電脳空間での彼是が解決した後は、特に大きな問題もなく一夏達は学園生活を送り、気が付けば二学期の最終月である十二月に突入していた。
この時期になると寒さも一層深くなり、寮から学園までの距離であっても、朝は防寒具が必須となっているのだが、IS学園には、学園指定の防寒具と言うモノは存在しないので、個人が好きな防寒具を使えるのだ。
そして、防寒具の自由は、一夏と嫁ズのウィンターファッションを際立出せてもいた。
一夏は制服の上から『ファーの付いた黒いダウンジャケット』で、刀奈は制服の上に『ファーの付いたダウンコート』で、ロランは制服の上に『エンジ色のウィンターコート』で、ヴィシュヌは制服の上に『白のロングダウンコート』で、グリフィンは制服の上に『ファーの付いた裏フリースのベージュのフライトジャケット』で、クラリッサは軍服の上に『濃紺のトレンチコーチ』と言う出で立ちだ。
因みに、円夏は制服の上に『大谷翔平のジャンパー』で、簪は制服の上に『ドラゴンボール柄』のフリースパーカーと言った出で立ちである……簪のパーカーの背には『超サイヤ人3』の悟空がプリントされて居るので、迫力はハンパないが。
一夏達は、ウィンターファッションでもモデルが出来るのではないかと言うレベルなのだが、そんな一夏達を遥かに上回る存在が居たりする。


「のほほんさん、其れは最早着ぐるみじゃないか?」

「でも~、温かいんだよイッチー。」


其れが本音だ。
本音は、一夏言ったように『着ぐるみ』としか言いようのない衣装を着ているのだ……分かり易く言うと、ピカチュウの着ぐるみ状態なのだ本音は!確かに此れならフルスキン状態であるので、寒さは完全に凌ぐ事が出来るかも知れないが、果たして何処の世界に着ぐるみ状態になって登校する女子高生が居ると言うのか?
『今此処に居るだろ』と言われたら其れまでかも知れないが、其れにしたって、着ぐるみで登校と言うのは中々のチャレンジャーであると言えるだろう。
そんな本音の姉の虚は、制服の上に『黒のレザージャンパー』と言う出で立ちなのだが、此のレザージャンパーは弾とデートした際にペアルックで購入したモノで、虚にとってはとっても大事なモノだったりする――真面目系女子がレザージャンパーと言うのは中々のギャップ萌えがあると言えるだろう。もしも弾が其れを見越してレザージャンパーを購入したのだとしたら、中々に先見の明があったと言うべきだろう。


「ふふ、君の周囲は朝から賑やかだね織斑君?」

「あ、おはようございます会長……てか、会長の防寒対策も個性的っすね。」


登校途中、生徒会長の夏姫に声を掛けられたのだが、夏姫の出で立ちを見て一夏も、一夏の嫁ズも、その他も思わず見入ってしまった――と、言うのも、夏姫の出で立ちは、インナーにヒートテックを着た上で、制服の上着を肩掛けにしている、防寒対策をした『闇遊戯スタイル』だったからだ。
夏姫がエジプトの国家代表と言う事も相まってとても似合っていると言えるだろう。


「簪君はドラゴンボールのパーカーか。簪君は、ドラゴンボールではどのキャラが好きなんだい?」

「其れは勿論悟空です。悟空こそ、最強にして最高のヒーローだと思います。」

「そうか、アタシもドラゴンボールでは悟空が好きだね……とあるテレビ番組で、悟空役の野沢雅子さんが言っていた事だが、重病で二月一杯持たないだろうと言われていた子供に野沢さんがサインを書いて、更にテープに悟空の声で、お馴染みの『オス、オラ悟空!』と入れた後に、其の子の名前を言ってから、『必ず見に来いよ?オラ、劇場で待ってるからな!約束だぞ!』と入れたら、そのテープを聞いた子は、映画公開の夏まで生きて、そして公開初日に劇場で映画を見たとの事だったからね。
 此れは悟空だから出来た事であり、ベジータやピッコロでは出来なかった事だと思うよ。」

「悟空は偉大ですね。」


夏姫と簪はオタトークに入ったが、野沢雅子さんと言うか、悟空はマジでハンパないキャラだと言えるだろう……宣告された余命から半年も生きるとか、マジでハンパないですわ。最強のサイヤ人は、現実世界でも最強だったらしいな。

それはさて置き、十二月も半ばを過ぎてソロソロ冬休みなのだが、その冬休みの前には最大、最悪、最強の敵が待っている――そう、学期末考査だ!!
二学期の中間考査では、一夏と嫁ズがトップ4を独占し、簪は5位、円夏は6位で、本音は10位で、二年ではグリフィンが一学期のトップだった夏姫を抑えて、堂々の1位になっていた。

一夏達は可成り優秀なので、期末考査も問題はないだろう。


「中間考査では負けたが……期末考査では負けんぞグリフィン。」

「望む所だよ夏姫……今度も私が勝つよ、絶対に!!」

「自身満々か……ならば、負けた方には相応のペナルティがあった方が良いだろう?……負けた方は、一週間分の学食を奢ると言うのは如何だ?」

「良いね、乗った!」


でもって、夏姫とグリフィンの間で何やら期末考査に関しての何らかの勝負事が起きたらしく、負けた方には『一週間分の学食のランチを奢る』と言うペナルティが課せられたのだが、其れを聞いてもグリフィンは迷う事無くその提案を受け入れたのだ。

裏を返せば、其れだけ自信があると言う事になるのだが……果たしてどんな結果になるのかは、神のみぞ知るって事なのだろう。――神の世界へのアクセスが出来るようになった束ならば、その結果を知る事が出来るのかも知れないがな。









夏と刀と無限の空 Episode64
『冬休みに向けて、彼是色々だ』










期末考査が間近に迫っているとは言え、一年四組の教室はお馴染みの『自習風景』だった――担当教師が、インフルエンザに罹ってしまった為に、急遽この時間は自習となったのである。
でもって、四組の自習風景はとてもフリーダムだ。

担任のスコールが『騒がなければ、何をしてもOK』と言った事もあり、自習になったその時は四組の教室はパラダイスと化すと言っても過言ではないだろう。だって『騒がなければ』と言うルールさえ守っていれば、生徒は思い思い自由に過ごせる訳なのだから。

其れでも、学期末試験の前ならば勉強しそうなモノだが、四組の生徒はマジで全員が好きな様に過ごしている!――が、此れは逆に言えば四組の生徒は、試験前だからと言って焦る必要はないと言う事の表れだと言えるだろう。
そもそも、学校の定期試験と言うモノは、其れまでの授業内容で習った範囲に限定されており、普段の授業を真面目に受け、そして復習を欠かさずに行っていれば、全教科満点とは言わずとも平均で七十点は取れるモノなのだ。無論個人の得手不得手はあるだろうが。

つまり、試験前に焦って勉強すると言うのは、普段の授業を真面目に受けず、復習も碌に行っていなかった事の表れであると言えるのだ――四組の生徒には、そんな不届き者は居なかったと言う事が、自由な自習時間を実現させていると言う事なのである。


「期末が終わったら、結果が炎上しない限りは冬休みよね……実家に帰ってもやる事あんまりないし、冬休み中は一夏の家に入り浸っちゃおうかしら?将来の夫婦生活の予行練習って事で。」

「……週交代とは言え、五週に一度、俺と一週間同じ部屋で過ごしてるのに、今更必要なのか其れ?」

「学園の寮と、一夏の家とじゃ全然違うわよ?
 学園の寮だと、一緒に居られるのはあくまでも寮の部屋に限定されるけれど、一夏の家だったら何処でも誰にも気兼ねなく一緒に居られるじゃない♪
 其れに、クリスマスに大晦日、お正月と短い間隔でイベントが続くから、その度に一夏の家に行くよりも、一夏の家に泊まった方が面倒じゃないかなぁと思って。」

「確かに年末はイベントラッシュだからなぁ……そう言えば、ロラン達は冬休み如何するんだろ?」

「夏休みほど長くないからこっちに居るんじゃない?クリスマスとお正月は一夏と一緒に居たいと思うし……私が一夏の家に入り浸るって言うのも、ロラン達が日本に居る事が前提の事だからねぇ?」

「……して、その心は?」

「四人がいるなら一緒に、四人がいないなら抜け駆けはしない。つまり何時もの嫁の平等ね。
 其れと、四人が日本に残るのなら、学園に残るよりも一夏と一緒に居たいと思うから、きっと私と同じ選択をすると思うわ。
 愛する人と一緒に過ごす事が出来るのならば、其れを選ばないと言う選択肢は存在しないでしょう?其れだけ、私達は貴方の事を愛しているのよ一夏。私達の貴方への愛を数値化したら、全員が五十三万は下らないわ。」

「いや、フリーザ様の戦闘力じゃないんだから。」


一夏と刀奈は、音量をギリギリまで下げた状態でポケモンの最新作で対戦しながら冬休みの事を話している。
如何やら刀奈は、冬休み中は実家には戻らずに一夏の家に入り浸る心算であるらしい……そして、其れは他の嫁ズも同じだろうと言う――刀奈以外の嫁ズは、海外組なので、夏休みの半分の期間もない冬休みで帰省していたら日本と祖国の移動だけで相当な時間を使ってしまいゆっくり休む事が出来ないので、帰省せずに日本に留まると言う選択肢は普通にあると言えるだろう。
そして、日本に留まる事にした場合は一夏の家に来る事も刀奈は予想していた……確かに、愛する人と一緒に居たいと言うのは至極当然の感情であり、其れは一夏も同じなので、突っ込みを入れても拒否はしないのだ。一夏と嫁ズの愛は、上辺だけのモノではなく真の愛であるからこそ、こんな事も迷わずに出来るのだろう。


「ま、俺としても一緒に居られるのは嬉しいから良いけどな……其れよりも刀奈、此れで俺のリザードンの三匹抜きだな?此のまま、俺のストレート勝ちか?」

「ふ、甘いわよ一夏……私の四匹目、其れは努力値をとくこうとすばやさに全振りした、『でんきだま』持ちのなみのりピカチュウよ!喰らいなさい、威力二倍の『10まんボルトォ』!!」

「なんだとぉ!?」


で、ポケモン対戦の方は、一夏のリザードンに三タテ喰らった刀奈が、超強化したピカチュウを繰り出し、圧倒的なすばやさと、『でんきだま』で強化された技を使ってリザードンを倒すと、ボスゴドラ、ゴローニャをなみのりで立て続けに撃破する逆三タテ!!
対する一夏は、水は等倍、電気無効のガブリアスを出し、『じしん』でピカチュウを葬ると、刀奈はメタグロスを出して、ガブリアスには四倍になる『れいとうパンチ』でKOし、此れに対して一夏はウィンディを出して『だいもんじ』でメタグロスを一撃で倒せば、刀奈は切り札のバンギラスを繰り出し、『いわなだれ』でウィンディを撃滅して、一夏も切り札のカイリューを繰り出す。
一夏のカイリューと刀奈のバンギラスは、共にこうげきととくこうに全振りしているのですばやさは低く、同じ数値なのだが、だからこそどちらが先手を取るかはランダムなるのだが……


「先手は俺が貰ったぜ!」

「此れは……まさか、せんせいのつめ!」

「正解だ!」


一夏はカイリューに、稀に先制攻撃が出来る『せんせいのつめ』を持たせておき、その効果が発動してカイリューの先手に!そして、カイリューが使ったのは命中率は50%だが、威力は100で確定混乱になる、バンギラスには四倍技になる『ばくれつパンチ』だ!
命中率が50%の技は、如何に追加効果が強力であっても実戦投入される事は稀なのだが、其れを覚えさせている一夏は中々の勝負師であると言えるだろう。
そして、その渾身の『ばくれつパンチ』は見事にヒットし、更に『きゅうしょにあたった』事で刀奈のバンギラスには八倍のダメージが入って一撃滅殺!!戦闘力は略互角のカイリューとバンギラスだが、地上戦だけでなく空中戦も出来るカイリューの方が上だったと言う事だろう……バンギラスも、カイリューの弱点を突ける技を覚えられるので、其れこそ勝負は時の運と言う事になるのだけれどね。

で、ポケモンの対戦が終わったその後は、自習時間が終わる時まで、『ウルトラストリートファイターⅡ』での対戦を楽しんだ……オンラインでのランクマッチだと使えないキャラも居るが、オンラインの通常対戦ならばキャラはフリーなので、一夏も刀奈も己の持ちキャラを使って思い切り対戦した。
因みに、一夏の持ちキャラはザンギエフで、刀奈の持ちキャラはガイルだった……一夏も刀奈も、豪鬼、殺意の波動に目覚めたリュウ、洗脳されたケンを使ってない辺りに良識を感じる……今上げたキャラは、ぶっ壊れ三キャラだから、対戦での使用はご法度だからね。殺意リュウは禁止キャラ、洗脳ケンは荒らしキャラ、豪鬼は立ち回りが激強だからな――隠しコマンドで使用可能になる『真・豪鬼』は極悪外道の内輪でのお遊びでも使用禁止のキャラである。

同じ頃、円夏と簪はポケモンの通信対戦をしていて、簪の色違いリザードンが、円夏にストレート勝ちを決めていた……簪のやり込みはハンパなモノではなく、其れこそ、其れを動画にしたらバズるんじゃないかってレベルだからね。ガチヲタである簪の前では、マドカが育てたポケモンは敵ではなかったようだ。
円夏も気合を入れて育成していたのだが、簪の廃人レベルの育成には及ばなかったようだ……廃人プレイヤー恐るべしとは、若しかしたら簪の為にある言葉なのかも知れないな。真相は知らんけど。

一夏の護衛を務めているオータムは、そんな自習風景を眺めながらタバコを吸っていたのだが、煙の出ない『電子タバコ』を使っていた辺り、生徒への配慮はしているみたいだ。でもって、数人の生徒と雑談に興じていた。
『姉御肌』のオータムには、実は学園内でもファンが其れなりに居るので、こうして雑談が出来ると言うのも納得だ――そんな場で、『自分は同性愛者』と言う事を堂々とカミングアウトするオータムも中々のチャレンジャーだと言えるだろう。だって、普通なら其れは引かれる内容だから。
だが、其れを聞いた生徒は引く事もなく、オータムの恋愛観に興味を持ったようで、色々と聞いていた……基本的に女子高なIS学園は百合の園だと言うのは強ち只の噂ではないのかも知れないな。








――――――








時は進んで昼休み。
季節が季節なので、流石に屋上でのランチタイムではなく、食堂でのランチタイムだ。
一夏と嫁ズの弁当は、六人が日替わりのローテーションで作っており、本日の弁当マイスターは刀奈である。一夏の嫁ズは、全員料理スキルは高く、ロラン、ヴィシュヌ、グリフィン、クラリッサの四人も自国の料理以外のバリエーションも増えて来たのだが、その中で中学時代から一夏と付き合っていた刀奈の料理スキルは頭一つ抜きん出ていた――中学の頃から三年間、一夏の料理を食べ、そして料理を教われば其れはスキルも高くなるだろう。刀奈以外の四人も、一夏と料理をする時間が増えているので、何れ料理スキルの差は無くなるだろうが。

そんな刀奈が作った本日の弁当のメニューは、『鮭のハラスとキノコの炊き込みご飯』、『豚バラ肉と冬瓜とゆで卵の洋風煮』、『ゴボウとカニカマの揚げキンピラ』、『豆腐とチーズのホウレン草包み焼き』、『玉子焼き』、『ミニトマトと塩ゆでのカリフラワー』である。
ドレも美味しそうなメニューだが、特に『鮭のハラスとキノコの炊き込みご飯』は、ハラスの身と皮を別々にし、身は米とキノコと一緒に炊き込み、皮はグリルでパリッと焼き上げてから千切ってご飯の上に散らした凝った逸品である。


「うん、この豚バラの煮方は満点だな。豚バラの煮込みを作る際には、脂身の部分がゼリー状になるように作らないとダメだからな?煮卵も、味を滲み込ませながらも黄身が硬くなり過ぎていないのも見事だぜ。」

「うふふ、お褒めに預かり光栄だわ♪」


その弁当に舌鼓を打ちながら、今日も今日とて楽しく平和なランチタイムだ。
因みに、円夏は別の席で静寐と、簪も別の席で夏姫と、布仏姉妹、乱とコメット姉妹、レインとフォルテも別席で夫々ランチタイムだ――屋上ならば、一夏チーム全員でランチタイムを過ごす事も出来るのだが、食堂だと其れは無理なのでこうして別々の席でのランチタイムになっているのだ。序に言っておくと、円夏と静寐はお互いに弁当を作って其れを交換し、簪と夏姫の方は、本日は夏姫が弁当を作って来たらしく、布仏姉妹は虚は弁当で本音は学食の『納豆かま玉うどん』で、乱は学食の『牛丼定食』、ファニールは学食の『ハンバーグ定食』、オニールは学食の『ナポリタンランチ』、レインは学食の『ダブルカツ丼定食(カツ丼のカツが二枚)』、フォルテは学食の『チキン南蛮定食』だった……弁当持参以外の女子に言おう、『おい、料理しろよ。』と。


「そう言えば、ロラン達は冬休みの予定とかは?」


各々がランチタイムを過ごしている中、刀奈はロラン達に冬休みの予定を聞いていた。――予想はしていても、予想通りだとは限らないので確認は大事だ。確認しないで突っ走って、痛い目に遭うなんてのは三流のやる事だしね。


「冬休みは夏休みの半分もないから、オランダには帰らずに日本に居る心算さ。両親と、九十九人の百合達にクリスマスカードとニューイヤーメッセージは送るけれどね……百一人分と言うのは中々に大変だけれど。」

「ロラン、両親は兎も角、残る九十九人は同じ内容で良いと思いますよ?貴女の熱烈なファンであるのならば、貴女からクリスマスカードを貰ったと言う事で満足でしょうから。」

「ふむ、そう言うモノなのかな?」

「そう言うモノですよ。
 其れと、私もタイには帰らずに日本に居る心算です。」

「私も同じだね。孤児院の子達に、航空便でクリスマスプレゼント送ってやらないとね。」

「サンタクロースは航空便でプレゼントをか……一晩で世界中の子供達にプレゼントを届けるには、最も現実的な手段と言えるかもしれないな。
 私もドイツには戻らずに日本で過ごす心算だ――クリスマスは中将殿が毎年パーティを開いてくれているのだが、今年は参加できない旨を伝えてクリスマスカードを送り、新年には日本のおせちを黒兎隊に送ってやる心算だ。」


その結果は、刀奈の予想した通りに、全員が日本に残留と言うモノだった。
期間としては、夏休みの三分の一もない冬休みでは、一度帰省してからまた日本に来ると言うのはスケジュール的にも忙しくなってしまうので、日本に留まる事を決めたのだろう。二度目の冬休みになるグリフィンも、去年の冬休みはブラジルに帰っていなかったりするのだ。


「そう、日本に残るのね……その間は、学園の寮で過ごすのかしら?」

「いや、一夏の家に行こうと思ってたのだけれど?」

「私もです。」

「同じく二号。」

「続けて三号。」

「ですって。」

「まさかマジで刀奈の予想通りになるとはな……ま、父さんも母さんも海外赴任で家には居ないし、応接室なんかを使えば寝室も確保出来るから大丈夫だろ多分。
 円夏と千冬姉は自分の部屋があるから部屋が足りなくなるって事もないし。」

「因みに、冬休み期間中は、寝る時は日替わりで一夏と同室ね♪」


そんな訳で、一夏の嫁ズは、冬休み期間中は一夏の家で過ごす事が決定した!序に、就寝時は日替わりで一夏と同室と言う事も決定した!……同じ部屋で寝ると言う事は、夜のISバトルが起きる可能性がある訳だが、一夏の部屋は二階で、応接室は一階なので嫁の嬌声が余程大きくない限りは大丈夫だろう。不安がある場合は、束に連絡を入れておけば、一夏の部屋を完全防音にしてくれるだろうから問題ない。人の家を資格を持たない人間が改装すると言うのは、本来ならば大問題なのだが、束ならばそんじょそこ等のリフォーム業者よりも遥かに高い仕事するので問題なしだ――現に、夏休みの間に一夏の部屋のベッドをシングルベッドからダブルに変えてしまった訳だからね。其れも学園の人間に誰一人気付かれる事なく。やっぱこの人ドチートだわ。


「OK、そう言う事なら断る理由はないから、冬休みは俺の家で過ごしてくれて良いぜ――俺としても、お前達と一緒ってのは正直な事を言えば嬉しいしな。刀奈も言ってたが、夫婦生活の予行練習にもなるからさ。
 冬休みの間、愛する人と一緒に居られるとか最高過ぎるぜ。」

「「「「「~~///!!」」」」」


此処で一夏がイケメンムーブを発動し、嫁ズは其れを見て顔が真っ赤に……互いに絆を深め、更にはやる事をやっていても、一夏のイケメンムーブは、嫁ズのハートを容赦なくぶち抜くらしい。一夏のイケメンムーブに対する耐性を付けるのは略不可能と言う事か。
まぁ、一夏レベルの極上イケメンが僅かに口角を上げただけの薄いスマイルを決めたら、確かにその破壊力はハンパないので、嫁ズが惚れ直してしまうのも仕方ない言えるだろう。……ドンだけだ、此の極上イケメンが!!

と、こんな感じで賑やかで楽しいランチタイムを過ごした一夏達だが、その真逆のランチタイムを過ごしたのは陽彩だ。
束によって転生特典を失った陽彩は、専用機のダブルオーライザーを思うように動かす事が出来なくなり、実技授業での模擬戦でも、機体が思うように動かせなくなった事で此れまで無双していたのが噓のように連敗してしまっているのだ。
そして、その結果として一組の生徒の大半が『陽彩は此れまではズルをして勝っていた』と言う疑念を抱く事になり、結果として陽彩は一組の生徒からも白い目で見られる事になってしまい、IS学園での居場所を失くしている状態だったのだ。
だがしかし、此れはある意味で自業自得としか言いようがない――クソチートな特典に胡坐を掻いて、己を高める事はせずに、第二の人生をイージーモードだと舐めて居たからこうなった。分不相応に一夏を倒そうとしたから火傷では済まないしっぺ返しを喰らった、只それだけの事なのだから。
『オリ主になる事が出来なかった、転生者のなれの果て』……其れが陽彩な訳だ。――その陽彩は、『俺がオリ主の筈だ。』、『俺のハーレムが』等と訳の分からない事を言っていたが、一夏達は自分達には関係ないので無視して食堂を後にした。

ちょっかいを掛けて来ないのならば、陽彩がどんな状況であるかなんてのは、一夏達にとっては如何でも良いのだ――だって陽彩は、一夏からしたら『身の程を弁えずに勝負を挑んでくる雑魚』で、嫁ズからしたら『一夏に意味不明な因縁を吹っ掛けるクソ野郎』でしかない訳だからね。

取り敢えず、平和なランチタイムの後は、午後の授業も全員が最高のコンディションで受ける事が出来た――昼休みの過ごし方ってのは午後の授業に於いてはとても大切なモノなのかも知れないな。高が昼休みと、侮るなかれと言う事なのだろう、多分。








――――――








午後の授業も無事に終えた放課後、第三アリーナでは激しいISバトルが展開されていた。


「うぉぉぉぉりゃあ……シャア!!」

「そうは行かないわ!!」


そのバトルを行っているのは、一夏・簪ペアvs刀奈・円夏ペアの『妹を交換してみましたタッグマッチ』だった――織斑兄妹vs更識姉妹のタッグ戦でも良い勝負になっただろうが、其れだと面白くないと言う事で此のタッグ戦になったのだが、一夏と簪のタッグは、一夏と嫁ズのタッグに負けず劣らずの力を発揮していた。
一夏が完全近接型で、簪が完全遠距離型と言う事で、それぞれの役割が分かり易く、オーソドックスな前衛・後衛のフォーメーションになるのだが、オーソドックス故に、一流同士が組んだ際の強さはハンパがなく、一夏が刀奈とのクロスレンジでの戦いに入ると、簪は円夏をライフルで牽制しつつ、円夏がビット兵器を展開したら、即座にミサイルポッドから大量のマイクロミサイルを発射してビット兵器に弾幕をお見舞いする。


「ちぃ、やっぱりお前はやり辛いな簪!」

「ビットを思うようには使わせないよ!」


円夏の『シャイニングウィング』も、簪の『ライトニングパニッシャー』も相手との距離を取って戦う事を得意とする機体だが、その方向性は可成り異なっている。
シャイニングウィングは、ビット兵器を使った多角的攻撃で相手の動きを制御し、其処を二丁ビームガンで攻撃すると言う『空間制御型』だが、ライトニングパニッシャーは、ビームライフルとビームマシンガンを使い分けつつ、ミサイルポッドから圧倒的な数のマイクロミサイルでの弾幕を張り、その極悪な火力によって制圧する『空間制圧型』なのだ。
更に、ライトニングパニッシャーのマイクロミサイルにはホーミング性能がある上に、機体にはマルチロックオン機構が搭載されているので、複数の対象に追尾性のミサイルを放つ事が出来るのだ……なので、全てのビット兵器をロックオンされてミサイルを放たれた円夏は、ビッド兵器をプラットフォームである翼に戻してミサイルを迎撃せざるを得なかったのである。ビット兵器による結界を完成させるのが先か、其れとも弾幕を張るのが先か、円夏と簪の勝負は何方が先に自分の型を作るかで略決すると言っても良く、今回は簪の方が先に自分の型を作ったと言う感じだ。


「あらあらやるわね簪?でも、此れはタッグマッチよ……行きなさい、分身爆弾達!!」

「「「「「「「「「「逝ってきまーす!!」」」」」」」」」」

「刀奈……でも、私にはその攻撃は通じない!」


此処で刀奈が、ナノマシンで作り上げた爆弾人形を簪に特攻させるが、簪は十体の爆弾人形をマルチロックオンで捉えると、マイクロミサイルの鬼弾幕で爆殺!!
偽物とは言え、実の姉と同じ姿の分身を容赦なくミサイルで爆殺する簪が若干恐ろしい気がするが、迎撃されるのは刀奈も想定内の事だ……刀奈の本当の狙いは、簪の注意を円夏から逸らす事だったのだから。
そして、簪の注意が外れた円夏は、改めてビット兵器を展開して一夏と簪を取り囲むように設置して行く……後はビット兵器を不規則に動かしながらビームで攻撃すれば流れを完全に掴む事が出来るだろう。



――ボン!!



だが、ビット兵器の結界が完成する直前で、ビット兵器の一つが爆発した!
いや、一つだけでなく其れから次々とビット兵器が爆発して使用不能になってしまったのだ……簪がミサイル弾幕を放った様子はなく、一夏がスローダガーを使った訳でもない。否、一夏がスローダガーを使った訳でもないどころか――


「兄さんは何処に行った?」


一夏の姿其の物が見えなくなっていた。そして、その間もビット兵器は破壊され――


「速過ぎて見えなかったか?」

「兄さん!!」


全てのビット兵器が破壊されたところで、円夏の背後に一夏が現れて居合いを一閃!!
そう、円夏がビット兵器を展開すると同時に、一夏はリミットオーバーを発動してからリボルバーイグニッションを使って、ISのハイパーセンサーでも捉えきれないレベルの超高速移動を行いながらビット兵器を破壊していたと言う訳である。
ISのハイパーセンサーでも捉えきれない程のスピードともなれば操縦者にはシャレにならないGが掛かる事になるのだが、ISはそもそもにして単機での大気圏外脱出を考えて設計されているので、30G位までなら余裕で耐えられるようになってるから問題は無いのだ。


「オラァ!!」


奇襲の居合いで円夏のシールドエネルギーを大きく削った一夏は、千冬譲りのアイアンクローで円夏を掴むと、其のまま刀奈に向かって投げ付ける!――だけでなく、簪も鬼のミサイル弾幕をぶっ放して更にプレッシャーを掛ける!
だが、其処は刀奈と円夏も日本の国家代表!円夏は何とか体勢を整えると、刀奈はナノマシンで『水のシールド』を展開してミサイル弾幕をシャットアウトし、其処からは一夏vs円夏、刀奈vs簪の戦いに!
だが、こうなっては円夏と簪は分の悪い戦いになったと言えるだろう……互いに日々の鍛錬は欠かして居ないが、一夏と刀奈の実力は円夏と簪を上回るモノになって居るのだ。分かり易く言うと、簪と円夏が『超サイヤ人3』だとしたら、一夏の嫁ズは『超サイヤ人ブルー』で、一夏に至っては『超サイヤ人ブルー進化』か、『身勝手の極意』か、『我儘の極意』と言った感じなのだ。円夏も簪もクソ強いが、一夏と嫁ズは其れよりも遥かに強いと言う事、只それだけの事だ。


「最後はこうなる訳か……楽しもうぜ刀奈?」

「そうね……行くわよ一夏!」


一夏は円夏を、刀奈は簪を圧倒して倒した後は、タイマン勝負に!
刀奈の突進突きを一夏が鞘当てで防ぐと、其処からカウンターの居合いを繰り出し、刀奈は居合いをスウェーバックで躱し、其処から連続突きを繰り出せば、一夏も連続突きで対抗して火花を散らす!
其処から刀奈が斬り下ろしを繰り出せば、一夏は切り上げで対応する!


「りゃあ!シャア!!」

「そんな簡単には行かないわよ!」


其処に一夏が横蹴り→後回し蹴りのコンボを叩き込むも、刀奈は其れを的確にガードしてクリーンヒットを許さない……振るわれる刀と槍、その合間に繰り出される体術の応酬、モンドグロッソの決勝戦さながらの戦いがIS学園のアリーナで展開されていると言うのは驚くべき事だろう。
たがにクリーンヒットを許さないシールドエネルギーの削り合い!正に手に汗握る一流同士の真剣勝負!!何処からか話を聞き付けた、新聞部の黛薫子がデジカメで写真を撮りまくっていたのも致し方あるまい。学園新聞としては極上のネタをゲットした訳だからね。


「しま!」

「隙ありだ刀奈!うおぉぉりゃあ!!」


何度目かも分からない刀と槍の交錯で、一夏は槍を上からぶっ叩いて刀奈の姿勢を崩すと、其処に渾身の延髄切りを叩き込む!一夏は女性に対して、顔への攻撃は絶対にしないが、頭への攻撃は普通にするのだ。顔は殴らないが、頭は殴る、其れが一夏スタイル。女性の顔に傷を付けるのは御法度だが、頭ならば傷が付いても髪の毛で隠す事が出来るのでギリギリOKと言う事なのだろう――其れでも、傷にならないように延髄斬りを繰り出した一夏は大したモノだが。

が、延髄切りを喰らった刀奈は、後頭部へのダメージを紅龍騎の絶対防御で殺し切る事が出来ずに少しばかり意識が飛んでしまい、其処に一夏がトドメとなる神速の居合いを叩き込んで試合終了!此れで、一夏は刀奈との直近の試合は五連勝!過去の星の差が有るので、マダマダ負け越してはいるが、この分だとIS学園卒業までには星は五分、或は一夏が上回るなんて事になるかもしれないね。それ程までに、一夏の成長率はトンデモナイのである。


「負けちゃったか……本当に三年前とは比べ物にならない位に強くなったわね一夏……」

「負け越したままってのは好きじゃないんでな、お前達に勝ち越す事が出来るように自分を虐めて来た、その成果って事なんだろ此れは……其れに加えて、俺はお前達に何かあった時には、お前達を助けてやるだけの力がないといけないからな。
 愛する人を守る為の力ってのは絶対に必要になるからさ……俺は、其の力を身に付ける、其れだけさ。」


元々負けず嫌いで、努力と言うモノを怠る事が無かった一夏だが、『男性操縦者重婚法』によって、守るべき大切な人が五人も出来た事で、更なる力を得る為にトレーニングは欠かさずに行い、その結果として国家代表どころか、現役軍人であるクラリッサですら圧倒する力をその身に宿していたのだ。
そして、そんな一夏に嫁ズは更に惹かれる――生物の本能として、雌はより強い雄を求めると言うが、一夏は人として最高の雄であり、嫁ズも人として最高の雌と言えるので、一夏と嫁ズの一夫多妻は、ある意味で必然の事だったのかも知れないな。

その後は、軽めのトレーニングを行い、シャワーで汗を流した後は、一夏と嫁ズは一夏の部屋に集まって、本日の夕食である『鍋』を行っていた。
本日の『鍋』は、相撲好きなグリフィンのリクエストで『ちゃんこ鍋』なのだが、ぶっちゃけて言うとちゃんこ鍋に定義はなく、『四つ足の肉は使わない』と言う唯一のルールさえ破らなければ何を入れても良いのだ。
四つ足の肉と言えば、豚と牛だが、何故四つ足がダメなのかと言えば、相撲取りは四つん這いになったら負けるので、縁起が悪いので入れないのである。鶏肉と魚はOKだ。

と言う訳で、本日の一夏特製ちゃんこ鍋は、鴨肉と赤魚をメインに、キノコにシラタキ、ネギに白菜、鰯のつみれと言うラインナップで、鍋の汁には味を付けずに、これまた一夏特製の『醤油とカボス酢のポン酢』で美味しく頂いた。
そして、鍋のシメは『鍋ラーメン』を投入し、出汁が良く出た残り汁に、『塩ラーメンのスープの素』を加えて、最後に溶き卵を加えて絶品に仕上げた!鍋ラーメンってのも新たな鍋のシメとして一般的なモノになって行くのかも知れないな。


夕食後は、最早お馴染みとなった大浴場での嫁ズとの風呂タイムとなり、風呂の後は今週の同じ部屋のパートナーであるヴィシュヌに、タイ式のマッサージをして貰って、そのお返しに一夏がヴィシュヌにマッサージをした後に、ベッドで仲良く眠りについた。一夏が腕枕をしていると言うのは、最早デフォであると言って良いだろう。
寧ろ腕枕は基本だ!基本故に最強である!!腕枕は最高だぜ!!








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其れから数日後、学年末試験の日となり、一夏達は全力で其れに挑み、試験から三日後に張り出された結果では、一夏と嫁ズが全員合計四百九十八点で学年トップとなり、一年のトップ10は一夏、刀奈、ロラン、ヴィシュヌに続いて、円夏と簪が同率の五位で、次いで乱、コメット姉妹、静寐と続き、一夏チームが独占したのだった。一夏チームの優秀さはハンパではない!この前まで一般生徒の一人に過ぎなかった静寐は、束のお気に入りの一人となっている事を考えてもガチでトンデモねぇってモノである。――鷹月静寐、恐ろしい子である。

序に、グリフィンは二年生のトップであり、二位が夏姫だったので、今回の勝負はグリフィンの勝ちとなり、『一週間、学食を奢って貰える権利』を得たのだった。昼食は弁当なので奢る事はないが、ランチタイムが利用出来ない朝か夜と言うのは夏姫の財布に大ダメージかも知れないな?朝は兎も角、晩飯のメニューはランチタイムのメニューと比べると割高になってしまうからね……夏姫は、勝負を仕掛けた己を恨むべきだろうな。

取り敢えず、一夏チームは全員が無事に冬休みを獲得した訳だが……陽彩は見事に全科目が炎上して冬休み中の補修が決定していた――一夏は『死体蹴りの趣味はない』と言う事で陽彩には関わらないようにしていたが、世界が陽彩を許さない。
分不相応な力を求めた者への世界からの断罪は、まだこれからも、陽彩が生きている限り続いて行くのかも知れないな。

其れは其れとして、二学期の終業式も終わり、一夏と嫁ズは通知表もオール5を達成して、夏休みと比べると圧倒的に短いが、しかしイベントが短い間隔で連続する冬休みへと突入したのだった。
クリスマス、年末のコミケ、大晦日にお正月……これ等のイベントで、一体何が起きるのか――何が起きても、きっとそれは良い思い出になるのであろうけどね。

冬休み、其れは一夏と嫁ズの冬のイベントラッシュの期間で間違いないだろうな……良い思い出を作ってくれよ!












 To Be Continued