突如自分の前に現れた束に、陽彩は『蛇に睨まれた蛙』の如く、動く事が出来なかった――なまじチートが有るからこそ分かってしまったのだ、チートな特典が有ると
しても、目の前の存在には勝つ事はおろか触れる事すら出来ないと言う事に。自分達人間とは違う次元の存在だと言う事に。
「ある日、世界中の軍事施設が何者かのハッキングを受け、日本に向けて数先発のミサイルが発射された、だけどそのミサイルは、後に白騎士と呼ばれる事になるI
Sによって全て迎撃され、ISは現行兵器を凌駕する超兵器として世界に認知された。」
「え?」
「織斑一夏は高校受験の当日、藍越学園と間違えてIS学園の受験会場を訪れてしまい、そこでISに触れた所、そのISを起動してしまい『世界初の男性IS操縦者』とな
ってIS学園に通う事になった。」
束の口から発せられる言葉に、陽彩は更に驚いた。
だって其れは、此の世界では自分以外には知り得る事のない『原作』における、『白騎士事件』と『一夏がIS学園に入学した理由』だったからだ。
「IS学園に入学した織斑一夏……めんどいからいっ君で良いよね?いっ君は、其処で幼馴染の愚妹と再会。
クラス代表を決める事になった際に、『世界で唯一の男性操縦者』と言う理由でいっ君がクラスの大多数から推薦されるも、其れを良しとしないイギリス代表候補生
の金髪ドリルが女尊男卑発言を連発した上で日本を貶す発言をした事で、いっ君もカチンと来て思わず言い返して、金髪ドリルがキレて決闘を提案。
いっ君も其れを受け入れて一週間後にクラス代表の座をかけてISバトルを行う事になり、いっ君には専用機が用意されるんだけど、その専用機が届いたのは、クラ
素代表決定戦の当日で、初期設定で挑んだいっ君は、ギリギリの所で機体が一次移行して単一仕様も使える様になったけど、単一仕様『零落白夜』の特性を理解
してなかったせいで自滅に近い負けとなった。
その後、金髪ドリルがクラス代表を辞退した事でいっ君がクラス代表になり、後日今度は中国から二人目の幼馴染である貧乳ツインテールが二組に転校して来る。
再会した直後は仲は良好だったんだけど、いっ君が貧乳ツインテールが中国に戻る前に言った事を正しく理解してなかった事と、禁句を口にした事で完全に喧嘩状
態になり、クラス対抗戦で決着を付ける事に。
行き成り第一試合でぶつかった二人は、貧乳ツインテールの方が実力的には上だったんだけど、いっ君も貧乳ツインテールの切り札の攻略法を見つけ、これからと
言う所で謎の無人機が乱入。二人は協力して無人機を倒すもクラス対抗戦は中止になった。
ゴールデンウィーク明け、今度は一組に二人の転校生がやって来た。
一人は、なんといっ君に続く二人目の男性操縦者と言う触れ込みのシャルル・デュノア、もう一人はドイツ出身の銀髪チビ……銀髪チビは初対面のいっ君に行き成
りビンタかまして『お前が教官の弟だとは認めない!』と言い切った。
二人目の男性操縦者が現れた事で、愚妹は部屋を引っ越し、いっ君のルームメイトはシャルル・デュノアとなるが、その後アクシデントから実はシャルル・デュノアは
シャルロット・デュノアと言う少女だった事が明らかになり、彼女の事情を聞いたいっ君は学園の特記事項を盾に三年間の間に解決策を探す事を提案。
後日、アリーナで銀髪チビが貧乳ツインテーツと金髪ドリルを半殺しにし、其れにブチ切れたいっ君は学年別トーナメントで決着を付ける事に。
そのトーナメントはその年はタッグになった事で、いっ君の元には大量の生徒がタッグを組んで通し掛けて来たけど、いっ君はシャルロットの秘密がバレないように
彼女と組んでトーナメントに出場することを決める。
タッグトーナメント当日、いっ君組の相手は行き成り銀髪チビで、銀髪チビの相方はまさかの愚妹。
AICに苦戦するいっ君だったけど、手早く愚妹を倒したシャルロットが合流し、連携で銀髪チビを追い詰めるも、追い詰められた銀髪チビは『力』を欲し、それによって
機体に搭載されていたVTSが発動し、その姿を暮桜に変える。
その事に『姉を穢された』と感じたいっ君が激高し、シャルロットと協力して此れを撃破した。」
「え……あ……?」
束の口から語られる、此の世界では自分しか知らない筈の『原作』の流れを聞きながら、陽彩は背中に冷たい汗が流れて行くのを感じると同時に、今までに経験した
事の無い、筆舌に尽くし難い恐怖を感じていた。
笑顔でザックリと、しかし淡々と『原作』の流れを口にする束の姿は、陽彩には『人の姿をした化け物』にしか思えなかった。
だが、そんな陽彩の様子には全く関心を示さず、束の口は止まらない。
「臨海学校での銀の福音暴走事件の際に、愚妹の愚行でいっ君は落とされたけど、其処で二次移行して復活して、最後は愚妹の機体のワンオフアビリティーでシー
ルドエネルギーを全回復してから福音を撃破。
その後の夏休みは愚妹共がいっ君の家に突撃した程度で特筆すべき事は特になかったけど、二学期になって生徒会長の更識楯無……やっぱり此の名前は違和
感が有るから、更識刀奈、かたちゃんがいっ君に接近して、其処からかたちゃんをコーチとした訓練が始まり、いっ君はその底力を大きく上げる事になった。
序に、かたちゃんの妹の簪、かんちゃんとは専用機の開発の経緯から、初めて会った当初はギクシャクしてたけど、タッグを組んで出場した専用機限定タッグマッチ
後には良好な仲になってる。そんでもって、更識姉妹の間にあった溝もバッチリ埋まってめでたしだね。
話が前後しちゃったけど、学園祭では『巻紙玲子』を名乗った亡国企業のオータム、オーちゃんからに襲撃され、リムーバーで専用機『白式』を奪われそうになるも、
かたちゃんの介入で失敗して撤退するに至った。
可成りザックリとした説明だったけど此処までが学園祭までの流れで、それ程間違ってないでしょ?」
「此れは……!!こんな、何でアンタが……!!」
陽彩の心臓は此れまでにない程に早鐘を打ち、何かを言おうとしても巧く言葉にならない……束が自分の前に現れたと言うだけでも驚きなのに、其れ以上に予想外
だったこの展開に、陽彩は己の理解を越えてしまい真面な思考を保てなくなっている様だ。
「私が何かなぁ?あれあれ、若しかして束さんが言った事に大きな間違いでもあったのかなぁ?
だったら、其れがどの部分だったのか教えてくれると助かるかな?私が今言った内容に関しては、君の方が私よりも詳しいでしょ、二人目の男性操縦者君?
――否、転生者君?」
「!!」
相変わらずニコニコと笑顔を浮かべながら、束は決定的な一言を口にする。
其れを聞いた瞬間、陽彩は自分の足元がガラガラと音を立てて崩れていく感覚を覚えていた……同時に陽彩は、自分の人生は若しかしたら今日でピリオドが打たれ
るのかもしれないと、混乱する頭の片隅で考えてもいた。
夏と刀と無限の空 Episode49
『Condemnation of natural disasters』
束の口から発せられた『転生者』と言うワードを聞いて、陽彩は目を見開いて束を見るが、しかし動く事も言葉を発する事も出来ない――『蛇に睨まれたカエル』どころ
の話ではない。
最早此れは、『ライオンに睨まれた手負いのインパラ』、『シャチに狙われたオットセイ』、『キラーT細胞にロックオンされた病原菌』、『不動遊星とデュエルする事になっ
た名もないモブデュエリスト』、否『蝶野正洋に凄まれた月亭方正』だろう!其れ位に陽彩は委縮してしまっているのだ。
「て、転生者って……アンタ何言ってんだ?あ、頭でも打ったかよ……!?」
それでも何とか言葉を紡ぎ出してとぼけてみるも、束は相変わらずの笑顔で『ちっちっち!』と指を振って、陽彩の言った事を無言で否定する……と同時に、この行為
は陽彩にとっては『死刑判決』にも等しいだろう。束の言った事が、彼女の妄想の産物であれば其れを否定出来た、だが違うとなれば束が言った事は、彼女が確りと
調べ上げた上での事になるのだから。
「フッフッフ、束さんを甘く見るなよお前?
お前は罰で謹慎喰らってたから知らないだろうけど、平行世界の存在は臨海学校の時に明らかになってんだよ。でもって、平行世界の私が平行世界を自由に往来
出来る装置を作ってた事もね。
平行世界の私に出来て、此の世界の私に出来ない道理はないって事で、色々研究して、取り敢えず『平行世界観察装置』は完成した訳さ。移動装置も、もうあと一
歩で完成って所だけど。」
「へ、平行世界?し、しかも其れを観察する、だと?」
「あはは、驚くよねぇ?
でも束さんの手に掛かれば其れ位の装置を完成させる事なんて難しくはないんだよ?幸いにして、更識ワールドカンパニーには優秀なスタッフが居る上に、機材と
材料も潤沢にあるからね。
そんでもって、完成した装置を使って色んな平行世界を観察してみたんだけど……驚いたよ、まさか束さん達が登場人物になってる小説が存在してる世界があると
はね?……尤も、束さんはその作品に登場する篠ノ之束みたいに倫理感とかは欠如してないけどさ。
しかしまぁ、その作品を読んで思ったのは……いっ君のヒロインはかたちゃんとかんちゃんしか勝たん!愚妹をはじめとした連中はヒロインじゃなくてヒドインでしょ!
なんだって、好きな相手に暴力振るうかなぁ?理解出来ないっての!!」
……かの天才でも、『原作』の一期ヒロイン達は理解出来ねぇみたいです。否、理解しろってのが無理だわな。
好意の伝え方が分かり辛いだけじゃなく、其れが一夏に伝わらないと逆ギレして一夏に暴力を振るう……普通に考えたら一夏が彼女達に愛想を尽かしても誰も文句
は言わないだろう。――そんな中で絶対に暴力だけは振るわない更識姉妹こそが一夏の真のヒロインと言うのは間違いではなく真理と言えるわな。
「って、其れは別に如何でも良いんだよ。
問題はお前が、その小説の知識をもってしていっ君に成り代わろうとした事なんだよ?……まぁ、ある意味でその目的は達成したよね?少なくとも、愚妹を含めたメ
インヒロイン五人は自分の物に出来た訳なんだから。」
「え……」
「ぶっちゃけて言うとさぁ、束さんはお前が何者かなんて如何でも良い事なんだ。
お前が愚妹を如何しようが、誰と結ばれようが知った事じゃない……だけどさ、いっ君とその嫁ちゃん達に危害を加えるってんなら話は別だ。
私はいっ君を気に入ってるし、其れと同じ位嫁ちゃん達も気に入ってるんだよ?……そのお気に入りに危害を加えようとした奴を黙って見過ごしてやる程、束さんは
優しくねーんだよね?」
此れまで浮かべていた笑顔を消し、真顔で睨んで来た束に、陽彩は悲鳴すら上げる事が出来なかった。
真の強者のみが発する事の出来る本気のプレッシャーに完全に気圧されているのだ。と同時に、陽彩は自分と戦った一夏も千冬も本気の半分も出して居なかったと
言う事に気付いた。
千冬は束と同等クラスのチートキャラ、寧ろ戦闘力で言えば千冬の方が圧倒的に上であるのに、夏休みの訓練中にこんなプレッシャーを感じる事はなかったし、一夏
は、その千冬が『ISバトルに限れば私と互角以上だ』と言うレベル……多少姉の贔屓目が有るにしても、千冬がそう評するだけの実力を持つ一夏が本気の闘気を解
放したら、同じ位のプレッシャーを受けていた筈だから。……気付くの遅過ぎねぇか?
「お、俺を殺すのか……?」
「ん~~……臨海学校の時にお前がいっ君を殺し掛けた時にはお前の事を百回ぐらいぶっ殺したくなったよ?マーちゃんがお前をぶん殴ってなかったら、私がお前を
直々にスクリューパイルドライバーで滅殺してたね。
でも、殺しちゃったら其処で終わりじゃん?だからさ、お前には死よりも辛い目に遭って貰う事にしたよ。」
「し、死ぬより辛いだと?」
「徹底的に絶望を味わわさせてやるって事だよ。
先ず、私が開発した平行世界を観察できる装置を起動した状態で、もしやと思って神楽舞を舞ってみたら神の世界にアクセス出来ちゃったんだよね?んで、対応し
てくれた最高神のラーの翼神竜にお前の事を聞いてみたんだけど、お前は見習い神の暇潰しで転生させられたらしいよ?」
「は?」
此れまた何ともぶっ飛んだ事を言ってくれた束だが、其れ以上に陽彩は『見習い神の暇潰しで転生させられた』と言う事に驚いて居た――其れはそうだろうな。神の
力で転生したと思ったら、自分を転生させたのは見習いの神で、しかもその見習い神の暇潰しだったと言うのだから。
「正義陽彩……転生前の名前は『御宅英雄(おたくひでお)』。キモデブヒキニートで不摂生が原因の成人病で死んだ馬鹿、其れがお前だろ?
前世がそんなだったから次の人生はバラ色にってのは分からなくもないけど、お前は分不相応に色々求めすぎたね?其れだけなら未だしも、いっ君を倒して俺TUE
EEEしようだとか身の程知らずも良い所だよ。
見習い神の気紛れで転生したお前とは違って、いっ君は三幻神や三極神をはじめとした複数の神々の寵愛を受けてるだけじゃなく、三邪神や果ては三幻魔なんて
言う『ダークサイドの神』にも愛されてる、正に『選ばれし神の子』であり、其のいっ君の嫁ちゃん達も神々の寵愛を受けてるのさ!若干ダークヒーローなのは、邪神
や幻魔にも愛されてるからだろうね。
分かるか?お前といっ君と嫁ちゃん達とではそもそもにして絶対に越える事の出来ない壁が存在してるんだよ。其れこそ『数値の上では1ポイントに過ぎないけど、
絶対的に超える事の出来ない壁』がね。」
束の言葉は止まらず、陽彩を追い詰めていく……束ならば陽彩を殺す事など造作も無いだろうが、殺してしまえば其処で終わりなので、精神的に徹底的に追い詰め
る事にした様だ。
「分かるか転生者?お前がいっ君を越えようだなんてのは烏滸がましいにも程があるどころの話じゃねーんだよ?いっ君に挑む事がそもそも間違いだったって理解し
ろよな?お前如きがいっ君に勝てる筈ねーじゃん?
お前にとってのいっ君は、PARを使っても突破出来ない負けイベントの相手なんだよ。いっ君だけじゃなくて嫁ちゃん達もね。
いっ君は超サイヤ人ブルー進化、嫁ちゃん達は超サイヤ人ブルーなのに対して、お前は精々『汚ねぇ、花火』になったキュイが良い所なんだよ。理解したか?」
徹底的に陽彩のプライドを滅びの爆裂疾風弾で粉砕!玉砕!!大喝采!!!する束……いやぁ、よくもまぁ此れだけ次から次へと相手のプライドを粉々にする言葉
が出て来るもんだわ。
しかも刀奈の煽りと違って、圧倒的な威圧感まで感じさせてるってんだからもう凄すぎますって。
「あ、そうだ!良い事思い付いた!殺さずに、お前の人生終わらせる方法思い付いちゃった♪」
「殺さずに、俺の人生を終わらせる……?」
「そう、お前の人生。
此れまではお前の機体の解析は出来ても、ISコアにアクセスする事は出来なかったんだよね~?多分見習いとは言え、『神』が造ったモノだから、如何に天才であ
っても『人間』である束さんにはアクセス出来なかったんだと思うんだ。
だけど、私は神の世界にアクセスしちゃったからね~~?そこで、最高神様から『見習いの神が造ったモノなら干渉可能』って能力を貰っちゃってさ?此れでお前の
機体のコアにもアクセス可能になった訳さ。
さて、それが如何言う事か分からない程お馬鹿さんじゃないよねお前も?」
「んな!?」
此処で最大級の爆弾を投下!
見習いとは言え『神』が造った機体だけに、此れまでは束も機体性能その他のは解析出来ても、コアへのアクセスだけは出来なかった。通常のアクセスの他、ハッキ
ング、元は白騎士だった銀龍騎のコアを通じてのアクセスと、全て跳ね返されてしまったのだが、神の世界にアクセスした事で、コアへの干渉が出来るようになったと
言うのだ。
そして其れは同時に、陽彩の機体のコアを強制的に停止する事が出来るようになったと言う事でもある訳だな。
「いっ君が男性なのにISを使える理由を教えてやるよ。
原初のISである白騎士を使ったのはちーちゃんなんだけど、その際に白騎士のコアはちーちゃんを自身のパイロットとして登録し、『織斑千冬、または織斑千冬に近
い存在』にしか自身を動かせないようにしたみたいなんだよ。
そして、全てのISコアは白騎士のコアをコピーする形で作られてるから、そのコア情報は他の機体にも受け継がれてる――ちーちゃんに近い存在、つまり女性にし
かISを動かす事が出来ない理由が此れ。
だけど、女性と言う事以上にちーちゃんに近い存在がある、其れがちーちゃんの弟であるいっ君だよ。
マドちゃんは妹であり女性だからISを動かせるのは当たり前だけど、いっ君はその辺の女性よりもちーちゃんに近い存在だから男性でもISを動かす事が出来る。
逆に言えばいっ君以外の男性がISを動かす事が出来る筈ないんだ……いっ君のお父さんもISを動かす事は出来ないよ?いっ君がちーちゃんに近い存在だって認
識されてるのは両親の遺伝子を受け継いでるからだからね。片方の遺伝子しかもってないいっ君のお父さんはISを動かせない訳さ。
だから、お前がISを動かす事が出来るってのがそもそも間違いなんだよ。その間違いを正しても、何も問題はないよね?」
同時に其れは、陽彩にとっては死刑宣告にも等しい事だった。
ISを動かす事が出来なくなったら、IS学園に居る資格もなくなり即刻普通高校へ編入させられてしまうだけでなく、男性IS操縦者でもなくなるから、『男性操縦者重婚
法』の対象から外れて合法的に作ったハーレムも解散されてしまうのだから。
「や、止めろ!其れだけは止めてくれ!!ISを動かす事が出来なくなったら俺は!!俺が此の世界に転生した意味が無くなっちまう!!」
「は、知るかよそんな事?
てかさ、お前は此れまでもいっ君達が『此れ以上関わるな』って言っても其れを無視してきたじゃん。其れなのに、自分の言う事は聞いてくれとか虫が良すぎだと思
わないかね?」
「そ、それは……分かった!今回の勝負で負けて、絶対命令権で言われちまったから当然だけど、今後は廊下で擦れ違うとかの不可抗力を除いて一夏達に近付か
ねぇし、アイツに勝負を申し込んだりもしねぇ!
だから、だからISを動かせなくするのだけは勘弁してくれ!!この通りだ!!」
その事に恐怖した陽彩は恥も外聞もかなぐり捨てて束に土下座して頼み込む……此れまで『チートな転生特典が有れば楽勝だぜ』とか言って不遜な態度を取ってい
た奴が、何とも情けないモノだ。
「ん~~、信用出来ないねぇ?
此処で束さんに良い顔しておいて、束さんが居なくなったらいっ君達にちょっかい出す可能性は充分にある訳だからね?やっぱり此処は、ISを使えなくしちゃった方
が良いよね?」
「頼む!それだけは止めてくれ!そ、そうだ!必要なら、常に俺の事を監視する超小型の監視カメラを設置してくれても良い!或は、原作でマドカに投与されてたナノ
マシンを投与してくれても良い!!
其れだけされれば、幾ら俺でも約束を破ったりしねぇよ!」
陽彩はマジで必死だな……そんな事をしたらこの先の人生の自由は可成り制限されると言うのに、その事に気付いていないみたいだ。逆に言うなら、其れだけ『ISを
動かせる男性』って言うステータスは大事なんだろうな。
「ふぅん?分かった、其処まで言うならコアの停止は止めてやるよ。
だけどさ、お前に何の罰も与えないなんてのは束さんの気が済まないんだよ?だからさ、ちょっと腕出せよ。」
「へ?」
「腕を出せって言ってんの。耳ないのかお前?五秒以内に腕出さないと、股間のポークビッツ切り落とすぞ?」
「は、はひぃ!!」
コアの停止は止めてやると言った束だが、しかし陽彩を許す気はなく、『腕を出せ』と要求し、『出さないと男の選手生命を切り落とす』来た……そう言われたら嫌でも
腕を差し出すしかあるまいて。
因みに陽彩のナニはポークビッツらしいが、一夏のナニは起動時は恵方巻レベルです……下ネタ失礼しました。
で、大人しく腕を出した陽彩に、束はポケットから注射器を取り出すと其れを陽彩の腕にぶっ刺して中身を注入!!此れは痛い!筋肉注射は実は見た目よりも痛くな
いと言われているが、神経の場所とか関係なしにぶっ刺されたら其れはもう激痛だろう。
「みぎゃぁぁぁぁ!!?」
現実に陽彩も聞くに堪えない悲鳴を上げてる訳だからな。
「クソ、痛ぇじゃねぇか!何を投与しやがった!」
「毒とかじゃないから安心しなよ。
あ~~、でもお前にとっては毒以上かもね?お前に打ち込んだのは『チートな転生特典を無効にする薬』だよ。せめてもの情けとして、その容姿だけは残しといてや
るけど、転生特典の『チートな頭脳と身体能力』は今この瞬間から無効になった訳だ。」
「な、なんだとぉ!?」
そして、ISが起動出来なくするのを止める代わりに束が行ったのは陽彩のチート特典の削除だった……此れは陽彩にはISを起動出来なくされる以上の死刑だと言え
るだろう。
陽彩は此れまでチート特典に頼り切って生きて来た……IS学園に入学してからは周囲からの好感度を得る為にトレーニングする姿も見せてはいたが、基本はチート
頼みだった。
そんな陽彩がチート特典を失ってしまった其れはもう雑魚でしかない……トレーニングをしているとは言っても、そのトレーニング内容は、『軽めのジョギング』、『腕立
手伏せ五十回』、『腹筋三十回』と言う、一夏が日々行っているトレーニングと比べたら生温すぎるモノであり、実力を底上げするには程遠いメニューなのだから。
「チート特典がなければお前は本気で雑魚だろ?
IS学園に居続ける事は出来るけどチートを失って雑魚と化したお前は果たして卒業出来るのかねぇ?まぁ、精々足掻けよ自分が主人公だと勘違いした転生者君?
いっ君に成り代わろうとした主人公未満にはお似合いの人生だよ!
其れと、最後に良い事を教えてやるよ。お前のハーレムは瓦解するよ?今日のISバトルの結果を受けて、愚妹とシャルロット・デュノアを除くお前の嫁ズは本国への
強制送還が検討されてるみたいだからね。」
此処で死体蹴りとも言える追撃を加える!
チート特典が無くなっただけなく、ハーレムまで無くなったとか陽彩にとっては絶望以外のナニモノでもないだろう……原作の一期ヒロイン全員を自分の嫁にしたかと
思って居たのに、其れが無くなってしまうのだからね。
「そんな訳だから、精々余生を楽しめよ転生者?チート特典も、ハーレムも失ったお前が余生を楽しめるかどうかは知らねーけどさ♪ま、恨むんなら束さんを本気で怒
らせた自分を恨むんだね?
少なくとも、束さんを怒らせなければこんな事にはならなかった訳だからね。」
「あ、あぁ……あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「そんじゃーね!バイビー!!」
絶望に打ちひしがれる陽彩を尻目に、束はその場から一瞬で消えた……まぁ、実際はエプロンドレスに仕込んだ光学迷彩を起動して景色に溶け込み、此れまた光学
迷彩を搭載した更識ワールドカンパニーのヘリに乗り込んだだけなんだけどね。
だが、取り敢えず束から陽彩への断罪と裁きはキッチリと行われたと言って良いだろう――チートな特典がなければ、陽彩は雑魚でしかないのだから。
そして、チートな特典がなければ、真面にISを動かす事すら出来なくなるわけだからな……束の言う通り、陽彩が余生を楽しむ事は出来ないだろうな。まぁ、此れも此
れまでチートを使って好き勝手やって来た報いってモンだろうね。
「やってくれたわね束さん?如何する夏姫?」
「束さんがあそこまでやってくれたのなら、アタシ達が何かする事も無いだろう?生憎と死体蹴りをする趣味は持ち合わせてないからね。」
「そう。じゃあ、私達が手を下すのは止めておきましょうね。」
そしてこの経緯を見ていたナツキとカタナは陽彩に罰を与えるのを辞めたみたいだ……まぁ、死体蹴りってのは趣味が悪いどころの話じゃないからな。完全に今まで
生きて来た時間よりも長い余生を潰された陽彩に明るい未来は待ってないだろうし、彼女達が手を下すまでも無いからね。
「あ、でも今回の事で彼が破れかぶれになって一夏君に襲い掛かったら如何しましょうか?」
「其れはまぁ、一夏自身が返り討ちにするだろうが、もしもそんな事をしたその時は、束さんが平行世界の天災にやったように、遥か太古の地球に強制転送すれば良
いだろう?
きっと束さんならば其れ位はやるだろうからな。」
「其れもそうね?それじゃあ、当面は監視を続けると言う事で良い?」
「あぁ、そうしよう。
そうだな……一夏達が卒業して、結婚式を挙げる所まで見届けたら別の世界に行こう。其れまでに特に問題が起きなければ、その先もきっと大丈夫だ。アイツだっ
て、卒業して地元に帰ってから態々一夏達にまた自分から近づいたりはしないだろうしね。」
「ふふ、其れじゃあ一夏君達の結婚式の時には、空に大きく祝福メッセージ書いてあげましょう♪」
彼女達は取り敢えず、当面監視を続けながらこの世界に留まる事にした様だ――違う世界の存在とは言え、弟だった一夏の結婚式を見てからと言うのがナツキらし
いと言えばらしいのかもしれないが。弟思いなのは良い事だね。
束が去った後、陽彩は暫くショックで放心していたが、やがて立ち上がるとフラフラと覚束ない足取りで寮へと戻って行った……最早其処には、チート転生特典を此れ
でもかと使って此の世界を自分の思い通りにしてやろうと考えていた転生者の姿は影も形もなくなっている様だった。
『チート無しで明日からどうやって生きて行けば良いのか?』、そんな事が頭を過ぎっているのかもな。
――――――
翌日。
本日は月曜日なのだが、学園祭に二日目が日曜日だった事もあり本日は振り替え休日であり、学園の各施設は解放されているモノの授業其の物はお休みである。
昨日の打ち上げパーティーは大盛り上がりで、教師も参加していたが『無礼講』と言う事で日付が変わる近くまで続いていたせいで、多くの生徒は本日見事に寝坊で
あるのだが、一夏は今日も確りと日課の朝練は熟していた。まぁ、流石に昨日の朝練よりもさらに軽め(5kmのマラソン、ベンチプレス100㎏、腕立て伏せ八十回のウ
ェイトトレーニング、木刀の素振り百五十回を行い、筋肉の柔軟性を失わない為の太極拳とヨガの柔軟体操)ではあるが。……軽めって何でしょうね?
一夏が朝練を終え、ヴィシュヌとの朝食を終えた頃(同居生活は今日でクラリッサと交換だが、交換になるのは朝食後である)、陽彩は漸く目を覚ました。
「昨日は、そうだ束が俺の前に現れて!……チクショウ、マッタク力を感じねぇ。転生特典、マジで消えちまったみたいだ。」
此れまで自分の中に感じていた力を感じる事が出来ず、昨日の事が夢ではなかったのだと言う事を否でも実感させられる……此れではもう、一夏に勝つ事なんて事
は天地がひっくり返っても無理だろう。
チートな転生特典が有っても勝てなかったのだから、チート無しでは勝てる筈がない。青眼の白龍とラビードラゴンとトライホーン・ドラゴン以外のバニラドラゴン族モン
スターが『ドラゴンの秘宝』を装備しても青眼の白龍に勝つ事は出来ないのに、装備カードが無くなったら余計に勝てないのと同じである。
何にせよ、余りにショックな出来事があったせいで陽彩はすっかり参ってしまい、目が覚めたとは言っても何もする気が起きなかった……其れこそ、朝っぱらから嫁相
手にやる気にもならなかった。
だから、陽彩は箒の姿が部屋にない事も特に気にしていなかった……『部活に行ったんだろう』と思って居たから。
――コン、コン!
そんな時に扉をノックする音が……陽彩の部屋を訪れるのは、教師以外では陽彩ラヴァーズの誰かなので、恐らくはラヴァーズの誰かが来たのだろう。
「陽彩、今良いかな?」
「シャルか……開いてるから入って来て良いぜ。」
如何やら来たのはシャルロットだったらしい。
『入って来て良い』と言われたシャルロットは、其のまま部屋に入って、まだベッドの上の陽彩の前にやってくる……ジーパンと長袖のシャツって言う、少しばかりボー
イッシュな格好をしてるのはちょとした気紛れだろうか。
「あ、ごめん寝てた?」
「いや、今起きた所だけど何か用か?」
「あ、うん。とっても大事な用なんだ。
まずはお礼を言わせてよ陽彩、君のお蔭で何処の会社も開発してない第七世代機のデータを得る事が出来たおかげで、デュノア社は欧州のIS企業の中でもトップ
クラスの情報を持つ事が出来た……此れならイグニッション・プランでのフランスの発言権も増すからね。」
「そうかい、なら良かったぜ。」
「うん、本当に感謝してる。
だから、僕達の関係も此れで終わりにしよう。」
「……は?」
だが、シャルロットから感謝された後で言われた『関係を終わりにしよう』と言うのには陽彩も呆気に取られて目が点になってしまった。((・_・)みたいな感じ?)
「ちょっと待てよシャル、終わりってどう言う事だよ!」
「そのまんまの意味だけど?
僕は君の機体のデータを貰う代わりに僕の身体を君に差し出した……でも、其れは逆に言えば僕が欲するデータを得られれば其れでお終いって事でしょ?機体の
データと、君の遺伝子データのサンプルは採る事が出来たから、僕が此れ以上君と一緒に居る意味はないんだよ。
だから、お終いって事。」
「お前、最初からその心算で!!」
「そうだよ?そうに決まってるじゃないか?
そうじゃなかったら、誰が君みたいな顔が良いだけの人格破綻者と一緒に居るかだよ……あぁ、君に心底惚れてるあの四人は例外だけどさ。
僕の目的は最初から『男性操縦者の機体データ』と、『男性操縦者の遺伝子のサンプル』だからね……本音を言うなら、君よりも織斑君のデータの方が遥かに価値
があったんだけど、彼の周りはガードが堅いし、彼自身のガードが堅いから君にターゲットを変えたんだよ。
君の周りはガードがゆるゆるだし、君自身もアッサリと僕のハニートラップに掛かってくれたからね?……君みたいな下衆に純潔を捧げるのは女性として屈辱だった
けど、そのお陰でデュノア社は欧州で伸し上がる事が出来るんだから、其れを考えれば僕の純潔くらいは安いモノさ。
だがら、此れで僕達の関係は終わりだよ陽彩、否、正義君。
君は本当に良いデータのサンプルだったよ……まぁ、散々僕の事を好きにする事が出来たんだから其れで満足しなよ?僕としては、君の稚拙なセックスに付き合う
のは退屈だったけどさ。」
っと、相変わらず腹黒いなシャルロットは?
知らないとは言え、チートが無くなって絶望している陽彩に対してダメ押し、死体蹴りとも言える『関係解消』を言っただけでなく、己の本音を曝け出して、陽彩にダメー
ジを叩き込む!其れは、X-MENvsストリートファイターで、KOした相手に更に攻撃するかの如し!リュウで、KOした相手を大足払いで浮かせてから、大足払いにキャ
ンセルを掛けて真空波動拳を叩き込むのは基本の死体蹴りです!
「だから、今この時をもって僕と君は真っ赤な他人だから、もう僕に話し掛けないでね?僕も、もう君とは話したくないから。」
「え?そんな、嘘だろ?嘘だと言ってくれよ!なぁ、シャル!!」
「気安く呼ばないでよ?……バイバイ、正義君。」
「そんな、嘘だろ?嘘だと言ってくれーー!!」
束が言っていた事とは異なるが、シャルが居なくなった事で陽彩のハーレムは瓦解したと言えるだろう……原作では一期ヒロインの中でもぶっちぎりの人気を誇るシ
ャルロットが居なくなってしまったのだから、束の言うように他のヒロインズが本国に強制送還されると言うのも決して陽彩を脅す為のブラフではないのだろう。
「そんな、俺のハーレムが……俺のハーレムが……あは、あはは……あははははははは!!」
チート転生特典に続き、ハーレムも壊れたと知った陽彩は、シャルロットが居なくなって自分一人になった部屋で、虚ろな目で涙を流しながら狂ったように乾いた笑い
声をあげていた。
チート転生特典を貰っても自分の思い通りにならなかった転生者の慣れの果て、其れが今の陽彩なのだろう――陽彩の不幸は、『転生して、新たな世界で新たな人
生を送れる』と言う事で満足せず、分不相応な望みをしてしまった事だろう。
前世のコンプレックスがチートな転生特典を望んだのだが、其れが逆に自分の首を絞める結果になったと言うのは皮肉な事この上ないが、そもそもにして『見習いの
神の暇潰し』で転生した陽彩が、真の神の寵愛を受けまくった一夏に挑む事自体が間違いだったのだから、この結末は当然と言えるわな。
選ばれし神の子と、自称オリ主にすらなれなかった転生者の間にある残酷なまでの差と言うモノを、陽彩は身をもって体験する事になったのだった。
――――――
そんな事は関係なく、朝食後にヴィシュヌと入れ替わる形でクラリッサが同居人となった一夏の部屋では、早速今週の最初となる動画の撮影が行われていた。
「はい、どうも皆さん織斑一夏です。今日から一週間は、クラリッサがパートナーになります。」
「今日から一週間、一夏のパートナーとなるクラリッサ・ハルフォーフだ。宜しく頼む。
其れで一夏、今日はどんな動画なんだ?」
「今日はですね、割と反響の多かった料理動画で。
何時もなら、弁当クッキングを動画にする所なんだけど、今日は学園祭の振り替え休日なので、弁当クッキングの代わりにランチクッキングをやって行きたいと思い
ます。今日のランチは皆で此の部屋でって事になってるからな。」
「だな。して、今日のランチのメニューは?」
「今日のランチメニューは、『親子カツ丼』、『ピリ辛コールスローサラダ』、『具沢山豚汁』だ。」
「親子カツ丼?」
「普通のカツ丼は、トンカツを玉ネギと一緒に卵とじにした具を乗せるんだけど、親子カツ丼はチキンカツを玉ネギと一緒に卵とじにした具を乗っけるんだ。
鶏肉と卵が『親子丼』なら、チキンカツと卵は『親子カツ丼』って訳だ。」
「成程、納得だ。」
本日の動画は、ヴィシュヌとの動画でも割と人気の高かった『料理動画』だ。
一夏の料理動画は、キューピーの三分間クッキングよりも分かり易く、そして料理のコツも確りと抑えているので、料理初心者にも分かり易いとSNSで話題になってた
りするのだ――まして、一夏が千冬の弟であり、世界初の男性IS操縦者ともなれば余計にだろう。
「スライスした玉ネギと胡瓜、千切りにしたキャベツをマヨネーズでザックリ和えたら、其処に辛子明太子を投入してよく混ぜて、此れでピリ辛コールスローサラダは完
成。
親子カツ丼の方は、鍋の中で玉ネギと出汁が良い感じに煮立って来た所にチキンカツを投入して、そして手早く溶き卵を加えて、半熟の内に飯に盛る!此れでチキ
ンカツのサクサク感とジューシー感を残した丼が出来るんだ。」
「此れは、正に熟練の技だな……初心者にも分かり易い様に目安は有るか?」
「火加減にもよるけど、中火なら三十秒、強火なら二十秒、強火以上のハイカロリーなら十秒って所だけど、白身が固まって来たら火を止めるのがベストだ。そうすれ
ば、良い感じの半熟になるからな。」
「最後に頼りになるのは己の目による判断か。」
実際に料理ってのは、レシピよりも経験が上回るからね。レシピを越えた、自分の感覚でレシピ以上の味を出してこその主婦であり主夫だから――そんじょそこ等の
レシピを尽く凌駕してる一夏は衛宮さんと良い勝負が出来るだろうな。
「それじゃあ、ランチにしようぜ?」
「うわぁ、相変わらず美味しそうね一夏?」
「出汁と調和した卵が放つ輝きは、最早黄金……素晴らしいな此の丼は。」
「サラダも良い出来みたいですね?」
「トン汁の豚肉が大きい事に大感激!やっぱり此れ位じゃないと食べ甲斐がないよ!」
「チキンカツのカツ丼だから、親子カツ丼か……ネーミングも素晴らしいな。」
でもって、料理終了後は嫁ズとのランチタイムも撮影して、其れを編集して本日の動画でアップした所、再生数はあっと言う間に百万を超えて、登録者数も六十万を突
破したのだった。
IS操縦者としても、ユーチューバーとしてもその地位を確立した一夏に対し、陽彩は容姿以外の転生特典を全て失い、この先の人生は余程の努力をしない限り、真っ
暗であるのは間違い無いだろう。
真の主人公である一夏と、主人公未満でしかない陽彩の人生は、今この時をもって完全に分かれたのだった。
此れだけでも陽彩にとっては充分過ぎる屈辱なのだが、振替休日の翌日に更なる絶望が待っているとは、陽彩も思わなかっただろう……見習い神から貰ったチート
転生特典が無効になった今、此の世界は陽彩にとって、とても厳しい世界になるのだろう。
だが其れは、チート転生能力で此の世界を己の好きな様にしてやろうとか考えてた奴にとっては相応の結末であると言えるかもだ……分不相応な力を得てしまった
者に待っているのは避けられない破滅。
陽彩もまた、その運命を受け入れる時が来たのかも知れない――少なくとも、原作における一期ヒロイン全員とやる事が出来たのだから、それで満足しておけだわ。
因みに、このランチ動画も可成りバズったが、その夜に生配信された、ゲーム実況動画は更に大人気だった。
『最大難易度のストZERO3を殺意の波動に目覚めたリュウでクリアする』って動画だったんだけど、ZERO3の殺意の波動に目覚めたリュウは、ラストがファイナルベガ
と真・豪鬼の二連戦になるので最もクリアが難しいって言われてるんだけど、ファイナルベガはクラリッサが、ファイナルサイコクラッシャーを昇龍拳で回避する魅せプ
レイをした後に、技後のファイナルベガに、立ち強P→キャンセル中竜巻→レベル3滅殺剛昇龍のコンボを叩き込んでKOすると、一夏は真・豪鬼を相手にウメハラ氏も
ビックリの立ち回りを見せ、最後は立ち強P→強竜巻→受け身を確認してからの確定瞬獄殺を叩き込んでKO!
最高レベルを神懸ったプレイングで全試合パーフェクト勝利した事で、一夏のチャンネルは更に登録者が増えたのだった――此れだけでも、一夏と陽彩にドレだけの
差が有るかが分かるわな。
唯一つ、確実に言えるのは、一夏のこれからの人生は光に照らさられており、逆に陽彩の人生は闇に閉ざされていると言う事だろうな……正義陽彩の敗因は、一夏
に勝つ事に固執して、その背後に居る束の存在に気付かなかった、此れに尽きるだろうな。
ま、陽彩は人生にピリオドが打たれるその瞬間まで、天災の逆鱗に触れてしまった事を後悔すると良い――其れが、主人公未満のお前にはお似合いだからな!!
とは言え、此れで物語が終わった訳じゃない……イレギュラーの転生者の物語は終わったが、我等が主人公である一夏の物語は、続くからな!
To Be Continued 
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