ある日の日曜日、我等が主人公である織斑一夏は、寮の廊下に立っていた――別に寮のルールを違反した罰として廊下に立たされてるって事じゃなく、同居
人の刀奈から『着替えるから少し廊下に出てて』と言われて廊下に出ているだけだ。
廊下で待たされると言うのは暇を持て余すものだが、一夏はスマホのゲームで暇潰しをしていたので、其処まで暇を持て余す事は無かった所か、遊戯王デュ
エルリンクスで五連勝してたってんだからハンパないわ。因みに一夏の使用デッキは、カオスMAX軸の青眼……うわぁ、割とガチだ。


「一夏、入って良いわよ。」


『粉砕!玉砕!!大喝采!!!』と言わんばかりのデュエルを展開していた一夏だが、室内から刀奈が『入って良いわよ』と言って来たので、巨大化を装備し
て攻撃力8000になったカオスMAXで守備表示のおじゃまキングを粉砕してから扉を開けると……


「おかえりなさいませ、ご主人様。」


其処には完全無滅のメイドが居た。
其れもアキバのメイド喫茶とかに居るミニスカとかちょっと露出度の高いメイド服を纏った萌えメイドではなく、ロングスカートのエプロンドレスと言う、王道の英
国メイドだぜ!此れは破壊力抜群だっての!
一夏も、ちょっとフリーズしてるからね。


「一夏?……若しかして、似合ってなかった?」

「いや、そんな事はねぇって!……寧ろ似合い過ぎて、可愛くて言葉を失っちまったんだよ……正統メイドの刀奈が此処まで可愛いとか普通に反則だろ!!
 刀奈の事だから露出度の高いエロメイドで来るんじゃないかと思ってただけに、正統メイドは破壊力がハンパなかったぜ!!」


要するに見惚れたって事ですよね。まぁ、刀奈のメイド服姿は、エクゾディア級(攻撃力∞)だから見惚れるなってのが無理なんですけどね――テメェの彼女が
正統的なメイド服を着てくれるとか、マジで破壊力抜群だからね。


「そう、なら良かったわ……其れでは、本日はまず何をなさいますか御主人様?」

「そうだな……」


先日の陽彩との試合に勝ったご褒美である刀奈のメイドさんなのだが、この日は一夏も刀奈も、メイドプレイを思い切り楽しんだ――とは言っても、一夏は決し
てR-18な事は要求しなかったし、刀奈もそっち方面での奉仕を申し出る事は無かったけどね。
まぁ、簡単なマッサージや膝枕程度の事は普通にやってくれた上に、お茶の時間には刀奈がお手製の焼き菓子を仕込んで振舞ったってんだから、極めて健
全なメイドプレイだったと言えよう。

尚この日は寮室だけでなく、何処に行く時でも刀奈はメイド服だったので、クラスメイトから『織斑君ってメイドさん好きなの?』と聞かれたりもしたが、その際に
一夏は『メイドさんが嫌いな野郎なんて多分存在しない。存在してるとしたら、其れは男なのにIS動かしちゃった俺位のレアケース』と言う、謎回答をしたとかし
ないとか。……取り敢えず、美人のメイドさんは最高です。


「今日は楽しかったぜ刀奈……ありがとな。」

「楽しんでもらえたのなら、私もメイドになった甲斐があったわ……ん……」


でもって、このメイドデイは、ベッドに入る前に一夏が刀奈にキスを落としてターンエンド!……最後の最後でイケメンを発動して、刀奈との愛を更に深く強いモ
ノにしたってんだから大したもんですマジで。
でもってこの日は二人一緒のベッドで寝ましたとさ……刀奈は一夏の胸に頭を預け、一夏はその刀奈を優しく抱きしめてやってたとか、究極の全年齢なLove
全開だった訳か。健全な愛はホント素晴らしいですな。
なので、メイドプレイと聞いて不健全な妄想をした奴には、最高神にして『攻撃力と守備力が、生贄召喚の際に生贄にしたモンスターの攻撃力と守備力の夫々
を合計した数値になる翼神竜』であるラーのお仕置きが待っているので覚悟しておくように。










夏と刀と無限の空 Episode10
GW其の一~千冬のデートの日~』










さて、クラス対抗戦から時は進んで、世間は今週の中頃から『ゴールデンウィーク』と呼ばれる大型連休に突入しようとしていた。
この大型連休は日本独自のモノであるのだが、IS学園の日程は日本のカレンダーを基準にしているので、休日なんかも日本の其れと同じであり、普通にこの
大型連休は適応される訳だ。
なので当然、生徒達はゴールデンウィークの予定を立ててる訳だ。
全寮制のIS学園では、基本的に学園内で過ごす事になる訳だから、偶の連休ぐらいは学園の外に出て思い切り羽を伸ばしたいって考えるのは当然の事って
言えるからね?IS学園の生徒だってまだ高校生なんだから、思い切り遊びたい年頃だしな。


「ロラン達はゴールデンウィークは如何するんだ?やっぱり一度帰国するのか?」

「いや、私は帰国する予定はないよ。
 国家代表故に、国へ報告すべき事はあるけれど、其れはオンラインのリモートで済ませられるし、機体の整備に関しても本国の方から整備スタッフが学園に
 派遣されているから問題ないしね。」

「アタシもロランと同じね。って言うか、ヴィシュヌとグリフィンも同じでしょ?」

「そうですね、私も大体そんな感じです。」

「私もそうだね。って言うか乱、私の方が年上なんだから呼び捨てにしないの。私の事は『お姉ちゃん』と呼びなさいって。」

「其れは無理……其れってアタシが昔鈴の事を呼んでたのと同じだから。グリフィンには、あんな人の事考えないDQNになってほしくないから無理!!」

「「「「「「「「「あ~~~…………」」」」」」」」」


一夏達もゴールデンウィークの予定に付いて話をしていたみたいだ……乱よ、お前の言いたい事は何となく分かる気がする。過去に自分が『お姉ちゃん』と呼
んでいた相手が、究極最悪のDQNになった現実を見てしまっては、仲の良い年上の友達を『お姉ちゃん』と呼ぶのは抵抗があるわな、うん。
クラス対抗戦以来、一夏は刀奈、円夏、簪以外に、乱、ロラン、ヴィシュヌ、グリフィン、コメット姉妹とつるむ事が多くなっていた(時々レインや夏姫も加わる)。
乱とロランはクラス対抗戦の事があり、縁が繋がっていたのだが、他は特に何かした訳ではないのに何時の間にかこうなっていたのだが、此れも一夏の人柄
が成せるモノなのかもしれない。
国家代表を凌駕する実力を持ちながらも其れを鼻に掛ける事はなく、謙虚にストイックに己を鍛えている様を見れば、そりゃ人を惹き付けるってモンでしょう?
実際に一夏のストイックな姿勢に触発されて、『自分も負けてられない』と思って自己研鑽に励むようになった生徒だって少なくないからね――乱達の様な実
力ある生徒が集まるのも当然の事だと言えるだろう。
そして、其れが更に一夏の評価を高める事にも繋がっていたのだが、其れも当然と言えるだろう……だって、一夏の周りに居るのは恋人の刀奈を筆頭に、一
線級の実力者なのだから。……一応比較対象として、陽彩の周りに居るのは実力が『お前本当に代表候補生か?』なイギリスと中国の代表候補生と、『篠ノ
之束の妹』と言う理由でIS学園に放り込まれたIS適性『C』の掃除用具なのを考えると、その差は歴然ですねはい。


「ファニールちゃんとオニールちゃんはゴールデンウィークは如何するの?」

「アタシ達は一度カナダに帰るわ。
 国への報告とか機体の整備なんかは乱達と同じなんだけど、事務所の方がゴールデンウィークに合わせてライブイベント組んで来たからね。」

「ライブはYou Tubeでも動画配信するから、是非見てみてねお兄ちゃん♪」

「おう、楽しみにしてるぜ。」


乱、ロラン、ヴィシュヌ、グリフィンが帰国せずに学園に残るのに対し、コメット姉妹は所属事務所がライブイベントを組んだために帰国するようだが、其れは仕
方ないだろう。代表候補生ってだけじゃなくアイドルであるのならば、ファンは大事にしないとだからね。
取り敢えず、ゴールデンウィークは夫々充実した日々を過ごす事が出来そうだ。








――――――








そんな訳でゴールデンウィークに突入した訳だが、この大型連休の予定を立てていたのは生徒だけでなく、教師もまた然りだ――この大型連休中も学園島に
缶詰とか普通に堪ったもんじゃないからねマジで。
教員諸氏も、夫々予定を立て、旅行やレジャーを楽しんでるって訳なんだが、ゴールデンウィークの初日、世界最強のブリュンヒルデである千冬は羽田空港の
国際線ターミナルのロビーに居た。


「(マッタク、久しぶりに連絡を寄越したかと思えば、『ゴールデンウィークには日本に戻るから、空港で待っててくれ』とはな……何処までも自由な奴だ。)」


理由は簡単、ゴールデンウィークに合わせて帰国すると言って来た恋人の稼津斗を待っているのだ。
千冬の恋人である稼津斗は、第二回モンド・グロッソの際に起きた一夏と刀奈を誘拐した犯人達を素手で滅殺、抹殺、瞬獄殺した人物であり、ISを装備した相
手を生身で圧倒出来る千冬をも上回る戦闘力を備えたリアル超サイヤ人である。
なんやかんやで、交際する事になった稼津斗と千冬なのだが、稼津斗が『俺より強い奴に会いに行く』と、どこぞの永遠の挑戦者みたいに、強者との戦いを求
めて世界中を転々としてるために中々会う機会がなかったりするのだ。
とは言っても、誕生日とかにはメッセージやプレゼントが届くので、千冬は其れ程不満は無かったのだが、矢張り会う機会が少ない事に寂しさを感じてたらしく
て、久々の稼津斗との逢瀬を楽しみにしていた……世界最強も、乙女ですな。

程なくして、ゲートから大きなザックを右手で持って肩掛けにした黒目黒髪で左目の下から頬に掛けて大きな傷跡がある男が出て来た……そう、千冬の恋人
である稼津斗だ。
ジーパンや革ジャンに新たな傷が見える辺り、可成り厳しい修行の旅を行って来たのだろう。


「久しぶりだな千冬さん、元気だったか?」

「…………」


稼津斗は待っていてくれた千冬に近付き、言葉をかけるが、千冬は何も言わずに腕を組み――そして次の瞬間、稼津斗に向かって鋭いハイキックを放った!
予想外の事ではあったが、稼津斗は其れを冷静に躱すが、ハイキックを躱された千冬は蹴り足をそのまま振り下ろして雷光の踵落としを炸裂させる!!多分
しゃがみガード不能の中段技ですね此れは。
其れも稼津斗は見事にガードすると同時に腕を伸ばして千冬の胸倉を掴むと……


「超・山嵐!」


右腕一本で千冬を放り投げる!腕一本で人間一人を投げ飛ばせるとか普通にスゲェわ。
まぁ、投げられた千冬も千冬で、空中で体勢を立て直して見事な着地を決めて見せてくれたのだから、こっちも大概だと思うが……何だ此の『人類最強カップ
ル』は?


「ふ、中々に派手な出迎えだな千冬さん?」

「派手なのは嫌いではないだろう?……それにしても、こうも簡単に対処されてしまうとは、また腕を上げたなカヅよ?まさか、投げ付けられるとは思わなかっ
 たよ。お前こそが、真の世界最強なんじゃないか?」

「如何だろうな?俺の拳はまだ未熟だからな……世界最強を名乗るにはまだ値しない筈さ。――其れは其れとして、ただいま千冬さん。」

「あぁ、おかえりカヅ。」


そんな攻防をした挙げ句に、千冬さんは稼津斗の胸に飛び込んで、稼津斗も其れを確りと抱擁したってんだから、この最強カップルの常識ってのは色々とアレ
なのかもしれない。『アレって何?』とかは突っ込んではいけない!アレはアレなのだ!
因みに、先程の攻防は確りと空港のスタッフに通報されており、二人揃って仲良くお叱りを受ける事になった……まぁ、空港のロビーであんな事すりゃ、そら叱
られるわな普通に。


「其れで千冬さん、今日の予定は?」

「特にない。と言うか、お前と会うのは久しぶりなので、ノープランのデートと洒落込もうかと思ってな。どんなデートにしてくれるかはお前に一存するぞカヅ?」

「そりゃ、責任重大だな。」


ってな訳で、本日の千冬さんの予定は稼津斗とのデートになりました。デートの内容を稼津斗に一任する辺り、会えなかった時間の寂しさを千冬さんなりに清
算したかったって事なんだろうね、知らんけど。
ともあれ稼津斗は、即興でデートプランを考える羽目に――可成りの難題かもしれないけど、まぁ、頑張れや。








――――――








移動の足は千冬が事前に借りたレンタカーだ。
空港までは当然千冬が運転して来たが、空港からは稼津斗の運転だ――千冬が運転しても良かったのだが、稼津斗に『デート中は俺に運転させて貰っても
良いか?隣に彼女を乗せて運転するのが秘かな夢だったんだ。』と言われ、運転を任せる事にしたのだ。……『ヒソカな夢』って書くとなんかヤバそうだね。


「其れで、今回は何処で修業して来たんだお前は?」

「今回は主に北米とカナダだな。
 総合格闘技の大会や、ストリートファイトの大会、アンダーグラウンドの地下格闘技とか色々とやってきた――メジャーな所だと、WWEのリングにマスクをして
 『Mr.KARATE』のリングネームで上がったりもしたな。」

「そのマスクは、天狗を模したモノか?」

「大正解。」


車内での会話は、稼津斗の武者修行に関するモノがメインになってるみたいだが、地下格闘技は流石にヤバくないか?アレは割と何でもありの世界で、割と
マジに人が死ぬ事も少なくないんだけどねぇ?……千冬よりも強い稼津斗には、そんなこたぁ要らぬ心配なんでしょうな。


「後はアレだ、地下格闘技の会場に『地上最強生物』とか名乗る、黒い服着た赤毛のオッサンが乱入して来たから、取り敢えず返り討ちにして退場して貰った
 事があったな。」

「『地上最強生物』を自称するのは如何かと思うが、其れを返り討ちにしてしまったお前は、矢張り世界最強なんじゃないか?」

「いや、マダマダだって……香港の『伝説の暗殺者』の爺さんには、まだ一度も勝ってないからな?」


で、なんか範馬勇次郎っぽい奴を返り討ちにしてるらしかった……本気でコイツ何者だ?そんでもって、其の稼津斗が一度も勝てない香港の伝説の暗殺者と
やらはマジで人間なのか疑いたくなるわ。
まぁ、そんな事を話しながらドライブを楽しみ、やって来たのはボーリング場。稼津斗も千冬も身体を動かすのが好きなので、此れは良いチョイスと言えよう。
早速受付で登録を済ますと、シューズとボールを借りてゲームスタート。
登録名は稼津斗が『カヅ』で、千冬が『フユ』……ネタに走らずに無難に行ったみたいだな。
だが、登録名は無難でも、稼津斗も千冬も身体能力が常人の其れを遥かに上回っているので、普通のボーリングになる筈もなく、千冬が球に超ハイスピード
ドライブスピンをかけてレーンに焦げ跡を付けたかと思えば、稼津斗は球を思いっきりぶん投げて、床に付く事なくピンにブチ当ててストライクショット!!
二人揃って、連続ストライクを出し続けたのだが、その度にピンが粉々になってるってんだから、恐ろしい事この上ない……って言うか、ボーリングのピンが砕
けるってドンだけよ?
結局二人仲良く三百点のパーフェクトゲームを達成したのだが、二ゲーム目を始めようとした所で、店側から『此れ以上壊されては営業できませんので勘弁し
て下さいマジで』との泣きが入り、仕方なくボーリングを切り上げ、併設されているビリヤード台でビリヤードを楽しむ事にした。
まぁ、其のビリヤードでも稼津斗が見事なジャンプショットを披露したり、千冬が『もう打てる人は居ない』と言われる伝説のショットの『フォックストロット』を披露
して注目を集めてはいたのだけれどね。
尚、此のビリヤードを動画に撮っていたギャラリーが居たらしく、後日『超絶ハスラー現る』のタイトルでようつべにアップされ、凄い再生数になったりするのであ
った……まぁ、超絶技巧満載の動画だった訳だから其れも納得だけどね。








――――――








ボーリングとビリヤードを楽しんだ稼津斗と千冬は、丁度昼時になったのでボーリング場のすぐ近くに有る自然公園にやって来ていた。
稼津斗としては、ランチは何処かの食堂やレストランで済まそうかと考えていたのだが、千冬が『不出来ではあるが弁当を作って来た』と言ったので、此処をラ
ンチタイムの場所に選んだのだ。
公園内にあるベンチに腰掛け、テーブルに千冬が持って来たランチボックスを置き、その蓋をいざオープン!


「おぉ、旨そうだな?」

「見た目は、まぁ一夏も合格だと言ってくれたよ。」


千冬お手製の弁当は、おにぎりに唐揚げ、卵焼き、ポテトサラダと割と一般的なモノだが、夫々が見た目よく詰められているので外見的には物凄く美味しそう
に見える……そう、見た目は。
問題は味だろう……こう言っては何だが、千冬の家事能力は壊滅的で、掃除をすれば余計に散らかり、料理をすれば食材がダークマターになると言うレベル
だったのだ。
稼津斗と交際を始めてからは、一夏の指導の下で大分改善されて来たのだが、其れでも一抹の不安は拭えねぇってもんですよ――流石にイギリスの代表候
補生みたいな、『見た目は完璧中身は毒物』って事だけはないと思うけどさ。


「それじゃあ、いただきます!」


そう言うと稼津斗はおにぎりに齧り付くと、おかず類にも箸を伸ばして次々に口に運んでいく。……この食べっぷりを見る限り、トンデモナイ毒物と言う事はなさ
そうだ。毒物レベルだったら一口食べた時点で完全KOされてるからね。


「ど、如何だ?」

「ん~~~……率直な感想を言わせて貰うなら、手放しで『旨い』と言えるレベルじゃないけど、文句を言わずに食べられるレベルではあるかな?特別旨いと
 は言えないけど、千冬さんが一生懸命作ってくれた事は分かったから、其れだけで俺にとっては最高の弁当だったよ。」

「そうか……ならば、今度は手放しで旨いと言って貰えるように、更に精進しなくてはだな。」


味に関しては厳しめの評価だったが、其れでも『最高の弁当だった』と言われれば千冬とて悪い気分はしないだろう――寧ろ、その評価がより精進しなくては
と思わせたのだから、次はきっともっとレベルアップしている事だろう。


「そう言えばカヅ、お前の妹は元気か?」

「ん?あぁ、元気みたいだぜ。
 茨城県の大洗で元気に戦車を乗り回してるよ……二代目の『大洗の軍神』を名乗る日も近いかもな。」


って、ちょっと待って?稼津斗さんや、アンタの妹って若しかしなくても『澤梓』ですか?……フルネームが澤稼津斗って時点で、若しかしたらとは思ってたんだ
けど、マジだったんかい……って言うか、戦車道があるのねこの世界は。ISとガルパンが適度に融合してる世界……うん、取り敢えず深く考えない様にしてお
こう。考え始めたらキリがないからね。








――――――








公園でのランチ後に稼津斗と千冬がやって来たのは繁華街のゲームセンターだ。
昨今はアミューズメントゲームが多くなり、筐体型のゲームがめっきり減ってしまったゲームセンターだが、このゲームセンターは対戦型の格闘ゲーム、ガンコ
ンを使ったシューティングゲーム、パンチングマシンに腕相撲ゲームと、割とレトロなゲームが揃っている珍しいゲームセンターだった。
それだけに、コアなゲーセンマニアには穴場として大人気だったりするのだが、其処に世界的にも有名な千冬がやって来たのだから、店内は大賑わいだ。


「アレって織斑千冬だよな?一緒に居る奴は、もしかして彼氏か?」

「って事はデートか?……てか織斑千冬の彼氏って、ドンだけだっての……恐らく物凄く強いんだろうなぁ……」


そんな事には気も留めず、先ずは千冬がパンチングマシーンに挑戦だ。――自然と周囲に人だかりが出来るのは仕方ないだろう。世界最強と言われる千冬
のパンチ力がドレだけなのかってのは誰もが気になる事なのだろうから。
ギャラリーが一体どれだけの記録が出るのかと、固唾を飲んで見守る中、千冬はおもむろに胸元に手を伸ばすと、胸元から出席簿を取り出した!って、如何し
て出席簿!?其れ以前にどうやって入れてたのか!?


「ふん!」


でもって、其の出席簿でパンチングマシーンをぶっ叩いて……出た記録は、メモリの針の限界である300kg!つまり、千冬の出席簿アタックは、超一流のプロ
レスラーのウェスタンラリアットに匹敵する訳であり、此れを喰らった生徒が感じた激痛は相当なモノだろう――って言うかそんな一撃を喰らった生徒は頭蓋骨
陥没で即してるわな……一応は手加減してるって事なんだろうな多分。


「しゅ、出席簿でぶっ叩いて300kg……マジかよ!!」

「ねぇ、彼氏さんの方が腕相撲ゲームに挑戦してるわよ?それも、マシンの方が最大のパワーを出す横綱コースで!」


千冬がパンチングマシーンでギャラリーの度肝を抜いた後で、今度は稼津斗が腕相撲マシーンに挑戦していた――其れも、マシーンの出力が最大になる『横
綱』コースにだ。……因みにこの横綱コースは、ガチでパワーが強く、過去には此れに挑戦して腕を骨折したプレイヤーも居たほどと言う、超高難易度の超絶
デンジャラスコースなのだ。



――ボキ!!



にも拘らず、ゲーム開始と同時に稼津斗は腕相撲マシーンの腕を肘の辺りから完全に折ってバラバラにしてしまったのだ……いやもうホントにドンだけパワー
が有り余ってんでしょうねコイツは?って言うか、マシンを壊すな?
弁償額は割と洒落にならんからな……尤も、千冬はモンド・グロッソの優勝賞金があるし、稼津斗も稼津斗でストリートファイトの大会や、地下格闘技でかなり
儲けていたので、弁償額はそれ程痛手ではなかったらしいが。
ま、流石に退店こそさせられなかったモノの、『実際に攻撃する要素があるゲームをするのは不味い』と思ったらしく、その後はレースゲームや格闘ゲーム、ダ
ンスゲーム、クレーンゲームなどを平和に楽しんだ――とは言っても、オンライン対戦型のレースゲームでは稼津斗も千冬も他のプレイヤーに大差を付けてワ
ンツーフィニッシュを決め、格闘ゲームでは稼津斗が所謂『魅せプ』をしてギャラリーを沸かせ、ダンスゲームでは千冬が最大難易度の曲を五曲連続ノーミスク
リアでギャラリーの度肝を抜いた。
クレーンゲームでは稼津斗がバケツサイズのインスタントラーメン(中に袋麺が大量に詰まってる奴)をゲットし、千冬は千冬で超巨大な『イカの姿揚げ』をゲッ
トし、夫々『次の旅の食糧ゲット』、『暫くは酒の肴に困らんな』と思っていたようだ……って言うか、あの巨大賞品ってどうやったらゲット出来るのか、ゲットした
人が居たらやり方教えてくださいマジで。


「偶にはゲーセンも良いもんだけど……折角だからデートの記念に撮ってくか千冬さん?」

「プリクラと言う奴か……学生時代にもやった事はなかったが、確かに記念として一度くらいはやっても良いかも知れないな。」


でもってゲーセンのラストは記念のプリクラ撮影に。
フレームはゴールデンウィーク限定の『遊戯王フレーム』にした……って、なんでプリクラの運営会社は其れを選択したし。明らかにJKターゲットのフレームじゃ
ないよね此れ?遊戯王好きの弟とかが居るJKならこのフレームを選択するかも知れないけど、普通のJKは此れは選択しな――くもないか?ブラマジ・ガール
とか霊使いみたいな可愛い系モンスターのフレームもあるみたいだからね。
因みに、稼津斗と千冬が選択したフレームは『青眼の究極竜vs超魔導剣士-ブラック・パラディン』だった……うん、良いチョイスだと思うよ其れは。








――――――








そんなこんなで楽しい時間はあっという間に過ぎてもう夜だ。
レンタカーを返却し、デートのラストは居酒屋での晩餐である――此の居酒屋だけは千冬が事前に予約していた店であり、決して大きな店ではないが、レトロ
な雰囲気が良い感じの店である。
ビールやワインなどはなく、酒類は日本酒のみと言う拘りがある隠れた名店と言った所だろう。


「「乾杯。」」


その店のカウンター席で、稼津斗と千冬は杯を合わせて乾杯し、二人だけの飲み会がスタート。
稼津斗も千冬も酒豪だが、酒の好みの飲み方は全く逆で、稼津斗が燗酒が好みなのに対し、千冬は冷やが好みだ――まぁ、だからと言って其れで衝突する
事はない。夫々が好みであると言うだけで、稼津斗は冷やが、千冬は燗酒が嫌いな訳じゃないからね。


「で、一夏と刀奈は最近如何なんだ?」

「一夏も更識姉も、円夏も更識妹も前にお前が会った時よりもずっと強くなっているぞ?
 特に一夏と更識姉のレベルアップには目を見張るモノがある――この調子でレベルアップしたら、今年中にあの二人は現役時代の私を抜いてしまうかもだ。
 姉としては、少々悔しい気もするが、教師としては嬉しい事だ……次の世代が確りと育っているのだからな。」

「そうか……機会があれば、一夏や刀奈と手合わせしたいモノだな。
 アイツ等はまだまだ強くなるからな……俺の必殺技を教えてやっても良いかも知れない。一夏には瞬獄殺を、刀奈には金剛獄滅斬をな。」

「……出来れば、殺意の波動でない技を頼む。」


稼津斗は『本日の刺身盛り合わせ』、千冬は『本日の串焼き・塩』を肴に飲みながら、雑談を楽しんでいるようだ。
本日の刺身盛り合わせは、真鯛、中トロ、平目、鯵で、本日の串焼き・塩は、せせり、鳥皮、ボン尻、ナンコツだったらしい……うん、此れは普通に日本酒がす
すむ最高の肴だわ。


「まぁ、一夏達は兎も角として、私が担任を務めているクラスは頭痛の種だ。
 二人目の男性IS操縦者である正義陽彩が居るだけでなく、イギリスの代表候補生であるセシリア・オルコットに、束の妹である篠ノ之箒が居るからな……其
 れだけでも、大変なのに、此の三人が毎日のように問題を起こしてくれるので正直ストレスが耐えん。」

「……何をしてるんだそいつ等は?」

「主に正義が問題なのだが、コイツは一夏達が新設した『古武術部』から入部拒否をされてからと言うモノ、一夏が部活に参加している時には必ずと言って良
 い程『道場破り』と称して、一夏に戦いを挑んでるんだ……時には篠ノ之箒やオルコットや凰鈴音を伴ってな。
 まぁ、その都度一夏が正義を返り討ちにし、取り巻きは更識姉が返り討ちにしているみたいなのだが、『織斑兄に余計なちょっかいを出すな』と言った所で馬
 耳東風だから、如何にも無謀な挑戦が止まらんのだ……大してレベルアップしていないにも拘らずな。」

「そいつは馬鹿か?何度も挑戦する姿勢そのものは評価するが、碌にレベルアップしてないのに再挑戦するとかアホだろ?
 俺だって香港の伝説の暗殺者の爺さんに何度も挑戦して、今のところ全敗してるが、新たな技なんかを会得してから挑むようにしてるってのに……碌にレベ
 ベルアップしてない状態で挑むってのは、相手に失礼極まりないだろうが。」

「お前はそう考えるのだろうが、どうにもアイツにはそう言った思考がないらしい……個人的な事を言うのならば即刻退学処分にしたいのだが、道場破り程度
 では退学理由にはならないのが悩みどころだ。」

「……教師って大変なんだな。」


其処から千冬の愚痴が始まったのだが、内容を聞けばそりゃ愚痴も言いたくなるわ……陽彩は、見学会で一夏にぼろ負けしたにもかかわらず、その後も『道
場破り』的に一夏に挑んでんだからね……勝てない相手に無策に挑むとかアホだろマジで。
因みに、IS学園の生徒の強さを分かり易く表すと、夏姫≧一夏、刀奈≧円夏、簪、乱、ロラン、ヴィシュヌ、グリフィン、レイン≧コメット姉妹>>>>超えられな
い壁>>>>陽彩、鈴、セシリア>>努力次第で超えられる壁>>一般生徒と言った感じだ……うん、生徒会長ハンパないわ。
此れを見る限り、如何考えても陽彩が一夏に勝つ事は出来ないだろう……最弱の火引弾では、最強の真・豪鬼に勝つ事は出来ないのだ。そもそもにして真
の主人公と自称オリ主では話にならないからね。


「愚痴でもなんでも付き合うから、今夜は飲もうぜ千冬さん。」

「ふ、そうだな……今夜はとことん付き合って貰うぞカヅ。」


とまぁ、こんな感じで稼津斗と千冬の飲み会は閉店まで続いたのだった。








――――――








んでもって翌朝、千冬はベッドの中で目を覚ましたのだが、其処はIS学園の寮官室でもなければ、実家の自室でもない知らない天井が目に入って来て、ボン
ヤリと『此処は何処だ?』と思っていたのだが、今の自分の姿を確認すると一気に頭が覚醒した。
だって、今の千冬は下着地一枚の状態だったのだから……上下揃って黒とは大人ですなぁ。


「!!?」

「起きたか千冬さん?」

「か、カヅ!?」

「……初めてだったんだな。」

「んな……うわぁ~~~~!!」


そして、椅子に腰かけている稼津斗と少しばかり言葉を交わして、真っ赤になって洗面所にすっ飛んで行ってしまった――自分が下着姿だっただけでなく、稼
津斗がジーパンで上半身は裸と言うのが可也効いたのかもしれない……まぁ、状況だけ見れば事後と取れるからね。


「……此れは、ちとからかい過ぎたかな?」


だが実際のところは、酔い潰れた千冬を稼津斗が介抱して最寄りのホテルにチェックインしただけで何もなかったのだ――千冬が下着姿だったのは、単純に
千冬が酔った勢いのまま衣服を脱ぎ散らしてベッドインしただけだからね。

尚、ネタ晴らしされた千冬は真っ赤になって稼津斗に攻撃を繰り出したのだが、稼津斗はその全てを見事に捌いて見せていた……うん、マジでこの二人は世
界最強カップルで間違い無いわ。
何にしても、千冬のゴールデンウィーク初日は、中々に良いモノだったと言えるだろう――尚、此のデートの一部始終を盗撮していた天災兎が、『カヅ君もスゴ
いね……色々と調べたい所だよ。』とヤバめの発言をしていたとかいないとか……まぁ、千冬をも凌駕する戦闘力を有する稼津斗に興味が湧くって言うのは、
ある意味で当然だったのも知れないけどね。――取り敢えず言える事は、千冬は彼氏も世界最強だった、此れに尽きるわマジで。









 To Be Continued 







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