国際IS委員会によって、『男性操縦者重婚法』が可決され、其れが世界に発信された時、真っ先に動いたのは意外にも日本政府だった。
IS学園から上げられる報告で、一夏と陽彩の交友関係を知った日本政府は、『織斑一夏は更識刀奈と。正義陽彩は篠ノ之箒と婚姻関係にある』って事を世界
に向けて発信しやがったのさ!!
現在世界に二人しか存在しない『男性IS操縦者』は二人とも日本人である為、其れを他国に奪われまいとした日本政府は、悪い言い方をすれば『唾を付けた』
って訳だ。
年齢的に結婚は無理でも、婚約は出来る――其れを最大限に使い、一夏と刀奈、陽彩と箒が婚姻関係にあると発表したのだ。完全に法案の穴を突いて自国
の利を確保するとは、手際が良いのか何なのか……この決断力と行動力を、もっと別の場所に生かしてくれりゃ良いと思うんだけどね。
だが此の日本政府のマッハの行動に他国が黙っている筈がない!
一夏が刀奈と、陽彩が箒と婚姻関係にあるとの報道がなされた一時間後には、今度はイギリスと中国が、『セシリア・オルコットと正義陽彩は婚姻関係にある』
、『凰鈴音は正義陽彩と婚姻関係にある』と発表しやがった訳だ……一時間と言う時間は、イギリスと中国が、夫々セシリアと鈴に『正義陽彩とは、現在どの様
な関係であるのか。』を確認していた時間なのだろう。
「俺と刀奈が婚約状態にあるか……間違いではないな。」
「そうね、間違ってはいないわね。確り指輪まで貰っちゃってる訳だし、私の両親も一夏の両親も公認だし。
若しかしたら、私と一夏が婚約状態にあるって言ったのは、私の両親の可能性もあるもの……お父さんだったらノリノリで言っちゃいそうじゃない?」
「否定出来ないのが若干悲しいな。」
そんなニュースを見ながら、一夏と刀奈はモーニングサービスで、英国流の『コンチネンタルブレッグファースト』を堪能していた――大層な名前のメニューだけ
れども、実態は『パンとお茶』と言うシンプルな内容のメニューであり、若干ネーミング詐欺である。
とは言っても、クロワッサンはサクッサクでそれ以外のパンはフワフワと言う美味しさだったので文句は無かろう。焼き立てのパンは其れだけでめっちゃ美味。
「其れで、如何するの一夏?私は確定としても、後四人選ばないとでしょ?」
「其れが難易度高いぜ……俺は刀奈一筋だったんだけど、国際的な命令で『国籍が被らない様に五人選べ』って言われたら其れに逆らう事は出来ないから、
如何足掻いても刀奈以外に四人を選ばないとだからなぁ。
でも命令だから仕方なく四人選ぶってのは相手に失礼極まりないから、真剣に選んで、その人達の事も刀奈と同じ位愛せるようにならないとだからな……な
んだかお前に悪い事してる気になってくるぜ。」
「まぁ、確かに複雑な気持ちではあるけれど、一夏に拒否権は無いのだから受け入れるしかないでしょう?
だけど一夏、私以外の四人も、私と同じように愛せるようにしようって思うのは悪い事ではないわよ?一夫多妻の場合、愛の格差だけは絶対に有ってはダメ
なモノだから……全ての女性を平等に愛すると言うのは一夫多妻の男性に課せられた義務ね。」
「だよなぁ……何だかハードモードな気がするけど、決まっちまった事だしキッチリやるか。やる以上はトコトンやるってのが俺の主義だしな。」
ハーレム要員全員を平等に愛せか……確かに刀奈の言う様に、其れは一夫多妻の男の義務だわな。ってか、平等に愛せないなら真の一夫多妻ではないか
らね?真の一夫多妻とは、正妻と側室じゃなくて全員が正妻なんだからな。
こんなぶっ飛んだ法律が制定されても一夏と刀奈の仲がギスギスしないってのは、其れこそお互いに真に相手の事を愛してるからなんだろうね……刀奈は少
しこの状況を楽しんでるようにも見えるけどね。
「其の前向きな姿勢が一夏の良い所ね。
まぁ、色々と大変な事はあると思うけど、私も出来る限り力になるから、頑張って行きましょ?」
「あ、あぁ……頼りにしてるぜ刀奈?」
「ふふ、任せて頂戴、ア・ナ・タ♡」
少し楽しんでる様に見えるんじゃなくて、確実に楽しんでるな刀奈は……まぁ、こんなぶっ飛んだ法律はいっそ開き直って楽しんだ者勝ちなのかもだね。
尚、同じ頃IS学園の寮でこの事を知った陽彩は、『合法的にハーレムが出来る』と言う事に心の中でガッツポーズをし、更に『箒と鈴とセシリアの三人は国公認
の婚約者である』事に内心で狂喜乱舞していた……まぁ、狙ってた原作ヒロイン達が国公認の婚約者になったってんだから嬉しかろうよ――果たしてコイツに
自分の嫁全員を平等に愛するなんて事が出来るかどうか知らん――其れは神のみが知るって所だろう。
因みに、この日を境に各国からIS学園に一夏と陽彩宛のお見合い写真が大量に送り込まれる事になり、教師陣と生徒会はそれらの整理にGWの残りを費やす
事になるのだった……なんかもう、マジで頑張ってとしか言えねぇな此れは。
夏と刀と無限の空 Episode14
『GW其の終~予想外の法案成立』
衝撃的なニュースが有ったモノの、一夏達は朝食を終えてIS学園への帰路についていた――更識ワールドカンパニーのチャーター機で。
更識ワールドカンパニーに来る時はリムジンで、帰りはチャーター機って、本気でスゲェな更識ワールドカンパニーは?……と言うか、小規模であるにしても会
社の敷地内に空港があるってマジハンパないわ。
この空港を使って輸入品を直に仕入れてるってのも、更識ワールドカンパニーの特徴なんだけどね。
「行きが超豪華リムジンなら、帰りは超豪華チャーター機か……世界富豪ランキングの上位に名を連ねる人達って移動もこんな感じなのかもな。」
「こんな豪華な飛行機、私達だって乗った事ないわ。」
でもって、一夏とファニールの言う様に、此のチャーター機もめっちゃ豪華なんだわ?
決して大きな飛行機じゃないんだけど、その内装たるやファーストクラスが霞んで見える程だからね……全席鰐皮のシートで、飲み物や食事を置くトレイと言う
かプレートは有田焼の陶器ってマジでドンだけよ?更識ワールドカンパニー専用のチャーター機も、値段が付けられねぇな此れ。
「それにしてもアンタも大変な事になったわね一夏?『国籍が被らない様に結婚相手を五人選べ』とか、割と難易度高いでしょ?」
「あぁ、可成りハードモードだぜ乱……まさか、こんな事になるとは夢にも思ってなかったから余計にな。」
その帰りの便の中での話題が、『男性操縦者重婚法』に関する事になるのは仕方のない事だろう――余りにも衝撃的なこの法律に関心を持つなってのは、ラ
イオンの前に生肉を置いて其れを食べさせないようにする位無理な事だからな。
「刀奈は確定してるけど、それ以外に四人選ばねぇとなんだけど、どうやって選ぶかが問題なんだよな……世界旅行が出来るモンでもないし、マジで悩むぜ此
れは。」
「其処まで悩む事はないと思うよ一夏?
君が自ら探さずとも、各国が君宛てにお見合いの写真を送って来るだろうから、其処から選べばいいさ――だが、その前に私は君の結婚相手に立候補させ
て貰うよ。」
「は?何言ってんだロラン!?」
「何を言ってるのかしら?」
「脳ミソバグったかお前?」
「バグったのか、其れとも新しいソフトウェアがダウンロードされて機能が強化されたのか、問題は其処。」
「簪さん、貴女の言語機能が若干不具合がある気がしますが……」
「って言うか、ロランってお兄ちゃんに興味あったんだ……」
「同性の恋人が九十九人居るって言ってなかったっけか?」
「其れは、何でもロランのファンの女の子の事らしいよ?
演劇で男役をやる事が多くて、男装したロランにハートブレイクされた女の子の中で特に熱狂的な九十九人を『恋人』って呼んでるんだとさ……でも、本気で
なに言ってんのロラン?」
そんな機内で、爆弾を投下したのはロランだった。
まさか、自ら一夏の結婚相手にこの場で立候補するとか誰も予想出来なかった事だけに、機内に居た全員が――其れこそ刀奈ですら目が点になってる状況
だ……マジで此れは予想外の爆弾投下、いやデス・メテオ発動だったわ。
「言葉のままだよ一夏。私は君の結婚相手として立候補する。
クラス対抗戦の時にも言ったが、私は君に魅了されてしまったんだよ一夏――だが君には刀奈と言うパートナーが居たから諦めようと思ったんだが、男性操
縦者重婚法なんてモノが成立したのならば諦める必要は無くなったから、正式に君に交際を申し込ませて貰う。」
そう言えば、クラス対抗戦の時にそんな事言ってましたな……一夏に魅了されながらも、刀奈が居るから諦めたロランからすれば、此度の男性操縦者重婚法
は己の一夏に対する想いを成就させてくれるナイスな法律だった訳だ。
とは言っても、其れを言われた一夏からしたら完全な不意打ち故に、答えに詰まってしまったのは仕方ないだろう――ぶっちゃけ、新手のドッキリかと思う位の
衝撃度があっただろうからな……こんな事になったのも、一夏が魅力ある男性って事なんだろうけどね。
「ロラン、お前其れマジで言ってんのか?」
「勿論大マジだよ一夏――本気と書いてマジだ。
諦めようと思っても、君への慕情は日に日に強くなっていてね……気が付けば君の事を考えるようになっていてね――私は完全に君に心を奪われたみたい
なんだ。否、確実に君に心を奪われてしまったのさ!
だから、君の結婚相手に立候補する!……尤も、君が拒否すると言うのならば立候補は取り消すけれど。」
「拒否……出来る訳ねぇだろ。
此処まで俺の事を思ってくれてるロランを拒絶したら、其れこそ俺は地獄行き待ったなしだっての……だけど、今は未だあくまでも候補って事にしといてくれ。
俺がお前の事を刀奈と同じ位に愛せるかどうかは、交際してからじゃないと分からないからな。」
「拒否されなかっただけ充分さ――拒否されなかったのならば、私は君に愛して貰えるように自分を磨くだけだからね。……嗚呼、だけど一夏以上に先ずは刀
奈に許可を取るべきだった。
順番が逆になってしまったが、私は一夏の結婚相手に立候補した――良いかな刀奈?」
「ロラン、貴女の一夏への思いは本物だって断言出来る?一時の気の迷いだと言うのならば、許可出来ないわ。」
「其れについては断言出来るよ。
一時の気の迷いかとも思ったけれど、さっきも言ったように気が付けば私は一夏の事ばかり考えていたんだ――私のファンである九十九人の百合達の事す
ら忘れてね……私は、完全に一夏の虜になってしまったんだよ。
野生動物だけでなく、人間も雌は優秀な雄を欲すると言う事だったみたいだ。」
「成程ね……そう言う事なら良いわ。貴女の一夏への思いは本物みたいだからね。――と言う訳だから、ロランは追加よ一夏。」
「うわぁ、ノリがメッチャ軽いな!?……まぁ、俺としてもロランが二人目ってのはある意味で有難いか?――全然知らない相手とイキナリ交際しろって事じゃな
いからな。
え~と、まぁなんだ……宜しくなロラン?」
「ふふ、此方こそ宜しくね一夏?必ずや君に、刀奈と同じ位に愛されるようになって見せるよ。」
何だか思ってたよりも、割とアッサリと決着したな?――まぁ、刀奈が了承し一夏が拒否しないとなれば、ロランが二人目になる事は何も問題は無い訳か。
それにしても、まさか候補とは言えアッサリ二人目が見つかるとは、一夏の相手は意外とアッサリ五人出揃ったりしてしまうのだろうか?……いや、一夏は歩く
フラグ製造機って訳でもないからそう簡単には行かないだろう。
今回の事は、クラス対抗戦での事があればこそだ――あの時の一夏とロランは本気でガンガン遣り合っただけでなく、『乱の無念を晴らす』と言う共通の目的
を持った同士でもあったから、他の専用機持ちよりも少しだけお互いの距離は近くなってたと言う訳だ。
ロランは其れが一夏よりも大きく友情から愛情になってしまったってだけなんだろうな多分。
「そう言えば刀奈、昨日と比べて随分と艶っぽくなった――女性としての色香が増したように感じるのだけれど、何かあったのかい?」
「ウフフ……其れは秘密よロラン♪」
――【禁則事項】
「兄さん……成程な。」
「刀奈、おめでとう……なのかな?」
で、ロランは刀奈から何かを感じたみたいだが、何があったかは刀奈は勿論、一夏だって口を閉ざした……そらまぁ、己の初体験は態々人に話すモノでもない
からね。――尤も、円夏と簪は妹として一夏と刀奈に何があったのかを察したっぽいけどな。
時に、ロランが一夏の嫁候補に立候補したのは良いとして、交際を経て候補から嫁に昇格し、其れをオランダ政府が発表したらロランの九十九人の『恋人達』
はどうなるんだろね?ロランを祝福するなら兎も角、『ロランを奪われた』と思って一夏を襲撃するような事態になったらマジ笑えんのだが、その時が来たらロラ
ンが『恋人達』を説得してくれる事だろう。
――――――
さて、男性操縦者重婚法が可決され世界に向けて発表された直後から各国は何とか貴重な男性IS操縦者とのパイプを作ろうと、一夏と陽彩に宛てた『見合い
写真』を用意してIS学園に郵送していた……何と言うか必死さがハンパないわ。
そんな中で――
「失礼します。クラリッサ・ハルフォールです。」
「ハルフォール中尉か、入り給え。」
ドイツでは――より正確に言うのであれば、ドイツ軍の施設では、一人の女性が上官である中将の部屋を訪れていた。
女性の歳の頃は十八~二十歳と言った所だろう――切れ長の涼しい目と、ショートカットの黒髪……そして何よりも左目の眼帯が目を引く女性だ。――この部
屋の主が言った事をそのまま信じるなら、彼女は中尉と言う可成り高い地位に居るのだろう。
「此度は、一体どのような案件でしょうか中将殿?」
「うむ……この程、国際IS委員会が『男性操縦者重婚法』を制定したのは知っているな中尉?」
「其れは勿論。
余りにも衝撃的な法律ではありますが、世界に二人しか存在しない男性IS操縦者の事を考えればある意味で当然かと……選ばれし五人は、彼等にとっての
護衛であると同時にお互いを監視する存在とも言えますので。
尤も、その意味を真に理解している国がドレだけあるのか疑問ではあります……恐らくですが、この法律の真の意味を理解せず、彼等とのパイプが欲しいが
為に、いざと言う時に何の役にも立たない女優やモデルと言った人物を薦めて来る国もあるでしょう。」
「ハハハ、相変わらず君は鋭いな中尉。そうだ、其の通りだ。
アレは単純に、男性IS操縦者である彼等に重婚を認めると言うだけではなく、君が言った側面も持ち合わせているのだ――だが、其処まで理解しているなら
ば、話は早い。
中将、君を織斑一夏君の相手候補として推薦しようと思うのだが如何だろう?」
「……は?」
だが、中将の言った一言に中尉の女性――クラリッサは思わず間抜けな声を漏らしてしまったが、其れも仕方ないだろう。誰だって『お前の事を貴重な男性IS
操縦者の嫁候補として推薦したいんだけど如何よ(要約)』って言われりゃ思考も一瞬フリーズするってモンさ。
しかも、その相手は一夏――嘗てこのドイツ軍で一年だけとは言え教官を務めた織斑千冬の弟なのだから驚くのが普通だろう。
「あの、聞き間違いでなければ私を織斑教官の弟の相手候補として推薦すると聞こえたのですが、本気ですか?」
「あぁ、本気だ。」
「私の聞き間違いではありませんでしたか……ですが、何故私なのです?
寧ろ私よりも隊長の方が適任なのではありませんか?――隊長は我が隊の誰よりも織斑教官の事を尊敬し慕っていました。私よりも隊長の方が彼と親密に
なれると思うのですが?」
再起動したクラリッサは、自分よりも適任な人物が居ると言う。
隊長とやらが何者かは知らないが、そいつが千冬の事を尊敬して慕ってたって言うのなら、確かにそいつを候補にすべきだろう。慕っている存在が、将来的に
義姉になるってのは途轍もないギフトな訳だからね。
だが、クラリッサのその意見に中将は首を横に振る……つまり隊長ではダメだって事だ。
「ボーデヴィッヒ少佐は確かに優秀なIS乗りであり、誰よりも織斑千冬女史を尊敬し慕っていたが、彼女の其れは最早崇拝に近くなってしまっているからダメな
のだよ……彼女の『強さ』にだけ惹かれてしまった少佐は、三年前のモンド・グロッソの際に誘拐された一夏君の事を、『教官の弟に相応しくない軟弱者』とし
て一方的に憎悪の感情を持って居るみたいだからね……アレはその内、彼の顔写真を人形に貼ってナイフでめった刺しにするんじゃないかと思うよ。」
「隊長、其れは色々間違っています……織斑一夏が誘拐されなければ織斑教官がドイツ軍に来る事もなかったのですから――ですが、そう言う事であるのな
らば確かに隊長を推薦する事は出来ませんね。」
でもって、その隊長ってのは大分ヤバそうだな?って言うか、千冬の強さに憧れるのは構わないけど、誘拐された一夏を一方的に軟弱者って言うのは如何な
のよ?
一夏だって好きで誘拐された訳じゃないし、誘拐された時の状況にしたって丸腰の一夏が複数の相手に襲われた上にスタンガンを使われたんだぜ?ドンだけ
一夏が強くとも多勢に無勢な上に武器を使われたらどうしようもねぇっての。ぶっちゃけ、相手が素手だったら一夏は誘拐犯を返り討ちにしてたかもだからな。
「ですが、彼が私を選ぶとは限らないでしょう?ドイツ以外にも彼に相手候補のデータを写真付きで送る国はあるでしょうから。」
「いや、きっと彼は高確率で君を選ぶと思うぞ中尉……君は彼よりも年上で、しかも何処か織斑千冬女史に似た雰囲気があるからね。――誤解が無いように
言っておくが彼はシスコンではないからね?
男性と言うのは女性を意識する場合、大きく分けて二つのパターンがあってね。一つは自分の好みの女性、もう一つは自分の家族と似た雰囲気の女性なの
だよ――前者は恋愛感情、後者は安心感と言う違いはあるがね。」
「はぁ……?」
クラリッサは何だか良く分かってないみたいだけど、中将殿が言った事はなんか分かるなぁ?
兄や弟が結婚相手として紹介した女性が、『あれ?この人なんだかオカンや姉貴と雰囲気似てねぇか?』って事は少なからずある事だからね……一夏が其れ
に該当する野郎かは分からんけど。
「其れに、彼の目に留まれば君は彼と会う為に日本に行く事になる――そうなれば、君が好きな日本のサブカルチャーに直に触れる事が出来るのだから、決
して悪い事ではないだろう?
どうせならば、彼に日本のサブカルチャーをレクチャーして貰うと良いさ。」
「其れはとても魅力的な事ですね……分かりました、その話は受けさせていただきます中将。私自身、織斑教官の弟である彼には少なからず興味があります
ので、この機会に彼の事を良く知ろうと思います……彼が私を選べばの話ですが。
……ですが、私が彼の相手候補となると、隊長はどうなるのでしょうか?」
「ボーデヴィッヒ少佐は、織斑千冬女史が担任を務めるクラスに留学生として編入させる予定だ――一年間でIS操縦者としての能力が爆発的に高まったと言う
のは凄まじい事なのだが、精神面はマッタク成長する事が出来なかったのでね、今度はIS学園で織斑千冬女史にボーデヴィッヒ少佐を精神面で鍛えて貰お
うと思ってるのだよ。
織斑千冬女史も、『最後までラウラに力の意味を分からせる事が出来なかった事が心残りです』と言っていたしね。」
「成程、そう言う事ですか。」
なぜ自分が推薦されたのか、自分が推薦されたら隊長はどうなるのか……それ等の理由を聞いたクラリッサは納得した表情で敬礼すると、部屋を後にする。
……去り方もクールだね。――クラリッサにしろ艦これの天龍にしろ、黒髪ショートの眼帯娘ってのはなんだってカッコいいんですかねぇ!?マジツボですわ。
「(隊長……貴女は確かに強い――ですが如何やら人として大切な事が欠けている様ですね。
故に貴女は彼の相手に選ばれなかった――性能的には貴女に劣るアドヴァンストの初期型である私が、織斑一夏の相手に推薦されたと知ったら、貴女は
一体如何思うのでしょうか?怒るのか、悲しむのか、其れとも……
何にせよ、隊長がIS学園に行く前に彼と会う事になったら、隊長の事を説明しておいた方が良いかも知れないな。)」
部屋を後にしたクラリッサはそんな事を考えながら演習場へと向かって行った……言い忘れたが、彼女はドイツ軍が擁する『IS競技者育成部隊』である『黒兎
隊』で副隊長を務めており、その実力はISを使わない生身での戦闘、射撃、狙撃、戦闘機の操縦技術の全てでドイツ軍トップクラスだったりする。うん、凄い。
んで、そんな凄い女性が一夏の見合い相手として追加された訳だ……果たして彼女は一夏の目に留まるのか?――其れこそ、神のみぞ知るって所なんだろ
うなきっと。多分。Maybe。
――――――
同じ頃、フランスでは――
「お父さん、男性操縦者重婚法ってのが可決されたなら、僕が性別を偽ってIS学園に行く意味って全く無いよね?
こんな事を言ったらアレだけど、僕をどっちかの相手候補として送り込めばいいんじゃないの!?そっちの方が彼等の機体データを手に入れるのも楽でしょう
絶対に!」
「そうなんだけど、其れじゃあ面白くないだろう?」
フランスきってのIS関連の大企業であるデュノア社の社長室でブロンドの美少女と、ダンディー男性が何やら話していた……穏やかな状況じゃあないみたいだ
な?――って言うか性別を偽るとか、割と洒落にならない事を聞いた気がするんだけど大丈夫か此れ?
「面白くないって……性別を偽ってた事がバレたら、僕は拘束されて強制送還待った無しなんだけど?」
「あ~~、其れについては安心しろシャルロット。
お前の事はちゃんと『シャルロット・デュノア』として編入手続きしてるから……でもって、書類の備考欄に『男装趣味あり』って書いといたから、男装してたとし
てもマッタク持って問題ないからな!と言う訳で、編入初日は一日男装して過ごしてくれよ、ハッハッハ!!」
「何で普通に編入させないの!?お父さん、馬鹿なの!?」
「馬鹿で悪いか!
この世を発展させて来たのは、何時だって突拍子もない事を考えた馬鹿だと言う事を忘れるなよシャルロット?……そう、究極の馬鹿こそが世界の革新を担
う存在なのだ!!」
「其れは馬鹿じゃなくて天才だからね?
お父さんがやろうとしてる事は只の馬鹿の所業だから!実の娘を男装させてIS学園に送り込むとか、マジで馬鹿なの?アホなの?死ぬの!?」
「俺は不死身だ、死にはせん!!」
うん、全然大丈夫じゃないな此れは。そもそもにして男性の方がアホ全開だからな……一体何が如何なって実の娘を男装させてIS学園に編入させるって考え
に至ったのか謎過ぎらぁな。
しかも『男装趣味あり』って態々編入手続きの書類の備考欄に書くとかマジで頭イカれてるとしか思えないわ……場所が場所だけに、この男性がデュノア社の
社長なんだろうが、こんなのが社長で大丈夫か?――ダメだ、不安しかない!!
「お義母さん、このバカ親父ブッ飛ばして良い?」
「好きになさいシャルロット。
でも、どうせぶん殴るのならば思い切りの方が良いわ……そうね、拳の形は手の平の力を完全に抜いた時に出来る人差し指と小指が少し尖った形が良いと
思うわ。
そして、全身の力を抜いて、インパクトの瞬間に力を籠めるのが良いわ。」
「分かった、やってみるよ。」
うわーお、其れって『バキ』に登場する究極のマッハ突きですよね?……アレは使ったら腕を失う代物なんだけど、相当な鍛錬を積まなきゃ出来ない技って事
を考えると、やれたとしても限りなく近い紛いモノだろう。其れでも破壊力は充分だろうけどな。
「一撃必殺!!」
「タワラバ!!」
直後、デュノア社の社長室には謎の断末魔が響いたとかなんとか……いやもうマジでデュノア社の社長は何を考えてたのか謎だわ。
だが、デュノア社の社長を伸したモノの、既にIS学園に要らん事が書かれた編入届出書が提出されてしまった以上、シャルロットと呼ばれた少女は、男装してI
S学園に行く事を余儀なくされてしまった……『男装趣味あり』って書いたのに男装してないとか詐欺だからね。
「そう言えばお義母さん、貴女からしたら愛人の子である僕の事をなんで認めてくれるの?」
「其れは簡単な事よ――貴女の実の母親は私の親友だったから。
親友の忘れ形見である貴女を無碍に扱う事なんて出来る筈が無いじゃない?」
「そうだったんだ。」
ん~~……感動的な話だねぇ?
だけどなぁシャルロット、お前は既に正義陽彩って言う究極の下衆野郎にターゲットロックオンされてるから覚悟しとけよ?……野郎の目的は、『ISのヒロインを
全部一夏から奪ってハーレムを築く事』だからな。
刀奈が一夏と交際状態どころか、一夏の婚約者になった事で全部奪う事は不可能になったとは言え、だからと言って野郎の野望が潰えた訳じゃなく、寧ろ男
性操縦者重婚法が制定された事で野望を成就し易くなったと言えるからな。国籍が被らない様に五人って言う縛りも、所謂『一期ヒロイン』ならば満たせるから
ね……マジで、陽彩にとっては都合の良いモノだった訳だな此れは。
――――――
永かったゴールデンウィークも終わり、学園は久々に生徒で賑わっていたのだが、中でも一年四組の賑わいは凄いモノがあった――一夏の恋人の刀奈の左
手の薬指に指輪が嵌められてりゃ、クラスメイトも注目して然りだし、刀奈は日本政府が『織斑一夏と婚姻関係にある』って発表したんだから、注目するなって
のが無理ってもんですよえぇ!
「刀奈さん、その指輪って……」
「一夏がプレゼントしてくれたのよ……宝石こそないけど、この指輪には一夏の愛が詰まってるのよね――私にとっては最高の宝物よ。」
「「「「「「「「「「甘ーい!」」」」」」」」」」
そんでもって刀奈は、惚気全開で指輪に口付けをして、クラスメイトを完全KOしていた……大分耐性が出来て来たクラスメイトをKOするとは、左手薬指の指輪
の破壊力はゴッドハンドクラッシャーレベルだったみたいだ。
また、其れとは別にゴールデンウィーク前と比べると刀奈が艶っぽくなったと言うか、女性としての色香が増した事に気が付いたクラスメイトも居たんだけど、一
夏や刀奈に詳細を聞く事は無かった……まぁ、察したんでしょうな。刀奈の首筋には一夏が付けた紅い花が咲いてたからね。
そんなゴールデンウィーク明けだったのだが……
――ピンポンパンポーン
『一年一組の正義陽彩君、一年四組の織斑一夏君、至急職員室まで来てください。繰り返します……』
一夏と陽彩を職員室に呼び出す校内放送が流れた――校内放送での呼び出しなど、普通に考えると碌なモノではないのだけれど、陽彩は兎も角として、一夏
は学園に呼び出しを喰らう様な事はしてないのだが……
「織斑一夏入ります。」
「正義陽彩、入らせて貰うぜ。」
取り敢えず一夏と陽彩は職員室に。てか、陽彩よお前態度悪いな?――ちょい悪気取って格好つけてる心算なんだろうが……激しく似合ってねぇぞオイ。
「来たか。」
職員室には多数の教員が居たが、其の中で一夏と陽彩がやって来た事に反応したのは千冬だった――のだが、その表情には僅かばかりの疲れが浮かんで
いた……まぁ、ゴールデンウィーク中は世界各国から送られてくる見合い写真を一夏用と陽彩用に生徒会と一緒に分けてたんだから疲れもするわな。
「千冬姉、大丈夫か?」
「学校では織斑先生だ。
……と言うのは、今は言わんでおこう――単刀直入に言わせて貰うが、織斑、正義、お前達に世界中から見合い写真が詳細付きで送られて来た。」
「「……はい?」」
だがしかし、一夏も陽彩もイキナリ『世界中から見合い写真が送られて来た』と言われれば戸惑うわな……寧ろイキナリトンデモナイ数の見合い写真を送り付
けられて戸惑わない奴が居るなら会ってみたいわ。
「男性操縦者重婚法が制定されたせいで、貴重な男性IS操縦者であるお前達とのパイプを確保しておきたいと思った輩が多くてな……マッタク、これの仕分け
作業でゴールデンウィークの後半は潰してしまったよ。」
「マジか?……なんか悪い事したな?――今度千冬姉の好物の鳥皮の唐揚げを酒の肴に差し入れさせて貰うぜ。
……にしても、段ボール箱四箱分か、コイツは大作業になりそうだな――恐らくは俺と正義で二箱ずつだろうからな。」
「否、正義のは一箱だけで、残りの三つはお前のだ織斑。」
「なんでさ!!」
一夏がどこぞの正義の味方みたいなセリフをぶっ放したが、用意された見合い写真が陽彩の三倍ともなれば、そう言いたくもなるってモンですわ、冗談抜きで
マジでな。
なんだよ三倍って?どこぞの赤い彗星の専用機体じゃあるまいし……一夏がISバトルで界王拳使うから三倍なのか?いや、其れは絶対関係ないだろうな。
「其れは私のせいだ……引退した身とは言え、『ブリュンヒルデ』の称号は、未だに絶大な影響力があるから、私とのパイプを欲してお前との関係を望んでいる
国もあるからな。
なので、必然的にお前に渡す箱は多くなってしまうんだ。」
一夏への見合い写真が陽彩よりも多いのは、一夏が千冬の弟だったからだろう――一夏を堕とせば芋づる的に千冬も付いて来るって考えてる国は決して少
なくないからね……だから、一夏宛の見合い写真は陽彩の三倍も来てたんだな納得だわ。
「相手はよく選べよ一夏?」
「あぁ、言われるまでもねぇよ。こう見えて、俺は割と女性を見る目があるみたいだからな……にしても、ヤッパリ三箱ってのは多いから、刀奈の意見も聞いて
選ぶようにするよ。俺の嫁さんをな。」
「そうか、其れは楽しみだ――更識姉以外の候補が決まったその時は、真っ先に報告してくれよ」
「言われなくてもその心算だぜ。」
取り敢えず話は終わったので、一夏は三つの段ボールを抱えて寮に戻って早速お見合いの相手を吟味していたのだが、陽彩の中では既に自分専用のハー
レム構想があるので、禄にお見合い写真に目を通してはいなかった。
此れが一夫多妻に真剣に向き合ってる一夏と、ハーレム上等って考えてる陽彩の違いなんだろうな――五人全員を平等に愛そうと思ってる一夏と、ハーレム
作ってやりまくってやるぜ!ってな思考の陽彩じゃそもそも比べる事が間違いだったね、うん。
陽彩は兎も角、一夏は段ボール箱三つ分のお見合い写真の中から一体誰を選ぶのか?其れはとっても楽しみだな。沢山悩んで、良い相手選べよ~~!!
To Be Continued 
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