電脳世界に囚われた嫁ズを取り戻す為に電脳ダイブを行った一夏は、その電脳世界にて束が開発中のゲームの世界に降り立ち、其処で嫁ズが賞金首になっている事を知り、情報を集める為にショップの店員との会話を行い、そして街から出た所で会話をしたショップの店員に襲われると言う展開に。
ショップの店員に扮していたのは、本音、静寐、清香、癒子であり、此の四人は嫁ズの仲間であるらしく、一夏の事を賞金稼ぎと疑って襲って来たのだ。
つまりはイベント発生であり、ストーリーに直結するバトルに突入した一夏だったが……
「せい!てやぁ!おぉりゃあ!!」
本音、静寐、清香、癒子の四人を相手に回しても圧倒的な立ち回りを見せていた――朧を使った剣術だけでなく、ローキックを起点とした蹴りのコンボに加え、そこら辺に落ちている物を凶器として使用すると言う、『何でもあり』の戦い方で本音達を圧倒しているのだ。
特に蹴りのコンボは、ロー→ミドル→後ろ回し蹴り→横蹴りと言う隙のないモノである上に、技のスピードが速く対処が難しいのだ。この辺は、ヴィシュヌにムエタイを教えて貰っている影響だろう。
「うおりゃぁぁ!!」
「きゃ!うわぁぁ!!」
その蹴りのコンボで、ボウガンでの後方支援を行っている厄介な癒子のHPをゼロにすると、其処からは一夏の独壇場だった。
本音にジャンピングアッパーからの峰打ちの兜割りを叩き込んでHPをゼロすれば、其のまま返した刀をカチ上げて清香の顎を打ってHPを削り切りし、静寐はローキックで態勢を崩した所に力任せの背負い投げ叩き込んでターンエンド……四人を相手にしてノーダメージ勝利と言うのは、流石は一夏と言うべきか?序盤の敵では苦戦すらしなかったようだ。
「勝負ありだな?其れじゃあ、約束通りお姫様の所に連れて行って貰おうか?」
その一夏は、偽悪的な笑みを浮かべると、四人に『お姫様達の所に連れて行け』と言い放った……一夏位の高レベルのイケメンが偽悪的な笑みを浮かべるってのは中々に破壊力があるな?
ぶっちゃけ、この笑顔だけでも女性を何人か落とす事が出来るのではなかろうか?……イケメンのダークヒーローってのは色々と最強ですわな。
「「「「…………」」」」
だが、四人は何も答えずに一夏に向かって何かを投げ付けて来た!
其れを一夏はギリギリで回避するも、投げられたモノが破裂して、中から大量の煙幕が!目暗ましの煙玉を投げ付けて来たのだ。其れも四人全員がだ……だが、不意打ちを仕掛けてくるような様子はなく、煙幕が晴れるとソコにはもう四人の姿はなかった。まんまと逃げられたらしい。
「倒しても逃げられた……そう言うイベントって事か?……でも、此れで手掛かりは全く無しとか、難易度高くねぇかな?
……また振り出しか……って、アイテム入手?『酒場の割引券』って……のほほんさん達未成年――は関係ないか。のほほんさん達がゲームのキャラに扮してるだけの事だからな。
それにしても酒場か……酒場と言えば、情報が得られる場所って相場が決まってるよな。」
四人には逃げられてしまったモノの、戦利品として新たに『酒場の割引券』と、金四千円を手に入れ、一夏は次なる目的地を酒場に決めて、一度街へと戻る事にしたようだ……酒場とは、ゲームにおける情報が得られる場所だが、果たして一夏は刀奈達に関する有益な情報を得る事が出来るのであろうか……?
夏と刀と無限の空 Episode60
『Fantasy×Outlaw=Chaosだぜマジで!』
街に戻って来た一夏は、『酒場の割引券』に書かれている店名を確認すると、スマホのマップ機能を起動して店の場所を確認し行動開始。
勿論、酒場への移動中もマップ上のキャラに話し掛けて、少しでも情報を得ようとする事は怠らない……とは言っても、矢張り通行人では汎用会話が発生するだけだったが。
そんな事をしながら辿り着いたのは、『酒場の割引券』に店名が書かれていた店、『Bar Sea Horse』だった……どこぞの社長なデュエリストが経営してそうな店だ。
だが、其れ以上にインパクトがあるのは、何処かファンタジーな雰囲気が漂う世界に於いて、何と此の店はド派手なネオンサインが飾られ、入り口の前にはこれ見よがしにこれまたド派手な電飾の看板が置かれているのだ。
ファンタジーな世界観に於いて、一人だけ現代日本風のファッションの一夏と同じ位に浮いていると言っても過言ではあるまい……流石、束が作っただけあって色々と突っ込みどころがあり過ぎる。天才の感性は、常人には理解出来ないとは此の事だろう。
「束さん、突っ込みが間に合わねぇって……でも、俺の格好と同じ位に世界観とマッチしてない店ってのは、逆に何かあるって言えるよな。」
しかし一夏は、此の場違いな雰囲気の酒場だからこそ、『何かある』と考えて店内に。自分の服装と同様に、明らかに世界観にマッチしていない酒場だからこそ重要な情報があるかも知れないと言うのは間違いではないだろう。
ゲームと言うのは、往々にして『明らかにオカシイ場所』にヒントがあるモノなのだから。
一夏が店のドアを開けると、其処には如何にも『場末の酒場』と言った光景が広がっていた。
店主と思しきバーテンはカウンターで仕事をしているし、店員の女性スタッフも働いているのだが、酒を飲んでいるのは街のゴロツキやチンピラ崩れが多く、更には女性店員に手を出そうとしている輩まで居る始末だ。
「すんませんお姉さん、一人なんだけど席に案内してくんない?」
無論一夏は其れを見過ごす事はせず、絡まれていた女性店員に、『席に案内してくれ』と声を掛けて、合法的に酔っ払いから引き剥がす……『来店した客への対応』となれば流石に酔っ払いとて無理に絡み続ける事は出来ないのだ。そんな事をして店主に目を付けられて出禁にでもなったら、良い飲み場所が無くなってしまう訳だから。
女性店員にカウンター席に案内された一夏は、店主のバーテンに注文を――
「なぁ、街で指名手配されてる賞金首について、アンタ何か知らないか?」
「!!」
せずに、ド直球に賞金首である嫁ズの事を聞いた。
『いや、イキナリ直球過ぎるんじゃないか?』と思うかも知れ合いが、此の店に居るキャラは店主のバーテン以外はハッキリ言ってモブだと一夏は判断したのである。
と言うのも、店の客とスタッフは、よく見れば基本デザインが同じであり、服装や髪型なんかで差別化を図っている『ザッツモブキャラ』であるのに対し、店主のバーテンは、一人だけ個別に作られた外見だったので、『コイツが重要キャラだ』と思ったのだ。
簪の様なヲタではないが、一夏もまた『やるからにはトコトンやる』の精神で、プレイしたゲームは徹底的にやり込むタイプなので、ゲームのイロハは分かってると言う訳である。
「おい、兄ちゃん……お前さん賞金稼ぎかい?だとしたら悪い事は言わねぇ、あの五人だけは辞めときな。ウチに出入りしてる腕自慢の若いのが、軒並み返り討ちになってんだ。
しかも、賞金首になってる五人だけじゃなく、中々に腕の立つ仲間も居るって話だ……一人じゃ、到底勝ち目はねぇぞ?」
「仲間が居るのは知ってる。ついさっき襲われたんでね……ま、ぶっ倒したけどな。
賞金首の五人の所に連れて行って欲しかったんだけど、生憎と逃げられちまってな……だけど、俺は如何しても彼女達に会わなきゃならない理由があるんだ。ドンな事でも良い、知ってる事があるなら何でも良いから教えてくれないか?」
「その目……アンタ本気だな?
こう言う商売をしてると、色んな人間を見て来たんだが……腕自慢の賞金稼ぎでも、相手が相当にヤバい奴だと知ると、尻込みしちまう奴が多かった――が、アンタはそうじゃないと見た。
良いぜ、アンタにどんな事情があるのかは知らないが、その本気に敬意を表して教えてやる。
賞金首の連中は、街から出て東にある森に拠点を構えてる……賞金首をとっ捕まえようとして返り討ちにあった賞金稼ぎは、例外なくその森に行った奴等だけだと言う事を考えるとまず間違いないだろう。」
其れは当たりだったらしく、一夏は店主のバーテンから嫁ズの拠点を聞き出す事に成功していた。何事もトコトンまで極めると言う姿勢で、ゲームをも極めている一夏だからこそ、酒場での最短ルートを行けたのだろう。
「街を出て東にある森ね……サンキュ、其処に行ってみるよ。」
「気を付けて行けよ兄ちゃん。コイツは、俺からの餞別だ。」
情報を得た一夏は、店を出る前に店主のバーテンからアイテム『Sea Horseのコンビーフ』(使用後、一定時間HP回復+必殺ゲージ+50%)を貰ってから退店し、次なる目的地の森に向かおうとしたのだが――
「あ……!」
「お前は!」
店を出た所で、先程倒した本音と鉢合わせた。
「三十六計逃げるにしかず~~!」
「おい、待て!!」
でもって、一夏と鉢合わせた本音はその場から全速力で離脱するが、一夏も其れを反射的に追う事に――此れはつまり、このゲームに於ける『追いかけっこイベント』が始まったと言う事だろう。
逃げる本音を追いかける一夏には、通行人が前に居れば矢印が表示されて何方に動けばロスがないかを表示し、直角のコーナーでは壁に赤矢印が出て、其れに従えば自動的にウォールハイクからのキックジャンプを行って本音との距離を詰める。
「逃がさねぇって、言ってんだろ!!」
続いて今度は、進路上にあったゴミバケツに青矢印が出ていたので、其れに従うと、身体が勝手に動いてゴミバケツを思い切り蹴り飛ばし、本音の頭に見事にストラーイクってなモンだ。容赦がない気もするが、相手は本音と同じ顔をしたデータに過ぎないので、一夏も躊躇はマッタクないのである。
此れには本音もダウンしたのだが、直ぐに起き上がって逃走再開!ゲームキャラだからこそのタフネスだと言えるだろう。
だが、一夏も此の程度では諦めず、更に追跡を続け、再びウォールハイクからのキックジャンプで距離を詰めると、トドメとなるであろう三角コーンをフリーキックで本音にぶちかまし、其れで怯んだ所で一足飛びで距離を詰めてブルドッキングヘッドロック一閃!
フェースクラッシャーとは違い、頭をガッチリとホールドして地面に叩き付けるブルドッキングヘッドロックの方が威力は高いのだ。
「もぴゃ~~?」
「悪いなのほほんさん。」
其れを喰らった本音は、見事に捕まえられてしまったのだが……
――ドドドドド!!
其処にボウガンが撃ち込まれて、一夏は思わず本音から離れてしまう――そして、その隙を逃さず事無く、本音は逃走!本音の逃走ルートの先には、癒子がスタンバイしていたと言う事なのだろう。中々に良いチームであると、そう評価しても罰は当たるまい。
「にゃはは~~、ばいばーい!」
「この、逃がすかよ!!」
再び逃げ始めた本音を追おうとした所で、突如周囲の景色が変わった――街中から、突如森の中に変わったのである。
「なんだよ此れ?……此れは何か、あの追跡イベントをクリアすると森に強制移動させられるってのか?……イベントの発生条件が分かり辛い上に、どんなイベントが発生するのかも分からないとか、初見殺し過ぎるぜ束さん?
世の中には『死んで操作を覚える』ってゲームもあるけど、今の状況だと死んだら如何なるか分からないから、死ぬのは絶対にNGだっての。……其れは兎も角として、此処に強制移動したって事はシナリオが進んだって事だよな。」
其れもゲーム進行の演出だと一夏は考えて、今度はこの森を調べる事になった。
強制移動させられた以上は、間違いなくこの森に嫁ズが居るのだから、調べないと言う選択肢はそもそも一夏には存在していない――何よりも、一夏の目的は、嫁ズの記憶を取り戻した上でゲームをクリアして現実世界に帰還する事なのだから、どんな些細な事でも見逃す事は出来ないのである。
「しかしまぁ、森で『カサカサ』って言う音を聞くと、何か落ち着かないのは俺だけか?」
――カサ。カサカサ……
「またカサカサと動く音かよ……何か居るのか?隠れてないで出て来いよ!」
『カサです。』
「何でだよ。」
……取り敢えず、茂みから現れたビニール傘には、一夏が突っ込み序の鉄拳を叩き込んで粉砕し、粉砕されたビニール傘は、『スローダガー×10』に変わってくれたので、無駄な雑魚ではなかったらしい。
そして、これを皮切りに、一夏は森の中で『身長3mのクマ』、『やたらと牙が発達したイノシシ』、『角が異常なまでに肥大化したバッファロー』と言ったエネミーを、エンカウントした端から撃滅していった。出てくるエネミーが、『其れは森の生物ちゃうやろ』ってのが混じってるのは御愛嬌か。
一夏の身体能力もさる事ながら、束が全てのスキルを開放してくれたお陰で、戦闘はサクサク進むと言う訳だ。――本来ならば、ソコソコ苦戦するバトルをアッサリクリア出来た事に関しては、束に感謝しかあるまいて。序に、此れ等の戦闘で回復アイテムやら金も手に入ったので良しとしよう。
今更だが、人間相手ならば未だしも、森のモンスターがアイテムや金を落とすと言うのは若干オカシイと思ってしまうのだが……其処は『ゲームだから』と言う事で納得するのが一番だろうね。
そんな感じで森のエネミーを狩りまくり、一夏は森の可成り奥までやって来たのだが……
「誰も居ないな?本当に此の辺に、刀奈達の拠点があるのかよ?」
見た感じ、周りに拠点らしき建物は見当たらなかった。
此処に来る途中までに、幾つかの分岐路があったが、その先はアイテムが置いてある行き止まりになって居たので、見落としていると言う可能性は限りなく低いだろう……と言う事は、此処で何らかのイベントが起きると考えた方が良さそうである。
「大分暗くなって来ちまったし、コイツは無理に追いかけないで、日を改めるべきだったか?考えてみれば拠点の場所は聞いた訳だし……自分で思ってる以上に焦ってんのかな俺?
仕方ねぇ、今夜は此処で野宿して、明日改めて森を探索し直すか。」
「……危険な動物が多い森の中で野宿しようだなんて、お馬鹿さんね?……其れとも、私達を油断させる罠かしら?」
「!!(今の声は、刀奈?でも何処に……)」
暗くなってきた森の中での探索は効率が悪いと考え、一夏は此処で野宿をしようと考えたのだが己が口にした事に対して返ってきた声に一夏は思わず身構えた。
その声は刀奈のモノであったのだが、姿が何処にも見えないのだ……勿論、隠れているのだが、周囲の木陰や茂みからは気配を感じる事もない。……それ程大きくない声が聞こえたのだから近くに居るのは間違いないのだが。
「でもね、たった一人でこの森に入ろうだなんて、命知らずも良い所よ!」
「上か!!」
次の瞬間、一夏を目掛けて木の上から何かが降って来た。いや、『何か』ではなく『槍を構えた刀奈が木の上から強襲して来た』と言うのが正しいだろう。
切っ先を下に向け、槍を逆手に持った刀奈は、一直線に一夏を目掛けて降下してくる――如何に一夏が頑丈であっても、落下速度+刀奈の体重が加わった槍の一撃を喰らったらタダでは済まない。ゲーム的には、一撃死だろう。
が、此れは所謂ゲーム的にはムービーらしく、一夏の意思とは関係なく身体が動いてその攻撃を躱すと、後回し蹴りを放ち、刀奈はその蹴りを槍の柄でガードして互いに向き直る。
「木の上からの奇襲とは、相変わらずやる事が突拍子もないと言うか、予想の斜め上を行くじゃないか刀奈?」
「あら、褒め言葉と受け取っておくわお兄さん。でも、刀奈って言うのは誰の事かしら?私の名は白雪よ……人の名前を間違えるのは失礼だって、ママは教えてくれなかったのかしら?」
「あぁ、そう言えばこの世界ではそうだったんだっけか……そんで、俺に何か用かいお姫様?俺としては、そっちから出て来てくれた事に感謝なんだがな。」
「あら、オカシナ事を言うわね?
私の仲間から、貴方の事は聞いているのよ……賞金首となっている私達の事を聞いて来た、不思議な服装をした男が居るってね。新手の賞金稼ぎなら、潰しておいた方が良いでしょう?」
「此れはまた、随分とバイオレンスな思考のお姫様です事。」
此の世界に於いて、刀奈は『白雪姫』なのだが、一夏の前に現れた刀奈の格好は大凡『白雪姫』とは掛け離れたモノだった。
白雪姫と言えば、青を基調としたドレスを身に纏っているモノだが、刀奈は膝までのロングブーツにホットパンツ、腰の右側に飾り布、上半身は大胆に肌を露出すると言う出で立ちだったのだ。(イメージはFFⅩ-2のガンナーユウナ)
「成程、彼が彼女達が言っていた……中々に骨がありそうじゃないか?此れは、久しぶりに楽しめそうだ。」
「あの四人を退けるとは、相当な腕の持ち主であるのは間違いないでしょう……賞金稼ぎを私達が直接相手にするのは、随分と久しぶりな気がします。」
「だから、ちょっとやり過ぎちゃっても恨まないでね?」
「恨むのならば、私達に懸けられた賞金に目が眩んだ己を恨むんだな。」
そして、刀奈の登場を皮切りに、ロラン、ヴィシュヌ、グリフィン、クラリッサもその姿を現したのだが、矢張りこの四人も刀奈同様に、夫々扮するキャラクターのイメージとは異なる出で立ちだった。
ロランは白いドレスではなく、白いスカートに菫色のトップスで手にはレイピア(イメージは空の軌跡3rdのクローゼ)、ヴィシュヌはアラビアンナイトの特徴的な衣装ではなく、手首と足首に装飾品の輪っかを付けて胸とアンダー部分を白い布で覆い(イメージはストリートファイターのエレナ)、グリフィンは十二単ではなく紅い『甲冑ビキニ』とでも言う出で立ち(イメージは戦国無双の井伊直虎)、クラリッサはドレスにガラスの靴ではなく、赤いミニスカートと赤いシャツを着て、シャツの上に黒い上着と言うコーディネート(イメージはガールズ&パンツァーの黒森峰のパンツァージャケット)で手にはショットガンが……いやもう、あまりにもカオス過ぎて何処から突っ込みを入れれば分からんわマジで。
服装もそうだが、クラリッサのショットガンは幾ら何でも反則ではなかろうか?遠距離武器が、弓矢かボウガン、スローダガーとかの世界で、距離が離れる程に威力が落ちるとは言え、射程距離が圧倒的なショットガンってのは可成りチートな武器と言えるだろう。
「これはまた、中々に個性的なお姫様達だな……でも、此の格好もなかなか魅力的だから、現実世界に帰還したらやって貰おうかな?」
「何をゴチャゴチャ言ってるのかしら?此処で止めるって言うのなら、無事に逃がしてあげるけど、止めないって言うのなら私達も手加減はしないわ。……さて、貴方は如何するのかしら?」
「悪いが、俺は止める気はないぜ?俺は、お前達を取り戻さないとなんでね。」
「そう……やっぱり貴方はお馬鹿さんだったみたいね。悪いけれど賞金稼ぎに捕まる訳には行かないからね……二度と賞金稼ぎとして活動出来ないようにさせて貰うわよ?
少しだけ、痛いのを我慢しなさいな!」
「うわぁ、不安しかねぇそのセリフ。」
不安どころか、言われた側にしてみれば完全な死亡フラグだからな刀奈の言った事は――だが、此処でバトルイベント発生!相手は嫁ズの五人なのだが、其の五人の中で、刀奈は特別な存在だった。
ロラン、ヴィシュヌ、グリフィン、クラリッサの頭上に表示されているHPバーは本音達と同じ『オレンジ』だったのだが、刀奈の頭上のHPバーは黄色……刀奈は、ロラン達とは違い、HPゲージが二本あると言う事になるのだ。
此れは、完全にゲーム的に刀奈扮する白雪姫が他のキャラとは違うボス扱いなのは間違いないだろう――ファンタジーな姫連合な嫁ズだが、此の世界は基本が白雪姫みたいなので、白雪姫に扮している刀奈は特別強く設定されていると言う訳だ。
「でもまぁ、戦うしかないってんなら、やるだけだぜ。」
「うふふ……地獄のハーレムを体感させてあげるわ。」
「孔雀舞乙!」
そして、戦闘開始!
一夏が最初にターゲットにしたのはクラリッサだ。此のメンバーの中で唯一遠距離攻撃が出来るクラリッサを先に潰しておこうと言うのは悪い選択肢ではないだろう。
距離に反比例して威力が下がるショットガンとは言え、間合いの外からの攻撃と言うのは厄介極まりないので、真っ先に潰しておくに越した事はないのである。
「オラァ!!」
「な!速い!!」
一足飛びでクラリッサに肉薄した一夏は、膝蹴りを叩き込むと同時に、束によって解放されたEXスキルの『垂直落下DDT』を発動してクラリッサを一撃で沈めると、此れまた一足飛びでロランに肉薄してエルボーを喰らわせて身体を反転させ、反転した所に一撃必殺のジャーマンスープレックスを喰らわせてHPバーを削り取り、ジャーマンの隙をついて蹴りを放って来たヴィシュヌにはカウンターのドラゴンスクリューを喰らわせると、起き上がり際にシャイニングウィザードを叩き込んでHPバーをゼロにし、飛び込んできたグリフィンの足を掴むと其のままジャイアントスウィングでぶん回してから放り投げると、空中でグリフィンを捕まえて一撃必殺のキン肉バスターを叩き込んでKO!……自分の嫁が相手であっても、やるからには手加減は不要と言うのが何とも一夏らしいと言えるだろう。
一夏は、IS学園での放課後の訓練や、古武術部での活動でも只の一度も手加減をした事はない――古武術部では、相手のレベルに合わせる事はあっても、相手のレベルに合わせた上での本気を出して居るのだから手加減とは言えないのだ。
まぁ、先の本音達との戦闘とは違い、顔面攻撃をしていない辺り、『同じ顔をしただけのデータ』ではなく、今回は本人が相手と言う事だからだろう。一夏は絶対に女の子の顔だけは攻撃しないのだ現実でも。
ともあれ、本気の一夏の前では嫁ズも如何しようも無かった様だ――誤解が無いように言っておくと、一夏の嫁ズは決して弱くなく、寧ろ現実世界であれば一夏と互角に戦えると言う、IS学園でも可成り強い部類に入るのだが、今の嫁ズは序盤の敵なので其れ程強く設定されていない上に、今の一夏は習得スキルが全開になっていると言う序盤で張り得ないチートモードになっているので、勝てる筈がないのだ。
因みにこの手のゲームでは、通常先に倒された敵と言うのは画面から消えるモノなのだが、ロラン達は消えずに戦いの行方を見ている状態だ――只のデータではなく、電脳ダイブで意識が電脳空間にある事が原因なのだろう。
「此れで、アンタとタイマンだなお姫様?」
「ベル達が何も出来ずに倒されるとは……マッタク持って予想外だったわ。……如何やら貴方、只の賞金稼ぎじゃないみたいね?」
「そもそも賞金稼ぎですらないんだけどな……ま、その辺りは戦闘が終わってから話をするしかねぇか。」
ロラン達を瞬殺した一夏は、刀奈と向き合いタイマン勝負が開始された。
槍を使って来る刀奈に対し、一夏は朧を展開せずに素手で対応するが、此れまでの戦闘から『武器を持った相手は攻撃のモーションが大きいから、素手で相手をした方が有利に立ち回れる』と言う事を学んだからだ。
現実に今も、一夏は刀奈の槍攻撃を巧く捌いて的確にカウンターを叩き込んで行く……現在の刀奈の攻撃は、現実世界の刀奈の攻撃と比べればハッキリ言って温過ぎるので対応するのに難は無いのだ。
「(記憶に蓋がされてる上に、ゲーム序盤だとこの程度か……ま、記憶の蓋を開けてやる事が出来れば本来の強さを取り戻すんだろうけどな。)」
「戦いの最中に考え事?そんな事をしていると足元を掬われるわよ!」
しかし、此処でHPが半分以下になった刀奈がオーラを纏った姿となり、一夏の一部のスキル(EX以外の投げ、飛び越し攻撃)を無効にしてしまう状態に!更に、EXスキル以外の攻撃では怯まないスーパーアーマーも追加されているらしく、一夏の蹴りやパンチを喰らっても槍で強引に攻撃してくるのだ。
この強引な攻撃には流石の一夏も少し押され、柄での攻撃を喰らってダウンしてしまう。
「せや!」
「!!」
「ウオォォォリャァ!!」
だが、刀奈の追撃が来る前に、一夏がダウン時のカウンターEXスキル『フランケンシュタイナー』を使い、ダウン状態から腕の力のみでジャンプすると、両足で刀奈の首をホールドして、後方宙返りの要領で投げ飛ばす!
そして、ダウンした刀奈にジャンピングエルボーを叩き込むまでがこのスキルの一連の流れであり、フランケンシュタイナーを喰らった刀奈のHPはゼロになり、ボスバトルは終了である。
ボスバトルに勝利した事による戦利品は『鬼辛カレーまん』、『味噌カルビ丼』と一万円であった……アイテムは兎も角、金に関しては嫁一人頭二千円設定と言う事なのだろうか?
「く……まさか私達が負けるとはね……貴方の勝ちよ、私達を女王に突き出すと良いわ。」
「いや、そんな事しないから。そもそも俺は賞金稼ぎじゃないし。」
刀奈を倒した事で戦闘は終了し、会話が出来るようになったところで、一夏は『自分は賞金稼ぎではない』と言う事を刀奈達に伝える。先ずは、敵ではないと言う事を知って貰わねばどうしようもないからね。
「賞金稼ぎじゃない?なら、どうして私達の事を探していたのかしらね?」
「あ~~……其れに関しては、色々と事情があってな?今のお前達からしたら信じられない事かもしれないんだが……少しばかり長くなるが俺の話を聞いてくれると助かるぜ。」
「賞金稼ぎではないのに私達を探していた理由か……良いだろう、君の話を聞かせて貰おうじゃないか、名も知らぬ強者よ。」
「……俺は織斑一夏って言う名前があるから、出来れば其れで呼んでくれ。てか、お前はあんまり変わらないんだなロラン。」
「ロラン?私はベルだよ、織斑。」
「そうだったな。……てか織斑呼びですか、此れは地味にキツイな。」
此れまで名前で呼ばれていた相手に、名字で呼ばれると言うのは中々にダメージが大きいモノだ。此れは、互いに名前で呼び捨てにしてた間柄だったのに、ある日突然敬称付きで呼ばれるようになったに等しいダメージがあると言えるだろう。
それはさて置き、一夏は『この世界は現実ではなく、電脳世界に構築された仮想現実である事』、『現実の五人はIS学園に所属している生徒と職員である事』、『五人は自分と婚約関係にある事』、『電脳ダイブを利用したISシミュレーターのテストプレイ中に不具合が起きて電脳世界に囚われてしまっている事』、『現在は本来の記憶に蓋がされて現実世界での事は何も覚えて居ない事』、『現実世界に帰還させるには、記憶の蓋を開けた上でゲームをクリアしなければならない事』、『姫達の本当の名前』と、必要な事を全て包み隠さずに伝えた。
「此の世界が虚構で、本当の私達はISと言うモノが存在してる世界で生きてて、貴方の婚約者……ちょっと信じられないわね?」
「そもそも、如何して五人の婚約者が居ると言う状況になったのでしょうか?」
「ISってのは、本来女性にしか扱えない物なんだが、俺は男であるにも拘らずISを起動しちまってな……その貴重な男性IS操縦者の争奪戦を防ぐ目的もあってなんだが、国際IS委員会が『男性操縦者重婚法』なんてモノをぶち上げやがってな。
俺は、『国籍が被らないように五人選んで結婚する』事を強制されたんだよ……俺には既に刀奈と付き合ってたんだけど、国際的な法律に逆らう事は出来ないから刀奈以外の四人を選んだんだ――あぁ、ロランだけは立候補だったけどな。」
更に一夏は、刀奈達五人と婚約関係になっている事を説明すると、心なしか刀奈達の顔が少しばかり紅くなったように感じた……記憶に蓋がされていても、惚れた男の事は本能的に覚えているのか、少しばかり恥ずかしくなってしまったのだろう。……この状態で、やる事やってると言う事を知ったら、間違いなく大噴火するだろうね。富士山もビックリの大噴火だろう。
「織斑君、貴方の言った事が本当だとして、でも今の私達は貴方の事を覚えていないわ……でも、貴方が敵でない事だけは分かった。
敵でないと言うのならば、あの暴君とも言えるお母様を倒す事に協力してくれないかしら?」
「是非もないぜ刀奈。恐らくはラスボスである女王をぶっ倒す前に、お前達の記憶の蓋を開けてやる必要があるけどな……ぶっ倒してやろうじゃねぇか、クソッタレな女王様って奴をな!
でも、その前にちょいと質問。白雪姫が居るのは良いよ?この世界は白雪姫が基本になってるみたいだから。だけどさ、如何して美女と野獣、アラビアンナイト、かぐや姫、シンデレラのヒロインが此の世界に集結してるんですかねぇ?俺は其れが知りたい!!」
「私は、彼と城で共に暮らしていたんだがある日突如強烈な光に包まれたと思ったら、此の世界に来ていたんだ。」
「私は魔法の絨毯でアラジンと空の散歩を楽しんで居たら、砂嵐に巻き込まれて、気付いたら此の世界に来ていました……」
「月に戻って、退屈な生活をしてたら、ブラックホールが現れたから其処に飛び込んだら此処に居たんだよね~~。」
「王子との結婚式の日に、私に媚を売って来た義姉二人と継母をハイデルンエンドで爆殺したら、何故かこの世界に転移していた……そして、私達全員がアテもなく彷徨っていた所で白雪に声を掛けられて、彼女が率いるレジスタンスのメンバーになったんだ。」
「異世界転移で、レジスタンスのメンバーとかなろう系の主人公みたいだな。」
そして、白雪姫以外の姫ズは、まさかの異世界転移をして刀奈が率いるレジスタンスのメンバーになったとの事だった……一夏の言うように、なろう系主人公にあるあるな設定な感じだ。束がその辺を意識したのかどうかは知らんけど。
「なろう系の主人公って何?」
「あ~~、気にしないでくれ。ちょっとした妄言だから。」
「そうなの?
でも、貴方の強さは素晴らしいわ織斑君。貴方ほどの人が仲間になってくれると言うのなら、私達にとっても心強い事この上ないわ……力を貸してくれるかしら?」
「勿論ですよ、白雪様。」
そんな事は関係なしに、刀奈が『力を貸してくれるか?』と聞けば、一夏は迷う事無く頷き、刀奈の手を取って其の手にキスを落とす――手の甲へのキスは、『忠誠』の意味があるので、一夏は此の世界での刀奈に忠誠を誓ったのである。
だが、これを皮切りに、他の嫁ズから『白雪ばかりずるい!』と言う意見が勃発して、一夏は刀奈以外の嫁ズの手の甲にキスを落とす事になった……記憶に蓋をされていると言っても、一夏の一人占めはNGであるらしい。刀奈が徹底していた『嫁ズの平等』はバッチリ生きてるって事だな。
だが、其れは兎も角として、刀奈達と仲間になれたと言うのは一夏にとっても大きい事だろう――刀奈達の記憶の蓋さえ開けてしまえば、後はゲームをクリアするだけの事なのだらね。
まぁ、この後で一夏は、好感度上昇イベントである『マッサージ』を行う事になり、嫁ズは全裸でタオルを被っている状態だったので、少~しばかり理性が吹っ飛び掛けたが、其処は鋼のメンタルで乗り切った!
特に刀奈とロランの声は特別色っぽかったので、一夏も股間の雪片弐型が零落白夜しかけたのだが、其れは何とか理性と根性で押し留めたのであった。……思春期真っ盛りの男子でありながら、己の性欲をパーフェクトに抑え込むとはマジで賞賛モノであるわ。陽彩だったら、こうはならなかっただろうな。
その後、一夏はレジスタンスの拠点になっている森の洞窟に案内され、刀奈が『新しい仲間よ』と紹介して歓迎されてレジスタンスのメンバーになった――だが、レジスタンスメンバーになったのは、言うなればスタート地点に立ったに過ぎない事であり、本番は此処からなのである。
そして一夏はゲームをクリアするだけでなく、嫁ズの記憶の蓋を開けると言うMissionもあるのだ……ゲームは、まだ始まったばかりだが、一夏ならばきっとクリアする事だろう――余程の『クリア不可能要素』がない限りは。
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一夏が刀奈率いるレジスタンスに参加したのと同じ頃、街にある城の玉座では、白雪姫の母である女王が一組の男女と対面していた。
魔法の鏡が、白雪姫が生まれてからと言うモノ、『世界で一番美しい者は誰?』と言う問いに対して『白雪姫』と答えたのが腹立たしく、白雪姫を城から追放し、更に賞金をも掛けて賞金首に始末させようとしても、賞金稼ぎは悉く返り討ちにあっただけでなく、白雪姫は仲間を集めてレジスタンス組織を結成しているのだ。
其れを聞いた女王は、レジスタンス組織の中心人物の事を調べ上げて、其れ等にも白雪姫同等の賞金を懸けたのだ――白雪姫、ベル、ジャスミン、かぐや姫、シンデレラが賞金首になっているのには、そんな理由があったのである。
『此のままでは自分が殺されるかもしれない』と思った女王は、腕が良いと噂の暗殺者を城に呼び出し、白雪姫達の抹殺を依頼している真っ最中だと言う訳だ。
レジスタンス組織にたった二人でと言うのは、些か無謀かも知れないが、組織全員でなく中心人物――特にリーダー格の白雪姫さえ仕留める事が出来れば、組織は大幅に弱体化するので、寧ろ大人数で挑むよりも効率が良いのだ。
「街の賞金稼ぎでは頼りにならないわ……矢張り賞金稼ぎ風情では、私の娘を止める事は出来ないと言う事ね。
だからこそ確実に仕留める為に貴方達を雇った訳だけれど……方法は問わないわ。確実に白雪達を抹殺してくれるのならばね……最強の暗殺者さん。」
「私達を雇ったのは、中々良い判断だ女王様。
此れまで、私達がターゲットを仕留め損ねた事などない。ドレだけ逃げても、最後には確実に其の息の根を止めて来たからな。」
「我は拳を極めし者……依頼内容は正直如何でも良いが、死合うに値する相手が居るのならば是非はない。」
でもって、白雪姫の母親である女王様はまさかのスコールで、そのスコールが雇った暗殺者は千冬と稼津斗であった……現実世界では『人類史上最強のカップル』であるこの二人をヒットマンとして雇うとか、女王様の白雪姫達への殺意が冗談無しってレベルでぶっ飛んでる事この上ないわ。
ラスボスはスコール扮する女王様になるのだろうが、ラスボスに到達する前にはラスボスよりも遥かに強い中ボスを撃破しなくてはならないようだ……束が開発したゲームは中々の鬼難易度であるみたいだな。……クリア難易度は高めだが、頑張ってクリアしてくれよ一夏!!
To Be Continued 
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