一年生選抜チームvs二年生選抜チームの試合は更なる盛り上がりを見せ、中堅戦は一年生チームのティナが制して勝利にリーチを掛けたが、副将戦は二年生チームのレインが制した事でイーブンとなり、勝負の結果は大将戦に託される事となった。
互いに二勝二敗で迎えた大将戦、その結果が勝敗に直結すると言うのは実に燃える展開であり、ギャラリーも試合開始前から盛り上がっている――イーブンで迎えた大将戦と言うだけでも盛り上がる事この上ないのだが、その大将戦が『世界発の男性IS操縦者』であり、公式戦では無敗である『一年最強』の一夏と、公式戦だけでなく模擬戦でも無敗の『学園最強』の夏姫の試合となれば尚更である。


「全力を出した結果、イーブンになっちまったっす……一夏、後は任せたっすよ。」

「任された。
 全力を出し切った末の敗北でのイーブンなら、文句はないからな……大将戦でキッチリと決めてやる!無敵の会長さんに、初の黒星を付けてやるぜ……今日こそ勝たせて貰うぜ会長さん!」


一夏は試合に向けて闘気を高めると、手にしたコーラのボトルを激しく振ってから開栓して炭酸を抜くと、炭酸が抜けたコーラを一気に飲み干す!
試合前の水分補給は大事だけれど、試合直前の補給と言うのは普通ならばならば有り得ない事だが、炭酸を抜いたコーラは糖分其の物であり、即エネルギーに変わるモノでもあるので、試合前のエネルギー補給としては実はとても効率が良く効果的だったりするのだ。
あっと言う間に500mlのペットボトルの炭酸抜きコーラを一気飲みしてエネルギーチャージは完了!眠気も覚ましたいならモンエナ一択なのだが、超速のエネルギーチャージならば炭酸抜きコーラの方が断然上なのである!範馬刃牙だって炭酸抜きコーラで試合前にエナジーチャージをしていたので間違いない!


「うし、エネルギー満タン!!」

「炭酸抜きのコーラって、其れもう殆ど只の砂糖水じゃないの?良くそんなの飲めるわねぇ?」

「殆どと言うか、コーラの香りがする砂糖水だ此れ。炭酸の刺激がないと、コーラって此処まで甘いモンだったんだな……超速エナジーチャージが目的じゃなかったら絶対に飲もうとは思わねぇ。」

「其処までエネルギーチャージしてでも、会長さんに勝ちたいんだ一夏君は?」

「そりゃまぁ、タッグとは言え通算成績は今のところ零勝九敗だからな……この大舞台で十敗目を喫するよりもやっぱり勝ちたいって。――何より、この試合でどっちのチームが勝つか決まるんだ、絶対勝ってやろうと思うのは道理だろ?」

「其れは、確かにそうかも知れねっすな……アタシとレインがガチでバトって整えたファイナルステージなんすから、キチッとバッチリ決めて来るっすよ一夏!でも、何処かでネタ入れるのも忘れねぇで欲しいっす!!」

「アタシに二勝目を丸投げした分際で、どの口が其れを言うのよフォルテ……」

「此の口っすけど?」

「よし、ミシンで縫い付けられるか、ホッチキスで留められるか、アロンアルファで接着されるか、口裂け女の如く裂かれるか選びなさい。選ばなかったモノを全部実行してあげるから。
 因みに選べるのは一つだから、全部選んで回避成功なんてのは無いわよ?」


準備を整えた一夏だが、出撃前であっても一年生チームのベンチの空気は変わらない。
二年生チームの方も、大将である夏姫に全てを任せて、その中で冗談を飛ばしたりしているのだが、一年生でありながら略同じ事が出来ると言うのは大したモノだと言えるだろう。……フォルテとティナはスポット参戦とは言え、一夏チームの地獄のトレーニングに参加した事があるので、嫌でも胆が据わると言うモノなのかも知れないが。


「まぁまぁ、レイン先輩との試合で全力出したんだから許してやろうぜハミルトンさん?其れよりも、応援の方宜しく頼むぜ?やっぱ応援された方が気合も入るしな!」

「勿論、応援は任せて。ね、乱?」

「抜かりはないわティナ……応援用のペンライトバッチリ持って来たから!!」

「アイドルのライブじゃねぇっての!……でもまぁ、其れは其れでアリかもな?……其れじゃ、一丁やってくるか!!」


気合は充分!一夏はフィールドに向かうと、同じタイミングで夏姫もフィールドに出て来る……そして、一夏と夏姫の顔に浮かんでいるのは笑み。其れも只の笑みではなく、此れから始まる真剣勝負が楽しみで仕方ないと言った感じの、『闘う者』の笑みだった。










夏と刀と無限の空 Episode79
『大将戦は、燃える!燃やすぜ!Barning!!










『さぁ、二勝二敗で迎えた大将戦!
 一年生チームの大将は、初の男性IS操縦者にして公式戦では無敗の織斑一夏君!対する二年生チームの大将は、去年から公式戦無敗の不敗神話を築いている我等が生徒会長、蓮杖夏姫!
 ルーキーのホープが此の大舞台でジャイアントキリングを成し遂げるのか!其れとも夏姫が不敗神話に新たな一ページを加える事になるのか!解説の織斑先生、この試合をどう見ますか!?』

『うむ、経験と地力で言えば蓮杖の方が上だが、織斑兄は相手が強ければ強いほど底知れぬポテンシャルを発揮する奴だから、正直何方が勝つと明確に言う事は出来ん。
 実力的には何方も一流と言って良いだろうが……この試合の分かれ目があるとすれば、何方が一流と超一流の壁を越えるか、其処に尽きるだろうな。』

『一流と超一流の差って、何ですか其れ?』

『私が此処で其れを言ってしまったら意味が無いだろう。』



二勝二敗で迎えた大将戦と言う事で会場は試合前からヒート80%と言った具合になっており、阿奈雲紗希の実況と、千冬の解説にも熱が入る……千冬の『試合の分かれ目は、一流と超一流の壁を越えるか否か』と言うのは実に興味を惹かれるモノである。
『一流と超一流を分けるモノは何か?』と言う議論は、古くから行われていたが、日本に於いては令和になった今でも其れに対する明確な答えは出ていないのが現状だ。……尤も日本だけでなく、諸外国でも明確な答えは出ておらず、『経験の差』、『技術の差』が筆頭候補になってはいるが、何方も其れを是とするだけのモノが無く、仮説の域を出ていないのだ。経験も技術も同程度であるのに、一流と超一流に分かれてしまっている例もあるのだから。
因みに千冬は超一流すら越えた超超一流で、その彼氏である稼津斗はその上の零流……一より小さい数は零だが、此れは少しばかり意味不明であろう。


「二勝二敗で大将戦……最高のシチュエーションっすね会長さん?」

「あぁ、アタシ達の試合で何方のチームが勝つのかが決まると言う最高のシチュエーションだ……そして、そんな最高のシチュエーションの中で君と戦えると言う幸運を私はエジプトの最高神であるラーに感謝したい気分だ。」

「ラーって、あのラーですか?三幻神の中でも最強って言われているあのラーですか!!」

「そう、攻撃力と守備力が生贄召喚時に生贄にしたモンスターの攻撃力と守備力の夫々を合計した数値になる翼神竜として有名な太陽神のラーだ。最強の太陽神と言うは素晴らしい事この上ないね。」

「其れは否定出来ねぇっすね。日本でも、最高の太陽神であるアマテラスを超える神は存在しないっすから。」

「つまり太陽神は最強で無敵と言う事で良いかな一夏君?」

「勿論、異議はねぇっすよ会長さん。」


そんな会場の熱に飲まれる事なく、一夏と夏姫はフィールドの中央まで進むと試合前のちょっとした話をする……其処でもネタをぶっ込んでくるのは、其れだけ精神的な余裕があると言う事だろう。
大一番を前に心に余裕があると言う時点で、一夏も夏姫も一流であるのは間違い無いだろう。


「君と戦うのは此れで十回目だが、シングルで戦うのは此れが初めてだったね?……前にも言ったが、君とは一度サシで戦いたかった。そう思っていた。
 だから、始めようじゃないか一夏君!アタシと君による、最高にして最強のISバトルと言うモノを!」

「言われるまでもないぜ会長さん……そして、この試合で俺はアンタを越える!不敗神話に終止符を打ってやるぜ!!」


一夏も夏姫も互いに闘気はMaximum!序にやる気もLimitBreak!!
一夏は界王拳を思わせる真紅の闘気を纏い、夏姫は超サイヤ人の如き闘気を纏う……闘気が可視化出来るようになっている時点で一夏も夏姫も大分人間を辞めていると言っても過言ではあるまいな。


「Final Round!一夏vs夏姫!!This is gonna be a match to remember!Fight!!」


司会の虚の試合開始の掛け声もまた特別なモノに。『何時かこの試合を思い出す時が来るだろう』とは、何とも味があって意味が深い事を言ってくれたモノである。
が、試合開始のアナウンスを聞いた一夏と夏姫は未だ機体を展開せずに睨み合い、互いに口元に笑みを浮かべると、一夏は右手を真っ直ぐに上に上げた後に、それをゆっくりと下ろし、水平に切った後に左手を水平に切ってガッツポーズをし、夏姫はベルトのバックルに専用機の待機状態であるカードを差し込むと、右腕を左肩の方に大きく掲げる。


「「変身!!」」


一夏は仮面ライダーBlackRX、夏姫は仮面ライダー龍騎の変身ポーズで夫々の専用機を展開した……この大舞台であってもネタをぶっ込むのを忘れないのは、エンターティナーとしての素質があると褒める所だろう。
が、夏姫が展開した専用機、『セイクリッド・スピカ』は此れまでとは少しばかり様相が異なっていた。
全体的にスマートなシルエットは変わらないのだが、翼を思わせるアンロックユニットとは別に、背には大きな翼が追加され、一丁だったビームライフルも二丁に増えているのだ。
エジプトから送って来た追加装備にも見えるが、其れ等は後付けの追加装備ではなく、セイクリッド・スピカ自身が新たに生み出したように一夏には思えた。


「会長さん、その機体……若しかして、二次移行したんですか?」

「ふふ、正解だよ一夏君。
 アタシは君との最高の試合をしたいと思って十日間、自分を鍛えぬいて来たんだが、その最中にスピカがアタシの思いに応えてくれて、こうして二次移行する事が出来たんだ。
 『セイクリッド・スピカ-ACTⅡ』其れが此の子の名前さ。」

「マジで二次移行かよ……コイツは可成りキツイかもだぜ。」


一夏の予想は間違ってはいなく、夏姫の機体は二次移行をしてその機体性能を大幅に上昇させていたのだ――が、此れは一夏にとっては嬉しくない情報だろう。
二次移行した機体を使っていた時ですら、二次移行してない機体を使っていた夏姫に連敗していたのだから、その夏姫の機体が二次移行したと言うのならば、機体性能も差がなくなったと言う事であり、一夏のアドバンテージは略無くなったと言えるのだ。


「絶対不利……上等だ!その不利を覆してやるぜ!!」


だが、だからと言って一夏が試合前に降参するかと言えば、其れは断じて否だ!
千冬が、『一夏は相手が強ければ強いほど底知れぬポテンシャルを発揮する』と言ったが、同様に不利な状況であればあるほど、その状況を打開する為にトンデモナイ力を発揮出来るのが一夏だ。

超神速の一足飛びで夏姫に肉薄すると、居合いの逆袈裟を叩き込むが、夏姫は手元にビームジャベリンを展開して其れを防ぐ……が、一夏の攻撃は其れでは終わらずに、続けざまに鞘打ち→鞘当て→逆手二連居合いのコンボを叩き込む!
流石の夏姫もこの超コンボを全て捌く事は出来ず、最後の逆手二連居合いの二撃目を受けたと見せかけて自分からバックジャンプをしてダメージを逃がすのが精一杯だった。


「此れで終わりじゃないだろ?」

「ふ……掛かって来い。君の力はこんなモノじゃないだろう?」

「燃やすぜ!!」


だがしかし、試合が止まる事はなく、再び一夏と夏姫は互いの技術の全てを駆使した試合を展開して行く――一夏の袈裟切りを躱した夏姫が、ビームジャベリンで反撃すれば其れを防ぎ、夏姫が放ったダッシュ突きを一夏はジャンプで回避した後に、落下速度と体重が乗った兜割りを叩き込む!!
夏姫は其れをバックステップで躱すと、ビームジャベリンを柄の部分から二つに分割し、ビームサーベルの二刀流で斬りかかり、一夏も朧と鞘の疑似二刀流で応戦して互いに決定打を相手に与えない。
その攻防の激しさは、副将戦までの其れとはレベルが違い、二人がぶつかる度にアリーナのシールドが震えると言えばその凄まじさが分かるだろう。


「「…………!!」」


何度目かの攻防の後に、背中合わせに立った一夏と夏姫は、暫し無言で背中を合わせていたが、次の瞬間には弾かれたように身体を反転させ、一夏はミドルキックを、夏姫は上段回し蹴りを繰り出したのだが、互いにそれはキッチリとガードをして、そして一度間合いを離す。


「ふふ……まさか此処までアタシと互角に遣り合う事が出来るとは思っていなかったよ。」

「でも、まだ全力じゃないですよね?……そんじゃ、準備運動は此れ位して、そろそろ本番と行きますか会長さん!」


そして驚愕の事実!此処までの超バトルも、一夏と夏姫には準備運動だと言うのだ……悟空とフリーザかお前等は!アリーナのシールドを、ビリビリと震わせておきながら、其れが準備運動とかマジでドンだけだ一夏と夏姫は!!


「あぁ、良い感じに体が温まって来たからね……其れじゃあ一夏君、君相手には初お披露目となる技だが、君は此れにどう対処するか見せて貰おうか?」


此処からが本番となると、夏姫はビームサーベルを仕舞い、其のまま腕を組んで少しだけ浮くと……なんと其のまま上下を反転させて空中倒立とでも言うべき姿勢を取って来た!
ISを纏っているからこそ出来る事ではあるが、まさか試合中に行き成り逆さまになるとは誰も思わないだろう――一夏もまた、イキナリの事態に面食らってしまい、僅かではあるが其の動きを止めてしまった。大抵の事では驚かない一夏であっても、目の前の光景は余りにも奇想天外過ぎたのだろう。


「ふふ、驚いている暇はない……行くぞ!」

「うお!?」


そんな一夏に対して、夏姫は逆さまになった状態から蹴りを繰り出して来た。
サマーソルトキックの逆版とも言うべき蹴りは真上から蹴り下ろされるので威力が高い上に重く、一夏もギリギリでガードしたのだが直ぐに反撃は出来ない……だが夏姫はそんな一夏に更なる蹴りを見舞って行く!
其れも上からの蹴りではなく、上下左右あらゆる角度から襲い来る蹴りの嵐だ。
蹴り技に関しては、ヴィシュヌとの模擬戦を行っている事で対処法を身に付けている一夏ではあるが、通常のスタンディング状態ならば兎も角、上下が反転していると言う事で技の出所が分かり辛く、加えて夏姫は時に身体を真横に倒した状態での蹴り上げによる横蹴りを入れてきたりと、トリッキーに立ち回って来るので中々精神的にもゴリゴリと削られている感じだ。


「(クソ、攻撃が全く読めねぇ……!上下が反転しただけで此処までやり辛いモンなのか?……いや違う、カポエラとは違って宙に浮いてる事で攻撃の自由度が上がってるから余計にやり辛くなってるのか!!
  此のままじゃジリ貧だが如何する?何処から攻撃が飛んで来るのか分からないんじゃ如何しようも……待てよ?何処から攻撃が飛んで来るか分からない?だったら攻撃が何処から飛んで来るか分かるようにすれば良いんだ!)」


だが、此処で一夏は何を思ったのかフィールドに仰向けに寝転んだ。
降参したと言う訳ではないだろう。その証に口元には笑みが浮かんでいるのだ……そして其れを見た夏姫も、ヘッドパーツの下で笑みを浮かべた。一夏が何を思い付いたのか楽しみだと言ったところだろう。


「その仰向けにどんな策が秘められているのか、確かめさせて貰うとしようか?」


そう言って夏姫は仰向けの一夏に蹴りを繰り出したのだが……一夏はそれを見事にガードし、其れだけでなく蹴り足をホールドしてから立ち上がり、立ち上がると同時に電光石火のドラゴンスクリューで夏姫を投げる!
夏姫の空中逆さ蹴撃に対し、初めて完璧なまでの反撃を決めたのである。


「その技、確かに厄介だけど、攻撃が何処から来るか分かるようにすれば良いって考えたら、驚くほど簡単に攻略法が見つかったぜ……自分から仰向けになっちまえば、俺への攻撃は上からの攻撃に限定されるし、攻撃する側も其れ以外の攻撃の方法がなくなっちまうからな。
 上からしか攻撃される事がなくなれば、防御も反撃も容易だった……だからもう、その技は俺には通用しないぜ会長さん!」

「うん、見事だ一夏君。
 攻め込まれながらも冷静さを失わずに攻略の糸口を見つけるとは、才能などと言う言葉では済ませられない程の実力だ……だが、だからこそ実に楽しいよ。君との戦いに備えて、トレーニングをしてきた甲斐もあると言うモノだ!!」

「ビット武装!!」


態勢を立て直した夏姫は飛翔すると新たに追加された翼を展開し、翼とアンロックユニットからパーツを射出して一夏を取り囲む……二次移行した事で、夏姫の機体には新たにビット武装が追加されたらしい。
しかもそのビット武装は、円夏やサラの機体に搭載されているような射撃ビットだけでなく、先端にビームエッジを展開してビットでの直接攻撃を行う『ソードビット』も存在していた。
多角的な射撃だけならば、射撃の瞬間には動きを止めざるを得ないビットをピンポイントで破壊する事も出来るが、ソードビットがあると其の反撃を潰される事もあって、対処が一気に難しくなるのだ。


「今更、そんなモノにビビるかよ!!」


だが、其れはあくまでも一般的な話であり、更識ワールドカンパニーで過ごすようになったその日から、ほぼ毎日のように円夏の情け容赦ないビット攻撃に晒されて来た一夏には、『だから如何した!』程度のモノでしかない。
射撃ビットの攻撃に合わせてビームダガーを放とうとした所に突撃して来たソードビットを掴み取ると、そのソードビットを別のソードビットにぶん投げて破壊すると言う脳筋プレイを見せると、イグニッションブーストを使って高速移動をしながら、DIO様の如くビームダガーを投げ散らかしてビット武装を全て破壊!!
そして其のまま、夏姫にもビームダガーの雨霰を喰らわせるが、夏姫は全てのビームダガーを二丁ビームライフルと翼に収納されていた電磁リニアキャノンを使って全て迎撃する!

ビームダガーを全て撃墜した夏姫は、一夏に向かってビームを連射するが……


「オラオラオラァ!!」


一夏はそのビームを全て斬り飛ばして夏姫に接近する!……弾丸を斬るだけでも充分過ぎるほど人間を辞めてる訳だが、弾丸よりも更に早いビームを斬るとか、一夏も人外である。人外上等の千冬の弟である一夏もまた人外……血は争えないとはよく言ったモノだ。
其のまま一気に距離を詰めると一夏は居合いを繰り出し、夏姫はビームジャベリンで其れを防ぐ……正にどちらも譲らない展開だ。
地力で言えば夏姫の方が上で、更に機体が二次移行した事で夏姫が圧倒的に有利だった筈なのだが、試合前に千冬が言ったように、一夏は相手が強ければ強いほど底知れぬポテンシャルを発揮する人間であるので、試合中にもガンガン成長し、そして夏姫と互角に遣り合う事が出来ているのである。


「まさか此処まで喰らい付いて来るとは……あぁ、楽しいな一夏君!こんなに楽しい試合は初めてだよ!!」

「そう言って貰えるとは光栄っすね!!」

「『男児三日会わずば刮目して見よ』とはよく言ったモノだ……以前の君とはまるで別人の様だ!一体この十日間でどんなトレーニングをして来たんだい?」

「嫁五人を同時に相手する模擬戦を只管繰り返しただけっすよ!」

「其れはまた何とも……だが、成程ね。
 彼女達の個々の実力では少しばかりアタシに届かないが、其の五人が束になればアタシを越えると言う事か……そんな模擬戦を繰り返していたと言うのであれば此の急激過ぎるレベルアップにも納得だ!」


其処から展開されるのは、互いに高速移動しながらのドッグファイト!何方かが仕切り直しを狙って間合いを開けば、即座にイグニッションブーストで肉薄して仕切り直しをさせない、マジで息も吐かせぬインファイト!
だが其れだけに互いに決定打を与える事が出来ず、シールドエネルギーを少しずつ削り合う戦いになっているのもまた事実。此のまま試合が続いたら、時間切れで判定に持ち込まれるのは間違いないだろう。
フルタイム戦い切ったと言うのは、其れは其れで見事なモノだが判定の場合は極稀に、『シールドエネルギー残量が双方とも同じ』と言う状況で引き分けになる場合があるのだ……試合内容が盛り上がっているモノだけに、『時間切れ引き分け』と言う結果では尻切れトンボでしかない。一夏も夏姫も、キッチリ相手のシールドエネルギーをゼロにして勝ちたいと思っている事だろう。


「疾っ!!」

「!!!」


此処で先に仕掛けたのは夏姫の方だった。
至近距離での剣劇の最中、突如鋭い蹴り上げを放って来たのだ!一夏は其れを紙一重でギリギリ躱したモノの、至近距離での蹴り上げに虚を突かれ、一瞬ではあるが動きが止まってしまったのだ。
時間にすれば精々一秒程度だが、激しい攻防の最中に確実に一秒動きが止まったら、其処に大ダメージの一撃を叩き込む事は難しくないのである。
夏姫もこの好機を逃さず、蹴り上げた足を振り下ろして、これまた鋭い踵落としを放つ!狙いは一夏の脳天!決まればシールドエネルギーを大きく削る事が出来るだろう!



――スパーン!!



「んな!?」


だがその踵落としが決まる刹那の瞬間、鞭を鳴らしたかのような乾いた音が鳴り響くと、踵落としを繰り出そうとしていた夏姫の態勢が崩されていた。
観客は勿論、夏姫にも何が起こったのか分からない様だが、そんな夏姫に一夏はソバットを叩き込むと、更に流れるような動きでサマーソルトキックを決めて夏姫を蹴り飛ばす!
此れにより、先に大きくシールドエネルギーを減らしたのは夏姫の方になったのだ。


「ククク……まさか、此処でソイツを使って来るとはな?だが、その使い方は百点満点だぜ坊主。」


其れを見て満足そうな顔で笑みを浮かべているのはオータムだ。彼女と千冬、後はスコールだけが一夏が一体何をしたのかを理解していると言ったところだろう。刀奈達も、一夏がソバットの前に何かしたのは分かったのだが、其れが何であるのかまでは分かっていない様だ。


「オータムさんは分かったの?一夏が何をしたかが。」

「オウよ。ってか、ソバットの前の攻撃を教えたのはオレだからな。」

「貴女が教えたモノだったのですか?一夏は、一体何をしたのか教えて頂いても?」

「まぁ、隠す程のモンじゃねぇから良いけどよ。
 坊主が使ったのは、言っちまえば超高速の蹴りだ。其れこそ、生身の状態で放っても目視が難しい位のな。要するにあれだ、日本のコミックで『刃牙』ってのがあって、其れに出て来る愚地ナンタラの使う……」

「愚地克己のマッハ突き、ですか?」

「そうそう、其れだ簪嬢ちゃん!其れの蹴り版、蹴りに使う全ての関節を同時に加速させて放つマッハ蹴りってところだ……生身でも目視出来ねぇ超速の蹴りがISのパワーアシストで強化されたら、ハイパーセンサーでも捉え切る事は出来ねぇよ。」

「マッハ蹴り……何時の間にそんなモノを一夏に教えたんだい貴女は?」

「何時って、今朝だな。
 トレーニングをしてる時に今日の試合で使えるかと思って教えてやったんだけどよ、全ての関節の同時加速のコツ掴んだらあっと言う間に覚えやがったぜ……ったくドンだけの才能があんだアノ野郎は。アイツが男じゃなかったら、ぜってー惚れてたわオレ。」

「いや、今朝って幾ら何でも付け焼刃過ぎるだろう……だが、今の一連の攻撃を見ると付け焼刃と言えないのが何ともアレだ!最早熟練の攻撃だったぞ今のは!」


その正体をオータムが説明すると、其れがどんな攻撃であるのかを理解すると同時に、其れを今朝覚えたと言う事実に驚く他なかった。
そう、此れこそが今朝オータムが一夏に教えた『とっておき』の正体であり、オータムが米軍在籍時代に白兵戦の模擬戦で無敗を築き上げた根幹を成す技だったのである。
蹴りに使われる関節を同時に加速する事で、目視不可能となった蹴りは相手の態勢を崩しやすく、更に其のスピードも相まって略どんな攻撃に対してもカウンターによる確反(確定反撃の意)が取れるのである……のだが、驚くべきは虚を突かれて動きが止まった筈の一夏が、反射的に此の攻撃を行った事だろう。


「しっかしまぁ、今のカウンター、一流と超一流の壁を越えたのは坊主の方だったか。」

「其れって、如何言う事か説明をお願いしても?」

「千冬が言ってた一流と超一流の壁ってのが何かって言うとな、そいつは実戦の場で頭で考えるよりも先に直感で最適解を導きだすインスピレーションだ。
 生徒会長の蹴り上げで動きが止まっちまった坊主だが、その状況を如何するかを考えるよりも先に直感が答えを導き出して、マッハ蹴りを反射的に放ったって訳だが、その後の追撃も恐らくは頭で考えたモンじゃなくて直感で放ったモンだろうな。
 態勢を崩した所にソバットを叩き込んで更に態勢を崩して前傾姿勢になった所に、頭を蹴り上げるサマーソルトキックってのは、効果的なコンボだからよ。」


一流と超一流を分けるのは技術でも経験でもなくインスピレーション……確かにそうかも知れない。
究極の直感は、理論派が試行錯誤して辿り着いた最適解を一瞬で導きだしてしまうモノであり、その究極の直感と閃きこそが一流と超一流を分ける差だと言えるのである。
考えてみれば、夏姫の空中倒立状態での攻撃を破った、『自ら仰向けになる』と言うのも、其れが正解だと思った訳でなく、『一方向から攻撃させるには此れだ』と閃いた結果なのだ――一夏は超一流への扉を、この試合でこじ開けた訳である。


「だが、此れで生徒会長は可成り不利になったぜ?
 今ので如何したって生徒会長は、坊主の『見えない攻撃』を意識せざるを得なくなった……勿論何回か使えば、その正体が分かっちまうだろうが、逆に乱発しなけりゃ、意識させ続ける事が出来る訳だ。
 そんでもって、いつ来るか分からない攻撃を警戒した状態で遣り合えるほど、坊主のクロスレンジ戦闘は甘くねぇ!」


オータムの言った通り、其処からは一気に一夏が攻勢を強めて行った。
夏姫は一夏の『見えない攻撃』を警戒してガードと回避の比重が大きくなり、攻撃の手が鈍ってしまったのだ……其れでも、一方的に押し切られて居ないと言うのは流石だが、此処に一夏と夏姫の戦いに於ける経験の差が出た。
一夏は剣道では無敵を誇り、無手の格闘でも夏の異種格闘技大会で頂点に立った訳だが、ISバトルに関しては、更識ワールドカンパニーに身を置いたその日から数え切れない程の負けを経験しており、その敗北を糧にして成長して来た。
だが、夏姫は持って生まれた才能をトレーニングをして研磨して来た事でその才能を100%開花させ、ISパイロットとなってからこの方ただの一度も負けた事がない。
常勝不敗の絶対無敵は確かに凄い事ではあるが、『負けた事がない』と言うのは、ある意味で諸刃の剣だ……敗北の悔しさを知らず、其れを糧にすると言う経験がない為、『不屈の雑草の強さ』と言うモノが無いのである。
常勝不敗のオンリー勝利のエリート街道を歩いて来た者と、数え切れない敗北を経験し、その敗北を己の糧とした者では、最終的に到達する『強さ』には絶対的な差が存在すると言っても過言ではないだろう。
もう一つの差としては、一夏が数え切れない位の『苦戦』を経験しているのに対し、夏姫は『互角の勝負』の経験はあるが、『苦戦』した経験がないと言うのが挙げられるだろう。苦戦の経験がない夏姫は、自分が圧されている状況になると防御主体の戦い方になってしまうらしく、只でさえ『見えない攻撃』を警戒して比重が大きくなっていた防御と回避が更に多くなり、攻撃の手数はより激減し、其れが余計に一夏にペースを握らせてしまっているのだ。


「ッシャア!!」

「く……!!」


激しい攻防の最中、一夏は再びマッハ蹴りを繰り出すと、今度は身体を反転しての鞘打ちから逆袈裟切りに繋ぐコンボを叩き込み、更に逆手の連続居合いをブチかまして夏姫のシールドエネルギーを大きく減らす!
勿論夏姫もやられっ放しではなく、ビームジャベリンで攻撃して一夏のシールドエネルギーを減らすが、其れでも何方が優勢かと言われたら、其れは間違いなく一夏の方が優勢だと言えるだろう。

そして――


「会長さん……此れで終わりにするぜ?界王拳!!」

「君の最大の攻撃か……良いだろう、受けて立つ!!」


此処で一夏は一度間合いを離すと、居合いの構えを取ってからリミットオーバーを発動!
一夏の剣でも最速最強である居合いが、リミットオーバーの効果で攻撃力とスピードが三倍になったと言うのは、正に超必殺技以外のナニモノでもないのだが其れを見た夏姫は、真正面から其れを受ける心算の様だ。
将来有望なルーキーの最大の攻撃を避けるなどと言う野暮な選択肢は元より存在していなかったのだろう。


「コイツで……決まりだぁぁぁぁ!!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


一夏のマッハの居合いと、夏姫の超速の斬り下ろしが交差し、一見すると互角に見えたが……一夏が朧を一振りして納刀した瞬間に、夏姫の機体が解除されて、其の場に膝を付く事になった。


『けっちゃーく!!蓮杖夏姫、シールドエネルギーエンプティ!!
 一年生選抜チームvs二年生選抜チームの試合は、大将戦を一年生選抜チームの織斑一夏君が制し、一年生チームの勝利だー!1、2、3ダー!!』

『ふむ、大将戦に相応しい見事な試合だった。引退した身ではあるが、久々に心が熱くなった。』



その結果が意味するのは、一夏の勝利だ。
夏姫の斬り下ろしも一夏の肩口を捉えていたのだが、一夏の居合いは夏姫の胴を抜いていたので、その差が出たのだ……肩口を斬られても致命傷になる事は稀だが、腹を斬られたら大抵致命傷なので、絶対防御の発動によるシールドエネルギーの消費に差が出て、夏姫の機体エネルギーはゼロになってしまったのだ。


「はぁ、はぁ……負けてしまったか……だが、負けたと言うのにとても清々しい気分だ……アタシの全力を出す事が出来たから、かな?」

「だと思うぜ会長さん?……会長さんはめっちゃ強いからさ、此れまでガチで本気になるって事は中々無かったんだろうけど、今日の試合では本気で全力を出したんだから、悔しいよりも清々しい気分になるってのは道理だろ?
 テメェの実力を出し切る事が出来ずに負けたってんなら悔しい事この上ないけど、全力を出し切って負けたってんなら悔しさよりも、やり切った満足感の方が大きいモノで、そして次に繋げようって思うもんだからな。此れ、俺の体験談な。」

「君の体験談か……確かに、アタシはこの敗北を分析して、そしてまた君と戦いたいと思っているからね――だが、今回は完敗だよ一夏君。君こそが、今のIS学園最強と言っても過言ではないだろう。
 だが、アタシも負けっ放しと言うのは好きじゃないから、アタシの在学期間である残り一年の間に、今度はアタシがチャレンジャーとして君に挑ませて貰うよ。」

「そう来なくっちゃな……リベンジ待ってるぜ会長さん!」


試合が終わった後は、互いの健闘を称える握手だ。
一夏と夏姫は再戦を誓ってガッチリと握手を交わし、そしてその後に夏姫が一夏の手首を掴んでから持ち上げ、『勝者の証』である拳を突き上げる!――其れに会場は大いに沸く!夏姫は、ISバトルの実力だけでなく、こう言ったパフォーマンスも実に見事なのだ。

いずれ劣らぬ大激闘が展開された一年生選抜チームvs二年生選抜チームの試合は、一年生選抜チームの勝利に終わったのだが、この試合はIS学園に於ける伝説の試合となり、後に年間イベントとして定着するとは、この時は誰も思っていなかっただろうね。








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試合が終わった後、一夏はオータムから勝ったご褒美として、昼食に食堂で『カルビ焼き肉豚骨ラーメン・ニンニクマシマシ』を奢って貰い、午後は刀奈と本日の動画として『一夏の格ゲー魂キャラ』で、KOFの初代主人公の草薙京の性能を此れでもかと言う位に掘り下げて解説し、動画を編集した後は良い時間になったので食堂で夕飯を摂り、そして今はお風呂タイムである。


「ふぅ……何とか勝てたとは言え、会長さんはやっぱり強敵だったぜ……だからこそ、俺も燃えたけどよ。」

「でも、一夏は会長さんに勝っちゃったんだから、暫定でIS学園最強って事になるわよね?……私の旦那がIS学園最強って、とっても誇らしい事この上ない――って一夏なら、学園最強を通り越して世界最強にも手が届くんじゃないかしら?」

「うん、その可能性は否定出来ないよ刀奈……一夏は、お義姉さんの力を間違いなく受け継いでいるからね?そう遠くない未来に、一夏は世界最強の座に就く筈だと確信しているよ。」

「一夏が最強……其れは、とても誇らしいですね。」

「なら、私達も最強の嫁にならないとね!取り敢えず、夏姫にタイマンで勝てる位にはさ!」

「そうだな、最低でも其れ位にならねば、一夏の嫁を名乗る事は出来まい。」


そのお風呂タイムは、当然のように一夏と嫁ズが混浴であったのだが、一夏も嫁ズも今更混浴で驚く事はないので無問題!寧ろ、こっちの方が平常運転であると言っても過言ではあるまいて……愛情が限界突破した者達にとっては、此のシチュエーションもまたそれ程大したモノでは無いのかも知れないけどね。


「皆、来いよ。」

「「「「「うん……」」」」」


一夏が湯船に両腕を広げてそう言うと、湯船に乗せられた右腕にクラリッサとグリフィン、左腕にヴィシュヌとロラン、一夏の膝の上に刀奈が座ってターンエンド!誰が何と言っても幸せ其のモノの光景が其処には有ったのである。
でもって、一夏達はその後とっても良い感じのラブラブなバスタイムを過ごしたのだった……永遠に爆発しやがれこの野郎!!










 To Be Continued