一年生選抜チームvs二年生選抜チームの試合当日であっても、一夏は早朝トレーニングは欠かさない――試合当日と言う事で、筋肉の柔軟性を失わない為のトレーニング以外は三分の二の量にしたのだが、昨晩刀奈と夜のISバトルで大ハッスルした事を考えると、翌日の早朝に何時もの三分の二の量であってもトレーニングを熟してしまう一夏のスタミナは途轍もないと言えるだろう。……嫁ズ五人を相手にして全然余裕な事を考えると、一夏のスタミナは絶倫なのは間違いなかろうな。
「ったく、何時もの事ながら精が出るな坊主?試合の日位、トレーニングをサボってもとは言わずとも、もっと軽くしたって罰は当たらないと思うぜ?」
「オータムさん……普通はそうかも知れないけど、俺に限ってはトレーニングをした方が本番で力を発揮出来るんですよ……確かに、トレーニングで体力は消耗はしてるけど、逆にアドレナリンも出てるからトレーニングした方が調子良い位なんで。
其れに、トレーニングで消耗した分は、朝飯食えば略回復するから問題ナッシングですからね。」
「いやいやいや、其れは流石におかしくねぇか!?食って疲労が即回復とか、食べて傷を治すビスケット・オリバかお前は!?身体能力バグってねぇか!?」
「オータムさん、俺を誰だと思ってんすか?『あの』織斑千冬の弟っすよ?身体能力がバグってるとか、ぶっちゃけ今更だと思いません?」
「否、説得力ありまくりだな其れは!?」
然もありなん。
オータムは一夏の護衛と言う事で、一夏がトレーニングを開始する時には既に起きていて、ランニング以外のトレーニングを見守っており、トレーニング後に話をする事も珍しくはないのだが、今日の会話内容は中々にぶっ飛んでいた。
一夏の身体能力が、千冬の其れに匹敵している事は以前に道場で生身の手合わせをした際に多くの生徒が知る所ではあるが、トレーニングで消耗した体力が、朝食食べれば即回復と言うのは驚くなって方が無理だろう。
しかも、一夏の場合『超高速エネルギー補給飯』と言われている、おじや、炭酸抜きコーラ、梅干しのセットではなく、極々普通の朝食メニューで即時回復出来ると言うのだから可成りぶっ飛んでると言わざるを得ない……矢張り織斑の血は、通常の人間とは違う何かがあるのだろう。
「そう言えば坊主、お前今日の試合、生徒会長と戦うんだよな?
IS学園の生徒会長ってのは、『学園最強』でもあるんだろ?正直な所、勝算はあんのか?或は勝つ為の秘策とかそー言うモンがよ。」
「普通に戦ったら絶対に勝てないでしょうね。
生徒会長の能力をグラフにすると、恐らくは隙の無い綺麗な円グラフになる筈です。特出した能力はない代わりに、不得手もないバランス型……の全ステータスが高いって言う厄介なタイプですから。
でも、タッグとは言え何度か模擬戦してみて、近接戦闘とスピードに限定すれば絶対的に俺の方が上なんで、俺の間合いを維持する事が出来れば勝てると思います……つか、負けっ放しは好きじゃないんで、此処等で無敵の生徒会長に黒星付けてやりますよ。」
「だよな?男なら負けっ放しは良くねぇよな?
……よっしゃ坊主、お前にオレが軍人時代に白兵戦訓練無敗を誇ってた必殺技を特別に伝授してやる!試合当日に覚えた技となりゃ、幾ら生徒会長様でも対処出来ねぇだろ!」
「って言われても、行き成り教えて貰っても出来ますかね?」
「俺が見る限り、お前は戦いに関しては織斑千冬以上のセンスがあるから大丈夫だ。
其れに特別難しいモンでもねぇ……だって、馬鹿なオレに出来る事なんだからな。だが、此れを教えてやる以上は絶対に勝てよ?負けたら……学食の『DX豚骨ラーメン』をチャーシュー・高菜・ニンニクマシマシ、餃子付きで奢って貰うかんな?」
「了解です!」
そして、此の土壇場で一夏はオータムのとっておきを伝授して貰う事になった。……其れが何であるのかは、試合で明らかになるだろう。
オータムからとっておきを伝授して貰った一夏はシャワーを浴びて汗を流すと、まだベッドで寝ている刀奈を起こしてシャワーを浴びて来るように言ってから、おはようのキスを頬に落とす……呼吸をするようにこんな事を出来る一夏は何処までも天然ジゴロである。
刀奈がシャワーを終えた後は、食堂で何時ものメンバーで朝食タイムだ。でもって、本日の一夏の朝食メニューは『日替わり焼き魚定食』に納豆の小鉢を追加したモノだった。
本日の焼き魚は『サバの西京味噌漬け焼き』で、納豆の小鉢は様々なトッピングの納豆があったのだが、一夏がチョイスしたのは『メカブ、刻みオクラ、トロロ』がトッピングされたネバトロ120%のモノだった……トロロには滋養強壮の効果があるので、トレーニングで消耗した体力を回復すると言う意味では絶妙なチョイスであったと言えるだろう。
夏と刀と無限の空 Episode77
『Opening!Grade competition!!』
午前十時、IS学園の大アリーナは略全校生徒が集まっていた。
『一年生選抜チームvs二年生選抜チーム』の試合は、既に新聞部が発行した号外によって大々的に学園中に報道されていたので、一年生と二年生は当然だが、既に進路が決まった三年生も観戦に来ているのだ。
一年生は一年生選抜チームを、二年生は二年生選抜チームを、三年生は夫々が気になって居る生徒を応援すると言う感じだろう……が、一年生には二年生と三年生二は存在しないモノがあった。
「「「「ゴー、ゴー!レッツゴー!ファイト、オー!!!」」」」」
其れは一夏の嫁ズを中心に結成されたチアリーダー達だ。
一夏の嫁ズと言う事は、グリフィンも二年生の競技科の生徒でありながら一年生選抜チームの応援をしていると言う事になるのだが、勿論グリフィンはクラスメイトと旦那の何方を応援すべきかめっちゃ悩んだ!悩んで、夜も眠れなくて授業中に昼寝しちゃうくらいに悩んだ!そうして悩み抜いた結果、一夏が居る一年生チームの応援に回ったのである。クラスメイトよりも自分の旦那の方が順位が上だったのだ……まぁ、そうなるのは当然だろうな。
なので、一年生の応援には華がある!何時頼んだのか分からないが、『家政部』が本気を出したと思われるチアコスチュームは、チアコスチュームの正統的な形であるのだが、白系が多い地の色を黒にして、黒に映える赤で首回りと袖口を彩り、胸元には銀で『Team
Rookie!』のロゴが……一年生だから、ルーキーと言う訳なのだろう。中々にセンスが良いと言えるだろう。
――フッ……
何時始まるのかと、思って居ると突如アリーナの照明が消え、そして続いて今度はアリーナの中央にスポットライトが当てられ、其処にはヘアバンドと眼鏡を外し、レディーススーツを纏った虚の姿が映し出される。
「粒揃いの一年か、其れとも経験で勝る二年か……今其れが明らかになる!スペシャルISバトル!一年生選抜チームvs二年生選抜チーム、一試合三十分五本マッチを行います!」
新日本プロレスの名物リングアナウンサーだった、田中ケロリングアナウンサーを彷彿させる見事なアナウンスで虚は一気にアリーナの熱を上げる!――此れは虚のキャラクターでは無いのだが、本来ならこう言ったイベントを取り仕切る夏姫が二年生チームのリーダーとして出場するため、虚は渋々この役を引き受けたのだ。
その割にはノリノリで、此の虚の姿を見たら、弾が惚れ直すのは間違い無いだろう。眼鏡美人のスーツ姿と言うのは、其れだけで途轍もなく知的美女の魅力を冗談無しに300%アップしてくれるのだからね。
因みに、放送席にて実況を担当するのは、放送部二年の阿奈雲紗希、解説は織斑千冬である。
では、今回の試合に出場するメンバーと使用機体を見て行くとしよう。
・一年生チーム
鷹月静寐:打鉄
ティナ・ハミルトン:ラファール・リヴァイブ
フォルテ・サファイア:コールド・ブラッド
凰乱音:甲竜・紫煙
織斑一夏:銀龍騎・刹那
二年生チーム
東住なほ:打鉄
キム・レイファン:打鉄
サラ・ウェルキン:サイレント・ゼフィルス
レイン・ミューゼル:ヘルハウンドver2.5
蓮杖夏姫:セイクリッド・スピカ
一年生チームの非専用機持ちは静寐が打鉄、ティナがラファール・リヴァイブであるのに対し、二年生の非専用機持ちは二人とも打鉄だ……大将戦以外の組み合わせは学園祭の時と同様に、ビンゴマシーンによって決定されるのだが、非専用機持ち同士の戦いになった場合には、一年生チームが圧倒的に有利になると言えるだろう。打鉄は近接戦闘よりのバランス型だが、ラファール・リヴァイブは射撃戦よりのバランス型な上に、ラファール・リヴァイブを使うのは、専用機こそないがアメリカの代表候補生であるティナ・ハミルトンなのだから。
静寐は一年生の一般生徒の中では頭一つ抜きん出ているし、ティナに至っては専用機こそ持ってないがアメリカの代表候補生であるので、二年生とは言え一般生徒とは一線を画す実力を持って居ると言えるのだから、相手が専用機持ちでない限りは圧倒出来ると言っても過言ではないのである。
「其れでは大将戦以外の組み合わせは、学園祭でも使った此のビンゴマシーンで決定します!ビンゴマシーン……スタートォ!」
虚がそう言うと、ビンゴマシーンが起動して、最初の組み合わせを決める。そして、初戦は――
「最初の対戦は、一年生チーム鷹月静寐!二年生チーム、東住なほだ!!」
非専用機持ち同士の試合となった。
静寐もなほも、使用するのは打鉄……日本製のISであり、特出して高い性能が無い代わりに、取り立てて弱点となる要素もないので、初心者でも扱い易い機体と言うイメージがあるが、実際にはそのシンプルさからパイロットの能力がダイレクトに反映される機体であるとも言えるのだ。
「東住先輩……胸を借りますね。」
「胸を借りるだなんて言わないで、最初から本気で掛かって来なさい。」
「勿論、初っ端から全力で行かせて頂きます!!」
「其れでは第一試合、鷹月静寐vs東住なほ、試合開始!!」
試合開始のブザーが鳴ったと同時に、静寐はなほにイグニッションブーストで肉薄すると、近接戦闘用ブレード『葵』を使ってなほを攻め立てる!その圧倒的なラッシュに、なほは防ぐのが精一杯と言った状況だ。
学年が違う一般生徒同士の戦いになった場合、大抵は経験で勝る上級生の方が勝つのだが、静寐は其の『当たり前』を壊しに来ていると言っても過言じゃあるまいな――静寐の猛攻にはなほは防戦一方になってしまっているのだ。
「最初から本気でとは言ったけど、まさかトップギアで来るとはね……ガス欠起こさないようにした方が良いよ?」
「生憎とスタミナには自信があるので心配は無用です!ガンガン行きますよ!」
勿論なほもただ防戦一方になるだけでなく、バックステップからのイグニッションブーストで距離を取ると、射撃用ライフル『焔』を使っての遠距離攻撃を行う。
その射撃は精密其の物で、普通ならば回避するのは難しい攻撃だったが、一夏達とのトレーニングで現役軍人であるクラリッサの超精密射撃に慣れている静寐にとっては避けるのには難が無かったらしく、無駄のない動きで回避すると、再び距離を詰めての近接戦に!
一夏チームは近接戦闘のエキスパートが多いので、一緒にトレーニングをしていれば近接戦闘が得意な人間ならばメキメキその腕が上達すると言うのは道理と言うものである。
今度は徹底的に喰らい付き、距離を話されないようにバックステップにも対処している事で、試合のペースは静寐が握っており、なほは中々反撃の糸口を掴む事が出来ない様だ――試合開始直後の猛ラッシュの時点で、先に静寐が流れを掴んでいたと言えるだろう。もしも、立場が逆だったら静寐の方が防戦一方になっていたかも知れない。
とは言え、現状では静寐の方が有利!決定打こそ与える事が出来ていないが、ちまちまとなほの打鉄のシールドエネルギーを削り、此れならばシールドエネルギーをゼロにする事は出来なくとも、時間切れの判定勝ちは取れるだろう。
一年生チームは、先手は貰ったと思ったのだが、一夏だけは何故か難しい顔をしていた。
「如何したんすか一夏?難しい顔して。」
「……不味いな、此のままだと鷹月さんは自滅しちまうかも知れないぜ。」
「静寐が圧してるのに?ってか自滅って何でよ?」
「打鉄が鷹月さんの激しい動きに付いてけてねぇ。
鷹月さん自身は多分気付いてないだろうけど……此のままだと、マニピュレーターとブースターが限界を迎えてオーバーヒートするぞ。最悪、機体が強制解除だ。」
その理由は、『打鉄が静寐の激しい動きに付いて行けてない』と言う驚きのモノだった。まさか、機体の方がパイロットの動きに付いて行けないとは、そんな非常識としか言えない事を起こす人間なんぞ、現役時代の千冬位のモノだろう。……尤も千冬の場合、専用機の『暮桜』であったとしても、フルパワーで動いた場合は十分でオーバーヒートしてしまうのだが。其れを踏まえると、現役時代のスコールとの試合は大分出力を押さえた状態だったのだろう。
其れは兎も角、此のままでは機体の方が持たないと言うのは宜しくないだろう。
「其れヤバいよ!直ぐに静寐に伝えた方が良いわ!」
「だけどティナ、今攻撃の手を緩めたら絶対に先輩にペース持って行かれちゃうよ!今のペースを崩して、試合の流れを持って行かれたら静寐は勝てないわ!
てか、そもそも今回のルール的に、静寐に伝える事出来ないでしょうが!」
「機体が限界を迎える前に勝負を決めるのが最上の方法か。
東住先輩が鷹月さんの攻撃を捌き切れなくなった所にデカい一発が入って、其処から連続でダメージを叩き込んででシールドエネルギーを削り切る事が出来れば勝てるけど、果たして其処まで機体が持つかが問題だな。」
「てか、トレーニングの時は平気だったのに、何だって今そんな事になってんのよ!?」
「と、トレーニングの時はあくまでもトレーニングであって、初めてガチの試合って事で気合入りまくってリミッター解除しちゃったんじゃないっすかねぇ!?」
「だとしたら、静寐の潜在能力ってドレだけなのって話だわ!」
「模擬戦じゃない、初めての試合で潜在能力が解放された結果、機体の方が付いて行けなくなったとか、一体何処の主人公だって話だな。」
本来ならば、この異常事態は直ぐに静寐に知らせるべきなのだが、この試合のルールとして、『ベンチでの作戦会議は良いが、試合中の選手との通信は禁止。違反したら其の時点で其のチームは反則負け』と言う可成り厳しいルールが設けられているので知らせる事が出来ないのである。その試合の選手が反則負けならば兎も角、チーム纏めて反則負けとか、戦わずして負けるとかもう冗談ではないのだ。……何故こんな厳しい縛りを付けたのか今一謎だ。誰だよ、こんな厳しいルールを考えたのは!
なので、一年生チームは機体の限界が来る前に、静寐が圧し切る事を願うしかないのである。
「やぁぁぁぁぁぁ!」
「しまっ……きゃぁぁぁぁぁ!?」
静寐の攻撃が遂になほのガードを抉じ開け、会心の袈裟斬りが炸裂!
此の一撃で態勢を大きく崩したなほに、更に追撃しようと静寐が葵を逆袈裟に切り上げ――
――ブスン
ようとした所で、静寐の打鉄の腕部マニピュレーターから白煙が上がって動きを停止してしまった……だけでなく、其れを皮切りに脚部装甲からも白煙が上がり、最後はブースターが白煙を上げた後にショートしてクラッシュ!此れからと言う所で、機体が先に限界を迎えてしまったのだ!
加えて、静寐となほは空中戦を行っていた訳で、その状態でブースターがイカレテしまえば如何なるかなど火を見るよりも明らかである!そう、静寐は落下する以外の未来は無いのだ!冗談抜きの紐無しバンジー!死への片道切符と言う奴である!
「え?きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「試合中に機体が壊れるって、嘘でしょぉ!?クッソ、間に合えぇぇぇぇぇぇぇぇ」
一早く事態を理解したなほがイグニッションブーストで先回りして静寐をキャッチした事で、何とか大惨事には繋がらなかったが、客席では『一体何が起きたのか?』と軽く混乱状態になっていた。
攻め込まれていたなほの機体が不具合を起こしたと言うのならば、『防いでいても其れだけ静寐の攻撃が凄かった』で済むのかもしれないが、攻め込んでいた静寐の機体の方が不具合を起こして停止と言うのは流石に意味が分からないだろう。訓練機と専用機の戦いであったのならば、専用機の堅さに訓練機の方が悲鳴を上げたと言う事もあるかも知れないが、同じ訓練機の打鉄でそう言った事態が起こるとは考え辛いのである。
『えぇと、終始攻めていた鷹月選手の機体が突如不具合を起こしたようですが……織斑先生、一体何が起きたのでしょうか?』
『うむ、鷹月も気付いて居ないだろうが、此れは鷹月の動きが打鉄の運動性能を上回ってしまったが故の事だな。要するに、打鉄の方が鷹月に付いて行けなくなって各部がオーバーヒートしてしまったのだ。
最早鷹月は学園の訓練機では本気を出す事が出来ないレベルにまでなっているのだな……日本の代表候補生としてIS委員会の日本支部に推薦しても良いかも知れん。』
だが、其れは解説の千冬が説明してくれた事で観客席の生徒達も理解出来たのだが、そうなると今度は『機体の方が付いて行けなくなるとか、マジヤバ!!』、『ドンな訓練してんのよあの一年!』、『私等ももっと頑張って訓練しよう!』と言った反応をする者が出て来るのは、まぁ仕方あるまい。取り敢えず、『機体の方が悲鳴を上げた』と言う異常事態も、生徒のやる気に繋がる結果になったのならば悪くは無いだろう……自由落下を経験した静寐は怖かったろうが。
「パイロットじゃなくて機体の方が息切れしたって訳ね……貴女、どんな訓練をしてるのよ?」
「模擬戦の後は、略確実にその場で熟睡ですね……でも、一夏君に比べたらマダマダですよ。一夏君は、もう数えるのもメンドクサクなる位の回数、お花畑見てるらしいので。」
「織斑先生の弟君、結構修羅場潜ってる!?」
「刀奈から聞いた話だと、中学生の時に刀奈と一緒に誘拐されて、其処でも全然動じずに、『本気で怒った千冬姉よりも怖いモノはこの世にねぇ』とか言って、誘拐犯達をちょっと納得させたらしいです。」
「修羅場どころじゃない体験してた!そして、その意見には確かに納得しちゃった自分に驚きだよ!納得して良いモノじゃないよね此れは!?」
「一夏君に関しては、納得しても良いかと。」
「うん、身も蓋もないわ其れ!」
静寐もなほも何が起きたのか納得したが、取り敢えず静寐が普段から可成りヤバいレベルの訓練をしている事は間違い無いだろう。模擬戦終了から即熟睡って、ドンだけ身体を酷使してるんだって話である。……熟睡通り越して、死に掛けてた一夏はよりヤベェんですがね。……そもそもにして、死に掛ける様なトレーニングをするなと言う事なのだが、其れは言うだけ無駄なんだろうなきっと。
取り敢えず、第一試合は静寐が機体の不具合によって戦闘不能になった事で、なほの勝利となったのだが、勿論なほはこんな勝利では満足出来ず、『お互いに専用機を持つ事が出来たら、また勝負しましょう?』と言い、静寐も『その時が来たら必ず。』と再戦を約束して試合後の握手を交わしたのだった。
スポーツの試合は、こう言う感じで終わりたいモノである。
●鷹月静寐(13分24秒 静寐機のオーバーヒートによるレフェリーストップ)東住なほ○
微妙な幕切れではあったが、先ずは二年生チームが一勝した訳だが……此のまま黙っている一年生チームではない。第二試合では、間違いなくイーブンに持ち込もうとしてくるだろう。
詰まるところ、試合はまだ始まったばかりだと言う事だ。
――――――
「勝つ心算で行ったんだけど……ゴメン、負けちゃった。」
「気にしちゃダメっすよ静寐!試合はまだ始まったばかりっす!次の試合で直ぐにタイにしてやるだけっすよ!」
「其れに、実力で負けた訳じゃないんだから、気負う事ないわよ。つかぶっちゃけ、打鉄が悲鳴を上げなかったら静寐が勝ってたと思うから!」
「試合には負けたけど勝負に勝ったのは静寐よ。少なくとも、貴女の実力を知らしめる事は出来たと思うわ。」
「こんな事になるなら、束さんに電話してこっそりと訓練機の強度を上げて貰っておくんだったな……束さんなら、学園のセキュリティに引っ掛からずに侵入する位は余裕だろうし。」
一年生チームのベンチでは、静寐が負けた事を謝っていたが、チームメイトは誰一人として其れを責めず、逆に静寐の実力の高さを賞賛していた……一夏が若干不穏な事を言っていたが、其れに対しての突っ込みは不要だろう。確かに束ならば、学園のセキュリティに引っ掛からずに侵入して、誰にもバレる事なく学園の訓練機を強化する位は朝飯前どころか、寝起きのコーヒー前なのだから……『束さんだから』で大抵の事を納得させてしまう束は、もう誰の手も付けられない天才で天災なのは間違いなかろうな。ノーベル化学賞を授与されてもオカシクはあるまい――もっとも本人は『そんなモン要らな~い』って受賞を辞退するかもしれないが。
「其れでは次なる試合を戦うのは誰か!ビンゴマシーンスタート!
……第二試合は、一年生チーム凰乱音!二年生チームはサラ・ウェルキン!専用機持ち同士の試合だ!!第二試合で専用機持ち同士のバトルとは、この試合は第一試合以上に目が離せないぞ!」
さて、ステージでは第二試合のビンゴが行われ、次の試合は乱vsサラだ。
乱は台湾の代表候補生として飛び級でIS学園に入学したほどの実力の持ち主であるが、サラも専用機を受領したのは最近とは言え、イギリスの代表候補生の中では序列一位と、専用機を与えられていたセシリアよりも遥かに上のトップなので其の実力は相当と言えるだろう……若しかしたら、セシリアにブルー・ティアーズが与えられたのは、ブルー・ティアーズで得たデータをサイレント・ゼフィルスに反映させ、より良い専用機をサラに与える為だったのかもしれない。其れってつまりは、セシリアは、ある意味でサラの為の生贄にされたと言う事なのだが、よりよいデータを得る為の生贄になったと言うのであれば寧ろ誇るべきかも知れないな。少なくともイギリスの役には立った訳だから。
「凰乱音……台湾の代表候補生にして、飛び級でIS学園に来たとの事だが、飛び級でIS学園に来る事が出来るだけの実力者と言う事ね?悪いけれど、手加減は出来そうにないわ。」
「手加減とかしたらマジ怒りますからねサラ先輩?アタシと、本気でデートしましょ?」
「グレートブリテンは紳士淑女の国……君の様な可愛らしいレディからのお誘いならば、有り難く受けさせて貰うのが礼儀ね。楽しみましょう、私と貴女のデートを!」
試合をデートと言ってしまう辺りに中々のセンスを感じてしまうが、デートをしていると勘違いしてしまう位の楽しい試合をしようと言う事なのだろう……多分そうだと思う。そうであって欲しい。試合後に乱とサラが『何か』に目覚めない事を祈っておこう。
「第二試合、凰乱音vsサラ・ウェルキン。試合開始!!」
試合開始のブザーと同時に乱は距離を詰めようと飛び出し、サラはビット武装を展開して夫々自分の有利な状況を作り出そうとする。
乱の機体は近接寄りの万能型であるのに対し、サラの機体はビット武装による空間制圧で戦う遠距離型であり、得意な間合いは見事なまでに正反対なので、先ずは自分の間合いを取った方が有利になるのは間違い無いだろう。
「悪いけれど、先手は貰ったわ。」
乱が肉薄するよりも先に、サラがビット武装での『多角形射撃』の陣形を整え、ビット武装からビームが発射されて乱を襲う。
しかも一斉にビームを放つのではなく、ビット武装を動かしながら少しずつ発射のタイミングをずらして上下左右四方八方から絶えずビームが降り注ぐと言う弾幕ゲームさながらの攻撃を行っているのだ。加えて、サラ自身も動きながらライフルで攻撃する事も忘れていない。
ビット武装の操作をしながら自身も動く事が出来るとは、セシリアとは実力が雲泥の差である事が分かるだろう……セシリアは、マジで何故イギリスの代表候補生になれたのか謎である。
「誰が、先手を貰ったですってぇ?」
「嘘!?」
こんな激しい攻撃に晒されている乱だが、慌てる事なく攻撃を回避、防御してシールドエネルギーを削らせない!
否、只回避、防御をしているだけでなく、龍砲でビット武装を吹き飛ばしたり、手にしたカタールの腹の部分でビームを反射したりもしている……乱は、台湾本国から許可を取ってカタール表面にメタリック加工を施しており、光と同じであるビームを反射する事が出来る訳である。
サラはビット武装を常に動かしているので、反射されたビームにビット武装が破壊される事はなかったが、ビームを反射すると言うのは厄介だろう。サラは、ビームが反射された場所に他のビット武装を動かしてしまわないようにしなくてはならないのだ。ビット武装は、只でさえ可成りの集中力が必要となるのに、反射攻撃まで考えなければならないとなると、相当に精神的にキツイモノがあるだろう。
サラの実力は極めて高く、乱との実力差は殆ど無く、機体の相性的には寧ろサラの方が有利であるのだが、其れでも圧倒出来ていないのは、この試合はサラにとっては幾つかの不運が重なった結果だろう。
先ず、サラはサイレント・ゼフィルスを受領してから日が浅く、未だ機体に慣れ切って居ない事。
学園のシミュレーターを使ってビット武装の訓練はしていたが、シミュレーターで使用出来るビット武装搭載の機体はブルー・ティアーズと、シャイニング・ウィングであり、サラはより高性能なシャイニング・ウィングで訓練していた事が仇になった。サイレント・ゼフィルスはイギリスの最新鋭機であり、ビット武装の反応速度もブルー・ティアーズよりも向上しているのだが、其れでもシャイニング・ウィングの反応速度と比べると若干遅かったのだ。
其れは本当に僅かな差なのだが、その僅かな差がサラにとっては厄介なモノだった……この僅かな反応のタイムラグにまだ完全に対応し切れていないのだ。そのせいで一件苛烈に見える攻撃は、実は少しだけ粗が存在して居たりするのだ。
次に相手が乱だった事。
相手が乱以外であったら或は圧倒出来たかもしれない。
だが乱は、サラ以上のビット武装の超適性を持つ円夏との模擬戦を何度も行っているので、並のビット武装の攻撃は通じないのだ……其れを言ったら静寐もそうなのだが、其処は一般生徒の静寐と、飛び級でIS学園に入学した台湾代表候補生の乱の地力の違いと言うモノだ。
最後は、乱のカタールにメタリック加工が施され、ビームを反射する事が出来るようになっていた事だ。まさか、ビームを反射してくるとは思って居なかったので、サラも完全に虚を突かれた事と、反射されたビームの事も考えなければならなかった事で、精神面がゴリゴリと削られているのだ。
「やっと近付けたわ……此処からはアタシのターンよサラ先輩!」
「く……!」
遂に乱はサラに肉薄し、己が得意とする近接戦闘に持ち込んだ!
カタールを振るう乱に対し、サラもコンバットナイフで対応するが、バリバリ近接型の乱に対して、サラは『得意なのはビット武装の攻撃と射撃だけど、近接戦闘も出来なくはない』と言う感じなので、近接戦闘のエキスパートとのクロスレンジは圧倒的に不利なのだ。
加えて、コンバットナイフは攻撃によって順手と逆手を使い分ける必要があるのに対し、カタールは拳の動きが其のままカタールの動きに反映されるので攻撃速度と言うのが段違いなのである。
「隙あり!!」
「が!……く、衝撃砲……!」
乱は其のラッシュに龍砲での攻撃を織り交ぜて、ガード不能の連携を組んで行く……乱の猛ラッシュに加えて見えない攻撃までぶっ放されるとか、サラからしたら堪ったモノではないだろう。
「此れで終わりよ!」
「しまっ……!」
「オ~~~……オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!」
龍砲でサラのガードを強引に抉じ開けると、其処に乱のカタールの超絶ラッシュがブチかまされ、サイレント・ゼフィルスのシールドエネルギーをゴリゴリと削り、ラッシュのシメのフックでシールドエネルギーをゼロにする!
シールドエネルギーがゼロになった事で、サイレント・ゼフィルスは解除されたのだが、乱とサラは其れほど高い位置で戦っていた訳ではないので、サラは空中で態勢を整えて見事に地面に着地していた……試合には負けたとは言え、此のスタイリッシュな着地は中々に魅せる要素があると言えるだろう。
「機体の性能では有利だった筈なのに、負けてしまうとはね……私もマダマダと言う事かな。」
「……円夏との模擬戦をしてなかったら、アタシは負けてたと思うわ。
ぶっちゃけ、サラ先輩の実力って相当高いと思うし……改めて、一夏達がドンだけの化け物なのかって思ったけど。……特に一夏は、たった三年で国家代表ぶち抜いてんじゃねぇわよ。」
「あはは……其れは確かに。」
負けはしたものの、サラの表情は晴れやかだ。
サイレント・ゼフィルスの機体性能を生かし切れなかったとは言え、其れでも今の自分の全力を出し切る事が出来たので悔しさよりも、やり切ったと言う気持ちが大きいのかも知れないな。
「でも、負けっ放しと言うのは好きじゃないから、私が此の子をもっと使い熟せるようになったらリベンジさせて貰うわ……」
そして、サラはリベンジを誓うと、乱の頬にキスをする。
頬へのキスと言うのは挨拶みたいなモノであり、其処に恋愛的な要素はないので、激闘後の挨拶としては全然アリだ……乱も、少しばかり照れ臭そうにキスされた頬を軽く指で掻く程度の事しかしなかったからね。
「了解!リベンジ、楽しみにしているわ!!」
「勝ち逃げはさせないわ。」
乱とサラはガッチリと握手を交わす……新たな百合カップルにはならなかったが、新たなライバル関係が出来上がったみたいである。互いに切磋琢磨して、更なる高みを目指すライバル関係ってのは、最高の関係であると言えるだろうね。
○凰乱音(12分33秒 オラオラの超絶猛ラッシュ)サラ・ウェルキン●
此れで、一年生チームが一点返して一勝一敗のイーブンに持ち込んだ!
となると、第三試合の中堅戦は大きな意味を持って来るだろう……何方かが二連勝していた場合の中堅戦は、試合を決める試合であると同時に、反撃の狼煙を上げる試合なのだが、イーブンで迎えた中堅戦と言うのは、副将戦と大将戦に繋ぐ大事な試合になってくるのだ。
イーブンと言う事は、中堅戦を制したチームが勝利にリーチが掛かる訳で、リーチを掛けられたチームにプレッシャーを掛ける事が出来る訳だからね。
「いい試合だったぜ乱!」
「さっすが、伊達に飛び級してないっすね!ぶっちゃけ、ビリビリ痺れたっすよ!」
「乱なら勝つと思ってたけどね。」
「私の負けを埋めてくれた事に、感謝だよね此れは。」
「へへ、やったぜ!」
ベンチに戻った乱は、一夏達からの賞賛を受けつつも、勝気な笑みを浮かべてのブイサインをする――心の底からの笑みとブイサインのコンボはマジで最強レベルであり、新聞部は連続でシャッターを切っていたからな。
其れは其れとして、二試合が終わった所で互いに一勝一敗と言うのは、イベント的には理想的な状況と言えるだろう……中堅戦からの三試合は此れまで以上に目が離せないモノになるのは間違いあるまい。
「第二試合も実に見事な戦いだった!
此れにて戦績はイーブン……次の中堅戦は、かなり重要な試合になって来る事だろう!其れでは、第三試合のビンゴ、スタート!」
そして、中堅戦の組み合わせるビンゴが始まったのだった……中堅戦は、誰が戦うにしても、この試合の重要な試合になるのは間違い無いだろう――天運は果たして何方に味方するのか……?
取り敢えずこの試合も、先の二試合に負けず劣らずで盛り上がるのは間違い無いだろうな。……ガンガン盛り上げて行きましょう!こう言うイベントは、盛り上げて盛り上げ過ぎと言う事はないのだからね。
唯一つだけ言う事があるとすれば、中堅戦からはアリーナのシールドをリミッター解除した方が良いと言う事だろう。中堅戦からは、先の二試合を超える激しさが予想されるので、シールドの強化は必須だからね……ぶっちゃけ大将戦に関しては、アリーナどころかIS学園其の物が吹っ飛びかねない可能性もあるので、シールドの強度を最強レベルにしておく事に越した事はないからな。
大将戦は一夏vs夏姫で決まっているので、中堅戦の組み合わせが決まると言うのは、同時に副将戦の組み合わせも決まると言う事なのだが、果たしてどんな組み合わせになるのか、そしてどんな試合になるのか!?
一年生選抜チームvs二年生選抜チームの試合は、マダマダ目が離せないようである。
To Be Continued 
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