振替休日も終わった火曜日、つまりは今日から通常の授業が再開される訳だが、陽彩は此れまた何とも無気力な状態で目を覚ました……チート特典のチートな肉体
とチートな頭脳(実は劣化版)を失っただけでなく、シャルロットが自分の元から去ってハーレムも瓦解したと言う事実を突き付けられて、昨日は略丸一日無気力状態
で過ごしていたのだが、未だ眠りから目を覚ますだけの力は残っていたようだ。
だが、目を覚ました陽彩は、今日もまた箒が居ない事に違和感を覚えた。


「(今日も箒が居ねぇだと?って言うかそう言えば昨日は丸一日居なかったよな?……若しかして外泊でもしたのか?)」


だが、其れも『若しかしたら外泊したのかもしれない』と考えて、陽彩は制服に着替え、食堂で朝飯を食べて登校したのだが、一組の教室に入っても箒の姿はなく、そ
れだけでなく、セシリア、鈴、ラウラの姿も見えなかった。
此れには陽彩もオカシイと思い、クラスメイトに『セシリア達は如何した?』と聞くも、だれも其れに対しての明確な回答は持ち合わせていなかった……この時点で、生
徒が簡単に知る事の出来ない情報だと言うのは言うまでもないわな。


「全員席に着け。此れよりホームルームを始める。」


其処に担任の千冬と副担任の真耶が教室に入って来てホームルームに。千冬の出席簿アタックを喰らいたくは無いので、全員が速攻で着席した……問題児揃いの
一組ではあるが、其れだけに千冬の出席簿アタックを喰らっているのでその威力は身をもって知っていると言う事なのだろう。
……その学習能力を普段の勉学やISの訓練に生かしていたら一流のIS操縦者に成れていたのではないかと思えるので、少々残念である……如何に恵まれた才能
があったとしても、其れを磨く機会がなければ宝の持ち腐れって事だわな。


「まず最初に皆に伝えておく事がある。
 セシリア・オルコット、凰鈴音、ラウラ・ボーデヴィッヒの三名は、昨日付で本国への送還が決定され、今は夫々の大使館に身柄を預けられている。そして本国送還と
 同時にIS学園からは退学処分となる。」

「!?」


んで、ホームルームが始まった直後に千冬が陽彩にとっては原爆と水爆を合わせた程の破壊力を持つであろう爆弾を投下!!
昨日、シャルロットから絶縁を言い渡されて、ハーレムが瓦解してしまった陽彩からすれば、追撃となる他の嫁ズの本国送還処置と言うのは絶望するしかなかっただ
ろう――束が『強制送還が検討されている』とは言っていたが、『検討』では終わらず、『決定』されてしまったのだから。


「お、織斑先生、セシリア達が居ないのは分かったけど、な、何で箒も居ないんですか!?アイツ昨日も居なかったし帰って来てないんですけど……」

「篠ノ之か……奴は専用機を持っているにも拘らず、国はおろか何処の企業にも所属していないのでな、其れを重く見た政府が『代表候補生強化合宿』に参加させる
 事を決め、昨日からその合宿に参加している。
 合宿に参加する代わりにIS学園での単位は免除されるが、果たして其れに見合う力を得る事が出来るかは篠ノ之次第だ。――篠ノ之の今の実力を考えると、卒業
 までに訓練終了と見なされるだけの実力を身に付けられるか怪しいが。」

「な、なんだとぉ!?」


更には箒まで居なくなった事に陽彩の絶望はマックスに達する……僅か一日で自分のハーレムが完全瓦解したとなれば動揺するのも致し方あるまいて。――まぁ、
コイツがハーレムなんてモノをガチで作れる筈がないから、此れはある意味で当然の結果だったと言えるだろう。
ハーレムもとい、一夫多妻は一夏の様にパートナーの女性を全て平等に愛し、パートナー達の女性も互いに平等であろうとして初めて真に成り立つモノなのだから。


「(セシリアと鈴とラウラは本国送り、箒は卒業までに終わるかどうかも分からない強化合宿……此れじゃあ、ホントに俺のハーレムは!
  い、否まだだ!離れ離れになっても婚約状態である事に変わりはないんだから、婚約状態を理由に此方に連れ戻す事は出来る筈だ!俺には未だ『世界で二人し
  か居ない男性IS操縦者』って言う立場がある!そんな俺の要求だったら、簡単に突っぱねる事は出来ない筈だぜ!)」


其れでも、現在のハーレムでシャルロット以外とは『婚約状態』にある事を思い出し、其れを理由にして自分が交渉すれば、四人を取り戻せるのではないかと考える。
こう言う事に関しては恐ろしく頭の回転が速いようだ。


「あぁ、其れから正義。お前は、篠ノ之、オルコット、凰、ボーデヴィッヒの四人と婚約状態になっていたと思うが、日本政府をはじめ、イギリス、中国、ドイツの政府がそ
 れを白紙撤回して来た。要するに婚約破棄だ。」

「え?……はぁぁあぁぁぁ!?こ、婚約破棄って何で!?」

「『碌な実力を持っていない者を、貴重な男性操縦者の婚約者としていては、他国からのバッシングの材料になり兼ねない』だからだそうだ。
 だが、『男性操縦者重婚法』があるので、お前は改めて将来のパートナーを選び直さなければならない訳だ……まぁ、以前に各国が送って来た見合い写真の総数
 は、織斑兄と比べれば少ないが、其れでも選択肢としては充分過ぎるほどだから其処から選べば良かろう。
 あぁ、其れと各政府からは婚約破棄による慰謝料が払われるらしいから受け取っておけ。四ヶ国からの慰謝料ともなれば総額八桁は行くんじゃないか?」

「そ、そんなぁぁぁあぁ!!」


だが、此処で最後の頼みの綱である『婚約状態』が白紙になった事を千冬から告げられ、陽彩の希望は完全に断たれてしまった――婚約破棄による慰謝料の総額
は相当なものになるだろうから、期せずして一財産出来た訳だが、財産を得た喜びよりも、ハーレムが完全粉砕されてしまったショックの方が大きいだろう。
一応、各国から送られて来た見合い写真から新たに五人の相手を選んでハーレムを再構築する事は可能だが、新たな候補は『原作』にも登場していない名も知らぬ
女性ばかり……原作ヒロインとイチャコラする事を目的にしていた陽彩からしたら名もなきモブを選ぶに等しいだろう。
そして、此れもまた原作知識があるが故の弊害と言えるだろうな――だって、原作知識がなければ、初めて会う女性と交流を重ねて交際に至る事にも抵抗はないの
だから。と言うか、男女交際なんてのはそもそも、『名前も知らない相手に一目惚れ』から始まるケースもあるのだから。
原作ヒロインしか見てなかったから、他の女性との交際には何の魅力も感じないのだ陽彩は……中学時代には結構とっかえひっかえしていたが、其れはあくまで『遊
び』でしかなく、生涯添い遂げるパートナーは一期ヒロイン以外には居なかったのだろう。……遊びでと言う時点で大分最低だけどな。

何にしても、此れで陽彩はチートな肉体と頭脳と一期ヒロインと言う、此れまでの自分のステータスとなって居たモノを一瞬で全て失ってしまった訳だ。一応、ISを動か
す事は出来るし、ダブルオーライザーも手元にあるが、超鬼スペックのダブルオーライザーをチート無しで十全に動かす事は不可能だと思われるので、一夏以上の容
姿以外に誇れるモノは無くなってしまったのだ。
努力して得たモノですら、失う時には一気に失ってしまうのだから、努力しないで得たモノなんぞ、失う時は其れこそ一瞬だったと言う事なんだろうな。

余りのショックで放心してしまった陽彩だが、授業が始まってもその状態だったため、千冬の出席簿アタックを一時間の間に五回も喰らう事になり、頭に『クリボー五兄
弟』ならぬ、『タンコブ五兄弟』を誕生させる事になったのだった。












夏と刀と無限の空 Episode50
『Friedlicher Alltag ohne Ersatz』










陽彩が千冬からの出席簿アタックを喰らいまくっていた一時限目、一夏達四組の授業は体育であり、本日は体力テストの一日目!
『体力テストって一学期にやるんじゃないの?』と思うだろうが、IS学園は『IS操縦者の育成機関』なので、全国共通の体力テストとは別にIS学園独自の体力テストが
学期毎に行われているのだ。(一年生は全員、二年生以降は競技科をはじめとした、実際にISを動かす部門に限定。)
テストは二日間の日程で行われ、一日目の今日は体育館で、『握力』、『背筋力』、『垂直飛び』、『反復横跳び』、『立位体前屈』、『20mシャトルラン』と言うメニュー。
『長座体前屈』ではなく、『立位体前屈』である所に拘りを感じる。

さて、体育の時間と聞いて気になるモノがあるのではないだろうか?其れはズバリ『体操服』だ!
制服同様、体操服も各校の特色が現れているモノだと言えるのだが、IS学園の体操服は、今年から新たに採用された男子の物は割とオーソドックスな半袖と短パン
なのだが、女子の体操服は薄いピンク色の半袖シャツに、今や絶滅危惧種となったブルマーの組み合わせなのだ!
『令和の時代にブルマーかよ!?』と言うなかれ!ブルマーこそが見せパンの元祖であり、大人気格闘ゲーム『ストリートファイター』シリーズ屈指の人気キャラである
『さくら』もブルマーを穿いていたからこそスカートの中がバッチリ見えるモーションの『大キック』が許されているのだから!ブルマー穿いて無かったらNGよ?

……コホン、少し暴走してしまったが、IS学園の女子の体操服は色々とレアな訳だ。ご丁寧に学年ごとにブルマーの色分けがされてる訳でね。(今年は一年生が赤で
二年生は青、三年生はオレンジである。)

それはさて置き、先ずは準備運動なのだが……


「ホイっとな。」

「スタッとね。」


当然の様に組になった一夏と刀奈は、『背中合わせになって腕を組んで背を伸ばす運動』で、互いに背中で一回転して着地すると言う事をやっていた……準備運動
の効果は充分にあるのだが、態々アクロバットをする必要はない気がする――或は此れもまた、『魅せる』事の一貫かもな。


「簪、私達もアレやらないか?」

「円夏の身長が後5cm伸びたらね。」


円夏と簪の妹ズも同じ事をしようとしていたが、円夏の身長が簪よりも大分低いために見合わせる事になった……一夏と刀奈の身長差は8cmで、円夏と簪の身長差
も同じく8cmなのだが、簪は自分よりも身長の低い円夏に持ち上げられる事が不安だったのだろう。
円夏の身体能力の高さは分かっていても、其れは其れとした不安ってモノはあるからな……自分よりも体格的に劣る相手にお姫様抱っこされるような感じなのかもし
れないな。

そんな準備運動が終わり、六組に分かれての体力テストがスタート!
織斑兄妹と更識姉妹は同じ組となり、先ずは握力測定からだ。


「ふん!」

「えい!」


先ず円夏と簪が測定し、円夏は68㎏で簪は65kgと言う結果に。二人とも女子高生の平均値を大きく上回っただけでなく、並のIS操縦者の女性をも上回る結果を叩き
出して見せた。此れも不断の鍛錬の賜物だと言えるだろう。


「一撃必殺!」

「フリッツ・フォン・エリック!」


だがしかし次に測った一夏と刀奈の握力は其れをも上回っていた。
刀奈の握力は『95kg』を表示し、謎の掛け声を発した一夏の握力は、握力計の針をフッ飛ばしていた……握力計の張りを吹っ飛ばす=握力は最低でも300kg以上と
言う事になるわ――『鉄の爪』として恐れられた、超大物ヒールレスラーである『フリッツ・フォン・エリック』に匹敵する握力が有る訳だな一夏は。……其れ以上に一夏
がエリックを知ってる事の方が驚きだがな。因みに一夏と刀奈の握力は現時点で高校生最強です。

その後も一夏と刀奈は『背筋力』、『垂直飛び』、『反復横跳び』、『立位体前屈』で次々と高校生の記録を塗り替えて行った……背筋力は一夏が350㎏、刀奈が200
kg、垂直飛びは一夏が70cm、刀奈が80cm、反復横跳びは一夏が九十回、刀奈が八十三回、立位体前屈は一夏がマイナス5cmで刀奈がマイナス12cmと言う感じ
である。

そして本日最後の種目である『20mシャトルラン』なのだが、円夏と簪は四十往復で終わったのだが、一夏と刀奈は未だ走り続けており、遂に五十往復を達成した!


「負けないぜ刀奈!」

「私だって負けないわよ一夏!」


結局一夏と刀奈のシャトルランは授業終了まで続き、互いに此れまでの記録を大幅に上回る百往復を達成したのだった――そして、此れだけなく、ロランとヴィシュヌ
とグリフィンも後の授業で刀奈と同のレベル好成績をマークして体育教師を驚かせたのだった。
クラリッサは生徒ではないので、体力テストを受ける義務はないが、試しに受けてみたところ、プロのIS競技者を軽く上回る成績だった。
参考までに、ロラン、ヴィシュヌ、グリフィン、クラリッサの記録はと言うと……


・握力
ロラン:80kg   ヴィシュヌ:88kg  グリフィン:93kg  クラリッサ:100kg


・背筋力
ロラン:210kg  ヴィシュヌ:190kg  グリフィン:240kg  クラリッサ:192kg


・垂直飛び
ロラン:77cm  ヴィシュヌ:87cm  グリフィン:70cm  クラリッサ:80cm


・反復横跳び
ロラン:八十五回  ヴィシュヌ:八十三回  グリフィン:八十八回  クラリッサ:九十三回


・立位体前屈
ロラン:マイナス9cm  ヴィシュヌ:マイナス23cm  グリフィン:マイナス11cm  クラリッサ:マイナス10cm


・20mシャトルラン
ロラン:九十八往復  ヴィシュヌ:百一往復  グリフィン:百三往復  クラリッサ:百十一往復


とこんな感じだ。
取り敢えず一夏と一夏の嫁ズは相当に高い身体能力があるのは間違いないわな……流石は選ばれし神の子である一夏と、その嫁ズだわ。ありとあらゆる神の寵愛
を受けてる一夏だけでなく、その嫁ズにも神の祝福はあるから、この結果もまた当然だって言えるかもしれないわな。
因みに乱の成績は平均以上だったのに対し、コメット姉妹はそこそこの成績だったが、コメット姉妹は本来小学生である事を考えれば、高校生レベルでそこそこの成
績が残せただけでも大したモノと言えるだろう。
序に一組の体力測定の結果だが、クラスの平均値は一年生の全クラス中で最低であり、特に陽彩に至っては一学期の体力測定の時の半分以下の記録になるって
言う結果だった……束によってチートが無くなった陽彩の体力は、平均を下回るモノになってしまったらしい。
余りの結果に『調子悪いの?』とクラスメイトに心配された陽彩だったが、今の陽彩には『あぁ、大丈夫。』と生返事を返す位の気力しか残っていなかった。ハーレムの
崩壊は、それ程までにショックだったのだろう。
ま、陽彩がドレだけのショックを受けていようとも、其れは実に如何でも良い事なのは間違いないけどな。








――――――








そんなこんなで午前中の授業は終わって此れより昼休みであり、一夏達はランチタイムのお決まりの場所となっている屋上に向かって居たのだが、その途中で陽彩
と擦れ違う事に。
一夏は、『絶対命令の接触禁止を無視して何かして来るんじゃないか』と警戒したが、陽彩は何もせずに一夏達と擦れ違って食堂に向かって行った。


「今の、正義だよな?」

「そう、だと思うわ。」

「少なくとも顔は同じだったよ。」

「ですが、雰囲気はまるで別人ですよ?」

「其れだけ一夏に負けたのがショックだったんじゃないの?後は、丸坊主にされたショックとかかしら?」

「ショックを受けてはいるが、其方ではないよ……ラウラ・ボーデヴィッヒをはじめとした、彼のハーレムメンバーは篠ノ之箒とシャルロット・デュノアを除いて本国への強
 制送還と退学処分が決定したのだ。
 己のハーレムが瓦解した事にショックを受けているんだよ。」

「はぁ?そんな事になってたのかよ?……因みに篠ノ之は如何なったんだ?」

「奴は、代表候補生強化合宿とやらに強制参加だ。卒業までに学園に戻って来られるかは分からないらしい。」

「あらあら……何て言うか、此れまでやって来た事のツケが一気に回って来たような感じね?」

「マッタクだな。
 でも、其れは確かにアイツにしてみればショックだろうな……ちょいとショック受け過ぎな気もするけど。」

「同情するかい、一夏?」

「いや、マッタク。」


デスヨネー。
取り敢えず、『ハーレム崩壊』のショックを受けた陽彩は、一夏から見ても『今のは本当に正義か?』と思ってしまう様な状態だった。
此れまでは顔を合わせる度に絡んで来た陽彩だが、今日の陽彩は絡んで来るどころか、そもそも一夏と擦れ違った事にすら気付いていないようだったのだから。
……絡まれるのは鬱陶しい事この上ないが、逆に絡んで来ないと来ないで其れは其れで何となく妙な感覚を覚えてしまう。まぁ、来ないと来ないで寂しいとかそう言う
訳ではないのだが、『何か企んで居るのではないか?』と勘ぐってしまう訳だ。


「何だか生気を全く感じなかったけど、其れが不気味ね?……まさか、ゾンビになって襲ってきたりしないわよね?」

「ゾンビって、彼はまだ生きてるぞ刀奈?だが、仮にゾンビになって襲って来た時には、私がグレネードで対B・O・Wガス弾二連射で体力を四分の一にしてから、硫酸
 弾でトドメを刺すさ。」

「生身の人間には全く効果のないガス弾を、何故束博士は搭載したのでしょうか?」

「ヴィシュヌ……束さんのやる事に疑問を持っちゃダメだ。束さんは世紀の大天才だから、俺達とは色々と感覚が違うんだよ。天才のやる事に疑問を持つ無かれだ。
 ぶっちゃけ束さんのやる事に一々疑問を持ってたら突っ込みが追い付かないからな。」

「うわ、めっちゃ納得!」

「彼女の天災っぷりは、二十世紀最高の天才と言われたアルバート・アインシュタインをも上回るかも知れないな……間違いなく死後は、其の脳は防腐処理をして保
 存されるだろうな。」


まぁ、何か企んで居たとしても大した問題ではあるまい。だって、一夏も嫁ズもめっちゃ強いから陽彩如きは簡単に返り討ちに出来るからね――と言うか、転生特典を
失った陽彩なんぞ、下手したら一夏のデコピン一発で数メートル吹っ飛ぶかもだ。転生特典の無くなった陽彩は、『木に登れなくなったモンキャー(誤字に非ず)』みた
いなモンだからね。

さて、屋上に到着した一行は楽しい楽しいランチタイムだ。
本日の一夏特製の弁当のラインナップは、五目寿司を甘辛く煮た油揚げに詰めた五目稲荷寿司、サーモンのムニエルチェダーチーズソース掛け、根菜とアンチョビの
マリネ風、ホウレン草とツナ入りのオムレツ、豆もやしのパリパリ揚げだ。
相変わらず栄養バランスが取れているだけでなく、中々に凝ったメニューだ……五目稲荷の揚げに至っては、濃い口醤油と砂糖で煮た江戸前の関東風と、薄口醤油
と少なめの砂糖と濃い目の出汁で仕上げた上品な京風の二種類を使ってる訳だからね。


「簪君、此れは何かな?」

「鳩のマムシ(丸焼き)。此れもエジプト料理だって調べたら出て来た。」

「確かに此れはエジプト料理だけれど、どちらかと言うと紀元前のファラオが食べていた御馳走なのだが……其れを調べて再現した君に脱帽だよ簪君。と言うか、よく
 丸ごとの鳩肉なんて手に入ったね?」

「インターネットの最深部のダークウェブに潜り込む事が出来れば大抵の物は手に入る……其れこそ、お金さえ出せば大型軍事兵器以外の全てを手に入れる事も出
 来るから。
 因みに、バズーカ砲はアメリカドルで千ドル(日本円にして約十九万円)だった。」

「意外に安いな?……ではなく、ダークウェブなんてモノにはアクセスしないでくれよ簪君?ネットの奥の奥の最深部には何が有るのか分からないのだから。」

「大丈夫だよ夏姫、もしもネットを通じて私に何かしようとしたら、逆に私の方から超絶強力なウィルスを送り込んで、相手のコンピューターを抹殺するだけだから。『死
 のデッキ破壊ウィルス』ならぬ、『死のコンピューター破壊ウィルス』だよ。」

「うん、君ならダークウェブにアクセスしても大丈夫な気がして来たよ。」


その一方で簪は夏姫と良い感じだった……まぁ、ダークウェブにアクセスするってのは危険極まりない行為だが、束から色々と電脳関係を教わっている簪ならば電脳
世界のアンダーグラウンドと言われてるダークウェブにアクセスしても大丈夫だろう。
仮にダークウェブの住人にスマホやタブレットのIDを特定されて、何らかの攻撃を受けても、簪には其れに即座にやり返せるだけの技術が有る――簪が、自分で言っ
てる事だが、簪のスマホやタブレットには違法なアクセスを掛けて来た相手に対して自動で発動するウィルスが仕掛けられてる訳だからね。

其れは其れとして、何時も通りの賑やかなランチタイムだったのだが――


「此処にいたのか一夏。探したぞ?」

「千冬姉?」


其処に千冬が参上だ。一夏に何か用事があるらしい。


「如何したの?俺に何か用か?」

「お前に用がある。
 実はな……カヅの大好物である唐揚げと卵焼きを夏休みから今日まで毎日の様に練習して来たのでな、その出来をお前に判定して貰いたいのだ。率直にお前の
 意見を聞かせてくれ。
 改善点が有れば其れを教えて欲しい。」


其の用とは、自分が作った料理を一夏に判定して欲しいと言うモノだった。
稼津斗と交際を始めてから、千冬は己の家事スキルを向上させる為に努力を重ね、此れまでからっきしだった料理の腕も上昇し、最近では『取り敢えず食べられるレ
ベル』の料理も出来るようになって来た。
パーフェクト主夫である一夏したらマダマダなのだが、其れでも日々努力していると言うのは評価出来るだろう――逆に言うなら、其れだけ千冬は稼津斗の事を本気
で愛してるって事だわな。愛の力はマジ偉大ですわ。


「確かに唐揚げと卵焼きはカヅさんの好物だから巧く作れるようになりたいよな……分かるぜその気持ち。
 それじゃあ、いただきます…………うん、卵焼きは味は合格点だけど、渦巻き模様が不鮮明だからちゃんと卵に焼き色を付けてから次の卵液を追加した方が良いと
 思う。
 唐揚げは、味はカヅさん好みの醤油とニンニクのガッツリとしたモノだけど、衣が水分吸ってヘタってるのがマイナス点だな?冷めても衣が水分吸ってヘタらないよう
 にするには、一度目は百六十℃くらいの油でじっくり揚げて、一度油から上げてから、今度は百八十℃の高温の油で一気に揚げて余計な水分を飛ばす『二度揚げ』
 をすると良いぜ?」


千冬の卵焼きと唐揚げを食べた一夏はダメ出しをしつつも、評価すべき所は評価して、改善点は何処で如何すれば良いのかを分かり易く教えてくれるので、先生とし
ては可成り優秀だと言えるだろう。料理のレシピ本でも出したら、絶対に売れるんではなかろうか?
まぁ、『千冬姉にはカヅさんと幸せになって欲しい』との思いが有るからこそ、一夏も千冬の家事スキルを向上させる事に熱が入るのかもしれないが。良い姉弟愛だ。


「成程、二度揚げか……だが、其れだと時間が掛かってしまうな?」

「ならもっと簡単に、もう下味付ける段階で粉と油も一緒に漬け込んで、後はグリルで中火で焼いた後に強火で仕上げれば揚げるよりも遥かに手間要らずだぜ?」

「……其れは唐揚げと言うのか?」

「最近のスーパーとかデパ地下のお惣菜で、スチームコンベクションレンジで作った『揚げてない竜田揚げ』とか言う謎なネーミングの商品が有るから良いんじゃね?
 其れに、食べた感じは普通の唐揚げと変わらないから、言わなきゃ分からないって。」

「ふむ……ではその方法も覚えておこう。私にはそちらの方が合っているだろうからな。」


姉弟の会話も和やかに、ランチタイムは進んで行く。まぁ、千冬の料理を評価する一夏を見て、円夏も自作した弁当のおかずも一夏に評価して貰うと言う、何とも微笑
ましい事があったのだが。(因みに円夏が一夏に味見して貰ったのは一口チキンカツ……姉妹揃って鶏の揚げ物とは凄い偶然だな。)


「そう言えば、ちゃんと聞いた事はなかったが、お前達は一夏の何処に惚れたんだ?此れは刀奈にも聞いた事はなかったな?」


と、此処で千冬が嫁ズに『一夏の何処に惚れたのか?』と聞いて来た。
姉として、一夏と嫁ズの関係は認めているし、彼女達ならば一夏を任せられると思って居るが、『何処に惚れたのか』と言うのは気になるのだろう――惚れる要素とな
りえるモノが多数ある(イケメン、強い、紳士、主夫力限界突破、空気読める等々。)からってのもあるかも知れないが。


「そう言えば、付き合ってる事は言っても、何処に惚れたのかは言ってませんでしたね?
 私は一夏から告白されたんですけれど、一夏が告白してこなかったら私の方から告白してましたよ……何処に惚れたのかと言われたら、誘拐された時にも物怖じし
 ないメンタルの強さ、ISを動かせると分かってから直向きに努力を続けるその姿に自然と惹かれて行きました。一夏に告白された時は、本当に嬉しかったですよ。」

「私はクラス対抗戦で彼と戦った時かな?
 クラス代表決定戦の時に『強い』とは思っていたけれど、実際に戦ってみるとその強さは私の予想を遥かに超えていた……嗚呼、これぞ正にサムライの強さと言うモ
 ノだと己の身で感じたよ。
 多くの百合を虜にして来た私だけれど、そんな私が彼の虜になってしまうとはね。」

「私は、ボーデヴィッヒにボロボロにされた時ですね……私とグリフィンがボロボロにされた事に本気で怒ってくれた一夏を見て、『私達の事を本当に大切に思ってくれ
 ているんだ』と思いまして。
 其処からはもう、坂を転がり落ちるようにです。」

「私もヴィシュヌと同じかな?あの時の一夏は誰よりも頼もしく見えたから……一夏の背後に、若干『殺意の波動に目覚めた拳を極めし者』が見えた気がしたけど。」

「私は見合いデートの際に、彼の人柄を知り、そして自然と惹かれていました。気遣いは出来るし、私の趣味にも付き合ってくれると言うのも嬉しかったですしね。」

「成程、良く分かった。」

「……改めて言われると、なんか気恥ずかしいけどな。」


嫁ズ五人、夫々に一夏に惚れた理由は割とハッキリしてるみたいだな。
『人を好きになるのに理由はない』とは言うが、ちゃんと理由はあるモノだよなぁ……一目惚れにだって、何かしらの惚れた理由ってモノが有る訳だからな。――一目
惚れの場合、一時の感情で、『惚れた』んじゃないくて『惚(ボ)けた』場合もあるけどな。惚れると惚けるは同じ字ってのはなんだかなぁ。


「改めて、お前達なら一夏を任せられると実感したよ。一夏を、宜しく頼む。」

「「「「「はい!」」」」」

「そして一夏、お前も彼女達を必ず全員幸せにしろよ?其れが、お前の義務だからな?」

「分かってるよ千冬姉。言われなくてもその心算さ。」


千冬の頼みに嫁ズは迷わず力強く返事をし、千冬の言った事に一夏も迷わず真っ直ぐに返す……本当に一夏と嫁ズはお互いに愛しあってるんだな。真に愛し合って
るからこそ、迷いなく答える事が出来る訳だからね。真の愛があれば、何も怖いモノはないのかもな。


「時に円夏、お前は誰か良い人は居ないのか?……IS学園に居ては難しいかも知れないが、休日に出掛けた時に『良いな』と思う男は居たりしないのか?
 私も一夏も相手が居るが、お前には相手が居ないと言うのは少し不安になるぞ?……将来、行かず後家になってしまうのではないかと思ってな。」

「姉さん……私は兄さん以上の男でなければ付き合う気は全く無い!」

「一夏以上の男など早々居ないだろうに……唯一その存在である稼津斗は私の恋人だからな……こうなったら、もう相手が男でも女でも構わん!兎に角誰でも良い
 から相手を見つけて私を安心させろ!」

「千冬姉、其れ逆に問題ねぇか?」

「大丈夫だ一夏。
 IS学園は女子高だった故に、私が勤務し始めてから今までに少なくとも十五組の百合カップルが存在してたからな……今年で言うのなら、ミューゼルとサファイアの
 カップルと、蓮杖と更識妹だからな。其処に愛があれば性別や年齢は関係ないのかも知れん。」

「そう言えば、オータムさんも同性愛者だったな。」


……円夏は、とってもブラコンです。既に分かってた事だけどとってもブラコンです。
野郎では相手が居ないだろうから、『いっそ同性でも良い』って言っちゃう千冬も大概だとは思うが、矢張り円夏に決まった誰かが居ないと言うのは心配なのだろう。


「同性も有りなのか?ならば……静寐にモーションを掛けてみるか。アイツは中々良い奴だからな。」

「まさかの鷹月さんかよ!」


……はい、目出度く円夏も百合の扉を開いたみたいです。って言うか、まさかの静寐かーい!
まぁね、彼女は四組の生徒の中でも優秀だし、ISの操縦技術も専用機を持ってない一般生徒の中では一年生の中では最高レベルだから円夏が注目するのも当然と
言えるかも知れないけどな。

まぁ、何にせよ本日のランチタイムは賑やかで楽しいモノだったのは間違い無いだろう。








――――――








そしてその夜。


「はい、如何も織斑一夏です。」

「クラリッサ・ハルフォーフだ。」

「えー、本日はですね、Twitterの方で、『ゲームのバグ、小ネタがあったら教えてください』ってツイートしたら、思った以上にリプとDMが来たので、其の中から『此れだ
 』って思うモノを実際にプレイして検証して行きたいと思います。」

「バグと小ネタか、結構ありそうだな。」


一夏とクラリッサは本日の動画を撮影していた。
Twitterで募集したネタをやるってのもある意味での定番なのだが、ゲームのバグや小ネタを実際にプレイして検証するってのは実はなかった動画なので、今回の動
画も伸びるかもな。


「先ずは小ネタ。『ストⅡシリーズにおいて本田とザンギはバイソンに対して絶対有利がつく』か……なんかね、本田もザンギも弱パンチ連打してるだけでバイソンを封
 殺出来るらしいんだよ。
 其れでは早速検証して行きましょう。」

「対戦モードで検証しよう。私がバイソンで、一夏が本田とザンギだな。」

「OK。そんじゃ始めるか…………って、本田は百裂張り手やってるだけでバイソンは何も出来なくなるのかよ!?
 張り手打ちながら移動出来るダッシュとターボはマジでバイソン涙目だろ!つか、本田の張り手とザンギの弱パン連打で全部の必殺技が潰されるバイソンは本当に
 ボスの一角か!?」

「ボクサーは力士とプロレスラーには勝てないと言う事なのかも知れんな……少なくとも異種格闘技戦でボクサーがプロレスラーに勝った事は只の一度もないから。」

「言われてみれば確かに……力士はプロレスラーよりも強いって言われるし、力士の張り手は800㎏とも言われてるからな?……ボクサーのパンチよりもずっと強い
 、力士の張り手を喰らったらボクサーは一撃でKOされちまうか。」


ストⅡターボの本田は、開始直後に歩いて間合いを詰めてから前入れながらパンチボタンの連打で全試合パーフェクト余裕ですからね――百裂張り手がヒットしたら
気絶を挟んでの十割だし、ガードされてもガードの上から最後まで削り殺せるからなぁ……相撲取りマジ強いです。


「次はバグ技か。
 ポケモン金銀で、ポケモンに持ち物を持たせた状態でボックスに預け、ボックス移動をして『電源を切らないで下さい』って出てるうちに電源を切ると、移動しようとし
 てたポケモンが分裂して、持ち物が増えます、だって。」

「うん、此れは出来るな?
 バクフーンに『じしん』のわざマシンを持たせてバグ技を試したら、バクフーンが二体に増えて、わざマシンも二つに増えた。此れを使えば、ゲーム中に一つしか入手
 出来ないわざマシンも量産出来るな。」

「マジか。でもこのバグ技はクリスタルでは出来なくなってるみたいだな。」

「クリスタルではデバックされたのだろう。ゲームの不具合と言うのは、メーカーにとっては恥だからね。」

「ユーザーとしては面白いけどな。」


その後も色々なバグ技や小ネタ、挙げ句の果てにはセリフの空耳まで取り上げて今回の動画も中々に良いモノになるだろう……空耳情報でストⅤのギルのニードロ
ップのボイスが『駿河湾!』に聞こえたのには一夏もクラリッサも腹筋ブレイクされたが。超気合の入った『駿河湾!!』は笑えるけどね。


「ヤバい、今回の動画は中々に笑えるモノになったなぁ?バグ技とか小ネタってのは結構あるもんだな?空の軌跡3rdの嵌め戦術とかマジ驚いたわ。あれ使えばクリ
 ア楽勝だろ?絶対に負けないって。」

「アレは外道戦術と言われているからな……時に、今日の動画は此れで終わりか一夏?」

「いや、ネタを検証するだけってのは味気ないから、本日のシメはストゼロのドラマティックバトルのレベル8をノーコンティニューでクリアして終わりにしようぜ。クラリッ
 サはリュウとケン、どっち使いたい?」

「では私はリュウで。」

「なら俺はケンだな。」


動画のシメは懐かしい『ストリートファイターZERO』の隠しモードである『ドラマティックバトル』!
対戦でリュウとケンを隠しコマンドを入力してから選択する事で遊ぶ事の出来るこのモードは、リュウとケンで共闘出来ると言うだけでなくBGMが、『愛しさと切なさと心
強さと』になるのも特徴と言えるだろう。


「真空……波動拳!」

「行くぜ!昇龍裂破!!」


最高難易度でも一夏とクラリッサは見事なプレイングでベガを圧倒し、最後はリュウの真空波動拳とケンの昇龍裂破のダブルスーパーコンボでKOする魅せプレイ!
カップルユーチューバーでゲーム動画と言うのは可成り新しいと思うが、新しいからこそこの動画は伸びた。只のスーパープレイではなく、魅せ要素もタップリあったと
言うのだ伸びが理由だろう。

そして動画をアップした後はもう寝るだけなのだが……


「一夏……今日は、其の……して欲しい。」

「其れがお望みなら、仰せのままに。……だけど、そうなったら眠らせないからなクラリッサ?」

「あぁ、其れでも良いさ。私はお前に愛されたいよ一夏。」


その日はクラリッサが一夏を求めて来たので、一夏も其れに応える事になったのだが、此処から先はR-18のライブだから、残念だが観覧する事は出来ないんだわ。
まぁ、其処には劣情を催す事も出来ない愛の行為があったとだけ言っておこう。やっぱりね、愛は大事だよ愛はね。


「……おはようクラリッサ。朝だぜ?」

「もう、そんな時間か……おはよう一夏。」

「……やっぱりクラリッサは眼帯ない方が良いぜ?俺は好きだぞ、その金色の目。綺麗なんだから見せればいいのに。」

「そ、そうか?そう言ってくれるのは嬉しいが、矢張り瞳孔のない金色の瞳と言うのは不気味に思う人も居るだろうから、親しい仲間以外には見せたくないんだ。
 私の目の事を知っているのは、何時ものメンバーだけで良いさ。」

「仲間と本人だけが知ってるクラリッサの秘密って事か……其れは其れで特別な感じがして良いかもな。
 あ~~……でもさ、将来結婚して式を上げる時は眼帯取ってくれよ?流石にウェディングドレスに眼帯って組み合わせはアンバランスだと思うからさ。」

「ふむ……では、ドレスを軍服風に作って貰うか?其れならば眼帯をしていてもオカシクはないだろう?」

「いや、其れどんなドレスだよ?」


でもって翌日の朝はとっても甘い空気でした!後からクラリッサを抱きしめて朝の挨拶とか破壊力が高すぎるだろマジで!そして其れをナチュラルにやっちゃう一夏と
言うのがマジでトンデモないですわ!こりゃ、大抵の女性は同性愛者じゃない限りは落ちるだろうな。……一夏は同性愛者であるロランも落としてるんだけどね!!
いやはや、マジで一夏はハンパないわ……まぁ、取り敢えず学園生活は平和で充実してるって事だけは間違い無いだろうな。
此れからの学園生活も思い切り謳歌して欲しいモノだ。――そして、其れこそが織斑一夏が本来進むべき未来なのだから。……陽彩が其れを乗っ取っていたかも知
れないって考えるとそうなる前に陽彩を断罪した束はGJだった訳だな。


取り敢えず、今日もまた新たな一日を始めるとしよう!











 To Be Continued