千冬から各国から送られて来た見合い写真を受け取った一夏は、その日の放課後を利用して己の嫁候補の選定に追われる事になった――刀奈とロランも手
伝ってくれてはいるのだが、如何せん数がハンパないので処理するのも並大抵の事ではないのだ。
てか、段ボール三箱分の見合い写真と相手に関するデータってマジで世界中から送られて来たんじゃないのかと思うわ……一箱の大きさが、『引っ越しで使う
荷造り用の段ボール箱か?』ってな位にデカいからね?一箱に大体三百人~四百人分位の写真とデータが入ってる感じだ。アメリカなんぞ、『各州から一人ず
つ選んだんじゃないか?』ってな位の量だしな。
其れが三箱って事は、つまり約九百~千二百人分!!其の中から三人選ばなきゃならないのだから、一夏達の苦労はホント物凄いモノがあるだろう。一夏も『
数合わせ』ではなく『真剣』に相手を選んでいるから余計にだ。
「取り敢えず、女優とかモデルは除外の方向で行きましょう。」
「了解だ刀奈。一夏の相手は、いざと言う時に戦う事が出来なければダメだからね。」
「ん?……アラブの石油王の娘?って、年齢八歳って有り得ねぇだろ普通に!其れ以前に一桁年齢の子を候補として送って来るなよ!頭湧いてんのか!?」
作業は難航しながらも、先ずは『相手として絶対無いな』と判断した見合い写真とデータを『没』と書かれた段ボール箱に振り分けて行く……遥か遠くのドイツで、
クラリッサが予想したように、モデルや女優と言った女性を相手として写真とデータを送ってきた国は如何やら少なくなかったようである。
まぁ、一夏が普通の男子だったら別にそう言う女性が相手でも全然構わない所か、寧ろラッキーレベルなのだが、『世界初の男性IS操縦者』、『現状で世界に二
人しか存在しない男性IS操縦者』と言う事を考えると、パートナーとなる女性には相応の『強さ』が求められるので、モデルや女優と言った女性は、必然的に除外
して行く事になるのだ。
無論そう言った女性達も、自分の護衛を一夏の護衛に付ける事が出来るのだが、一夏のパートナーとなる女性には一夏の護衛の役目があるだけじゃなく、彼
女達が自分自身を自力で護る事が出来るだけの力が無ければならないのだ。
そうじゃなければ、パートナーとなった女性を人質にされて、一夏が理不尽な命令に従わされるなんて事態になりかねないからだ――そう言う意味では、婚約し
ている刀奈も、二人目として立候補したロランも、『国家代表』の肩書を持ち、ティーンエイジャーの中だけでなく、現役IS操縦者の中でもランキングの可成り上位
に入る実力者であると同時に、生身での格闘でも其れなりに強いので充分『強さ』は満たしていると言えるだろう。(刀奈は、天神真楊流柔術を修めていて十代
最強女子だったが、ロランも古武術部での鍛えられて生身の格闘もマーシャルアーツをベースに腕を上げてんだわ。)
「次は……イタリアの資産家の女性?総資産額は百億リラ?年齢は……四十八歳って此れは無いわ。
一夏は年下よりは同い年か年上の方が好みだとは言っても流石に親子ほど歳が離れてる相手ってないでしょ……イタリア――と言うよりもジェノバ市長は、彼
女が本気で選ばれると思ってたのかしら?」
「だとしたら、俺って金で相手を選ぶって思われてるって事か?」
「其れはまた何とも見当違いな事をしたものだね?
一夏はこう言った事に関しては真摯に考えているから、金や社会的地位で釣れると思ったら大間違いさ……何より、そんな物で釣られる程度であったら、私も
刀奈も一夏に惹かれる事などなかったのだからね。」
「そうね、そんな安っぽい男は此方から願い下げよ。
一夏は、強くてイケメンなだけじゃなくて、私達の事も、此れから選ばれるであろう女性の事も真剣に考えてくれてるからね……一夏みたいな男性だったら、
女性は己を捧げたくなるってモノよ。」
「言わんとしてる事は何となく分かるけど、言葉は選ぼうぜ刀奈。」
ですね。
如何にも刀奈は、言葉をオブラートに包まずにストレートに言ってしまうみたいだ……まぁ、其れが刀奈の魅力でもあるんだけど、一夏の言う様に時には言葉を
選んだ方が良い場合もあるだろう。
……刀奈の場合、分かってやってる節があるのが何ともアレなのだけどね。
「っと、もうこんな時間か?
食堂……は、今から行ったんじゃギリギリになるから夕飯は作るか。」
「そうだね。だが、そう言う事なら今夜の夕飯は私に作らせて貰っても良いかい?
一夏の料理スキルの高さは刀奈の弁当で知っているが、一夏は私の料理スキルがドレ位かは知らないだろう?……君の嫁として立候補したのだから、アピ
ールポイントは確りと押さえておかないとだからね。」
「其れは言えてるわね?……貴女の腕前、見せて貰うわよロラン?」
「そうだな、期待させて貰うぜ?」
「ふ、ならば其れには応えなくてはだ。」
そろそろ良い時間になったので夕食と言う事になり、嫁候補のアピールポイントとして今夜はロランが腕を揮う事になったとさ……噂で聞いた限りだと、毎年バレ
ンタインの度にファンの子達から送られてくるチョコレートでチョコ菓子を作ってるとの事なので、ロランの料理スキルは低くは無いのだろう。
でもって、本日ロランが作ったのは、『日本に来て最初に覚えた』と言う、『牛丼』であり、その味は吉○家や、す○屋にも引けを取らない味だった……生卵をトッ
ピングしてた辺り、牛丼の何たるかをしっかり押さえているようだ。牛丼は生卵付きが旨いからね。
取り敢えず、ロランの料理スキルは並以上である事は間違いなさそうである――『男は胃袋から掴め』とは言うが、本日の夕食で一夏のロランに対しての評価
が上方補正されたのは間違い無いだろうな。
夏と刀と無限の空 Episode15
『嫁の選択はマジで本気でやりましょう』
そして其れから更に二日掛かって、一夏の嫁候補は数十人まで絞り込まれていた。
女優やモデル、資産家を最優先で除外し、次いで候補を『格闘技経験者』と『ISバトル競技者』に限り、極端に歳の離れた相手を除外して行った結果、最終的に
此処まで人数を絞る事が出来たのだ。
最終候補の中には、IS学園に在籍する生徒も居るのは、当然と言えば当然だろう――勿論、其の中にはヴィシュヌ、乱、グリフィンの写真とデータもあった。
コメット姉妹の写真とデータが無いのはまぁ、カナダ政府の人間が割と真面だったって事だろう……普通の感覚持ってりゃ、小学生を当てがったりとか絶対に考
えないだろうからね。
そして、此の絞り込まれた数十名の中から四日間タップリ悩みに悩んだ末に、一夏は遂に残り三人を選んだのだった。ドレだけ悩んだのかっていうと、遊戯王で
理想のデッキを組み上げる時の三倍悩んだって言えば分かりやすいだろうか?……いや、此れは人によっては逆に分かりにくい例えだな。
まぁ、兎に角メッチャ悩んだって事さ。
「さてと、大分悩んでたみたいだけど、一夏は誰を選んだのかしら?」
「そうだな……色々悩んだんだけど、先ずはヴィシュヌとグリ先輩だな。」
「ふむ、してその心は?」
「こう言っちゃなんだけど、ヴィシュヌもグリ先輩も知ってる相手だから何て言うか安心出来るし、俺自身、ヴィシュヌとグリ先輩は女性として魅力的だと思うから。
其れプラス、やっぱり実力面かな?ISバトルでも生身の戦闘でも強いから、条件はバッチリ満たしてるしな……問題は、この話を二人が受けてくれるか如何か
だよな。」
「其れに関しては大丈夫だと思うわよ一夏?
ヴィシュヌもグリフィンも、少なくとも貴方に悪い感情は持ってないだろうから、驚く事はあっても貴方を拒絶する事だけはない筈よ――案外あの二人も、ロラン
の様に貴方に特別な感情を抱いているかも知れないしね。」
そしてその絞られた相手の中から一夏が先ず選んだのはヴィシュヌとグリフィンだった。
ヴィシュヌとグリフィンは、IS操縦者としても高い実力を有しているだけでなく、生身の戦闘に於いてもヴィシュヌはムエタイ、グリフィンはブラジリアン柔術を修めて
いるので、必要な『強さ』は満たしてるから一夏の嫁候補としては申し分ないわな。
そんでもって、ヴィシュヌもグリフィンも一夏に対しては、其れなりの感情を持ってるだろうから、一夏からの此の申し出を断る事は多分無いだろう……マッタク一
夏は何時の間にか呼吸をするようにフラグをぶっ立てているらしい。――ヴィシュヌとグリフィンの一夏に対する感情が『恋愛感情』なのかは不明だがな。
でもまぁ、其れも問題はあるまい。『互いに恋愛感情が無い男女が最終的に結婚した』なんて話もあるんだから、其れなりの感情があるのならばきっと大丈夫な
筈だと思うぞよ。
「成程……だが一夏、乱の事は如何して選ばなかったんだい?彼女だって容姿は良いし、実力だって申し分ないと思うのだけれどね?」
「あ~~、乱はなんて言うか、そう言う対象として見れない感じなんだよ。
乱とは、適当に馬鹿やって笑い合えるダチ公とか、悪友って関係の方がシックリくるし、多分だけど乱の方もそう思ってんじゃないか?……てか、アイツの性格
考えると自分の写真とデータが俺に送られてたと知った瞬間に、『アタシを選びなさい』とか言ってきそうだろ?
其れが無かったって事は、少なくとも乱の中で俺は『恋愛対象外』って事になるんじゃないかと思ってな。」
「「あ~~~……」」
一夏が乱を選ばなかった理由に関しては、刀奈もロランも納得いったようだ。
まぁ、確かに乱は天真爛漫のイケイケ娘だから、恋愛対象として見てる相手には割とガンガン行きそうではあるからな……其れが無かったって事は、一夏は乱
からしたら恋愛対象外の悪友ダチ公って事なのだろう。
「だけど一夏、ヴィシュヌとグリフィンがOKでももう一人選ばないといけないでしょう?」
「刀奈の言う通りだよ一夏――私と刀奈を入れても四人だからね。男性操縦者重婚法のルールを満たすにはもう一人必要さ。」
「大丈夫、ちゃんと五人目も選んだからさ。この人だけは、学園の生徒じゃないけどな。」
そう言って一夏が手にしたのは、ドイツが送って来た『クラリッサ・ハルフォーフ』の見合い写真とデータだった……写真を見る限りは眼帯のクールビューティーと
言った感じなのだが、見合い写真に添付されたデータはクラリッサがドレだけ優秀であるのかを示すモノだった。
実力は申し分なく、更に美人となれば選ばない理由がないのである――此れはドイツが巧い事をやったと言えるだろう。
「クラリッサ・ハルフォーフ……現役のドイツ軍の軍人で、所属部隊の副隊長を務めている、か……実力的には問題なさそうね?」
「実力は問題ない所か、最高レベルだと思うよ?
ドイツ軍が有している『IS競技者育成機関』である『黒兎隊』は、日々厳しい訓練を行っていると言う事で、自力の高さは世界最高峰と言われているからね?
彼女ならば、一夏の嫁に相応しいと言える……君は如何思う刀奈?」
「えぇ、其れに関してはマッタク同意見だわロラン♪」
クラリッサは、ドイツの黒兎隊の副隊長だが、その実力は隊長であるラウラに勝るとも引けを取らないレベルであり、ISバトルに於いても近接戦闘ではラウラに劣
るが、中距離での高機動戦ならばクラリッサの方が上なのだ。
加えて生身での戦闘ともなれば、体格で勝るクラリッサに分があるだろう。
「まぁ、此のクラリッサさんに関しては千冬姉にどんな人か聞いてみる心算だけどな。ドイツ軍の人間なら、千冬姉が知ってる可能性は高いし。」
「そうね。お義姉さんは、ドイツ軍で一年間教官を務めていた事があるからね。」
クラリッサだけが学園外の人物なので、その人となりは分からないのだが、其れもドイツ軍で一年間教官を務めていた千冬に聞けば大まかな性格なんかを知る
事は出来るだろう。
人伝の情報であっても、聞くと聞かないじゃ大違いって事は少なくないし、千冬だって弟の将来に直結する話なのだから、自分が記憶してる事は全て教えてくれ
るだろうからね。
因みに絞りに絞られた最終候補の中にはアメリカ代表候補のレインも居たのだが、『レイン先輩って男は恋愛対象にならないって言ってたよな?フォルテって言
う恋人が居るって言ってたし……除外だな。』ってな事で弾かれたのだった。
――――――
五人の嫁の残り三枠を悩みに悩んで選び抜いた一夏は、其の事を姉の千冬に報告する為&クラリッサの事を聞く為に寮監室にやって来ていた……その道中で
すれ違った生徒達から『お嫁さんは決まった?』、『日本人じゃなかったら立候補してたのに』とか言われたのは御愛嬌と言った所だろう。
「千冬姉、俺だけど入って良いか?」
「一夏か?あぁ、構わんぞ。」
親しき仲にも礼儀あり、ドアをノックしてから入っても良いかと聞くのは常識だね。……と言うか、家族だからって勝手に人の部屋に入るってのはどんな神経して
やがるのか知りたいわ。家族であってもプライバシーは守らなアカンよマジでな。
「如何した?お前が寮監室に来るなんて珍しいじゃないか?」
「いや、この前渡された見合い写真の中から候補を選んだから、其れを報告しておこうと思ってさ。」
「ほう?もっと掛かると思っていたのだが意外と早かったな?誰を選んだんだ?」
千冬の問いに、一夏はヴィシュヌ、グリフィン、クラリッサの見合い写真を差し出す事で答える。
「ギャラクシーとレッドラムは兎も角、ハルフォーフとはまた懐かしい顔を見たな?ドイツはアイツをお前の相手候補として見合い写真を送って来たのか……仕分
け段階ではお前宛と正義宛で分けていて、中身までは確認してなかったから気付かなかったよ。」
「ヤッパリ千冬姉はクラリッサさんの事知ってるんだ?
どんな人なんだクラリッサさんて?」
「そうだな……先ず実力面で言うのであれば、ISバトルでも生身の戦闘でも、私が教官を務めた黒兎隊では間違いなくトップレベルだ。其れに加えて頭も切れる
んだハルフォーフは。
私が集中的に鍛えた奴がISバトルでは部隊のナンバー1になった事で、副隊長の地位に甘んじているが、総合的な能力で判断すれば黒兎隊でのナンバー1
はハルフォールだと言えるだろう。」
其の中に懐かしい顔を見つけた千冬は、一夏からの聞かれた事に答えて行ったが、割と厳しめの評価を下す事が多い千冬が、可成りの高評価をしていると言う
事から、クラリッサがドレだけの実力者であるのかが一夏には伝わっていた。
「千冬姉が其処まで評価するって、凄い人なんだなクラリッサさんて。」
「あぁ、アイツは可成り見所があるよ。
性格も悪くないし、家事も其れなりに出来るのだが……只一つ困った事があってな。日本の少女漫画に嵌ったのを切っ掛けに、日本のサブカルチャーのオタク
になってしまったらしいんだ。
そっち方面の話になると、人が変わったようになってしまう部分があるのだが……」
「千冬姉、俺の近くには簪って言う極度の特撮アニオタが居る事を忘れんなって。
簪はアレだぞ?『三次元男子に興味はない』って言い切っちゃうほどの末期のオタだから、其れと比べたら大抵のオタは可愛く見えるって……其れに、漫画や
アニメが好きだってんなら、其処から話題を広げる事も出来るから、特別問題にもならないって。」
「そうか。……確かに更識妹と比べたら、ハルフォーフはまだ可愛いレベルだったな。
だが一夏、此の三人だけでは足りんぞ?更識姉との婚約は日本政府が発表したから残りは四枠だった筈だろう?」
「え、其れで足りてるって。ゴールデンウィーク中にロランが立候補してくれたからさ――言ってなかったけか?」
「ローランディフィルネィが?スマンが初耳だぞ其れは。」
「そりゃ失礼。」
「いや……しかし、国からの推薦ではなく、自ら立候補して来るとは、ローランディフィルネィにはお前に惚れていたとでも言うのか?」
「クラス対抗戦で戦った際に魅了された、とか言ってたんだけど、刀奈が居るから諦めたって言ってたぜ?」
「其れが、今回の法律が出来た事で諦める必要はなくなったので立候補したと言う訳か?
……ふむ、中々大した奴じゃないかローランディフィルネィも。幾ら男性操縦者重婚法が出来たとは言え、一度諦めた相手に自ら嫁として立候補する等、あまり
出来る事ではないだろうからな。」
「そうなのか?良く分かんないけど。
まぁ、ロランが立候補したのは別に良いんだけど、まさか刀奈の目の前で立候補して来るとは夢にも思わなかったっての。」
「更識姉の前で?……其れはまた何とも。
まぁ、更識姉の事だ、咎める事もなく許可したのだろう?」
「ロランの気持ちが本物か確かめた上で、な。」
「そして、お前もローランディフィルネィが二人目になると言う事を承諾したのだろう?ならば良いさ。」
一夏はロランの事を千冬に伝え忘れていたらしい。
だが、千冬もロランの実力はクラス対抗戦の際に目の当たりにしているので反対はしなかった――寧ろ、一夏も刀奈もOKしているのなら何の問題もないって感
じだ。
「其れでだ、ギャラクシーとレッドラムにこの事は伝えたのか?」
「いや、未だ。最初に千冬姉に知らせとこうかと思ってさ――刀奈以外の四人が決まったら、真っ先に教えてくれって言われてたからな。」
「ふむ、そう言えばそんな事を言ったな?
では、私は教えて貰ったから今度はギャラクシーとレッドラムに伝えてやれ……こんな言い方をするのは如何かと思うが、今や世界的に貴重な存在となったお
前のパートナーと言うのは、選ばれた者にとっては一種のステータスだからな、きっと喜ぶと思うぞ?」
「喜ぶかどうかは分からないけど、ちゃんと伝えて『俺のパートナーになって下さい』って言わないとな……って、ヴィシュヌとグリ先輩は直接伝えるとしても、クラ
リッサさんは如何しよう?
俺連絡先知らないんだけど……」
さて、此処で問題発生。
ヴィシュヌとグリフィンには『自分の候補に選んだ』事を直接伝えられるのだが、クラリッサにだけは伝える手段がなかったのだ。――送られて来たデータにクラリ
ッサの電話番号が書かれていた訳じゃないからな。
調べればドイツの日本大使館の電話番号位は分かるのだろうが、如何に希少な存在とは言え、一介の高校生が電話を掛ける場所ではないだろう……故に、ク
ラリッサへの連絡手段は無いに等しいのだ。
「ふむ、其れではハルフォーフの方には私の方から連絡を入れておいてやろう。」
「え、良いのか千冬姉?」
「ドイツで教官をしていた時に、『緊急時の連絡の為に』と黒兎隊の司令官の電話番号を渡されているのでな、其処に連絡すれば良かろう――序だから、お前と
ハルフォーフが会う日程も詰めておく。
お前がハルフォーフを選んだとなれば、其れこそ『見合い』の場を設ける事になるだろうからな。」
だがそこはドイツ軍で黒兎隊の教官を務めていた千冬が救いの一手を打ってくれた。
自身が教官を務めていた時のツテで、連絡を入れてくれるだけでなく、クラリッサとの見合いの日取りも決めてくれると来たもんだ……嘗てのコネクションが何処
で役に立つか分かりませんなホントに。
「あ~~……なんか悪いな千冬姉?」
「ふ、気にするな。大事な弟の将来に関わる事だから、この程度はなんと言う事はない。
……時に一夏、私にはカヅ、お前には更識姉+αが居るが、円夏には誰か相手はいないのか?」
「円夏は……いや、俺は知らないぜ?
中学時代に円夏に告白した男子は其れなりに居たけど、円夏は全部断ってたからな……でもって、高校は俺と正義以外の野郎はいないIS学園だろ?相手が
居る筈ねぇって。」
円夏は未だフリーな訳か。
でもまぁ、円夏と付き合うってのは可成り難易度が高いんじゃないかなぁ?円夏ってば若干ブラコン入ってるから、『兄さん以上の男でなければ、付き合う気はな
い』とか考えてそうだからねぇ。……何とか良い相手が現れてくれる事を切に願っています!!
「そうか……まぁ、円夏も何れ良い相手を見つけるだろう。――それはさておき、一夏……しっかりやって来い。」
「了解。」
要件を済ませた一夏は、寮監室を後にする――適当な雑談はあったが、姉弟の会話としては些か事務的な感じがするかも知れないけど、この『近過ぎないけど
遠過ぎない』距離感が一夏と千冬なのだ。
お互いに『無関心ではないが干渉し過ぎない』のが一番だと思ってるからね……千冬と円夏は女同士と言う事もあって、もっと距離は近いみたいなんだけどな。
「それにしても、まさか将来的に義妹が五人になるとは……そう言えば、父さんと母さんは今回の事を如何考えて――否、あの人達の事だから間違いなく楽しん
でいるだろうな。
ふぅ……我が両親ながら、少々ヤレヤレだ。」
一夏が退室した寮監室で、千冬が言った事は誰にも聞かれる事なく室内に消えて行った……いや、どこぞの天災兎だけは此れを聞いてたかも知れないがな。
――――――
場所は変わって一夏と刀奈の部屋。
一夏はヴィシュヌとグリフィンにLINEで『俺と刀奈の部屋に来てくれるか?』と連絡を入れ、連絡を受けたヴィシュヌとグリフィンは一夏と刀奈の部屋に来たのだけ
れど……
「何で乱とコメット姉妹まで居るし。」
「此処に来る途中で会ったのですが、『一夏の部屋に行く』と言ったら、『私達も付いて行って良い?』と言われてしまいまして……特に断る理由もなかったので
連れて来てしまいました。」
「私の方もヴィシュヌと同じだよ。途中で乱と会ってね、序に連れて来た。」
はい、乱とコメット姉妹も居ました!つまり、一夏チーム略全員集合である!此処に夏姫と布仏姉妹が加わればパーフェクト一夏チームだ。……『パーフェクト』っ
てのは、若本ボイスで言うと破壊力が高いですねうん。完全体セルは強い。
「若しかして、連れてこない方が良かったのでしょうか?」
「いや、別に構わないぜヴィシュヌ……何れ伝える事になるだろうから、逆に連れて来てくれたってんなら二度手間にならなくて済んだってモンだからさ。」
「如何言う事だい一夏?」
「……彼是複雑に考えるのは苦手だから、単刀直入に言うぜヴィシュヌ、グリ先輩、二人に、俺のパートナーになって欲しいんだ――色んな国から見合い写真と
データが送られて来たんだけど、其処から色々選別して、悩みに悩んで選んだのがヴィシュヌとグリ先輩なんだ。
其れに俺自身、ヴィシュヌとグリ先輩は女性として魅力があるって思ってるからさ……如何かな?」
はい、一夏君ぶっちゃけた!だがそのぶっちゃけは良いぞ?弩ストレートに自分の思ってる事をぶつけるってのは良い一手だからね……てか、この手の話題っ
てのは変にぼかしてなぁなぁにする方が最悪だからな。
其れをせずにストレートにぶつけた一夏は偉いと思うわマジで。
「私達が……」
「一夏のパートナーだって?」
だが、其れを伝えられたヴィシュヌとグリフィンは当然驚き戸惑う……そりゃ、世界で二人しか存在しない男性IS操縦者にして世界初の男性IS操縦者から『俺の
パートナーになってくれ』って言われたら戸惑いますわな。
実の所、ヴィシュヌもグリフィンも一夏に対しては友情以上の感情を持ってたりする……とは言っても其れが恋愛感情にまでは発展してないのだが、放課後のIS
の訓練や部活動での一夏のストイックに己を高めようとする姿に自然と惹かれてたって感じだ――ロランが言っていたように、『人間であっても、雌と言うのは優
秀な雄を欲する』ってのは決して間違いじゃないだろう。
「ヴィシュヌとグリフィンが一夏のパートナーに選ばれたですってぇ!?」
「ぐすん、私達はお兄ちゃんに選ばれなかったんだねファニール。」
「オニール、一夏がアタシ達を選ぶ事があれば其れは其れで大問題よ?――自分で言うのもなんだけど、アタシ達を選んだら一夏はロリコンって言われるわ。」
「俺はロリじゃねぇ!!」
「一夏はロリじゃないわよ……でも、一夏の嫁候補で言える事は、一夏は巨乳好き!此れは間違いない!!」
「なんでじゃー!!」
「一番小さいロランですら87で、刀奈は88、グリフィンは89で、ヴィシュヌはぶっちぎりの93!乳ヒエラルキーの上位組ばっかりじゃない!アタシがアンタに選ばれ
なかったのは胸か!80のBじゃダメだったのか!!」
「いや、胸は関係ないから!
お前は単純に恋愛対象外……ぶっちゃけて言うなら、適当に馬鹿やって笑い合えるダチ公って関係が一番なんだよ――そして、胸の大きさは気にすんな?
中華風貧乳娘は78のAらしいからな。」
「ふ……勝ったわよ鈴!!」
うーん、実にカオスディメンデョンだね此れは。
其れにしても、胸の大きさってのはそんなに大事な事かね?……大事なのは大きさよりも形の良さではないだろうか?ナンボデカくても、垂れ下がった胸じゃ色
気も何もあったモンじゃないからね。
そう言う意味ではヴィシュヌもグリフィンも美乳で巨乳だってんだから大したモンだわマジで。
……ゴホン、大幅に話がズレたな。
改めて、一夏に選ばれたヴィシュヌとグリフィンだが……
「一夏さん、私で良いのですか?」
「一夏、私で良いのか?」
少し戸惑い気味に一夏に『本当に自分で良いのか?』と聞いていた――ま、当然だわな。
今や一夏の希少価値は1カートンに一枚有るかどうかなホロレアの『青眼の究極竜』以上のレアケースだから、そんな一夏のパートナーに選ばれたのなら、こう
なってしまうのも致し方あるまいて。
「ヴィシュヌとグリ先輩で良いんじゃなくて、ヴィシュヌとグリ先輩が良いんだ。」
そんでもって此処で一夏がイケメン爆弾投下!
ヴィシュヌとグリフィンで良いんじゃなくて、ヴィシュヌとグリフィンが良いって、ドンだけの殺し文句だ此れ?――此れを聞いたヴィシュヌとグリフィンは、見事なま
でに茹蛸も吃驚する位真っ赤になっちまったからね。
「そうですか……私も一夏さんの事は嫌いではありませんので、その、宜しくお願いします。」
「まさか私が選ばれるとは思わなかったけど、一夏の事は好きだから異論はないさ――だけど、パートナーになるってんなら、グリ先輩じゃなくて名前で呼んでく
れよ一夏?」
「……あぁ、了解したぜグリフィン。」
其れでも、ヴィシュヌとグリフィンは一夏のパートナーに選ばれた事に驚きはしたが其れを受け入れて、一夏のパートナーとなった……刀奈の読み通り、ヴィシュ
ヌとグリフィンは一夏に特別な感情を持って居たのだろう。
まぁ、何はともあれ、此れで一夏の嫁さんは全員決まった様なモノだが、ヴィシュヌとグリフィンは知らない五人目についても一夏は説明する事になったのだけれ
ど、説明したら割とアッサリ受け入れてくれたので、一夏からしたら少しばかり肩透かしを食らった感じだったかも知れない。
――――――
――ほぼ同じ頃、ドイツ軍黒兎隊総本部
「ハルフォーフ中尉、先程織斑教官から私に直通の連絡があったのだが、如何やら織斑一夏君は己のパートナーに君を選んだみたいだ――織斑教官から、先
程連絡があってね。」
「選ばれたのですか、私が?」
「あぁ、見事に選ばれたよ……君は織斑一夏君の琴線に触れたらしい――そして、彼との見合いの日程も織斑教官と詰めさせて貰ったからね……少なくとも彼
は伊達や酔狂で君を選んだ訳では無いだろうからね。
ハルフォーフ中尉、君には三日後の便で日本に向かって貰う。そして、一日を織斑一夏君と過ごしてきたまえ――お見合いと言う奴さ。」
「お見合い、ですか……了解しました。」
うん、真面目ですなクラリッサさんよ。
でも、司令官の言った事に一切の疑問を持たずに了解しちゃう辺り、黒兎隊のメンバーは脳も色々と弄られてるのかも知れないが、クラリッサは、上官の命令で
はなく、自らの意志で一夏との見合いを了解したんだから、クラリッサは決して感情のないマシンではないのだろう。
「織斑一夏……教官の弟――果たしてどんな人物なのか、楽しみで仕方ないが――隊長と同じ便にならなかったのは、幸いだったな。」
其れは確かに幸いだったな……ラウラと同じ便だったら、空港で『一夏VSラウラ』のISバトルが展開されてただろうからね――マッタク持ってラウラは一夏に何の
恨みがあるのやらだ。
だが、その前にお前はクラリッサとのデートが待ってるから、頑張れよ一夏。
ま、何にしてもこれで『一夏ハーレム』は完成したと言っても良いだろう――一夏のパートナーは刀奈を始めとした一戦級の実力者が揃ってる訳だからね。
あはは、一夏組の戦闘力がトンデモない事になってるなぁ此れ……ま、良いか、戦闘力が高いに越した事はないからな。
因みに陽彩は、男性操縦者重婚法が制定されたその日の内に、箒、鈴、セシリアとヤリまくっちマッタのよ……刀奈から究極の『愛』を貰った一夏とは大違いだ。
一夏と刀奈もやる事はやったけど、一夏と刀奈の行為には『愛』があったってのが大きな違いだ――陽彩、お前がやった事は『其処に愛はあるのか!?』ってと
ころだぜマジでな
取り敢えず、一夏は自分のパートナーとして刀奈と同じ位の『愛』があるみたいなので大丈夫だろう……愛の力ってのは無敵にして最強だからな。
それはさておき、一夏とクラリッサのお見合いは一体どのようなモノになるのだろうか?そしてクラリッサは一夏の嫁となれるのか……まぁ、多分それは心配いら
ないと思うけどね。
ヴィシュヌとグリフィンがそうだったように、一夏が選んだ時点で、嫁の地位は略確定してるようなモンだし、初対面であっても一日使って一夏と過ごしゃ、その人
柄に惹かれる事間違いないからな……此の天然人たらしめ。
「ふむふむ……いっ君の嫁はかたちゃんとローちゃん、ヴィーちゃんとグリちゃんとクラちゃんか~~~。
取り敢えず、いっ君とクラちゃんのお見合いが巧く行くように、当日は二人が行く先々に先回りして、護衛用の人型ロボット『T-800君』を配置しておくとしようそ
うしよう。」
んで、更識ワールドカンパニーの開発室で、天災は何か画策してるらしかった……いや、一夏とクラリッサのお見合いが巧く行くのを願うのは良いんだけど、あん
まり変な事はしない様にね?
アンタが介入した結果、お見合いが台無しになったとかじゃ笑うに笑えないからな。
「だいじょーぶ!この束さんにしくじりなどないのだ!!」
いやいやいや、反応するな?てか、聞こえてるの此れ!?……いやまぁ、アンタなら今更何をしようと驚かねぇけどさ?……本気でハンパないなこの人は。
取り敢えず、一夏とクラリッサのお見合いが巧く行く事を願っておくとしましょうかね。
To Be Continued 
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