冬休みも終わり、三学期初日の日に、一夏達は新学期の準備などに慌てる事なく、早朝の学園行きのモノレール駅に集まっていた。
時間は午前7:00と登校には大分早い時間であるのだが、八時台のモノレールは途轍もなく混雑するだろうと予想して早めのモノレールに乗ったのだが、その予想は大当たりであったと言えるだろう。
一夏達が乗ったモノレールはガラガラだった訳だからね。
そんな訳で、快適なモノレール旅で学園島に到着した一夏達だったのだが、到着すると同時にモノレール駅から去る千冬を目撃した。
千冬は冬休み期間が終わる前に学園に戻っているので、モノレール駅に来るとしたら学園島から本土に行く誰かを見送りに来たとか、そう言う事になる訳だが、こんな時間に見送りと言うのは少し事情があるようだ。


「千冬姉……朝早くからこんな所で何やってんだ?」

「一夏……其れとお前達もか。
 なに、大した事ではない……篠ノ之を見送ってやったのだ。アイツは、IS学園を去ると言う選択をしたらしい。」


一夏も気になったので話し掛けてみたら、帰って来たのは箒がIS学園から去る事になったと言う答えだった――箒が学園に居ようが居まいが、其れ自体は一夏達にはマッタク持って何の関係もない事だが、束から直接専用機を渡され、陽彩によって二次移行までされた機体を持って居ながら学園を去ると言う選択をしたと言うのは些か解せないモノが無いと言えば噓になるだろう。


「何だ、遂に退学処分になる様な事をしでかしたのか、あの掃除用具は?」

「掃除用具……箒だから間違ってはいないな。
 いや、退学処分ではなく自ら退学届けを出し、学園は其れを受理したのだ――学園祭以降、アイツは日本の代表候補生の強化合宿に強制的に参加させられていたのは知ってると思うが、其処で自らがトコトンISの操縦には向いていないと言う事を痛感したらしい。
 ISを使わない生身での武術であれば他の代表候補生に勝つ事もあったようだが、ISバトルになると全く勝てなかったらしい……機体の性能では圧倒しているにも関わらず、だ。
 合宿で己の身体能力は向上したのに、ISの操縦技術だけは一向に向上しないと言う現実を、ISバトルに於ける己の才能の無さを突き付けられて心が折れたと言う事なのだろうな……専用機を返還してIS学園を自主退学し、三学期からは一般の高校に編入するとの事だ。」


学園外で、ISに於ける己の無力さを痛感して学園から去る選択をしたと言うのは、中々殊勝な判断と言えなくもないが、学園には未だ陽彩が居る。一度は婚約者にまでなった相手から簡単に離れる事が出来るとも思えない……或は、陽彩への想い以上に打ちひしがれたのかも知れないが。


「元々篠ノ之はISに対してあまり良い感情を持っていなかったから、此れで良かったのかも知れんがな……何と言うか、同一人物とは思えない程良い顔をしていた。
 まるで憑き物が落ちたかの如くな。
 まぁ、お前達も詳しい事が聞きたい訳ではないだろうからこの話は此処までだ。
 さて、此の時間に登校して来たと言う事は朝食は未だなのだろう?食堂はもう開いているから食事を摂って始業式の準備を終わらせておけ。幾ら早く登校して来ても、始業式に遅れてしまっては意味が無いからな。」

「確かに。そんじゃ、俺達は朝飯食って来るわ。」

「其れでは、また始業式で会いましょうお義姉さん♪」


千冬が箒に関しての話を終わらせると、一夏達は先ず寮に行って荷物を下ろした後に食堂で朝食を摂り、始業式が始まるまでまったりと過ごすのであった。
その後、始業式は無事に終わったのだが、始業式後の一組のホームルームにて『篠ノ之箒が学園を自主退学した』と言う事を聞いた陽彩は、遂に箒までもが学園から居なくなってしまったと言う事に、この世の終わりが来たかのような表情を浮かべていた……合掌。










夏と刀と無限の空 Episode76
『三学期、イキナリの大イベントで燃えるぜ!』










三学期が始まってからは特に問題もなく、一夏達も平和に授業を受け、部活やトレーニングに精を出して充実した日々を送っていた……アリーナ使用のダブルブッキングと言った些細なトラブルが起きた事もあったが、学年別トーナメントでのVTSの暴走、臨海学校の時の銀の福音の暴走と比べたら全然大した事ではなく、マジで平和其の物であった。


「織斑一夏です。」

「来たか。どうぞ入ってくれ。」

「失礼します。」


そんなある日、一夏は生徒会室へと呼び出されていた。しかも校内放送ではなく、夏姫からのLINEメッセージでだ。……まぁ、校内放送で呼び出したら、生徒会室に他の生徒が殺到する事態になるかも知れないのでLINEで呼んだのかも知れないが。


「スマナイね態々来て貰って。適当に掛けてくれ。虚君、お茶を。」

「畏まりました会長。」

「あ、お構いなく。」


夏姫に促されて一夏がソファーに座ると、虚が紅茶とお茶菓子のクッキーをテーブルの上に用意する。ティーパックではない紅茶と言うだけでも結構驚きだが、クッキーもコンビニやスーパーのお菓子コーナーで売ってるようなモノではなく、洋菓子・焼き菓子の専門店で売っているような高級感のあるモノだ。
ティーカップやクッキーが入っているバスケットも中々にお洒落で安いモノではなさそうである。


「紅茶もクッキーも、此れ結構良いモノじゃないですか?
 紅茶の此の香りは……ダージリンの最高等級ですか?若しかして会長さんって、結構こう言うの拘る人だったりします?ティーカップとバスケットもセンス良いと思いますし。」

「まぁ、アニメやゲーム以外の趣味と言った所かな?
 昔イギリスに旅行に行った時、イギリス人のお茶に対する拘りに感心してね……興味が湧いて勉強したら、何時の間にかアタシ自身がお茶に拘る人間になって居たと言う訳さ。
 料理の方は今一つなモノが多いイギリスだけれど、紅茶とお菓子に関しては世界レベルだと思うね。……まぁ、イギリス料理にも美味しいモノはあるのだけれど、ニシンが虐殺されたようなあのパイだけはヴィジュアル的に無理だ。」

「魔女の宅急便に出て来た『ニシンとカボチャのパイ』って、アレが原型らしいっすね……確かに、元ネタ其のままで出て来たら、孫も『私此のパイ嫌いなのよね』って言っちゃうのも納得っすよ。」

「君もそう思うか、アタシもだ。
 と、話が逸れたな。一夏君、君を今日呼び出したのは、二年の競技科の生徒達から、『二年生の競技科の選抜チーム五人と、織斑一夏を入れた一年生の選抜チーム五人との試合をさせて欲しい』と言う要望があったからなんだよ。」


少しばかり雑談した後に、夏姫は一夏を呼んだ理由を明かした。二年生の競技科の生徒達が、二年の競技科選抜チーム五人と一夏を入れた一年生の選抜チーム五人との試合をさせろと生徒会に要望を出して来たと言うのだ。
普通ならば学園長に直訴しろと言う所だが、IS学園の生徒会長は、学園長、教頭に次いで高い権力を持っているため、学内イベントを独自に企画する位の事は許されており、競技科の二年生は『生徒会長の権限で何とか実現してくれ』と言って来たと言う事だろう。


「そりゃまた急ですね?何だってそんな事に?」

「今年の一年生は、君と君の婚約者達を筆頭に粒揃いだ。
 君の妹と、簪君は言うに及ばず、乱君にコメット姉妹にサファイア君、専用機こそ持っていないがアメリカ代表候補生のハミルトン君。一般生徒では、鷹月君や相川君辺りも中々に良い線を行っていると思う。
 学年別トーナメントが終わった辺りから、二年の競技科では『今年の一年は結構ヤバい奴が多い』と言う話は上っていたのだけれど、学園祭で君と君の婚約者が無双した事で一気に競技者としての闘争心に火が点いたって感じだね。
 『今年の一年は、他の連中も凄い奴がいる筈だ』って、そして戦ってみたいと言う思いが爆発したんだ……要望自体は、学園祭後から出ていたのだけれど、二学期は修学旅行やら何やら忙しかったから、三学期まで先延ばしにする事になってしまったのだけれど。」


確かに、今年の一年生は一夏達を筆頭に稀に見る実力者が揃って居ると言えるだろう。そもそもにして、一学年に国家代表が五人(更識姉妹、円夏、ロラン、ヴィシュヌ(代表候補生から国家代表に昇格))も居ると言う時点で大分ぶっ飛んでいるのだ。
競技科の二年生の国家代表が夏姫とグリフィンだけと言う事を考えると、今年の一年生がドレだけ実力者揃いであるかが分かるだろう――いや、国家代表だけでなく、代表候補生や一般生徒の実力も相当に高いのだ今年の一年生は。
勿論其れは、一夏達と一緒に日々トレーニングをしているからなのだが、一年先輩である競技科の二年生からしたら、自分達を抜いてしまうかもしれない脅威の存在であると同時に、是非とも手合わせしたい相手だったと言う訳である。
『競技科の三年生は何も言わなかったのか?』と思うかもしれないが、競技科の三年生は学年別トーナメントの結果で卒業後のルートが確定している者が存在している反面、卒業後のルートが確定していない者は就職活動と進学試験に向けて必死こいているので、一年生の実力者との手合わせを行っている暇はないのだ。


「試合っすか……俺は別に構いませんよ?選抜チームに関しても、多分話をすれば嫌とは言わないと思います――ぶっちゃけ、俺の仲間達って『俺より強い奴に会いに行く!』ってな感じで、強敵との戦いは寧ろウェルカムなんで。」

「其れは良かった。ならば、OKと言う事で伝えておくよ。
 でだ、試合のルールと言うかチーム編成に関しても要望があってね。『二年の選抜チームにはグリフィン・レッドラムを入れない代わりに、一年の選抜チームには織斑一夏の婚約者を入れない。何方の選抜チームにも最低二人の専用機持ちでない生徒を入れる事』と言って来たんだ。此れについては如何かな?」

「問題無いですよ。寧ろ上等です。
 刀奈とロランとヴィシュヌが居たら、学園祭の時と略同じメンバーになっちゃいますからね。イベント的にも、略同じメンバーが出て来るって言うのは少しツマラナイと思いますから……専用機持ちじゃない生徒を入れるってのも良いアイディアだと思いますよ。」

「略同じメンバーにならないようにと言うのもあるけれど、君達のラブラブっぷりを見せ付けられて、試合に集中出来なくなってしまうかもしれないと言う懸念もあるかも知れないね。」

「其処は耐えてくれよって言いたいんですが……確かに集中力を欠いた相手じゃ、あの三人が負けるとは思えないですからね。一年生チームの勝利は略確定しちゃいますか。」


『二年の選抜にはグリフィンを入れない代わりに、一年の選抜には一夏の嫁ズは入れない』と言う縛りも一夏はあっさり了承した……一夏の言うように、集中力を欠いた相手では、刀奈とロランとヴィシュヌが負ける事は無く、三勝は略確定してしまうだろう。それ程までに、この三人の実力は頭一つどころではなく抜きん出ているのである……其の三人に、直近十戦での対戦成績では刀奈とは五分、ロランとヴィシュヌには七勝三敗で勝ち越してる一夏の実力はドンだけなのだって話になる訳だが。


「そうだな。君の言う通り、集中力を欠いた相手に彼女達が負けるとは思えないから、あの三人が居た場合、一年チームの勝利は略確定だが、確定だと言い切らなかったのは何故かな?」

「二年生の選抜チーム、アンタも間違いなく入りますよね会長さん?何度か一緒に訓練してますけど、俺も俺の嫁達もタッグを組んで挑んでも一度たりとも会長さんに勝てた事はありませんからね。」

「其れで略か……私は二年生チームのリーダーになるだろうから、一年生チームのリーダーたる君と戦う事になる。だから、刀奈君達がチームに入ったら、最悪中堅戦で勝負は決まってしまうかもなんだが。」

「三勝してチームの勝ちは決まってるのに、大将が負けるとかカッコ悪い事この上ないんすけど……会長さんが俺の相手って言う事が確定してるんなら、逆に燃えてきますよ。
 生憎と負けっ放しってのは性に合わないんで、此処等で一発リベンジかまさせて貰いますよ。」

「嬉しい事を言ってくれるじゃないか?一夏君、君とは一度サシで勝負したいと、そう思っていたんだ。試合は十日後の日曜日に設定しておくから、お互いに準備を怠らず、最高の試合をしようじゃないか。」

「言われるまでも無いですよ、会長さん!」


取り敢えず試合をすると言う事は決定し、一夏と夏姫は視線で火花を散らしながらも、健闘を誓う握手を交わす――と同時に、新聞部の黛薫子が生徒会室に乱入して握手を交わす一夏と夏姫を激写し、『一年生選抜チームvs競技科二年生選抜チームの試合勃発!』との見出しで号外を発行したのだった。
夏姫と一夏に確りとインタビューをした上で、記事を書いているのだから誰も文句の付けようは無いだろう……黛薫子、彼女は若しかしたら将来トンデモナイジャーナリストになるのかも知れないな。








――――――








その日の夜、部活とトレーニングを終えた一夏達は食堂にて、緊急会議を行っていた――とは言っても、そんな厳格なモノではなく、夕飯を摂りながら競技科二年生の選抜チームと戦う一年生の選抜チームをどうするかと言う感じだけれど。
集まってるのは一夏と一夏の嫁ズ、円夏と簪と静寐、そして乱とフォルテである。
先ずは、毎度お馴染みの飯テロな一夏達の本日の夕食メニューはと言うと、一夏が『チキン南蛮定食ダブル(肉二枚)のご飯特盛』、刀奈が『エビ炒飯と油淋鶏の中華二刀流定食の炒飯大盛』、ヴィシュヌが『鳥つくね丼特盛』、ロランが『シーフードドリアセットのドリア大盛り』、グリフィンが『豚肉の生姜焼き定食のご飯メガ盛り』と単品で『唐揚げ』、『カッパカルビの鉄板焼き』、『和風ハンバーグ』、クラリッサが『牛カツ定食のご飯大盛り』、円夏が『ネギ玉牛丼大盛り』、簪が『サバの味噌煮定食のご飯大盛り』、乱が『アジフライ定食のご飯大盛り』、フォルテが『麻婆茄子丼大盛り』、静寐が『ナムル牛丼大盛り(つゆだく、温玉トッピング)』と言った感じだ……主食が米である辺りに、アスリートとしての拘りを感じる。米は、パンや麺とは比べ物にならない位の腹持ちの良さがあり、一流のアスリートほど米を食べるモノである。『カール・ルイスはカール・ライスだった』ってのは、割と有名な話であるからね。


「其れで、私達は参加出来ないって言う事だけど、選抜メンバーのアテはあるの一夏?」

「円夏と簪って言いたい所だけど、吏さん製の機体が1チームに三機ってのは機体性能差が出過ぎるから除外で。其れに、四組の生徒ばっかになるからな。
 その上で、取り敢えず乱とフォルテは確定だな。其れと、専用機持ちじゃない枠では鷹月さんが確定ってところだな……ぶっちゃけ、専用機を持ってない生徒で誰を選ぶかってなった時、真っ先に鷹月さんが浮かんだぜ。」

「ふむ、確かに『機体の性能差で負けた』等と言われてはつまらないからな?」

「同じ組からばかりってのも、確かによくない。鬼弾幕かましたかったのに、少し残念。」

「ふっふ~ん、アタシを選ぶとは流石は見る目があるわね一夏は?」

「アタシも確定っすか……まぁ、やれって言うならやるっすけどね~~。どうせなら、レインと戦いたいっすけど。」

「非専用機持ち枠で選ばれるとは思わなかったけど、選んで貰った以上は期待には応えて見せるよ一夏君……ううん、お義兄さん♪」

「うん、鷹月さん何で言い直したし。」

「愚問だぞ兄さん。将来はそうなるのだから問題無い!今の日本は同性婚は認めていないが、婚姻関係と略同じ状態となる『同性パートナーシップ制度』を認めている自治体もあるから、私と静寐がその申請をすればいいのだ!」

「……それで、残るもう一人の非専用機持ち枠についてだが。」

「兄さん、私の魂の叫び百二文字を無視しないでくれ!」

「『突っ込み放棄のスルー』のカウンタートラップ……此れはキッツイわねぇ。」


乱とフォルテと静寐については、選抜チームのメンバーに入れる事を考えて夕飯に誘い、『メンバーとしては確定だ』と告げると、三人とも快く受けてくれた。……簪が少し物騒な事を言っていたが。
上級生と試合をすると言う機会は中々無いので、折角訪れた貴重な試合のメンバーに選ばれた事を拒否すると言う選択肢は無かったのだろう。貪欲なまでの向上心があればこそ、貴重な機会を逃す手は無い訳だ。……一般生徒の中では、静寐は取り分け向上心が高いので、既に一年の一般生徒では最強クラスになっているのだが。

若干、話が脱線し掛けたモノの、其処は一夏が『突っ込みを放棄してスルーする』と言う強引ではあるが、しかし高等なスキルを使って本筋に戻す。『突っ込み放棄してスルー放置』と言うのは可成りの鬼畜対応であり、一夏も普段はやらないのだが、相手が妹であるのならば遠慮は要らないと言う事なのだろう……此れも、兄妹の仲が良いからこそ出来る事だとは思うが。

だが、実際に非専用機持ち枠の残り一人については悩みどころだった。
実力的な事を言うのなら同じ四組の相川清香、谷本癒子、鏡ナギ、四十院神楽と言った候補が居るのだが、選抜メンバー五人の内、一夏と静寐と言う四組の生徒が二人居る中で、更に四組から選んだら自分のクラスを贔屓にしている様な感じがして、一夏は此れ以上四組の生徒からは選べないと思っている訳である。


「それじゃあさ、アタシのクラスのティナは如何かしら?ティナの実力はアタシが保証するわよ。」

「ティナって、アメリカ代表候補生のティナ・ハミルトンさんだよな?でも彼女は代表候補生……て、彼女は専用機を持ってないんだっけか?……あくまでもチーム編成の条件は『専用機持ちでない生徒を最低二人は入れる事』であって、専用機を持ってない国家代表や代表候補生は入れてはダメだとは言ってない訳か。
 仮に二年生の選抜チームが、『彼女はアメリカの代表候補生じゃないか。』って言って来たとしても、『彼女は専用機は持ってないから』と言う事が出来るからな。
 条件の穴を抜いた見事な案だぜ乱。」


だが、此処で乱が条件の穴を抜いた見事な提案をしてくれた。
二組のティナ・ハミルトンはアメリカの代表候補生であり、其の実力は可成り高いのだが専用機は持っていないのだ――同じくアメリカの代表候補生である二年のレイン・ミューゼルは専用機として『ヘル・ハウンドver2.5』を持っているのにだ。
勿論、アメリカは代表候補生であるティナにも専用機を与える予定だったのだが、開発を担当していた会社の開発スタッフが変態揃いで『ティナ・ハミルトンの能力を120%生かせる機体』に拘ってしまった結果、三学期になってもまだティナはアメリカの代表候補生でありながら専用機を持っていないと言う状態なのである。
二年生や三年生にも、専用機を持っていない代表候補生は存在するのだが、其れは『国家代表が専用機を使っているから、代表候補生に回す機体が無い』と言う事情であって、開発陣の拘りのせいで専用機が無いとか言うアタオカな状況ではないのである。――ってか、何だってアメリカ政府はティナの専用機の開発を其の会社に依頼したのか……レインの専用機を開発したのと同じ会社に任せればこんな事にはならなかっただろうに。

否、ISが世に生まれてからと言うモノ、此れまで世界一位の経済大国だったアメリカは、ISの生みの国である日本に経済力でぶち抜かれてしまったので、超絶高性能のISを開発して経済界でトップに立ちたいのだろう……まぁ、日本には世界有数の『更識ワールドカンパニー』がある上に、更識ワールドカンパニーにはISの生みの親である束が居る訳だから、逆立ちしたってアメリカはISの性能で日本より上に立つ事は出来ないのだけれどね。ぶっちゃけて言えば、束だったら二週間もあればティナの専用機は作れてしまう訳だから、常識を備えた世紀の天才は正に最強である。


「一年生の選抜チームと、二年生の選抜チームの試合か……そんな楽しそうなイベントに誘ってくれないとか、ちょっと悲しいよ織斑君。」

「げ、デュノアかよ……」

「其れは流石に失礼じゃない?」

「失礼じゃねぇよ。お前学園祭の前に俺に何を言ったのか忘れた訳じゃねぇよな?いや、まかり間違っても忘れたとは言わせねぇ……あの時に、お前の腹黒さは分かっちまったんだよ!お前みたいなブラックストマックをチームに入れられるか!
 最悪の場合、こっちのチームの情報を二年生に売り兼ねないだろお前は!」

「……えへ♪」

「せめて其処は否定して!?」


其処に割り込んで来たのは、『腹黒王子』の名を欲しいままにした、フランスの代表候補生にして元陽彩の婚約者であり、目的を達成したらアッサリと陽彩を切り捨てた天使の顔をした悪魔、シャルロット・デュノアだ。
他の陽彩の元婚約者達とは違い、一夏達に迷惑を掛ける事は無かったが、だからと言って特別深い交流があった訳でもないのだが、それにも関わらずこうして話に加わろうとしてくるとは中々の強心臓であると言えるだろう。いっそ、心臓に毛が生えるを通りこして、心臓にキノコが生えているのかも知れない。其れも、ベニテングダケクラスの『食べたら死ぬレベル』の毒を持ったやつが。
一夏の突込みに対しても、あざとい笑顔で対応する辺り、可成りガチでヤバめと言えるだろうなシャルロットは。


「まぁ、お前が何を企んで居るかは知らないけど、一年の選抜メンバーは今し方決まった所だから、お前の出番はないぜデュノア?そもそも俺に誘われなかった時点でお前の出番はないんだけどな。
 てか、陽彩の婚約者だったとか関係なくお前の事は腹黒過ぎて、悪いけど信用出来ねぇんだわ。」

「腹黒いとは心外だなぁ?せめて計算高いって言ってよ。
 ……でも信用出来ないって言うのは分かるから、君達の信用を得る為に、此れから正義君を殺してその首を持ってくればいかな?彼の首って言うのは、相当に説得力があるよね?」

「其れだけは絶対に止めろ。IS学園内での殺人事件とか、マジでシャレにならねぇからな。」

「やだなぁ、勿論冗談だって♪其れに、仮に殺すにしたって僕が直接手を下すなんてそんな馬鹿な真似する筈ないじゃないか……そうだねぇ、彼の機体を整備してる人に幾らか握らせて機体が制御不能になって自爆するようにするって言うのは如何かな?」

「返答に困る事を聞かないで欲しいのだけれどねぇ?」

「ヤレヤレ、フランス出身の腹黒王子は健在だね……その性格さえなければ君とは中々良い友になれたのではないかと思うのだが、まぁ其れは言っても致し方ないと言うモノかな。」

「冗談と言っておきながら、目が若干本気だった気がします……」


そんでもって、シャルロットはマジでヤバい奴だった……一夏達からの信用を得る為には、嘗ての婚約者を殺す事も辞さないとか、例え冗談にしても笑えるモノではない。と言うか若干目がマジになってたのが余計に怖い事この上ないだろう。
しかもやるならやるで自ら手は下さずにやるとか、腹グロっぷりは矢張り健在である。デュノア父を見る限り、腹黒要素は何処にも無いし、デュノア夫人とは血が繋がって居ないので、今は亡き実の母親が腹黒かったと言う事なのだろうか……真相は深い闇の中である。


「まぁ、僕としては織斑君が彼をチームに入れて、先輩にフルボッコにされる姿を晒させて学園での居場所を完全に無くさせて、今以上の地獄を見せる位の事をして欲しかったんだけど、其れは無理っぽいね。」

「あのなぁ、こちとら死体蹴りの趣味はねぇんだよ。大体にして、アイツの方から言い寄って来たなら兎も角、俺の方からアイツに声を掛ける事なんぞ天と地がひっくり返っても有り得ねぇからな?」

「其れは確かにそうだね。
 ま、試合頑張ってね?出れない以上は大人しく観戦させて貰うけど、どうせやるならやっぱり一年生チームに勝って欲しいとは思ってるから……一年生に負けて悔しがる二年生とか見物だと思うしね。」


激励なのか何なのか良く分からない事を言うと、シャルロットは食堂から去って行った……去り際にもキッチリと腹黒さを披露していると言うのは、ある意味で己のキャラを貫いて居ると言えるだろう。果たして彼女の腹黒さが、社会に出てから役に立つ日が来るのか……案外来るかもしれないな。


「そんじゃ、余計なのが居なくなった所で話を続けるぞ?取り敢えずメンバーは俺、乱、フォルテ、鷹月さん、其れと暫定でハミルトンさんだな。ハミルトンさんには、乱の方から話をして貰って良いか?」

「了解。部屋に戻ったら早速話をしてみるわね。結果はLINEで送るから。」


シャルロットが居なくなった後は再び試合についての話に戻り、ティナに関しては乱から話を通すと言う事に。
もしも断られてしまったら、また新たなメンバーを考えねばならないのだが、ティナは一年の代表候補生の中では実力はあるのに今一パッとしない存在でもあるので、自分の存在感をアピール出来る絶好の機会と言えるこの試合のチームメンバーにと言う話を蹴る事は考え辛いので、其処は心配要らないだろう。仮に乗り気でなかったとしても、其処は乱が持ち前の積極性で参加する方向に話を進めるだろうしね。

そんな訳で、一年生チームのメンバーは略確定したのだが、そうなると今度は『二年生チームは一体誰が出て来るのか?』と言うのが当然気になる事だろう。『敵を知り己を知れば百戦して危うからず』と言う言葉があるように、相手が誰であるかが分かれば事前に対策を立てる事が出来るのだから。
現状で、一年生チームは一夏、二年生チームは夏姫が確定していると言うのが互いに知っている事であり、本来ならば其れ以外に誰が出て来るかなんて言うのは予想するか、ちょっとした会話から聞き出すとか、方法が限定されてくるのだが、一年生には若干反則とも言える方法が存在していた!そう、他でもない一夏の嫁の一人であるグリフィンだ。
彼女は競技科二年生の中でもトップクラスの実力者でありながら、今回の試合に出る事は無いのだが、逆に言えば試合に出ないから二年生チームとはマッタク持って無関係であり、同時に二年生チームのメンバーを容易に知る事が出来る人物でもあるのだ。
勿論、一夏の嫁であるグリフィンが二年生チームのメンバーを聞くと言うのは普通ならば疑われるところだが、グリフィンの裏表のないフレンドリーな性格を知る者は割とアッサリ話してくれる可能性は充分にあるのだ。
卑怯とは言うなかれ!試合の前から勝負は始まっているモノであり、事前の準備を万端に行っておくと言うのは基本中の基本!使える手段は全て使って試合に臨む事こそが正しいのだ!何より、一夏は『クラス代表決定戦』、『クラス対抗戦』、『学年別タッグトーナメント』、『学園祭でのイベントバトル』で手の内を曝しまくってるのに、二年生の競技科の誰がどんな戦い方をするのかとかは全く分かっていないのだから、寧ろ試合前にグリフィンに情報収集を頼んだ所で罰は当たらない筈だ。


「グリフィン、悪いけど二年生チームのメンバーが誰であるのかを調べて貰っても良いかな?」

「任せて!って言っても、私が出ないとなると、会長以外ではレインとサラは確定だから、調べるのは専用機持ちじゃない二人になるけどね。そう言えば、サラはイギリスから、BT武装搭載型の二号機『サイレント・ゼフィルス』を受領したって言ってた。」

「其れは貴重な情報っすね?」


此処でグリフィンより貴重な情報がもたらされた。
イギリスの代表候補生である『サラ・ウェルキン』がイギリスの最新鋭機を受領したと言うのだ……しかもその機体は、セシリアが使っていたブルー・ティアーズ同様にBT武装が搭載されているとの事だ。
此れは大きなアドバンテージと言えるだろう。相手の機体の最大の武装が分かればそれに対する対策だってし易い……特にBT武装は初見殺しの武装だが、『ある』と分かっていれば幾らでも対策が出来る諸刃の剣でもあるのだから。


「となると、サラ・ウェルキンには静寐がぶつかるようになった方がありがたいな?兄さん以外のメンバーでは、静寐が私と最も模擬戦を行っているから、ビット武装には慣れているだろうからな……ビットの操作なら、誰にも負けんぞ私は。」

「上下左右、四方八方から放たれるビームには若干の死を感じたよ円夏。」

「因みに、アレでも円夏は未だ手加減してるからな鷹月さん?俺がISを動かせるようになってから始めた訓練は、短期間で技術を向上させる必要があったから、マジで容赦無かった。
 機体に搭載されてるビット全部使われて爆殺された日は、冗談抜きででお花畑が見えたからなぁ……死んだ爺ちゃんと婆ちゃんに会えた事も今となっては良い思い出だぜ。」

「うわぁ……一夏、アンタ良く生きてたわね?」

「俺のしぶとさは、『黒光りするG』クラスって事なのかもな……思い返せば、ドイツで誘拐された時に待機状態のISで頭ぶん殴られたのに、出血どころかタンコブすら出来なかったからな。
 まぁ、其れは其れとして、サラ先輩がBT武装搭載型の最新機を受領したって言うなら、明日の放課後から俺以外のメンバーは全員、本気の円夏と模擬戦をしてビット武装の攻撃に慣れて貰わないとだな……誰がサラ先輩と当たっても互角以上の勝負が出来るようにな。言っとくけど、拒否権は無いからな?」

「「「り、了解です。」」」


尤も、その情報がもたらされた事で、一夏以外のメンバーは本気の円夏と模擬戦と言うトンデモナイトレーニングが課される事になってしまったのだが、円夏の悪魔の様なビット捌きに慣れてしまえば、試合でサラと当たっても慌てる事はなくなるので、此れは当然の特訓と言えるだろう。


「そんでもって、刀奈、ロラン、ヴィシュヌ、グリフィン、クラリッサの五人は、試合までの間、俺と一対五の模擬戦をして貰っても良いか?会長さんに勝つには、お前達五人を相手に互角以上に戦えるようにならないとだと思うからな。」

「一夏……OKよ。私達だって貴方には勝って欲しいから、貴方が勝つ為ならどんな事だってするわ。だから、要望があれば遠慮なく言いなさい?」

「君の勝利に貢献出来るというのであれば、こんなに嬉しい事はないよ……君の勝利の為ならば、私達は幾らでも協力するさ。」

「其れが貴方の望みならば、私達も全力で相手をさせて頂きます……!」

「一夏って、本当にやる時はトコトンって感じだよね……其処が良い所でもあるんだけどさ。私達で良ければ、幾らでも相手になるよ!」

「実戦に勝る経験は無いと言うが、其れを考えると確かに模擬戦以上のトレーニングと言うのは存在しないのかも知れん……冬休みの期間中に、一夏に黒兎隊のトレーニングに来て貰っても良かったかも知れんな。」


そんでもって、一夏は一夏で、『自分の嫁ズ五人を相手にしての模擬戦』と言うトンデモナイ事を考えていた……逆に言うなら、生徒会長である夏姫の実力は、一夏の嫁ズ五人が束になった状態と略互角と言う事でもある訳だが。
まぁ、実際に夏姫との模擬戦は此れまでタッグを組んで全敗なのだ――現役軍人であるクラリッサとタッグを組んでも勝てない辺り、夏姫の実力がドレだけ高いと言うのが分かるだろう。
だが、だからこそ今度の試合で一夏がシングルマッチで夏姫を下したら、其れはもう物凄い衝撃となるだろう。『不敗の生徒会長が一年生に負けた』と言うのは、最早大事件と言っても過言ではないからね。

だから嫁ズは一夏のトンデモナイ申し出を断ると言う選択肢は存在しない。誰が相手であっても一夏には勝って欲しいという思いがあるからだ。愛する人が勝利する姿を拝みたいと言うのは、至極真っ当な感情だからね。


「そんじゃ、やる以上は絶対に勝とうぜ皆!一年チーム……」

「「「「ファイ、オォォ~シ!!」」」」


夕飯を終えた一行は、食堂を出ると、一夏と乱とフォルテと静寐が円陣を組んで気合を入れて試合についての彼是はターンエンドだ――でもって、部屋に戻って数分後に一夏のスマホに乱からLINEで、『ティナはOKだって』とのメッセージが届き、一年生チームのメンバーは完全に確定した。

そして、その次の日の放課後から、試合に向けたトレーニングが開始され、チームメンバーは途轍もないハードなトレーニングを行う事になったのだが、そのトレーニングはハードなだけでなく、己の実力が向上している事を実感出来るトレーニングだったので、チームメンバーの地力は、トレーニング前の数倍に跳ね上がったと言えるだろう。
更に、グリフィンが二年生のチームメンバーの非専用機持ちの生徒は、『打鉄』を使うらしいとの情報を持って来てくれたのは有り難かった……一年生の非専用機持ちは、静寐が打鉄を使う予定だが、ティナはラファール・リヴァイブを使う予定なのだ。
打鉄もラファール・リヴァイブも汎用性のある機体だが、打鉄は近接戦闘よりで作られているため、射撃戦よりで作られているラファール・リヴァイブとは相性が良くないのである。
無論、誰が誰と当たるのかは現時点では分からないので、アドバンテージに直結してるとは言えないかも知れないが、其れでも非専用機持ち同士の戦いになった場合には有利が付くのは間違い無いだろう。

そして、放課後のハードな訓練は試合前日まで続いたのだが、一夏と嫁ズは、所属している古武術部にもちゃんと顔を出していたのだからマジで驚きであるな。一夏と嫁ズには限界ってモノは存在しないのかも知れないなマジで。








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試合前日の夜、一夏は今週の同室である刀奈に誘われて夜のISバトルを行い、今はベッドの上で事後の余韻に浸っていた……一夏の腕枕で微睡んでいる刀奈が何とも色っぽい事この上ない。


「試合前なのに、良かったの一夏?」

「嫁に誘われて、其れに応えないのは男として如何だって思うからな……其れに、体力は消耗したけど、其れ以上に愛力をチャージ出来たからマッタク持って問題はねぇよ。愛に勝る力は無いからな。」

「あら、嬉しい事言ってくれるわね♪」


試合前日の夜にセ○クスとか、普通のアスリートならば有り得ない事なのだが、一夏に限っては『体力を犠牲にしてラブパワーをチャージ出来る』と言う謎効果があるみたいなので問題はなさそうである。……一夏は、房中術をもマスターしているのかも知れないな。


「一夏、貴方の勝利を心の底から願って居るわ……だから、絶対に勝ってね?」

「あぁ、約束するよ……俺は絶対に勝つってな。」


其れだけ言うと、一夏は刀奈の唇を奪い、タップリと大人のキスをした上で眠りに入った……今宵は、一夏も刀奈も良い夢が見れる事だろう。――そして夜が明け、『一年生選抜チームvs二年生選抜チーム』の試合の日がやって来たのだった。
この試合、間違いなく『すんげぇ事で、トンでもねぇ』事になるのだけは間違い無いだろう……其れこそ、IS学園の歴史に残る試合になるかもだ。――外部からマスコミを入れていたら、学園祭の時のイベントバトル以上に盛り上がったかも知れないな。


一年生選抜チームvs二年生選抜チーム……IS学園最高峰の戦いが、遂に始まるのだった……











 To Be Continued