二次移行した銀龍騎――銀龍騎・刹那を纏った一夏は、イグニッションブーストで福音に接近し、超神速の居合で斬りかかるが、福音は格ゲーのラスボスも吃驚な
超反応で其れをガードし、反撃の斬撃を繰り出す。


「ハッ!誰がそんなノロいカウンターを喰らうかよ!」


だが、一夏は其れを難なくバック宙で回避して見せる。
普通なら完璧なカウンターだったのだろうが、二次移行した事で元々良かった機体の反応性能も更に向上し、一夏の『人間が出来る限界の反応速度』を若干超え
た反応速度にも完璧に対応出来るようになっているのでこの程度は朝飯前だろう。
反撃を躱された福音は、十八番の広域殲滅攻撃を行わんとするが……


「させるか!」

「そうは問屋が卸さないわ!」


其処にミーティアを装備したフリーダムとジャスティスのミーティアフルバーストが炸裂して、福音の攻撃を中断させる――『ミーティアはデッドウェイトになる』との理
由で先程まではミーティアを使わなったフリーダムとジャスティスだが、一夏が参戦した事で、『サポートとして動くにはミーティアがあった方が良い』と考えてミーティ
アの使用に踏み切ったのだ。


「そう言えばアンタ等誰?」

「少なくとも敵じゃない。今は其れで納得しろ。」

「貴方達の敵ではないけど、福音からしたら敵かもね……敵の敵は味方、って事で如何かしら?」

「……敵じゃないなら何でも良いぜ――兎にも角にも福音を止める。
 暴走状態とは言えアレには人が乗ってるからな――此のまま暴走状態が続いたらパイロットの方がダメになっちまう……そんな結末は絶対に回避しなくちゃだ。
 だから、アンタ等の力も貸してもらうぜ?」

「其れは、言われずもがなだ。」


ミーティアを装備したフリーダムとジャスティスが戦列に加わった事で、戦局は一夏の方に傾いたかのように見えるが、ミーティアフルバーストを喰らって尚、福音は
全くの無傷と言うガチでチートとしか思えない防御力を発揮してくれた……或は此れも世界の修正力と言うモノなのかもしれないが。


「ドレだけ堅くても、皆の攻撃を集中すれば必ず削り切れる筈!!」

「絶対無敵の装甲など存在しないからね。」

「私達の持てる力の全てを持ってして福音を止めましょう……!」

「織斑先生に選抜されたんだから、期待には応えないと!」

「あぁ、そうだな……私達の役目を果たすぞ。」


其れを見ていた一夏の嫁ズ&円夏達も迷わずに再度福音に向かって行く――既にシールドエネルギーの残量は30%を切っているのだが、その位の事は彼女達
には関係ない。
シールドエネルギーがイエローゾーンであっても、戦えるだけ戦うと言うのが彼女達の信条なのである。
何よりも、千冬に福音討伐の為に選抜されたのだから、その期待には応える義務がある……任務を受けた者の使命として、自分達が戦わずにはいられない、そう
考えているのだ。


「皆……休んでて良いんだぜ?」

「冗談、一夏が戦ってるのに私達だけ休んでられますかって――此れは、私達の総意よ。」

「そう来たか……なら、休んでろってのは野暮だよな?……皆の力を貸してくれ、福音を止める為に!!」

「「「「「勿論!!」」」」」


かくして、福音との第2ラウンドは最強のメンバーで挑む事になった――一夏チームは、間違いなくIS学園最強のチームなのは間違いなく、更に其処にぶっ飛んだ
性能のフリーダムとジャスティスが加わってるのだから如何考えても負ける事はないだろう。










夏と刀と無限の空 Episode29
『福音撃破計画……上等だっての!』










そして本格的に始まった第2ラウンドだったが、戦局はやや福音が優勢と言う意外な状態になっていた。
数の上では一夏達の方が圧倒的に有利なのだが、二次移行した福音には同じく二次移行した一夏の銀龍騎・刹那(以降銀龍騎と表記)でしかダメージを与える事
が出来ないと言うトンデモない状態になっていたのである。
フリーダムとジャスティスの攻撃が通じないのは、この世界のISでない為に世界の修正力が働いているからかも知れないが、この世界のISである刀奈達の機体の
攻撃まで効かず、状況は殆ど一夏と福音のタイマン状態になってしまったと言う訳だ。
最初の内こそ、福音は刀奈達の攻撃に怯み、自身の攻撃を中断する事もあったのだが、刀奈達の攻撃が一切効かないと理解するや否や、一夏の攻撃以外は完
全に無視して戦う様になったのである。

そうなってしまうと刀奈達は逆に手を出す事が出来なくなってしまった――攻撃が効かずとも被弾した事で怯んでくれれば、その隙に一夏が攻撃出来るのだが、怯
む事が無い上にノーダメージの『ハイパーアーマー』とも言うべき状態の福音に攻撃しても、其れが逆に一夏の邪魔をしてしまうかもしれないからだ。
それでもまだ、防御面においては刀奈が水のヴェールで広域攻撃を軽減したり、クラリッサがAICで実弾兵器の弾丸を停止したりと、出来る事はある――尤も、こう
言った防御面でのサポートが無かったら、機体の相性的に一夏が不利になってたのだが。

高機動の近接戦闘型の銀龍騎と、高機動の広域殲滅型の福音では圧倒的に福音の方が有利なのだ――福音が高機動力を備えていなければ互角の戦いだろう
が、福音も機動力が高いとなると、一夏は『機動力にモノを言わせて近付いて斬る』事が出来ないのだから。
如何に二次移行で銀龍騎に遠距離攻撃武器である荷電粒子砲が搭載されたとは言え、広域殲滅攻撃用の武装だけでなく、多種多様な火器が搭載されている福
音には分が悪いと言えるだろう……ビームダガーも使って何とかしろってのはあまりにも無理ゲー過ぎるしね。
一応、二次移行の際に『龍刀・朧』も『龍刀・朧弐式』に強化され、刀身に展開したビームエッジを伸ばして攻撃する事も可能なのだが、遠距離での斬撃は振りが大
きくなって見切られやすいので機動力が高い相手には使えない一手なのだ。


「兄さん、界王拳は使わないのか?アレを使えば何とかなるだろう!!」

「確かにそうなんだけど、若しも被弾したら一撃で終わりだろうが今の福音の攻撃は!
 俺の攻撃しか効かない状況で俺がやられちまったら其れこそ完全にチェックメイトだからな……使わないんじゃなくて、今の状況じゃ使えないんだよクソッタレ!」


切り札であるリミット・オーバーも、『防御力半減』のリスクを考えると安易に切れるカードではない……一夏自身が言っているように、此の状況で一夏が落とされて
しまった福音を止める事は出来なくなってしまうのだから。
一夏が復活し、銀龍騎も二次移行した事で福音を制圧出来るかと思いきや、状況は完全に手詰まりになっていた。



――ヒィィィィィィィン……



「何だ、銀龍騎が光ってる?」



そんな状況の中、銀龍騎が鈍い光を放ち始めた。
いや、鈍い光だったのは最初だけでその光はドンドン強くなり、銀龍騎全体が眩いばかりの光を放つようになって行く。



――キィィィィィィィィィィン……



「え?私達のISも光ってる?」

「此れは一体……?」

「まるで一夏の銀龍騎に共鳴しているような……」

「でも此れは……分かる、此の子達は――!」

「新たな姿に生まれ変わろうとしてる……!!」



――カッ!!



そして光が膨れ上がり、弾けた次の瞬間、一夏の嫁ズの機体はその姿を変えていた。
刀奈の紅龍騎はそれ程大きな変化はないが、左腕に新たにビームソード発生装置が追加され、背中には色こそ薄紅色だが一夏の銀龍騎と同様の光の翼が現れ
ている。


「此れは二次移行!?まさかこんなタイミングで。でも此れなら行ける……宜しくね、紅龍騎・桜花!」


その名は、『紅龍騎・桜花』(以降紅龍騎と表記。)。銀の龍騎士と並び立つ紅の龍騎士だ。
左腕に新たな武装と、背中に光の翼と言う進化をしたのは基本が同じ機体だった故か、それとも一夏と刀奈の絆の強さ故か、あるいはその両方かも知れない。


「此れが私の新たな相棒か……頼りにしているよ、オーランディ・ブルーム・ガイア。」

「まさか此処で二次移行とは……ですが、此れで一夏と共に戦えます。行きましょう、ドゥルガー・シン・フェニックス!」

「此の状況で二次移行……しかも一夏の機体に共鳴する形って言うのは、なんかいい感じじゃない?全力で行こうか、テンカラット・ダイヤモンドソウル!」

「土壇場でのパワーアップ、正に王道だな……今の私達はスーパーサイヤ人に覚醒したか、或は火事場のクソ力を発動した状態と言う事か。」


だが、紅龍騎以外の機体はその外見が大きく変わっていた――此れまでのメカメカしいパワードスーツから、一夏の銀龍騎と同様の略フルスキンのスマートな鎧
と言った感じになっていた。
ロランの機体は、アンロックユニットが小型化たされた上で四つに増え、新たに三叉の槍が武装に追加されており、装甲もシャープな鎧の様になり、フェイスパーツ
は口元だけが見えるデザインとなっている。(イメージは遊戯王の大地の騎士ガイア・ソルジャー)
その名は『オーランディ・ブルーム・ガイア』(以降ガイアと表記)。其れは、一夏に初めて異性を感じたロランの思いの具現化だ。

ヴィシュヌの機体は、白と赤を基調とした騎士の鎧の様になっており、新たに近接戦闘用の両刃のISブレードが搭載さている(イメージは、頭部は遊戯王のフェニッ
クス・ギア・フリードで身体は同じく遊戯王のゴッドフェニックス・ギア・フリード)――格闘以外の近接戦闘手段が増えたのはヴィシュヌにとっては有難いだろう。
その名は『ドゥルガー・シン・フェニックス』(以降フェニックスと表記)。彼女の一夏への愛は、不死鳥の炎の如く消える事はない。

グリフィンの機体は、ロランの機体と同様にアンロックユニットが小型化されて四つに増えただけでなく、頭部までも完全に覆う全身装甲になっており、頭部と身体
そして両手足に銀の装甲が展開されている。(イメージは遊戯王のE・HEROソリッドマン)。基本的には近接戦闘が得意な機体だが、アンロックユニットが増えた事
で本体とアンロックユニットの波状攻撃がより強力になったと言える。
その名は『テンカラット・ダイヤモンドソウル』(以降ダイヤモンドソウルと表記)。グリフィンの魂はダイヤモンドの如く強さを持って一夏と並び立つと言う事だろう。

クラリッサの機体は、右手に搭載されていた大型のレールカノンが二門に増えてアンロック浮遊ユニットになり、新たに近接戦闘用に楯が搭載されたハルバートの
様な武装が追加されている。(イメージは遊戯王の鋼鉄の魔導騎士-ギルティ・ギア・フリード)。
そして両手に新たにプラズマ手刀の『ベリーナ・ローター・レーゲン』が追加されている……日本語訳すると『ベルリンの赤い雨』になるのは、クラリッサが極度のヲタ
故だろう……まぁ、ブロッケンJrはカッコいいからね。
そんな彼女の機体の名は『シュバルツェ・フリート』(以降フリートと表記)。――黒き将軍は、一夏を守る意思の表れそのものだ。


「二次移行?まさか、銀龍騎と共鳴したのか!?」

「如何やらそうみたいね……でも二次移行したのなら、福音に私達の攻撃も通じる筈、本番は此処からよ!!」

「さぁ、派手に反撃と行こうじゃないか?やられっぱなしってのは君の趣味じゃないだろう一夏?」

「行きましょう一夏、今の私達なら福音を止める事が出来る筈です。」

「まさかの二次移行だったけど、こうなった以上は負ける気がしないね!寧ろ、勝利の未来しか見えないって感じだ!!」

「君の機体と共鳴しての二次移行……最高だな。――だがしかし、私達も二次移行したと言うのは紛う事なき勝利フラグだ……なら、そのフラグを回収しないと言う
 選択肢は存在しない。そうだろう一夏?」


此の土壇場でまさかの二次移行――其れも一夏の機体に共鳴する形での二次移行だったのだから、『ISの生みの親である束でもビックリ仰天する事態』だと言え
るだろう。
他の機体に共鳴する形で二次移行を果たした機体は此れまで確認されていない――詰る所、一夏の嫁ズの機体が世界で初めてとなる、『他の機体と共鳴して二
次移行』をしたISと言う事になる訳だ。
なぜこの様な二次移行が一夏の嫁ズの機体にだけ起きたのか、其れは機体を詳細に調べても分からないかも知れないが、仮定で話をするのならば、二次移行し
た銀龍騎、正確には銀龍騎のISコアのコア人格である『彼女』が、一夏に選ばれた彼女達の機体のコアに働きかけて進化を促したのかも知れない。
銀龍騎が発光してから彼女達の機体が発光した事や、円夏達の機体は二次移行していない事を考えると、この仮説はあながち間違いではないだろう……それが
立証されたら、世界中でISコアのコア人格とコミュニケーションを取る方法が模索されるだろうが。……尤も、コア人格とコミュニケーションを取る事が出来たからと言
って確実に二次移行するとは限らないのだけれど。


「だな……其れじゃ、勝利フラグの回収と行こうぜ!」


それはさておき、二次移行した銀龍騎の攻撃が福音に通じたのならば、二次移行した一夏の嫁ズの機体の攻撃が福音に通じるのは道理と言える――なので迷う
事無く全員で福音に向かって行く。
戦力は一気に六倍にまで膨れ上がったと言うのは、相当な上昇値……と言うか普通に戦力のインフレレベルだ。――加えて、嫁ズの機体は二次移行した際に30
%だったシールドエネルギーが満タンになってた訳だしね。


『La……!』


二次移行した嫁ズの機体に、福音も只ならぬモノを感じたのか、すぐさま広域殲滅攻撃で排除しようとするが――


「悪いけど、そうは問屋が卸さないさ。」


其れよりも早く、ロランが変形機構が内蔵された射撃武器、スピーシー・プランターXX03をアサルトライフルモードで放ち福音の攻撃を中断させる――アサルトライフ
ルは一発の威力は低いが、凄まじい連射が出来るので相手の出鼻を挫くには持って来いの武器なのだ。
更に二次移行した事によって、攻撃が福音に効くようになり、此の攻撃で福音のエネルギーを削る。


「マダマダ、此れからですよ?」

「やられっぱなしってのは、正直ガラじゃないんだよね!」


更に追撃にイグニッションブーストで接近したヴィシュヌの蹴りと、グリフィンのナックルが炸裂し、福音のエネルギーを更に削る――ビームエッジが展開されたフェニ
ックスの蹴りと、ダイヤモンドソウルの強固な手甲でのナックルは相当に強烈だった事だろう。


『La……aaaa……』

「お前も望まぬ事をされて苦しいのだな……安心しろ、私達がその苦しみから救ってやる。勿論、お前の主も助ける。」


其れでも落ちない福音に、今度はクラリッサが進化したAICを発動し、ツヴァイクと呼ばれる特殊な棘を福音に射出して、福音の動きを止めた上でツヴァイクからAIC
の指向性力場を付与・展開し福音の装甲を貫いて大きなダメージを与える。
福音も、まさか装甲が貫かれるとは思ってなかったのか、予想外の事に対応が出来なかった。――そもそも、AICによって動きが封じられているので、対応したくて
も出来ないのだが。


「行くぜ刀奈!」

「えぇ、行くわよ一夏!」


そしてこの好機を逃す一夏と刀奈ではない。
一夏は二次移行で追加されたクロー(荷電粒子砲が変形したクロー状の武器……より正確に言うのならば、荷電粒子砲の方がクローが変形した状態である。)に
ビームクローを展開して福音の装甲を抉り、刀奈はこれまた二次移行で追加された左腕のビームソード『龍剣・焔』で福音の装甲を切り裂く。


『La……Laaaaaaaa!!!』


此のままでは負けると思ったのか、福音は最大出力の広域殲滅攻撃を発動して一夏達を吹き飛ばす――其れを喰らった一夏達は吹き飛ばされて大ダメージを受
けたが……


「この程度ならば問題ありません……スーパーフェニックス!」


ヴィシュヌが二次移行した事で備わったシールドエネルギー回復機能の『スーパーフェニックス』を発動し、自身を含めた味方の機体のシールドエネルギーを最大値
の50%の数値分だけ回復し、受けたダメージ以上の回復をした。
そして、その回復能力は円夏達にも効果を発揮してシールドエネルギーを回復し、シールドエネルギーが残り30%だったのが今では残量が80%に回復していると
言う状態になったのだ。


「シールドエネルギーの回復とは有難いな……兄さん達だけが戦うと言うのもアレだし、私達も私達の戦いをするとしようじゃないか?」

「でも円夏、私達の攻撃は福音には……」

「効かないか?確かに私達の攻撃は効かなかった、福音の装甲が頑丈過ぎてな。
 だが、其れは先程までの話。今の福音は、兄さん達の攻撃で装甲が破損している!破損している場所ならば攻撃はある程度通る……奴はもう無敵ではない。」

「成程……無敵じゃないなら確かに行けるかも……」


シールドエネルギーが回復した事で、円夏達も戦列に加わり、一夏チームはフルメンバーで福音との戦闘を行う事に。
確かに先程までは、福音には一切の攻撃が効かなかったが、円夏の言う様に装甲が破損している今ならば破損個所を狙う事でダメージを与える事が可能と言え
るだろう――木製のバットでコンクリートの壁をぶち抜くのは普通は不可能だが、その壁に亀裂が入っているのならば其処を集中的にブッ叩けば木製のバットであ
ってもコンクリートの壁を壊す事が可能なのと同じように。
それどころか、完全に装甲が剝がれた所に攻撃が当たれば、操縦者を守る為の絶対防御が発動してシールドエネルギーを大幅に削る事すら可能なのだから、戦
列に加わらないと言う選択肢はないだろう。


「さっきの礼だ……!」

「此れでも……喰らって!!」


戦列に加わった円夏達は、先ずは円夏のビットと簪のミサイルによる、毎度お馴染み回避不能、避けられるモノなら避けてみやがれの『絶対殺す弾幕』を炸裂させ
て福音を爆撃!!
装甲の破損個所をピンポイントで狙う事は出来ないが、広範囲の爆撃になるので結果的に破損個所にダメージを与える事が可能な訳だ。


「円夏、お前等!」

「ハッハッハ!福音は最早無敵ではなくなった!無敵でないのであれば私達の攻撃も其れなりに効くだろう?
 無敵でなくなった二次移行機に、回復した一次移行機で挑んで倒す……其れはまるで負けイベントを無理やり勝つみたいなドキドキ感とワクワク感があると言え
 るからな!」

「……ラストランカーの負けイベントは如何足掻いても勝つ事は出来ないけどね。」

「簪、私は不可能を可能にする女だ!!」

「だから、何でお前はそうやって死亡フラグを建てるんだよ!?」

「此処まで来ると最早趣味の領域よねぇ……でも、この面子なら死亡フラグなんてバッキバキにぶち折れるってもんでしょ!」

「そうっすよね!ファニール、オニール、アイドルの真骨頂を見せてくれるっすか?」

「OK!!行くわよオニール!」

「うん!攻撃力の一点強化……『激闘の歌』!!」


円夏が又しても死亡フラグを口にしたみたいだが、そんな死亡フラグは乱の言う様にこのメンバーなら木っ端微塵にぶち砕けるだろう――てか、一夏に続いて嫁ズ
の機体も二次移行した時点で勝利フラグが建って居ると言えるのだから、勝利フラグ回収中の死亡フラグなど有って無いようなモノである。……尤も、世の中には
ドラゴンボールのセル編の悟空の様に勝利フラグが建ってから死んでしまうと言う特殊な例もあるが。
まぁ、其れは今は良いとして、此処でコメット姉妹が新たな歌で、一夏チーム全員を『攻撃力に全振りした一点強化した状態』にした……機動力や防御力は一切強
化されない代わりに攻撃力は限界まで引き上げたのである。
その状態で、乱は龍砲を放って破損した福音の装甲を更に砕く――如何に福音と言えども、砲身も砲弾も見えない攻撃に対処するのは難しかったのか、被弾して
破損した装甲が更に大きく砕け、其処からパイロットと思われる生身の肌が現れた。
遂に出来た決定的な弱点を逃さずに、フォルテがその場所を凍り付かせれば、すかさずヴィシュヌが二次移行で追加された近接戦闘用の武器であるフェニックスブ
レードの刀身に超高温の炎を纏わせて斬り付け、氷ごと装甲をぶち砕く!
超低温に冷却された装甲に超高温のブレードを叩きつけた事で、急激な熱変化に耐えられなくなって装甲が砕けたのだ。


「オォォォォォ……オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」

「ベルリンの赤い雨!!」

「グレネードランチャーが使えるのなら、どこぞのサバイバルアクションホラーの様に硫酸弾や火炎弾、氷結弾なんかも使えるようにしたい所だなのだけれど、生憎
 と持ち合わせがないのでね、グレネード弾だけで満足してくれるかい?」


其れでも一夏チームの猛攻は止まらず、少しずつ、だが確実に福音のシールドエネルギーを削って行く。
無論福音も只やられている訳ではなく、反撃しようとしては居るのだが、其れは流石に多勢に無勢だ――一夏チームの猛攻だけじゃなく、フリーダムとジャスティス
もまた、装甲の破損箇所を狙って攻撃しているのだから猶更だ。……流石に装甲の破損箇所へのダメージは世界の修正力を持ってしても無効にする事は出来な
いみたいだ。まぁ、其れまで無効にしちゃったらパワーバランス崩れまくりだからね。


『La……!!』


圧倒的に追い込まれた福音は、逆転を狙って広域殲滅攻撃を炸裂させようとするが、広域殲滅攻撃用の武装である『シルバーベル』は沈黙し攻撃は放たれず、戦
局を引っ繰り返す事は出来なかった。
だが、何故広域殲滅攻撃は発動しなかったのだろうか?


「広域殲滅攻撃……確かにクソ強いよな其れ。競技用のアリーナでぶちかまされたら回避不可能な代物だからな。
 だけどよ、其れだけ激強な攻撃って事は一発撃つだけで結構なエネルギーを消費するって事だろ?――機体が動く為のエネルギーを考えると、もう広域殲滅攻
 撃を使う事は出来ない状態な訳だ。」

「パイロットの意識があれば気付いたでしょうけど、パイロットが意識を失った暴走状態では気付けなかったみたいね……序に言うと、さっき広域殲滅攻撃を喰らっ
 たのは態とよ。
 貴女の機体エネルギーを消費させる為にね!」


答えは簡単、広域殲滅攻撃を使用するだけのエネルギーが福音には残っていなかったからだ。
一夏の言う様に競技用のアリーナの様に限られた空間に於いては福音の広域殲滅攻撃は回避不可能な必中攻撃なのだが、其れだけの広範囲に攻撃をばら撒く
と言うのは機体のエネルギーを大幅に消費するモノなのだ――現役時代の千冬の愛機であった暮桜の零落白夜の様に、強力過ぎる武装と言うモノは機体エネル
ギーをコストにしなくてならないのだ。
『だったら一夏達の機体は如何なるんだ?』と言う話になるが、一夏達の機体に搭載されている武装は何れも強力ではあるモノの、ISバトルでチートレベルの代物
かと言われればそんな事はないので機体エネルギーは消費しないのだ。
一夏のリミット・オーバーと刀奈のナノマシン精製機構のミストミラージュだって可成り反則なのではないかと思うだろうが、リミット・オーバーには防御力半減のデメ
リットがあるし、ミストミラージュには超寒冷地と超高温地では使えないと言うデメリットがあるからね。
そもそもにして主人公とヒロインは何をしても許されると言う不文律がこの世には存在する訳であって、一夏と一夏の嫁ズの機体が多少理不尽な性能を有してたと
しても誰も文句は言えないのである。一夏は勿論の事、一夏に選ばれた嫁ズもまた最高神であるラーとオシリスとオベリスクの寵愛を受けてる訳だしね。


『La………Laaaaaaaaaaa!!!』

「……お前は兵器になりたくなかった、そしてご主人様を守りたかった、其れだけなんだよな福音……お前の思いは分かったから、もう泣くな。
 俺が、俺達が終わらせる!お前を止めて、そしてパイロットも死なせねぇ!!」

「だから、少しだけ痛いかも知れないけど我慢してね?……貴女を無事に保護したら、束博士に直してもらうから。」

「嗚呼、この戦いもいよいよ終幕と言う事か……だが、フィナーレに相応しい舞台は整った――ラストシーンと行こうじゃないか!」

「人間凶器と称された母から受け継いだムエタイの極意、此処で見せましょう!」

「ブラジル人は喧嘩が好きなんだよね……だから、喧嘩で負ける事は出来ないんだ――ブラジル人の喧嘩強さ、その身で味わって貰うよ!」

「二次移行で此処までの性能になるとは……我がドイツの科学力は世界一ぃぃ!!と言う事は出来んな……二次移行で此処までになるとは、恐らく中将殿ですら
 予想していなかっただろうからね。」


最大の切り札が使えなくなった福音は、怒りとも悲しみとも取れない咆哮を上げるが、一夏達には、其れが『助けてくれ』との悲鳴にしか聞こえなかった……暴走し
ていても尚、福音はパイロットの身を案じ、パイロットを守る為に戦っているのだと言う事がひしひしと伝わって来たのだ。
そもそもにして福音の暴走は、束がISに掛けたリミッターを無理やり外そうとしなければ起きなかった事であり、福音としても自身が兵器になる事を拒否した末に暴
走してしまったのだ。
なので、福音とパイロットを救う為に一夏達は最大の攻撃を叩き込む!!

先ずはロランが近距離でショットガンの一撃を叩き込んでシールドエネルギーを大きく減らすと、間髪入れずにグリフィンが高速のエルボーからのショートアッパーの
コンボを叩き込んで福音を吹き飛ばし、追い打ちにヴィシュヌが連続ハイキックからの飛び蹴りをぶちかます!
此れだけの攻撃を受けて吹っ飛ぶ福音をクラリッサがAICで留まらせ……


「更識流槍術奥義……桜花爛漫!!」


強制的に動きを止められた福音に刀奈の槍の超高速の連続突きが炸裂しシールドエネルギーを大きく消し飛ばす――のは良いのだが、『更識流槍術』ってなんぞ
や?……此れは間違いなくこの場のノリで刀奈が考えた適当な流派名って感じだろう。まぁ、その場でのノリと勢いってのは割と大事だから、此れもまたアリってこ
とに成るのかも知れないけどね。


『La……』


「終わりにしようぜ福音……俺は此れ以上、お前の泣き声を聞きたくねぇんだ――だから、終わらせてやる……行くぜ銀龍騎、界王拳!!!」


此処で一夏が切り札であるリミット・オーバーを発動し、圧倒的な攻撃力と機動力で福音を圧倒し、シールドエネルギーをガンガン削って行く……リミット・オーバー
発動中は防御力半減のデメリットがあるのだが、其れは逆に言うのならば攻撃を喰らわなければマッタク問題ない。現実に、一夏は福音の攻撃を圧倒的な機動力
で回避してる訳だからね。

そして――


「此れで決めるぜ!!
 散り逝くは叢雲…咲き乱れるは桜花… 今宵、散華する武士が為、せめてもの手向けをさせてもらおう!はぁぁっ…!せいや!秘技、桜花斬月!!」


一夏の必殺の居合が炸裂して福音のシールドエネルギーは遂にゼロになって機体が解除される……一撃で残っていたシールドエネルギーを消し飛ばしてしまうと
は一夏の居合は文字通りの一撃必殺技と言えるだろう。
一撃でシールドエネルギーを消し飛ばす零落白夜無しでも此れだけの戦いが出来る一夏の実力は若しかしたら千冬さんを既に越えているのかも知れない。

其れは兎も角、機体が解除された事で福音のパイロットは海面に真っ逆さまなのだが……


「おぉっと、デッドエンドは勘弁だ。」

「如何に下が海とは言っても、この高度から落ちたら人生のエンディングですからね……貴女は、此処で死んでいい人間ではないわ。」


落ち行くパイロットはフリーダムが見事にキャッチしてくれて、最悪の事態だけは避ける事が出来た。――福音のパイロットは気を失って眠っているが、其れだけに
福音が此の場で起動する事はないだろう。
一夏達は見事に福音の暴走を止め、福音のパイロットを守ったのだ。


「状況終了ってな……そんじゃ帰るか――アンタ達も当然来てくれるよな?」

「あぁ、勿論だ。その心算が無かったら、態々姿を現したりはしないからな――寧ろアタシ達の方から頼みたい位だ、お前達の本拠地に連れて行ってくれ、とな。」

「そう来るとは少し予想外だったけど、一緒に来てくれるってんなら有難いぜ。付いて来てくれ。」


後は旅館に戻るだけなのだが、此処で一夏はフリーダムとジャスティスに同行を求めた――まぁ、幾ら助けて貰ったとは言え、正体不明のISの報告をしないなんて
事は出来ないから、此れは当然の事と言えるだろう。
――何も言わずに素直に付いて来たフリーダムとジャスティスは若干怪しい感じがしなくもないが、しかし悪意は一切感じない……だからこそ一夏も『付いてこい』
と言ったのだろう。


「先ずは旅館に戻って千冬姉に報告しないとな。」

「そうね、先ずは其れからだったわ……二次移行した事とか、かなり詳しく聞かれそうだけど、面倒なその時は適当に答えればOKよね?嘘さえ吐かなければ其れ
 で良いわよね?」

「だ~いぶ間違ってる気がしなくもないんだけど、嘘さえ吐かなければ其れで良いってのに納得した俺がいる――確かに、トンデモねぇ嘘でも、其れを現実にしちま
 ったら、其れはもう嘘じゃないからな。」


そんな軽口を叩きながら、一行は旅館近くの浜辺に降り立つ。


「ご苦労だった。」

「任務完了、よくやったわね。」


そして其処には千冬とスコールが待機しており、福音の討伐に向かった全員とハイタッチを交わして労いの意を伝える――見た目にはドライかも知れないが、一夏
チーム的には此れ位の方が丁度良い感じなのだろう。一夏チームは基本的にベタベタされるのが好きではないからね。


「よくやったなお前等……先ずは、お前達に力を貸してくれた者達に話を聞くとするか――更識姉達を助けてくれた事と福音の暴走の鎮圧に協力してくれた事に先
 ずは礼を言おう。
 だが、素性が分からないので話を聞かせて欲しいのだが、その前に機体を解除して貰えるか?名前も顔も分からないのでは此方とてどうしようもないからな。」

「其れはそうですよね。」

「其れじゃスッピン晒しと行きましょう!!!」


そう言ってフリーダムとジャスティスは機体を解除して、その姿を顕わにしたのだが、その場に居た全員がフリーダムとジャスティスの正体を知って固まってしまった
のだ――だが、其れも無理はない。


「え……私?」

「刀奈と、生徒会長?」


機体を解除して現れたのは刀奈と、IS学園の生徒会長である蓮杖夏姫と瓜二つの少女だったのだから……違いを上げるとすれば、夏姫とそっくりの少女の肌の色
位だろう。それ以外は全く同じなのだ。


「アタシの名は蓮杖夏姫……フリーダムのパイロットだ。」

「私は蓮杖刀奈……うふふ、宜しくね♪」


驚く一夏達を尻目に、名を名乗った少女達は動じる事もなく一夏達を見やる……その姿には一種の余裕すら見て取れるほどだ。


「……謎の機体のパイロットが更識姉と蓮杖と瓜二つな上に、名前まで殆ど同じとは……偶然にしてはあまりにも出来過ぎていると言うか何と言うか。
 私も少しばかり驚いているが……まぁ良い、全て話してくれるのだろう、お前達の事を?」

「えぇ、勿論ですよ千冬さん。
 アタシ達もその心算で福音との戦いに介入した訳ですし、此れまで訪れた世界でも例外なく、福音戦に介入してアタシ達の存在を知られる事になって来ましたか
 らね。」

「此れまで訪れた世界って……どう言う事だ?」

「ふふ、其れに関してもちゃんと説明してあげるから安心なさいな一夏君♪」

「……私と同じ顔をした人が一夏の事を君付けで呼んでるのを見ると、なんか不思議な気分だわ。」

「呼ばれた俺も、何だか不思議な気分だぜ……てか、顔だけじゃなくて多分性格もよく似てるんじゃないかと思ったのは、俺だけじゃないよなきっと。」


福音の暴走を止め、パイロットも無事に保護して任務は完了したが、戦闘に介入して来たフリーダムとジャスティスのパイロットの素性に関しては此れから話を聞く
事になるみたいだが、少なくとも目の前の少女二人は一夏達には好意的である様だ……まぁ、敵対心を持って居るのならばそもそもあの場面で刀奈達を助けたり
はしないだろうが。


「ふぅ……取り敢えず全員、バイタルチェックをしてから温泉に入って来い。戦闘を行った後だから、汗と汚れを落としてから話をした方が良いだろう――特に女性陣
 は一夏以上にな。」

「む……確かに激しく動いたから汗ばんでいるし、ISスーツが汗で肌に張り付いているのはあまり気持ちのいいモノではないね?」

「其れではお言葉に甘えて、バイタルチェックをしてから温泉に参りましょう。」

「レッツゴー!!」


だが先ずは戦闘後のバイタルチェック、そして温泉で汗と汚れを落としてから改めて話をすると言う事で纏まった様だ――ロランの言う様に、汗で肌に張り付いたIS
スーツってのは不快感高そうだから即着替えたいだろうしね。

謎の二人の少女との話、二次移行した機体のチェック、学園及びアメリカとイスラエルへの報告と、やる事はまだまだ沢山あるが、何にしても福音の暴走を鎮圧した
事で、臨海学校で起きた最大の事件は一区切り付いたのだった。


尚、教員部屋の一つに放り込まれていた陽彩が、帰還する一夏達の中にフリーダムとジャスティスの姿を見付けて驚いていたようだが、だからと言って何がある訳
でもないだろう。
命令違反を犯した陽彩、箒、セシリア、鈴、ラウラの五人は臨海学校の残りの時間は全て教員の監視下で過ごす事しか出来ないのだから……














 To Be Continued 







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