束が開発した『平行世界渡航機』のテストプレイヤーとなった一夏は、『イチカ・アインザック』としてパラレルワールドに転移し、そしてクラス対抗戦の織斑一夏vs凰鈴音の試合に乱入して来たモノアイの機体と対峙していた。
モノアイの機体は、イチカによって片腕を切り飛ばされたが、マダマダ戦闘を行うには充分な機能を備えているのか、退く気配は全く無い。
「凰、織斑、お前達は退け。ピットに戻る事が出来ないってんなら、アリーナの隅で大人しくしとけ。コイツは、俺がぶっ倒す。」
秒で状況を分析したイチカは、一夏と鈴に此の場から退くように言う。
「退けって……そんな事出来るかよアインザック!アイツは、敵なんだろ?だったら、俺達も一緒に戦う!!お前一人に任せられないって!!」
「お前の言ってる事は分かるが……万全の状態であるのならば兎も角、試合で体力もシールドエネルギーも消耗したお前等じゃ、ハッキリ言って足手纏い以外の何モノでもないんだよ!
だから今は退け。時には退くのも大事な戦術の内だ。」
一夏は、退く気が無かったみたいだが、イチカは敢えて厳しい言葉を使って退かせようとする――『お前等は足手纏いだ』と言うセリフ以上に厳しい言葉はなく、マダマダ実力的には未熟な戦士を撤退させるのには充分な力があるってモノだろう。
「でも……!」
「あ~~……取り敢えず今は退くわよ一夏!
アインザックなら、大丈夫よ!……ドイツで格闘技のジュニア大会で三連覇してるらしいから、戦闘経験はアタシらよりずっと豊富でしょ!……負けんじゃないわよアインザック!まかり間違って死んだりしたらぶっ殺すわよ!!」
「ん~~、スッゴイ矛盾を感じるな其れ。まぁ、其れは良いとして、若しかしてアイツ等が退避するのを待っててくれたのか?だとしたら優しい事で……尤も、お世辞にも優秀とは言えないけどな。」
渋る一夏は、鈴が引き摺ってアリーナの隅に強制退避させ、イチカは改めて乱入者に刀の切っ先を向けると同時にイグニッションブーストで飛び出し、神速の薙ぎ払いを叩き込み、モノアイの装甲を斬り飛ばす!
更に立て続けざまに、残った腕を切り落とし、モノアイがアンロックユニットから放って来るビームを斬り飛ばし、逆にスローダガーを投擲してアンロックユニットを一撃で破壊!
そして、一度納刀すると再度イグニッションブーストを発動し、超神速の居合いでモノアイの首を見事に斬り飛ばしてターンエンド!
頭を切り落とされたモノアイの首からは切れたコードがはみ出し、火花放電を起こしながら音を立てて崩れ去る……イチカがフィールドに降り立ってから僅か二分で正体不明の闖入者は沈黙したのだ。
「……なぁ鈴、お前最後の居合い見えたか?」
「ハイパーセンサー使って辛うじて……肉眼じゃ、アインザックがアレと擦れ違った瞬間に、アイツの首が吹っ飛んだようにしか見えないわよ――てか、イグニッションブーストって、アイツ本当にアンタと同じIS操縦初心者な訳!?」
「いや、俺に聞かれても知らねぇって!」
一夏と鈴がこんな事を言ってるのを他所に、イチカはシュヴァルツ・ドラッへ・リッター(以下『黒龍騎』と表記。)を解除して、観客席に向けてサムズアップしており、観客席では、生徒の避難を終えた更識姉妹がサムズアップを返しており、楯無は扇子に『お見事♡』と出していた。
そして、放送室に向かっていた箒は、放送室に突入した所でモノアイが倒された事で阿呆な事をせずに済み、もしもの時に備えて準備をしていたセシリアは、出番が無かった事に、ちょっと凹んでいた。
そして、IS学園から遠く離れた場所では、うさ耳型の機械を頭に装着した紫髪の女性が、モノアイがいとも簡単に倒される一部始終を映し出していたモニターを前にしてわなわなと震えていた……其れが、己の作ったモノアイが簡単に倒されてしまった事に対してか、其れともイチカを殺し損ねたことに対してなのか、其れは誰にも分からないだろうが。
夏と刀と無限の空 Episode67
『イチカ・アインザックの異世界無双?』
突然の謎の機体の乱入によって、クラス対抗戦は中止となり、イチカと更識姉妹、一夏と鈴は学園長室に呼ばれていた。
学園長室には他に、学園長の轡木十蔵、一年一組の担任の織斑千冬と副担任の山田真耶の姿も……今回の件に関しての、報告その他諸々と言った所だろう此れは。+αで緘口令もあるかもだが。
先ずは、学園長の轡木十蔵が名を名乗り、生徒会長であり、生徒の避難を行った楯無に状況の説明を求める……十蔵が名乗った時に、一夏が『学園長って女の人じゃなかったのか?』と驚いていたが、其処は十蔵が『女尊男卑の思想を持つ人間が居る世界で、男性である私がIS学園の学園長をしていると知られたら何をされるか分からないので、表向きには妻が学園長と言う事になっているのですよ』と説明して納得させていた。
「では報告します。
本日のクラス対抗戦、織斑一夏対凰鈴音の試合に於いて、正体不明の機体がアリーナのシールドを突き破ってアリーナに突入しました。その際、私、更識楯無は妹の更識簪と共に生徒の避難誘導を行い、イチカ・アインザック君が出撃してアンノウンを撃破。
生徒及び教師に対する被害はゼロ。報告は以上です。」
「ありがとうございます。
では続いて織斑先生、山田先生、例の機体について何か分かった事は?」
「はい。あの機体が無人機である事は、アインザックが撃破した時から分かっていましたが、アレに搭載されていたISコアは、未登録のモノでした……推測の域を出ませんが、アレは若しかしたら篠ノ之束が寄越したモノである可能性があります。」
「なんと!ですが、もしもそうであるのならば、彼女は何故そんな事を……」
「……俺をぶっ殺したかったからだろうな。」
当時の状況、そしてモノアイの機体についての報告が行われる中、千冬はモノアイが束によって送り込まれた可能性を示唆し、十蔵は束の真意が分からず困惑していたが、此処でイチカが声を上げた。
その内容は、可成りぶっ飛んでいたが。
「お前を殺す為って、どうしてだよアインザック!!」
「人から聞いた話だが、篠ノ之束ってのは稀代の天才ではあるが、相当な人格破綻者で、自分が気に入った人間以外とは真面に話もしないんだろ?
だとしたら、昔から交流があったらしいお前が、男でありながらISを起動したのは許容出来たとしても、マッタク見ず知らずの俺がISを起動しちまったってのは、篠ノ之束にとっては大凡許容出来るモンじゃないんじゃないか?
だから、無人機を使って俺を殺そうとした……ともすれば、IS学園の生徒すら巻き込んでな。――白騎士事件なんてモノを平然と起こしたアイツなら、其れ位は躊躇なくやりますよね織斑先生?」
「……否定は出来んが、だからと言って奴がやったと言う証拠はない。
其れよりもアインザック、貴様は何故あそこで出撃した?私は貴様に出撃命令を出した覚えはないのだが?」
イチカは世界から与えられた情報で、此の世界の束が碌でもない人格破綻者であると言う事を知って居たので、迷う事無く『狙いは俺だ』と言い、千冬に同意を求めたのだが、千冬は『決定的な証拠がない』と言って同意せず、それどころかイチカが出撃した事を咎めて来た。
其れを聞いたイチカは、『此の世界の千冬姉は、何か威圧的で独裁者みたいだな』と思いつつ、どう答えたモノかと考えていたのだが……
「織斑先生、アインザック君の出撃は私が許可したので何も問題はありません。
確かに織斑先生は、有事の際の現場での指揮の全権を持ってはいますが、私はその指揮系統から外れた存在であり、学園内の権限で言えば一介の教師に過ぎない貴女よりも上だと言う事をお忘れなく。
ブリュンヒルデは只の称号であり何の権力もない……『更識楯無』の前では、その称号は何の意味も成し得ませんよ?」
「更識姉……!」
だが、そんな千冬を楯無は一撃で黙らせる。
教師と生徒会長ならば、本来は教師の方が立場が上なのだが、楯無が生徒会長である場合はその立場は逆転する――此の世界に於いて『更識』は日本のカウンターテロ組織であると同時に、政治的な彼是の闇をも知って居る存在であり、政治家が後ろめたい裏事情をも持ってるので、日本の裏の支配者と言っても過言ではないのだから、その更識の長である楯無が生徒会長である以上は、その権限は一介の教師とは比べ物にならないモノなのだ。
其れを分かっているが故に、千冬は歯噛みするしかなかった……そもそもにして此の世界の千冬は楯無の事が苦手だった。
一年時に授業を担当した事があったのだが、座学では圧倒的な知識量を惜しげもなく披露して授業を支配し、実技では模擬戦で千冬を圧倒したのだ……千冬は学園の訓練機の打鉄で、楯無が専用機を使って居たと言うハンデはあったにしろ、現役時代は無敵だった千冬を圧倒したと言うのは、途轍もない実力を持って居るのは疑いようもない。
そして、それ以来、千冬は何かと楯無にやり込められてきたので苦手意識を持っているのである。
結局、楯無の一撃が決定打となり、イチカはお咎めなしとなっただけでなく、学園長から『生徒を守ってくれたお礼です』と、クラス対抗戦優勝の賞品であった『スウィーツフリーパス券』を渡されたので、学園長室での事が終わった後、スマホでクラスメイトを教室に呼び出して、フリーパス券をばら撒いた。
教壇に立ったイチカが、新日本プロレスの人気レスラー『オカダ・カズチカ』の決めゼリフである『金の雨が降るぞ!』と言って、これまたオカダのレインメーカーポーズを決めてフリーパス券をばら撒いたのだが、此れが中々に受けが良かった!
如何やら四組には『プロレス女子』が其れなりに居たらしく、イチカがぶっ放したネタも理解されたみたいだった……普通に配っても良かったのだろうが、其れじゃあ面白くないからとネタをぶっこむイチカは、矢張りエンターティナーの才能も持ち合わせているのだろう。
――――――
クラスメイトにフリーパス券をばら撒いたイチカは、所属している『IS学園プロレス同好会』に顔を出して、現役時代のブル中野も驚くようなガタイの良い先輩とスパーリングをして、先輩をコーナーに振ってからのローリングエルボー→フェイスクラッシャー→ムーンサルトプレスと言う、天才・武藤敬司の若手時代のフィニッシュコンボを叩き込んでピンフォールを奪うと、寮の自室に戻って来ていた。
「おかえりなさい貴方。ご飯にします?お風呂にします?簪ちゃんにします?其れとも、私?」
「お、お帰りイチカ……其の、私とお姉ちゃん、どっちにする。」
「……」
で、扉を開けたらビキニスタイルの更識姉妹が待っていましたとさ。
其れを見たイチカは、すぐさま扉を閉めて、『何だか前にも似た様な事があったな』と考えて、改めて扉を開いた――が、再度扉を開いた先に待っていたのは先程よりも刺激的な光景だった。
「おかえりなさい貴方。ご飯にします?お風呂にします?簪ちゃんにします?其れとも、私?」
「お、お帰りイチカ……其の、私とお姉ちゃん、どっちにする。」
セリフこそ同じだったが、今度の更識姉妹の衣装は、ビキニスタイルから大幅にぶっ飛んだ『裸エプロン』と言うギリギリを攻めて来た、『男子の永遠の憧れ』と言っても過言ではないモノだったのだ!
『男子永遠の憧れ』って、そんな事はないだろうと思った男性諸氏……其れを否定する前に思春期の己を思い返してご覧あそばせ?思春期の男子が『エロ』に興味を持たないってのは逆に不健全である!思春期の男子のガソリンはエロなのだ!道端に捨ててあるエロ本を一度は拾った事がある筈だ!
ってのは、まぁ良いとして、こんな刺激的なモノを見せられたら普通は速攻でルパンダイブなのだが――
「エプロンの下に水着来てますよね楯無さんも簪も……エプロンの肩紐から、ビキニの肩紐が見えてますよ。」
「あっちゃ~~、失敗しちゃったわね……次は失敗しないように、マイクロビキニを!!」
「お姉ちゃん、気合を入れる所は其処じゃないと思う。」
イチカはそんな事をせずに、冷静にミスを指摘する。
元の世界で、ガチの裸エプロンを刀奈単体、刀奈とロランのコンビ、嫁ズ全員と言う強烈無比な連続技を喰らってすっかり耐性が出来上がっていたイチカは、同時に真贋を見抜く目も鍛えられており、水着エプロンか裸エプロンかの違いなんぞは直ぐに分かる猛者なのだ。仮にビキニの肩紐が隠れていたとしても、水着を着用している事で生じる僅かなエプロンの段差で見抜いた事だろう……若干無意味なスキルに思えなくもないが。
唯一つ言えるのは、イチカと更識姉妹は、こんな悪ふざけが出来る程度には仲が良いと言う事だ。
取り敢えず、楯無と簪には『元に戻ってくれ』と言って着替えて貰い、その後は食堂で夕食タイムに。
イチカの夕食のメニューは『油淋鶏定食』のご飯特盛・肉二倍で、楯無は『メンチカツ丼』の大盛り、簪は『塩ラーメン』のバリカタにチャーシュー五枚、味たまのトッピングと唐揚げの組み合わせだ。
「それにしても、出撃してからたった二分で敵を倒しちゃうだなんて、ドイツの格闘技ジュニア大会で三連覇してるだけの事はあるわねアイン君?
下地が出来てるから、ISの操作にさえ慣れてしまえば君は何処まででも強くなれる……初めて一緒に訓練した時から、筋が良いとは思ってたけど、正直言って、君の成長スピードには驚いて居るわ。
今の君には、手加減した状態じゃもう勝つ事は出来ないかも知れないわね?」
「剣道と剣術、空手に柔道に合気道、中国拳法にレスリングにコマンドサンボ……色んな格闘技学んだ上に、ドイツに居た頃は何故か女子にモテて、自分が好きだった子が実は俺に好意を寄せてるって知った奴から意味不明な喧嘩吹っ掛けられる事も多かったんで、実戦経験も豊富ですからね俺。」
「その好意を向けてた子とは、付き合ったりしたの?」
「いや、してない。そもそも告白もされてないし、俺は別に其の子の事を何とも思ってなかったからな。」
食事をしながら談笑と言うのは良い物だ。
イチカが言ってる事は、元の世界で起きた事を、此の世界風にアレンジしているのだが、だからこそ説得力があるのだ……因みにイチカは、元の世界では『親がヤクザ』って奴にも喧嘩売られてたりするんだが、其れも問答無用で返り討ちにしてたりする。――後日、ヤクザを引き連れてリベンジに来た際には、千冬を召喚してボッコボコにした……イチカが同級生と遣り合ってる間に、千冬はヤクザ連中を全員病院送りにしていたと言うのだから驚く他ないだろう。
喧嘩慣れしてるヤクザであっても、千冬の前では赤子同然とか、冗談抜きに世界最強ハンパないっすわ。
「ねぇ、隣いいかな?」
「ん?……凰か、何か用か?」
其処にやって来たのは鈴。
彼女の本日の夕食メニューは『味噌バターコーンチャーシュー麺』と『炒飯』の並盛だ。細身に見える鈴だが、IS操縦者でありアスリートと言う事もあって、見た目に反して結構食べるみたいだ。
「先ずはアンタにお礼を言っておこうと思ってね。
あのモノアイの奴が乱入して来た時、アンタが来てくれなかったらアタシも一夏もヤバかったと思うからさ……其の、助けてくれてありがとね。」
「別に、大した事じゃねぇよ。(……此の世界の凰鈴音は、俺の世界の奴と比べると相当に真面な奴みたいだな。)」
鈴の礼に、ある意味でお約束とも言える対応をしたイチカは、此の世界の鈴は自分が居た世界の鈴とはまるで別人だと思っていた……イチカの居た世界の鈴は、乱から無理矢理クラス代表の座を奪い去り、陽彩に尻尾振って好き勝手していたDQN女子だったからな。
学園祭でのISバトルでクラリッサに完封負けを喰らった事で、本国に強制送還され、地獄の日々を送っていると言う事に関しては同情する気にもならんが、そんなトンデモDQN女子と比べたら、助けて貰った事に素直に礼を言えるこの世界の鈴は真面であると言えるだろう。
「サラッとそう言っちゃうのねアンタって。
……ねぇ、行き成り変な事を聞いて悪いんだけどさアインザック、アンタだったら女の子から『付き合って』って言われたら如何思う?」
「マジでイキナリだなオイ?
だけど、そうだな……そう言われたら、普通は交際を申し込まれたって思うぜ?少なくとも、俺にそう言ってきた子達は俺と付き合いたいって思ってたみたいだからな。全部断ったけど。」
「断ってるんかい!……でも普通はそう思うわよね?
だけど、一夏はそうじゃないのよ!『付き合って』ってのを『買い物に付き合ってくれ』って言う事に勘違いして、女子の覚悟の告白を明後日の方向にぶん投げちゃうのよ!あり得なくない?」
「うん、其れは無いな。」
「無いわね。」
「其れは無い。」
「でしょ?無いわよね?
アタシも留学したばかりの頃に、いじめっ子から私を助けてくれた一夏の事が好きになって、両親が離婚する事になって、中国に戻る事になった時に、一夏に『私の酢豚の腕前が上達したら、毎日酢豚を食べてくれる?』って言ったんだけど、一夏ってば其れを『酢豚を奢ってくれる』って勘違いしてたのよ!
其れだけなら未だしも、『そんな事か』って言うのは酷くない?伝わり辛かったのは仕方ないとして、アタシの一世一代の告白を『そんな事』って……!」
「其れは……ギルティだな。」
「有罪ね。」
「織斑一夏を、恋する乙女の告白を踏みにじった罪で、懲役五百三十年と終身刑十三回の刑に処す。」
続いて鈴から知らされた事を聞いたイチカ達は、満場一致で一夏に実刑判決を下した……特に簪が容赦ない。百年以上の懲役だけでも大概なのだが、終身刑が十三回って、ある意味でギネス記録にもなってる懲役十四万年よりも上かも知れんのだわ。
だがしかし、此の世界の一夏は、兎に角異性からの好意には『お前精神病なんじゃねぇの?』と言うレベルで鈍感な上に朴念仁で、鈴の覚悟の告白もマッタク全然1mmも伝わって居なかったのだ……鈴の告白が若干分かり辛かったとはいえ、其れを忘れてるって時点で死刑モノであるだけでなく、『そんな事か』と抜かすとか、簪の言う様な無茶苦茶な判決でも足りんのかも知れない。否、確実に足りんでしょうな。
「まぁ、つまりはお前は織斑に惚れてるんだけど、如何したら織斑に己の好意を伝えられるか悩んでるって所か?」
「まぁ、そんな所ね……箒とセシリアも一夏に惚れてるっぽいんだけど、一夏を思う気持ちなら、私は誰にも負けてない。その自負があるわ――だから、アタシは絶対に一夏と結ばれたい。
その為には如何すれば良いかな、アインザック?」
「行き成り高難易度ミッションだなオイ。――だが、そう言う事なら微力ながら力を貸してやるよ凰。」
そんな訳で、鈴は盛大にぶっちゃけてイチカに助けを求めて来たのだ。
元の世界の鈴からの頼みだったら問答無用で断っていただろうが、此の世界の鈴はDQNでない上に、真に一夏の事を心の底から愛していると言う事が分かってしまったので、難易度は高くともその頼みを断る理由は無かった。
「本当に!?嘘じゃないわよね!!」
「俺は冗談は言っても嘘は言わねぇ。つか、嘘を吐くメリットがないからな――だから、お前の恋路を全力でサポートしてやるよ。愛する人と結ばれる、此れ以上の幸福ってモノは、この世に存在しないかもだからな
とは言っても、織斑にはドストレートに思いを伝えたところで、其れが正しく伝わるとは思えないから……ストレートに告白するのは止めて、女性の最大の武器とも言える『胃袋を掴む』で行くのが良いかもな。」
鈴からこの世界の一夏のトンデモナイ鈍感と朴念仁っぷりを聞いたイチカは、正攻法で攻めるのは止めて、胃袋を掴むと言う裏技を提案した――まぁ、ストレートに己の思いを伝えたとしても、其れを曲解してしまう様な相手には、まず胃袋を掴んで逃げられないようにした所で、己の魅力をアピールする方が効果が高いと言えるのである。
「胃袋を……料理には自信があるから、其れは出来るかも知れないけど、箒とセシリアと比べたら、私ってチビだし胸もないから、一夏には魅力的な女性として見られてないんじゃないかって思うのよね。」
「凰、女性は胸じゃないぜ?
其れに、デカくて良いのは若い時だけだ。ちゃんと体型維持のトレーニングをしてないと、デカい胸は年取ったら地球の万有引力に逆らう事が出来ずに、悲惨な事になるだけだ……だが、悲惨な事になる元が存在しなければそんな事にはならないからな。」
「其れって、励まされてんだか何だか良く分からないわね……」
「序に言うと、多分織斑はデカい胸には耐性があって、実は其れほど魅力を感じていない可能性が高い。
織斑先生に山田先生、篠ノ之にオルコット……アイツの周りには巨乳が飽和状態になっていると言っても過言ではない。となると、逆に貧乳の方が新鮮で魅力を感じる可能性は充分にある。
凰、貧乳はステータスだ!希少価値だ!!」
「何だか、何処かで聞いたようなセリフね?」
「胸は大きさだけが全てじゃない……大事なのは身体の大きさとのバランス、そして形と張り……凰さんの身体に巨乳はバランスが悪い。言うなれば仮面ライダーにスーパー戦隊シリーズお馴染みの合体ロボの武器を持たせるようなモノだと思う。」
「ゴメン、自分で言い出した事だけど、何だか話が変な方向に行ってるわ。」
「そうだな。
取り敢えず、先ずは織斑に手料理をなるべく振る舞うようにして胃袋掴んで外堀を埋める。と同時に、出来るだけアイツに優しく接するんだ。『自分の為に料理を作ってくれる優しい少女』ってのが直ぐ近くに居るとなったら、如何に織斑が鈍感で朴念仁でも少しは意識するようになる筈だ。
だがその為にはお前と織斑が出来るだけ一緒に居られるようにしなくちゃならない訳だが……楯無さん、生徒会長権限で織斑のルームメイトの変更とか出来ませんか?」
「出来るわよ?
元々、今のルームメイトである箒ちゃんは、織斑君の幼馴染で、其れなら織斑君も気が楽だろうって言う理由だけで同室になった訳だから、其れなら同じ理由で鈴ちゃんが同室になっても何ら問題は無いわ。
寧ろ『篠ノ之束の妹』と言う事以外に、特に何もない箒ちゃんよりも、中国の国家代表候補生で専用機まで持ってる鈴ちゃんの方が、織斑君の護衛と言う事を考えるとルームメイトとしては適任かもしれないわ。」
若干話が変な方向に行きかけたが、手料理と優しさで一夏に鈴の事を意識させるのを基本的な方針としながら、事は鈴と一夏を同室にすると言う話にまで発展して行った。
寮の部屋の変更など、早々簡単に出来るモノではなく、そもそもにして寮長である千冬の許可が必要になるのだが、楯無が許可すると言うのであればその限りではない――『ブリュンヒルデ』の称号に敬意を表して、IS学園の教師の中では『有事の際の現場での最高指揮官』、『学生寮の寮長』、『一年の学年主任』と言った数々の役職を持っている千冬であり、その発言力も大きいので、一夏が彼女のクラスになったのも、『弟は私が面倒を見ます』と言ったからなのだが、楯無が持っている権限は千冬の其れを遥かに凌駕する。
言ってしまえば、楯無は千冬の決定を覆す事が出来るが、千冬は楯無の決定を覆す事が出来ない訳だ……あくまでも称号でしかなく、何の権力も持たない『ブリュンヒルデ』と、暗部の長と言う権力を持った『楯無』の違いが此処にあると言えるだろう。
「アタシが一夏のルームメイトって……其れは嬉しい事だけど、何だってアインザックだけじゃなくて生徒会長もノリノリで手伝ってくれるんでしょうか?話をしたのって、今日が初めてだったと思うんですけど?」
「人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて地獄に落ちろとは言うけど、人の愛を応援するって言うのは中々に面白い物なのよ鈴ちゃん。
其れに、鈴ちゃんは本当に織斑君の事が好きだって言うのは話を聞いて良く分かったしね……箒ちゃんとセシリアちゃんも織斑君に惚れているみたいだけど、箒ちゃんは、再会した彼と直ぐには接触しなかったし、セシリアちゃんの場合はクラス代表決定戦の後での手首ドリル……果たして本当に織斑君に惚れてるのか疑わしい部分があるのが否めない。
でも貴女は学園に来た翌日に彼に会いに行ったでしょう?翌日だったのは、学園に到着したのが夜だったから……常識もあるわね。――そして、彼と同じ舞台に立つ為に二組のクラス代表を変わって貰った。しかも、元の代表だった子が納得する形でね。
そんな事をしてしまう位に、貴女は織斑君の事を愛している……そう、恋ではなく愛なのよ貴女の思いは。その愛情を、私達は応援したいの。
其れと、あの織斑君が貴女の事を意識して行く過程ってのも見ていて面白そうだしね。」
「お姉ちゃん、最後ので色々と台無しだよ。」
取り敢えず、鈴の恋路は全力で応援すると言う方向で一致したと言う事で良いだろう。てか、楯無が味方になってくれたとか頼もしいとかのレベルではない……IS学園の裏の最高権力者が味方とか、ゲーム中最強のキャラが味方になったようなモンだからな。
その後は鈴も交えての夕食での談笑タイムとなり、その際に鈴が一夏に惚れる切っ掛けとなった出来事の詳細を話してくれたのだが、其れを聞いたイチカと更識姉妹は若干引いた。
と言うのも、一夏はいじめっ子のリーダーに助走付きのケンカキックを叩き込んだ後にジャーマンスープレックスで投げると、掃除用具入れから、『メイドさんが装備出来る最強の武器』の一つであるモップを取り出して大立ち回りを演じていじめっ子達をフルボッコにして蹴散らしてしまったと言うのだ……いじめを辞めさせると言うのはとっても正しい事だが、、其れにしたってモップを使うってのはやり過ぎだろう。一人で複数を相手にするのだから、武器の一つでも必要だったのは分かるのだが。
そんでもって夕食後、楯無が箒に『お引越し』を伝えて、鈴と部屋を交換する事になった――勿論箒は其れに異を唱えたのだが、其処は楯無が『織斑君を護衛すると言う観点から考えると、貴女よりも国家代表候補生であり専用機まで持っている彼女の方が適任』と言う正論をぶつけて黙らせた。
何よりも一夏が『許可されたんなら、鈴との同室でも良いぞ俺は』と言ったので、箒としては此の部屋に居る理由が無くなってしまったのだ……一夏としては、己の不注意だったとは言え、初日に箒に殺され掛けた事が若干のトラウマになっていたのかも知れないな。
……普通に考えて、何かあれば木刀で殴りかかって来る奴と同室ってのは気が休まる時がないからね――一夏も箒の『お引越し』は有り難い事だったのかも知れない。……以前に鈴が箒に『部屋を代わって』と迫った時には、その場を収める為に千冬の名を出して鈴を黙らせた一夏だったが、心の奥底では箒との共同生活に限界を感じていたのかも知れないわな。
「更識姉、貴様一体如何言う心算だ?勝手に一夏のルームメイトを篠ノ之から凰に変更するとは……」
「あらあら、何かお気に召しませんでしたか織斑先生?
私はあくまでも織斑君の安全を考えて鈴ちゃんを織斑君と同室にしただけですよ?同じ幼馴染なのならば、国家代表候補生であり専用機も持っている鈴ちゃんの方がもしもの時の護衛としては有能であるのは疑いようもない事実でしょう?
私は織斑君の事を思ってやった事であり、貴女に感謝こそされ文句を言われる筋合いは何処にもないと考えますが……其れについてはどうお考えで?」
「其れは……」
「織斑君が大切な事は分かりますが、彼に固執して本質を見誤っては本末転倒ですよ織斑先生。
織斑君とアインザック君は、今や世界的に見れば、世界の権力者のナンバーワンであるローマ法王と天皇陛下以上の存在であると言っても過言ではありません。
そんな彼らの安全を最優先に考えるのは当然の事……アインザック君には私と簪ちゃんが、織斑君には鈴ちゃんが夫々護衛として付く、其処には何も問題は存在しないと考えていますが――其れに関して何も言う事が無いのであれば、私は此れで失礼しますわ織斑先生。」
其れに関して、千冬が何か言って来たが、楯無は其れに正論をぶつけつつ軽くあしらうと、『此れ以上話す事はない』と言うかのようにその場を去って己の部屋に戻って行った。
「違う……お前はアイツの恐ろしさをまるで理解していないぞ更識姉。
私が一夏と箒を同室にしたのは、アイツがIS学園に手を出さないようにする為だ――アイツにとって箒は誰よりも優先すべき相手であり、その箒が惚れている一夏と一緒の部屋にすれば束は学園には手を出さない筈だからな。
だが、其れが無くなったら束が何をしでかすか分からんのだぞ……!」
千冬は其れに歯噛みしながらも、楯無の決定を覆す事は出来ないと言う事に若干の苛立ちを感じると同時に、此の部屋替えによって束が何かしでかすのではないかと言う不安な思いに駆られていた。
まぁ、既に束はモノアイの無人機を送り込んでイチカを殺そうとしたって言うトンデモナイ事をやってくれたので、千冬が危惧するのも仕方ないだろう――学園長室での時には、束がやったという証拠はないとか言っていたが、千冬としても束を疑わないと言う選択肢は無かったと言う事なのだろう。
そうでありながら、束の関与を有耶無耶にしたのは、束が学園に何をしてくるか分からないからだった――千冬ならば、束一人を無効化するのは容易いが、束以外に誰かが居る場合にはその限りではない。だから千冬は、出来るだけ束を刺激しないようにしていたのだった。
――――――
「コイツ、箒ちゃんを追い出していっ君と同室になるとか言い度胸してんじゃん……だけどね、いっ君に必要なのはお前じゃなくて箒ちゃんなんだよ!
そもそもにして、お前みたいな貧乳がいっ君と同室とか烏滸がましいどころの話じゃねぇっつーの!――良し決めた、此のチャイニーズツインテールの事は殺しちゃおう。コイツは箒ちゃんからいっ君を奪おうとする害虫だから、害虫を駆除する位は当然の事だよね!!!」
IS学園から遥か遠く離れた研究室では、此の世界の篠ノ之束が、一夏と箒の同室が解除される事に大層憤慨し、そして鈴の抹殺を計画していた……妹の恋路を全力で応援すると言うのは姉として正しい事なのかも知れないが、だからと言って妹の恋敵になりそうな奴を殺すってのは流石にやり過ぎだと言わざるを得ない。
まして、箒と鈴の間には『一夏の幼馴染』と言う共通点から、少なからず友情と言うモノが存在しており、其れを考えた場合、鈴が死んだとなったら箒も大層悲しむ事になるのだが、この脳ミソぶちゃむくれのクソ兎には、そんな事も分からないのだろう。
イチカの居た世界の束も、割と『目的の為には手段を選ばない』部分はあったのだが、それでも人として超えてはならない一線を越える事だけはしなかった――しかし。此の世界の束は、『人として超えてはならない一線って何』と言う感じなので、自分のお気に入り以外の命なんて、道端の石ころ未満な訳だ。
「いっ君の隣にいるべきは箒ちゃんなんだ……其れ以外の存在なんて、私は絶対に認めない!クーちゃん、そう言う訳だから、あのチャイニーズツインテール殺して来てくれるかな?」
「はい、束様の命とあれば。」
そして、束の研究所から一機のISが飛び出してIS学園に向かって行った――束のセリフからして碌でもない事になるのは間違いない。此の世界の束は、天才ではなく文字通りの『天災』であるみたいだ。……取り敢えずこの世界の束は、人間の屑だと言うのは間違いないだろうな。
こんなのが姉とか、此の世界の箒には若干同情しても罰は当たるまい……世界規模で碌でもない事をしてくれているDQNが姉とか、悲惨過ぎてもう同情する以外に何もないからな。
だがしかし、此の天災は、溺愛する妹が、自分のせいで苦しんでるかもしれないって事はマッタク持って考えていないのだろうな――自分がやる事は、全て正しいって思ってる、正に救いようのない下衆でクズな訳だからな此の世界の篠ノ之束と言う生き物は。
――――――
一夏が『イチカ・アインザック』として異世界生活をしていた頃、一夏の嫁ズは何をしていたかと言うと……
「ホイッとな。」
「ナインボールイン。ウィナー、刀奈。」
「今のブレイクショット、ダイヤモンドカッターか?もう誰も打つ事が出来ないと聞いていたが、まさかそんな幻の打ち方を会得しているとは……私もフォックストロットを会得しているが、ダイヤモンドカッターには勝てんな。」
冬コミ用のコスプレ衣装を作った後は、ビリヤードに興じていた。
やって居るのは最も基本的な『ナインボール』なのだが、其処で刀奈が今や誰も打つ事が出来ないと言われている幻のショットである『ダイヤモンドカッター』を披露して、更にブレイクショットでナインボールを落とすと言うトンでも技を披露してくれた。
ブレイクショットでナインボールを落とすだけならば、クラリッサも披露してくれたのだが、刀奈は今や伝説となっている幻の打ち方で初手ワンターンキルをして見せたのだから、その衝撃度はハンパないだろう。
「一夏が目を覚ますまではまだ時間があるわね……さて、次は何をしましょうか?」
「刀奈……オイ、デュエルしろよ。」
「グリフィン、中々に良いセリフを言ってくれるじゃないの?でも、其れを言われた以上、デュエルをしないと言う選択肢は存在しないから……良いわ、相手になってあげる!私に簡単に勝てると思ったら大間違いだと言う事を教えてあげるわ!」
「私のデッキに勝てるかな?」
ビリヤードの後は遊戯王大会が勃発し、総当たり戦を行った挙句、刀奈とクラリッサが無敗での頂上決戦を行い、刀奈の『真・サイバー流』がクラリッサの『堕天使』を圧倒した――パワー・ボンドで攻撃力一万のサイバー・ダーク・エンドを呼び出しただけでなく、サイバー・ダーク・エンドに『メテオ・ストライク』を含む装備カードを五枚装備させて『グォレンダァ!』ってのは極悪だからな。『リミッター解除』を使わなかっただけ、まだ手加減をしていたのかも知れないけどね。
まぁ、取り敢えずこっちの世界は平和其の物であった。
To Be Continued 
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