放課後のIS訓練を行っている一夏達の前に突如現れたドイツからの転校生の銀髪眼帯少女――ラウラ・ボーデヴィッヒは、イキナリ一夏に対して『私と戦え』って
言ってきやがった……傍から見りゃ、『お前何言ってんの?』てな案件だろう。つまり、意味が分からない。
そんな意味不明な事をぶちかまされた一夏はと言うと……
「……嫌だ。断る。却下不可。冗談は顔だけにしとけ。って言うか、死んでもやらんわ。」
全力全壊で拒否りましたとさ……って言うか、其れはそうよね?一夏からしたら、ラウラの私闘に付き合う義理も義務もない訳だからな――断り方が何だか独特
な気もするが、全力で拒否してる事だけは物凄く分かる感じだ。
此れは、心底ラウラとは戦いたくないのだろう……そりゃまぁ、一方的に意味不明な悪意をぶつけてくる輩と戦いたいと思う人なんざ早々居ないだろうからな。
「貴様逃げるのか?」
「逃げるも何も、そもそも俺にはお前と戦う理由が欠片程もないし、お前と戦うよりも今は彼女達との訓練の方が万倍大事なんでね。
大体にして、お前アリーナの使用許可取ってあるのか?専用機持ちは、誰かの訓練に飛び入り参加する場合でもアリーナの使用許可取らなきゃダメなんだぜ
?因みに無許可の場合は当然罰則があるからな。」
ラウラが『逃げるのか?』と煽ってみても一夏は全くぶれない――至極分かり易い挑発でもあるが、煽り耐性の低い人間ならば此れだけで『カチン』と来て挑発に
乗ってしまうだろうが、一夏は1mmも動じず逆に正論をぶち当てて『お前とは戦わない』との意思を伝える。
「ふん、使用許可ならば取ってあるから問題はない。
其れに貴様に戦う理由がなくとも私にはある……簡単に誘拐されるような軟弱者が織斑教官の弟である等と言う事は断じて認めん。教官の汚点でしかない貴
様を叩き潰さねば私の気が治まらんのだ。」
「知るかアホンダラ。完全に意味不明な私怨じゃねぇかよ?益々俺が付き合ってやる義務も義理もないな。
そんなに俺と戦いたいってんなら、俺がお前と戦う理由ってモンを持ってくるんだな――お前と戦う理由が、戦わなきゃならない理由が出来たら、其の時はマジ
で相手になってやるけどよ。」
「貴様の都合など知らん。貴様は黙って私と戦えばそれで良いんだ!」
意味不明の私怨を持ってる事は千冬から聞いていたモノの、其れを直接本人から聞かされると矢張り余計に良い気持ちはしない……そもそもにして、事件の被
害者である一夏に勝手に恨み持つとか頭オカシイにも程があるだろう。
その余りにも一方的な態度に一夏も、いや一夏のパートナーズも訓練をしていたメンバー達も呆れ果てている……一夏が言った『俺と戦いたいなら、俺が戦う理
由を持って来い』ってのも、多分聞こえちゃいないだろう。
「あ~~!ボーデヴィッヒさんこんな所に居たんだ!織斑先生が呼んでたよ?『寮の鍵を渡し忘れてたから取りに来い』だってさ。」
だがこの状況も、一組の生徒と思われる女子がやってきた事で唐突に終わりを迎える事になった。
ただ彼女が来ただけならばラウラは其れを無視して一夏に因縁を付け続けただろうが、『織斑先生が呼んでいた』と聞いたらそうは行かない――千冬はラウラに
とっては何よりも優先すべき物であり、千冬が呼んでいるとなれば其れは一夏との戦いよりも重要な事であるからだ。
「教官が?……ふん、命拾いをしたな織斑一夏。
教官が呼んでいるのならば仕方あるまい。序に興も削がれたので今日の所は退いてやる……だが、私は諦めた訳ではないからな?近い内に必ず貴様を叩き
のめしてやるから覚悟しておけ。」
安い三流悪役の様なセリフを吐いてラウラはアリーナから去り、一夏達は『ヤレヤレ』と言った感じだ――特に一夏は『何であんな奴が隊長をやってて、クラリッサ
が副隊長に甘んじてるんだ?』とか思ってる事だろう。……否、一夏だけじゃなく、クラリッサの事を知ってるパートナーズも同じ事を思ってるだろう。
ともあれ、邪魔者は居なくなったので、気を取り直して一夏達は訓練を再開し、アリーナの使用時間ギリギリまで有意義な時間を過ごしたのだった。――尚、一夏
の護衛を務めているオータムが介入しなかったのは、一夏から『生徒間のいざこざには介入しないでくれ』と頼んでいたからであり、決してサボっていた訳ではな
い事を追記しておく。
夏と刀と無限の空 Episode18
『取り敢えず、平和に行きましょう』
翌日のホームルーム前の一時、織斑兄妹と更識姉妹が教室に入ると、クラスメイト達が何やら集まって話をしている様だった。IS関連の雑誌を見ながら話をして
居るみたいだが、一体何を話しているのだろうか?
「おはようさん。何話してるんだ?」
「何か盛り上がってたみたいだけれど、良ければ私達も混ぜてくれないかしら?」
「あ、織斑君達おっはよ~~!!」
「おはよ~~!一夏君と刀奈さんは、恋人繋ぎでご登校ですか~~?今日もラブラブですねぇ♪」
「しかも一夏君は、例の法律によって刀奈さんだけじゃなくて三組のヴィシュヌさんとロランさん、二年のレッドラム先輩も嫁にしたらしいじゃない?……ぶっちゃけ
一夏君って、世の男性の敵だよね?」
「そうなんだよなぁ……国際IS委員会がやらかしてくれたせいで、俺は一気に世のモテない男性からの嫉妬と羨望と殺気を喰らう事になっちまったんだよなぁ?
学園から一歩外に出たら、常に百人の敵が居ると思わないとな。」
「其れは大丈夫でしょ?一夏がパンピーに後れを取るとは思えないし、何かあったら其の時はオータムさんが助けてくれるだろうし……何より、一夏には私をはじ
めとした最強の嫁が居るんだから、大概の事は何とかなるわよ。」
「うわぉ、朝から惚気いただきました!まだ本格的な夏には遠いのに、一気に暑くなった気がするね。」
「円夏さんと、簪さんも良い相手見つけなよ?お兄さんとお姉さんだけじゃなくて、妹ズも幸せにならないとだからね~。」
教室に入って早々、こんな事を言われるのは最早お約束であり、一夏達も適当に軽口を交えて対応している辺りスッカリ慣れたものだ……刀奈が物凄く自然に
惚気をぶち込んで来たのもお約束っちゃお約束なのだろう。
『良い相手を見つけなよ?』と言われた事に対し、円夏は『兄さん以上の男でなければ付き合う気はない』と無理ゲー発言をし、簪は『三次元男子に興味はない』
とのガチヲタ発言をかましてくれていたのがちょっとアレだが……簪に関しては、生徒会長である夏姫が最終防衛ライン(?)だと思っておこう。
「んで、何を話してたんだ?」
「あ~……其れはね、此れ見てくれる?」
お約束なやり取りをした所で、一夏が『何を話してたのか?』と聞くと、クラスメイトの鏡ナギが見ていた雑誌を渡してくれたのだが、開かれたページを見た一夏達
は思わずフリーズしてしまった。
そのページにはIS関連の新商品が紹介されていたのだが、とある企業が新たに作ったISスーツが問題だった――と言うのも、そのISスーツは機能的にはとても
優れているのだが、何をトチ狂ったのかスーツの色が肌色だったのだ。
ISスーツは身体にジャストフィットする物であり、身体の線がバッチリと出る物なのだが、そんなISスーツのカラーリングを肌色にしたら一体どうなるのか?
答えは簡単、大抵の場合は『ZENRA』と変わらない状態になってしまうだろう。
此れは何か?開発者がマヴラブ・オルタネイティブの熱狂的ファンだったとかそんな感じなのか?そうじゃなかったら、肌色のISスーツとか思い付かんだろうに。
「此れはアウトだな。」
「流石の私も此れはないわ。」
「此れを開発した人間は、確実にカプエスのカラーエディットでユリのスパッツを肌色にした筈。」
「それ以上に、此れにゴーサインを出した会社が大丈夫か此れ?」
まぁ、如何考えても普通にアウトだよな此のISスーツは……売り出した所で、世のIS操縦者から猛抗議が噴出して発売中止になる未来しか見えない――だがし
かし、其れを恐れずに己のロマンを追求した開発者の姿勢だけは評価……出来る訳ないかやっぱり。
そんな感じで賑やかな朝の時間だったのだが、チャイムが鳴り響き、ホームルームの時間になると夫々が自分の席に即座に戻るってのは評価すべき事だろう。
「其れじゃあ、ホームルームを始めるわよ。」
ホームルームの時間になり、担任のスコールが教室に入って来た……今日は、上下ともピンクの『アジデス』のジャージなのがなんともだ。スタイルも良いし美人
なんだから、女性物のスーツでカッチリ決めれば可成り行けてると思うんだが、其処でジャージを選択しちゃう辺りが『残念な美人』なんだよねこの人は。
尤も、其のジャージ姿も中々様になってるから若干突っ込みを入れ辛いって部分があるっちゃあるんだけどね。
「先ずは伝達事項なのだけれど、来週行われる学年別トーナメントだけれど、今年は例年とは異なり、『タッグマッチ』で行う事になったから、参加を予定してる人
は、今週末までにタッグパートナーを決めて参加の申し込みをしておいてね。」
んで、先ずは生徒への伝達事項なのだが、此れが中々に衝撃的なモノだった。
毎年IS学園では学年別トーナメントと言うISバトルイベントが開催されているのだが、今年は例年のシングルマッチではなくタッグマッチで行うとの事だった。『何
で今年はタッグマッチ?』とも思うだろうが、個人のレベルは実技の授業で其れなりに測る事が出来るが、タッグやチームのレベルと言うのは中々測る機会が無
いので、今年はタッグマッチになったのだ。まぁ、個人のレベルだけじゃなくタッグやチームでのレベルってのも測っておきたい所ではあるから、学園側がタッグマ
ッチにしたのは当然と言えば当然と言えるだろう。
「ふむ、タッグマッチか……良い機会だ、私と組まないか簪?」
「其れは私の方から言おうと思ってた。
私も円夏も遠距離型だから懐に入り込まれたら不利になるけど、逆に言うなら近付けさせなければ圧倒的な火力で制圧出来るからね……圧倒的火力をもって
しての弾幕で圧倒するのはロマンだから。」
其れを聞いて、先ずは簪と円夏が速攻でタッグを結成した。
円夏も簪も遠距離型の機体なので、懐に潜り込まれると少々キツイ部分があるのだが、逆に言うのならば近付けさえしなければ、圧倒的な火力で相手を滅殺出
来るのだ……シューティングゲームだったら画面の九割を覆う弾幕をリアルに展開するってのはガチでおっかないわうん。
それはさておき、クラスメイトの興味は一夏が誰と組むかに向いていた――トーナメントの参加は強制ではなく任意なので、一夏が参加しない可能性もあったの
だが、四組の生徒は一夏が不参加なんて事はあり得ないと思っていた。
日々鍛錬を積み、己を高めて来た一夏が、その成果を発揮出来る場をみすみす見逃す事はないからな。
「タッグマッチ……私と組みましょう?――って言えばクラスは盛り上がったんでしょうけど、私と一夏は同じクラスなんだから此れはフェアじゃないわよね?
グリフィンは学年が違うから一夏とタッグは組めないけど、ロランとヴィシュヌには一夏とタッグを組む権利がある訳だから、彼女達の思いを無視して、同じクラス
だからって立候補するのは、ちょっと反則だからね。――今日のランチタイムにロランとヴィシュヌと一緒に決めましょう?」
「お前ならそう言うと思ったぜ刀奈。」
一夏は当然参加の方向だったみたいだが、タッグパートナーの筆頭である刀奈が、『同じクラスだからって立候補するのはフェアじゃない』と言った事で、一夏の
タッグパートナーは取り敢えず保留の方向だ。
同じクラスって言うアドバンテージを利用すれは一夏とのタッグは簡単に勝ち取れた刀奈だが、其れはフェアじゃないからって、ランチタイムにヴィシュヌとロランに
聞いて決めるって選択が出来るとか、ドンだけ良い女ですかアンタ?
此れが陽彩のハーレムメンバーだったら我先にと陽彩とのタッグを考えていただろうが、刀奈は自分以外のパートナーズの事も考えて立候補は見送ったのだ。
「だから、貴方が本当に組みたいと思った相手を選んでね一夏?誰を選んでも、私は怒らないから。」
「分かってるよ……だけどさ、俺がどうしても選べなかった時は如何するんだよ?」
「その時は、最終手段……決まらなかった時の最終手段であるジャンケン大会で決めるだけよ。って言うか一夏が選べなかったその時は、それ以外で一夏のタ
ッグパートナーを決める方法ってないと思うしね。」
「言われてみりゃ確かにそうだな。」
そんな訳で一夏のタッグパートナーの決定は本日のランチタイムまで持ち越しとなった――まぁ、其れが逆に四組の生徒達にとっては楽しみだったらしく、『一夏
のタッグパートナーは誰になるのか?』って話題がホームルームを席巻したのだけどね。……其れについて、学食の食券を賭けたトトカルチョが開催されたのは
御愛嬌と言う事で。
その後のホームルームは恙なく進み、クラス代表の一夏の号令でホームルームは幕を閉じたのだった。
――――――
あっと言う間に午前中の授業は終わって、今日も今日とて一夏チームは屋上でランチタイムだ。
本日の一夏&一夏パートナーズの弁当は、三食そぼろご飯(醤油味の鳥そぼろ、甘めの玉子そぼろ、カレー風味の豚そぼろ)に、トンカツの卵とじ、切り干し大根
の四川風炒め煮、そら豆とツナのチーズ焼きと凝ったメニューである……果たして一夏はドレだけのレシピを持っているのか少し気になる所ではあるわな。
「うん、今日もいい出来ね♪」
「味は勿論として、彩も見事だ……一夏、君の弁当は最早芸術品だな。」
「味も彩も最高で、そして栄養バランスも取れていますからね……此れは本当に最高のお弁当だと思います。」
「お代わりが有ったら、間違いなくお代わりしてるね私は。」
その弁当は当然の如く、パートナーズには大好評だ――『男は胃袋を掴め』とはよく聞くが、一夏に限っては『女は胃袋を掴め』って感じだったのが否定出来ない
わ……尤も、一夏の料理はプロの料理人すら凌駕するレベルだと言えるから、ある意味では其れも間違いじゃないのかも知れないけどな。
「一夏、そのトンカツの卵とじ一切れ頂戴?」
「良いぜ。その代わり、お前の台湾風唐揚げ一切れくれよ乱。」
仲の良い仲間同士のランチタイムでは、こう言ったおかずの交換もまた楽しみの一つであると言えるだろう。と言うか、一夏特製弁当が一夏自身の分を含めて五
個もあるため、おかずの交換をする事で、一夏チーム全員が一夏の弁当の一部を味わう事が出来るから、パートナーズ以外のメンバーにとって此れは結構重要
だったりするのである。
そんな和やかなランチタイムだが……
「そんで、俺のタッグパートナーはどうやって決めるんだ?」
話題は矢張り今度の学年別タッグトーナメント――と言うよりも一夏のタッグパートナーについてだ。
すでに円夏は簪と組んでおり、乱はクラスメイトであるティナ・ハミルトンと組む予定であるらしく、コメット姉妹は機体の特殊性から『タッグ』が組めないので出場し
ない方向で決めており、二年生である夏姫とグリフィンは、夏姫がレインと、グリフィンがイギリス代表候補のサラ・ウェルキンと組む事にしたらしい。
「同じ学年だったら一夏と組む事が出来たかもしれないと考えると残念だけど、サラと一緒に二年の部を制覇出来るように頑張るから、応援してな一夏?」
「そりゃ当然だって……自分のパートナーを応援しない奴は居ないだろ?」
「そ、それは、まぁ、そうだよね///」
一夏がナチュラルにグリフィンの好感度を上げてるのは最早突っ込み不要である。
クラス対抗戦の時にロランを陥落させ、ヴィシュヌとグリフィンに関しても日々着々と好感度を上げ、『LIKE』から『LOVE』へとその思いがシフトしつつある上に、クラ
リッサともLINEでメッセージのやり取りをして仲を深めてるってんだからマジで大したモンだと思います。
しかも、それら全てを行ってる中で、一夏自身も彼女達への思いが、刀奈に持ってる物に近づきつつある事を実は自覚してたりするからね……ホント、半ば強制
的に作らされたハーレムではあるが、少なくとも一夏達の方は将来幸せになる事だろう。
「で、俺のタッグパートナーなんだが……優柔不断と言われるのを覚悟して言うが、俺には選べない!
って言うか、俺が選んじゃったら、選んだ相手を贔屓してるみたいな感じがしてあんまり良い気分がしないからな……だから、悪いが刀奈とロランとヴィシュヌで
決めてくれないか?」
「やっぱりそうなるわよねぇ……一夏が私達の中から一人を選ぶ事は出来ないとは思ってたからそれ程驚かないけれどね――寧ろ、『あくまでも平等に』って思
ってくれてる訳だから、変な言い方だけどちょっと嬉しいわ。」
「一人を特別扱いしたくないから自分では決められない……そう決断した君の事を、誰が優柔不断と責められようか?
一夏、君は優柔不断なんかではない――誰よりも誠実で、真剣に私達の事を思ってくれている最高の男性だ……嗚呼、私達は君のパートナーとなれたと言う
事を神に感謝しなくてはならないな。」
「ふふ、一夏は本当に私達の事を大事に思ってくれているんですね……だから選べない。ロランの言う様に、貴方は決して優柔不断ではありませんよ一夏。」
でもってタッグパートナーなんだが、一夏は選ぶ事が出来なかった……一夏自身が言ってる様に、一夏が選んでしまったら選んだその一人を贔屓してる印象が
あるからだ。
だが、刀奈もロランもヴィシュヌも、一夏が選ばなかった事は咎めずに、逆に選ばずに自分達に決定権を譲渡してくれた事を評価していた――彼女達もまた、『織
斑一夏』と言う男性の事をちゃんと理解しているのだ。
「でも、そう言う事なら平等な方法で決めましょうかロラン、ヴィシュヌ?……己の魂を全て右手に集中しなさい?この右手が、運命を決するのだからね。」
「己の魂だけじゃない、一夏への愛も、だろう?」
「私の全てを、この右手に懸けます……」
なので、刀奈とロランとヴィシュヌは自分達で誰が一夏のパートナーになるのかを決める事になったのだが、刀奈は右の拳を腰の辺りに構え、その拳に左手をか
ざし、ロランは顔の前で右の拳を握り、左手を其処に交差させ、ヴィシュヌは拳を握った右腕を左の脇の下に構え、左手は顔の前に……夫々が、今にも超必殺技
でも発動しそうな雰囲気だ。……しかもこの三人の構え的に、拳からかめはめ波級のビーム砲をぶっ放しそうだわ。
「其れじゃあ行くわよ……最初はグー!」
「「「ジャンケン、ポン!!」」」
そんな予想を蹴っ飛ばして、行われたのはとっても平和的なジャンケンバトルだった。……そう言えば、刀奈がホームルームの時に『一夏が決められなかった時
はジャンケン大会』って言ってたわな。まぁ、ジャンケンってのは読み合いと運の要素があるから、ある意味では最高に平等な方法と言えるから、こうした場面で
使われるのはお約束と言えばお約束だからね。
「「「相子で、しょ!!」」」
だがしかし、このジャンケンバトルはIS乗りとしても一線級の三人が行ってる事もあって中々決着が付かない――彼是、既に六回も相子を繰り返しているのだ。
其れだけ、お互いの読みが深いと言う事なんだけどね……にしたって、六回連続の相子ってのはそうそうない事だと思うけどな。
その後も相子が続き、遂に十回目!
「「「最初はグー!ジャンケン……」」」
其の十回目で、仕掛けたのは刀奈だった。
『最初はグー』で始まったジャンケンで二回目に出す手を態と握ったままの状態でロランとヴィシュヌに見せたのだ――最初はグーで始まったジャンケンってのは
次の手を出す時には拳の形が決まっており、グーのままなら100%グーなので、パーを出せば勝てるので、其れを見たロランとヴィシュヌは拳を開いてパーを出
したのだが……
「「「ポン!!」」」
その直前で刀奈は右手を引っ込めて左手のチョキを出したのだ。
刀奈がグーを出すと読んでいたロランとヴィシュヌは既にパーを出してしまっていたので、此の刀奈のカウンターに対抗する術はなく、完全に刀奈のトリックプレイ
にしてやられる結果になった。
「く……まさかそんな方法があったとは……」
「お見事です、刀奈さん……」
「そう言う訳で、宜しくお願いね一夏?」
ロランとヴィシュヌが出したのはパーで、刀奈が出したのはチョキなので、ジャンケンバトルは此れにて決着し、刀奈の左手のチョキはそのまま勝利のブイサイン
に早変わりだ。
右手の扇子に『作戦勝ち』と出てる辺り、最初から考えていた作戦だったのだろう――十回連続で相子が続いた事すら、若しかしたら刀奈の作戦だったのかもし
れないな。
「こっちこそ宜しくな刀奈……優勝目指すぜ?」
「其れは当然よね♪」
そして今此処に、一年最強タッグが結成された。
一夏も刀奈も近接型だが、一夏には正面突破をゴリ押しする強さがあり、切り札のリミット・オーバー……界王拳がその強さを更に底上げしている正統派なのに
対して、刀奈はナノミストを使っての分身や、カウンターの水蒸気爆発と言ったトリックプレイを得意とするタイプなので、同じ近接型であっても、組んだ時にこそ発
揮される強さってモノがあるからね。
事実として、一夏と刀奈のタッグは円夏と簪のタッグに対して勝率100%を誇ってるのだからな……鬼の撃滅弾幕を掻い潜って簪と円夏をぶっ倒す一夏と刀奈
はマジでハンパないレベルだな。
「兄さんと刀奈が組んだか……此れは、願ってもない事だな簪?」
「うん……今度こそ私と円夏が勝つ。負けっぱなしは好きじゃないから。」
「威勢が良いわね簪?……だけど、私と一夏のコンビに勝とうだなんてのは少し言い過ぎよ?こう言ったらなんだけど、私と一夏のコンビは天下無敵!誰が相手
であっても負ける気はしないわ。」
「俺と刀奈のタッグなら千冬姉にも勝てるかもだからな……いや、ロランとヴィシュヌとグリフィン、クラリッサとのタッグでも千冬姉に勝てる気がするぜ。
そんな俺と戦うってんなら、気合を入れて来いよ円夏、簪?……炎が、お前を呼んでるぜ!」
「なら燃え尽きろ、潔くな!!」
其れだけに、一夏・刀奈タッグと円夏・簪タッグの間に火花が散ってしまったのは仕方ない事だろう……逆に言えば、織斑兄妹も更識姉妹も『勝負であるなら家
族でも容赦しないで真剣勝負』って考えているからなのだろうけどね。
ともあれ、此れにて一夏のタッグパートナーは無事に決まったので、その後は平和なランチタイムを堪能した……平和な時間ってのはマジで大切だわ。
尚、一夏とタッグを組めなかったロラン、ヴィシュヌ、グリフィンの三人には残念賞として今度のランチには一夏お手製のデザートが付く事になったらしい……豪華
な残念賞だね此れは。
――――――
それから数日は、陽彩からの何時もの勝負はあったモノのラウラが仕掛けてくる事はなく、何時もの比較的平和な日常が続いた。……余談だが、陽彩が一夏に
仕掛ける勝負は、『ISバトル』、『生身の格闘』だけに留まらず、最近では格ゲーや遊戯王での対戦も申し込んでくる事があった――何かもう、『取り敢えず何でも
良いから一夏に勝つ』って感じになってる様である。
そんな中で一つだけ変わった事があるとすれば、シャルロットが陽彩とつるむ様になった事だろう――早々に一夏のデータを諦めた彼女は、陽彩のデータを得る
為に彼に近づいた訳だ。
で、とある日の夜の事。
場所は一夏の部屋……ではなく陽彩の部屋で、部屋の中に居るのは陽彩とシャルロットだ。
「何だよシャル、行き成り大事な話があるって?しかも、箒達には聞かれたくない事だから、二人きりで話がしたいって……何かあったのか?」
これまた原作にはないイベントだったので陽彩は焦ったが、『いや、シャルと二人きりってのは割と美味しいシチュエーションだよな?ゲットするチャンスだぜ!』と
考えて、シャルロットを部屋に入れていた……マッタク持って頭と股間が完全シンクロしている奴である。
「そうだね……単刀直入に言うよ陽彩、僕は君のパーソナルデータと機体のデータが欲しいんだ。
勿論タダでとは言わないし、僕やデュノア社で出来る事なら、君が望む対価を払う心算だけど如何かな?」
「何だと……?」
そしてシャルロットから告げられた提案に驚く事になった――原作知識を持つ陽彩は、シャルロットが『男性操縦者のデータ』を狙ってる事は知っていたが、こうし
て直接的かつ直球で要求して来るとは思わなかったのだ。
「(また原作と違う展開……だが待てよ?シャルは今『望む対価を払う』って言ったよな?
って事はだ……つまり、俺のデータの対価にシャルを求めても全く問題ないって事だよな?――シャワーイベントはなくなっちまったが、逆に楽にゲットする事
が出来る訳だから、此れは断る理由が無いぜ!)」
だが、即座に自分の都合の良いようにシャルロットが言った事を解釈出来る辺り、何処までも自分の欲望に忠実な奴である……序に、箒、セシリア、鈴をゲットし
てからは毎日の様に『禁則事項』してるってんだから驚きだ。精力と性欲だけは人の数倍なんだろうなきっと。
「其れは、俺がお前を望めば、お前は俺のモノになるって事か?」
「其れが望みならね。
僕一人で、貴重な男性操縦者のデータを得られるなら安いモノじゃない?陽彩が望むなら、僕を好きなようにしてくれてもいいよ?」
「……OK、交渉成立だ。俺のデータなんかで良ければ幾らでもくれてやる――その代わり、今日からお前は俺の女だからな?(いぃぃよっしゃーー!シャルは俺
を選んだ!一夏じゃなくて俺をだ!つまり俺のデータの方が良いと思ったんだ!勝ったぜ一夏!!)」
そして即座に交渉成立!陽彩は何か勘違いしてるみたいだが、本人はとっても良い気分みたいなので好きにさせておこう……もしもコイツが、『一夏はガードが
堅そうだからターゲットを陽彩に変更した』って事を知ったらとっても面白い事になりそうではあるがな。
「(まったくチョロいね……織斑君だったらこうは行かなかっただろうなぁ――陽彩にターゲットを変えて正解だったよ。
尤も、こうなった以上は陽彩と関係を持つ事になるだろうけど、避妊さえ徹底すれば、陽彩の遺伝子サンプルの採取も出来る訳だから、そう考えれば寧ろメリ
ットだからね。
ふふ、学園に居る間はよろしくね陽彩。)」
内心舞い上がってる陽彩とは逆に、シャルロットの心の内は真っ黒だった。ドロドロだった。闇属性悪魔族モンスターや、あく・ゴーストタイプのポケモンもドン引き
するレベルで黒かった。
目的の為ならば己の純潔すらリリースして上級モンスターをアドバンス召喚すると言うその姿勢には、一種の潔さも感じてしまう位だ……尤も、箒、セシリア、鈴と
は違い、陽彩に恋愛感情なんぞは此れぽっちも持ってないけどな。
「あ~~、でも陽彩、僕とするのは構わないけど部屋の鍵はちゃんと閉めてよ?
ノックしなかった僕も悪かったけど、してる最中に誰かが部屋に来たとか最悪過ぎるから。」
「う……分かったぜ。」
……如何やらシャルロットは、陽彩の部屋を訪れた際に、『本番中』を目撃してしまった事があるらしい――シャルロットの言う様に、ヤルのは構わんが部屋の施
錠はちゃんとしないとアカンよ?
もしも、本番中を寮長である千冬に目撃されたら、チフユ・ハンド・クラッシャーでブッ飛ばされた挙句、寮監室で時間単位の説教は免れないからな。
其れは其れとして、行為一つにしても一夏と陽彩には差があるな……陽彩が己の性欲を満足させてるだけなのに対して、一夏の方は愛があるからね……陽彩
の方は行為の後で箒達がやり過ぎて意識が飛んでるのに対し、一夏の方は幸せそうに頬を上気させながらピロートークが出来てる訳だからな。
愛のない行為に意味はあるのかと聞いても、きっと陽彩には馬耳東風なのだろうね。
――――――
そんなこんなで、『学年別タッグトーナメント』まであと一週間となったある日。今日も今日とて無事に授業を終えて放課後だ。
今日の放課後は一夏と一夏のパートナーズが希望者にISの訓練をする日なのだが――
「あれ、ヴィシュヌだけ?」
「グリフィン、私も今来た所ですよ。」
「一夏と刀奈とロランは?」
「一年生のクラス代表が職員室に呼び出されていたので其方に……刀奈は副代表として一夏と一緒に職員室に行ったのではないでしょうか?」
「あ~、そう言う事ね。」
アリーナにはヴィシュヌとグリフィンだけが居た。
一夏と刀奈とロランは、クラス代表の呼び出しがあった為に職員室に行っているので、この二人がアリーナに先に来ていたと言う訳だ――グリフィンがアリーナに
来た時に、ヴィシュヌが複雑奇怪なヨガのポーズで準備運動をしてたのはちょっと衝撃的ではあったが。
「一夏達が来る前に始めてしまうと言うのもなんですし、グリフィンも良かったらヨガを使った準備運動をしませんか?」
「其れは遠慮しとくわ……ブラジリアン柔術は身体の柔軟性も必要だから、身体の柔らかには自信があるけど、ヨガの複雑な柔軟は出来る気がしないからね。」
「そうですか……ヨガを極めれば手足を伸ばしたり、口から火を噴けるようになるのですが、残念です。」
「アタシは、妖怪ヨガになる気はないから!」
そらまそうだわな。
まぁ、ヴィシュヌも冗談で言ってるんだろうけどね。――もしもガチだった場合、一体どこを目指してるんだって話になるからな。リアルのダルシムってのは、怖いっ
てレベルを超えてるからね。
「冗談はさておき、一夏達が来る前にウォーミングアップを済ませてしまいましょうか?」
「其れは賛成。一夏達が来たらすぐにでも訓練を始められるようにしといた方が良いからね。」
其れはさておき、ヴィシュヌとグリフィンは一夏達が来たら直ぐに訓練が始められるようにウォーミングアップを始めようとしたのだが……
「ふん……織斑一夏が居ると思ったのだが、貴様等だけか。」
「「!!!」」
其処に現れたのはラウラ・ボーデヴィッヒだった。
初日のあれ以来は、特に何もしてこなかったラウラだが、学年別タッグトーナメントを一週間後に控えたこの日に遂に動いたらしい。
「だが、逆に都合がいい。
奴は、『俺がお前と戦う理由を持って来い』と言った……奴が私と戦う理由について考えたが、何の事はない其れはとても簡単な事だった――奴の仲間を半殺
しにすれば良かったのだ。
其れだけで、奴には私と戦う理由だ出来るからな!」
そしてラウラは、一夏と戦う為には、『一夏の仲間を叩きのめしてやれば良い』との答えに至り、襲撃を掛けて来たのだ――其処にヴィシュヌとグリフィンしか居な
かったと言うのもラウラには好条件だっただろう。
この時のラウラの赤い瞳からはハイライトが消えて黒く濁り、口元は悪意100%な三日月形に歪んでいたのだった。
「「……!!!」」
その悪意を向けられたヴィシュヌとグリフィンは即座に身構えてラウラと対峙する……アリーナは、正に一触即発の状況になったのだった。
To Be Continued 
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