遂にやって来ましたクラス対抗戦の日が!
二年生以降は専門クラスに分かれるので、クラス対抗戦は一年生限定のイベントなのだが、それでも今年は此れまでにない程の盛り上がりになっていたの
だが、其れも致し方ないだろう。
何せ今年クラス対抗戦に出場するのは『世界で二人しかいない男性IS操縦者』と、オランダの国家代表と中国の代表候補生であり、全員が専用機持ちなの
だから盛り上がるなってのが無理ってもんさ。
でもって、その盛り上がりの裏でトトカルチョが行われているのはある意味で当然であると言えるだろう――賭けるのが金銭ではなく、『学食の食券』なのが
高校生らしいとも言えるが。
因みに一番人気は一夏で、次いで陽彩、ロラン、鈴の順だ……矢張り、男性IS操縦者が人気が高いようだ。

その試合の組み合わせは以下の通りだ。


・第一試合:一組対二組
・第二試合:三組対四組
・第三試合:一組対三組
・第四試合:二組対四組
・第五試合:二組対三組
・最終試合:一組対四組



全六試合だが、最終戦に一夏vs陽彩を持って来た当たり、学園側も分かっていると言った所だろう――男性IS操縦者同士の戦いってのは矢張り注目の的
なのだから、其れをメインイベントにしない手はないのだ。


「(原作では言及されてなかったけど総当たりのリーグ戦か……都合がいいぜ、俺が三連勝して優勝すれば俺の地位は絶対になるからな!)」


電光掲示板に表示された対戦表を見て、陽彩は口元を歪めていた……総当たりのリーグ戦なら確実に一夏と戦う事が出来るから、其処で徹底的に叩きの
めして『俺TUEEEEEE』が出来ると考えたのだ。


「(ゴーレムが来る可能性はあるが、来たら来たで俺がぶっ倒せば良いだけだからな……乱入があろうとなかろうと、クラス対抗戦で俺はヒーローになる!
  そして、ヒーローになれば学園の女共は全部俺のモンだ……ハーレム最高だぜ!)」


そして野望が最低極まりないわマジで……ってか、ヒーローになった程度で学園の全女子がお前に惚れる筈が無かろうて。人には好みってモンがある訳な
んだからさ。
そんな脳内お花畑の陽彩だが、意外にもトレーニングはキッチリと行っていたようだ――まぁ本人はトレーニングなんぞ必要ないと考えていたのだが、『チー
トな俺がトレーニングとかしたら、マジ最強じゃね?』と言う考えがぱっと思いついたらしく、加えて、エクシアが二次移行して、『ダブルオーライザー』になるに
は稼働率を上げておく必要があると思ってトレーニングを行っていたみたいだ。
勿論、そのトレーニングは箒、セシリア、鈴が参加しようとしてカオスディメンションになりかけたが、其処は原作知識を持つ陽彩が巧く立ち回って、自身に最
大の利がありつつも、所謂一期ヒロインの思いを最大限に慮った事を行っていたのだ……ホント、攻略本片手にギャルゲープレイは楽だねぇ。
まぁ、一つだけ誤算があるとすれば、トレーニングしたところで今以上になる事にはなく、現状維持が精一杯って事だろう……精々チートの維持に励め。


「(ククク……此れからが俺のステージの始まりだぜ!)」


でもって、最低蛆虫クズ転生者の陽彩は、もう勝った気になって精神的にイキっていた……が、其れが盛大な負けフラグなんじゃないのかって言うのは突っ
込むだけ無駄ってもんだろう。
少なくとも、コイツが一夏に勝つ事だけは絶対に無いだろうさ――真の主人公と似非オリ主では、絶対に埋める事の出来ない差があるのだからね。










夏と刀と無限の空 Episode7
クラス対抗戦Ⅰ~魅せる試合と制裁~』










クラス対抗戦の開幕戦である一組と二組の試合は、此れは一組が制した――序盤は略互角の試合だったが、中盤以降は陽彩が衝撃砲を見切った上で鈴
に格闘戦を挑み、GNソードで連撃を繰り出して鈴を下したのだ。


「ちょっと待て!ダイジェストにしてもザックリすぎない此れ!?」


うん、ザックリしてるのは認めるけど、だからと言って訂正する気はない……ぶっちゃけ陽彩と鈴の試合なんぞ、特別面白いモノではなかったから、完全にス
ルーしても良いと思ってるからねマジで。
そもそもにして原作知識があるんだから、鈴の戦い方の癖なんかは知ってた筈でしょ?なのに、衝撃砲を見切るのが遅いってなモンよ。攻略本片手にRPG
プレイして戦闘で苦戦するのと同じ位のダメプレイだ此れ。……まぁ、妥協点として見えない砲弾を相手の視線だけで見切るってのは、実際にやるのは滅茶
苦茶難易度が高かったのかもしれんけど。……いや、チートがある時点で瞬殺してないとダメかやっぱり。

其れよりも注目すべきは次の試合だ。
次なる試合は、世界初の男性IS操縦者にして、クラス代表決定戦で日本代表である円夏と刀奈を倒した一夏と、オランダの代表にして国内では負け知らず
のロランの対決だ。
二人目の男性IS操縦者vs中国の代表候補生の試合よりも、世界初の男性IS操縦者vsオランダの国家代表の方が、そりゃ注目されるってモンさ――個人差
はあれど、国家代表と代表候補生では、その実力に雲泥の差があると言われているのだから。……其れを踏まえると、ロランと遣り合える実力がありながら
も代表候補生の乱、ヴィシュヌ、レインは、実力は申し分なくとも国の方で何らかの事情があるのだろう多分。

何にしてもアリーナの熱気は高まっているのだが、一夏が所属する四組と、ロランが所属する三組の熱気はより高いモノで――


「「「「「「「「「「ゴー、ゴー、一夏!ゴー、ゴー、一夏!ゴー、ゴー、レッツゴー、ファイト、オー!」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「ファイト、ロラン!ファイト、ロラン!レッツファイト、ゴー、ゴー、ビクトリー、ロラン!!」」」」」」」」」」


四組は刀奈、三組はヴィシュヌを中心としたチアガールの応援団が出現!しかもちゃんとチアリーダーの格好をしている上に、四組の衣装は日本国旗を、三
組の衣装はオランダ国旗を意識したデザインになってるんだから凝ってるなぁ?てか、何時の間に用意したんだこんな物!?
此れはアレですか?アニメや漫画で、応援に回った仲間がイキナリチアリーダーになってた的な事なんすかねぇ?……うーむ、謎だ。


「観客の熱は既に最高値に達しているようだが、百になっている観客の熱量を百二十まで引き上げるのが舞台に立つ役者の役目……私達には、彼女達を
 更に熱くさせてあげる必要があると言う訳だ。
 そして、この大舞台での私のパートナーが君であると言う事に、私は神に感謝しなければならないだろう。
 私を魅入らせる戦いを披露した現代のサムライ、織斑一夏……嗚呼、そのサムライの力、私に直に揮っておくれ。」

「期待されてるなら、其れには応えないとだよな?……何より、刀奈がチアガールになって応援してくれてんだ、全力のその先まで出して全勝しないと、彼氏
 の面目丸潰れってモンだからな。」


芝居がかった事を言うロランに対し、一夏は普段通りに返す――其れがまた、観客の多くには『情熱的なロランと、クールな一夏』に映ったらしく、またしても
熱気が増加したようだ。……コイツ等は人間電熱器なのだろうか?

そんな感じで盛り上がってるアリーナだが、ロランが専用機の『オーランディ・ブルーム』を展開してバトルフィールドに居るのに対し、一夏はISスーツ姿でバト
ルフィールドに居た……要するに、また何かネタをぶっこむ心算なのだろう。



――バッ!



次の瞬間、一夏は足を大きく開くと、身体の重心を右に向け、右の拳を頬の辺りで握り、左の拳を右の拳の下で握ると、右手を真っ直ぐ左肩の方に伸ばして
から右の腰の辺りに構え、其れと交差するように左腕を右肩の方に真っ直ぐ伸ばしてから大きく円を描くようにして腰の左側に持って行き、両腕を一気に身
体の右上に向かって真っ直ぐ伸ばす!


「変身!」


仮面ライダーブラックの変身だ此れ。刀奈がRXなら、一夏はブラックの方かい!とことんネタに走るなぁ?……その内、一夏と刀奈がフュージョンやポタラとか
の合体演出をするんじゃないかと思うわ――フュージョンはちょっと見たいけど。
まぁ、ネタはぶっこみながらも一夏は銀龍騎を起動して其の身に纏う。


「さてロラン、此処からの俺はちょっと強いぜ?」


でもって、機体起動後は超サイヤ人4の悟空かい!……その状態のお前はちょっとじゃなくて大分強いから其処んとこ自覚しとけ?


「そう来なくてはね……其れでは始めようじゃないか一夏、私と君による最高にして最強の、狂気のダンスパーティを!」

「先に踊り疲れてダウンってのだけは勘弁してくれよロラン!」


試合開始のブザーと同時に一夏は抜刀し、ロランはプラズマライフルを構えて高速移動を開始!
機体性能で言えば、一夏が完全近接戦闘型であるのに対し、ロランの機体は射撃戦よりのバランス型であり、其れだけを見ればオールラウンドな間合いで
戦う事が出来るロランに分があるだろう。
其れはロランも分かっているので、一夏を近づけさせまいとプラズマライフルを牽制と本命を混ぜた連射を行う――完全近接型の機体には、効果的な攻撃だ
と言える。
相手が並の近接戦闘型ならば此れで完封されていただろうが、どっこい一夏は並じゃねぇんだわ。一夏はうな丼で言うなら並みを遥かに超えた特上レベル
なんだぜ?


「確かに近接戦闘型には効果的な攻撃だが、甘いぜロラン!」


一夏はロランが放ったプラズマ弾を、刀身に纏わせたビームを飛ばす『飛ぶ斬撃』を連射して相殺する……しかもこの連射、一刀目を放った後は振り切った
腕が戻る惰力で放たれているのだから凄いとしか言えないっての。
一夏は完全に脱力した状態で、惰力のみで飛ぶ斬撃を連射しているのだから……中国拳法の究極奥義である『シャオリー』でも会得してんですかねこの野
郎は?会得してた所で全く問題は無いけどな!


「此れは、中々に情熱的だね一夏?」

「侍の真骨頂は刀での殺陣だからな……付き合って貰うぜロラン!」

「サムライの真骨頂か……望むところだ!」


プラズマ弾を飛ぶ斬撃で処理した一夏はイグニッションブーストでロランに肉薄し、其処から自身の領域である近接戦闘を展開する――ロランの機体はオー
ルラウンド機であり、ロラン自身も不得手間な合いのないオールラウンダーだが、其れだけにある分野に特化した機体や人物にはその特化分野では及ばな
い弱点がある。
ロランも自分の弱点は分かっているので、口では『望むところだ!』とは言ったモノの、一夏との近接戦闘は長く行うべきではないと考えていた。
クラス代表決定戦での戦いを見た時から一夏の近接戦闘能力の高さは分かっていたが、実際に一緒に訓練した事で、その凄さを改めて実感した――射撃
は全く駄目だが、その弱点を補って有り余る近接戦闘能力の高さなのだ一夏は。
加えて、唯一の遠距離攻撃であるビームダガーの投擲は銃による射撃が明後日の方向に飛んで行く人間が放ったとは思えない程に正確なだけでなく、相
手との距離の詰め方も抜群に巧いのだ……己の得意分野を徹底的に磨き上げた結果だろう。


「訓練の模擬戦と試合では、矢張り違う物だね……此れが真の日本の剣術か……!
 突きしかないサーベルやレイピア、力任せに叩き切る事が主眼の両刃の剣には無い洗練された美しさを感じるよ……此れもまた、東洋の神秘かな?」

「さぁな……まぁ、日本刀は只の武器じゃなくて芸術性も併せ持ってるから、剣術も自然と他の剣技には無い『何か』があるのかもな。」

「成程……だが、其れだけにあまり君と近距離で戦うべきではないな――その美しい剣術に見惚れて隙を作ってしまいそうだしね!」


五~六合ほど打ち合ったところで、ロランは自機のアンロックユニットを起動し、其処からビームを発射!
この至近距離からの攻撃には、流石の一夏も回避が間に合わずに喰らってしまい、大きく吹き飛ばされた上でシールドエネルギーを削られた――この一撃
でシールドエネルギーを20%持っていかれたのを見る限り、このビームは可成りの高威力なのだろう。


「オイオイ、派手なのは結構だがダンスパートナーを吹っ飛ばすなよ?怪我したらどうするんだ?」

「此れもまたダンスのワンポイントパフォーマンスだよ一夏……其れに、こう言う激しいのは嫌いじゃないのだろう?」

「まぁ、其れはな。てか、刀奈とのダンスの激しさはこんなモンじゃないからな?激しければ激しい程、大歓迎だぜ俺は。」

「其れを聞いて安心したよ……私も、激しければ激しい程楽しめる性質なのでね?次なるダンスは如何する?」

「ロックンロール風アレンジを加えたヨサコイソーランと行こうぜ!」


だがしかし、どうにも一夏もロランも何かスイッチが入ってるらしく、テンションはガンガン上がってる……ってかロック風アレンジをヨサコイソーランって何よ?
其れから一夏、若干DMCのダンテっぽくなってる?……使ってる武器が刀なんだから其処はバージルで行くべきじゃねぇかな。個人的な意見だけど。

再び距離が離れた一夏に向かって、ロランはプラズマライフルだけでなく、アンロックユニットからのビームも使って攻撃を行い、プラズマライフルの精密射撃
とアンロックユニットの大口径ビームで一夏を攻め立てて行く。
先程のプラズマライフルだけの『点の攻撃』とは違い、ビーム砲による『面の攻撃』も加わった事で、一夏は回避に専念する事になった……まぁ、回避行動を
行いながらも、プラズマライフルの弾をビームを纏わせた刀で斬り飛ばしたりしてるんだからトンデモないんだけど。


「(此のままじゃ埒が明かないな?近付く事は出来ても、またビーム砲を近距離で喰らったらヤバいし……となると……)」


此のままでは埒が明かないと判断した一夏は、何度目かのビームを放った直後にロランの機体のアンロックユニットにビームダガーを投擲!
普通に放ったのではビームで迎撃されて終わりだが、ビームを放った直後ならば話は別――大口径のビーム砲は、短い間隔での連射が出来ず、一度放っ
た後は、最低二秒のエネルギーチャージが必要になる為、その隙を一夏は狙ったのだ。


「ビームダガーが!……アンロックユニットがやられたか!」


其れは見事に成功し、ビームダガーが突き刺さったアンロックユニットは爆発大破こそしなかったモノの、煙を上げて動作不良を起こした……試合後の簡易
メンテナンスで直せるレベルの動作不良だが、この試合ではもうアンロックユニットを使う事は出来なくなってしまったのだ。
此れによってビーム砲の『面の攻撃』が無くなり、更に近距離からの弩デカい一発もなくなったので一夏としては戦いやすくなった――イグニッションブースト
で懐に飛び込むと、今度は剣術だけでなく体術も織り交ぜた近接戦闘を開始だ。
一夏の近接戦闘の真骨頂は、剣術と体術の複合攻撃にある――刀の一撃を防いだと思ったら間髪入れずに蹴りや拳が飛んでくるし、其方に対処しようとす
れば鋭い斬撃が襲って来る……うん、何それ怖い。
近接戦闘で使える手札の多さに限って言えば一夏は千冬をも凌駕しているだろう――千冬は剣術は最強レベルだったが、体術は一夏程修めていなかった
のだから……其れでも、持ち前の身体能力で空手の有段者でもノシちゃう事が出来るってんだから世界最強ハンパないですマジで。

まぁ、そんな訳で、ロランは徐々に一夏に追い詰められていく……一夏の攻撃にカウンターのプラズマライフルを叩き込むと言う選択肢も存在してはいるのだ
が、一夏の攻撃あまりにも速くて苛烈なのでカウンターを叩き込む隙が無いのだ。


「(此れがサムライ……此れが織斑一夏!……そうか、君こそが私の――!!)」

「此れで終わりにするぜロラン!俺の攻撃が見えるもんなら見切ってみな!」


でもって、此処で一夏はロランから間合いを取って納刀すると、居合の構えを取ってからイグニッションブーストでロランに突撃!――当然、ロランも近付けさ
せまいとプラズマライフルを放つが、一夏は其れを尽く回避してロランに接近して、龍刀・朧を一閃!
其れは見事な居合の一撃であり、斬撃は目にも映らない程の速さで、観客の多くは一瞬で一夏がロランの背後に回ったようにしか見えなかっただろう。


「……ふ、見事だ一夏、其れがサムライの力か……」

「今回は、俺の勝ちだぜロラン。」


だが、一夏が振り抜いた刀をDMCのバージルもビックリする位にスタイリッシュに逆手に持って納刀した瞬間に、ロランの機体はシールドエネルギーがエンプ
ティになって強制解除され、ISスーツ姿になったロランが膝を付いていた。
最後の居合の一撃で、一夏はロランのシールドエネルギーを根こそぎ持って行ったのだ……一夏の居合はドレだけなのかだわ。天翔龍閃レベルだと思って
も罰は当たらないよね絶対。


「嗚呼、実に素晴らしい試合だった……完全に君に心を奪われてしまったようだ私は……だが、悲しいかな、君にはもう刀奈と言う最高のパートナーが存在
 している。
 私の入り込む余地は残っていない……神は無常だと思わないか、一夏?」

「ロラン、お前何言ってるんだ?頭でも打ったか?」

「いいや、私は極めて正常さ……君こそが私が出会うべき相手だったと確信したんだよ今の試合でね――あぁ、君と刀奈の仲を引き裂くような真似はしない
 から、其れは安心しておくれ。」

「其れは、安心するけど……お前、同性愛者で九十九人の恋人が居るとか言ってなかったっけか?」

「あぁ、彼女達は所謂『私のファン』の子達さ
 自分のファンを大切にするのは当然だからね、『私の恋人達』と呼んで愛でているのさ。」

「分かった様な分からん様な……取り敢えず、人に説明する時は普通に『私のファンの子達だ』って言った方が良いと思うぞ?変に誤解されても面倒だと思
 うしさ。」

「ふ、御忠告痛み入るよ。
 そして如何やら私は同性愛者ではなくバイだったらしい……考えてみれば、同性との交流は多かったが男性との交流は家族以外とはあまりなかったから
 ね?其れでは、魅力的な男性と出会う確率も低い訳だ。」


で、ロランは何かに目覚めちゃったっぽい……略奪愛は考えてないみたいだから大丈夫だろうが、其の内刀奈と組んで一夏をからかいに来そうな予感がヒ
シヒシと感じられるねぇ?ってか、彼女が居ても安定のフラグメーカーな一夏であった。
何にしても、オランダの国家代表に勝った事で一夏の株が大きく上がったのは間違い無いだろう――此れで一夏は国家代表を三人も倒した訳だからね。

逆にこの結果に戦慄したのは陽彩だ……クラス代表決定戦の時は刀奈や円夏が手加減をしたからと言う事で一夏の勝利には一応の納得が出来た訳なの
だが、クラス対抗戦で相手が手加減する事なんぞ普通に在り得ない事だ。
にも拘らず、一夏はオランダ代表のロランに勝ってしまったのだから。
明らかに陽彩の知る『原作の一夏』よりも遥かに強い一夏に陽彩は戦慄したのだ……本能的に『若しかしてチートがあっても勝てないのでは?』と感じたの
かも知れない。


「一夏の野郎が此処まで強いだと?……嘘だ、嘘に決まってる……そうだ、あの野郎は八百長をやったんだ!そうだ、そうに決まってる……卑怯者め!」


でもって、何か見当違いの結論に至ってた……八百長とかアホかマジで。八百長だったら、ロランが適当なところで一夏の攻撃を喰らって負けて、あんな手
に汗握る試合展開にはならないってんだよこの弩阿呆が。
そもそも、『卑怯者』って、チートな転生特典貰ってるお前が言うなよお前が。存在その物が卑怯なお前にだけは卑怯者とは言われたくないわ。








――――――








続く第三試合の陽彩vsロランは、ドローだった。
ロランのプラズマライフルとアンロックユニットからのビームを回避する事に手一杯になった陽彩は近付く事が出来なかったが、ロランもちょこまかと動き回る
陽彩を捉えきれず、互いに決定打を与える事が出来ない状況になりそのまま制限時間が来てしまったのである。
そうなった場合は、夫々の機体のシールドエネルギーの残量で決めるのだが、シールドエネルギーの残量が同じだった場合はドローになるのだ。
……ガンダムエクシア使ってるのに勝てないとか、チートがあって此れとは、陽彩の素の能力は『戦闘力たったの五か、ゴミめ』よりも低いのかもしれない。
と言うか、チートが無かったら目も向けられないだろうなマジで。


「またしても俺の試合ザックリ削れてねぇかオイ!」


気のせいだ。気にしたら負けだ……そう、ガルパンで二回戦がすっ飛ばされるのと同じ位気にしたら負けだ。


「陽彩、誰と話しているのだ?」

「陽彩さん……大丈夫ですの?」

「え?あ、あぁ……気にしないでくれ箒、セシリア……何でもないから。何か、言っとかないと思っただけだから。」


地の文に反応するのは程々に、御利用は計画的にだな……にしても、何事かと思って陽彩に話しかけた箒もセシリアも陽彩にこう言われて何の疑問も無く
納得するとか、ドンだけコイツに惚れてるのやらだ。
『惚れる(ほれる)』と『惚ける(ぼける)』は同じ字だが、掃除用具とチョロイン、おまけの中華風貧乳娘は惚けてるのかも知れないね。『恋をしてる時って言う
のは変になってるんだ』とはよく言ったモノである。
一夏と刀奈は如何なのかって?……あの二人は真実の恋の果ての愛に到達してるから何の問題もないのさ。恋の段階では不安要素も多いが、其れが愛
に昇華すれば怖い物など何もないのだ!愛は無敵です!!


まぁ、愛が無敵なのは真理として、第四試合は一夏vs鈴……乱の一件で因縁のある者の直接対決である。
フィールドには、銀龍騎を纏った一夏と、甲龍を纏った鈴が待機している――既に鈴が戦闘態勢であったのに対し、一夏は禅を組んで意識を集中していると
いう違いはあったが。


「次はお前か……」


だが此処で一夏は禅を崩して立ち上がると、眼前の鈴を睨みつける……その視線の鋭さはまるで武力をもってして悪人を改心させる明王の如しだ――これ
だけでも大したモノだが、その身から発せられる闘気は黄金色に輝いて目視出来るってんだらハンパないですマジで。


「次はアンタか織斑一夏……陽彩には負けたけど、アンタには勝たせてもらうわ!――陽彩は天才だから勝てなくて当たり前だけど、アンタになら勝つ事が
 出来るだろうからね!」


何処をどう見たらその結論に至るのか謎だわ。
一夏が陽彩に劣るって言う物的証拠が無いのに此処までバッサリと言い切るとかどれだけ自身があるってのよ……いや、此れは自信じゃなくて己の実力を
過剰評価した過信の慢心だと言えるんだどさ。


「俺に勝つか……やってみな、出来るならな。ま、お前には無理だろうと思うけどよ。」

「言うじゃない……吠え面掻かせてやるわ!」


だが、一夏は至って冷静であり、鈴の挑発に逆挑発をブチかまして主導権を握る……だけでなく、偽悪的な笑みを浮かべてサムズダウンしている――完全
にダークヒーローだ此れ。傍目にはどっちが悪人なのか分かったモンじゃねぇっての。
それはさておき、一夏の挑発で一気に闘気がヒートアップしてホットな状態になった鈴は、試合開始のブザーと共に突進し、青龍刀型の武器を使っての近接
戦闘を仕掛けるが、一夏はその攻撃全て見切って華麗に回避する。
しかもただ回避するのではなく、サイドロールやバック転と言ったアクロバティックな動きも織り交ぜた、『魅せる回避』を行っているのだ。

鈴の近接武器は、当たれば大きなダメージを与える事が出来るだろうが、その大きさ故に攻撃が単調になってしまう弱点がある――機体のパワーアシスト
を利用した二刀流で手数を増やしてはいるモノの、基本的な攻撃は斬り下ろすか横薙ぎの二つだから結局のところ弱点の改善には至ってないのだ。
だから一夏も、こうして余裕綽々で回避出来るのだろう。それでも、アクロバット回避は高レベルな技だと思うけどね。


「何で、如何して当たらないのよ!」

「オイオイ、もっと本気でやって欲しいな?其れとも、此れが本気だったのか?……だとしたら失礼な事を言って悪かった、謝るよ。」

「こんの、舐めるなぁ!!」


攻撃を尽く回避されてイライラが募っていた所に、一夏のベジットな挑発を喰らった鈴は長さが1cm程度の導火線に火が点いた後に激しく怒り爆発状態とな
り、一旦一夏から距離を取ると、手にしていた二刀を連結させ、ブーメランのように投擲して来た。
これまた当たれば必殺だが……


「あらよっと!」

「嘘!?」


何と一夏は飛んできた青龍刀を掴み取ってしまったのだ。
此れには武器を奪われた形になる鈴だけでなく、観客の多くも驚いていた……まぁ、四組の面々+αは大して驚いてないようだが、其れだけ一夏や刀奈の
トンデモなさに慣れたって事なんだろう多分。


「自分から武器を捨てるどころか譲渡してくれるとは気前が良いな?少々デカくて扱い辛そうだが、有り難く使わせて貰うぜ。」

「ふざけんじゃないわよ!其れはアタシのよ、返しなさい!」

「返して欲しけりゃ、力尽くで取り返して見せろよ――つーか、取られて困るなら武器を投げるなだぜ?今みたいに、投げた武器を取られるって事は想定しな
 かったのかよ。」

「そんなの出来るだなんて思わないでしょ!陽彩だって避けるのが精一杯で掴み取れなかったのよ!?」

「だが、現実に俺はこうして掴み取っちまったんだがな……さて、此れでお前は武器を失っちまった訳だが如何する?
 大人しく降参するって言うんなら武器を返してやらない事もないぜ?専用機の武器を相手に取られて、更に壊されましたなんて事になるのは流石に困るだ
 ろお前も。」


鈴の武器を奪い取った一夏は更に煽る。
武器を奪い取った上での降伏勧告……人一倍負けず嫌いで、上からモノを言われるのが何よりも嫌いな鈴にとって此れは屈辱以外の何物でもないだろう。
乱から鈴の性格を聞いていた一夏は、分かって其れをやったのだ。乱が受けた精神的な屈辱の半分でも鈴に味わわせる為に――尤も、此れも仕込みに過
ぎないのだ……屈辱の果ての地獄を見せるための。


「降参しろですってぇ?ふっざけんじゃないわよ!誰がするかってのそんなモノ!
 其れに、双天牙月を奪ったくらいで良い気になるんじゃないわよ!喰らえ、龍砲!!」


一夏の降伏勧告に鈴は更に激高し、衝撃砲『龍砲』を放つ!
衝撃砲その物の威力は其れ程高くないが、見えない砲弾によって相手に気付かれる事なく攻撃する事が可能な上、砲身も見えない上に射角限界もないと
言う、中国が技術の粋を結集して作った甲龍の切り札とも言える一撃――


「下手くそ。」


其れを一夏は難なく躱して見せた。
避けられた事に鈴は一瞬驚くも、『今のはマグレに決まってる』と自分に言い聞かせて龍砲を連射するが、一夏は尽く其れを躱し、時には奪った双天牙月で
斬り弾く。


「何で、如何して避けたり弾いたり出来るのよ!砲身も砲弾も見えないのに!」

「馬鹿かお前?確かに見えない砲身と砲弾ってのは厄介だが、さっきの試合でアレだけバカスカ撃ってるのを見てれば対処法などアホでも一つや二つ思い
 付くさ。
 砲身も砲弾も見えないってんなら、見えるモノから何処を狙ってるのか読めばいいだけの事だからな――そう、例えばお前の視線とかな。」

「!!」


砲身も砲弾も見えないが、使用者の視線に注意していれば何処に撃って来るのかわかる……言うは易し行なうは難しな事を一夏は平然とやってくれた。
まぁ、一夏がこんな事が出来るようになったのも、ビット兵器で多方向から攻撃してくる円夏や、鬼の弾幕をブチかましてくる簪にコテンパンに負けまくった過
去があるからなのだが……ゲームだったら画面の九割を埋め尽くす簪の弾幕はクソチートな気がしなくもないですハイ。
だが、此れは鈴にとっては最悪極まりない……双天牙月を奪われた上に、龍砲は避けられてしまう――最早全ての詰め手を封殺されたと同義なのだから。


「其れじゃあ、そろそろこっちから行くぜ?
 だが、その前に武器を返しておくぜ……そらよ!」


此処で一夏が奪った双天牙月を甲龍の翼に投擲して突き刺し、龍砲を使用不能にする……砲身すら見えない龍砲だが、其れが搭載されている翼が破壊さ
れてはもう使用は出来ないだろう。


「龍砲が……!!」

「よそ見してる暇があるのかよ、この屑女郎が!!」


龍砲が破壊されたことに驚く鈴に、一夏はイグニッションブーストで肉薄し、其の喉笛にウェスタンラリアットを一閃!


「ガハ……!」


鍛えても鍛えようのない人体急所ののどを真面に攻撃された事で絶対防御が発動し、甲龍のシールドエネルギーが大幅に減少する……アメリカのオクラホ
マが生んだ不沈艦の必殺技の威力はハンパないわマジで。
だが、一夏の猛攻はまだ始まったばかりだ。
ウェスタンラリアットで吹き飛ばされた鈴が起き上がろうとするのを見るや否や、これまた一瞬で間合いを詰めてのシャイニングウィザード(初期型)で顎をカ
チ上げて強制的に立たせると連続でヘッドバッドを叩き込んだ後に片手ネックハンキングで締め上げ、そして放り投げるとアッパーを叩き込んでフッ飛ばして
ダメージを与える。
そして鈴が落ちてくるまでの間に一夏は力を溜め……って、なんだかこれはどっかで見た事がある技な気がして来たぞ?


「絶望がお前のゴールってな。精々地獄を楽しみな。」


――ババババババババババババババババババババババババババ!!


落ちて来た鈴に対し、一夏は左手で超高速のパンチを連続で叩き込む……予感的中、此れ山崎竜二の超必殺技の『ドリル』のレベル4、通称『蛇ドリル』だ
ね。其れもマックス版。
因みに餓狼伝説版よりもKOF版の方がスピード感があって俺は好きです。……まぁ、どっちにしても主人公が使う技じゃないけどね。


「コイツでトドメだ、行くぜ界王拳!!一辺死んで来い!」


でもってトドメは右のボディブロー!其れもタダのボディブローじゃなくて、イグニッションブーストとリミット・オーバーを同時発動して威力をブチ高めたボディブ
ローだ。
散々タコ殴りにされた鈴に其れを避ける事なんざ出来る筈もなく、真面に喰らってフッ飛ばされ、アリーナの壁に激突してゲームセット……シールドエネルギ
ーが尽きて機体が解除されただけでなく鈴は白目を剥いて気絶して居ると言う、無様極まりない負けっぷりだった。


「お前が乱より強いってのは、独りよがりの思い込みだったみたいだな……少なくとも乱はお前の十倍は強いぜ、身体も、心もな。
 たった一年で中国の代表候補生にまで上り詰めたお前の才能は大したものだと思うが、それで満足しちまったのがお前の限界なんだろうさ……台湾の代
 表候補生になっても努力を怠らなかった乱とは比べるまでもねぇよ。」


『凰鈴音、甲龍、シールドエネルギーエンプティ!勝者、織斑一夏!!』


「その程度で、俺の前に立つな!」


試合終了のアナウンスが流れると同時に一夏はそう吐き捨ててピットに戻っていく……今のは『ランブルフィッシュ』の主人公の勝利セリフだね。このゲーム
を知ってる人がドレだけ居るのか謎だけど。


「役目の半分は果たした……残りは任せたぜロラン。」

「あぁ、任せておいてくれ一夏……彼女に相応しい鎮魂歌を送ってあげるさ。そうだね、モーツァルト作のレクイエム『ディエスイレ』なんかは如何だろう?」

「良いんじゃないか?クラシックには詳しくないけど、モーツァルト作曲ならいい曲なんだろうからさ。」


ピットに戻って来た一夏は、次の試合の為にピットで待機していたロランと軽く言葉を交わしながらハイタッチ……最高の試合をした一夏とロランの間には全
力で戦った者同士の友情が芽生えているらしかった。


「勝てよ、ロラン。」

「言われるまでもない……私の友を傷つけた醜女にかける情けはないさ。このロランツィーネ・ローランディフィルネィの持てる全ての力をもってして、凰鈴音
 を叩きのめす事を、君と乱に誓おう!」

「其れ、乱に伝えておくぜ。」

「よろしく頼むよ。」


クラス対抗戦は、残すところロランvs鈴、一夏vs陽彩の二試合のみ。
此処までの成績は、一夏が二勝、陽彩が一勝一分け、ロランが一敗一分け、鈴が二敗……優勝争いは一夏と陽彩の一騎打ちに絞られている。この直接対
決に勝った方が優勝と言う分かり易い構図ではあるだろう。(一夏が勝てば三勝で優勝、陽彩が勝てば二勝一分けで、一夏が二勝一敗になるから。)

其れは兎も角、一つだけ分かっていることがあるとすれば、其れはロランもまた鈴をフルボッコにするだろうと言う事だろう――ロランもまた、仲間である乱を
傷付けた鈴には激しい怒りの感情を抱いているのだからね。……まぁ、鈴は精々後悔するんだな、己の実力を過信してイキった事に!そして知るが良い、『
己が井の中の蛙』であったと言う事を!……って、其れを知る事が出来たら、こんな究極腐れDQNにはならないか――取り敢えず、ロランがキッチリと中華
風貧乳娘を成敗してくれる事に期待しよう。そうしよう!










 To Be Continued 







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