一年生選抜チームvs二年生選抜チームの試合は、先鋒戦は二年生チームが勝ち、次鋒戦は一年生チームが勝った事で互いに一勝一敗となり、現在は第三試合となる中堅戦の組み合わせのビンゴが行われている最中なのだが、大将戦が一夏vs夏姫である事が決まっている事を考えると、中堅戦のビンゴは副将戦の組み合わせも決まるビンゴと言えるだろう。
「第三試合は、一年生チーム、ティナ・ハミルトン!二年生チーム、キム・レイファン!!」
ビンゴの結果、中堅戦はティナ・ハミルトンvsキム・レイファンとなり、同時に副将戦はフォルテ・サファイアvsレイン・ミューゼルに決定した訳だが、此の組み合わせは一年生チームがやや有利と言った感じだ。
ティナもレイファンも非専用機持ちであるが、レイファンが一般生徒であるのに対してティナはアメリカの代表候補生なのだ。如何に競技科の二年生とは言っても、代表候補生と比べたらISの起動時間に雲泥の差が有り、経験で言えばティナの方が圧倒的に上になるので分があると言えるだろう。
「ビンゴが少しばかりこっちに有利に働いたかな此れは?
選抜チームに選ばれるくらいだから、キム先輩の実力は結構高いと思うが、だとしてもハミルトンさんなら勝てると思うしな……取り敢えず、確実に二勝目は取れるって訳だ。」
「そうやってプレッシャー掛けないで欲しいんだけど?」
「いや~、ティナが勝ってくれると自分も気分的に楽っすねぇ?ティナが勝ってくれたら、自分は勝っても負けてもどっちでも良いっすから。……ぶっちゃけ、一勝二敗で自分の試合とか、プレッシャーがハンパないっすよマジで。」
「いや、其処は『もしティナが負けても、自分が取り返してイーブンにするから、気楽に行って来い』位の事を言いなさいよ!何で、自分が気負わなくても良いからってティナに二勝目丸投げしてんのよ!?」
「フォルテって、実力はあるのにやる気が今一だよねぇ……本気になればめっちゃ強いのに。」
「いや~~、一度噴火すると再チャージに時間が掛かるんすよねぇ?だから噴火は精々、一年に一回くらいっすよ……学園に来るまでは、ベルベットに『そのやる気のムラを無くしなさい!』って、耳タコなほど言われたっすね。」
「と言う訳で、代表候補生と一般生徒では此れだけ差が有るんだと言う事をバッチリ見せて、サクッと勝って来てくれハミルトンさん!」
「一夏、強引に話を終了させただけじゃなくて、サクッとサラッと難易度上げて、更なるプレッシャー掛けて来るとか少し鬼じゃない?……でもまぁ良いわ。代表候補生なのに専用機を持ってないって事で、少し安く見られてた部分はあるから、其れは間違いだって事を証明して来るとしましょう!」
一年生チームのベンチは賑やかだが良い雰囲気だ。
ティナも『プレッシャーを掛けるな』と言いつつも笑顔で、本当にプレッシャーを感じている訳ではなさそうだし、一夏達も本気でティナにプレッシャーを掛けていると言う訳ではないみたいだ。試合前にガチのプレッシャー掛けるとか本気で最悪な行為でしかない訳だが。
二年生チームの方もレイファンに『行って来い』と言っているが、レイファンの顔は何処か堅い感じだ。先の乱vsサラ戦を見て、代表候補生の本気がドレほどのモノかを生で感じてしまい少しばかり緊張して居る様だ。ティナが専用機は持ってなくともアメリカの代表候補生と言うのがプレッシャーになっているのだろう。
其れでも出撃前には、自分の頬を思い切り叩いて無理矢理にでも緊張を吹き飛ばしたのは、流石は選抜に選ばれるだけの実力者と言った所か?此れならば、確りと試合を成立させる事も出来るだろう。
何れにしても、この試合に勝ったチームが勝利に一歩近付いて相手チームにプレッシャーを与える事が出来るので、何方のチームにとっても勝っておきたい試合なのは間違いない。
互いに一勝一敗で迎えた中堅戦、この試合を制してリーチを掛けるのは果たして何方のチームになるのか!?
夏と刀と無限の空 Episode78
『Fierce battle is fine!Let's go crazy!! 』
フィールドに出たティナはラファール・リヴァイブを、レイファンは打鉄を展開して開始位置にスタンバイ。
ラファール・リヴァイブも打鉄も、汎用性に富んでクセがなく、扱い易い機体と言う事で学園の訓練機として採用されているのだが、何方も其のポテンシャルは高く、パイロットの腕次第では専用機持ちの代表候補生を圧倒する事も出来る優秀な機体だ。嘗て授業で、山田先生がセシリアと鈴のタッグを圧倒した事からも、其れが分かると言うモノだ。
機体性能としてはラファール・リヴァイブが多種多様な武器を拡張領域に収納して、どんなパイロットが操縦しても得意な武器を使用出来る上に機動性も抜群であるのに対し、打鉄は近接ブレード、アサルトライフル、シールドと言った基本装備を搭載し、機動力ではラファール・リヴァイブにやや劣るモノの、搭載されているシールドは、『破壊される前に装甲が再生する』と言うトンでも機能が搭載されており、防御力が非常に高い機体となっており、総合力は略互角……ある意味では、打鉄同士の戦いだった静寐vsなほ以上に非専用機での戦いと言うモノを見せ付けるモノになるのかも知れない。
「ティナ・ハミルトン、アメリカの国家代表候補生でありながら専用機は持っていない……『専用機持ちでない生徒を最低二名入れる事』って言うルールには抵触してないのが何ともアレよね。
専用機を持ってないのなら、代表候補生でも問題はない。ルールの穴を突かれたわね此れは。」
「気付いたのはアタシのルームメイトなんですけどね?『国家代表及び代表候補生でない生徒を二名』だったらアタシは出れなかったんですけど、抜け道のあるルールだったのでアタシも出れました。
てか、あのルール考えたのって生徒会長じゃないですよね?誰なんですか?」
「レインだよ。彼女が『全員専用機持ちじゃ面白くねぇ!』って言って、『非専用機持ちを二人は入れる事』って言うルールをブチ上げたのよ。」
「あ~~……成程納得です。
ミューゼル先輩、実力だけならアメリカの国家代表になってもオカシク無いんですけど、性格が大雑把で細かい事が考えるのが苦手って言う理由で代表候補生に留まってる人ですからね。
そんなだから、ステイツで付いたニックネームが『The most disappointing talent in the history of
States(ステイツ史上最も残念な実力者)』なんですよ。」
「長いわね。」
試合開始前のティナとレイファンの会話は穏やかなモノだが、二人ともその穏やかさの裏には、『この試合を制して一気に流れを掴む』と言う意思を感じるが、其れはティナの方がより強いと言えるだろう。
ティナは僅か十歳でアメリカの国家代表候補生になったほどの天才肌なのだが、その天才を120%活かしたいと考えた専用機開発を担当した企業がティナのパーソナルデータを限界まで集めてからの専用機開発を行う事にしていたため、未だに専用機は与えられず、乱と組んで出場した学年別タッグトーナメントは準々決勝まで駒を進めたモノの、その準々決勝で円夏と簪のペアにぶつかってしまい、この二人の『絶対殺す弾幕+ビット武装の多角攻撃』の前に敢え無く敗北してしまい、ベスト8敗退と言う微妙な結果に終わっているので、此処等で自分の実力をアピールしたいと言う思いはあるだろう。
其れだけの思いを持っていながらも、其れに呑み込まれずに冷静さを保っているティナは大したモノである。
「第三試合、ティナ・ハミルトンvsキム・レイファン……デュエル、スタートォ!!」
そして、虚による試合開始が宣言されてオープンコンバット!慣れない司会業を行っていた虚は、遂に理性が限界突破して開き直ったのか、試合開始の宣言が、間違ってるが大間違いと言う程には間違っていないモノになっていた。
「本気で行きます。」
試合開始と同時に、ティナは左手に持ったライフルの引き金を引くと、レイファンも其れを紙一重で躱すが、躱した先に右手に持ったアサルトライフルを連射して、『避けた先への攻撃』を行って先ずはティナが先手を取る。
アサルトライフルの攻撃は、シールドで防がれたとは言え、『避けた先に攻撃して来た』と言うのは、可成りのプレッシャーを与える事が出来るだろう。
「く、如何して避ける方向が分かったのかしら?」
「キム先輩って右利きですよね?
人って咄嗟にジャンプで回避行動を取る場合、利き足で飛ぶので、右利きの人は略確実に左に飛ぶ事になるんです……だから、回避先を読んで其処に攻撃を設置する位の事は造作も無いんですよ。」
「いや、出来るかそんな事!」
そして、此れは行き成り代表候補生と一般生徒との差を如実に現した事でもあった。
レイファンは競技科の二年生であり、其れはつまり教師によって『ISバトルの競技者としての適性がある』と認められたと言う事でもあり、選抜チームに選ばれる事から、其の実力は確かなのだが、ティナは十歳でアメリカの国家代表候補生になったと言う事もあり、ISの起動時間はレイファンの五倍以上と言う圧倒的な経験の差と言うモノがあり、ティナにとっては相手の回避先を読んで、其処に攻撃を置いておくと言うのは造作も無い事だったのである。
先手を取ったティナは、近接ブレードを展開すると、アサルトライフルを連射したままレイファンに近付いて一太刀浴びせると、右手のアサルトライフルをショットガンに換装して、至近距離での一撃を叩き込んで大ダメージを与える。
そしてそのままクロスレンジでの格闘戦には移らずに、ドロップキックをブチかまして距離を離すと、今度は両手にアサルトライフルを展開して超絶弾幕をレイファンに向けて大発射!
簪の、『絶対殺す弾幕』に比べればマダマダ温いが、其れでも全回避は不可能なレベルの弾幕なので、レイファンも多少の被弾は打鉄自慢の防御力の高さで防ぎつつ、回避出来る攻撃は回避していたのだが、回避と防御に専念していた事で、攻撃に移る事が出来ていなかった。
「貰った!」
「く……ちょこまかと!」
加えて、ティナの戦い方が、確実に相手にダメージを与える『ヒット&アウェイ』だったと言うのもレイファンには不運だったと言えるだろう。
打鉄は優秀な機体ではあるが、『やや近接型の汎用機』と言う機体であるため、その真価はクロスレンジでなければ発揮出来ないと言う弱点もある――一応、追加パッケージで装備を増やす事は出来るのだが、学園に支給されている訓練機は、基本の装備しか搭載していないので、近接戦闘を封じられるとジリ貧確定なのである。……逆に言うなら、打鉄に何もさせない位に鮮やかに武器の切り替えを行って戦っているティナが凄いとも言えるのだが。
其の実力差は誰が見ても火を見るよりも明らかだった……一般生徒と代表候補生の差は確かに凄いモノだが、代表候補生と国家代表では更に実力に開きがあると言うのだから其の実力差は如何程だと言えるだろう。
そして一夏の嫁ズは全員が国家代表なのだから、此れはもう名実共に『世界最強の嫁』と言っても誰も文句は言わないだろう。てか、言えないだろう。
「此れで決めるわ!覚悟は良いかしら……?」
「んな!?」
「喰らえ!アメリカプロレスが生んだ史上最強にして最大の必殺技……ウェスタンラリアート!!」
レイファンの打鉄のシールドエネルギーをゴリゴリと削っていたティナは、勝負所と見るや両手のアサルトライフルを連射しながらレイファンに接近し、5mまで近付いた所でイグニッションブーストを発動して一気に距離を詰め、レイファンの喉元にウェスタンラリアート一閃!
如何にISを纏ってるとは言え、鍛えても鍛えようのない喉笛への一撃で絶対防御が発動して、レイファンの打鉄はシールドエネルギーを大きく減らし、更に其処にティナが追撃のフラッシュエルボーを叩き込んだ事でシールドエネルギーがゼロに。
『ブレーキが壊れたダンプカー』の異名を持つレスラーの必殺技の後に、『天才』と称されるレスラーが編み出したエルボーの連続技は、ISバトルでも有効であったみたいである。
「キム・レイファン、シールドエネルギーエンプティ!勝者、ティナ・ハミルトン!!」
「負けちゃったか……此れが一般生徒と国家代表候補生の差か……正義君が、オルコットさんに勝ったって言うのは、本当にレアケースだったと言う事ね。」
「オルコット程度なら、先輩も勝てると思いますよ?
ぶっちゃけ、アイツは代表候補生になった事に満足して己を鍛える事を疎かにしてたみたいですから……『腐っても鯛』な相手なら、負けないんじゃないですか?」
「流石に、そんな奴には負けられないわね……競技科の二年舐めんな。」
中堅戦を制したのはティナだが、試合後の会話は色々とアレだった……だがしかし、ティナのアメリカの国家代表候補生としての実力を知らしめる試合だったと言えるだろう。ティナは、この試合初となるパーフェクト勝利を収めた訳だからね。――同時に、セシリアがドンだけの代表候補生としては雑魚其の物だったのかって言う事も明らかになった訳であり、今回のティナの圧倒的な勝利によって、誰もが己の記憶から陽彩vsセシリアの試合を消去する事になったのだった。尤も、今更あの試合の詳細を覚えている人の方が大分少ないだろうが。
○ティナ・ハミルトン(11分11秒 ウェスタンラリアート→フラッシュエルボー)キム・レイファン●
ティナが勝利した事で、此れで戦績は一年生チームの二勝一敗となり、勝利にリーチが掛かった!勝利が決まった訳ではないが、一歩リードと言うのは矢張り気分的にも余裕が出るモノなので、中堅戦を制したのは大きいと言えるだろう。
尤も、次の試合、一年生チームは『自分で決める!』と言う意思は多分ないであろうフォルテである事が若干の不安材料ではあるのだが、フォルテ自身が口にした『一年に一度あるかどうかの噴火』に期待するしかあるまい。どうせ噴火するなら、大噴火をお願いしたいところである。
――――――
「言われた通り、代表候補生と一般生徒では此れだけ差が有るんだと言う事をバッチリ見せて、サクッと勝って来たけど如何だったかしら?今の試合の、何点か教えて貰っても良い?」
「ラファール・リヴァイブの機体特性を十全に生かした武器の切り替えと、遠近での銃器の使い分け、そしてフィニッシュには魅せる要素も盛り込んでたから……総合得点三百二十点ってところだな。ハミルトンさん、ナイスバトルだったぜ。」
「三百点越えって、フィギュアスケートの得点じゃないんだから……でも、期待に応えられたのなら良かったわ。
専用機が無くたって、代表候補生の名は伊達じゃないって事も証明出来たと思うし……何よりも、久々に思い切り暴れる事が出来たから気分爽快よ!」
チームベンチに戻って来たティナは一夏達とハイタッチ!軽い感じではあるが、全力で戦って来た仲間を迎える挨拶としては、ある意味で此れ以上のモノは無いと言えるかもしれない。似たようなところでは、拳を合わせると言うのがあるが、ハイタッチの方がポピュラーであると言えるだろう。
「アタシとしては、ティナお得意の曲撃ちを見たかったんだけどね……ファイヤーワークスを期待してたんだけど?」
「ファイヤーワークスって、アタシは赤いコートを着た銀髪のデビルハンターのオッサマか!確かに曲撃ちは得意だけど、ショットガンをヌンチャクみたいに振り回しながら撃つとか絶対無理だから。」
「いや、ISのパワーアシストがあれば出来るんじゃないか?ロランはショットガンよりも反動の大きいグレネードランチャーを片手で撃ってたから、多分生身じゃ出来ない芸当も、IS使えば出来ると思う。
俺も銀龍騎纏ってれば、九頭龍閃も天翔龍閃も出来るしな。」
「そう言えば、結構理不尽な技使ってたわね一夏って……」
こんな感じの雑談をしながら、その横では副将戦を戦うフォルテが準備をしている……のだが、如何せんやる気と言うモノがあまり感じられない。
恋人のレインとの試合と言う事で、其れなりに気合は入っているようだが、『自分が勝って勝利を確定させる』と言う気は無いと言っても良い感じだ……『自分が負けて二勝二敗になった方がメインイベントが盛り上がるだろうなぁ』位の事は考えていそうである。
「フォルテ……次の試合、『二勝二敗になった方が大将戦が盛り上がる』とか考えて、本気を出さずに適当に戦って負けてやがったら、墜とすぞ。」
「いや、何処にっすか!?」
だがしかし、一夏が其れを見過ごす筈もなく、千冬譲りの覇気を全開にしてフォルテに釘を刺す。
目の部分が影で覆われて、右目だけが白く光って居る状態でサムズダウンとか普通に怖い。取り敢えず主人公がなって良い状態ではない。闇落ちではないのが余計に恐ろしい。……元々一夏は何方かと言えば闇属性なので、今更闇落ちも何も無いのかも知れないが。
「何処って……地獄の奥底を更に突き抜けた、煉獄の深淵。生者の手が届かない、無の煉獄って奴だな。そして、其処に墜とすまでの行程として、スーパーアルゼンチンバックブリーカーで投げた後、フラッシュエルボーで追撃して、起き上がろうとした所にシャイニング・ウィザードを叩き込み、トドメは引き起こしてからのレインメイカーだ。」
「容赦ないコンボっすねぇ……シャイニング・ウィザードからのレインメイカーとか、プロレスファンからしたら夢のようなコンビネーションっすけど。」
「団体の垣根を越えて、武藤さんとオカダさんのタッグを一度で良いから見てみたい。若しくは、この二人のシングルマッチを見てみたい。――ってのは今は良いとして、全力を出して負けたんなら俺は何も言わないけど、全力を出さないで負けたら其れは絶対許さないからな?
試合をする以上は全力を出すのが最低限の礼儀だ。其れが出来ないんじゃ、まだまだ二流と言わざるを得ないぜ?……お前は実力はあるんだから、此処等で一流の仲間入りをしても良いんじゃないか?」
「……其れもそっすね。故郷に戻ってベルベットに説教されるのも懲り懲りだったし、此処等で一丁一皮剥けてみるのも有りかも知れないっすな……其れに、本気を出さなかった事でレインに嫌われたら元も子もないっすからね。
臨海学校から半年ちょいだからフルチャージとは行かねえっすけど、本気でやってやるっすよ!」
だが、『全力を出さないのは二流のやる事だ』との一夏の言葉を聞いたフォルテは、二流と見られるのは嫌だったのか、一流の仲間入りをすべくこの試合に全力を注ぐ事を決意してフィールドに向かって行った。
その表情は、先程までの何処かやる気に欠けたモノではなく、ギリシャの国家代表候補生として本気で試合に臨む決意に満ちたモノだった……僅かな会話で、此処まで変えてしまうとは、一夏は話術の方も中々に行けるようである。……コイツに出来ない事は、果たして存在するのか些か謎である。
どこぞの、蟹みたいな髪型の決闘者の様に、『ダンスは苦手だな』と言うのが『嘘吐くなこの野郎』と言った感じだろう。……その決闘者も、ダンスは苦手とか言いやがったのに、ヒロインとスケート場で良い感じでしたからねぇ!イケメンの万能超人はマジで最強過ぎる!一夏の場合は女子の心をベッキベキに圧し折る主夫スキルも供えているので、文句なしの完璧超人と言えるだろう!超人強度はバッファローマンもビックリの7000万パワーは下らないだろうな。
「ようフォルテ、随分とやる気があるみてぇじゃねぇか?ま、オレとしてはお前とは一度ガチで遣り合ってみたいと思ってたから、お前がやる気ってだってのはマジで嬉しい事だけどよ?」
「自分もそろそろ一流の仲間入りをしたいっすからね……手加減は無用っすよレイン?」
「だ~れが手加減なんぞするかアホ。
誰よりも愛する恋人と戦えるなんてのは滅多にない機会だぜ?なら、全力でやる以外の選択肢は存在しえねぇだろうが!だからよ、楽しもうぜフォルテ?オレ達だけの最高のパーティって奴をよぉ!」
「そうっすね……最高のパーティにするっすよレイン!」
それはさておき、フィールドに降り立ったフォルテとレインはやる気に満ち満ちており、其れだけでも副将戦が激しい戦いになるのは間違い無いと見て良いだろう。
フォルテもレインも、互いに『獰猛な笑み』を浮かべているのが何とも絵になる。何処か野性的な笑みを浮かべた美少女と言うのも良いモノである。
「其れでは第四試合、フォルテ・サファイアvsレイン・ミューゼル!Are You Ready?Go Fight!!」
先程とはまた異なる試合開始を虚が告げると同時に、先ずはフォルテが氷弾をマシンガンの如く発射するが、レインは自機の両肩に搭載されている犬頭型の装備から炎を放って氷弾を全て融解させる。
フォルテは氷で、レインは炎……相性で言えばレインに有利が付く組み合わせだが、この二人は長い事タッグプレイヤーとして戦って来た事で互いに相手の戦い方を熟知している為、機体の相性だけでは決まらないと言えるだろう。
「へへ、今のはジャブっすよレイン!」
「マシンガン並の攻撃しといてジャブとか抜かすんじゃねぇ!
つか、その前にジャブなんて小技使わねぇで、やるならスカッとするデカい一撃打って来やがれ!オレはちまちました技が好きじゃねえのは知ってんだろお前!」
「いやぁ、やっぱ本命の必殺技を当てる為の牽制技ってのは必要だと思うんすけどね!」
フォルテは続いてミサイルランチャーサイズの氷柱を何本も射出し、レインは其れを炎で溶かすが、射出した氷柱が溶かされると同時に床から何本もの氷柱が出現してレインを襲う!氷柱の射出は牽制であり、本命は床からの氷柱攻撃だったのだ。
「ちぃ!コイツはお返しだぜ!」
完全な奇襲攻撃だっただけにレインも避け切る事は出来ず、僅かにシールドエネルギーが削られたが、飛翔しながら床から生える氷柱攻撃から逃れると、両肩の犬頭のユニットから巨大な火球を発射して攻撃する!
其れだけならば単純な射撃に過ぎないのだが、火球の一つがフォルテに向かう途中で無数の小さな火球に分裂してフォルテを取り囲み、一斉にフォルテに襲い掛かる!だけでなく、もう一つの火球は其のままフォルテに向かっている事を考えると、全ての火球を真面に受けたら大ダメージは免れないだろう。レインの攻撃は、言うなればアサルトライフルとミサイルランチャーの同時攻撃の様なモノだ。
一発一発の威力は低いが物量で圧倒する小型の火球と、単発だが威力は大きい大型の火球の合わせ技と言うのは防御と回避も難しいだろう。
全方向から飛んで来る小型の火球を氷弾で全て相殺するのは難しいし、大型の火球を相殺するには火球の倍の大きさの氷塊をぶつける必要がある……氷で炎に挑むと言うのは、矢張り簡単な事ではないみたいである。
そして、全ての火球はフォルテに降り注ぎ、巨大な爆炎が上がる!此れは試合が決まったかと言う位に派手な爆炎だったのだが……
「あっぶね~~……咄嗟に氷の盾作らなかったらやられてたっすよマジで……!」
「確実にやったと思ったんだが、思ってたよりもダメージねぇな?氷の盾で防ぎ切れる攻撃じゃなかったと思うんだがな……フォルテ、お前何しやがった?」
「普通の氷の盾なら速攻で貫通されてたっすけど、アタシが今使ったのは只の氷の盾じゃなくて、摂氏マイナス273.15℃の氷の盾……ありとあらゆるモノが凍り付く『絶対零度』の氷の盾っす。
流石に小型の火球の物量と、大型火球の威力が凄かったんで完全に防ぎ切る事は出来なかったすけど、溶岩すら凍り付かせる絶対零度なら可成り軽減出来るって訳っすよ。」
「絶対零度……オレの炎すら凍り付かせる心算か?上等だオラァ!絶対零度だか永久凍土だか知らねぇが、オレの炎を止められると思うなよ!」
「永久凍土の下にはメタンガスがある事も多いっすから、下手に炎をぶつけるとガス爆発起こす事があるから注意っすよレイン!」
まさかの絶対零度の氷の盾を作った事で火球攻撃を何とか凌いだようだ……冷気を操ると言う機体能力も中々に強力で個性的だが、まさか絶対零度の氷を生成する事が出来るとは、ギリシャのIS開発チームは中々に高い技術力を持っていると言えるだろう。
其処からは、マジで目の離せない攻防が展開されて行く。
レインが火球を放てば、フォルテは其れを氷の盾で防いだ後にカウンターの氷弾を飛ばし、フォルテが氷の剣で斬りかかれば、レインは炎の障壁で氷の剣を溶かし、炎の拳でぶん殴る!……が、フォルテも只殴られるだけではなく、強烈な冷気を放ってヘル・ハウンドのシールドエネルギーを削る。
互いに手の内を知っている故に、大ダメージを与える事が出来ずに、シールドエネルギーの削り合いの様な試合になっている……正に、実力が拮抗している者同士の激闘と言える試合である。
「その炎、マジで厄介っすねぇ?何だってアメリカは、炎を操る機体なんてモノを考えたんすか?」
「あ?俺のヘル・ハウンドには炎を操る機能なんぞ存在してねぇぜ?コイツに備わってんのは、あくまでもオレ自身が持ってる『炎を操る力』を補助する機能だぜ?」
「へ?レインの力なんすか此の炎って?」
「言ってなかったか?
俺とスコール叔母さんは代々炎を操る家系の末裔でな……スコール叔母さんの現役時代の専用機、『ゴールデン・ドーン』にも炎を操る力を補助する機能が付いてたんだぜ?」
「炎を操る家系って……ご先祖様に千八百年前に、日本で八岐大蛇を退治した人が居たりしないっすよね?」
「流石に、草薙家の末裔って事は……いや、ミューゼル家の御先祖様は、遥か昔に遠い異国の地にて凶暴なヒュドラを討伐したって伝承が残ってっ事を考えると、有り得ないとは言い切れねぇか?」
レインの炎攻撃は、ヘル・ハウンドの機能ではなくレイン自身の力だったとは驚きだ。同時にスコールも同じ事が出来るらしいが、炎を操る力を持って居るのに、レイン(雨)、スコール(土砂降り)と水に関係してる名前なのは何故なのか?或は、炎の弱点である水に関係する名前を付けないと、炎を操る力を制御する事が出来ないと言う事なのだろうか?真相は分からないが。
その後も一進一退のシールドエネルギーの削り合いが行われたのだが、先に勝負を仕掛けたのはフォルテの方だった。
「此れは如何っすかレイン!!」
「なんだその氷塊は!氷の元気玉かよ!!」
バトルフィールドを覆い尽くす程の氷塊を作り出すと、其れをレインに向かって投げ付ける!
如何に氷は炎で溶けるとは言っても、此れだけの氷塊を溶かすのは無理だと判断したレインは上空へと逃れたのだが、其処にはフォルテがイグニッションブーストで先回りしており、レインを捕まえる。
「しまっ……!」
「カッチカチィ!氷漬けっすよ!!」
其のままフォルテは絶対零度の冷気をブチかましてレインを氷漬けにする……生身でこんな事をされたら間違いなく速攻で凍死だが、ISには登場者保護機能があるので命が危険に晒される事はないだろう。尤も、絶対防御は発動するので、シールドエネルギーはゴリゴリ削られる訳だが。
「今回はアタシの勝ちっすねレイン。」
氷漬けにした事で勝利を確信したレインは、氷像と化したレインに背を向けてベンチに戻ろうとしたのだが……
「フォルテ、未だ試合は終わってねぇ!!」
「へ?」
――バガァァァァァァン!!
一夏が、『未だ試合は終わってない』と言った瞬間に、氷像と化していたレインを覆っていた氷が弾け飛び、中からレインが炎を纏って現れた……氷漬けにされた直後に氷を割って炎を纏って登場とか、中々のボス感である。纏っている炎が黒炎だったら完璧だった。
「レイン……完全に決めたと思ったんすけどね?」
「まさか氷漬けにされるとは思わなかったが、完全に氷漬けにされる前に、オレの発火能力を全開にして、ヘル・ハウンドの表面温度を5000℃まで上げといたんだ。
流石の絶対零度も太陽の熱には勝てねぇだろ?」
「太陽の炎……其れは流石に勝てねぇっすな……」
レインはまさかの太陽の炎を纏う事でフォルテの氷漬けから抜け出したのだった。
普通なら、其れだけの熱を宿したら機体もパイロットも只では済まないのだが、ミューゼル一族は炎を操る能力を有してはいるが、己の炎で自分や己が纏う衣服を燃やしてしまう事はないと言う、何とも便利な炎を使えるので、レインも機体も無事だったと言う訳だ。……此れは若干反則な気がするが、炎使いが自分の炎で火傷したとか間抜け以外のナニモノでもないので、此れはある意味で仕方ないと言えるだろう。
「だが、今のは良い攻撃だったぜフォルテ?
その礼に、今度はオレが使える最強最大の攻撃を使わせて貰うぜ……コイツは、ミューゼル家でも禁術とされてる技を、オレが――ってか、オレがジャパンのコミックで見た最強にカッコいい技にアレンジしたモノだ。」
そう言うとレインは、ISスーツの袖を破り去り、その下から現れた腕に巻かれた包帯を取り去って行く。
「右腕の包帯……まさか!!」
「そのまさかだぜフォルテ!喰らいやがれ、邪王炎殺黒龍波!!」
でもって放たれたレインの最強必殺技はまさかの邪王炎殺黒龍波!
大人気漫画『幽遊白書』の人気キャラ、『飛影』の最強必殺技であり、自らの妖気を餌に、魔界の炎である黒龍を呼び出し、其の攻撃を喰らった相手は此の世に影しか残さないと言われる絶対奥義!
『包帯による封印』、『黒い炎』、『ドラゴン』、『邪眼』、『邪王炎殺黒龍波』と言うネーミング、全てに於いて完璧過ぎる!この技以上に厨二心にダイレクトアタックをブチかました技は他にないと言っても過言ではあるまい!其れをリアルでやるレインも大概だが。
「ぐ……絶対零度の盾、五重で如何っすか!」
フォルテは、絶対零度の氷の盾を五重にして防ごうとするが、黒炎の龍は『絶対零度、何それ美味しいの?』と言わんばかりに氷の盾を貫通し、遂にフォルテを捕らえる!!
其れでも、フォルテは絶対零度の盾を生成し続けて黒炎龍の攻撃に耐えていたのだが……
「悪いが、此れで終いだフォルテ!」
「!!」
その背後にレインが現れると、背後からフォルテをネックハンキングに釣り上げ、そして自分ごと強烈な火柱で包み込む!――普通なら自爆特攻な攻撃だが、レインのヘル・ハウンドは高熱に対して高い耐性を備えているので、シールドエネルギーが削られると言う事はないので、フォルテに対して一方的にダメージを与える事が出来るのである。
「コイツで、決まりだぁぁぁ!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
トドメに、レインが手元で炎を爆発させてフォルテに決定的なダメージを叩き込んでシールドエネルギーをゼロにする……互いに手の内を知っているが故に、シールドエネルギーの削り合いになっていた試合は、フォルテが仕掛けたのを機に一気に試合が動き、最後の最後で最強の切り札を切ったレインに軍配が上がった。
「フォルテ・サファイア、シールドエネルギーエンプティ!Winnner is Rain!」
「オレの勝ちだ!……とは言え少しばかりやり過ぎちまったか?大丈夫かフォルテ?」
「レインの燃える愛ってのを文字通りこの身で味わったって感じっすかねぇ?まさかの炎殺黒龍波にはマジビビったっす。ISが無かったら、アタシは間違いなく此の世からおさらばしてたっすよ。」
「えっと……やり過ぎちゃったオレは如何すれば良い?」
「……今夜は、いっぱい愛して欲しいっす。」
「OK、了解だ。」
流石にやり過ぎたと思ったのか、レインはフォルテに駆け寄るが、フォルテは絶対防御が発動したおかげで無事であり、ダメージも精々『軽い火傷』程度のモノなので、其れほど気にする事でもないだろう。
『顔に火傷を負った』と言うのであれば、女の子的に大問題かもしれないが、フォルテが火傷を負ったのは服で隠れる部分なのでノープロブレムである。そもそもにしてレインと言う同性の恋人が居る以上、フォルテがレイン以外の誰かに肌を曝す事はないので、此の程度の火傷は気にする事でもないだろう。……フォルテとレインの『夜のISバトル』に関しては、突っ込むのは無粋であろうな。
ともあれ、此れで戦績は二勝二敗のイーブンとなり、勝負は大将戦で決まると言う、団体戦では理想的な形となったと言えるだろう。団体戦と言うのは、最速で中堅戦で勝敗が決まってしまう事もあるのだが、其れだけに二勝二敗で迎えた大将戦ってのは盛り上がる事この上ないだろう。大将戦で結果が決まるってのは、此の上なく燃えるシチュエーションだからね。
●フォルテ・サファイア(25分22秒 邪王炎殺黒龍波→火柱攻撃)レイン・ミューゼル○
「此れで二勝二敗……でも勝つのは、ウチ等っすよレイン。一夏は、マジで最強っすからね。大将戦は、貰ったっすよ!」
「アイツが強いのはオレも知ってるが、だが果たして学園最強って言われてる生徒会長である夏姫に勝てるか?……オレを含めて、二年生以上の競技科で夏姫に勝った奴はいねぇんだぜ?
アイツがドレだけ強くても、夏姫に勝つってのは無理があると思うぜオレは?」
「確かに生徒会長は最強レベルっすけど、一夏は相手が強ければ強い程、底知れぬポテンシャルを発揮するタイプみたいっすから、最強の生徒会長が相手であっても、一夏ならきっと何とかなるんじゃないすかね?」
「相手が強ければ強い程自分も強くなるって、ドンだけだぜマジで……だが、其れなら確かに夏姫でも簡単に勝つ事は難しいかもな?――ったく、ドンだけの力を持っていやがるんだあのガキは?
こりゃ、冗談抜きで無敵の生徒会長様に初敗北の日がやって来るかも知れねぇな。」
フォルテとレインの試合は、レインが制したが、互いに全力を尽くした試合には観客席から惜しみない拍手と歓声が送られていた。――極めて高い力を持った実力者同士が己の持てる力の全てを出し尽くして戦ったのだから、此の歓声と拍手は当然であると言えるだろう。
そして試合は大将戦――『世界最強の弟』vs『学園最強』の試合に!
互いに二勝二敗で迎えた大将戦、この試合を制したモノが、同時にチームの勝利をも手にすると言う事もあって、会場の熱気は盛り上がりで爆上がりで、滅びの爆裂疾風弾である!若干訳が分からないが、其れは突っ込み不要!考えるんじゃない感じるんだ。
「二勝二敗での大将戦……何とも、此れ以上ない位の美味しいシチュエーションじゃないか?なら、此処はバッチリ決めて勝たないとだよな?上等だ、手加減なしの本気で行くぜ!尤も、会長さんはそもそも手加減出来る相手じゃないけどな!
俺の本気で、会長さんを倒すぜ!!」
「一夏の闘気が爆発した!?」
「此れは……何と言うプレッシャー!」
此処で一夏が闘気を爆発させ、『闘気爆発状態』に!この状態の一夏ならば、並大抵の相手を一方的に屠る事も出来るだろうが、この状態にあっても一夏は理性を失っていないのだ……理性で本能を制御すると言うのは並大抵の事ではないだろうが、一夏はその術を身に付けてるらしい。
荒ぶる本能を理性で制御し、荒ぶる本能の力だけを引き出す事が出来たら其れは問答無用に最強極まりないのだから――尤も、一夏はその境地には至っていないのだが、其れでも纏う闘気は最強レベルだ。
そして夏姫もまた、一夏と同様のオーラを纏う事の出来る人物でもある。――一年生選抜チームvs二年生選抜チームの試合は、最終戦が何やらトンデモナイ事になるってのは間違い無いだろうな……持ってくれよ、アリーナのシールド!!
To Be Continued 
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