冬休み二日目。
嫁ズとの甘い夜を過ごした一夏は、何時も通りに早朝に目を覚まして、これまた何時も通りの朝トレーニングを行っていた……普通ならば過剰なトレーニングは逆効果なのだが、一夏の場合は最早此れ位やらないと満足出来なくなっており、実際にトレーニングを積んだ分だけ実力が底上げされているのだから、一夏には此れが適性なトレーニング量と言う事なのだろう。
千冬は言うに及ばずだが、一夏の身体能力も大分トンデモナイレベルな訳だ……この姉弟マジでバケモノである。
「今日の朝飯は……目玉焼きトーストと、簡単サラダとコンソメスープ、其れからバナナヨーグルトで良いか。」
トレーニングを終えた一夏は、シャワーで汗を流すと、着替えてから朝食の準備に取り掛かる。
食パンにバターを塗ると、食パンの四隅にマヨネーズの壁を作ってから、マヨネーズの壁の内部に生卵をライドオンしてからオーブンに。
でもって、パンが焼き上がるまでの間に、小皿に適当な大きさにちぎったレタスと、櫛切りにしたトマト、細切りにした水菜を盛ると、オリーブオイルと塩コショウをしてサラダを完成させ、スープカップに顆粒のビーフコンソメを投入してから、粉末のコショーを加え、其処に熱湯を注げばコンソメスープが完成だ。
最後にスライスしたバナナにハチミツで味付けしたヨーグルトを掛けてデザートのバナナヨーグルトも完成し、シンプルながら中々豪華な朝食の出来上がり……なのだが、一度に食パンを十枚も焼けるトースターが二台もあるとは、束は果たして将来的に一夏一家がドレだけの大家族になると予想しているのか、やや謎である。
「おはよう一夏、とても良い匂いね?」
「一夏、とても良い朝だね。朝食も美味しそうだ。」
「おはようございます一夏。何か手伝う事はありますか?」
「な~~んか、朝からお腹が減る良い匂い~~♪一夏、おはよ!!」
「おはよう一夏。ふむ、相変わらず栄養バランスを考えている良いメニューだな?」
朝食が出来がると同時に、嫁ズもリビングに姿を現す。全員着替えて、洗顔と歯磨きも済ませたようだ。
「おはよう皆。朝飯は出来てるからテーブルに運んどいてくれ。俺は円夏を起こしてくるから。其れと、コーヒーセットしといてくれ。」
「了解。しかし、円夏はそんなに朝が弱くなかったような?学校ではいつも普通に登校していなかったかい……?」
「あぁ、ロラン達は知らないのよね?円夏って普段は、其れこそ授業の無い日曜日でもちゃんと起きるんだけど、長期休暇中だと何故か途端に寝坊助になっちゃうのよ……しかも、中々起きないから中学時代は苦労したわ。」
「そう言う事。今頃、鷹月さんも円夏が起きなくて困ってるだろうからな。そんじゃ、配膳宜しく。トーストが二枚乗ってるのはグリフィンのな。」
「なんで私だけ二枚?」
「お前、一枚じゃ足りないだろ?」
一夏はと言うと、嫁ズに朝食の配膳を頼み、鍋とお玉を持って円夏と静寐が居る部屋に向かう――そして十数秒後、凄まじい金属音が鳴り響き、円夏は強制的に起床させられたのだった。
同室の静寐は一夏から『耳塞いどいて』と言われたのでノーダメージだったが、お玉と鍋の目覚ましが目の前で行われた事に、『リアルで其れやるの初めて見たよ……』と驚いていた。まぁ、普通は此れをリアルでやる奴は居ないわな。
夏と刀と無限の空 Episode66
『Hey!Hey!Hey!異世界旅行!』
文字通り円夏を叩き起こした後は、朝食タイムを楽しんだ。
目玉焼きトーストは、マヨネーズと卵が一緒になっていると言う結構ボリュームのあるメニューなのだが、一夏の予想通りグリフィンは二枚ともペロリと平らげただけではなく、更にお代わりとしてもう二枚食パンを焼き、ピーナッツバターをタップリ塗って食べていた……朝から食パン四枚を軽々完食してしまうとは、健啖家の彼女らしいと言うべきだろうが、グリフィンの食べっぷりは見ている方が気持ち良くなる位のモノなので全然問題ない。
グリフィンほど、『ご飯を美味しく食べる事が出来てる間は、取り敢えず何があっても大丈夫』って事を体現してる人間は居ないかも知れない。
食後のコーヒーは、此れは中々に個性が出る結果となった。
一夏とヴィシュヌとクラリッサはブラック、刀奈と静寐は砂糖入り、ロランとグリフィンは無糖カフェオレ、円夏は砂糖入りのカフェオレだった……因みに、刀奈は角砂糖一個で、静寐は二個だったのだが、円夏は四個だった。……リンディ茶とは言わないが入れ過ぎだろう確実に。円夏は意外と甘党だった様だ。
朝食が済んだ後、円夏は『静寐を家まで送って来る』と言って外出し、一夏は嫁ズと一緒に朝食後の食器洗浄――はしてなかった。食器洗浄は、束が新たに設置した全自動食器洗い機『ハイパー洗浄君Z』にお任せである。
全自動の食器洗浄機は既に存在しているが、束製の此の食器洗浄機は、超高温スチームで洗剤を使わずとも頑固な油汚れをを完璧に除去する環境に配慮した設計なだけでなく、乾燥時にはプラズマイオンで除菌を行い、更にはナノマシンでの抗菌コーティングまでしてくれると言うぶっ壊れ性能なのだ。果たして此れを商品化した場合、一体ドレだけの値段での販売になるのかは想像も出来ない。
なので、一夏と嫁ズは食後はゆったりとした時間を――
「俺のテリーの蓄積ダメージを100%以上にしたな?……待っていたぞ、この時を!喰らえや、パワァァ……ゲイザー!!」
「ちょ、一夏!超必の連発は反則よ!?」
「く……近付いたらやられる!下手に飛んでもやられるとは……厄介だね。」
「スマブラの次回作には、是非ともサガットを参戦させてほしいですね。」
「ゲイザーの隙に……飛び込んだらバスターウルフが待っていましたとさ♪」
「最強のベヨネッタを使っても、蓄積ダメージ100%を超えたテリーには……!」
過ごさずにスマブラで白熱していた!
『スマブラは四人までしか対戦出来ないんじゃないの?』と思うかもしれないが、此のゲーム機は束が六人プレイまでを可能にし、スマブラのソフトの方も六人プレイを可能にするようにプログラムに手を加えたモノなのだ……普通に考えれば中々にヤッベー代物なのだが、仲間内で使うのであれば問題なかろう。
で、対戦では一夏のテリーが蓄積ダメージが100%を超えた所で無双タイムに入っていた――テリーは、蓄積ダメージが100%を越えた場合に限り、『最後の切り札』に匹敵する威力のパワーゲイザーとバスターウルフを連発出来るようになるのだ。
特にパワーゲイザーは、横方向への攻撃判定は大きくないが、上方向への攻撃判定は滅茶苦茶デカいので、下手に飛び込むとブッ飛ばされるのだ……バスターウルフに関しても、初段の横方向への判定が強く、初段ヒット後の攻撃は横と上に大きな攻撃判定が出るのでこれまた強技だ。おまけにどっちも出掛かりには無敵時間が存在するってんだからトンでもないわ。出展作品の特徴を生かしたと言っても、此れは冗談抜きで鬼性能だろう。瀕死になったら、最後の切り札級の技を連発出来るってマジでフザケンナである。点滅体力からの超必連発は格ゲーでは激強とは言ってもだ!
とは言え、吹っ飛ばした相手が復活した場合には、復帰時の無敵があるので其れを利用すればテリーに近付く事も出来るので、吹き飛ばされた刀奈のピカチュウが一夏のテリーを投げた所にカミナリを叩き込んで吹っ飛ばした!
……一夏とのポケモン対決でもピカチュウを使っていたのを考えると、刀奈はピカチュウに中々の思い入れがあるのかも知れない。でんきだまでピカチュウのままで行くか、其れともすばやさ以外のステータスはピカチュウよりも高くなるライチュウに進化させるのか、其れは永遠に何方が正しいのか答えが出ない問題なのかも知れないな。
――Pipipipipi
そんな感じでスマブラで白熱した対戦をしてる最中、一夏のスマホに着信が。――相手は、束だ。
「はいもしもし、此方現在無敵街道驀進中の一夏君です。御用件をどうぞ。」
『うおっと、まさかそう来るとは束さんも予想してなかったかな?中々やるねいっ君!この束さんも予想出来ない事をしてくれるとは、流石だよ……いっ君が女の子だったら放っておかなかったかもだよ!』
「……切っても良いっすか?」
『あ~~待って待って切らないで!
実はね、束さんがまたまた凄いモノを開発しちゃったから、其れをいっ君達に見て貰って、そんでもってテストプレイもして貰おうかな~って思ってさ。今日は特に予定ないよね?だったら、今から更識ワールドカンパニーに来て貰えない?』
スマホを取った一夏に、束は『凄いモノを開発したから見に来て!そんで、テストプレイをして』と言って来た……ISと言うトンでもパワードスーツを作り上げながらも、其れが兵器にならないように調整をした束が、『トンデモナイ』と言うのならば、マジで相当な発明品なのだろう。
「其れは良いですけど……今度は何を作ったんすか?まさか、世界破壊爆弾とか言わないですよね?」
『流石にどこぞの青色タヌキロボットの最終兵器は開発してないよ……ぶっちゃけて言うと、劇場版の敵には、アレを一発ブチかませば万事解決っしょ?ヤバい敵は世界ごとブッ飛ばせ!吹っ飛ばせ!!全力全壊!!
……ゴメン、ちょっと暴走しちゃったけど、其れは来てもらえれば分かるから。其れじゃ、待ってるよ~~ん!』
「……だ、そうです。」
「流石は束博士、色々とぶっ飛んでるわねぇ……今度は何を作ったのかしら?」
「其れは行ってのお楽しみと言う事なのだろうね――だが、其れだけに興味がある。」
「ならば、更識ワールドカンパニーに行かないと言う選択肢はあり得ません……行きましょう、一夏。」
「今日は特に予定もなかったから、束さんに付き合うのもアリじゃないかと思うかな?……少なくとも、シミュレーターの時みたいな事にはならないと思うし。」
「私も興味があるから、行ってみるのも良いかも知れないな。」
通話を切った後で、一夏が嫁ズに聞くと、意外と全員が乗り気だったので、一夏は嫁ズと共に更識ワールドカンパニーに向かう事にした――でもって、其れを聞いた刀奈が更識ワールドカンパニーに連絡を入れて、迎えのリムジンを呼んでいた。
でもって、更識ワールドカンパニーに到着するまでの間、一夏と嫁ズは後部座席で遊戯王対戦に興じていた――総当たり戦を行った結果、一夏と刀奈が無敗で決勝戦となり、一夏のブルーアイズデッキが、刀奈の真・サイバー流デッキを倒して見事に優勝した!
刀奈もパワー・ボンドで攻撃力一万のサイバー・ダーク・エンド・ドラゴンを召喚したのだが、一夏はブルーアイズ・タイラント・ドラゴンを融合召喚すると、バトルフェイズで連続オネストで、攻撃力を二万三千四百まで引き上げて見事に全勝対決を制したのだった……光属性デッキにオネストは必須だわな。
――――――
更識ワールドカンパニーに到着した一行は、『南風野吏専用研究室』に向かい――
「たのもー!」
「おぉう……まさか、扉を蹴り飛ばしてくるとは予想外だったよいっ君。」
一夏が扉を蹴り飛ばして入室!扉は壊すモノ!!寧ろ蹴り砕くモノ!!!内開きのドアならばそれ程問題にはならないが、外開きのドアやスライド式のドアだったら此れは致命傷になるだろう。……一夏が蹴り飛ばした扉は見事に粉々になっているので、内開きであったとしても致命傷だったのかも知れないが。
「そんで、何の用ですか束さん?」
「こほん……聞いて驚くなかれ!束さんはこの度遂に、平行世界渡航機を完成させてしまったのだ~~!!わ~~!パチパチパチ!!」
そんでもって、会ってイキナリ束は爆弾を投下してくれた!其れも只の爆弾ではなく、核爆弾だ!平行世界渡航機を完成させたとかマジでトンでもねぇ事この上ないのだが、平行世界からやって来たナツキとカタナも同じモノを使っているし、其れを開発したのは平行世界の束だと言う事を考えれば、此の世界の束が略同じ物を開発出来ない道理はない。――寧ろ、今まで開発しなかったのが不思議だと言っても良いだろう。
「平行世界渡航機って……其れを使えば、俺達でも平行世界からやって来たカタナ達と同じ事が出来るって事ですか?」
「同じとは言えないかな。
私が開発したこの装置は、平行世界に送る事が出来るのは一人で、そして送る事が出来るのは精神のみで、肉体はこっちの世界に残る――でもって、送られた精神は、送られた先の世界で自分に最も近い別人の仮初の肉体を与えられるんだよ。
但し、此れは送られた世界に平行世界の自分が存在する場合のみね、例えばいっ君が居る平行世界にいっ君を送った場合、送られたいっ君は、限りなくいっ君に近い別人になるんだけど、送られた世界に平行世界のいっ君が存在しない場合、いっ君は織斑一夏のままなんだよ。」
「……束博士、若干頭が混乱して来ましたけど……精神だけを送ると仰ってましたけれど、そうなると精神を送られた身体の方は如何なるんです?」
【バタンキュー?】
「かたちゃん、其れはあながち間違いじゃないかな?精神が平行世界に送られた肉体は、精神が戻ってくるまで眠っているのと同じ状態になるんだよ。そんで、精神が戻って来たら目を覚ますって感じだね。」
「……ある意味此れは、平行世界のカタナ達が使っているモノよりも凄いかも知れないね?精神だけを平行世界に送るだなんて、身体を丸ごと送るよりもずっと高度な技術だと思うからね。」
その平行世界渡航機の詳細を聞いて、更に一夏達は驚く事に……一人しか送れないとは言え、身体をマルッと送るのではなく、精神だけを送ると言うのはロランの言ったように相当に高度な技術でしかないのだから。
『どうやってそんな事を可能にしたのか?』なんてのは聞いてもきっと分からないだろう。この装置には設計図なんてモノは無く、全ては束の脳ミソが弾き出した常人には理解不能な文字と記号の羅列でしかない、超高度で複雑な計算式によって作り出されたのだから。因みに、その計算式は一般的な大学ノートを丸々一冊埋めてしまう程のモノであるらしい。……惑星探査衛星の軌道計算軽く超えてるわな。
「束博士、私達が此処に呼ばれた理由は、テストプレイをお願いしたいとの事でしたが、何故私達なのでしょう?テストプレイだけならば、此処のスタッフでも良いのではないかと思うのですが?」
「ん~~~、ヴィーちゃんの言う事は御尤もなんだけど、束さんとしては此処のスタッフよりも、真っ先に君達にテストして欲しいと思ったんだよね!
もう一つの理由として、私自身が被験者になっても良いんだけど、その場合装置に不具合が起きた場合に対処出来る人が居ないからさ……いっ君達に頼んでみようかなぁって♪序に言うと、いっ君達なら何か問題が起きても何とか出来ちゃうと思うし♪」
「信頼されてんだか何だか分かんないっすね……まぁ、トラブルへの対処は慣れてますけど。主に正義のせいで。」
「でも、平行世界って言うのはちょっと興味あるかも。」
「自分ではない自分、確かに興味はあるな。」
束が装置のテストプレイに一夏達を呼んだのは、可愛い弟分と妹分に、公表したら世紀の大発明となるであろうモノを誰よりも早く使って貰いたいと言う気持ちがあったからだった。……更識ワールドカンパニーのスタッフに頼んでも良かったのだが、束としては最も信頼している一夏達に頼みたいと言う思いもあったのだろう。
もう一つの理由として、束自身が被験者になっても良かったのだが、束自身が被験者になると装置に不具合が発生した場合に、対処出来る人間が居なくなってしまうので、束以外の被験者が必要となり、其の被験者を頼むのは一夏達以外には存在していなかったのだ――仮に不具合が起きたとしても、一夏達ならば対処出来るから安心だと、信頼しているしね。
血の繋がった妹には持てなかった信頼を、血の繋がってない弟分と妹分に持つと言うのは、少々皮肉な事かもしれないが。
「なら、先ずは俺に行かせて貰えませんか束さん?
刀奈達も平行世界には興味があるとは思いますが、まだ完全に安全だと言い切れないテストプレイのトップバッターをさせる訳には行きません……俺がトップバッターで行って、其れで大丈夫だったら刀奈達もテストプレイをしてデータを取れば良いでしょう?
其れに、こう言う時は先ず野郎が先陣切るモンだって相場が決まってますし、嫁の前でカッコ付けさせて下さいよ、束さん。」
その話を聞いて、一夏がトップバッターに名乗りを上げた。
理由を要約すると『安全だと言い切れないモノのテストプレイのトップバッターを嫁にさせられるか!』と言うモノだったのだが、こんな事をサラッと言ってしまう一夏はマジでイケメンであり、嫁ズの愛が其れだけ深いと言う事なのだろう。
「一夏!でも、其れじゃあ貴方に何かあったら……!!」
「そうだよ一夏、君に何かあったら私達は……!」
「貴方を危険な目には遭わせたくありません……!」
「一夏……私達の為に無茶しちゃダメだよ?」
「グリフィンの言う通りだ。」
そして嫁ズもまた、一夏に愛されてるのと同じ位に一夏の事を愛しているので、一夏がトップバッターになると言うのは簡単には了承出来ない。もしも、一夏に何かあったらと思うと一気に不安になるのだ……臨海学校での一件は、彼女達の心に消えない傷ってモノを刻み込んでいるのかも知れないな。
「俺なら大丈夫だって。臨海学校の時もパワーアップして復活したし、この前のシミュレーターだって何とかしただろ?其れに、万が一の事があればお前達が俺の事を思ってくれれば、機体の共鳴進化で何とかなるからな。
そして、共鳴進化が出来るのは俺の銀龍騎だけだから、其れ等を踏まえたら俺が先陣を切るのがベターなんだ。大丈夫、必ず無事に戻って来るって約束するからさ、最初は俺に行かせてくれ。」
「……言われてみると、一夏は逆境を必ずひっくり返したわよね?……そんな一夏だからこそ、試験プレイのトップバッターが務まるか……うん、分かったわ一夏。」
「嗚呼、君は一体ドレだけ私達を魅了すれば気が済むんだい一夏?私達は完全に君の虜だ……一生離れる事は出来ないよ。」
「そもそも離れる気はありませんけれどね?」
「そだね~~♪」
「確かに其の通りだな。」
だが、そんな嫁ズの不安も、一夏は臨海学校の際の復活劇とこの間のシミュレーター、そして切り札である共鳴進化を持ち出して一撃で吹っ飛ばす!!
一夏が自信満々に『大丈夫だ』と言ったら、そら効果抜群でしょう!だと言うのに、狙ってやってるのではなく至極ナチュラルにやっていると言うのだから天然イケメンムーヴ恐るべしである!!……『チョロくね?』とか思うなかれ!一夏と嫁ズは真の愛による絆で結ばれているから、お互いに相手の事を手放しで信じる事が出来るのだ。愛の力舐めんなよマジで。
そんな事が出来る人間が果たしてどれだけ居るのか……真の愛の前には、理屈とかそう言うモノはマッタク持って意味を成さないのかも知れないな。愛の力は無限大とはよく言ったモノである。
「って訳で、俺がトップバッター務めますんで宜しくお願いします束さん。」
「ん、OK。今が九時だから……三時間後には此方で強制的に目を覚ますように設定しておくよ。
でも三時間って言うのはあくまでもこっちの世界での事で、いっ君が訪れた世界ではドレだけの時間が経過するのかまでは分からないから、其れを忘れない様にしてね?」
「了解です。……今ら三時間って事は、戻って来た時には昼時か。良い機会だから、今日は此処の食堂のキッチンを使って昼飯作るか。」
そう言う訳で、先ずは一夏がトップバッターとなって装置に入り、束が装置を起動して一夏の精神は平行世界にレッツゴー!爆走兄弟レッツ&ゴーである!!マグナムよりもソニックの方が好きです!ブリッツァー・ソニックブラックバージョンとかカッコ良すぎんのよ。
でもって、精神が平行世界に送られた一夏の身体は眠っている状態になったのだが……
「クカ~~……Zzz……」
「此れは、実に見事に寝てるわね。」
「そうだね、とてもよく寝てるね。」
「熟睡……其れすら通り越した爆睡ですね。」
「何をしても起きそうにないよ。其れこそ、頬っぺた摘まんだ程度じゃ起きないかも。」
「そうかも知れんが……だが、一夏は寝顔も魅力的だな。」
一夏はマジで深い眠りに入っていた……だが、その一夏の寝姿に嫁ズは新たな一夏の魅力を見出していた――何時も一夏の方が先に起きるので、一夏の寝顔を拝む機会ってのが無かったから仕方ないかも知れないけどな。
で、一夏が目を覚ますまでは嫁ズは暇になってしまったのだが、勿論束が平行世界に行かなかった者達の為に、シミュレーターや訓練フィールドを自由に使える様にしてくれていた。開発主任の『南風野吏』は、更識ワールドカンパニー内で結構な力を持っている様である。
そんでもって嫁ズは、敷地内の施設を回って生地やら何やらを購入し、冬の祭典に向けたコスプレ衣装を作っていた……重度のヲタであるクラリッサと簪と夏姫が居る時点で冬の祭典に不参加と言う選択肢はないからね。――コスプレは、最早アニメと漫画に次ぐ世界に誇る日本の文化だわな。
――――――
一方で、平行世界に精神が転移した一夏は、平行世界のIS学園の生徒会長室で目を覚ました――と同時に、与えられた仮初の肉体に関する情報と設定が頭の中に一気に流れ込んでくる。
普通の人間だったら、大凡耐える事は出来ないだろうが、一夏はとっくに『普通の人間』なんてモノは卒業してるので耐える事が出来た……普通の人間卒業って一体如何言う事って話だが、其れは言ってはいけないだろう。
「(イチカ・アインザック……其れが此の世界での俺の名前か。
此の世界の織斑一夏がISを起動した事で行われた世界規模での男性IS操縦者を探す検査でISを起動して、二人目の男性操縦者として学園に入学……そんでもって、俺は日本人とドイツ人のハーフって訳ね。)」
更に其処から、ドイツ政府より専用機『シュバルツ・ドラッへ・リッター』を受け取っている事、ドイツで行われた格闘技のジュニア大会で三年連続で優勝している事等の情報が流れ込み、最後に此の世界では『白騎士事件』と言う、此の世界の篠ノ之束がISを世に認めさせるために行ったマッチポンプによりISは兵器として認知されており、『女尊男卑』の思想を持った女性が一定数存在している事が情報として流れ込んで来た。
其れ等の情報を得た一夏は、『此の世界の束さんは碌でもねぇな……』と思いつつ、此の世界での自分が如何言う存在なのかと言う事と、此の世界がどんな場所であるのかを理解すると、窓ガラスに映った己の容姿を確認する――『織斑一夏』と略同じ容姿ではあるモノの、髪は銀色で瞳の色はグレーとなっていた。
髪と瞳の色は、ドイツ人の遺伝子が色濃く出た結果であろう。……このイチカは、何時もの一夏とは違った魅力があるので、嫁ズが惚れ直すかもしれない。少なくとも其れ位の魅力はあると言っても過言ではあるまいな。
「待たせたわねアイン君?簪ちゃんと話をしていたら少し遅くなっちゃったわ……でも、こうしてちゃんと待っていてくれた事は評価出来るわ。もしも勝手に何処かに行かれてしまったら、おねーさんでも探すの一苦労かも知れないしね♪」
「か……更識先輩。」
そんな一夏の前に現れたのは、此の世界の刀奈だ――容姿は略同じだが、制服のリボンの色が彼女が上級生であると言う事を示していた……一夏は、思わず『刀奈』と言いそうになったが、其れを堪えて『更識先輩』と言ったのは大したモノだろう。
同時に目の前に現れた刀奈に関する情報も流れ込んでくる――日本の暗部、カウンターテロ組織『更識』の現当主で、第十七代目『更識楯無』。IS学園の生徒会長で、イチカ・アインザックの護衛兼専属コーチを務めている人物。『学園最強』と言われていると同時に、学園内では学園長に次ぐ権力の持ち主で、織斑千冬でさえもおいそれと干渉出来ない。其れが、目の前の彼女だった。
そして、其れ以外にも分かった事はあった。彼女はイチカの事を『アインザック』ではなく、『アイン』と言う略称で呼んだ……其れはつまり、イチカと楯無はお互いに気を許せる間柄と言う事だ。
「(日本の暗部の長って、どっかのスパイ映画じゃないんだから……てか『楯無』って、前に正義の奴が刀奈の事をそう呼んだ事があったけど、偶然の一致だよな?
もしもそうじゃなかったら、アイツは平行世界の情報を独自に得てたって事になるし……そんな事が出来る人間は、束さん一人で充分だって。)」
『楯無』の名を知った一夏は、その名は以前に陽彩が刀奈の事をそう呼んだ時のモノだと気が付いたが、其れは偶然の一致にする事にしたらしい……まぁ、一夏の考えも、当たらずとも遠からずと言えるだろう。陽彩は、ある意味で平行世界の情報を持っていたと言える訳だからね。――その情報がドンだけ役に立ったかは知らないが。
「さて、其れじゃあそろそろアリーナに行きましょうか?
今日はクラス対抗戦……専用機が完成していなかった簪ちゃんに代わって四組の代表となった君の勇姿を見せて貰うわよアイン君?――尤も、君は豊富な格闘技経験があるから戦い慣れているし、ISの操縦に関しても私が付きっ切りで指導したのだから、私以外の相手に負ける事はないと思うけれどね。」
「まぁ、何度か川の向こうにお花畑が見えましたけどね。」
「アイン君、呑み込みが早い上に筋が良いから、ついつい熱が入っちゃって……まぁ、『死んで覚えるゲーム』みたいなもんだと思って頂戴な♪まぁ、死ぬまではやらないけど♪」
「俺が死んだら、日本とドイツの間でシャレにならねぇ国際問題に発展しますよね。」
一夏がイチカとして誕生したこの日は、クラス対抗戦の日であったらしく、イチカは専用機が完成していなかった簪に代わって四組のクラス代表になっており、この対抗戦に臨む事に。
イチカが生徒会室に居たのは、護衛である楯無と共にアリーナに向かう為だった様だ。
そして、アリーナに向かう道中で、イチカと楯無は雑談をしていたのだが、その中でイチカは楯無から、『簪との仲を取り持ってくれた事』に礼を言われた――どうやらこの世界の更識姉妹は、楯無の『妹を大切にしたい思い』と、簪の『優秀な姉へのコンプレックス』が微妙な擦れ違いを何度も起こして、姉妹間に溝が出来てしまっていたみたいなのだが、其れをアインが間に入って二人の仲を取り持ち、溝を埋めさせる事が出来たらしいのだ。
更に今では、イチカと楯無が簪の専用機の開発を手伝い、簪の専用機も完成間近となっているとの事。
……こう言った情報が自動的に流れ込んで来なかったのは、話の流れで知る事が出来ると世界が判断したのか、其れは分からないが。
で、その道中で楯無から、先程『更識先輩』と呼んだ事に対してちょっと小言を言われると言う事に……如何やらイチカは、普段は『楯無さん』と呼んでいたらしい。そう言う大事な情報は、真っ先にインストールすべきだと思うが、世界の判断基準は謎である。
程なくしてアリーナに到着したイチカと楯無は、一年四組の生徒が居る場所に向かう。
二年生の楯無が一年生の席にいると言うのは、本来ならば場違いなのだが、楯無はイチカの護衛を務めているので問題ない。授業中は兎も角として、其れ以外の時間は楯無はイチカと一緒なので、イチカと楯無が一緒に居るのは生徒間では最早デフォルトになっているのだ。
「イチカ、お姉ちゃん、席取っておいたよ。」
「あら、用意が良いわね簪ちゃん♪」
そんなイチカと楯無に声を掛けて来たのは簪だ――そして、簪の情報がイチカに流れ込んでくる。
日本の国家代表候補であり、楯無の妹なのだが、織斑一夏の登場によって専用機の開発が凍結され、その機体を引き取って自分での完成を目指していた……楯無とは、姉妹間の溝があったが、イチカによって其れは解消され、今は楯無と共にイチカの寮でのルームメイト。其れが此の世界の簪だった。
「初戦は、織斑と凰か。」
イチカと楯無が席に着いたと同時に、第一試合の組み合わせがオーロラヴィジョンに映し出され、此の世界での織斑一夏と凰鈴音が試合を行うようだ。
組み合わせが決まった直後に、一夏と鈴がフィールドに現れたのだが、鈴の機体がイチカのいた世界と同様の『甲龍』であったのに対して、一夏の機体は『銀龍騎』ではなく白を基調とした機体だった。
そして試合が始まった訳だが……
「(こっちの世界の俺、弱くないか?否、今年からISを動かすようになったって事を考えると、国家代表候補と試合が成り立ってるってのは凄いと言うべきか……今は未だ素人の域を出ないが、本格的に鍛えればモノになるって所か。)」
イチカは冷静に試合を分析し、此の世界の織斑一夏の実力が如何程であるのかを考えていた……此の世界の一夏の実力は、元の世界でISを動かしたばかりの自分よりも若干下だが、鍛えればモノになると考えていた。
尤も、モノにする為には、肉体が悲鳴を上げて、『息してるか?』と言いたくなる位の深い眠りが必要になるレベルの地獄の特訓が必要になるのかも知れない。少なくともイチカは、其れで強くなった訳だからね。
さて、試合の方は近接戦でガンガン遣り合った一夏と鈴だったが、その際に鈴が切り札の『衝撃砲』を使った事で一気に鈴の方に流れが傾いた。『砲身も砲弾も見えない』ってのは流石に反則だからな。
しかもこの世界の鈴は、只バカスカ撃つだけでなく、青龍刀ブーメランで牽制した所に本命をぶちます等、戦術的な使い方をしていたのだ。彼女の実力はイチカが居た世界の凰鈴音よりずっと高いと言えるだろう――だがしかし、『対象を目で追う』と言う癖だけは同じだったようで、一夏にも其れを見破られてしまい、衝撃砲は突如として当たらなくなってしまう。
「(気付くのが遅いっての……まぁ、初見だったってのを考えれば仕方ないか。
だが、気付いた以上は織斑にはもう間違っても衝撃砲は当たらない……そして、純粋な近接戦闘能力では織斑の方に分があると来ている……さて、此の世界のお前は如何する、凰鈴音?)」
衝撃砲を攻略された鈴は、青龍刀の二刀流で、一夏は近接ブレード一本での近接戦闘に!
青龍刀二刀流は、当たれば大ダメージは間違いないが、青龍刀は大きいが故にその攻撃の軌道を読みやすく、一夏は二刀流の怒涛の攻撃を見事に回避し、時は弾いて見せたのだ。
そして、何度目かの弾きを行った一夏は、がら空きになった鈴の横っ腹に一撃を喰らわせ――
――ドッガァァァァァァァァァァァン!!
ようとした所で、何かがアリーナの天井を突き破ってアリーナのフィールドに突撃して来た!!
「きゃあ!」
「なんだよ、イキナリ……!」
突如の事に一夏も鈴も驚く……まぁ、目の前でイキナリ何かがアリーナの天井を突き破ってやって来たとなれば驚くなってのが無理な話だからね。寧ろこれで驚かないってのは、人としての感情がちょいとばかり欠落しているのかも知れないな。――イチカと嫁ズなら驚かないかも知れないけどね。
やがて砂煙も張れ、突撃して来た相手の姿が明らかになるが、其れは『異形』と言う他はなかった――黒い全身装甲だけならば何の問題もなかったのだけれど、頭部には、全身装甲の機体では当たり前となっているツインアイのカメラアイではなく、モノアイが搭載された機体だったのだ。
そして、此の機体の出現により、大盛り上がりだったクラス対抗戦の会場は一気に戦場へとその姿を変えたのだった――でもって、イチカは転移したその日に、イキナリ面倒事に巻き込まれる事になった訳だ。
「なんだよアレは……楯無さん、簪、生徒の避難誘導を頼む!
俺は……アイツをぶっ倒しに行く!試合で消耗してる上に、急造タッグの織斑と凰では、些か不安があるし、アイツの目的は多分俺だろうからな。だとしたら、俺が客席に居たら、他の生徒にも被害が出るだろうし。」
「分かったわアイン君……行くわよ簪ちゃん!」
「うん……でも約束してイチカ。必ず無事に戻って来るって。」
「其れは言われるまでもないぜ簪。あんなブサイクな機械人形如きに後れを取るかってんだ……アイツは恐らく篠ノ之束が寄越した奴だろう――篠ノ之束は、ISを認めさせるために『白騎士事件』なんてモノを起こした、大分碌でもない奴みたいだから、織斑以外の男性操縦者ってのは目障りなんだろうな。
だけどな、この程度で俺の事を如何にか出来るって思ってるんだとしたら、篠ノ之束、アンタは俺を舐め過ぎだよ。」
そう言うとイチカは専用機を装着して事件現場であるアリーナにライドオン!!
「よう、モノアイ野郎。お前が何者で、目的は俺だとか言うのは、そんのはぶっちゃけ如何でも良いんだが、お前のご主人様って奴は学園の生徒が楽しみにしてるイベントに碌でもねぇ横槍を入れてくれやがったなオイ?
俺は、其れが許せねぇ!!覚悟しなクソ野郎……真剣勝負に水を差した代償、お前の身体で払って貰うぜ?そんでもって、アンタは見てるんだろ篠ノ之束!二人目である俺の事が大層気に入らないらしいが、其れは俺も同じだ。少なくともアンタの事は好きになれそうにないし、学園に上等かました以上は俺の敵だ。其れを忘れんじゃねぇぞ!」
アリーナに降りったイチカは、突如現れたアンノウンに向かって抜刀し、その切っ先はアンノウンに向かっていた……イチカがその気になれば、このアンノウンは瞬殺出来るだろう。
イチカの並行世界の初日は、正に波乱の幕開けだった、とそう言うしかないだろう。
「来いよポンコツ、秒でスクラップにしてやんぜ!」
『…………』
そしてイチカは、専用機であるシュバルツ・ドラッへ・リッター――『黒龍騎』を起動してアリーナへと降り立ったのだった。尤も、この程度の相手ならば専用機を展開する必要は無かったかも知れないが、やるならば徹底的にやるべきなのでイチカは専用機を展開したのだ。
「精々、神様に祈りな!」
そして居合いで右腕を切り飛ばすと、再度切っ先を乱入者に向けつつ、その顔に危険な笑みを浮かべる――其れは、イチカが最も得意としている偽悪的なポーズだった。――イチカは自分がダークヒーローだと言う事を理解して、そして其れを受け入れているのだろう。
同時に、此の世界ではトンデモナイ事件が起きたと言うのも確定事項だ……少なくともイチカが退屈する事だけは無いと言うのだけは間違いないだろうな。
To Be Continued 
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