の空 Episode8
クラス対抗戦Ⅱ~制裁と実力差~』










甲龍の簡易メンテナンスが行われている最中、鈴は恐怖を覚えていた――尤も其れは、円夏の言ったように一夏の怒気を至近距離で喰らった事が原因で
はない。
確かに鈴は一夏の本気の怒気を至近距離で受けはしたが、あの猛攻を受ける中で鈴は『このままじゃ負ける!』、『何とか反撃して大勢を立て直さないと』と
半ば頭がパニくった状況になっており、自分に向けられた怒気を正しく受信出来ていなかったのだ。
加えて最後の一撃で意識が奈落の落とし穴に落っこちてしまった上に、医務室で目が覚めた時には、試合には負けたと言う認識はあったモノの、どう言った
形で負けたのかは完全に記憶から抜け落ちていたため、一夏の怒気による恐怖を感じる事はなかったのだ。
ならば鈴は何に恐怖しているのか?


「(ヤバい、ヤバい、ヤバい!次の試合、勝てなかったら最下位になっちゃうじゃない……勝たないと、次こそは勝たないと!)」


其れは次の試合に勝たなければ自分は最下位になってしまうと言う事にだ。
鈴の考えでは、陽彩には勝てずとも、他の二人には勝ち、二勝一敗で二位になる筈だった――ハナッから優勝を諦めてる時点で如何かと思うのだが、今や
二位になる事すら不可能になってしまった。
現在の成績は一夏が二勝でトップ、次いで陽彩が一勝一分けで二位、ロランが一敗一分けの三位、鈴が二敗で最下位……一夏vs陽彩を優勝決定戦とする
のならば、ロランvs鈴は最下位決定戦なのだから。
しかもロランは引き分け以上で最下位を回避出来るのに対し、鈴は勝たねば最下位が決定してしまうと言う厳しい状況なのだ――クラス代表の座を、乱から
強引に奪った上で最下位になってしまったら本国の方から何を言われるか分かったモノではないし、最悪の場合、代表候補生の資格を剥奪される可能性も
あるのだから、そりゃ恐怖も感じるだろう。……まぁ、捕らぬ狸の皮算用して一夏をブチ切れさせた自業自得なんだけどな。
まぁ、其れでも普段の鈴であれば『次こそ絶対に勝つ!』と意気込んでいただろうが、次の相手であるロランが陽彩と引き分けたと言う事実が鈴の戦意に影
を落としていた。
自分が勝てなかった相手と引き分けた……三段論法でロランは自分より強いと言う結論に至ってしまったのだ。実際の所、三段論法なんてモンはマッタク持
って当てにならないんだけどね。


「(えぇい、弱気になるなアタシ!
  アタシは中国の序列一位の凰鈴音……アタシが中国では一番強いんだ!オランダの国家代表にだって負けるモンですか!絶対に勝ってやるわ!)」


それでも、何とか自分を奮い立たせたのは見事と言えるだろう……中国の国家代表の事を忘れて、代表候補生に過ぎない自分を中国最強と言うのは如何
かと思うけどね?因みに、中国の国家代表は褐色肌に金髪が特徴的な、何処ぞの子供先生の師匠であるとかないとか。

何とか自分を奮い立たせ、メンテナンスが終わった甲龍を纏った鈴がカタパルトからアリーナに出ると、既にそこにはロランが待機していた――機体を展開し
ない状態でだ。


「おや、出てこれたのか?
 一夏にあれだけこっぴどくやられて戦意を喪失して棄権するんじゃないかと思っていたのだけれど、私が思っていた以上に君の精神は図太かったみたいだ
 ね、凰鈴音?」

「だ~れが、棄権なんかするかっての!棄権する位なら死んだ方がマシよ……アンタをぶっ倒してやるから覚悟しなさい!
 って言うか、アンタなんで機体展開してないのよ?」

「ふふ、一夏が私との試合前に見事なパフォーマンスをしてくれただろう?だから、私も其れを真似しようと思ってね。」


……要するにネタぶっこむって事ですね其れ?一夏はブラック、刀奈はRX、簪はディケイドと来たのを考えると、ロランもまた仮面ライダーネタか?特撮オタと
言っても過言じゃない簪に相談すればネタは幾らでも出てくるだろうからね。


「変身!」


でもって、ロランは左拳を腰の辺りに構えると、右腕を直角に曲げて左肩の前まで持って来て『変身!』の掛け声……ロランは仮面ライダーナイトで来たか。
個人的にナイトは平成ライダーの中で一番好きです。
まぁ、そんな訳でロランも機体を展開し、準備は万端と言った所だろう……鈴がロランの胸部装甲を見た事で、試合開始前から怒り爆発状態になったのは最
早突っ込み不要だろう。胸囲の格差社会は残酷だなマジで。


「さぁ、始めようか凰鈴音……君に相応しい鎮魂歌――否、葬送歌を送ってあげるよ。」

「ほざくな!アンタこそ、龍の爪牙の餌食にしてやるから覚悟なさい!!」

「龍?……あぁ、ドラゴンの事か。
 君程度が自分をドラゴンと称すると言うのは少々思い上がりが過ぎるんじゃないかな?……君はドラゴンではなく、地に這う矮小なトカゲに過ぎないさ。」


試合は先ずは挑発合戦だが、挑発に関してはロランに分があるだろう……直接的な挑発を行う一夏とは違い、ロランの挑発は徹底的に芝居がかってるから
余計にやられた方からしたらムカつくのだ。
実際に、気障っぽく前髪を掻き揚げるロランの姿は鈴からしたらムカつく事この上ないだろう。――更に、其れが様になってるんだから挑発された方からした
ら更にイラっと来る事この上ないだろう。


「舐めんじゃないわよ……ぶっ殺す!!」


胸囲の格差社会で怒り爆発状態になっていた鈴は、ロランの挑発で怒り大爆発状態になり、双天牙月を展開すると、イグニッションブーストでロランに肉薄し
て双天牙月の二刀流で斬りかかるも、ロランは其れを冷静に見極めて、プラズマライフルを変形させたプラズマブレードで対処して行く。


「く……陽彩なら分かるけど、如何してアンタはアタシの攻撃を捌けんのよ!
 双天牙月はISブレードの中でも最強クラスの攻撃力があるのに……織斑みたいに避けるのが普通なんじゃないの!?」

「確かに君のそのISブレードは攻撃力だけならば最強クラスであり、真正面から打ち合うのは得策ではない。
 だから私は、君の攻撃を正面から受けるのではなく、攻撃の勢いを逃がす事で打ち合っているのさ――大型武器故に、攻撃スピードは遅く、攻撃手段も限
 られているから、受け流すのは簡単だしね。」


単純な機体パワーで言えば、ロランのオーランディ・ブルームよりも、鈴の甲龍の方が上であり、真面に打ち合ったら鈴が機体パワーで押し切るだろう。
だが、力で勝る相手に力で挑むのは愚の骨頂であり、勿論ロランがそんな愚かな選択をする筈もなく、円運動で鈴の攻撃を無力化しながら戦ってるのだ。
横薙ぎの斬り払いは身体を回転させる事で衝撃を逃がし、上からの斬り下ろしにはプラズマブレードを斜めにして受け流しつつ自身も横移動する事で完全に
衝撃を明後日の方向に逃がす――一夏が魅せたアクロバット回避の様な派手さこそないモノの、ロランの動きには一切の無駄がなく、完成された舞踏の如
き華麗さがあった。


「この、イライラする戦い方ね!大人しく喰らって落ちなさいよ!」

「ヤレヤレ、荒々しいのは嫌いではないが……君の戦い方には美しさが欠けているな凰鈴音。まぁ美しさに欠けるのは正義陽彩もだけれどね。
 君や正義陽彩と比べる事自体が失礼極まりないのだが、一夏の戦い方は美しかった……男性故に、女性特有のしなやかさこそなかったモノの、男性特有
 の荒々しくも力強い美しさがあった。
 嗚呼、一夏の力強い美しさは、奈良にあると言う、金剛力士像に通じるモノがあるのかも知れないね。」


特化能力のないオールラウンダーは特化型に弱いと言う弱点があるが、相手が生半可な特化型であるのならばその限りではなく、ロランと鈴の試合は不得
手間の無いロランが優勢になっていた。
一見すれば攻めているのは鈴の方に見えるが、ロランはその全ての攻撃を無効化し、1%たりともシールドエネルギーを削らせていない……実力差は、火を
見るよりも明らかだろう。因みにロランの戦闘力は約四十五万であり、鈴の戦闘力は約一万五千……どう考えても勝負にならねぇや此れ。


「それに引き換え、君は醜いな凰鈴音……」

「何ですって?」

「容姿だけ見るのならば、君は美少女と言えるだろう……だがしかし、その心根は醜悪であると言わざるを得ない――国家権力を盾に、クラス代表の座を乱
 から奪った君を悪女と言わずに何と言おうか?
 中国には史上最悪の悪女と言われている『武則天』と言う人物が居るらしいが、君は其れをも上回る悪女だろう……将来君は、『中国五大悪女』として名を
 馳せるかも知れないね。」


でもって煽りますなぁロランや。
確かに鈴がやった事は絶対に許せる物じゃないんだけど、その行為を持ってして『中国史上最悪の悪女である武則天以上の悪女だ』と言い放つとは、ロラン
も顔には出てないけどメッチャ怒ってるって事なんでしょうな。だって、ロランが女性を罵倒する事なんて普段は絶対に在り得ないんだから。


「誰が中国史史上最大の悪女より上ですってぇ!?……良い度胸してるわねアンタ!?お望み通りぶっ殺してやるわ!」

「ぶっ殺すとは、女性が吐く言葉とは思えないな?どうせ言うのならば、『貴公の命、貰い受ける』程度にしておいた方が良いとアドバイスしよう。
 お望みとあらば、使えるセリフを幾つか教えようか?こう見えて、オランダでは演劇の舞台に立つ事も多くてね……まぁ、男役ばかりだったけれど、コレまで
 に演じた役のセリフは全て覚えているからね。
 ……尤も、君に教えるセリフは主人公の物ではなく、悪役を演じた際の物だけれど。」

「要らないわよ、そんなモノ!」

「大声で叫ぶのははしたないから、止めた方が良いと思うのだけれど、言うだけ無駄なのだろうね。
 それにしても、君のダンスは荒々しいだけで単調で退屈だな?何故、近接戦闘時に衝撃砲を使わないんだい?それと、中国が公開している甲龍の機体デ
 ータによれば、腕部にも小型の衝撃砲が搭載されている筈。
 其れを使えば、近接戦闘の幅も増えると思うのだけれど……使わないのか、それとも同時に二種類の武器を使う事は出来ないのかな?」

「煩い!アンタにはそんなの関係ないでしょ!」


攻撃は全て受け流され、更には言葉で煽ってくるロランに対し、既に怒り大爆発状態の鈴はイライラで怒りのボルテージだけが上がってしまい、最早冷静さを
取り戻す事は出来ないだろう……何で中国は、こんな煽り耐性の低いのを代表候補にした?実はマジで人員不足なのだろうか?


「嗚呼、マッタク持って楽しめない……クラス対抗戦における私の最後の相手が此の程度とは、此れも神が私に与えた試練だと言うのか?
 不出来なダンスパートナーと共に、観客を魅了するダンスを踊れと言うのか……何と言う厳しき試練、彼女の実力を知った今、彼女では観客を魅了する事
 は不可能。
 故に此処からは、私が主役のダンスに切り替えるとしよう――さぁ、派手に踊って貰うぞ凰鈴音。」


何度目かの斬り下ろしを受け流したロランは、アンロックユニットからビームを放って鈴を吹き飛ばし、甲龍のシールドエネルギーを大きく削る。
一夏戦でも見せたカウンターだが、アンロックユニットからの攻撃は予備動作が全く無いため読むのが難しく、更にビームは実弾兵器と違い、弾丸の装填音
もしないため余計に読む事が出来ないのだ。


「此れが君に捧げる葬送歌だ。悲鳴のソプラノと、呻き声のアルトを私に聞かせておくれ。」


吹き飛んだ鈴に対して、ロランはこれまた一夏戦で見せたプラズマライフルとビーム砲による波状攻撃を仕掛けるが、一夏戦の時とは違い、ビーム砲は左右
で発射のタイミングをずらし、エネルギーチャージで生じる隙を略ゼロにしていた。
これにより面での制圧力こそ低下したモノの、ビーム砲を疑似連射出来るようになり、手数での制圧力は向上したと言えるだろう。
尤も、やられた方の鈴は堪ったものではない――ロランが遠距離波状攻撃を仕掛けて来た時は、癪ではあるが先の試合で一夏が見せた方法で攻略してや
れば良いと思っていたのに、狙っていた隙が殆どなくなってしまったのだから。
其れでも一夏ならば、僅かな隙を狙ってビームダガーを投擲しただろうが、大型の双天牙月では投擲するのにも時間が掛かる為、頼みの綱の攻略法を使う
事が出来ないのだ。
ならば龍砲でとも思うだろうが、圧縮空気の弾丸よりもビームの方が圧倒的に速いため、仮に龍砲でチャージを行っているビーム砲を狙ったとしても、着弾す
る前にビームが放たれ、圧縮空気の弾丸は消滅してしまう――つまり、間合いが離れた時点で、鈴はチェックメイトだったのだ。


「踊り狂って地獄に落ちると良いさ。」


プラズマライフルとビーム砲の波状攻撃を避けるのに精一杯な鈴に対し、ロランは冷酷にそう言うと、プラズマライフルをスナイパーシフトからアサルトシフトに
チェンジし、凄まじい連射で一気に鈴を追い詰めていく。
しかも、アサルトシフトのプラズマライフルは両手に装備してだ……DMC2のダンテの二丁サブマシンガンもビックリだね此れは。


「きゃあああ!!ちょ、こんな!!!」


凄まじい弾幕と、威力抜群のビーム砲の連射を完全に回避する事は出来ず、甲龍のシールドエネルギーはガリガリと削られて行くだけでなく、プラズマライフ
ルで龍砲は破壊され、ビーム砲によって腕部マニピュレータも消し飛ばされている……シールドエネルギーが残っているから試合は続いているが、誰が如何
みても、鈴はもう戦える状態ではなかった。


「一夏がやった分と合わせても、君が味わった屈辱は乱が味わった屈辱の半分にも満たないだろが……せめて最後に大輪の花を咲かせて散ると良い。」


トドメとばかりに、ロランはプラズマライフルを鈴の胸に向かって放って絶対防御を発動させてシールドエネルギーを空にする……頭部と同様に、絶対防御発
動によるシールドエネルギーの消費が最も大きい胸部にアサルトシフトのプラズマライフルを叩き込まれれば、あっという間にシールドエネルギーはエンプティ
ーになるってモンさ。


『甲龍、シールドエネルギーエンプティ。勝者、ロランツィーネ・ローランディフェルニィ!!』


「私と戦うには、美しさが足りなかったようだね。」


シールドエネルギーが尽きて機体が解除されてフィールドにへたり込む鈴に対して、ロランは其れだけ告げると、悠々とピットに戻って行った……乱から無理
やりクラス代表の座を奪い、大口を叩いた鈴は、全敗(一夏戦とロラン戦はパーフェクト負け)と言う無様極まりない結果を残す事になったのだった。


「後半の役目は果たした心算だが、アレで良かったかい一夏?」

「あぁ、充分だぜロラン。最高にスカッとする試合だった……見事だったぜ。」

「ふ、君にそう言って貰えたのならば上出来だな――其れは其れとして、君も勝てよ一夏?私に勝ったのだから、君には是非とも優勝してほしいからね。」

「言われるまでもねぇ……勝ってくるぜロラン。」

「君ならばそう言うと思ったよ一夏……ならば私は、君の最愛のパートナーである刀奈に、『一夏は必ず勝つ』と言っていたと伝えておこう。さすれば、彼女の
 応援にも熱が入るだろうし、熱気の入った刀奈のチアダンスを見れば、君の戦闘力も上がるだろう?」

「其れを見たら、俺の戦闘力は百万を超えるぜ……!」


ピットに戻って来たロランは、次の試合の為にピットで待機していた一夏と二、三、言葉を交わすとハイタッチをしてピットを後にする……一夏vs鈴戦の後とは
逆の状態だな此れは。
取り敢えず、ロランの提案を聞いた一夏は戦闘力が限界突破したらしかった……戦闘力百万超えるって、第二形態のフリーザ様ですか、そうですか。

因みに同じ頃、陽彩は『鈴を酷い目に遭わせた一夏はぶっ倒す』と息巻いていたのだが、其れは多分無理だと思うよ?チート特典があるモノの、今以上にな
る事が無い陽彩と、トレーニングをすればするだけ成長する一夏ではそもそもにして勝負にならねーんだからね。
見習い神の暇潰しでしかない陽彩と、神に溺愛された一夏では格が違うんだわ格が。分かり易く言うなら一夏は『青眼の白龍』で、陽彩は『ブルーアイド・シ
ルバーゾンビ』って所なんだわ。
詰る所、チートがあっても陽彩は一夏に勝つ事は出来ないって事になるんだが、陽彩はチートがあるから一夏に勝てると思ってるんだから救いようがない。
まぁ、精々真の主人公と自称オリ主の差ってモノをその身で味わうと良いさ。








――――――








そんな訳で始まったクラス対抗戦の最終試合である、男性IS操縦者同士の試合の一夏vs陽彩の試合は、観客の期待も大きく試合開始前からアリーナは熱
気に包まれ、特に四組の応援には熱が入っていた。
どれだけ熱が入っていたのかと言うと、三組のクラス代表であるロランが四組のチアガール衣装を纏って応援に参加する程にだ……チアガールは、チアダン
スで足を高く上げる事が多く、スカートの中が見える事が多いので、多くのチアガールは所謂『見せパン』を履いている場合が多いのだが、刀奈とロランはそ
うではなかったらしく、バッチリと下着を披露してしまっていた……刀奈は紐パンで、ロランはTバックとは、大分攻めてますなぁ。ってか、刀奈は一夏を誘惑す
る為って言う事で納得できるけど、ロランは何で其れをチョイスしたし。


「形が良くてむっちりとしたお尻は胸以上のセクシャルアピールポイントだからね。」


意味が分からん!刀奈共々、もっと女性としての慎みってモンを身に付けなさい!言うだけ徒労だとは思うけど、一応ね!!
まぁ、其れは其れとしてアリーナには銀龍騎を纏った一夏と、ガンダムエクシアを纏った陽彩の姿が……何方もフルスキンの機体であるだけではなく、何方も
近接戦闘型と言う、ある意味でのミラーマッチと言えるだろう。


「織斑……よくも鈴をやってくれたな?鈴をボロボロにした代償は払って貰うぜ?」

「はぁ?アイツが乱にした事に対する正当な制裁をしただけだぜ俺も、ロランもな。――そもそもにして、あのまな板が乱からクラス代表を奪い取るなんて事を
 しなければあんな目に遭う事はなかったんだぜ?
 全てはアイツの自業自得って奴だ。いや、この場合は因果応報か?」


陽彩は一夏が鈴をフルボッコにした事が気に入らなかったみたいだが、一夏は陽彩の言う事を適当に流しつつも、『鈴音が俺とロランにフルボッコにされたの
は自業自得だ、因果応報だ。』と言い放ち、ぶっちゃけ相手にしていない。ドライフルーツもビックリなドライな対応だ。


「テメ、調子こくなよこの野郎!
 クラス代表決定戦はマドカと楯無に手加減して貰って買って、今日のロラン戦は八百長で勝ったくせしやがって!鈴にも、卑怯な事して勝ったんだろ!!」

「何を見て、どう解釈したらそう言う結論に辿り着くんだか謎過ぎんだけどよ……てか、楯無って誰?若しかして、刀奈の事か?……ちょっと待て、何を如何し
 たら、刀奈が楯無になるんだ?」

「あ……え~とだな、相手に攻撃させずに勝つ事も出来る位強いから楯は必要無いから、楯無だ!」

「何となく納得出来る部分があるっちゃあるが、人の彼女に勝手なあだ名付けるなよ?しかも微妙に変だし。」


何とも的外れな事を言ってくれた陽彩に呆れる一夏だが、陽彩が言った『楯無』と言う名に反応し、其れで自分がミスった事に気付いた陽彩が、『楯無』の名
の理由を苦し紛れに説明し、其れに対して一夏が至極当然の事を返していた……確かに、楯無って名前は微妙に変な感じはするわな。
其れを言ったら、ISワールドの皆さん、特に日本人の方々は中々特殊な名前が多いんだけどね。『鷹月静寐』なんて、鬼の画数だしな。


「ゴホン……兎に角織斑、テメェは俺がぶっ倒す!」

「やってみな。ISバトルにおける年季の違いってモンを教えてやるぜ。」


若干締まらない部分もあったが、試合開始のコールと共にクラス対抗戦の最終戦である二人の男性IS操縦者によるバトルスタート!
先ずは陽彩がイグニッションブーストで接近し、右腕のGNソードで斬りかかると、一夏は真上に飛翔して其れを回避し、ビームダガーを投擲する。其れも左右
の手で一本ずつではなく、両手の指の間にビームダガーを挟んで、一気に八本も投擲して来たのだ。


「んな、DIO様かよ!だが、こんな物!」


陽彩はGNソードでビームダガーを弾き落とすと、一旦GNソードを折りたたみ、複合兵装としてGNソードに搭載されているGNビームライフルを一夏に放つ。
エクシアのGNビームライフルは、小型であるために威力と有効射程にやや難があるモノの、小型で取り回しが良く連射性能が高く、短い間隔でビームを放つ
事が出来るため、あまり距離が離れていない場合、回避は難しいだろう。


「狙いは悪くないが、甘いぜ。」


だが、なんと一夏は自機のメイン武装である『龍刀・朧』の刀身にビームを纏わせると、陽彩が放ったビームを全て斬り飛ばして見せた!
ロラン戦ではプラズマライフルの弾を斬って見せたが、弾丸よりも更に速いビームを斬り飛ばすって、一体どうなってんのコイツ?でもって、一夏が出来るなら
千冬さんも出来る訳で……姉弟揃って人間辞めてんなぁ!?円夏は斬り飛ばす事は出来なくても、撃ち落とす事位はやりそうだし!


「ビ、ビームを斬っただとぉ!?」

「そんな驚く事でもないだろ?訓練すれば誰でも出来るぜこんなモン……多分だけどな。」


いや、そんなの多分アンタとアンタの姉だけだと思うよ?
実際、観客の多くはプラズマライフルの弾を斬った時以上に驚いてるからね――まぁ、試合中に驚愕して一瞬とは言え動きを止めてしまった陽彩は、誰がどう
見てもアウトだろう。
格闘技系の競技は『相手の動きが確実に一秒止まれば決定打を与える事が出来る』と言われるが、ISバトルの場合は生身の反応速度を超える超反応が可
能な為、動きが止まった時間が一秒に満たなくとも試合を決める事が可能なのだ。
実際に現役時代の千冬は、一秒にも満たない相手の隙に零落白夜を叩き込んで勝った試合は少なくないのだから。
なので、一夏もその僅かな隙を見逃さずにイグニッションブーストを使って急降下し、急降下の落下速度も加わった兜割を陽彩に叩き込む!決まれば頭部へ
の攻撃によって絶対防御が発動し、大きくシールドエネルギーを削れるだろう。


「ぐ……喰らうかよ!」


その必殺級の一撃を、陽彩は何とか回避し、掠る程度に留めるが、一夏の攻撃は其れで終わらず、着地と同時に龍刀・朧の峰の部分を拳でカチ上げて斬り
上げ攻撃を繰り出す……兜割からの斬り上げの連続技、るろ剣の『龍槌翔閃』だこれ。


「ち、速い!」


此の斬り上げも、咄嗟にGNソードを展開して防いだ陽彩だったが、一夏の猛攻は止まらない。
袈裟切り、払い斬り、逆袈裟二連斬からの連続突きを繰り出したと思えば、次の瞬間には鞘での片手居合で殴りかかり、そのまま刀と鞘の疑似二刀流で攻
め続け、時には蹴りや拳も繰り出して陽彩に反撃する暇を与えない。


「(な、何だよ……何なんだよ此れは!俺が、防戦一方……防御するのがやっとで手も足も出ねぇだと!?……コイツ、本当に強いってのかよ!?)」


何とか防御している陽彩は、一夏の強さを実際にその身で感じて戦慄していた。
『原作の一夏なら、チートで楽勝!』と思っていたのに、蓋を開けてみたら自分がマッタク持って手も足も出ない状態になっているのだ……此処で普通は、一
夏の実力を認めるモノなのだろうが、チート貰って自分がオリ主だと考えてる陽彩は頑として其れを認めたくない……認めたくないのは、若さ故の過ちだけに
しておけ?
兎に角、陽彩は防戦一方になり、ガリガリとシールドエネルギーを削られている状況だ……エクシアが『トランザム』を使えればこの状況を打開する事が出来
たかも知れないが、今のエクシアはトランザムが解禁されていないので状況の打開は絶望的だろう。


「俺の事をぶっ倒すとか大口叩いた割に、この程度かよ……ガッカリだぜ。」


陽彩の実力を見抜いた一夏は、強烈な蹴り上げを陽彩に喰らわせて吹き飛ばすと、其れを追う様に飛び蹴りを突き刺し、更に右腕で殴りつけてぶっ飛ばし、
イグニッションブーストで先回りして回し蹴りを叩き込むと、陽彩の足首を掴んで急降下してアリーナの床に叩き付ける!
その衝撃は凄まじく、アリーナの床にクレーターが出来るレベルだ――でもって、此れだけの衝撃を喰らったエクシアはシールドエネルギーが激減して、残量
は10%を切っていた。


「クソが……俺が、俺がお前に負けるなんて事が、ある筈がないんだーーー!!」


大ダメージを受けつつも、自分こそがこの世界の主人公であると信じて疑わない陽彩は、GNソードを突き出して一夏に突進するも、そんな単純な攻撃を喰ら
う一夏ではない。


「現実を見ろよ。」


其れだけ言うと、龍刀・朧を一閃し、GNソードを根元から斬り落として使用不能にし、更に顎に膝を叩き込んで脳を揺らして行動不能状態にすると、一度納刀
して向き合い……そして!


「終わりだ!」


超神速の居合が炸裂し、一夏がスタイリッシュに納刀すると同時にエクシアのシールドエネルギーがゼロになって機体が強制解除され、ISスーツ姿の陽彩が
ガックリと膝を付く。


『正義陽彩、シールドエネルギーエンプティ!勝者、織斑一夏!』


「マッタク持ってなってねぇ、俺と戦ってその程度で済んだのは奇跡だな。修行して出直して来な。」


アナウンスが一夏の勝利を告げ、一夏は右の拳を高々と上げてガッツポーズを決める……って、それはKOF95の京の勝利画面のセリフのオマージュですよ
ね?……確りとネタはぶっこむ訳ね。
まぁ、パーフェクト勝ちしちゃったんだから、そう言いたくなるのも分かるけど。
何にしても此れでクラス対抗戦は、一夏が全勝優勝を決めて終了となった――ロランと陽彩は、共に一勝一敗一分けと言う結果だったのだが、ロランは一夏
に対して其れなりのダメージを与えたのに対し、陽彩はパーフェクト負けだった事が考慮され、二位はロランに決定した。
此れにより一位には賞品である『学食スウィーツフリーパス券』が贈与され、二位の三組には『学食50%割引券』が贈与され大会は幕を閉じた――一夏とロ
ランの評価は、此れにより右肩上がりとなり、逆に全敗の鈴の評価は一気に没落したのだった。


「乱、お前のが受けた屈辱と無念、アイツに返してやったぜ。」

「アレくらいで良かったかな乱?」

「充分よ!ありがとう、一夏、ロラン!」


クラス対抗戦当日は土曜だったので午後は、三組と四組が合同で『クラス対抗戦、一夏君優勝&ロランさん準優勝祝賀パーティ』が食堂で開催され、一夏と
ロランは乱に『アレくらいで良かったか?』と聞き、乱は『充分だ』と答えて礼を言った……まぁ、一夏もロランも鈴をこれでもかって言う位にボッコボコのフルボ
ッコにしたからね?――『ダメージクラッシュシステム』がある『龍虎の拳2』だったら、鈴の顔はブクブクに腫れ上がってたと思うぜマジで。


「お疲れ様、一夏。とってもカッコ良かったよ。思わず惚れ直しちゃったわ♡」

「刀奈が見てる前で無様な試合は出来ないからな……でもって、お前のチアガール姿は反則的に可愛かったぜ刀奈。紐パンも、ちょっとエッチで良いと思い
 ました――って作文かーい!」


でもって、一夏と刀奈のイチャラブはもう突っ込み不要だろう……すっごくナチュラルに、刀奈は一夏の膝の上に座って、ワインに見立てたブドウジュースで満
たされたグラスで乾杯してるのがめっちゃ絵になるからね。
此の宴は大いに盛り上がり、最終的には寮の就寝時間が来るまで続いたってんだから、三組と四組の生徒のバイタリティ、は恐るべしだ。
因みに此の宴でも、カラオケ大会が開催されたのだが、此処でも一夏と刀奈のペアが『夕陽と月~優しい人へ~ドラマVer』を熱唱して(刀奈が木恵パートで
一夏が庵パート)拍手喝采を得るだけでなく、此れを撮影していた生徒がSNSにアップした事で、暫しネットでの話題になったのだった。
でもってもう一つ、刀奈が『優勝のご褒美』として、一夏にキスをして、其れを見た女子達が黄色い悲鳴を上げ、更に新聞部の黛薫子が其れを激写しており、
翌日の学園新聞には、一夏と刀奈のキスシーンが一面に載ってしまった訳だが、多くの生徒からは『一夏×刀奈は正義』との声が上がったのが幸いして、そ
れ程問題にはならなかった。
千冬さんが、『織斑兄と更識姉は交際関係にありますが其れに何か問題が?』って言ったのも大きかったと思うけどね……取り敢えず、一夏と刀奈が学園公
認のカップルになった事だけは間違い無いだろう。








――――――








食堂で祝賀会が行わていた頃、IS学園の遥か上空にはフリーダムとジャスティスの姿が――生体ISである夏姫と刀奈の姿があった。


「襲撃者があるかもと思って待機していけど、何もなかったわね夏姫?」

「束さんが、一夏サイドに居る上に、女権団や亡国企業みたいな打っ飛んだ連中が存在してないのなら、IS学園が襲撃される事はないって事か……まぁ、ソ
 コソコ平和で良い世界だよ此処は。」

「それは、そうね……絶対天敵がいる世界とか、マジで地獄だったからね。」

「アレは、思い出したくないな。」


不死であるが故、此れまで色々な世界を見て来たのだろうが、其の中では思い出したくない様な世界もあったのだろう……だが、だからこそ此の世界は平
和であると思っていた。
白騎士事件は起きず、ISは兵器になっていない時点で充分平和だけどな。


「ところで、二人目の彼は如何するの?」

「暫くは静観だが……此方の一夏と刀奈でもどうしようもない事をしてくれたその時は、強制排除一択さ――尤も、其処で機体が奴を見限る可能性も否定は
 出来ないがな。」

「つまりなるようになれか……まぁ、私達なら大概何とかなると思うけどね。」

「アタシとお前が力を合わせたら、其れは正に無敵だよ。」


其れだけ言うと、夏姫と刀奈は夜のデートに洒落込んだのだった……月が輝く夜空で、フリーダムとジャスティスの飛行機能だけを部分展開して、天上の舞
を披露した夏姫と刀奈は、天女のようであった。





因みに同じ頃、陽彩は自室で、『俺が負ける筈がない!俺はオリ主なんだ!』と繰り返していたとか居ないとか……もしも繰り返していたのならば、結構ヤバ
イレベルで精神がぶっ壊れてる可能性があるのだが、ぶつぶつ言いながらも拳を握る力があるので、まだ本当にぶっ壊れてはいないんだろう。
ま、精々頑張り給え、自称オリ主君。











 To Be Continued 







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