二学期も終わり、終業式を終えた次の日には、モノレールを使って本土に戻り、一夏の家にやって来た一夏達(一夏+嫁ズ+円夏+静寐。簪は、夏姫と共に更識の実家に行った。)だったのだけれど、玄関のドアを開けて中に入ったその瞬間に一夏と円夏は強烈な違和感を感じた。
先ず、靴箱が此れまで有った物よりも大きくなっており、靴ベラも此れまでのプラスチック製の物ではなく木製の高級品に――極めつけは玄関の広さだ。『此れ、何処の豪邸?』ってなレベルで広くなり、其れこそ二十人分の靴を置いても余裕のキャパシティがある玄関になっていたのだ。
何よりもオカシイのは、家の外観は変わってないのに玄関がだだっ広くなっていると言う事だろう。
「はぁ……此れは若しかしなくても束さんの仕業かな?」
「他に誰が居ると言うんだ兄さん?こんな事が出来るのは、あの天災兎以外に居ないだろう?」
「多分そうだろうけど、一応確認してみるよ。」
こんな事が出来るのは、世界広しと言えども一人しか思い浮かばないが、一夏は一応確認の為に束に確認する事に……因みにだが、束のスマホは自作したモノであり、サイズこそ普通のスマホなのだが、其の性能はスーパーコンピューター並みと言うぶっ飛んだ代物である。
そんな束のスマホは、呼び出し中の音も通常のベルではなく、『今出るから待っててね♪』と言う束の声が流れるように設定されている……頭脳と技術をめっちゃ無駄遣いしてる感はしなくもないが。
「あ、もしもし束さん?一夏ですけど。」
『やぁやぁ、いっ君!そろそろ電話来る頃だと思ったよ!
如何だい束さんが改造した家は?外観は其のままなのに、内装がめっちゃ広くなってて驚いたでしょ?其れはねぇ、ISに使われている拡張機能を応用したモノなんだよね~~?
拡張領域を利用すれば、人間サイズのISの内部に戦車を突っ込む事も出来るからさぁ、其れを家一軒に応用すれば、見た目は普通、内部は豪邸ってな家も出来ちゃうんだよぉ!!いやぁ、流石は束さんだね!!』
「いや、玄関がだだっ広くなってたんで、若しかしたら束さんが何かしたんじゃないかと思って電話したんですけど、玄関だけじゃなくて、家の中を全部改造したんですか!?なんだってそんな事を!?」
『え~~?だってさ、いっ君将来は嫁ちゃん達と結婚するんでしょ?で、結婚したら子供も出来るじゃん?
仮に各嫁ちゃんと一人ずつ子供が出来たとしても、其れだけでいっ君一家だけで十一人になるんだよ?その人数で住むには、今のままの家じゃ狭いでしょ?だから束さんが、改造してあげたのさ!
勿論いっ君がマイホームを建てる事を計画してるかも知れないとは思ったけど、こうして既存の家を改造しちゃえば新たに建てる必要もないし、そうすれば新築分のお金が浮いて、嫁ちゃんと将来は要るであろう子供達に使えるお金が増えるじゃん?』
「はぁ、まぁそう言う事も出来ますけど……」
束に連絡を取ってみると、案の定と言うか何と言うか、玄関がだだっ広くなっていたのは束の仕業だった――しかも、玄関だけでなく、家の内部全てが同じ様に広く改造されていると言うのだ!ISの拡張機能を転用した技術で!
一般的な二階建ての家の外観は其のままに、内部だけを拡張工事とか、最早此の天災に出来ない事はあるのだろうか?しかも其れをやった理由が、一夏と嫁ズの将来の事を考えての事だと言うのだから、此れは一夏もあまりキツク言う事は出来ないだろう。
『まぁ、束さんからいっ君達への可成り早めの結婚祝いだと思ってよ!
あぁ、其れから食器や家具は基本的に其のままだけど、増築した部屋には新しいのを置いといたし、家電関係は束さんが作ったハイパー超高性能で、疑似永久機関搭載型の消費電力0円のモノに変えてあるから!
あと、皆で映画を楽しめる小型シアターとかもあるし、お風呂も学園の大浴場並みにしといたから、そっちも楽しんでね~~!
ま、その家で快適な冬休みを過ごしてよ!そんじゃね~~~♪』
「……スピーカーにしてたから聞こえたと思うけど、つまりそう言う事みたいだ。」
「矢張りか……普通に考えれば住居不法侵入なのだが、アイツには法律を持ち出すだけ無駄だな。仮に犯罪の証拠があった所で、其れを完全に揉み消すなんて事は其れこそ朝飯前だろうからな。」
「まぁ、快適な家になったと言う事で納得しましょうか?」
「そうだね、此処は博士の好意を素直に受け取るとしよう……其れに、此処が将来的に私達と一夏の愛の巣になると言うのならば其れは其れで悪いモノではないと思うよ。」
なので、一夏も円夏も嫁ズも現状を受け入れる事にした。
其れに、刀奈の言うように快適な家になったのは間違いないので、驚くのは兎も角として文句を言う事でもないだろう。――尤も、この現状を千冬が知ったら光の速さで束に直接抗議しそうではあるが。
取り敢えず一行は玄関からリビングに向かい、其処でも此れまでよりもずっと広くなったリビングに織斑兄妹は驚いていたが、広く新しくなったキッチンは一夏が普通に喜んでいた……主夫力突き抜けてる一夏には、使い易くなったキッチンと言うモノは有り難いモノなのだろう。
尚、其のキッチンに置かれていた束製の冷蔵庫は、『業務用か?』と思う程に大きかったが、冷蔵室の扉は左右何方からでも開くようになっており、冷凍室中段と言う機能的にも充実しているモノだった。外食関連を全国展開してる企業に売り込んだら、結構売れるかも知れないな。
夏と刀と無限の空 Episode65
『Winterurlaub beginnt ab dem ersten Tag!』
夏休みよりもずっと期間が短い冬休みは、海外組の生徒の多くは本国には帰らずに学園に残る生徒が多いのだが、年末年始は学園も完全に無人になってしまうので、海外組で学園に残る生徒は冬休み期間中のホームステイ先を探しておく必要があったりする。
刀奈を除く一夏の嫁ズのホームステイ先は一夏の家なのだが、他の海外組はと言うと、乱とティナは虚が弾に交渉して五反田家に、夏姫は更識家に、レインは叔母であるスコールの家に転がり込み、フォルテもレインと同様だ。……逆に言うと、レインとフォルテの関係はスコール公認と言う事なのだろう。叔母公認の百合カップルと言うのは中々にレア物だと言えるだろう。『叔母が公認しても両親は如何なのよ?』と思うかもしれないが、スコールはレインの両親よりも上の立場なので、スコールが是としたら、レインの両親とて何も言えないのだ……ミューゼル家には、ミューゼル家のルールってモノがあるのだろう。其れは、深く突っ込んではいけないモノであるのかも知れないけどね……『代々炎を操る能力を伝承してる』とか言う噂もあるミューゼル家恐るべし!――だがしかし、そんなミューゼル家よりもトンデモナイのが織斑家と更識家だったりする……織斑の両親は大企業の重役で、更識の両親は世界的大企業の社長と社長夫人で、財界では結構顔が広いのである。果たして織斑と更識はドレだけの力を持っているのか可成り謎であるな。
それはさておきコメット姉妹は、冬休み中はアイドル業に専念する為、ホームステイ先はない……コメット姉妹は、『日本レコード大賞』、『紅白歌合戦』、『新春アイドル歌合戦』等々スケジュールが詰まっているから、特定の家で寝泊まりは出来ないのだ。――そう言うと、アイドル業界は割とブラックな世界な感じだが、コメット姉妹はアイドル業に誇りを持っているので、彼是言うのは無粋ってモンだろうな。
本来ならば、まだ小学生な彼女達だが、世界的なアイドルともなると大分多忙であるらしい。時に、外国人の双子アイドルが紅白歌合戦に出場すると言うのは、紅白の歴史でも初めての事かもしれない。
で、束によって内部が魔改造された織斑家で一夏達が何をしてるのかと言うと……
「課題は初日で全部終わらせて、残る冬休みを思い切り楽しむぞオラァ!クリスマスに大晦日に元旦、短い期間にイベントラッシュだからな!!」
冬休み初日で、冬休みの課題を全て終わらせようとしていた!
夏休みと比べれば圧倒的に課題の少ない冬休みだが、其れでもIS学園の場合は、一般高校とは違ってIS関連の課題が出る分だけ量は多くなるので、初日で消化するのは難しいを通り越していっそ無謀と言うべきだろう。
だがしかし、今この場に居るのは期末考査で一年の学年同率一位を独占した一夏と嫁ズ、トップテン入りした円夏と静寐、二年で学年一位になったグリフィンなので、冬休みの課題を初日で終わらせる事に難は無い。……グリフィンは、肉体派のイメージがあるが、実は頭も良いのである。脳筋とは違うのだよ脳筋とは。
序に言うと、現役軍人でドイツ軍内でも切れ者として通っているクラリッサも居るので、もしも分からない所があれば、クラリッサに聞けばOKなので、課題は非常にスムーズに消化出来ているみたいだ。
「円夏、この問題なんだけど、『織斑千冬が第一回、および第二回モンド・グロッソにおける試合時間の合計は?』って……こんなの流石に分からないよ!?」
「誰だよ、こんな問題を考えたのは?私も分からんぞ……兄さんは分かるか?」
「スコール先生以外の試合は、イグニッションブーストからの零落白夜で一撃必殺だったから、二大会合計の試合時間は三十五分って所だろ?その内三十分はスコール先生との試合な。」
「お義姉さんと三十分フルタイム戦っての判定負けって、スコール先生も中々に大概よねぇ……」
まぁ、課題の中には『なんだそれ?』と思われる問題が、主にIS関連の課題に出現していたのだが……現役時代の千冬のモンド・グロッソ二大会の合計試合時間なんてモノを知ってる人が果たしてどれだけ居るのやらだ。此れは、完全に千冬ファンの教師が出したモノなのかも知れんな。
一夏はバッチリと覚えていたようだが、第二回大会の決勝戦の時には誘拐されていたと言うのに、正解を当ててしまう一夏は、其れまでの千冬の戦い方から、第二回大会の決勝結果を予想したと言う事なのだろう。
そんでもって、そんな千冬と三十分フルタイムで戦った末に判定負けだったスコールも、IS操縦者としての腕前は相当だろう――三十分フルタイム戦ったと言う事はつまり、零落白夜を喰らわないように立ち回り、零落白夜の発動によるシールドエネルギーの消耗を嫌った千冬に零落白夜をカットさせたと言う事なのだ。
一撃必殺の速攻を封じたと言うだけでも、スコールの実力は疑う余地がないだろう。千冬とスコールが同じ性能の機体で戦ったら、其れこそ勝負は時の運ってところだろうな。
「今更だけど一夏、競技科の私にこんな複雑な数学の課題とか必要ないと思わない?此れって、整備・開発科や宇宙開発科に出す課題じゃないの!?なに、此の超絶複雑な方程式!!」
「此れは……ハヤブサ二号の軌道計算式かな?」
……IS学園の課題には、マジでトンデモナイモノがぶっ込まれているらしい。小惑星探査衛星の軌道計算式なんぞ高校生が分かるかぁ!いや、其れが何の計算式なのかを理解してしまった一夏も大概だが。尤も、理解しただけで答えは分からないのだけれどね。
「聖徳太子の幼名は厩戸皇子……お妃さまが馬小屋の前で産気付いた事で、外国の『馬小屋で生まれた偉人にちなんだ』との事だけど、その時代に日本には既にキリスト教が伝来していたって事?」
「そいつは如何だろうな?
近年の研究で、聖徳太子は実は存在してなかったんじゃないかって言われてるからな……そのエピソードは後年に作られたモノなのかも知れないな。真相は未だ分からないけどな。
俺としては、織田信長が本能寺の変で死ななかったら、日本の今は変わってたんじゃないかと思う。」
「織田信長が天下を取って居たら、諸外国との関係を良い感じで結んだ世界的な貿易国になっていたかも知れないわね。信長の不幸は、時代が彼に追い付いていなかったと言う事でしょうね。
彼の考えは当時としては新し過ぎた……故に排除される事になった。哀しい事よね。」
「其れを踏まえると、時代の最先端を行った束博士は何故排除されなかったのでしょうか?」
「束さんだからな……束さんを殺せる奴なんで、此の世界の何処にも存在しねぇだろ?カヅさんに瞬獄殺叩き込まれても、束さんだと秒で復活する気がするしな。」
課題を消化しながらの雑談と言うのも中々に良いモノがある。
表面上には『緩い』、『温い』と取られるかも知れないが、課題を熟しながら雑談が出来ると言うのは、雑談をするだけの余裕があると言う事なので大した問題ではないだろう。
まぁ、そんな感じで午前中は課題に釘付けになって、略半分を消化した感じだ――マジでハンパねぇなコイツ等。
「おっと、もうこんな時間か。」
一区切りついた所で一夏が時計を確認すると、時刻は十一時三十分……そろそろお昼時だ。
束によって冷蔵庫はグレードアップしたが、冷蔵庫の中身は空だったので、ランチの材料――だけでなく、数日分の食材を購入しておく必要があるだろう。挽肉や魚なんかは冷凍品を買えば冷凍室での長期保存も可能だからね。
「其れじゃ俺達は買い出しに行って来るから、鷹月さんと一緒に留守番をしていてくれ円夏。」
「ん、任されたよ兄さん。」
なので、一夏はランチの材料と、数日分の食材を買う為に嫁ズと一緒に買い出しに。
嫁ズの誰か一人を選んだら平等ではなくなるし、円夏を連れて行くと織斑家の人間は家の中には居なくなり、静寐を選んだらマスゴミによるクソゴシップ記事が書かれるかも知れないので、此処は嫁ズ全員買い出しに行くのが正解なのだ。
一夏と嫁ズの顔と名前は既に割れているので、そうであるのならば一夏と嫁ズが一緒に居ても其れはゴシップのネタにはなり得ない訳だ……一夏をネタに一発かまそうと張っていたと思われるどこぞの雑誌の記者はこっそり護衛してたオータムに締め上げられましたが。オータムさん、良い仕事してますねぇ。
ま、こう言うマスゴミ以外にも一夏達は注目されてる訳だけどね……極上のイケメンが、極上の美女を五人も引き連れていたら、そら注目されるわな。一夏達は、最早その視線には慣れてしまったみたいだが。
さて、一夏と嫁ズがやって来たのは駅前の大型デパートではなく、街の商店街だ。
デパートの方が、同じ建物内で大抵のモノを揃える事が出来るのだが、利便性よりも価格を取るのならば圧倒的に商店街なのである――特に一夏は、子供の頃から商店街のおじちゃんとおばちゃんに可愛がられていたので、商店街では其れなりに顔が利くのである。
「スーパーで買うのは、米とうどんと各種調味料だな。買ったら次は、肉屋行くぞ!」
「「「「「おー!!!」」」」」
商店街にはスーパーもあるのだが、大型のモノではなくこじんまりとした個人経営的なモノだ……肉屋や魚屋と言った専門店では手に入らないモノを取り扱ってる感じなのだが、割と品質は良く値段もリーズナブルな『古き良き時代のスーパー』と言った店である。
商店街のスーパーで買うべき物を買った一夏達は、その後商店街にある専門店で、肉、野菜、魚、豆腐を購入した。肉屋では特売の豚バラ肉のブロック肉と骨付きラム肉をゲット出来たのは運が良かったと言えるだろう。
特に骨付きのラム肉は、クリスマスパーティのメインディッシュにも使えるモノだからね。序に、肉屋のおばちゃんがサービスでくれたコロッケは皆で美味しく頂いた。
揚げたてのコロッケの旨さはマジで最強ですな。
そんな感じで、商店街での買い物は良い感じで行われていたのだが――
「ねぇ、アレって……ジュエリーショップさんよね?」
「商店街でも古参の店みたいだね?……中々年季が入ってるみたいだが、味がある。」
「ですが、あの店が何か?」
「え~と……ほら、私達は全員が一夏から婚約指輪を貰ってるけど、私達は一夏に何もしてないじゃない?だから、あそこで五人でお金を出し合って、一夏に私達からの指輪を送るって言うのは如何かしら?」
「其れは、とってもビッグアイディアだよ刀奈!」
「満場一致で賛成だな。」
商店街の一画に展開されているジュエリーショップを見付けた刀奈が、他の嫁ズに『一夏に私達からも指輪を送ろう』と提案し、他の嫁ズも其れを了承したので、刀奈は花屋の店主と雑談している一夏に声を掛けて、『ちょっとあそこの店を見て来ても良い?』と聞き、一夏も『宝石屋?……まぁ、女の子だし興味はあるよな。俺は暫く此処に居るから皆で行って来いよ。』と言ってくれたので、全員でジュエリーショップにレッツゴーだ!
何時もの一夏ならば、『欲しいモノがあるなら俺が出すぜ?』とか言いそうだが、そう言わなかったのは、嫁ズから何かを感じたのかも知れないね。
「……こう言う店って、初めて入ったけど店内は意外と暗いのね?」
「店内を暗めの照明にして、宝石類にスポットで照明を当てる事で宝石の輝きを際立たせる演出なのかも知れないな。」
店内に入った一行は、先ずは店内を見て回る。
指輪やブローチ、ネックレス、イヤリングと言った装飾品の他に、銀製のウォレットチェーンや文字盤に宝石をあしらった腕時計なんかも売って店であるらしく、目的の指輪以外にも目が向いてしまうのは致し方ないだろう。
「皆さん、チェーンフックが龍の形をしてるこのウォレットチェーン、一夏に似合うと思いませんか?」
「其れも良いけれど、私としてはチェーンの所々に鬼の髑髏があしらわれてるこっちのウォレットチェーンも捨てがたいのよね……如何しましょうか?」
「指輪と合わせて、其れも一緒に購入してプレゼントする事にしないかい?一人だったら結構な額になるが、五人で出せばそうでもないしね。」
「うむ、其れが良いな。」
「其れじゃ、メインの指輪に行ってみよう!」
先ず、ウォレットチェーン二本を選んだ一行は、続いてメインである指輪に。
ウォレットチェーンとは違い、指輪はショーケースの中なので、ショーケースの上から一夏に似合いそうな指輪を探して行く――先ず、大きな宝石が付いているモノは真っ先に除外だ。そんなモノは邪魔でしかない。
なので、自分達が一夏から貰ったのと同じ様なシンプルなデザインのモノが好ましいのだ。
そうして探す事十分……
「「「「「あ……」」」」」
五人全員の目が一つの指輪に集まった。
その指輪は、プラチナ製のフレームに小さなルビー、オパール、エメラルド、ダイヤモンド、トルマリンが埋め込まれたモノであり、埋め込まれている宝石は、彼女達の誕生石でもあるのだ。(此の世界のヴィシュヌとクラリッサは十月生まれで、十月の誕生石はオパールとトルマリンね。)
更にダイヤモンドは、グリフィンの誕生石(此の世界のグリフィンは四月生まれ)であると同時に、一夏の誕生石(此の世界の一夏は四月生まれ。)でもあるので、一夏に送る指輪としては此れ以上のモノは無いと言っても過言ではない。
値段は中々にお高いが、大人気のカップルユーチューバーとしての広告収入があるので五人で払えば買う事は出来るので、迷わずにウォレットチェーンと合わせて購入!良い買い物が出来たと言えるだろう。
「一夏、お待たせ。」
「お帰り。なんか良いモノがあったか?」
「とても良い買い物が出来たよ。」
「そりゃ良かった。」
嫁ズが一夏と合流すると、買い物は殆ど終わっていたので家に戻る事に。
こっそりと護衛中のオータムは、パン屋で買った食パン二枚に、肉屋で買ったメンチカツを二枚挟んだ豪快なサンドイッチと自販機で買った缶コーヒーでランチを済ませていた……学園ならば一夏が弁当を作ってくれたりするのだが、学園外で護衛をする際にはどうしてもこんな食生活になってしまうのは致し方なかろうな。
「しまった、コーヒーじゃなくて野菜ジュースにしとくべきだったか……ま、買っちまったモンは仕方ねぇな。にしても、うめぇな此のメンチ?こりゃ、コロッケも絶品か?
明日の昼飯は、コロッケロールにするか。」
尤も、オータム自身は其れを割と満喫しているみたいだけどね。
そんな感じで護衛をしながら、織斑家の近くで張っていたパパラッチの事は背後からケンカキックをかましてダウンさせた後に、STFで締め上げてKOした後で、カメラのメモリーカードを抜き取っておいた。カメラは無事でも、メモリカードが無ければ写真を残す事は出来ない……カメラは使えるのに写真を撮れないってのは、ある意味でカメラを破壊されるよりもキッツイ事かもしれないな。ま、ゴシップネタを狙った自分を恨め、其れ以外に言う事はないわな。
でもってオータムは、KOしたマスゴミの上の腰掛けてタバコで一服していた……此の上なくアウトローな感じがオータムにベストマッチしていた。下敷きにしていたマスゴミに、吸い終わったタバコで根性焼きをして、二度とこんな張り込みをしないと約束させたと言うのは、一流のヤクザやマフィアから賞賛されても良いかも知れないな。――オータムさん、マジでいい仕事をしてくれたな。
――――――
買い物から戻って来た一夏は、買って来たモノを冷蔵庫の然るべき場所に入れると、すぐさま昼食の準備に!
大きめの鍋に水を入れて火を点けると、その隣で焼き肉用のカルビを焼き、ネギ、ニラ、シイタケを食べ易い大きさに切って行く。そして湯が沸いたら、其処に焼いたカルビとネギとニラとシイタケを投入し、オイスターソース、味噌、豆板醤を加えてパンチの利いたピリ辛味に仕上げて行く。
そのピリ辛スープが出来上がったら、今度はエビのむき身に、紹興酒と片栗粉とラー油をよく揉み込み、其れを大きめの耐熱皿に移すと、微塵切りにしたネギとニンニクとショウガに、紹興酒とケチャップと豆板醤とハチミツを合わせたタレを注いでラップをして電子レンジにオン!
電子レンジが動いている間に、ピリ辛カルビスープとは別の鍋で湯を沸かすと、其処にうどん玉を投入して既定の調理時間よりも一分ほど早い時間で湯切りをして、器に盛り、其処にピリ辛カルビスープを注ぎ、仕上げに花椒を振りかけて温泉卵をトッピングすれば、一夏特製の『スパイシーカルビうどん』の完成だ。
カルビはスープに投入される前に焼かれていた事で、余分な脂が落ちて香ばしく、味噌ベースの辛味スープが食欲をそそる。
そんなカルビうどんが完成すると同時に、電子レンジのタイマーが切れ、容器のラップを取ってから全体を満遍なく混ぜてから、微塵切りのネギを散らせば『レンジで簡単エビチリ』の出来上がりだ。
此れまでの工程を二十分弱で終わらせてしまっているのだから、一夏の主夫力は限界突破していると言っても過言ではあるまい……と言うか、ティーンエイジャーの男子で一夏以上の主夫力を持ち合わせてる奴なんぞいないだろう。と言うか絶対に居ないと断言する。必要なら内容証明出すわ。
まぁ、そんな訳で一夏が最高のランチメニューを作った訳だが、此れに加えて、刀奈が『自然薯のフワフワ焼き』を、ヴィシュヌが『小松菜の辛子和え』を作って、中々に豪勢なランチタイムとなった。ロランとグリフィンとクラリッサは一夏の調理補助を行っていたので、何もしてなかった訳ではないと言う事を追記しておく。嫁ズは何時だって一夏と一緒、此れが基本だからな。
「兄さん……濃厚な味噌味のスープに、コクのあるカルビ肉に、ホットな辛さの豆板醤と痺れるからさの花椒のコンボは反則じゃないか?口の中が、美味しさのビックバン状態だ!
余りの旨さに、爆発するぞ!」
「なお、本日のランチのデザートは、俺特製のカスタードプリンです。さっきオーブンに入れたから、食事が終わった頃に焼き上がるか――焼き上がったばかりのプリンなんて食った事がないだろ?」
「おぉ!其れは魅力的だな!!」
「焼きたてのプリン……其れは初体験ね♪」
ランチメニューだけでなく、デザートも完璧とは流石は一夏と言った所か――焼き上がったばかりのプリンを食す機会なんぞ早々にないから、此れは実にレアな逸品であると言っても言い過ぎではないだろう。
一夏の作るプリンは、カスタードを型に流して蒸し焼きにすると言う、プリンの正統的な方法で作られているのだが、一夏は最後に強火で表面に焦げ目を付けて香ばしさを加えると言う一手間をやっていたのだ。
なので、一夏のプリンは市販のプリンとは一線を画すモノなのである――市販のプリンの多くは、カスタードをゼラチンで固めた『カスタードゼリー』とも言うべき紛い物が余りにも多いからね。アレはアレで美味しいけれど、プリンとしては邪道であるのだ。
まぁ、其れは良いとして、最高のランチタイムを過ごした一夏達は、午後も冬休みの課題を着実に熟して行き、気が付けば時刻は十七時を回っていた。
「もうこんな時間か……集中してて気が付かなかったな?ま、集中してやったおかげで、目標通り今日一日で課題は全部終わらせちまったけどね。」
「集中して物事に当たると、時間を忘れるとは言うけど、其れを自分が体験するとは思いませんでした……ですが、此れで冬休みを安心して過ごせますね。冬休み最終日に慌てると言うのは、流石に如何かと思いますので。」
「其れは其れで、学校の長期休暇の過ごし方の一つの形だけれどね♪」
「締め切りギリギリまで仕事を溜める……軍ならば大問題だな。」
「軍だけじゃなく、一般社会でも充分大問題だよ。ギリギリまでとか、怠慢以外の何物でもないでしょ?」
其れだけ課題の消化に集中していたと言う事なのだが、一夏達はマジで冬休み初日で全ての課題を終わらせてしまったようだ!流石は一年のトップテンと、二年の学年トップと言う所だろう。冬休みの課題程度は朝飯前、いや夕飯前だったようだ。――其れだけ頭脳レベルが高いと、逆に課題を後回しにしてしまいそうなモノだが、期間が短い冬休みに集中したイベントを思い切り楽しむ為にも、課題は全て終わらせたと言うのは正解だと言えるだろう。
「すっかり日が暮れちゃった……急いで帰らなきゃ!」
「今の時期は、五時過ぎたら真っ暗だからなぁ……今日はもう、家に泊まってったら如何だ鷹月さん?束さんが改造してくれたから、部屋は沢山あるし、ベッドや布団も増えてるみたいだから寝るのには問題ないしさ。
学園からこっちに直接来たから、服も幾つか持って来てるだろ?」
「其れはそうなんだけど……お泊りって……」
「俺が心配の種か?自分で言うのも何だけど、俺以上に安全な男って居ないと思うけど?
鷹月さんに何かしようモノなら、刀奈達と円夏に半殺し通り越して九割殺しにされるからな……そもそもにして、俺は刀奈達以外の女性に手を出す心算は毛頭ないからな。そんな最悪の裏切りだけはしたくないから。」
「そっちの心配はしてないけど……うちの親厳しいから、外泊なんて許してくれるかなって。」
「ならば姉さんの名を使え静寐。『織斑千冬先生に家に招待されて、今日は泊まる事になった』とでも言えば、お前の親とてダメだとは言えんだろう?姉さんの招待となれば安心感もハンパないからな?世界最強は伊達じゃない。」
「織斑先生の彼氏の稼津斗さんは、織斑先生より強いんじゃなかったっけか?」
「アレは世界最強を越えた宇宙最強だ。アイツの戦闘力は最低でも一億を越えてるだろ。」
そして、時間が時間だけに外は暗くなっているので、静寐は本日は織斑家に泊まる事に……円夏が言ったように、両親に連絡を入れるとアッサリと外泊を許可してくれた辺り、『織斑千冬』のネームバリューは改めて凄まじいモノだと思わざるを得まい。
現役を引退して三年が経った今でも、モンド・グロッソを二連覇した『ブリュンヒルデ』の名と言うモノは中々に影響力があるみたいだからね。
静寐の外泊が決まった後は、一夏が円夏に『風呂に湯を張ってくれ』と頼み、自分は夕食の準備に取り掛かる。
風呂の準備には早いのではないかと思うのだが、今の織斑家の浴室はIS学園の大浴場並みになっているので、浴槽を湯で満たす為には早めに湯を張り始めないと入浴時間が遅くなってしまうのである。
「手伝うよ織斑君。」
「鷹月さん、ゆっくりしてて良いんだぜ?」
「泊まらせてて貰うんだから此れ位はするよ……ところで織斑君、若しかしてだけど、更識ワールドカンパニーの吏さんって、若しかして束博士だったりする?」
「……なんで、そう思うんだ?」
「朝の織斑君と束博士の会話を聞いて、何となくそうなんじゃないかなって思ったんだ。」
「勘が鋭いな鷹月さん……そう思われた以上、下手に隠し通すのは良くないから言っちゃうけど、吏さんは束さんだよ。世界中が、束さんの事を欲しがって探し回ってるだろ?其れから逃れるために、名前を偽って、見た目を変えて更識ワールドカンパニーに潜り込んだんだ。
分かってると思うけど、此れはオフレコな?」
「了解です♪」
夕食の準備をする一夏を手伝うと言った静寐からまさかの爆弾が投下されたが、一夏は其れを下手に否定せずに肯定した上で、『他言無用』だと言って静寐も其れを了解していた……朝のあの遣り取りだけで、吏が束だと言う事に辿り着いた静寐は中々の観察眼の持ち主であると言えるだろう。
さて、夕食のメニューなのだが、昼食がピリ辛のガッツリメニューだったので、夕食はアッサリ系にする事にしたらしく、一夏は米を炊飯器に『急速炊飯』でセットし、炊き上がるまでの間に、シーフードミックスをザルに開けて水分を切ってから軽く鍋で炒めておく。
その後、フライパンにごま油を敷いて刻みニンニクを炒めた所に、卵を投入してフワフワに仕上げると、其処に炊き上がた米を投入して炒め、パラパラに仕上げてからシーフードを投入して更に炒めた後に、オイスターソースと顆粒の鶏がらスープ、コショーで味を調え、最後に最強の火力で一気に余分な水分と油分を飛ばして『海鮮チャーハン』が完成!
その隣では、ロランが『鱈とキクラゲのスープ』を完成させ、クラリッサがオーブンで『ジャガイモのオリーブオイル焼き』を仕上げ、刀奈がレンジで『白菜とスモークサーモンの重ね蒸し』を作り、ヴィシュヌとグリフィンと静寐は其れ等の手伝いに奔走していた。
そんでもって、昼食に続いて豪華ならディナーを堪能し、その後は女子組が風呂を済ませ、その後に一夏が風呂を済ませた――嫁ズは、一夏とは入る気満々だったのだが、『偶には一人で風呂を満喫させてくれ』と言われたので、一夏の気持ちを汲んで本日は混浴は自重した訳だ。
女子組が入浴している間に、夕食で出た洗い物を済ませ、女子組が出た後で一夏は大浴場を一人満喫した……三十人は余裕で入れる浴槽を一人占めってのは、此の上ない贅沢であるかもな。
そして、風呂から上がった一夏は自室に戻って来たのだが……
「……皆、何で居るの?」
其処には嫁ズが集結していた。
日替わりで同室になる事は確定しているのだが、全員が自分の部屋に集まっていると言うのは只事ではないと思わざるを得ないだろう――電脳世界から戻って来たその日には、五人が待っていて、五人全員と夜のISバトルに突入する事になった訳だからね。
「今日はね、一夏にプレゼントがあるのよ。」
「私達は君から指輪を貰っているが、私達から君には何も送ってないと思ってね……商店街のジュエリーショップで、ウォレットチェーン二種と、指輪を買ったんだ。」
「私達からのプレゼント、受け取っていただけますか?」
「皆で、一生懸命選んだんだ。」
「私達からの、君への愛の形と言った所かな?」
「これは……まさか、こう来るとは予想外だったけど、此れは普通に嬉しいな。」
だが、其処で渡されたのは二種のウォレットチェーンと銀製のリングに五種の宝石が埋め込まれた指輪だった――其れを受け取った一夏は、指輪を迷う事なく左手の薬指にライドオン!
嫁ズだけでなく、一夏の左手薬指に指輪が装着されたと言うのは密かに一夏の事を狙っていた学園の女子を粉砕!玉砕!!大喝采!!!するには充分過ぎるだけのモノがあると言っても過言ではあるまいな。
でもって、その後はYouTubeでの生配信で、視聴者とのリバーシ対決を行った後で、超キングサイズのベッドで全員一緒で寝た――誰が何処で寝るかを平等にじゃんけんで決めた結果、一夏の両脇は刀奈とグリフィンがゲットし、そんでもって翌日まで良い眠りを体験したのだった。
『リア充爆発しろ』を通り越して、『永遠に爆発して下さい』って所だな此れは――一夏と嫁ズの愛は、ハンパなく深かった訳だ。マジで永遠に爆発して下さいって言いたくもなるレベルだからな。
――――――
一夏達が其れなりに甘い夜を過ごしていた頃、束は更識ワールドカンパニーに設けられた『南風野吏専用研究室』に閉じこもって新たな何かを開発していた。
「観測するだけじゃなくて、その世界に直接干渉出来るようにはなったけど、平行世界に行くのは肉体ごとじゃなくて精神のみで、送られた精神には送られた先の世界で『限りなく自分に近い他人』って言う仮初の肉体を与えらえる。
送る事が出来るのは一人で、送られた人物が帰還した際には、転送先の人物には送られた人間の記憶は残らないか……マダマダ不完全だけど、此れは此れで良いデータが取れる気がするかな?
このマシンのテストプレイに適してるのは……いっ君と嫁ちゃん以外には居ないよね!其れじゃあ、早速メールを送ろう、そうしよう!」
そうして開発されたのは、中々にヤバいモノだった――平行世界のナツキとカタナが居た世界の束は此れ以上のトンデモナイモノを作っていたのだが、精神だけ平行世界に送って、送られた先で精神は仮初の肉体を得るとか、逆に凄過ぎるわ!ノーベル賞どころの騒ぎじゃない訳である!流石の天才!やっぱり天災!!束さんの科学力は世界一ぃぃぃ!!ってなモンだな!!
「なんか煩いなぁ?……取り敢えず、少し頭冷やそうか?」
其れは勘弁……てか、其れは中の人は同じでも別人ですので。取り敢えず、物理的に頭を冷やされる前に、頭から氷点温度の井戸水を被って来るんで許して下さい。アンタに狙われたら冗談抜きで命が幾つあっても足りないからね。てか、普通に地の文を脅さないで!?
「束さんに不可能は無いんだよ。」
其れを言われたら何も言えないが。其れをアッサリ口に出来る束は、矢張りトンデモナイ天災って事なのだろうな……此れだけの自信があるからこそ、束はISを世に認めさせ得る事が出来たのかも知れないな。真相は知らんけど。
だがしかし、其れは其れとして、束が開発したこの装置が、ちょっとした事件の引き金になるとは束も思っていなかっただろう――事件が起きたのは、転送された先の世界だけどな。
To Be Continued 
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