残り少ない七月はあっと言う間に過ぎて夏休み……の前に、待っていたのは夏休み前の最大の敵と言っても過言ではない期末考査!IS学園と言うのは極めて特
殊な学園であるとは言え、基本カリキュラムは通常の高校に倣っているので、普通に中間考査や期末考査は存在しているのだ。
通常の高校と違う点を挙げるとすれば、其れはIS関連の試験があると言う事だろう。
此の期末考査の成績によっては、夏休みが消える事も有り得るのだが、一夏チームは全員が無事に試験を突破していた。
一年のトップは刀奈……ではなく簪だ。実技では刀奈の方が上だが、座学に於いては実は簪の方が上だったりするのだ。――まぁ、其れに次ぐ学年二位が刀奈で
あり、其処からヴィシュヌ、ロラン、一夏と続き、見事に一夏と一夏の嫁ズはトップ5に名を連ねた訳だ。――円夏と乱とコメット姉妹も、トップ10に名を連ねてと言うの
は凄い事だろう……乱とコメット姉妹は飛び級だしね。
二年の学年トップは生徒会長の蓮杖夏姫で、次いで虚、グリフィンと言う感じだ……取り敢えず、一夏チームは頭脳面でもレベルが可成り高いと言えるだろう。
なので、誰一人補習を受ける事なく、無事に夏休みに突入した訳だ。
シャルロットを除く陽彩チームの面々は、一学期の残りの期間は懲罰房で謹慎中なので、授業も受けられなければ試験も受けられないので補修は確定!まぁ、元
々コイツ等には夏休みなんぞ存在してないがな。
で、夏休みに入ると同時に、ヴィシュヌ、ロラン、グリフィン、クラリッサは夫々の本国に帰国した――機体が二次移行した事は通信で伝えていたとは言え、矢張り一
度本国に直接見せた方が良いと言う事で帰国したのである。二次移行機の詳細なデータも取っておいた方が良いしね。
「スマホと着替えと手土産……持ってく物は、此れ位で良いか。」
そんでもって、夏休み三日目の本日、一夏は旅行用の荷造りをしていた。大きなキャリーバッグを用意しているのを見る限り、長期の旅行に行くのだろう。
では何処に行くのかと言うと、ドイツ、ブラジル、タイ、オランダの四ヶ国……そう、刀奈以外の嫁ズの祖国である。
何をしに行くのかと言うと、其れは勿論彼女達の家族に現在交際している事&将来結婚する事を報告+挨拶をしに行くのだ。まぁ、彼女達の方から家族に話してい
るかも知れないが、『直接会って挨拶とかした方が良いよな』と考え、一夏は夏休みを利用して彼女達の実家(クラリッサに関しては実家と言って良いのか分からな
いが……)を訪れる事にしていたのだ。
パスポートに関しても、夏休み前に申請手続きはしていたので、夏休みに入ってすぐに取得出来たので問題はない……只一つ問題があるとすれば――
「これから暫く兄さんと会う事が出来ないとは……」
円夏である。
超絶ブラコンの円夏にとって、暫く一夏と会う事が出来ないと言うのは一週間水と塩だけで過ごす事よりも辛く厳しい事である――『ならお前も付いて行けば良いん
じゃね?』と思うだろうが、円夏的には『兄さん達の邪魔をしたくない』と言う思いもあるので日本に残ると言う苦渋の選択をしたのだ。そう言う選択が出来るのは偉
いと思うが、何とも面倒なブラコン妹である。
「十日ちょっとだろ?あっと言う間だって。ちゃんと連絡は入れるからそんな顔すんなって。一人が嫌なら刀奈達の所に行けばいいだろ?」
「そう言う問題じゃない!兄さん分が足りなくなるんだ!!」
「人を謎の栄養分みたいに言うな?」
若干の兄妹コントが発生したが、最終的には円夏が『まぁ、嫁さん達の家族に宜しくな』と言ってお終いとなり、一夏は家を出て空港に向かった。
何時もならオータムが陰ながら付いて行く所なのだが、今回は丁度オータムも別件の仕事が入ったため今回は居ない……まぁ、その代わりに束が作った護衛用ア
ンドロイド『T-はっぴゃっ君』が護衛に付いて居るのだが。コイツは果たして空港の金属探知機に弾かれないのか気になるわ。
因みに四ヶ国を訪れる順番は、ドイツ、ブラジル、タイ、オランダの順であり、此れは一夏のパートナーになった順番と逆の順番だ。ヴィシュヌとグリフィンは同時だっ
たのだが、総合移動距離を考えてこの順番になった訳である。あと、日本に帰って来た時の時差ボケの事も考えてね。
何にしても、一夏は無事に空港に到着し、国際線のターミナルからドイツのフランクフルト国際空港行きの便に乗って、最初の目的地であるドイツへと旅立ったので
あった。
尚、T-はっぴゃっ君も無事に搭乗は出来たようだが、一体どうやって金属探知機を突破したのか些か謎である。
夏と刀と無限の空 Episode32
『交際報告Ⅰ~先ずはドイツだぜ!~』
日本を出発してから十二時間、特にトラブルもなくフライトを終え、一夏を乗せた便はドイツのフランクフルト国際空港に無事到着。『どうせなら快適な旅が良い』と言
って千冬が『ビジネスクラス』を手配してくれたおかげで、非常に快適な空の旅を堪能出来たようだ。
時差も考えて夕方十七時の便で出発したので、ドイツは現在午前九時、早すぎず遅すぎずの良い時間と言えるだろう。
「三年ぶりのドイツか……あの時は、こんな形でもう一度来る事になるなんて夢にも思わなかったよな。」
一夏にとって、ドイツは特殊な場所だ。
三年前の第二回モンド・グロッソの際に、姉の千冬を応援する為に円夏と共に訪れ、そして其処で刀奈と共に誘拐され、そして偶然とは言えISを起動してしまったと
いう場所であり、誘拐された事が刀奈との馴れ初めでもあるので良くも悪くも思い出に残っている場所なのだ。……世界広しと言えど、馴れ初めが『揃って誘拐され
た』なんてカップルは一夏と刀奈位なモンだろうね。
そんな思い出深い地に、今度は愛する女性の家族同然の存在に会いに来ている……そう考えると、一夏自身何かドイツに運命染みたモノを感じているのかもしれ
ない。
先ずは入国審査なのだが、此れはマッタク問題なくパス出来た。と言うのも、一夏が日本人だったからだ。
日本のパスポートは世界で見ても信頼性が極めて高く、世界中の殆どの国で、日本人はパスポートを見せて入国理由を言えば入国審査が通ってしまうのだ。日本
人が、ドレだけ安全で信頼出来る人種なのかと言うのが良く分かると言えよう。
荷物検査も問題なくパスし、金属探知機も待機状態のISと腕時計、ベルトのバックル程度なので全然余裕でクリアし、無事にドイツに入国出来た。
「待っていたぞ一夏。ようこそドイツへ。」
「クラリッサ、迎えに来てくれてたのか。」
空港のロビーに行くと、其処では既にクラリッサが待っていた。『何処の空港行きの便に乗ったのか』、『到着予定は何時であるか』は伝えておいたので、迎えに来
てくれたのだろう。……まぁ、一夏に『一人でドイツ軍の基地まで来い』って言うのは無理があるから迎えに来るのは当然だが。
「初めて会った時は一夏が迎えに来てくれただろう?だから今度は私の番だ。
黒兎隊の基地があるのは首都のベルリンなのだが、此のフランクフルトからは結構距離がある。ただ移動すると言うのもツマラナイから、観光もしようかと考えて
いるんだが、如何だろうか?」
「其れは良いな?
前に来た時は観光してる暇はなかったからな。色々案内してくれよ。有名な所だけじゃなく、クラリッサのお勧めの場所とかな。」
「私のお勧めの場所か……責任重大だな。」
合流した一夏とクラリッサはそんな事を話しながら空港内を進んで行く……フランクフルト国際空港はメッチャでかいから場所によっては出口まで結構歩く事になる
んだわ此れが。
因みに本日のクラリッサは何時も学園で着ている黒兎隊の制服ではなく、ドイツ軍の軍服姿で、靴も低めのヒールではなく軍靴だ。……低めのヒールを履いている
と一夏より背が高くなってしまう事を実は気にしているのかも知れないな。
「時に一夏、朝食は済ませてしまったか?」
「いや、ギリギリまで寝てたから朝の機内食は食べてない。」
「なら、ラウンジで軽めの朝食と行かないか?
実を言うと、今日は中将殿から休暇を言い渡されていてね、恥ずかしながら寝坊してしまって私も朝は抜いて此方に来たんだ。腹が減っては戦は出来んと言うだ
ろう?」
「微妙に間違ってる気がしなくもないが、確かに腹減りだと困るよな。」
移動する前に、先ずは空港のラウンジで腹ごしらえと言う事になり、ライ麦の黒パンとコーヒー、そしてクラリッサお勧めのドイツのB級グルメ『カリーブルスト』で朝食
を済ませた。
適当な大きさにカットしたソーセージを焼いて、こんがり焼き上がった所にケチャップとカレー粉を掛けただけのカリーブルストだが、ケチャップだけでなくカレー粉をソ
ーセージに掛けると言うのが一夏には新鮮だったらしく追加注文をしていた。……此れは確実に一夏のレシピにカリーブルストのアレンジメニューが追加されただろ
うね。
朝食を済ませた二人は空港を出ると駐車場に向かう。
此処からは車での移動になるのだが、クラリッサに案内されてやって来た場所にあったのは軍用車、ではなくドイツが世界に誇る高級車であるポルシェだった。
しかも只のポルシェではなく、車体全体に遊戯王の『霊使い』が描かれた、所謂『痛車』のポルシェだ……間違いなくクラリッサの車なのだろうが、高級車のポルシェ
を痛車にするってのはある意味で凄いわ。
「これ、クラリッサの車なのか?」
「あぁ、そうだが、如何かな?」
「中々のお手前で。ボンネットに霊使いの一番人気であるエリアを持って来たのは大きいな。」
「お褒めに預かり光栄だ。」
でもって一夏もクラリッサが簪とタメ張るレベルのヲタなのを知っているので其れには突っ込まず寧ろ褒める。
世間ではオタクは陰キャだとかなんとか言われているが、其れは一部のヒキニートのキモヲタであり、真のヲタは逆にヲタライフを楽しむためにイベントには積極的に
参加したり、痛車を作ったり、趣味のホームページを作ったりと決して陰キャではないのだ!!ヲタに対する偏見を俺は焼き付くしてやりたいぜ!!
っと、そんな事は良いとして、超特徴的なポルシェに乗り込むと、空港を後にして寄り道をしながらベルリンにある黒兎隊の宿舎に向かう。――観光の名所を見て回
ったが、ベルリン市内に入った所で、クラリッサが『私のお勧めの場所に案内する』と言って連れて来られたのは、嘗てドイツを東西に分断していた『ベルリンの壁』
があった場所だ。
一夏もクラリッサも、ベルリンの壁が存在して頃のドイツは知らないが、ベルリンの壁が崩壊した事でドイツに真の平和と自由が訪れた事は知っていた……そして、
その壁が齎した悲劇も。
ドイツにとって負の遺産であると同時に自由への一歩でもある此の場所がクラリッサのお勧めの場所だと言うのは、何となく一夏も理解出来た。
だからこそ……
――パン!パン!
一夏はそこで柏手を打つと手を合わせ、この壁のせいで犠牲になった者達に祈りを捧げる……そして、其れに倣う様にクラリッサも一夏と同じように手を合わせ、そ
して祈りを捧げる。
死者への祈りは大切だ、人としてのマナーだ。古事記にもそう記されている!……と言うのは良いとして、祈りを捧げた一夏とクラリッサはいよいよ黒兎隊の本拠地
に到着だ。
軍用車ではない車が入って来た事で、ゲートで兵士に止められたが、クラリッサがウィンドウを開け『黒兎隊隊長のクラリッサ・ハルフォーフだ』と告げるとアッサリと
ゲートを通過出来た……のは良いのだが、黒兎隊の隊長って言ったか?
如何やら、クラリッサは臨海学校での一件を詳細は省くも、ラウラが命令違反を犯し、その結果一夏が死に掛けたと言う事をドイツ軍に伝えたらしく、其れを聞いたド
イツ軍は、ラウラを少佐から少尉にまで降格させ、大尉であるクラリッサを黒兎隊の隊長にしたらしい。
序に『これ幸い』とばかりに、ラウラの『性能』を誇って彼女を黒兎隊の隊長に就かせた連中も一線から切り離した……黒兎隊にとっても軍全体にとってもラウラを作
った連中は幅を利かせ過ぎていたのでラウラの降格と隊長職の剥奪は彼等を退かせるには充分な材料だった訳だ。
尤も、クラリッサが隊長になったのは黒兎隊にとってもプラスだったらしく、ラウラが隊長だった頃よりも部隊の雰囲気が柔らかくなっていたりする……ラウラの場合『
力こそが全て!』ってな考えで、力で部隊を支配してた訳だから、部隊内の雰囲気が良い筈ない。クラリッサが副隊長としてフォローしてなかったら黒兎隊は、何れ
空中分解していた事だろう。
「クラリッサ、何時の間に隊長になったんだ?」
「此方に戻ってきて直ぐに辞令があってね。直ぐに教えても良かったのだが、少し驚かせようと思って秘密にしていたんだよ。」
「なら大成功だな。驚いたぜ……まぁ、俺としてはあの銀髪チビよりもクラリッサが隊長の方が良いと思ってたから、ちょっと今更かよって感じもするけどさ。」
「上も、此れ以上彼女を隊長にしておく事は出来ないと判断したのだろう。最近の彼女の行動は目に余るものがあったからね。
では一夏、先ずは我が黒兎隊の最高司令官である中将殿を紹介しよう。私達黒兎隊の隊員にとっては、父親みたいな存在だ。」
「父親みたいな存在か……逆に緊張するな其れは。
黒兎隊の隊員にとって父親みたいな存在って頃は、その中将さんからしたら、黒兎隊の隊員は娘みたいな存在って事だろ?『お前の様な男に、娘はやらん!』と
か言わないよな?」
「其れは心配ないよ一夏。前に一夏の事を話したら、『会うのが楽しみだ』って言っていたからね。」
先ずは黒兎部隊の基地の最高司令官である中将を紹介される事になった一夏だが、『父親の様な存在』だと聞かされて、流石に少しばかり緊張しているみたいだ
な?まぁ、確かに野郎が彼女の実家に挨拶に行くってのは緊張するモノだし、相手が父親だと尚更だろう。
刀奈の時は、『刀奈と交際する?一夏君ならば安心だな』ってな感じでアッサリとOKだったのだが、此れは一夏が更識ワールドカンパニー所属のISパイロットとして
訓練していたから更識両親とも顔を会わせて話をする機会が多く、其の中で一夏の人柄を分かって貰えたからであって、普通はそうアッサリとは行かない場合も有
るのだ。
そんな一夏に『大丈夫だ』と告げると、クラリッサは扉をノックして自分の名を言うと、入室許可を求め、直後に『入って来たまえ』との声がし、扉を開けて入室。
中に居たのは、四十代半ば位の男性で、背は百九十近くあるだろうか?軍人らしくガッチリとした体型と口元のヒゲが印象的だ。
「待っていたよ大尉。そして織斑一夏君。
私が黒兎隊の総司令である、エドワード・デュランダルだ。今日はよく来てくれたね。」
「はじめまして、織斑一夏です。お会い出来て光栄です中将。あ、此れ良かったら部隊の皆さんとどうぞ。」
「此れは、お気遣い感謝する。」
少しばかり緊張していた一夏だったが、いざ室内に入ると緊張が吹き飛んだのか、ごく普通に挨拶をして中将――エドワードと握手を交わし、持参した手土産を渡し
て最初の掴みは良い感じだ。
エドワードの方も、クラリッサが言っていたように一夏と会えるのを楽しみにしていたらしく、表情はにこやかだ……短く刈り揃えた金髪に髭と言う厳つい顔立ちのせ
いで、その笑顔が若干怖いモノに見えなくもないが。
「いやはや、しかし大尉が君に選ばれたと知った時には驚いた。
男性操縦者重婚法が制定された際、当然ドイツも貴重な男性操縦者――特に、織斑教官の弟である君の方により優秀な人材を見合い相手としてデータを送った
のだが、まさか選ばれるとは思わなかった。
出来れば、大尉の何処に惹かれたのか教えて貰っても良いかね?」
「何処にって言われると難しいんですけど……ぶっちゃけて言うと、俺の勘が『この人だ』って告げたって所ですかね?
他の四人は決まってて、最後の一人は誰だってなった時に、クラリッサしか居ないって思ったんですよ。で、千冬姉にクラリッサがどんな人なのかを聞いて俺の勘
は間違ってなかったって思った感じです。
実際に会ってみて、よりそれを強く感じました。……って言うか、クールで知的なのに実はガチオタって言うギャップが良くありません?日本のアニメや漫画やゲー
ムが好きってのはポイント高いっす。」
「成程、所謂ギャップ萌えと言う奴か。」
其処からは流れる様に会話が弾み、一夏がクラリッサを選んだ理由を語ると、エドワードもなんか其れに納得しているらしい……如何やらクラリッサは、黒兎隊の中
でもオタク趣味は隠して居ないようだ。そもそも隠してたら痛車なんぞ作らんけどね。
其れを皮切りに更に話は盛り上がり、一夏が学園でのクラリッサの様子を話せば、クラリッサは一夏がIS乗りとして優秀なだけではなく、生身の戦闘も強くて人望も
あり、家事スキルも高いハイスペック人間である事を話し、エドワードも其れを興味深そうに聞いている。
「ふむ……一夏君は本当に大尉の事を大事に思っていて、大尉もまた一夏君の事を大事に思っているのだと言うのが良く分かった。
大尉が君に選ばれた時点で私には何も言う権利はないのだが、一夏君、大尉……クラリッサの事を、娘の事を如何か宜しく頼む。君ならば、安心して彼女を任せ
られると確信したよ。」
「はい、クラリッサの事は必ず幸せにするって約束します。」
エドワードは、一夏とクラリッサが互いに相手の事を本気で愛しているのだと言う事を確信すると、一夏にクラリッサの事を頼むと言い、一夏も其れに応える。一夏と
しては、『若しかしたら反対されるのでは?』と思っていた部分もあるので、こうもアッサリ行ったのが若干拍子抜けだった部分が無くはないのだが、其処は『クラリッ
サとの仲をストレートに認めて貰った』と、面倒な事にならなくて良かったと考えて納得した。
其れと同時に、嫁の家族への挨拶の最初がアッサリ行ったと言うのは一夏にとって自信にもなった……此れなら、『次も巧く行くかも知れない』と思えるからね。
「その言葉を聞いて安心した。
今夜は三人でディナーと行こうか?行きつけのレストランを予約してあるのでね。」
「はい、是非。」
「父上の行きつけのレストランと言うとあそこか……何度か連れて行った貰った事があるのだが、あそこの料理はとてもレベルが高い。レベル上限が百だとしたら、
間違いなくレベル97だな。」
「そいつは楽しみだな。」
最後にディナーの約束をして二人は指令室を後にした。レベル97のレストランってのが若干気になるが、まぁ其れだけ質の高いレストランと言う事なのだろう。
「其れでは一夏、今度は黒兎隊の隊員を紹介しよう。」
続いてやって来たのは、黒兎隊の隊員が訓練をしている訓練場。
本日はクラリッサが休暇を取っているので、訓練を取り仕切っているのは新たに副隊長に就任した中尉だ――訓練場では、今正にISを使った模擬戦が行われてい
る真っ最中だった。
一夏達が学園で行っている模擬戦もレベルが高いが、黒兎隊の模擬戦もまたレベルが高いようだ……ドイツが『優秀なIS競技者』を輩出する為に作った黒兎隊の
隊員のレベルはISバトルではトップクラスと言えるだろう。――ラウラの場合は、実力は最強クラスなのだが精神面が弱いのでその実力を半分も発揮する事が出来
ないのだろうが。
「全員注目!そして集合!」
んで、クラリッサが号令を掛けると、訓練中だった黒兎隊の隊員達はすぐさまクラリッサの元に集まって整列する……クラリッサが黒兎隊の隊長としてドレだけ確りと
隊員達を纏める事が出来ているのかが良く分かるモノだな。
決して大きな声ではなく、威圧感があった訳ではないのだが、其れでもこうして隊員が従うのを見る限り、隊長と言う立場だからと言う事ではなく、クラリッサは隊員
達に慕われているのだろう。
「隊長?今日は休暇だったのでは?」
「あぁ、確かに休暇だったが、それは彼を迎えに行くためでね――諸君等に紹介しよう、彼は織斑一夏、私の将来の伴侶となる男性だ。」
集まった隊員に対し、クラリッサは行き成り爆弾を投下!其れも只の爆弾じゃない、最低でも水爆レベルのトンデモねぇ爆弾をだ!!最低でも水爆レベルって、ゴジ
ラが誕生してもオカシクねぇわ。
この爆弾を投下された黒兎隊の隊員は一瞬フリーズしたが……
「「「「「「「「「えぇ~~~~~~~!?」」」」」」」」」」
直後に再起動して大絶叫!
実を言うとクラリッサは、その面倒見の良さとクールな態度から部隊内にファンが多く、クラリッサの事を『お姉様』と呼んで慕って居る『親衛隊』とも言える一団が存
在しているのだ……その存在はクラリッサは感知していないけどね。
だが、その親衛隊からしたら、クラリッサが将来の伴侶となる男性を連れて来たと言うのは一大事だろう――彼女達からしたら、自分達から『お姉様』を奪おうとして
る相手が現れたのと同義だからね。
「ク、クラリッサお姉様、其れは真ですか!?」
「こんな事で嘘を言ってどうするネーナ?私は彼に選ばれたのだ。そして私自身が彼を慕っている、愛している……何の問題もないだろう?」
「確かに、其れならば何の問題もありませんが……ですが、その男がお姉様に相応しいかどうかはまた別問題です!
真に勝手とは思いますが、私達にその男がお姉様に相応しいか試験をさせてください!……貴様、お姉様と結婚すると言うのならば、私達を倒して見せろ!!」
「うわ、まさかそう来るとは思わなかったぜ。」
マッタクである。
エドワードに認めて貰ったと思ったら、黒兎隊の隊員――クラリッサの親衛隊に『私の屍を越えていけ』ってな事を言われるとは、幾ら何でも予想外だ!ってか予想
しろってのが無理ゲーだ。
特に激しいのが、新副隊長のネーナと、そのネーナと仲がいいファルケ、マチルダ、イヨだ。此の四人は親衛隊の中でも特にクラリッサを慕っているので当然と言え
ば当然なのかもしれないが。
「お前達……だが、私が何を言った所で納得はしないか――スマナイが一夏、彼女達に君の実力を見せてやってくれ。そうすればきっと納得するはずだ。」
「そう言う事なら任せときな。
見た所、コイツ等は中々出来るみたいだがクラリッサよりはずっと下だろ?なら、俺が負ける事はねぇよ。」
其れでも一夏は不敵な笑みを浮かべると、『俺は負けない』と言い張って見せた。若干煽る様な言い方になってしまったのは、一夏もちょっと『カチン』と来たからだ
ろう、多分。
今の一夏の実力はIS学園でもトップクラスであり、現役軍人であるクラリッサとの模擬戦も、直近十戦は一夏の七勝三敗と言う成績なのだ――今の一夏と戦って勝
率を上回る事が出来るのは生徒会長の夏姫か学園最強の千冬位だろう。
だが、その一夏の態度が気に入らなかったのか――
「言ってくれたわね!貴方が負けたらお姉様とは別れて貰うわ!」
「お姉様は渡さない、絶対に!」
「私達の前に平伏せ!」
「お姉様の相手は私達が決める!」
闘気に火が付いたらしく、早速模擬戦の為のフィールドに移動すると、ネーナ、ファルケ、マチルダ、イヨは黒兎隊に配属された機体の『シュヴァルツェア・ヴォイク』
を展開して準備は万端。
其れに対し一夏は銀龍騎を展開してはいないが、此処で最早お馴染みとなっている右手を上げ、左手を腰に構えるポーズを取ると、右手をゆっくりと下ろして鋭く切
ると、左手も切って腰に構えて右腕はガッツポーズを決める。
今回もまた、仮面ライダーブラックRXの変身ポーズをキレッキレで決めた訳だ。
「悪いが、俺はお前達が認めようが認めまいがクラリッサの事を愛してんだ……其の仲を邪魔するってんなら、容赦しないぜ?四人纏めて掛かって来な!」
更に『四人纏めて相手してやる』とまで言い、軽く手招きまでして見せる。
ネーナ、ファルケ、マチルダ、イヨはすかさず『そんな恥ずかしい試合が出来るか!』と当然の様に言って来た……四対一の戦いなんて、勝って当然、負けたら大恥
でしかないから当然の抗議だが。
「……ネーナ、ファルケ、マチルダ、イヨ、一夏の言う様に四人で掛かって行った方が良いぞ?
一夏の実力は、お前達が一度も勝てなかったラウラ・ボーデヴィッヒ少尉を圧倒するレベルな上、機体は二次移行しているのだ。
しかも一夏は、あの織斑教官の弟だぞ?タイマンでは瞬殺されてお終いだ。」
「「「「お姉様!?」」」」
しかしその抗議も、クラリッサがバッサリと切って捨て、同時に四人はクラリッサの言った事に衝撃を受けていた――確かに自分達が一度も勝った事が無いラウラを
圧倒し、更に機体は二次移行をしており、しかも千冬の弟ともなれば衝撃的だろう。
実力は自分達より上であり機体性能も上、其処に加えて三年前に自分達に地獄を見せた千冬の弟と言う事実……これ等の情報を得てしまった彼女達は、最早一
夏とタイマンで勝負すると言う考えは吹き飛んでしまった様だ。
ならば、実力差と機体性能差を埋めるには数の差を生かしたコンビネーションで行くしかないと悟ったのか、一夏に聞こえないように小声で作戦会議をしているらし
い……確かにコンビネーションで圧倒的出来れば格上の相手にも勝てるかも知れないからね。
大体の作戦が決まったのか、彼女達は自身の機体を展開すると一夏に向き直る。
使っている機体は、四人ともドイツが正式採用した第三世代機である『シュヴァルツェア・ヴォイク』なのだが、搭載している武装が異なっている様だ。
ネーナ機は、左手にレールカノン、右手に銃剣が搭載されたアサルトライフルを装備し、フォルケ機はワイヤーブレードとレールカノンを搭載し、マチルダ機は右手に
ワイヤーブレード、左手にプラズマ手刀を搭載した近接戦闘型でイヨ機は両手にアサルトライフルを装備し、腰に二本のコンバットナイフを搭載している。
機体の基本性能は必要最低限に纏め、後はパイロットの好みの武装を搭載すると言うドイツの第三世代機の開発コンセプトが見事に表れていると言えるだろう。
パイロットに合わせたワンオフ機体を開発するよりも、此方の方が開発コストも低く抑えられるしね。
「そんじゃ始めるか……クラリッサ、合図を頼む。」
「了解だ。其れでは此れより織斑一夏対ネーナ、フォルケ、マチルダ、イヨチームの試合を開始する!デュエル、スタートォォォォ!!」
一夏に頼まれて試合開始の合図をしたクラリッサなのだが、其れは流石に如何なのよ?確かにデュエルだけど、決闘ではあるけれども、其れは流石に違うのでは
なかろうか?オタク脳は、こんな時でもぶっこむ事を忘れないらしい。
そんな事より始まった試合だが、先ずは近接型のマチルダが一夏にクロスレンジでの戦闘を仕掛け、他の三人が射撃で援護すると言う作戦を取って来た。
一夏もまた近接戦闘型なので、此のフォーメーション其の物は悪くない。射撃で援護してやれば、近接戦闘型は防御と回避の比重が大きくなり、中々攻撃出来なく
ってしまうだろうからね。
だが、其れは並の近接戦闘型が相手の場合であり、生憎と一夏は並ではない。天性の才能と不断の努力によって培われたその実力に、普通の策なんぞ通じる訳
がないのだ。
「オラ!!」
「へぶ!?」
突撃して来たマチルダに、カウンターの飛び膝蹴りを叩き込むと、其のままマチルダを踏み台にしてジャンプし、四方八方にビームダガーを投げまくる!細かい狙い
なんぞ付けずに、兎に角投げる!投げまくる!
二次移行した事によって、ビームダガーにはホーミング性能が備わっており、適当に投げてもロックオンした相手に向かって飛んで行くから、適当にバラ撒いておく
だけでも結構強いのだ。
此の攻撃に驚かされたのはネーナ達だ。
出鼻を挫かれたのは未だしも、自分達に向かって一人頭百本近いビームダガーが迫っているのだから……ビームダガー一本の威力は大した事なくとも、塵も積も
れば山となる、山が積もればもうお終い!此れだけの数を喰らったら堪ったモノではないだろう。
なので彼女達はビームダガーの迎撃に追われる事になったのだ……まさか、自分達の方が防御と回避に専念させられる事になるとは思ってなかっただろう。
「ビームダガーにだけ集中してると危険だぜ?」
「!!」
ネーナ達がビームダガーの迎撃を行っている中、一夏はフォルケの背後を取ると、零距離からの片手平突き……所謂『牙突・零式』を叩き込み、一撃でシールドエ
ネルギーを削り取る。……決まれば上半身と下半身がさようならする技を真面に喰らったら、ISとて一撃必殺で戦闘不能になるらしい。
「フォルケ!この、やってくれたな!!」
フォルケが落とされたのを見たイヨは、両手のアサルトライフルを乱射して一夏を攻撃する――連射性能に優れるアサルトライフルを二丁装備していたので、ビーム
ダガーの迎撃も他の二人よりも早く出来たようだ。
だが、一夏はその乱射を冷静に回避し、そして左腕の荷電粒子砲をぶっ放して二丁アサルトライフルの乱射を貫通してイヨにダメージを与える。
流石に今の一撃で戦闘不能には追い込めなかったが、其れでも大ダメージを与えられたのは大きいだろう。
「悪いが一気に決めさせて貰う!行くぜ、界王拳!!」
此処で一夏が切り札のリミットオーバーを発動し、銀龍騎の背に光の翼が現れて凄まじい猛攻が始まった。
防御力が半減する代わりに攻撃力とスピードが三倍になった一夏の攻撃は強烈無比かつ苛烈で、ネーナもマチルダもイヨも防戦一方になってしまった……誰かが
攻撃されたと思った次の瞬間には別の誰かが攻撃されているのだから、反撃すら儘ならないのだ。
「此れで終わりにするぜ……疾!!」
言うが早いか、一夏はリミットオーバーを発動した状態でイグニッションブーストを使い、ISのハイパーセンサーでも捉えきれないスピードを叩き出すと、超速の居合
をネーナ、マチルダ、イヨに叩き込む。
彼女達は一夏に切られた事にすら気付かなかっただろうが、リミットオーバーを解除して止まった一夏が刀を納刀した瞬間に機体のシールドエネルギーがゼロにな
って戦闘不能に。
結局一夏はシールドエネルギーを1%も削られずにパーフェクト勝利を収めたのだ……現役軍人を圧倒するとか、コイツマジで最強すぎるな。
「そんな……まさか……!!」
「私達が反撃すら出来ないとは、此れがお姉様を選んだ男の力……!」
「此れは、認めるしかないわ……」
「あぁ、彼はクラリッサお姉様の相手に相応しい男だった。」
で、完全敗北したネーナ、フォルケ、マチルダ、イヨの四人は、逆に圧倒的な敗北を受けた事で一夏の実力を知り、そして一夏がクラリッサの相手に相応しいと認め
た様だ……正に、拳を交えて得た信頼と言えるだろう。何処の熱血漫画だと言いたいが。
「織斑一夏……否、一夏お兄様!クラリッサお姉様の事を如何か宜しくお願いします!!」
「待てや、何でそうなる。」
「クラリッサお姉様と結婚すると言うのならば、私達にとって貴方は義兄となる訳であり、なのでお兄様と!」
でもって、実力が分かれば敵意も尊敬に変わるらしく、一夏は『お姉様を奪って行く憎き相手』から、『お姉様を必ず幸せにしてくれる素晴らしき男性』にクラスチェン
ジした様だ……『態度変わり過ぎじゃね?』と思うだろうが、デザイナーズベビーである彼女達は良くも悪くも純真なので、普通ならば認めて中々受け入れらない事
もアッサリ受け入れる事が出来るって訳だ。
「クラリッサ……」
「ま、認められたと言う事で良しとしよう一夏。」
「……だな。」
予想外の事はあったが、結果的に一夏は黒兎隊の面々と打ち解ける事が出来たので良かったとしよう、終わり良ければ総て良しと言うからね。
――――――
黒兎隊の面々との顔合わせを終えた後は、クラリッサの案内で基地を見て回り、倉庫に保管されていた大戦期のドイツが誇るアニマルシリーズの戦車を見た一夏
は興奮していた……一夏も男の子なので戦車とかには興味があったのだろう。
クラリッサに『どの戦車が好きだ?』と聞かれた時に、迷わず『パンター』と答えた一夏はある意味分かっているだろう……パンターは攻守速全てにおいて他国の中
戦車を圧倒した大戦期最強の戦車だからね。
んで、一通り基地の案内をしたらいい時間になったので、エドワードと共にレストランに向かってディナーを楽しんだ。
エドワードは未だ一夏が飲酒出来ないのを惜しんでいたが、其処は一夏が『飲めるようになったら真っ先に一緒に飲みましょう。ドイツで一番旨いビールでね』って
言ってフォローしていた……空気読める子なんです一夏君は。
ディナーのメニューは前菜に始まり、スープ、サラダ、メインディッシュ、デザートのフルコースだったのだが、其れは存分に堪能した。前菜のヴルストとチーズの盛り
合わせも、ジャガイモとカボチャのヴィシソワーズも、マスタードを利かせたドレッシングが掛かったサラダも美味だったのだが、メインのタルタルステーキが絶品だっ
た!
ニンニクやハーブと一緒に刻まれた牛肉に岩塩で味を付け、卵黄を乗せた逸品なのだが、生肉を食す機会があまりない日本人である一夏にはとても新鮮だったら
しく、ペロリと平らげてしまったのである。
デザートのドイツ風チーズケーキも美味しく頂き……一夏とクラリッサはエドワードが予約してたホテルに来ていた!
まぁね、来客を軍の宿舎に止める訳には行かないから、ホテルを取るってのは当たり前と言えば当たり前なのだが、一夏とクラリッサが同じ部屋と言うのは、まず間
違いなくエドワードが図った事だろう……ホテルの一室で若い男女が二人きりってのは、何も起きない筈がないからね。
「刀奈とロランに続いて、今度はクラリッサか……でもまぁ、此れも一夫多妻になった男の義務だよな?……嫁は平等にだからな。」
部屋のベッドには、先にシャワーを浴びたのだろう、一夏がバスローブ姿で腰掛けている……クラリッサと同じ部屋と言う時点で、覚悟はしていたのだろう。まぁ、一
夏は、夏休み中にヴィシュヌ、グリフィン、クラリッサを女にする心算だったから覚悟は決めてたんだけどね。
刀奈に『私とロラン以外の三人は、何時女にしてあげるの?』って言われたのも大きいかもだがな……ってか、何言ってんだい刀奈よ。
「待たせたね一夏。」
「いや、そうでもないぜクラリッサ。」
そして、シャワーを浴びたクラリッサが一夏の前に現れ、ベッドに横たわる……シャワーの熱で上気した顔が何とも色っぽくセクシーだ。
そんなクラリッサに一夏は近付くと、バスローブの帯を解いてバスローブをはだけさせ、クラリッサの白い肌を露出させる……全部脱がさない所がこの上にない劣情
を引き立ててくれる感じだ。
「左目、見せてくれよ。」
「あ……一夏。」
更に一夏はクラリッサの眼帯を取ると、特徴的な金色の目がある左の瞼にキスを落とし、そして鎖骨や胸にキスを落としてクラリッサに『所有者の刻印』を刻む。こう
見えて一夏は意外と独占欲が強いのかも知れない。
「クラリッサ……」
「一夏……」
そして一つになった一夏とクラリッサは、夜が更ける程に求め合い、深く愛し合ったのだった。――そして、窓から入ってくる月の光が、愛し合う一夏とクラリッサを祝
福しているみたいであった。
取り敢えず、最初のドイツでの挨拶は大成功に終わったと、そう言って良いだろうね。
To Be Continued 
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