元旦の翌日には、稼津斗が織斑家を訪れて、一夏達にお年玉を渡してくれて、割と良い感じの正月を過ごし、気が付いたら冬休みも残り二日の最終盤に差し掛かっていた。
その最終盤で一夏達は何をしていたかと言うと……
「イィィヤッハー!!」
「最高の気分ね!テンション上るわ。」
「今度は大技にチャレンジしてみるのも良いかも知れないね?」
雪原でスキーとスノーボード、そしてスケートに興じていた。だが、ウィンターリゾート地に来たと言う訳ではなく、一夏達が来ているのは都内の大型テーマパークだ。
このテーマパークは、ジェットコースター等のお馴染みのアトラクションの他に、大型の屋内施設があり、其処は春から秋は屋内プールと人工の砂浜、スケボーパークになっているのだが、冬の間だけはプールはスケートリンクになり、砂浜とスケボーパークは人工雪で覆われた雪原になり、ウィンタースポーツが楽しめるのである。
本日のメンバーは織斑姉弟と更識姉妹、ヴィシュヌ、ロラン、グリフィン、クラリッサ。そして正月休みが終わって護衛の任に戻ったオータムである。尤も、オータムは護衛なので厳密には参加メンバーではないのだが。
序に言っておくと、このテーマパークには夏姫から貰った『全国共通テーマパークフリーチケット』を使って入場していたりする。夏姫からは、『期限は十月末まで位じゃないかな?』と聞いていたのだが、届いた現物を確認すると、実際には『一月末日まで』となっており、冬休み中に使っておかねば使う機会が無くなってしまう事情もあって此処に来たとも言える。
一夏とグリフィンは、以前のデートの時に自分の分を使ってしまったが、刀奈、ロラン、ヴィシュヌ、クラリッサのチケットは残っており、チケットはペアチケットでもあるため、八人ならば丁度ピッタリ使えると言う訳である。
勿論一夏とグリフィンは、其れは申し訳ないと思ったのだが、其処は刀奈達が『一夏とグリフィンのデートは、修学旅行の埋め合わせで、私達は修学旅行中は一夏を独占しちゃったんだから、此れ位でやっとイーブンでしょ?』と言って納得させていた。嫁平等は、何処まで徹底されている様である。
そんな訳で、現在はウィンタースポーツを思い切り満喫しており、ランチを挟んでの午後の部は通常のアトラクションを楽しむ予定だ。ちょっと特殊な屋内施設のあるテーマパークならではの楽しみ方であるとも言えるだろう。
一夏と刀奈はスノーボードを、ロランとクラリッサはスケートを、ウィンタースポーツに馴染みのないヴィシュヌとグリフィンは雪原の平地で円夏と簪からスノーボードを教わっているところだ。……ヴィシュヌもグリフィンも全くの初心者であったのだが、あっと言う間にコツを掴んで滑れるようになったのは、流石の運動神経の良さと言うべきだろう。
「二人とも流石。あっと言う間にコツを掴んじゃった。」
「簪と円夏の教え方が巧いからですよ。お二人とも、スノーボードの経験があるのですか?」
「あぁ、厳密に言えば兄さんと刀奈もあるぞ。だからこそ、あぁやって滑ってる訳だしな。
私達が通っていた中学は、学年によって日時は異なるが毎年スキー合宿があったからな……三年の時は、私達を含めたスキーは略完璧にマスターしていた連中は、スノボーの方に手を出したと言う訳さ。教師に注意される事もなかったから、練習していたらあっと言う間に滑れるようになったな。」
「へぇ、そんなのがあったんだ?なら滑れるのも納得って感じだね!」
「そう言う事。そして私達が二人を滑れるようにしたのは、一夏と一緒に楽しめるようにするため。さぁ、次は斜面で一夏と刀奈と一緒に滑ってみよう?」
「そうですね、そうしましょう。」
指導役に回った円夏と簪だったが、其処は一夏と刀奈が指導役に回ったら思い切り楽しむ事が出来ないと考えての事だった……此の面子では、円夏と簪は言ってしまうとおまけのようなモノで、更には『全国共通テーマパークフリーチケット』までも使わせて貰っている立場なので、自分達も楽しむのは勿論の事としても、基本的には一夏と嫁ズが心行くまで楽しめるように、裏方を務めようと思っているのだ。実の兄と実の姉、そして未来の義姉の為に頑張る其の姿勢を、妹の鑑であると言っても過言ではあるまい。
尤も、妹ズがこんな感じであるから、嫁ズも妹ズを可愛く思う訳で……一夏と嫁ズが結婚しても、嫁と小姑の争いだけは絶対に起こる事は無いと断言出来よう。必要だったら騎士打総理(誤字にあらず)に認定証を出して貰っても良い!嫁と姑だけでなく、嫁と小姑も仲良くあるべきである!べきである!べきべきである!!
夏と刀と無限の空 Episode75
『冬休みを遊び倒せ!全力でな!』
スキー&スノーボード用の斜面は、冬以外はスケボーパークになっている場所なのだが、スケボーパークは昇降式になっており、冬の期間だけ後部がせり上がって斜面となるのだ。
せり上がった後部は、ピッタリとリフトの降り場兼スタート地点にくっ付いているので安全に滑り出す事が出来るようになっている――のだが、此の斜面はスケボーパークに斜めにして人工雪を降らせた事で、スノーボード競技の『スロープスタイル』のコースのように、斜面の所々にジャンプ台やらバーやらが存在しており、ジャンプやトリックが出来るようになっていたりする。勿論、そう言った場所を通らずに下まで滑る事が出来るルートは存在しているが。
まぁ、ジャンプ位ならばやる人は居るだろうが、複雑なトリックなんてモノは、其れこそ練習に来ているスノーボードの競技者位だろう……素人がジャンプは兎も角トリックに挑戦したら、運良く成功すれば良いが、失敗した場合は最悪頭から落下して頸椎骨折の即死になり兼ねないからね。
「其れじゃあ行くぜ!」
だがしかし、我等が織斑一夏は、滑り出すと行き成りバーの上を滑走してから回転して着雪し、其のまま勢いに乗ってジャンプ台に向かうと大きくジャンプしてからのシックスティー・セブンティフォーと呼ばれる超大技のトリックを決め、勢いを付けたまま二つ目のジャンプ台から飛び出すと、フォーティーン・エイティーンと呼ばれる更なる超大技を成功させ、最後のジャンプ台から飛んだ際にはナインハンドレッドと呼ばれる難易度A級のトリックを決めただけでなく、ゴール前には捻りを加えた前方宙返りまで披露するおまけ付き……技の完成度自体は、オリンピックのメダリストと比較すれば粗が目立つが、其れでも此れだけのトリックをミスせずに成功させると言うのは凄い事であると言えるだろう。
或は、此れは一夏がISバトルでもトップクラスの実力者である事が原因かも知れない……ISバトルと言うのは、空中を縦横無尽に飛び回るアクロバティックなバトルがメインであるので、一夏もまた空中でのアクロバットが得意になっているのだ。その感覚が、スノーボードでのトリックを可能にしているのかも知れない。
「其れじゃあ、今度は私が行くわよ!」
続いて滑走した刀奈も、一夏に勝るとも劣らないトリックを見せてくれた事を考えるとこの説はあながち間違いとは言えないだろう……其れを踏まえたら、世界最強と言われている千冬はどうなるのかと言う話になるのだが、彼女の場合はセブンティーン・ナインハンドレッドとか、普通の人間では絶対に出来ないであろうトリックを余裕でやってしまう未来しか見えないな。
そんな一夏達と刀奈とは逆に、ヴィシュヌとグリフィンは一回目は普通に滑走したのだが、その一回で斜面のコツを掴んだのか、二回目ではジャンプに挑戦し、三回目ではまさかのトリックに挑戦して見事に成功させていた。
そしてヴィシュヌは三回目、グリフィンは四回目を一夏と一緒に滑走したのだが、ジャンプの時には手を繋いでの『超V字ジャンプ』や、一夏がパートナーの頭の上でヘッドスピンする『スーパータケコプター』なる謎過ぎる技を披露していた……何だってこんな事が出来るのか、一夏も嫁ズも大分身体能力がバグっていると言う事だけは間違いなかろうな。
そんなスーパープレイを繰り出している一夏達とは別に、円夏と簪はとっても普通にスノーボードを楽しんでいた。とは言っても、ジャンプやトリックを普通にやっている辺り、この二人も大分超人レベルだと言えると思うけどね。
コイツ等が超人だとしたら、一体何超人になるのやら……いや、言うまでもなく完璧超人だろうな。
――――――
スノーボードを心行くまで楽しんだ一夏、刀奈、ヴィシュヌ、グリフィンは、ロランとクラリッサが居るスケートリンクに移動して、今度はスケートを楽しむ事にしたようだ。
スケートも初心者のヴィシュヌとグリフィンだったが、スノーボードで感覚を掴んだのか、氷上での動き方も即理解したらしく特別苦労せずに滑る事が出来るようになっていた。
此れならばスケートは一夏も嫁ズも楽しめると思っていたのだが、リンクに降り立った一夏がリンクの中央に進むと、ギャラリーの視線が一気に一夏に集まった。
織斑一夏と言えば、今や世界で最も有名な人物であるので、そんな有名人がスケートリンクの中央に現れたら注目するなってのが無理ってモノなのだが、其れを確認した刀奈が、スマホのミュージックアプリを起動し、其処から荘厳なクラシックのメロディが流れ、其れに合わせて一夏が動き始める……今この場で、織斑一夏によるフィギュアスケートが始まったのだ。
ゆったりとしたメロディに合わせて滑り出した一夏は軽快なステップを披露した後に、四回転サルコー→トリプルルッツ→トリプルトーループの大技を決める!天下の絶対王者様と比べたら型が乱れているとは言え、此れだけの大連続技を転倒せずに決めたと言うのは見事であると言わざるを得ないだろう。
此れだけでも拍手喝采モノであるのだが、演技中盤からロランが加わり、見事にシンクロしたステップと高難易度のトリプルツイストを決めると、ロランはクラリッサと交代して、今度は見事なコンビネーションステップと一夏の力強いリフトでギャラリーを魅了し、クラリッサからバトンを渡されたヴィシュヌはコンビネーションスピンとアクロバットリフトを披露し、続くグリフィンは、グリフィンが一夏を持ち上げると言う逆リフトからの逆スロートリプルフリップを披露してギャラリーを沸かせた。
そして最後のパートナーとなる刀奈だが……流石は嫁ズの中では誰よりも一夏との付き合いが長かっただけあってその演技は圧巻だった。
ステップとリフトは勿論、トリプルツイストからスロートリプルフリップの連続技を完璧に決めただけでなく、何と一夏と刀奈はフィギュアスケートのペアでは誰も一度も決めた事がない、ペアでの四回転サルコー→ダブルルッツ→トリプルトーループの大技を決めて見せたのだ。……技の完成度には粗があるとは言え、此の大技を決めた事に、其れを見ていたギャラリーは沸きに沸いた!其れこそ、人によってはスマホで動画を撮って、それをSNSにアップして居る位だからね……有名人が映っている動画ってのは、其れだけで相当数の『いいね』が付くだろうからな。
其れは其れとして、パートナーと踊り終えた一夏は、最後は見事なステップを披露し、限界突破のイナバウアーをも披露してターンエンド!冗談抜きで、一夏は本気でトレーニングしたら冬季オリンピックのスノーボードとフィギュアスケートでメダルが狙える言っても過言はあるまい。……マジでコイツは隙なしって感じだな。
「天下の絶対王者様には負けるけど、俺も中々だっただろ?」
「えぇ、とても素晴らしかったわ一夏。貴方の演技にはこの場に居た全員が魅了された、其れは間違いない事よ……初挑戦のフィギュアスケートで、ギャラリーを魅了したなんて言うのは、早々あるモノじゃないと思うわよ一夏?」
「俺はレアケースか……悪くないが、お前達は俺の演技を見て如何思った?」
「言うまでもないでしょ?最高だったわよ一夏。フィギュアスケートの四大大会のメダルを授与しても良いんじゃないかと思ったわ。」
「一夏だけじゃなく刀奈達とのペアの演技も凄かった。」
「私達との演技も評価されると言うのは嬉しい事だね?……もう一曲と行きたいところだけれど、流石に他のお客さんが滑れなくなってしまうから此れで終わりと言うのが残念だよ。」
「もっと巧くなって、今度はジャンプの大技もやってみたいですね。」
「何時か、何処かのスケートリンクを借り切って、また一緒に踊ってみたいモノだな。」
「おぉ、其れ良いじゃん!」
「……束博士に頼めば、あの家の地下にでもスケートリンク作ってくれるんじゃないかと思うがな。……と言うか、あの人の事だからこの会話も何処かで聞いていて既に工事に着手していそうだ。」
一夏の氷上での演技は、『絶対王者』と言われている『彼』と比べれは大分粗削りなモノであるのは否めないが、其れでも相当にレベルが高かったのは間違い無だろう。
この後は普通にスケートを楽しんだのだが、一夏と嫁ズのフィギュアスケートの動画はSNSにもアップされており、『教師としての仕事があるから』と、一足先にIS学園に戻っていた千冬が、スコール経由でその動画を見て、『何をしているんだアイツ等は……』と溜め息を吐いていたのだった。
因みに、一夏達がウィンタースポーツを楽しんでいる際、護衛のオータムはと言うと雪原でめっちゃ巨大な雪だるまと滅茶苦茶リアルな雪ウサギを作っていた。護衛の為には、スキーやスノーボードをやるよりも、雪遊びをしている方が都合が良かったのだろう、多分。
――――――
ウィンタースポーツを思い切り楽しんだ一行は、テーマパーク内のレストランでランチタイムだ。
テーマパークと言うと屋台みたいなモノや、ファーストフード系が主流なイメージだが、テーマパークによってはファミレス系ではあるが本格的なレストランや食堂もあったりするのだ――屋台やファーストフード系と比べると値段はやや高くなるが、ガッツリ食べたい場合は断然此方の方だろう。思い切りウィンタースポーツを楽しんだ一夏達は結構お腹も減っているだろうしね。
八人と言うのは結構な人数なので、席は分けて座る事になるかと思ったのだが、運良く大人数用のボックス席が空いていたらしく、席に案内されると早速メニューを開いて何を食べるか決めて行く。
程なく全員が何を注文するのか決まったらしく、一夏がインターホンを押して店員を呼ぶ。
「お待たせいたしました。ご注文をどうぞ。」
「先ずは全員ドリンクバーお願いします。んで俺は、ダブルロースカツ定食をご飯大盛りで。」
「私はパスタとピザのセットをパスタ大盛りで、パスタは明太スパゲッティ、ピザは四種のチーズピザで頼むわ。」
「私は、ガパオライスを大盛りで。其れと、単品でチキンのハーブ焼きをお願いします。」
「私は和風ハンバーグランチのキングサイズをご飯大盛りで頼むよ。」
「私は、天丼の大盛りとソーセージの盛り合わせで。」
「私は本日のワンプレートを大盛りだな。」
「ミックスフライ定食をご飯大盛りで。」
IS競技者はアスリートでもあるので、当然一般人よりも食事の量も多めになり、一夏達も御多分に漏れず『大盛り』で注文しているのだが、このオーダーは未だ前座に過ぎない。
一夏は兎も角、女性陣も大盛りで注文しているのだが、其れでも此れは前座に過ぎないのである。
「私はねぇ……サーロインランチを1kg。焼き加減はレアで、ご飯はメガ盛りね。
其れからフライドポテト、チキンバスケット、野菜スティック、オニオンリング、カルビの鉄板焼き、スモークサーモンとクリームチーズのサンドイッチ、それから海鮮あんかけ焼きそばで♪」
はい、真打登場!
思い切り身体を動かして相当にお腹が減ったのか、健啖家であるグリフィンのオーダーは何時もにも増して凄まじいモノになっていた……サーロインステーキを1kgと言う時点で大分凄いのだが、更に単品で七種ものメニューをオーダーするとか、知らない人が見たら『大食いタレントか?』と勘違いしてしまうレベルだ。まぁ、実際にグリフィンは大食いタレントと余裕でタメ張れるのだが。かのギャル曽根と大食い対決をしたら可成りの接戦になる事だろう。
このまさかのグリフィンのオーダーに店員は目が点になっていたが、直ぐに正気を取り戻すと『畏まりました。ご注文を確認しますね。』と言って注文を確認すると、其れを厨房に伝え、厨房は一気にバトルフェイズに!
と言っても、既に料理は揚げるだけ、焼くだけの状態になっているので其れほど大変ではないのだが、グリフィンのオーダーがメッチャ凄かったので、厨房はフル回転となったのだ。特に1kgのサーロインステーキとなると、レアであっても焼くのに時間が掛かる上に、ちょっと目を離した隙にレアとしては火が通り過ぎるなんて事にもなってしまい兼ねないので、目が離せないのだ。
そんな厨房でのバトルフェイズが行われる事約十分で一夏達の元にはオーダーしたメニューが届けられた。グリフィンは注文した数が数だったので、先ずはメインのステーキランチが提供され、其れ以外は出来上がった順にと言う感じだったが。
円夏が注文した、『本日のワンプレート』は、オムライスのソースがカレーで、其処にハンバーグとエビフライ、ポテトサラダが付いたモノだった。量は兎も角、メニューだけ見れば『お子様ランチ』だな此れは。大盛りで頼んだので、オムカレーはめっちゃ大きかったが。
グリフィンは早速ステーキをナイフでカットすると実に美味しそうに食べて行くが、食べる勢いも凄い!1㎏の肉塊がドンドン小さくなって行くだけでなく、後から運ばれて来たメニューも次から次へと量が減っていく。まるで超強力な掃除機で吸い込まれているのではないかと錯覚する位だ。
其れだけの勢いで食べていながら、散らかさず、服も汚さずに食べていると言うのだから大したモノだと言うべきだろう。『綺麗に沢山早く食べる』と言うのは、一部の大食い・早食いバラエティに見習って欲しいモノである。
「しかし毎度の事だが、本当にお前は良く食べるなグリフィン?其れだけ食べているのに全く太らないとは、摂取した栄養は一体何処に行ってるんだ?」
「胸♪」
「ほほう、其れは何とも羨ましい体質をしているモノだなぁ?
私は牛乳を飲んでも背は伸びないし、胸も大きくならないから羨ましい限りだ……何故だ、姉さんはあんなに見事なプロポーションを誇る女性になっていると言うのに如何して私は低身長で貧乳なんだ!激しく納得出来ん!!」
「大丈夫だよ円夏。私も刀奈に比べたら小さいから。」
「慰めにも何もなってないわ簪!
お前は刀奈と比べれば小さいかも知れないが、其れでも並乳、大目に見れば豊乳でも通じるだろうが!あの中華風貧乳娘とドイツの銀髪チビが居なくなってしまった事で、学園一の貧乳になってしまった私の気持ちがお前に分かるか!!」
「円夏、女の価値は胸の大きさじゃ決まらないぜ?大事なのはハートだハート。」
「嫁が全員巨乳な兄さんが其れを言っても説得力皆無だぞ!最低ラインが87cmって普通に有り得ん!そして、最上級は93cmだと!?お前等、その胸を夫々10%ずつ私に譲渡しろ!」
「「「「「無茶言うな。」」」」」
グリフィンの一言から円夏が若干暴走してしまったが、ランチタイムは平和であったと言えるだろう。
ランチタイムのお約束とも言えるおかずの交換は勿論行われて、自分がオーダーした以外の料理を楽しむ事も出来たし、ドリンクバーでのオリジナルカクテルも中々に楽しめた。
因みに、ドリンクバーカクテルでグランプリに輝いたのは、一夏が作った『カルピスの紅茶割り』だった。
カルピスの乳酸と、紅茶の相性は抜群だったらしく、『少し変わった味のミルクティー』として好評だったのである……尚、二位はグリフィンが作ったジンジャーエールとウーロン茶のカクテルで、三位は簪が作ったコーラとオレンジジュースのカクテルであった。
ドリンクバーと言うのは、こう言うオリジナルのカクテルが作れるのが魅力だ……まぁ、時にはトンでもない劇物が生み出されてしまう事もあるのだが、其れもまたドリンクバーの醍醐味と言えよう。世には、エナドリとコーラをカクテルすると言うマッド野郎も存在するのだが、其れは其れで中々のチャレンジャーと評価しても罰は当たるまいな。
取り敢えず、一夏達は賑やかなランチタイムを過ごし、そして午後の部に繰り出して行った――そしてレストランの定員は、グリフィンがオーダーしたモノを全て完食したと言う事実に驚愕して戦慄したのだった。
『多分残すだろうな』と予想していた店員を真っ向から裏切る完食ってのは、驚くなってのがそもそも無理があるわな……まぁ、グリフィンも自分が食べられる範囲でオーダーしているのだから、残すなんて事はあり得ないんだけどね。
――――――
ランチ後は午後の部に突入し、今度はよくあるテーマパークのアトラクションを楽しんだ。
定番のジェットコースターは、お馴染みの大回転やループ、急旋回の他に、傾斜六十度最大落差500mから始まる連続アップダウンが存在すると言う、ちょっと頭のネジが吹っ飛んでいる設定だった……前に一夏とグリフィンがデートで行った遊園地もそうだが、此の世界のジェットコースターの設計者は結構マッドサイエンティストの気質があるのかも知れない。ほぼ垂直落下となる六十度の傾斜で落差500mとか身体に掛かるGがマジでハンパない。ジェットコースターに乗るだけで訓練が必要なレベルなのだが、搭乗者の安全を考慮して、ISのシールドエネルギーを応用した技術を搭載して身体に掛かるGを軽減しているのだとか……若干技術の無駄遣い感が否めない。逆い言うと、其れだけISに使われている技術も一般化していると言う事だが。
『知恵の館』と言う名前の、『館内にある謎を制限時間内に解いて脱出しよう』ってアトラクションでは、数々の謎を全員で知恵を絞って解き明かし、見事に制限時間内に脱出して賞品をゲット!賞品は、このテーマパークのロゴを模ったバッジとアミューズメントゲーム一回無料券と屋台メニュー半額クーポンだった。
勿論、クラリッサと簪が居る以上はヒーローショーのステージも欠かせない!
ステージ上では、最新の『仮面ライダーリバイス』のショーが行われていたのだが、リバイスのピンチに『仮面ライダーBlackRX』、『仮面ライダーディケイド』の昭和と平成世代で『最強』と言われている二体のライダーが助っ人に来ると言う、ショーならではの激熱展開にクラリッサと簪もめっちゃ興奮していた。RXが乱戦に紛れて、ちゃっかりロボライダーやバイオライダーと入れ替わる事で変身を再現していたのもポイントが高いだろう。ショーの後で、クラリッサも簪も三人のライダーから『クラリッサさんへ』、『簪ちゃんへ』と入ったサインを貰ってご満悦であった。
その後はホラーハウスで絶叫したり、ゴーカートでマリオカート張りのデッドヒートを演じ、今はアミューズメントゲームコーナーを満喫中。
知恵の館の賞品で、アミューズメントゲームが一回無料になるのだが……合計で八回無料になると言う事で、一夏がクレーンゲームで無双していた――最近のクレーンゲームはヌイグルミだけでなく、フィギュアなんかも普通に商品になっているのだが、其れはヌイグルミ以上に取るのが難しい。フィギュアは箱に入っているせいで、アームを引っ掛ける場所がヌイグルミよりも極端に少ないからだ。
だが一夏は、箱物の取り方も確りと会得しており、『百円2プレイ』を無料にして、クラリッサと簪が欲しいと言ったフィギュアを見事にゲット!しただけでなく、刀奈からお願いされたネコのヌイグルミ、ロランから頼まれた腕時計、ヴィシュヌにお願いされたオープンフィンガーグローブ(何のクレーンゲームだ?)、グリフィンに頼まれためっちゃ巨大なバケツ型の箱に入ったインスタントラーメン、円夏に頼まれた『ハイパーDXヌイグルミ・カピバラさん』(全長40cm)をもゲットしていた……無料で此処まで持って行かれたら普通に店側は涙目である。
そんでもって、クレーンゲームで賞品をゲットした後は、このテーマパーク限定のフレームがあるプリクラだ。
一夏は嫁ズと一枚ずつ撮って、円夏と簪が一緒に撮る事になったのだが、一夏とクラリッサが撮ったモノは、意識してやったとは言え、一夏が偽悪的でサディスティックな笑みを浮かべ、クラリッサが思い切りカメラを睨みつけたため『悪の組織のボスと、その右腕の女幹部』と言った感じになってしまった。クラリッサの眼帯が、余計にそのイメージに拍車を掛けている感じだ。
「ふぅ、大分遊んだな。千冬姉への土産を買ってそろそろ帰るか。」
良い時間になって来たので、土産物コーナーで千冬への土産を買って帰ろうと思っていた一行だったが……
「た、大変だーーーー!!」
誰が言ったかは分からないが、この声を聞いて土産物屋から外に出ると、なんとジェットコースターが途中で止まってしまっていた!其れも、平坦な場所ではなく、大回転の頂点……つまりは逆さ吊りの状態でだ。
乗客はシートベルトで固定されているとは言え、シートベルトのロックにも限界があるので、何れは乗客の体重を支え切れずに外れてしまうだろう……そうなれば乗客はコースターに捕まる以外の選択肢は無く、その状態は長くは持たずに落下してしまうのは火を見るよりも明らかだ。
「消防に連絡は?」
「入れましたけど、到着には十分は掛かるとの事で……」
「十分って……其れじゃあ救助が間に合わないぞ。」
状況を確認した一夏が、スタッフに救助要請の確認すると、到着には最低でも十分は掛かるとの事……逆さ吊り状態でない場所で止まってしまったのならば其れでも良いかも知れないが、逆さ吊り状態での最低十分と言うのは時間が掛かり過ぎる。最悪の場合は、シートベルトのロックが限界を迎えて外れ、乗客は地上に真っ逆さまと言う結末だ。
「救助を待ってる暇はねぇな……銀龍騎!」
「ま、そうなるわよね……行くわよ、紅龍騎!」
「行きましょう、フェニックス!」
「まさか救助活動をする事になるとは思わなかったけれど、此れは見過ごせないね。行くぞ、ガイア!」
「私達の出番って事か……力を貸してダイヤモンドソウル!」
「民間人の保護も軍人の務めか……行くぞ、フリート!」
「まさかのハプニングだが、まぁ仕方あるまい。やるぞ、シャイニングウィング!」
「私達が行かない選択肢は無い。ライトニングパニッシャー!」
一刻の余談も許さない状況で、一夏達は迷わず専用機を展開して救助活動を開始!
ISのパワーアシストがあれば、一機で二人運ぶ事が出来るので、一夏達は一度の救助活動でコースターに乗っていた全ての乗客の救出に成功したのだ……此の救出劇は見守っていたギャラリーもハラハラし、一夏達が無事に地上に降り立った時には凄まじいまでの歓声と拍手が起こったのは、もう当然の事であると言えるだろう。
中には救出劇の一部始終を動画で撮っている者もおり、その映像は夕方のニュース番組に提供されて話題を呼んだりするのだった……こうして、一夏達は更に其の名を世間様に更に広く認知されるようになった訳である。
乗客の救助を終えた後は、止まってしまったコースターをターミナルまで運んでターンエンド。
今回の事で、一夏達には後日テーマパークと消防から、感謝状と金一封が送られる事になったのであった……まさかのハプニングであったが、人的被害が無かったと言うのは喜ぶべき事だろうね。此のとっさの判断をした一夏達はマジで素晴らしいと言う以外の事は無いだろう。
此の救助劇の一切合切は、SNSにも動画アップされており、一夏達の救出劇にはこの上ない賞賛の声が寄せられ、救出劇の動画には、あっと言う間に一万を超える『いいね』が付いた事が反響の大き現していると言えるだろう。
逆に言えば其れだけ、織斑一夏の世界的ネームバリューが凄いって事でもあるのだが……一夏のネームバリューは、既にブリュンヒルデたる千冬を上回っていると言っても過言ではないのかも知れないね。
その後、改めて土産物屋で買い物をした一行は、唯一の成人であるクラリッサが千冬への酒を買い、他のメンバーは酒の肴になるモノを選んでいた。
クラリッサ以外の嫁ズと簪も、イカの一夜干しや鰯の油煮の缶詰など悪くないチョイスだったが、一夏は『イカの耳だけで作った塩辛』、円夏は『イカゲソウニ』と、千冬の大好物をチョイスして居ていた。家族だけに、千冬の好みは完全に把握していると、そう言う事なのだろう。
そんなこんなでテーマパークを後にした一行は、『此れから作るのでは時間が掛かる』との事で、コンビニで弁当を買って夕食に……グリフィンが肉系の弁当五個だったのは最早突っ込み不要であろう。
何時もなら、食後の休憩を挟んでお風呂タイムなのだが、この日はお出かけでテンションが上がっていたのか、何故か食後に円夏の提案で『王様ゲーム』が行われる事に……まぁ、其れも偶には良いだろうさ。
刀奈が王様になった際に、『二番と六番が十秒間キス』と言うお題では、二番だったロランと、六番だった円夏がキスをする事になったのだが、キスを終えた後の円夏は完全に骨抜き状態になっていた……九十九人の同性の恋人が居るロランのテクニックの前に、円夏は陥落する以外の選択肢は無かったのだろう。そんなロランを骨抜きにしちまう一夏は更にトンデモナイ訳だけどね。
尚、骨抜きになってフリーズした円夏は一夏が手加減抜きのテキサスクローバーホールドを決める事で強制的に再起動した……可成り強引ではあるが、此れで無事に再起動したのだから問題はあるまいな。
そして、王様ゲームが終わった後は改めてお風呂タイムなのだが……一夏が嫁ズと一緒だったのは最早言うまでもない事だろう。冬休みの期間中、一夏が嫁ズと混浴しなかった事は無いと言っても過言じゃないからね。
まぁ、心の底から愛している相手だからこそ迷う事無く同じ風呂に入れるって事なのだろうけどな……詰まるところ、一夏と嫁ズの愛は本物である!其れしかないわな。
取り敢えず、本日は甘い夜を過ごし……そして、三学期が始まるのだった。
――――――
一夏達がテーマパークで楽しんでいた裏で、スケートリンクでの会話を聞いていた束は、速攻で魔改造した織斑家に地下室を作って、其処にスケートリンクを作り上げると言う、『チートも大概にしろよこの野郎』と言わんばかりの事をやってくれた。
スケートリンクがある家とか、多分日本全国を探しても無いだろう……其れを難なく作ってしまうと言うのは、流石は束であると言うべきなのか少し迷うが、此れが篠ノ之束なのだろうから突っ込むだけ徒労であるのかも知れないな。
「いっ君と嫁ちゃんに仇なす奴は、纏めて私がやっつける~~♪いっ君と嫁ちゃんの敵は束さんの敵と同じだから~~。世紀の天才を敵に回す覚悟があるならやってみな~?結果は如何なっても知らないけ~どね。テヘ♪」
軽いノリで歌うかのように若干物騒極まりない事を言っているが、此れは一夏と嫁ズにとっては此の上なく頼もしい事であると言えるだろう……一夏と嫁ズの敵になる相手は、束が率先して消してくれるわけだからね。天才で天災である束が味方と言うのは、ゲームで言えばゲーム中最強の相手が味方になってくれるようなものだから安心感がハンパないわ。――スケートリンクを作りながら、そんな事を言っているのが若干恐ろしいが、其れだけ一夏と嫁ズは束のお気に入りって事なのだろうな。
もしもこの先、陽彩が一夏に絡んで来たら滅殺されるのは当然として、其処から突き抜けて陽彩を転生させた見習い神もフルボッコにされるのは間違いなかろうな。
取り敢えず、陽彩には明るい未来は待って居ないと、そう言う他は無いだろうね。
まぁ、明るい未来と言うモノは一夏と嫁ズにこそ相応しいモノであって、チート転生者では絶対に手にする事は出来ないモノだから、陽彩が手にする事は未来永劫ないだろうけどね。チートな転生特典があれば、幸福な未来があると言う訳じゃないのだ。皮肉にも、陽彩は其れを身をもって証明する事になったのだった。――その証明は、陽彩に地獄を垣間見せた束以外は誰も認知しなかったけどね。
取り敢えず、束が居る以上は陽彩も大人しくせざるを得ないので、最終学期位は何も事件は起こらずに過ごせる事だろう。
To Be Continued 
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