臨海学校も終わり、日常に戻って来たある日の事、我等が主人公である一夏は盛大に悩んで居た。
「スポーツをしたいってのは此処を使えば良いけど、スポーツ観戦、其れも野球となると結構難しいな?」
何に悩んでいたのかと言うと、グリフィンと約束していた『臨海学校後のデート』のプランだ。グリフィンとのデートプランだ。グリフィンとのデートプランだ!大事な事な
ので三回連続攻撃してみた。三回連続攻撃してみた。三回連続攻撃してみた。
一夏は、グリフィンにデートを楽しんで欲しいので、デート前に何か希望があるのかを聞いていたのだが、グリフィンから返ってきた答えは『スポーツをしたい。それ
からスポーツ観戦したい。あと、ランチはお肉が良い』との事だったのだ。
『スポーツがしたい』と言う要望に関しては、モノレール駅がある街に最近『複合スポーツレジャー施設』がオープンしたので其れを使えばOKで、『ランチはお肉が良
い』ってのも、ネットでリーズナブルなステーキハウスを見付ける事で解決したのだが、『スポーツ観戦をしたい』ってのが難題だった。
『スポーツならなんでもOK』ならば難易度は高くは無かったのだが、『野球』に限定されると難易度が跳ね上がるのだ。
と言うのも、IS学園から日帰りで行ける球場となると、十二球団中で東京ドーム、神宮球場、西武ドーム、千葉マリンスタジアム、横浜スタジアム(最近の正式名称
は知らん)に限られる上に、デーゲームとなると更に選択肢が狭まってくるのだ。
「グリフィンだったらサッカーだと思ってたんだけど、まさか野球だとはな。」
何よりも予想外だったのが、グリフィンが選んだのが『野球』だった事だろう。
一夏は、グリフィンが『スポーツ観戦をしたい』と言った瞬間、『ブラジル人ならサッカーかな?』と思ったのだが、グリフィンは一夏の予想を見事に裏切って『野球』を
頼んで来たのだ。
グリフィン曰く、『サッカーは、ブラジルで何度も見てるから、日本のプロ野球を生で見てみたい』との事だった……まぁ、何度も見てるサッカーよりも見た事のない野
球の方に興味をそそられるのは仕方ないわな。
まぁ、此処で『プロレスや相撲が見たい』とか言われたら一夏は更に頭を悩ませる事になったのだが……相撲は十八時までやるし、プロレスは大抵の場合十八時
にオープニングイベントなので、日帰り不可能だからね。
『そんなに真剣に悩まずに、適当に決めちまえよ。』と思うかもしれないが、織斑一夏と言う人間は、『妥協』と言う言葉を何よりも嫌う故に、どんな事であってもトコト
ン突き詰める性質なのだ――だからこそ、ISを起動してから僅三年で日本の国家代表である刀奈達と互角に渡り合えるだけの実力を身に付ける事が出来たのだ
けどね。
「今度の日曜でデーゲームをやってるのは西武ドームと横浜スタジアムか。
セパ交流戦で、西武ドームは『西武vs巨人』で、横浜スタジアムは『DeNAvs日本ハム』か……なら、此処は伝統の巨人西武戦だな。」
そして散々迷った挙句、一夏は今度の日曜にデーゲームが行われている球場を見つけて、西武ドームでの西武巨人戦のチケットをネット購入した――其れも只の
観戦チケットではなく、特設バックネット席の最前列だ。
バックネット裏席はタダでさえ高額なのに、特設バックネット席となれば更に高額なのだが、一夏は迷う事無く最高額のチケットを購入した――デートを目一杯楽し
んで欲しいと思ってる一夏からしたら、デートでの出費なんぞ痛くも痒くもないのである!!
チケットの値段だけで言うのならば、DeNAvs日本ハムの方が安かったのだが、巨人西武戦の方が盛り上がると言う事で一夏は此方を選んだのだ――まぁ、上位
チームである西武と巨人の試合の方が野球観戦初心者のグリフィンも見ていて分かり易いと思ったのだろう。(DeNAと日ハムのファンの皆様、別にDeNAと日ハム
が下位チームで弱いと言ってる訳じゃないから、誤解しないでね?)
「グリフィン、喜んでくれると良いな。」
だがしかし一夏には、グリフィンが今度のデートを楽しんで喜んでくれるかと言う事にしか意識はなかった――自分よりも、嫁の事を最優先に考えてる辺り、一夏だ
からこそ、一夫多妻は認められると言えるだろう。
グリフィンとのデートも、グリフィン以外の嫁ズが臨海学校の時は一夏と一緒だと言う事から、一夏が提案した事だからね。
「よし、此れでデートプランは完璧だぜ!!」
「可成り気合入ってたわねぇ?まぁ、当然と言えば当然ね……当日はグリフィンを満足させてあげるのよ一夏。頑張ってね。」
「おうよ、言われるまでもないぜ刀奈。」
んで、刀奈がメッチャナチュラルに一夏にエールを送っていたのだが、此れも一夏の嫁ズは全員がお互いの事を同等に見ているからこそ出来る事だろう……もしも
『自分の方が上』と言う意識があったら、自分以外の女性とのデートプランを必死に練ってる一夏を応援したり、ましてや『満足させてあげろ』とは言わないだろう。
一夏が嫁ズを平等に愛するのは当然だが、嫁ズ同士も『自分が一夏の一番』ではなく、『自分達が一夏の一番』と思って仲良くするのが一夫多妻を巧くやる秘訣と
言うモノなのだ。
まぁ、其れは其れとして、取り敢えず一夏は無事に観戦チケットを購入出来たらしく一安心と言った感じだ。……果たして万札が何枚吹っ飛んだのか気になるが。
こんな感じでデートプランを練りに練り、そしてあっと言う間に時は過ぎてグリフィンとのデートの日がやって来たのだった。
夏と刀と無限の空 Episode31
『デートはガチで本気で行くぜ!』
デート当日、一夏とグリフィンは寮の玄関前で待ち合わせをしていた――どうせ同じ寮なんだから待ち合わせの意味はないとも思うだろうが、デートってモノは待ち
合わせにも意味がある……待ち合わせの場所でドキドキしながら待つのもまたデートの醍醐味なのだから。
「グリフィンは、まだ来てないな。」
先に待ち合わせ場所に現れたのは一夏だ。
本日の一夏のファッションは、ベージュのジーパンに黒い半袖シャツ、そして赤い袖なしのジージャンと言ったコーディネート。(イメージはリアルバウト餓狼伝説のテ
リー・ボガードの色違い。)
ジージャンの背中には元々白い星マークが入っていたのだが、その星マークを覆う様に黒で『極』と入っているのは、一夏が自分で刺繍したモノだ――兄貴分であ
る稼津斗の黒いジャケットと、試合で使っている袖の破れた黒い空手胴着の背に赤で『滅』と入っているのを真似た感じだ。
元々お洒落にはあまり興味のなかった一夏だが、中学の時に刀奈と付き合う様になってからはそっち方面の方もガッツリ勉強してたりするのだ……ダサいファッシ
ョンで刀奈に恥ずかしい思いをさせたくなかったからね。
流石に中学時代は高額な服は買えなかったのだが、其れが逆に良かったようで、一夏は『安い服でも魅せるファッション』を学び、ブランド物に頼らずとも見映えす
るコーディネートが出来る様になっていたのだ。
「一夏、お待たせ。」
で、一夏が此の場所に来てから遅れること五分、グリフィンがやって来た。
グリフィンの本日のファッションは七分丈のジーパンに赤いタンクトップを合わせ、その上から七分丈の半袖のライダージャケットを羽織って胸の下辺りまでジッパー
を閉めると言うコーディネート。
タンクトップは胸元が大きく開いて谷間が見えており、更に胸下までジッパーを上げられたライダージャケットによって其れがより強調されているセクシーなファッショ
ンと言えるだろう。ちらりと見えるヘソもポイントだ。
「随分と大胆な感じだけど、似合ってるぜ?活動的なグリフィンは、少し大胆なファッションが似合うよな。」
「そう言って貰えると嬉しいかな?
一夏もとってもカッコいいよ。シャツの袖から覗く、太くはないけど鍛えられた二の腕とか、とっても魅力的だよ……筋肉好きの女子だったら垂涎モノだと思うわ。」
「其れは喜んで良いのか微妙に分からねぇな。」
そんな事を話しながら、一夏とグリフィンは手を繋いでモノレール駅に向かう。尚、普通に手を繋ぐのではなく、五指を絡めた所謂『恋人繋ぎ』だ。『恋人繋ぎ』だ。大
事な事なので二度言いました。此処テストに出るので忘れないように。
因みに一夏とグリフィンも少し大きめのバッグを持って来ているのだが、此れはスポーツ施設で使うスポーツウェアと替えの下着を持って来ているからだ。
スポーツ施設では着替えて目一杯スポーツを楽しむのだが、身体を動かせば汗を掻くので、運動用の服と替えの下着を持って来るのは当然だろう……思いっ切り
運動した後は、シャワーで汗を流してサッパリして着替えたいモノだからね。
少しばかり荷物にはなるが、ランチ時や野球観戦時には駅のコインロッカーに突っ込んでしまえば問題ないしね。
で、一夏とグリフィンがモノレールの駅に向かったのと同時に、一夏の護衛を務めているオータムもモノレールの駅に向かって行った……今日も今日とて、オータム
は一夏にバレないように護衛の任務を熟すのだろう。――一夏に気取られない辺り、オータムはマジでプロの中のプロと言っても良いだろう。
「坊主と嬢ちゃんのデートの邪魔をする奴が現れたら……麻酔弾ぶち込んだ後で路地裏に拉致してボコるか。」
……思考は若干バイオレンスでサイコパスな部分はあるのが否めないが。逆に言うのなら、其れだけ一夏の護衛と言う任務を真剣に行っていると言う事なのだろ
う。オータム自身、一夏の事を気に入ってるので、護衛の任にも力が入るのかも知れないな。
――――――
モノレールで本土に到着した一夏とグリフィンが訪れたのは大型のスポーツアミューズメント施設だった。
『スポーツをしたい』と言うグリフィンの希望を叶えるために一夏は此処を選んだのだ――なので早速更衣室で着替えてスポーツタイムだ。
着替えた一夏とグリフィンは互いにジャージのズボンにTシャツと言う姿だった。一夏は黒いジャージに青いTシャツで、グリフィンは青いジャージに赤いTシャツって
違いはあるけどな。――其れでもこの二人が周囲の目を集めるのは仕方ないだろう。
一夏は極上のイケメンだが、顔が良いだけじゃなく身体も確りと鍛えられた究極の細マッチョであり、グリフィンも美人な上に健康的なダイナマイトボディを有して居
る訳だからね……因みにグリフィンのTシャツは七分丈なのでこれまたヘソ出しになっており、同時に鍛え上げられた腹筋も顕わになっているのだ。
美しく割れたた腹筋は、うっすらとシックスパックにも拘らず、女性らしい曲線を失っていないのも一夏の嫁ズの特徴と言えるだろう……そんな女性は格ゲーの世界
にしか存在しないと思っていたが、現実にも存在するらしかった。――尤も、その最強の体型を獲得し維持するってのは可成りの努力が必要になるのだろうけど。
さて、そんな一夏とグリフィンが最初に選んだスポーツはボーリングだ。
色んなスポーツを楽しみたいと言う事なので、2ゲームで申請した――登録ネームは一夏が『アイン』で、グリフィンが『グリン』だった。少しばかり安直な気がしなく
もないが、この登録ネームはアリだろう。寧ろ一夏が『ワンサマー』で登録しなかっただけ上出来だ。
登録を終え、シューズも借りた一夏とグリフィンは早速ボーリングを始めたのだが、此れが中々白熱した勝負となっていた。一夏もグリフィンも一度もガーターを出す
事はなく、ストライクとスペアばかりとは行かなくとも、最低でも八本は倒すと言う好成績を残しスコアは拮抗していたのだ。
第一ゲームは一夏が百五十点、グリフィンが百六十点とグリフィンがリードしていたのだが、続く第二ゲームは一夏が猛追し、九投を終えた時点で三百二十点と同
点になっていた。
そして運命の十投目。
先ずはグリフィンが投げ、9-1のスペアで第三投の権利を得て、三投目はストライクを出してスコアを三百四十まで伸ばしたのだが、後攻の一夏はの土壇場で三
連続ストライクのターキーによるパンチアウトを達成し、スコアが三百五十点となって見事勝利したのだ。
「此処でターキーのパンチアウトとか、勝負強過ぎない?」
「此処一番で、俺は力を発揮するってな。其れに逆転勝利ってのは燃えるだろ?」
「其れは、確かにそうかもね♪」
グリフィンは試合には負けたが、だからとって其れが不満と言う事はなかった――一夏と思い切り楽しむ事が出来たのだから、試合の勝ち負けなんてモノはそもそ
も如何でも良いのだからね。
「そんじゃ、次は何をやろうか?」
「今度は……アレやらない?今流行りのスポーツクライミング!」
「スポーツクライミングか……良いかも知れないな。」
続いて二人が選んだのは、最近流行りのスポーツクライミングだ。
流石に一般人が使うスポーツ施設のモノなので、競技で使われるような角度の付いた壁ではないが、突起物はソコソコの難易度で設置されているようなので、此
れならば適度に楽しむ事が出来るだろう。
下には厚めのマットが敷いてあるとは言え、万が一の為に一夏もグリフィンも命綱を装着してから、レッツクライミング!
「よっ!ほっ!此れは見てるよりも難しいね?」
「本当にな。
次の足と手の位置を考えて掴まないと、あっという間に登れなくなっちまうぜ……此れよりも難しいのをスイスイやるってんだから、やっぱプロって凄いよなぁ?…
…まぁ、カヅさんの場合『修業』と称して、命綱なしで自然の岩山クライミングしちゃったりするんだけどな。」
「Oh Crazy……あの人ホントに人間だよね?
海面滑って来たり、空飛んだり……色々規格外過ぎると思うんだけど。」
「ぶっちゃけ、俺はカヅさんが『実はサイヤ人でした』って言っても驚かない。あの人なら確実に悟空に『オメェ強ぇなあ?オラワクワクすっぞ!』て言わせられると思
ってる」
「若干否定出来ないねぇ其れ。」
ホントに千冬の彼氏である稼津斗はマジで何者なんでしょうねぇ?海面滑るわ、空飛ぶわで何でもありすぎる……束や千冬も大分チート染みた人間ではあるのだ
が、其れでも稼津斗程の非常識な事は出来ないからな。一夏が言ったようにマジでサイヤ人かも知れん。
其れは今は良いとして、一夏とグリフィンはスポーツクライミングも堪能した――足を踏み外して落ちそうになったグリフィンを、一夏が腕を伸ばして掴み、自分の方
に抱き寄せると言うハプニングはあったが、其れもギャラリーからは歓声が上がっていたので良いとしよう。
「命綱があるとは言え、結構スリルがあったよな。次は何をやろうか?」
「次は……ん?」
「如何したグリフィン?」
「一夏、アレ。」
次は何をやろうかと考えていた矢先、グリフィンが何かに気付きある方向を指さした。
その先にあったのはフットサルが出来るコートだが、其処で小学生と思われる二つのチームが言い争っていた……と言うよりも、片方のチームがもう片方のチーム
に抗議していると言った方が正しいだろう。
其れだけを見るなら、子供同士の小競り合いでありグリフィンも気にはしなかったのだが、抗議されている方のチームには高校生位の男子が二人居るのが気にな
り一夏にも教えたのだ。
其れを見た一夏も、『なんか只事じゃなさそうだ』と思い、一度グリフィンを見ると、互いに頷いてからフットサルコートへと向かって行った。
そのフットサルコートでは……
「ズルいぞ、高校生連れて来るなんて!そんなの反則じゃないか!!」
「バーカ、事前に『助っ人は小学生に限定してない』ってのを確認しないのが悪いんだよ!」
「お前……其処は暗黙のルールじゃないか!!」
「アホか、明確に禁止とされていない以上はグレーゾーンでもOKってな。流石に大会じゃ使えない手だけど、非公式の野試合ならアリだろ?」
「卑怯者……!!」
こんな言い争いが行われていた。
如何にもこの二チームは、今日ここで試合をする予定だったみたいだが、片方のチームが何と助っ人に高校生を連れて来たのだ……小学生の試合に高校生を連
れてくるとか『お前にプライドはないのか?』と言いたくもなるが、高校生を連れて来たチームのキャプテンは『勝てば良いのだろうなのだ!』な性格をしているらしく
て、公式試合ではないからこそ可能な裏技を使って来たのだ。
だが、其れに文句を言ったチームのキャプテンは、純粋に試合を楽しみにしていただけにショックだった様だ……たかが二人とは言え、高校生と小学生では身体能
力に覆しようがない差があるのだから。
「なら、俺達がこっちの子達の助っ人に入っても何も問題はないよな?」
「まさか、卑怯とは言うまいね?」
其処に一夏とグリフィンが声を掛け、小学生オンリーチームの助っ人に名乗りを上げた……一夏もグリフィンも曲がった事が大嫌いなので、一連の会話を聞いて少
しばかり『プチ』っと来たのかも知れない。
「行き成り現れて、何だお前等?」
突然現れた一夏とグリフィンに、高校生が何者かと尋ねるが、その瞬間に一夏とグリフィンの目が光った!
「何だかんだと聞かれたら!」
「答えないのが普通だが、まぁ特別に答えてやろう!」
「宇宙の破壊を防ぐため!」
「宇宙の平和を守る為!」
「正義と平和を貫く!」
「ラブラブカップル主人公!」
「グリフィン!」
「一夏!」
「銀河を翔けるIS乗りの二人には!」
「バーニングサン、燃え盛る明日が待ってるぜ!!」
でもって、ロケット団の参上口上(ヤマト&コサブロウバージョン)のアレンジを炸裂させる!……決めポーズが、腕組みをする一夏の両肩でグリフィンが倒立すると
いう衝撃的なモノだったが。
「話は聞いたぜ?小学生の試合に高校生が参加するとか流石に反則だからな……だから、俺達はこっちのチームの助っ人で参加させて貰うぜ?生憎と、こう言う
卑怯な事を見過ごせるほど、大人でもないんでな。」
「フェアプレイの精神を先に破ったのはそっちなのだから文句は言わせないよ?」
其処からは相手に有無を言わさぬ形で一夏とグリフィンが畳掛けて自分達が助っ人に入る事を認めさせた……一夏達が味方したチームの子達は突然の事に少し
困惑していたが、グリフィンが『此れで条件は対等になったから勝とうね?』と笑顔で言うと気持ちの切り替えが出来たようだ。
流石、ブラジルでは孤児院の手伝いをしていただけあってグリフィンは子供の扱いには慣れているようである。
取り敢えず、一夏がキーパー、グリフィンがフォワードとなり、相手チームの高校生も一人はキーパーで、もう一人はフォワードになって試合開始!
二十分の前後半無しの試合は、相手チームのキックオフで始まったのだが、キックオフ直後にグリフィンがパスを受けた高校生に高速のスティールを仕掛けてボー
ルを奪うと巧みなドリブルで次々とディフェンスを交わして、ペナルティエリアから強烈なシュート!
其れは、ギリギリでキーパーが弾いたが、其処にすかさずチームのキャプテンである少年が滑り込んでこぼれ球を押し込んで先ずは先制点!
で相手チームの攻撃になり、今度はキックオフのパスを受けた高校生が直ぐにボールを蹴り上げ、そして其れを上がっていたフォワードの少年が胸でトラップし、其
のままミドルシュートを放ったのだが……
「こんなヘナチョコシュートでゴールを奪えると思ってるのか?」
何と一夏は其れを片手でキャッチしてしまった……いかに小学生のシュートとは言え、片手で掴み取るとか難易度が高いのだが、姉である千冬のアイアンクローを
何度も間近で見て来た一夏からしたら、片手で何かを掴む事の極意は見て覚えたので造作もなかったのだ。
そして其れだけではなく、一夏はゴールキックで弾丸シュートをも越えるキャノンシュートを放って二点目をゲット……コートが狭いフットサルだから出来た芸当なの
だが、ゴールキックで一点ゲットと言うのはフットサル史上初と言えるだろう。
その後は一方的な展開が続き、攻めればグリフィンが起点となりつつも得点はチームの少年達が決め、守りでは一夏の鉄壁のガードが全てのシュートを完全ガー
ドして無失点で、二十分の試合時間が終わった時には、7対0と言う圧倒的な結果となった……助っ人として来ていた高校生達は、運動部には所属していたらしい
のだが、サッカー部だったと言う訳ではないので、グリフィンの卓越したサッカースキルには対応できなかったのだろう。
試合が終わった後で、助っ人に入ってくれた事を感謝されたが、一夏もグリフィンも『見過ごす事は出来なかったから』とだけ言って、名も名乗らずその場を去った。
な~んか、カッコいいですな。
その後は、卓球、フリースロー、バッティングと色々と楽しみ、良い時間になったので、シャワールームで汗を流した後に、着替えてランチへと向かった……ジャージ
とTシャツだけでなく、下着も汗でびしょびしょになっていたのを考えると、替えの下着も持って来たのは如何やら正解だったようだ。
尚、一夏とグリフィンがスポーツを楽しんでいる間、オータムは同じ施設のビリヤード台でスゴ技を連発して注目されていたのだとか……まぁ、野郎が何匹かナンパ
しようとしてナインボールを顔面に叩き込まれたようだが。
そのランチタイムで訪れたのは、有名なステーキハウスのチェーン店だった。
この店は値段がリーズナブルなのが売りであるので和牛はないが、格安で国産牛のステーキが食べられる事で有名だった。(和牛と国産牛ってのは似て非なるモ
ノだったりするんだな此れが。)
スポーツ施設で思い切り動いた一夏とグリフィンは、当然の様に腹が減っていたので席に着くなりメニューを手に取り、何を注文するかを検討する……特にグリフィ
ンは目がマジだ。まるで獲物を狩る肉食獣の目だ。
メニューと睨めっこする事約九十秒、一夏がグリフィンを見ると頷いたのでインターフォンを押して定員を呼び出す。
「お待たせしました、ご注文は?」
「俺はハラミステーキを200g。トッピングはワサビバターで。あと、ライスで。」
「私はねぇ……ワンポンドステーキをレアで。付け合わせはホースラディッシュで、私もライスで。」
そして注文したのは、一夏がハラミステーキの200gだったのに対して、グリフィンは何とワンポンドステーキ!ワンポンド、つまり420gと一夏が頼んだハラミステーキ
の倍以上だ!!
なんぼ南米人は肉がメインの食事だと言っても、女の子が頼むメニューじゃないだろうワンポンドステーキってのは。……まぁ、実を言うとグリフィンはブラジルで『ス
テーキの早食い大会』に出場して、十分間に400gのステーキを六枚たいらげて優勝した経験があるのでワンポンドステーキ位は余裕なのかもしれないが。
そして、其れは正しかったらしく……
「「いただきます!」」
運ばれて来たメニューが揃った所で、『いただきます』だ。
熱々の鉄皿に乗ったステーキと、付け合わせのニンジンやポテトが食欲をそそり、グリフィンは早速420gの肉塊を適当な大きさに切ると、其れを口に運びとっても美
味しそうに頬張る……『美味しそうに食べる君が好き』ってイラストタグになってもオカシク無い感じだ。
「ん~~、美味しい!このレアの良い焼き加減!やっぱりステーキはレアに限るよね!」
「確かにステーキはレアが一番かもな。」
一夏もまた、美味しそうにステーキを頬張るグリフィンの事を可愛いと思ってるみたいで、ワンポンドステーキと言うバケモノメニューを頼んだ事はマッタク気になって
いないみたいだ。と言うか、グリフィンが割と大食いなのは知っているので、今更この程度で一夏は驚きはしないのだ。
「ねぇ一夏、ハラミステーキ一口くれない?」
「良いぜ。その代わりグリフィンのも一口くれよ。」
でもって、お決まりの『メニューの一口交換』もして、一夏とグリフィンはランチタイムを楽しんでステーキハウスを後にした。――因みに、支払いは一夏が行ったのだ
が、一夏の中には『デートは野郎が金を出すモノだ』って言う概念があったので、実にナチュラルに会計を済ませたのだった。
此のランチタイムも、オータムは一夏達からは絶対に見つからない席に座って護衛をしながらランチタイムで、頼んだメニューは『ヒレステーキのフォアグラソース』と
言う、どこぞの社長の大好物であった。
――――――
ランチタイムを終えた一夏とグリフィンは、JRの『西武池袋線』に乗って、西武ドームに向かい、試合開始の二十分前に球場に到着する事が出来た。
お土産とは別に、外の売店でライオンズのキャップやメガホン、ユニフォームを買って応援の準備をバッチリ整え、いざ球場に入ろうとしたのだが……
「あれ、織斑じゃないか?」
「五反田?」
此処でまさかの弾とエンカウント!
「まさかこんな所で会うとはな?一緒に居るのは、確かグリフィンさんだったっけ?若しかしてデートか?」
「若しかしなくてもデートだ。
この間、臨海学校があったんだけど、グリフィンは学年が違うから一緒に行けなくてな……一緒に居られない三日間の埋め合わせって事でデートしてんだよ。
そう言うお前は、家族で野球観戦……だよな?親父さんらしき人が見えないが。」
「あ~~……親父と爺ちゃんはG党だから、三塁側の内野席なんだわ。……西武・巨人の三連戦は巨人が二敗してるから、『今日こそは絶対に勝つ』って息巻いて
んだよ。」
「……心中察するぜ五反田。G党が家族に居ると、色々大変なんだろうな。」
如何やら弾は家族と一緒に観戦に来たらしいが、五反田父と五反田祖父は重度の巨人ファン、所謂『G党』であるらしく、巨人のベンチがある三塁側のスタンドで観
戦するため別行動であるようだ。
其れを聞いた一夏は何かを察したらしく、弾の肩を軽く叩いた……G党が家族に二人以上居て、それ以外の家族は特に贔屓のチームが無い場合、野球のペナント
レース中はリモコン支配される確率が高いからな。
「まぁな。でも、今はスマホで好きな番組見れるから、テレビを独占されても問題ねぇかな?ゲームも携帯機使えばOKだし。
其れよりもよぉ、西武ドームではピッチャー交代や代打なんかの時のちょっとした空き時間に、オーロラヴィジョンにカップルを映してキスをさせるのがあるって知っ
てるか?
お前等も、若しかしたらターゲットになるかもだぜ?」
「そんなのがあるのかよ?……まぁ、ターゲットになったその時は……」
「球場内の皆さんに、ラブラブなキスシーンを見せてあげるよ♪」
弾がまさかの情報を教えてくれたが、其れを聞いても一夏とグリフィンは怯まず、『寧ろ上等』だと言わんばかり……愛がソウルエナジーMAXになると、此れ位の事
では動じないらしい。
で、入り口で手荷物検査を終えた一夏とグリフィンは、途中で弾達と別れて特設バックネット裏席に。
此の特設バックネット裏席の最大の特徴は、飲み物や食べ物を自分で買いに行く必要がなく、シートに備えられているメニューをスタッフのお姉さんに注文して持っ
て来て貰えると言う事だろう。
このシステムにより、特設バックネット裏で観戦してる観客は試合展開を気にせずに飲み物や食べ物を買えるって訳だ。
そんなこんなで試合が始まり、一回の表で西武のスタメン選手が守備に就く前に、ファンサービスである『サインボール投げ』を行い、一夏達の所にも運良く二つも
投げてくれたので、その二つは一夏が見事にゲットして、グリフィンと一つずつ分け合った……ゲットしたサインボールが、四番の主砲である『山川穂高』だと言うの
もラッキーだったと言えるだろう。
その試合だが、西武は序盤に投手が倒壊し、五回までに巨人に九点のリードを許すと言う展開に。
此れにはグリフィンも、『今日は巨人の勝ちかな?』と言ったのだが、一夏が『ライオンズの重量打線の本領発揮は此れからだ』と言った、五回の裏に西武の、否ラ
イオンズの、手負いの獅子の反撃が始まった。
ワンアウト満塁のチャンスで打席に立った四番の山川が、甘く入ったカーブを捕らえて走者一掃のツーベースを放つと、フォアボールと内野安打で又しても満塁とな
ったところで、打席には七番のチャンスにめっちゃ強い男、中村剛也!ホームラン数に占める満塁ホームランの数ではかの王貞治氏をも越えてる男である。
フルカウントからファールで三球粘っての九球目、低めのストレートを見事にかっ飛ばしての満塁ホームランで、ライオンズはこの回一挙七点で巨人に猛追!
続く六回の表に、巨人の坂本勇人にツーランを浴びて点差は再び開き、六回の裏は無得点に終わったのだが、七回の表はキッチリ三人で抑えて、七回の裏のライ
オンズのラッキーセブン!
チアガールと、マスコットキャラのレオとレオナちゃんがキレッキレのダンスを披露し、ダンスが終わった最後に六回の時に配られていた風船を飛ばして球場内のボ
ルテージはマキシマム!
そしてそのタイミングでオーロラヴィジョンに『Give me kiss!』の文字が踊り、オーロラヴィジョンに一夏とグリフィンが映し出された……オーロラヴィジョンに映し出さ
れた事に、少しばかり一夏とグリフィンは驚いたが、軽く手を振って見せると迷わずに唇を重ねて見せた。
でもって、其れに球場内は大盛り上がり!今まで映し出されたカップルは、何方かが頬にキスする程度で、マジにキスしたカップルは居なかったみたいだから、ある
意味では、伝説を作ったと言えるだろう。
そして、そんなラブラブなキスシーンを見せられて奮起したのか如何かは分からないが、ライオンズ打線はこの回、四番の山川から始まり、山川がシングルヒットで
塁に出ると、内野安打とフォアボールでノーアウト満塁となり、打席には再び中村剛也!
初球の甘く入ったストレートを捕らえ、本日二度目の満塁ホームランで遂に逆転!
だが、ライオンズの猛攻は止まらず、其処から下位打線が出塁し、先頭打者が内野安打で出塁すると、二番打者と三番打者が外野ギリギリに飛ばすシングルヒット
で更に二点を追加し、尚も満塁のチャンスで打席には四番の山川穂高!
「山ちゃん、此処で一発かましてくれ!」
「トドメの一発頼むよ!」
このチャンスに、二年連続のホームランキングである山川の登場に一夏とグリフィンの応援にも熱が入る……そして、その応援に応えるかのように、山川は三球目
のスライダーを見事にとらえて満塁ホームランを放ち、ホームインと同時にお決まりのポーズを決めて球場を沸かせた。
この回、ライオンズは打者一巡で十点を叩き込み、八回の裏にも更に追加点を叩き込み、九回の表は抑えのエースが見事に三人で仕留め、三連戦の最後は二十
一対十一と言う圧倒的な点差でライオンズが勝利を手にしたのだった……そして、此れだけの乱打戦は稀に見るモノであったと言えるだろう。
試合後のヒーローインタビューは、勿論二発の満塁ホームランを放った中村であり、一夏とグリフィンも其れを聞いてから席を立ったのだが……
「あ~~、ちょっと待って、其処の君達!ショートカットの彼と、水色ポニテの彼女!!」
「え、俺達っすか?」
「水色ポニテ……私だね。」
帰ろうとしたと所で、本日のヒーローである中村に呼び止められた。
「君達、オーロラヴィジョンに映ってた子だよね?……こう言ったらなんだけど、あんなにラブラブなキスシーンは初めて見たよ。――其れに押されて僕達も奮起出来
たんだけどね。
お礼と言っては何だけど、君達のキャップにサインをさせてくれるかな?」
「マジですか?」
「其れは是非!」
でもって、言われたのは『サインをさせてくれないか』と言う事……オーロラヴィジョンに映し出された一夏とグリフィンのキスシーンは、ライオンズナインに火を点ける
所かガソリンをぶっ掛けたらしく、燃え上がった闘志で巨人を圧倒したのだ。
そして、直筆のサインを断る理由はないので、一夏はユニフォームに、グリフィンはキャップにサインを貰って球場を後にした。
「期待には応えられたかな?」
「期待以上だよ一夏、とっても楽しかった。」
「なら良かったぜ。」
帰り客でごった返す臨時列車を避け、一夏とグリフィンはお土産を購入して次の列車に乗って池袋に……臨時列車は満員だが、その次の列車となれば座る事も出
来るので一本見送ったのだ。
帰りの電車、IS学園へのモノレール内でも、一夏とグリフィンは所謂『恋人繋ぎ』をしていた……マジでガチで、心底愛し合ってるって事なんだろうな此れは。
取り敢えず、一夏とグリフィンのデートは最高のモノだったと言って良いだろう――人前でキスをすると言う羞恥プレイはあったが、其れすら一夏とグリフィンにとって
は良い思い出だからね。
尚、一夏とグリフィンがラブラブデートを行っていた裏側では、千冬の『訓練』と言う名の、陽彩達に対する私刑が行われていたりするのだが、言ってしまえば自業自
得の因果応報なので同情の余地はあるまい……身の程を知らぬ愚者が、やり過ぎた事に対する正当な制裁だからね。
一夏とグリフィンが最高のデートを楽しんだのとは真逆の、千冬による訓練と言う名の地獄を体験した陽彩達……まぁ、此の程度で済んでいる事に感謝すべきであ
ろうマジで。命令違反と無断出撃だけでなく、一夏を殺し掛けた陽彩は特にな。
千冬がガチギレして教師の立場を度外視したら、陽彩達への罰はこの程度では済まないだろうからね……ま、死なない程度に頑張れよ、自称オリ主君。
尚、この地獄の様な訓練を終えた陽彩達は、その場で文字通り『死んだように』眠ってしまったらしく、全員纏めて千冬が寮まで引き摺って行って、夫々の自室に叩
き込んでいた……この時の陽彩達は若干息をしていなかったのだが、翌日は普通に目を覚ましたので生きてはいたのだろう。……生命力だけはゴキブリ並の様で
あるな。
To Be Continued 
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