生徒会主催の『一夏組vs陽彩組』のISバトルは、大将戦を残した時点で一夏組の五戦全勝と言う結果だった……其れも只の五戦全勝と言うだけでなく、シャルロット
以外はパーフェクト負けを喫しているのだから、一夏組と陽彩組の実力差が如実に表れたと言っても過言ではないだろう。
其れは同時に、一夏の嫁ズと陽彩の嫁ズが所属する国の明暗が分かれたと言えるだろう。
日本とドイツは一夏と陽彩の何方にもパートナーが居るのでその限りではないのかも知れないが、此の試合の結果によってタイ、オランダ、ブラジルの三国は国際的
な立場を大きく向上させ、逆にイギリスと中国は国際的な立場を大きく落とす事になっただろう。
日本とドイツは、箒とラウラが悪いイメージを与えたが、刀奈とクラリッサが其れを上回る好印象を与えたので、国際的立場は小上昇と言ったところか――刀奈とクラリ
ッサのプラス分が小上昇にしかならないとか、箒とラウラのマイナス分がドレだけ大きいのかって話だわな。
其れは其れとして、一夏組が五連勝したとは言え、此の大将戦で一夏が負けてしまったら此の五連勝も意味は無くなってしまうのだ――大将戦で陽彩が勝った場合
は、六勝分の勝ち点が入る訳だからな。
一夏と陽彩の何方が勝つにしても、この試合で勝負が決まる訳だ。
「円夏、一夏は勝つよね?」
「分かり切った事を聞くなよ簪。
兄さんがあの程度の、凡骨デュエリストにすらならない雑魚に負けると思うのか?兄さんが『青眼の白龍』だとしたら、正義は精々『地を這うドラゴン』が良い所だ。」
「上級のバニラドラゴン族なのに、其処には絶対的な力の差が有る、そう言う事だよね?」
「そう言う事だ。
まぁ、奴の機体も二次移行しているから油断は禁物だろうが、ドレだけの機体性能が有ろうとも其れを扱う奴が雑魚ならば、其れは宝の持ち腐れでしかない。
今の奴は、二次移行した力に溺れている二流――否、其れ以下だ。生半可な実力すら持っていない奴では兄さんに勝つ事は絶対に出来ん。神の領域に至った悟
空に引退したヤムチャが出来る筈がないだろう?」
「うん、それは納得。」
客席では円夏の評価が容赦なかったが、一夏と陽彩には其れだけの差が有るので仕方あるまい。
そもそもにして、常に上だけを目指して厳しいトレーニングをしていた一夏と、チートに胡坐を掻いて最低限のトレーニングしかしていなかった陽彩では大きな差と言う
モノが生まれるのは当然と言えるだろう。
何よりも、陽彩は見習い神の暇潰しで転生したのに対して、一夏は神の世界でも最高の力を持って居ると言われる三幻神の寵愛を受けてるんだから勝負にならない
って所だわ。
序に、其の寵愛は一夏の嫁ズにも及んでるんだから、陽彩の嫁ズに負ける要素はハナッからなかった訳だな。
「嫁さんがバッチリ勝ったんだから、最後はキッチリ決めろよ坊主?まぁ、アイツならあの野郎に勝つなんてのは造作も無い事だろうけどよ。」
「アッハッハ、何を当たり前の事を言ってるんだいオーちゃん?いっ君が、あんな何処の馬の骨とも分からない雑魚に負ける筈がないじゃん?……それどころか、いっ
君だったら、ピンチを演出して華麗に勝利位はやってくれる筈だよ。」
「あぁ、其れ位はやりそうだな?……時に、一本吸うか?」
「おぉっと、お酒はウェルカムだけど、タバコはNGだよオーちゃん!二十歳になった時に興味本位で吸ってみたんだけど……吸った瞬間頭がクラクラして、三日位ベッ
ドから起きられなかったからね。」
「タバコ吸って三日間寝込むってドンだけだよ?てか意外だな、オメーにも弱点あったんだ。」
「オーちゃんは私を何だと思ってるのかな?」
「あらゆる状態異常が効かねぇラスボスだろ?」
「うわおぉ、否定出来ないのがメッチャ悲しい!!」
で、客席では束とオータムがこんな遣り取りをしてた訳だが、仲良いなこの人達も?――そして、『篠ノ之束はタバコが嫌い』と言う事実が明らかになったが、だからと
言って其れは何の問題にもならないだろうな。束の嫌いなモノが明らかになった所で、『タバコが嫌い』程度では脅迫のネタにはならんからな。
其れ以前に、束を脅迫しようとしたら逆に弱点調べ上げられて逆脅迫とかしてきそうだからねぇ?……触らぬ神に祟りなし、触らぬ天災に祟りなしだわ、うん。
其れは兎も角として、既に大将戦のフィールドには闘気が満ちており、ともすればその闘気でアリーナに張られたバリアを壊しそうなレベルだ――その闘気の九割は
一夏が発したモノなんだけどね。
この時点で一夏と陽彩の実力差は言うまでもないのだが、ダブルオーライザーの力で嫁ズの機体を強制二次移行させた陽彩が何かを仕込んでいる可能性もあるの
で油断は禁物だろうな。――束の言うように、一夏が負ける事だけは絶対に無いだろうけどね。
夏と刀と無限の空 Episode48
『ISバトル最終戦!大将の激突だ!』
アリーナのフィールドでは、一夏と陽彩が闘気を高めて火花を散らしていた……イケメンが近距離で睨み合ってると言うのは其れだけで中々に絵になる光景と言える
だろう……顔は兎も角、中身には雲泥の差が有る二人ではあるけどね。
一夏は顔もイケメンならIS操縦者としてのレベルも高く、生身でも強い上に主夫力は限界突破してて嫁ズは全員を平等に愛すると決めている本物のイケメンだが、陽
彩はぶっちゃけ見るべき長所が顔だけ、百歩譲って並の代表候補生よりは強いって事位だからなぁ?そもそも比較にならんのだわ。
「臨海学校の時にくたばっとけば良かったって、後悔させてやるぜ織斑!」
「ふ、貴様に俺の相手が務まるかな?」
試合前の舌戦にも二人の差は確りと表れ、陽彩が吠えているのに対して一夏はあくまでも冷静な口調でクールに挑発する。その様は正に主人公と、倒される事しか
存在価値のない悪の組織の下っ端と言った感じだ。
一夏のセリフがアルティメット悟飯が魔人ブウ(悪)に対して放ったセリフだと言うのが一抹の不安要素ではあるが、一夏は強くなったからと言って油断して舐めプして
自ら窮地に陥るなんて事は無いから大丈夫だろう。
「すかしやがって、何処までもムカつく野郎だぜ!
今日こそテメェをぶっ倒して、二度とデカい顔出来ないようにしてやるから覚悟しやがれ!」
「デカい顔って、俺はどっちかってーと小顔な方だと思うんだが……其れを言うなら、大した実力もないクセにデカい口叩いてるのはお前の方だろ?強い奴と戦うって
のは、俺にも良い経験になるが、自分より弱い奴と戦うってのは弱い者イジメしてるみたいだから好きじゃねぇんだよな。」
「テメェ……もう謝ってもおせぇからな!!」
「こっちのセリフだ。
俺の嫁達にあんなフザケタ事言ってくれたんだ……男としての選手生命が終了する覚悟をしておけよ。」
舌戦でも一夏の方に分があるのは間違い無いだろう。
元々一夏は、舌戦はあまり得意な方ではなかったのだが、彼女である刀奈が兎に角弁が立つ上に、どんな相手でも、其れこそ教師が相手でも論破してしまうレベル
だったため、そんな刀奈と一緒に居る内に一夏もすっかり弁が立つようになっていたらしい。門前の小僧何とやらだ。
「テメェはぶっ倒す!来い、ダブルオ―!」
此処で先ずは陽彩が機体を展開。
展開された機体は、臨海学校の時と同じく黒いダブルオーライザーだが、臨海学校の時には無かったGNソードⅡが腰部アーマーの左右に一本ずつマウントされてい
るだけでなく、脚部アーマーには左右に一つずつGNカタールがマウントされている。
GNカタールはダブルオーライザーの別形態である、ダブルオ―ガンダム・セブンソードGの装備なのだが、此れは陽彩が後付けで作ったのだろう。腐り切って、カビが
生えていてもチートな頭脳を使えば此れ位は出来るらしいな。
陽彩はフェイスパーツも展開しているが、此れは多分夏姫が陽彩には『フェイスパーツはオフで』と言うのを伝えてなかったんだろうな……まぁ、陽彩が試合中に浮か
べる表情とか誰得だから別に如何でも良い事ではあるが。
「織斑、お前も機体を展開しやがれ!」
「焦るなよ?ロランも言ってただろ、『ISバトルはエンターテイメントじゃないとダメだ』ってな。
だから、只機体を展開するだけじゃなく、機体の展開にもエンターテイメント要素が必要なんだぜ?ISバトルの競技者は、優秀なアスリートであると同時に、エンター
ティナーとしても一流じゃなきゃダメなのさ。」
そう言うと一夏は『チェンジ!』と叫んで右腕を掲げ、そして掲げた右腕、腰に構えた左腕、両足、胴体の順で機体が展開されて行く……学園の生徒は、仮面ライダー
ブラックRXの変身で来ると思って居たであろう所に、予想外の機体展開と言うのは魅せ要素満載だと言えるだろう。
一夏はIS操縦者としての実力だけでなく、一流のエンターティナーとしての部分も、確りと成長させてるみたいだな。
「来いよ正義、力の差ってモノを教えてやるぜ。」
「力の差を知るのはテメェの方だ!!機体がダブルオーライザーになった以上、俺がテメェに負ける要素はゼロなんだよ!!」
そのダブルオーライザーを使って、夏休み中に生身の千冬にフルボッコにされた分際で何言ってんでしょうね此のズベ公は?
夏休み中も鍛錬を怠らなかった一夏の今の実力は、生身の戦闘ではまだ千冬には勝てないが、ISバトルだったら千冬と互角以上に戦えるレベルにまで達しちゃって
るんだわ実は。その一夏に負ける要素がゼロとか、戦う相手の実力も見抜けんのかコイツは?……いや、見抜く事が出来てたら棄権してるか。
「其れでは此れより大将戦、織斑一夏vs正義陽彩の試合を行う!Go For Broken!Fight!!」
夏姫の掛け声で大将戦が遂にスタート!
先に仕掛けたのは陽彩。腰部の後部アーマーからGNビームサーベルを取り出すと、二刀流で一夏に斬りかかる!が、一夏は朧を抜刀すると、鞘も構えて、朧と鞘の
疑似二刀流で其れに対処する。
陽彩の斬撃は其れなりに鋭いが、其れは剣道がベースになっており、より実践的な剣術を修めている一夏からすれば対処するのは児戯に等しい事だ。
そして其れだけでなく……
「右袈裟切り、左切り払いからの逆袈裟、右の斬り下ろしからの左の突きか。」
一夏は陽彩の攻撃を先読みして、次に来る攻撃を口にしながら陽彩の攻撃を捌いて行く……如何に二刀流でも、剣道の動きしか出来ない陽彩の剣技は一夏にはテ
レフォンパンチの様なモノであるのだ。
『実体剣と鞘でビームサーベルに対応して大丈夫なのか?』と思うかもしれないが、一夏の龍刀・朧には刀の刀身と鞘に束が確りと『アンチビームコーティング』をして
居るのでビームエッジにも対応出来るのである。
「オラァ、ぶっ飛びやがれ!!」
陽彩の攻撃を捌いた一夏は、一瞬の隙を突いてヴィシュヌの母から直伝された奥義を炸裂させて陽彩を蹴り飛ばすと、空中で陽彩を捕まえて両足をホールドし、そし
て両腕を自分の両足で抑えて急降下してアリーナの床に叩き付ける!此れは実に見事なキン肉ドライバーだ。
如何に絶対防御が有るとは言え、アリーナの天井付近から真っ逆さまの脳天逆落としを喰らったら只では済まず、陽彩のシールドエネルギーは今の一撃で一気に半
減してしまった。大人気超人であるロビン・マスクが『キン肉ドライバーはキン肉バスター以上の殺人技』と称したのは伊達じゃないわな。
「終わりにするぜ……!」
更に此処で、一夏が必殺の居合を繰り出して試合を終わらせようとするが……その居合が炸裂する瞬間に、陽彩が粒子となってして消えた――ダブルオーライザー
のワンオフ機能とも言える『機体の粒子化』で回避したのだ。
そして、粒子化した陽彩は一夏の背後を取って再構築され、必殺の一撃をーー!
「見えてんだよアホが。」
「なんだと!?」
放ったが其れは一夏に見事に防がれてしまった。
「馬鹿な……機体の粒子化を見切るだなんて、そんな事が出来る筈がねぇ!此れはある意味の瞬間移動だぜ?其れを見切るだなんて、そんな事があって堪るか!
機体の粒子化は最強なんだ!!」
「お前本物の馬鹿か?
確かに瞬間移動染みた能力ってのはチートレベルにヤバいモノだけど、逆に言うなら其れは漫画やアニメ、ゲームで使い古されてる能力だから対処するってのは、
実は結構楽なんだよ。
こう言った能力を持ってる奴ってのは、例外なく死角である背後からの攻撃をして来るからな……何処から攻撃が来るのかを予測して居れば、対処するのには全く
難はないぜ。」
初見殺しの機体の粒子化だが、其れすら一夏には通じず、逆に強烈な蹴りのカウンターが叩き込まれる!だけでなく、其処から垂直落下DDTを叩き込んで、完全に
一夏のペースだ。
だが……
――ガクン……
「!!(何だ、行き成り機体の反応速度が遅くなった?)」
此処で銀龍騎の反応速度が鈍くなり、一夏の動きが誰の目に見ても著しく低下したのだ……機体の不具合と言うのは考え辛いだろう。一夏と一夏の嫁ズのISは、今
朝方束が直々に調整したのだから不具合が生じることはあり得ないからな。
だが、機体の反応速度が遅くなったと言うのは一夏にとっては嬉しくない事この上ないだろう……自分の思い通りに機体を動かせないってのは、ISバトルに於ける死
亡フラグだからね。
「漸く効いて来たか……織斑、俺のダブルオーライザーの能力を使って、テメェの機体と強制的に共鳴させて、機体反応を鈍くさせて貰ったぜ!機体を思うように動か
せないってのはどんな気分だ?」
「お前の小細工か……ならば敢えて言おう、最高にハイって奴だ!!」
其れは、陽彩の仕業だった。
ダブルオーライザーの『人と繋がる力』を逆利用して、陽彩は嫁の機体を強制的に二次移行させ、この試合では其れを応用して一夏の機体の反応速度を大幅に低下
させて来たのだ。
陽彩的には機体性能を低下させれば勝てると思ったのだろうが、其れを受けた一夏は焦るどころか逆にテンションが上がっている――此処に陽彩の見誤りがあった
と言えるだろう。
普通は、自分の機体の反応速度が低下したとなれば焦るモノだが、一夏は焦るどころか其れすらも呑み込んで己の糧にしようとしているのだ……まぁ、確かに『自分
の思うように動かせない機体』を自在に動かす事が出来れば、自分の思うように動かせる機体ならば更に良い動きが出来るようになって鬼に金棒だからな。
この『どんな事でも己の糧にする』と言う、直向きさと貪欲さが一夏の強さの根っこを支えていると言っても過言ではあるまい……そうやってあらゆる事を糧として成長
して来た筈なのに、何故に未だに射撃の腕前だけは1mmも成長しないのかが些か謎ではあるが。
「テメェ、少しくらい焦りやがれ!」
「はぁ?予想外の事態が起きた程度で慌てふためくなんてのは、二流・三流のやる事だろうが。
序に言っとくと、お前が小細工無しで勝負して来る筈がないと思ってたからな。この程度の事で一々驚くかってんだ。銀龍騎の反応が鈍いのも、重りを付けてフィジ
カルトレーニングしてると思えば如何って事ないしな!」
機体の反応が鈍くなっても何のその!多少動きは鈍くなったモノの、一夏は陽彩と互角以上に斬り合う!
反応が鈍くなった機体を使っても、ダブルオーライザーの動きに付いて行くとは一夏の底力も大したモノだが、この状態で圧倒出来ない陽彩の実力は底が見えてると
言っても過言ではないだろう。
「二次移行しても、如何やらお前の機体は借り物に過ぎないみたいだな。」
「何だと!?」
「確かにそいつは高性能の機体なんだろうが、お前は全く其の力を使い熟せてないんだよ、俺達と違ってな。
ISってのは只の機械じゃない。操縦者と機体が一つになって初めてその性能を十全に発揮出来るモンなんだぜ?其の力を発揮しきれてないお前じゃ、その機体は
自分の物になってない借り物なんだよ!
借り物の力で、俺に勝てると思うな!」
近距離の剣劇を行っていた最中、行き成り一夏が鋭い横蹴りを陽彩に叩き込み、更にヴィシュヌの母直伝のコンボでブッ飛ばし、其のまま全体重を乗せた兜割りを喰
らわせて陽彩をアリーナの床に叩き付けて大ダメージを与える!
今の攻撃でダブルオーライザーのシールドエネルギーは一気に3000ポイントも減ってしまった。
「……俺のシールドエネルギーも減ってる、だと?」
だが、銀龍騎のシールドも大幅に減っていた。其れも、ダブルオーライザーの倍の6000ポイントもだ。
「今のは効いたぜ織斑……だが、一つだけ言い忘れてた。
ダブルオーライザーの干渉で、お前の機体の反応速度を鈍くしただけじゃなく、俺のシールドエネルギーが減った場合、その倍のシールドエネルギーがお前の機体
から減る様に操作させて貰ったぜ?」
「シールドエネルギーの操作って、流石に其れは反則じゃねぇのか?」
「この試合の後で反則になるかも知れないが、今は未だ反則には認定されてねぇからアリなんだよ!
さぁ、如何する織斑?攻撃しなきゃ俺を倒せないが、俺に攻撃したらお前のシールドエネルギーは俺の倍の速度で減少するぜ?流石に打つ手がないだろ?諦めて
降参しな!降参すれば丸坊主にだけはしないでやるよ!」
「はぁ?誰が降参なんかするかよ馬鹿野郎。お前如きに降参する位なら、死んだ方がマシだぜ……あ、お前に殺されて死ぬのだけは絶対に嫌だけど――って、俺が
お前に殺される事なんてある筈ないか。」
此れもまた陽彩の小細工だった様だが、其れでも一夏は余裕の態度を崩さずに『来いよ』と手招きをして陽彩を煽る。
逆に陽彩は、この絶対的に不利な状況でも余裕を崩さない一夏に苛立ちがマックスになってGNビームサーベルの二刀流で斬り掛かるが、一夏は其れを朧と鞘の疑
似二刀流で完全にガードして決定打を与えさせない。
陽彩にダメージを与えたら倍のダメージを受けてしまう状態なので攻撃は出来ないが、機体の反応が鈍くても陽彩の攻撃をシャットダウンする位は造作も無いのだ。
だが、傍から見れば陽彩が押しているように見える試合展開に、一組の生徒達は歓声を上げる。陽彩が初めて一夏に勝てるかも知れないからね。(一夏と陽彩の会
話は、陽彩がプライベートチャンネルで話しかけて来たため一夏と陽彩以外には聞こえてない。)
逆に其れ以外の生徒――特に一夏の嫁ズは、突然一夏が防戦一方になった事と攻撃を喰らってないのに銀龍騎のシールドエネルギーが突然6000ポイントも減少
した事に疑問を持っていた。
もっと言うなら、嫁ズは一夏の動きが僅かに鈍くなった事も見抜いていた。
「一夏の動きが少し悪いわね?其れに如何して行き成りシールドエネルギーが……?」
「まさか、彼が何か小細工を?」
『其れは正解だよヴィーちゃん!』
で、此処で我等が天災束が一夏の嫁ズに通信を入れて来た……ISの生みの親だけに、一夏の銀龍騎に起きている異常には逸早く気付き、其れが一体何なのか解
析したのだろう。……銀龍騎に異常が生じて五分程度なのに解析完了とか、天才マジ天才である。
「其れは、如何言う事だい束博士?」
『簡潔に言うとね、アイツの機体には二つのISコアが搭載されてるんだけど、如何やらその二つのコアを共鳴させる事で他のISに干渉出来るみたいなんだよ。
元愚妹をはじめとした、アイツの取り巻きの機体が二次移行したのも其れを利用したんだろうけど、アイツは其の力を使っていっ君の機体に干渉して、反応速度を
鈍くした上で、更に自分のシールドエネルギーが減った時に銀龍騎のシールドエネルギーがその倍の数値減る様にしてるみたい。
だからいっ君は攻撃出来ないんだよ。』
「「「「「!!」」」」」
束からもたらされた情報に嫁ズは思わず息を呑んだ――だって其れは如何考えても反則技だったのだから。
機体の反応速度を鈍くすると言うのは、相手の動きを完全に止めてしまうAICが現在は認められているのでギリギリOKかも知れないが、シールドエネルギーの操作と
言うのは反則極まりないだろう。
千冬が現役時代は認められていた『零落白夜』も、今のISバトルのルールでは禁止になっているのだから。
「そんな!攻撃出来ないんじゃ一夏が勝つ事は出来ないわ!如何にか出来ないんですか束博士!」
『二つのコアを共鳴させてるとなると私でも流石に干渉は出来ないかな。
でも、アイツが二つのコアを共鳴させていっ君の機体に干渉してるって言うなら、其れを上回るコアの共鳴でアイツからの干渉をシャットアウトする事は出来る。』
「二つのコアの共鳴を上回るコアの共鳴とは?」
『君達の機体を調整、改良する際に、いっ君の機体と共鳴して二次移行したあの現象を利用した機能を嫁ちゃん達の機体に搭載したんだよ。
だから、君達の機体に君達の想いを込めるんだ……その想いが、いっ君の窮地を救う事になるんだよ!』
「私達の想いが……」
だが、此処で束が調整、改良する際に新たな機能を追加した事を明らかにし、其れを使えば一夏の今の状態から解放出来ると告げる……あの奇跡的な二次移行を
使った新たな機能を作ってしまう辺り、束の手に掛かれば奇跡すら再現出来るのかもしれないな。
「皆!」
「分かっているよ刀奈。」
「私達の想いを一夏に!」
「私達の想いで……」
「一夏と銀龍騎の呪縛を破壊する!」
そして刀奈の号令で、嫁ズは待機状態の専用機を両手で包み込んで、祈る様なポーズを取り、気持ちを一つにする――彼女達が思った事は只一つ、『一夏、負けな
いで!』と言う事だ。
其れは同時に、嫁ズの気持ちが一つになった事であり、その瞬間に彼女達の待機状態の専用機が光り、それに呼応するように銀龍騎も光を放つ!
「ぐ……な、何だよ此の光は!!」
「此れは……刀奈、ロラン、ヴィシュヌ、グリフィン、クラリッサ?……お前達が力を貸してくれるってのか?……なら、有り難く使わせて貰うぜ其の力!!」
――カッ!!
【推奨BGM『Break the Chain』】
「銀龍騎・刹那、共鳴進化ぁぁぁぁぁ!!――銀龍騎・雷帝!」
その光が治まった時、銀龍騎・刹那はその姿を変えていた。
銀色だった装甲はガンメタルブラックになり、オフになっていたフェイスパーツも展開されてカメラアイは黄色から紅になって、更に機体の周りには稲妻の様なオーラを
纏っている。
「んな、此処で三次移行だと!?」
「いや、コイツは三次移行じゃねぇ……刀奈達の想いが一時的に俺を強くしてくれたんだ――そんでもって、お前からの干渉も受け付けなくなったみたいぜ正義?」
「なんだとぉ!?」
此れこそが束が仕込んだ『コアの共鳴を使った強化』だ。
三次移行ではなく、一時的な強化であり、試合が終われば元に戻ってしまうモノだが、逆に言うならば限定的な強化なので性能的な事を言うのであれば三次移行よ
りも上かも知れないな。
序に、一夏が言っていたようにダブルオーライザーからの干渉も受け付けなくなったらしく、一夏の動きにキレが戻る――干渉を受ける前の機体の反応速度に戻った
ようだ。
「一夏、私の力を使って下さい!!」
「あぁ、有り難く使わせて貰うぜ!」
この強化状態は、嫁ズの機体の能力も使える様になっているらしく、先ずはヴィシュヌの機体のシールドエネルギー回復能力『スーパーフェニックス』を使って、シール
ドエネルギーを回復すると、これまたヴィシュヌの機体の発火能力を使って火炎弾を放つ!
陽彩は其れをGNビームサーベルで切り裂くと、GNソードⅢに搭載されたビームライフルを一夏に放つが……
「一夏、今度は私の力を使って!」
銀龍騎が一瞬光ったかと思ったら、ビームを反射!此れはグリフィンの機体に搭載されたビーム反射装甲の力だ。
「この力、お前に託すぞ一夏!」
「私の力も使っておくれ、一夏!」
「あぁ、受け取ったぜクラリッサ、ロラン!先ずはクラリッサの力……スタープラチナ・ザ・ワールド!時は止まる!」
更に此処で、一夏はAICを発動して陽彩の動きを完全に止める……進化したAICならば、陽彩を捕らえるのは難は無かった。
そして其れで終わらず、一夏は陽彩の周りを飛び回ってビームダガーと、ロランの機体から齎された各種グレネード(火炎弾、硫酸弾、氷結弾)を投げつける!!
それらは停止結界内に放り込まれたので動きは止まったが、AICが解除された時には纏めて陽彩に向かうようになっているのだ。
「見えてる事が逆に恐怖だろ?再び時は動き出す。」
此処で一夏がAICを解除し、無数のビームダガーとグレネードが陽彩を襲う!
流石に其れを全て迎撃できない陽彩は、粒子化を使って其れを回避するが……
「其れも読んでたぜ正義!!」
「織斑!!」
回避した先に一夏が現れ、空中で陽彩をサブミッションに絡め取る……右足を首に、左足を左足にホールドして両腕をチキンウィングに極めるこの技は、キン肉一族
の最大の奥義にして、正義超人軍の至宝の必殺技だ。
「7000万パワーマッスルスパーク!!」
「げぼらぁ!?」
その最大の必殺技を極めた一夏だが、しかしまだ陽彩のダブルオーライザーのシールドエネルギーは尽きていない……流石は腐っても『最強のガンダムはドレ?』と
いう話題になった時にその名が挙がるだけの事はある。……或は、マッスルスパークが『相手を戦闘不能にしつつも絶対に殺さない技』だからシールドエネルギーが
残ったのかもしれないが。
「一夏、此れでトドメよ!」
「刀奈……OK、此れで終わらせるぜ!!」
此処で刀奈から力を貰った一夏は、三十体の分身を生み出すと、其処にヴィシュヌから受け継いだ発火能力を加えて、ゴッドフェニックスの乱れ打ちをぶっ放し、そし
て陽彩のダブルオーライザーのシールドエネルギーを更に大幅に減らす!残るシールドエネルギーは僅か二桁だ。
「クソが……負けられるかよぉ!!ライザーソード!!」
追い詰められた陽彩は、GNソードⅢにビームを纏わせて巨大化させたライザーソードで一夏を攻撃するも、一夏は其れを難なく避けてビームダガーを放ち、更にイグ
ニッションブーストで距離を詰めて斬り掛かってくる――もう後一度でも攻撃を受けたらシールドエネルギーがエンプティーになってしまう陽彩は、粒子化で其れを避け
ると、大きく離れた場所で再構築して仕切り直そうとする。
「クソ、如何してこんな……!」
既に陽彩の苛立ちは限界に達していた。
陽彩の予定では、機体の反応速度を鈍くしてやれば簡単に勝てる筈だったのに、一夏は反応速度が鈍くなった事など関係なく動き、自分のシールドエネルギーが一
夏の攻撃で減った場合は一夏のシールドエネルギーはその倍減る事に関しても、自分からは攻撃しないで徹底した防御で陽彩の攻撃を完全にシャットアウト。
其れだけならば時間切れの判定でギリギリ勝てたのだが、一夏の機体が光ったと思ったらその姿を変え、ダブルオーライザーからの干渉を遮断しただけでなく、嫁ズ
の機体の能力やら特殊グレネード弾まで使って来たのだ……完全に自分のシナリオには無かった展開に陽彩の苛立ちは最高潮になってるのだ。
「お前何なんだよ!如何して、如何してお前は負けねぇんだよ!!お前は、俺にぶっ倒されるべきなんだ!!!トランザム!!」
「フリーザ様みたいな事言ってんじゃねぇよ……そろそろ終わらせるぜ?界王拳!!」
此処で一夏はリミット・オーバーを、陽彩はトランザムを発動して、互いに機体の性能を三倍にした状態に!
リミット・オーバーは攻撃力とスピードが三倍になる代わりに防御力が半減し、トランザムは発動中のステータスダウンは無いが、制限時間があり、効果が切れると一
時的に機体性能が半減すると言う、互いにデメリットがある強化だが、防御力は半減しても制限時間の無いリミット・オーバーの方がやや上だろう。
防御力半減のデメリットも、一夏の実力ならば相手の攻撃を全て防御、或は三倍になったスピードで難なく回避出来る訳だからな。
「オラァ!!」
「く、GNソードⅢが……だが!!」
その超高速バトルの中、一夏は陽彩のGNソードⅢを叩き折るが、陽彩も即座に腰のGNソードⅡを連結させて次の攻撃に対応する――モノの、一夏は其れを蹴り飛
ばして陽彩の武器を再び奪う!
そして――
「終わりだ正義……行くぜ!多重九頭龍閃!」
「!!」
一夏は無数の分身を作り出すと、朧の刀身に炎を宿して超神速の突進乱舞剣技を繰り出す!
防御も回避も不可能な九頭龍閃が多方向から繰り出されたら、其れはもう即死技でしかないだろう――リミット・オーバーでスピードが三倍になってるなら、それはも
う、如何やっても見切る事は出来ないからな。
「月華の元に、散るが良い。」
攻撃を終えた一夏が納刀すると同時に、ダブルオーライザーのシールドエネルギーがエンプティになって試合終了!
陽彩の小細工によって6000ポイントのシールドエネルギーを失いはしたが、一夏は一度も被弾する事無く、更に銀龍騎・雷帝になった後はシールドエネルギーを全
回復しているので、パーフェクト勝利だと言っていいだろう。
――シュゥゥン
そして、試合が終わると共に、銀龍騎・雷帝は銀龍騎・刹那に戻る……一時的な強化だと言うのは本当だったみたいだな。
ともあれ、生徒会が企画したISバトルは一夏組の全勝で幕を閉じた――大穴を狙ったギャンブラーと一年一組の生徒は真っ白な灰になっていたが、其処は陽彩の勝
ちに賭けた方が悪いとしか言いようがないわな。
んで、試合後に勝者から敗者への絶対命令が行われたのだが、グリフィン以外は全員がシャルロット以外に『今後一切関わるな』と言う事を命じて、グリフィンはシャ
ルロットに『ステーキ定食奢って』と言っていた……グリフィンの命令は大分優しい様に思えるが、グリフィンはサーロイン1㎏を頼む心算なので、財布へのダメージが
ハンパないだろう。
そしてその後で、陽彩の公開丸刈りが行われ、一夏は宣言通りにバリカンのアタッチメントを外して1mm坊主に仕上げた……のだが、結果として金髪坊主と言う威圧
感がハンパない事になってしまった。此れで眉毛を剃り落としてスーツ着せたら普通にヤクザだわな。
一夏組の全勝で終わったISバトルは大盛り上がりを見せ、最後に一夏組が全員揃って勝利のポーズを決めて大盛況で終わったのだった。
――――――
その後の学園祭は、一日目と同様にコメット姉妹のライブで盛り上がりを見せた後に終了となったのだが、学園の生徒にとっての学園祭は終わっていない。
「二日間お疲れ様だった。
皆のおかげで、今年の学園祭も大盛況で終わったよ――今宵は、其れを労う為の宴を用意させて貰った。全員、思う存分楽しんでくれ。では、乾杯!」
「「「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」」」」
講堂には生徒と教師が集まり、壇上に上がった夏姫の号令で学園祭の打ち上げパーティがスタート!此の打ち上げパーティは、学園の生徒又は教師しか参加出来
無いイベントであり、逆に言えば学園関係者の特権とも言えるイベントだ。
立食パーティ形式の打ち上げだが、バイキング形式のメニューには、寿司にピザ、唐揚げにフライドポテト、色取り取りの様々なサラダ、野菜スティックと言った定番メ
ニューだけでなく、複数のバーベキューコンロが設置されて焼きたてのステーキも堪能出来る様になっている。
「サーロイン1kg、レアで宜しく!」
「どうも皆さん、織斑一夏です。
今日はIS学園の学園祭の打ち上げパーティの様子を生放送してるんですが……俺の嫁の一人のグリフィンは、行き成りステーキ1kgを行くようです。」
でもって、一夏は此の打ち上げパーティの様子をヴィシュヌと共に生配信していた……巨大なステーキを豪快に食べるグリフィンの姿は色々とバズリそうではあるな。
その後も打ち上げパーティは続いて、カラオケ大会まで開催されたのだが、此れは一夏とクラリッサが『夕陽と月~優しい人へ~』を熱唱してぶっちぎりの一位に!!
このえパートをクラリッサが、庵パートを一夏が熱唱した訳だが、一夏が『どんな、夢を見て眠るのか』と歌った時には女子の多くがKOされたからね……イケボの歌声
は最強ですねマジで。
――――――
講堂で打ち上げパーティが行われていた頃、陽彩は一人海が見える高台に来ていた。
一夏に完全敗北し、頭を丸刈りにされた状態では打ち上げパーティに参加する気には到底なれなかったのだが、其れ以上に試合中に見せた一夏の強化が、冷静に
なった後で考えると、自分と一夏の差をまざまざと見せつけられた気がしてしまったのだ。
「(あの強化……楯無達が一夏に力を貸したって事だよな?……俺が同じ状況なった時、俺は同じ強化が出来るのか?……出来ねぇよな多分。)」
特に、一夏の一時的な強化には其れを感じずには居られなかった。
陽彩も一夏も嫁が五人いる状態だが、一夏と嫁ズが互いに愛し合い、その絆を確かなモノにしているの対し、陽彩の嫁ズはシャルロットを除いて、『誰が陽彩の一番
なのか』を争っており、絆なんてモノは皆無なのだからな。
「クソ、認められるかよ!こんな事ある筈がねぇ!俺は一夏以上の主人公の筈だ!其れなのに、何で勝てねぇんだよ!!」
「そんなの決まってんじゃん、お前は主人公じゃなくていっ君の踏み台に過ぎねぇからだよ。」
「!?」
身勝手な事を喚き散らす陽彩の耳に聞こえて来たのは聞き覚えのある声であると同時に、今この状況では最も聞きたくない声だったかも知れない――その声の主
は稀代の『天才』にして『天災』のモノだった訳だからね。
「し、篠ノ之束……!」
「もすもす、ひねもす、ハローハロー!皆のアイドル束さん参上!!君と会うのは臨海学校以来だね、二人目の男性操縦者君?」
フレンドリーに陽彩に話しかける束だが、その目は全く笑っていない――と同時に、陽彩は理解してしまった……自分は一夏を倒す事に固執して、束の存在を忘れて
居たと言う事に。
そして、束は自分のお気に入りを傷付けられた時には容赦ない沙汰を下すと言う事も。
「あ……あっぁあぁぁぁぁぁ!!」
『心臓を鷲掴みにされた』とは今の陽彩の事を言うのだろう。
束と相対した陽彩は、己が想像した絶望から膝を折って頭を抱えてる訳だからな……逆に束は、そんな陽彩を絶対零度の目で見てる訳だけどね。
「さてと、二人目君……イキナリだけど、少し頭冷やそうか?」
「回避不能な死亡フラグ!?」
ですね。
取り敢えず、今此処で束による陽彩への裁きが行われるのは間違い無いだろうな――果たして束はどんな判決を下すのか、生半可な判決でない事だけは確実だと
言えるだろう。
転生特典に胡坐を掻いて、好き勝手生きて来た転生者に、遂に真の裁きの時が訪れたのだった……
To Be Continued 
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