IS学園の寮の一室――簪と円夏の部屋からは、ここ数日ミシンの音が響いていた。……そして、そのミシン音の犯人は簪だ――ルームメイトの円夏がミシン
を真面に使えない事を考えると、犯人は簪一択だからね。
何やら衣装を作ってるみたいだが、何を作ってるんだろうか?
「簪、其れは何を作ってるんだ?ぱっと見、露出度高めの和装みたいだが……」
「YouTubeで人気の漫画動画『エトラちゃんは見た』のエトラちゃんの衣装だよ此れは……左右非対称で、露出度高めの和装はコスプレ衣装としても可成り高
得点だと思ったから作ってるの。」※分からん人は『エトラちゃんは見た』でググって下され。
「……お前が着るのか?」
「ううん、刀奈に着せる。私よりも刀奈の方が似合うと思うから。」
作ってたのはまさかのコスプレ衣装……エトラちゃんの衣装とか大分思い切ったけど、自分で着るんじゃなくて刀奈に着せるんかい!――確かに刀奈なら紅
龍騎の待機状態である扇子もあって相当に似合うとは思うけどね……あの衣装は着る人によっては胸の谷間がバッチリだから、お色気要素もしっかり押さえ
てるからな。
「確かに刀奈なら似合うかもしれんが、アイツが此れをそう簡単に着るとも思えんが……」
「その時は一夏を巻き込む。
刀奈が渋っても、一夏が『俺の為に着てくれないか?』とか言えば楽勝だからね……刀奈は一夏にぞっこんだけに、攻略するのは意外と簡単なんだよね此
れが。」
でもって、ダメな場合は一夏を巻き込むとか割とガチですね簪さんや……まぁ、一夏が頼み込めば、刀奈だってエトラちゃんコスしてくれるかもしれないけど。
……実際にやったら、色気ムンムンな感じになるだろうなぁ刀奈のプロポーションだと。でもって、一夏の理性がレッドゾーンに突入するだろうなきっと。
其れは其れとして、簪は何やらお洒落をしてるみたいだが、此れからゴールデンウィーク中のお出掛けかな?
「そう言う事で、ちょっとアキバまで行ってくるよ円夏。」
「お~~、気を付けて行けよ?あそこは割とナンパ野郎が多いからな。」
「其れは大丈夫だよマドカ……多少お洒落してると言っても、私は何処から如何見ても陰キャのオタクにしか見えないだろうから、そんな私をナンパしようなん
て奇特な人は早々居ないと思う。
其れに、居たら居たで其れはちょっと感激する。」
「陰キャのオタクは兎も角、お前は刀奈と共に『日本代表の美人双子姉妹』って言われてる事を自覚しろ?
刀奈の様な華やかさはないが、簪は落ち着いた綺麗さがあるんだからな?刀奈が太陽の美人なら、簪は月の美人と言った所か……実際お前のファンも多
いんだが、此れ以上は私が何か言う事でもないな――ま、気を付けて久しぶりの秋葉原を楽しんでくると良い。」
「勿論その心算……ところで円夏、何か買い物があれば序に買って来るけど、何かある?」
「そうだなぁ……売ってたらで良いから、『運命の分かれ道で戦士ダイ・グレファーを翻弄する右手プルプルな悪魔の女神』を買って来てくれ。」
「分かった。『悪魔の調理人が神秘の中華鍋でつくったモウヤンのカレー』だね。」
ゴールデンウィーク真っただ中のある日、簪は秋葉原に遠出して一日を過ごす心算だったらしく、学園島からモノレールで本土に移動すると、一路秋葉原に!
……果てさて、簪の一日には何が起きるのやらですねぇ。
でもって、円夏は簪に何を買って来てほしいと頼んだのか?買って来て欲しい物が何やらバグ表示になって良く分からん……てか遊戯王コラ画像乙だな。
夏と刀と無限の空 Episode11
『GW其の弐~夏姫と簪のオタクDay』
嘗ては電気街として栄えた秋葉原も、今や電気街は衰退し、代わりにアニメイトを始めとしたアニメ専門店にメイド喫茶なんかが犇めく『オタクの聖地』として新
たな街並みが構築されており、JRの秋葉原駅の改札を降りたら目の前にメイドさんが居るとか、可成りディープなオタク街として再発展している街と言えよう。
そんなオタク街に、簪は一人降り立っていた。……別に簪がボッチな訳ではない――誘えば刀奈も一夏も円夏も本音も一緒に来てくれたと思うけど、それじゃ
あ、オタク趣味は満喫出来ないのだ。
一夏達だって普通にアニメは見るし、漫画も読むけど、簪みたいにどっぷりとその世界に嵌った『沼オタ』ではなく、あくまでも一ファンに過ぎないので、ディープ
なオタク趣味にはちょっと付いて行けない部分があるから、簪一人の方が趣味を満喫出来るって訳だ……この時点で簪は大分深いオタクなのが分かるね。
だが、オタクを舐めてはいけない!オタクとは、己の趣味を限界まで極めんとする一種の求道者であり、真のオタクの知識はアニメや漫画、特撮の制作側をも
凌駕する場合があるんだからな!
「(午前中はアニメイトとアニメージュでライダーや鬼滅のフィギュアを始めとした関連グッズを買って、お昼は駅前の『萌えラブレストラン・メイドキッチン』で期間
限定メニューの『萌え萌えエビカツバーガー』のセット、午後は歩行者天国で開催されるコスプレイベントに参加だね。)」
でもって簪は本日の予定を確認してた……いやはや、中々に濃い予定ですな?
ショッピングは兎も角、午後はコスプレイベントに参加ですか?……一体何のコスプレをするのかメッチャ気になる所だね此れは。でもって、其れと同じレベル
で『萌え萌えエビカツバーガー』が気になるわ。
エビカツバーガーなのは分かるとして、『萌え萌え』って何よ?そもそも、エビバーガーに萌えの要素をブッコムって可成り無理がねぇか?バーガーバンズに挟
まれてるエビカツがハートの形にでもなってんのかね?其れとも、バーガーバンズがピンク色とか?……ピンクのパンとか食う気が失せるけどな。
まぁ、其れはランチタイムになれば明らかになるだろう。
さて、今日は思い切り趣味を楽しもうと秋葉原にやって来た簪なのだが……
「あっれ~?君一人?こんな可愛い子が一人で居るとか有り得ねぇでしょ?良かったら俺等と遊ばない?」
「青い髪と紫の瞳が神秘的だねぇ?眼鏡も良い感じに似合ってるじゃん?俺等、楽しい場所一杯知ってるから退屈はさせないよ?折角のゴールデンウィーク
なんだから楽しまないと損でしょ?」
行き成りナンパされてました。
円夏も言ってたけど刀奈の様な華やかさはないけど簪も充分に美人だから、野郎の目を引くのは仕方ないんだわうん。――刀奈なら一夏が居るからナンパさ
れる事は早々ないのだが、簪は彼氏無しのフリーで一人だったからナンパ野郎も声を掛け易かったってのもあるんだろうけどな。
とは言え、簪からしたら此れは余り嬉しい事ではない――円夏には『私をナンパして来る人が居たら其れは其れで感激する』と言ったが、其れはあくまでも仲
間内の軽口であり、心底そう思っていた訳ではないのだ。
「そうだね、ゴールデンウィークは楽しまないと損。だけど、貴方達と遊んでも楽しめるとは思えないから他を当たって欲しい。
何よりも、貴方達と遊ぶよりも私はショッピングの方が大事だから……何よりも本日限定品の『仮面ライダーBlackRXデラックスフィギュア・バイオライダークリ
アバージョン』を買い逃す事は出来ない。
貴方達の相手をしてたら買い逃しちゃうから、私は此れで失礼します。」
なので対応も塩レベルなのだが、ナンパを完全スルーされたナンパ野郎からしたら面白くない事この上ないだろう……自分ではイケてると思っていたナンパ
文句が限定品とは言えフィギュアに負けたと言えるのだから。――そもそもにして、オタクは三次元には興味ない奴が居るから、オタ女子をナンパするのは可
成り難易度が高いハードモードなんだけどね。
「ちょっと待てよ、俺達が声掛けてやったのに其れは無いんじゃないの?」
「声を掛けてくれって頼んだ覚えはないけど?」
「いや、一人ぼっちって言うのは寂しいかなぁって思ってさ、折角のゴールデンウィークなんだから大勢で楽しんだ方が盛り上がるってモンでしょ?一人よりも
大勢ってね?」
「そんなのは知らない。私は私の趣味を満喫出来れば其れで良い。寧ろその趣味を邪魔して来てる貴方達が不愉快極まりない。
本音を言わせて貰えばさっさとどっか行って欲しい……って言うか、ナンパするならもっと自分を磨いてからにしてくれる?髪を染めて、無駄にアクセサリーを
ジャラジャラ付けた貴方達には何の魅力も無い。
最低でも染髪もアクセサリーも無しに刀奈を惚れさせた一夏並の魅力が無いと私は落ちないよ。」
アッハッハ、言いたい放題だな簪?気持ちは分かるけどね。
チャラいナンパ男なんぞ、一夏と比べるまでも無いですからねぇ……ストイックに己を鍛えて世界初の男性IS操縦者となった一夏と、チャラいナンパ男は、そも
そも比較する事自体が間違ってるか。
「てめ、こっちが下手に出てりゃいい気になりやがって!」
「あっちだ、あっちの裏の方に連れ込め!!」
だけど、この簪の対応はナンパ男達の導火線に火を点けてしまったらしく、男達は簪を裏手に連れ込もうとする……人気のない場所で『禁則事項』で『未成年
は見ちゃダメよ』な『ゴッドハンドクラッシャー』をする心算なのだろう――ガチで最悪だコイツ等。
簪は日本の国家代表ではあるが、ISの操縦技術は一線級でも、生身での格闘はお世辞にも強いとは言えない……薙刀術の心得は有るので、長めの棒でも
有ればナンパ男達を蹴散らす事も出来たかもしれないが、秋葉原の様な都会ではそう言う咄嗟の武具も期待出来ない。
此のままでは簪はナンパ男達に路地裏に連れ込まれてしまうが……
「其の子に何か用かなお兄さん達?」
簪に腕を伸ばしたナンパ男の肩を誰かが掴んだ。
何事かと思い、簪とナンパ男達も、腕が伸びて来た方に顔を向けると、其処に居たのは長い髪を二つに分け首の辺りで一つに縛った褐色肌の眼鏡美人――
IS学園の生徒会長である蓮杖夏姫が其処に居た。
ブルーのダメージジーンズに、白のボタン付きロングシャツ、ダメージジーンズにはチェーン、首元には逆十字の飾りが付いたネックレスと言うラフなファッション
だが、其れが逆に夏姫の魅力を引き出している……右手でナンパ男の腕を掴みつつ、左手はポケットの中ってのもカッコいいわマジで。……此れが噂に聞く
おっぱいの付いたイケメンって奴なんですかねぇ?
「会長さん?」
「な、誰だお前?」
「其の子が通っている学校の生徒会長だ。
生徒会長は生徒を護る義務があるのでね……君達がナンパを諦めて去るのならばと思って静観していたのだが、手を出すと言うのならば話は別――彼女
を護る為に介入させて貰ったと言う訳さ。」
夏姫も何か目的があって秋葉原を訪れ、偶然この場面を見かけ、そして簪が手を出されそうになったので其れを止めたと言う事みたいだ……簪にとっては正
に救世主だった事だろう。
だがしかし、ナンパ男達からしたら夏姫の登場は面白くない事この上ない――此れから簪を路地裏に引き込んで『検閲により削除』しようとしてたのをギリギリ
の所で邪魔されたのだから。
「あぁ?生徒会長だか何だか知らねぇが、邪魔すんな。此れは俺等とこの子の問題なんだからな。」
「先程も言ったが生徒会長は生徒を護る義務があるから、『はいそうですか。』とは行かないんだ――其れに、彼女に乱暴を働いたとなれば君達もタダでは済
まないからね。」
「んだよ、脅してる心算か?」
「そんな心算はないが……先ず、アタシと彼女が通っている学校と言うのはIS学園だ。」
「んな!?」
「あ、IS学園だと!」
夏姫に対して凄むナンパ男共だったが、夏姫がマッタク怯みもせずに淡々と返し、『自分達はIS学園の生徒だ』と言う事を伝えると流石に驚いたようだ――世
界中から未来のIS乗りやIS整備士をを目指す少女達が集まる学園の生徒と知れは其れは驚くだろう。
なんたって、IS学園に入学すると言うのは並大抵のモノではない……一般生徒の場合倍率が二十倍とも言われる試験を突破する必要があり、その辺の私立
高校を受験するよりも難易度は高い。
そして国家代表や代表候補生はペーパーテストは無く、簡単な実技試験を受ければ入学できるが、そもそも国家代表や代表候補生になるってのは簡単な事
じゃないので、矢張り狭き門である事に変わりはないのだから。
「そう、IS学園だ。
世界立とも言える学園の生徒に乱暴したとなれば日本の警察のみならず、国際IS委員会も独自の捜査機関を持ってしてその犯人を捜すだろうし、犯人を逮
捕したら可成り重い罰を課すだろう。
更に彼女は、日本の国家代表でもあるから、三権分立で政府が直接罰する事は出来ないが、司法が相応の罰を下すだろうし、もっと言うなら彼女は『更識
ワールドカンパニー』の社長令嬢の一人だ。
今や世界規模となっている会社の社長令嬢が見知らぬ男達に乱暴されたとなれば、社長夫妻は如何なる手を使っても犯人を見つけ出し、それ相応の制裁
を下すのは想像に難くないからね。
……分かるか?彼女に手荒な真似をしたら、君達は人生のエンディングを迎える可能性が極めて高い……確率で言うと99.99%と言った所だろうさ。
それでもまだ、彼女と遊びたいのか?」
怯んだナンパ男達に、夏姫は反論を許さない勢いで畳み掛け、『簪に手を出したらお前等の人生アボーンするぞ?(要約)』と言い切る……此れは決して脅し
なんかではなく、夏姫の言う通り略確実になるのだ。国家代表ってのは、其れだけ重要な人物な訳ですよえぇ。
流石にこんな事を言われれば、ナンパ男達だって諦め……
「マジか……分かった、この子は諦めるぜ。だが、代わりにアンタが俺達と遊んでくれるんだろうな?」
無かった。
簪の事は諦めたけど、今度はターゲットを夏姫に変更して来たわ此れ!節操なしかコイツ等?……いや、節操なしか。コイツ等にとってナンパ対象は『可愛い
又は美人で若い女の子、JKだったら最高』って感じなんだろうからね?
だとしても、ついさっきまで凄んでた相手をターゲットに切り替えるとか、ドンだけ女性に飢えてんだコイツ等?アレか、もう何日も獲物を狩れてない肉食獣って
レベルなのか?……最近は『レンタル彼女』なんて物もあるんだから、ナンパするよりもそっちを利用した方が良いんでない?料金高いらしいけど。
「いや、其れは無理だ。
非常に残念なお知らせだが、君達は全員アタシの好みではない……先ずは服装がダメだ。決して安い物ではないのだろうが、全く似合って無いだけではな
くアクセサリーもジャラジャラと付けられていて品が無い。アクセサリーと言うのは私のネックレスやチェーンの様にポイントで使う物だ。
其れから髪の色も悪いな?下品な赤に、毒々しい紫、頭の悪そうなピンク、青汁みたいな緑……ハッキリ言ってセンスが無さすぎる上に、上の方から黒くな
って来ていてみっともない。
トドメに、腕に入れてるタトゥーが最も似合ってない。そもそも、其の英文字の意味が分かってるのか?『I'm lewd』とは、日本語で『私はスケベです』って言う
事になる……言葉の響きだけで決めたのだろうが、そんなタトゥーを入れてる時点でドン引きだ。
と言うか、その程度の英語も分からない脳足りんと付き合ってやるほどアタシは暇ではない……アタシと遊びたいのならば、先ずはIQを最低でも百二十位に
してからにしてくれ。面白い馬鹿ならば付き合っても楽しいかも知れんが、面白くない馬鹿と言うのは相手にして最も疲れるからね。」
そんなナンパ男達を、夏姫は言葉のナイフ――否、言葉のガトリング砲で蜂の巣にして行く……此れだけ言われたら、普通はブチ切れて襲い掛かって来そう
なモノだが、此処まで矢継ぎ早に心を抉る事を言われると、ブチ切れる前に心がポッキリ行ってしまうのか、ナンパ男達は苦悶の表情を浮かべて黙ってしまっ
た。
「そもそも、低俗なナンパなんかしてるから女性にモテないんじゃないかな?……ナンパしている暇があったら、己を磨け、この『禁則事項』野郎が。」
「「「「「グッハァァァァァ!!」」」」」
そして夏姫からのトドメの一撃を喰らって完全に撃沈!……何やら夏姫は放送禁止ワードを言ったみたいだが、一体何を言ったのか――物の見事に完全KO
されたナンパ男達が『其れは言い過ぎだ……』、『やっぱり手術するしかねぇのか?』、『俺は、俺は本気になったら膨張率400%だ!』とか言いながら股間を
押さえてたのを見る限りに、男の生命線であるナニに関する事だったのだろう。……女の子が其れに関する事を軽々と口にしちゃアカンよマジで。
まぁ、此れでうざったいナンパ男達は撃退出来たから結果オーライだけどね。
「ヤレヤレ、あんな奴等にナンパされるとは災難だったな簪君?」
「会長さんのおかげで助かりました……もしも会長さんが居なかったら、隙を突いて走って逃げる心算だったんですけど、上手く逃げ切れる保証はありませんで
したから。……命に係わる事態でもないので、流石に街中でISを展開する訳にも行きませんし。
あの、助けて頂いてありがとうございます。」
「礼は要らないよ、当然の事をしたまでだからね。――時に簪君は何で秋葉原に来たんだい?」
「えっと……アニメイトやアニメージュでライダーや鬼滅のフィギュアや関連グッズを買って、午後はコスプレイベントに参加しようと思って来たんです……そう言
う会長さんは如何して秋葉原に?」
「奇遇だけれど、アタシも君と同じだ。
ショップ巡りとコスプレイベントに参加する為だよ。――アニメやゲームキャラのコスプレには興味があったのだけど、エジプトでは中々やる機会が無かったか
らね。」
「そうなんですか……」
「其れで提案なんだが、簪君さえ良かったら、アタシと一緒に行動しないか?
秋葉原に来た目的は同じだし、二人なら先程の様なナンパにも対処しやすいだろう?」
「え……でも、其れじゃあ会長さんに迷惑掛けちゃう気がするんですけど……」
「迷惑なんかじゃないさ。其れに、一人よりも二人の方がショッピングもイベントも楽しめるだろう?悪い話ではないと思うが如何かな?」
「そう、ですね……其れじゃあ、今日は一日御一緒願えますか会長さん?」
「勿論だ簪君……ただ、『会長さん』は止めて欲しいな?学園ではないのだから、名前で呼んで欲しいかな……アタシが君の事を名前で呼んでいるのに、アタ
シが名前で呼ばれないと言うのはフェアじゃないだろう?」
「えっと、それじゃあ……夏姫さん?」
「うん、それで良い。」
そんでもって、簪と夏姫の本日の予定は略同じだった事から、此処からは一緒に行動する事になったみたいだ……まぁ、夏姫の言う様に一人よりも二人の方
が楽しいし、何かあった時にも対処しやすいからね。
まぁ、何かあった時に云々は建前って訳でもないが、『二人の方が一人よりも楽しめる』のは確かだから、より楽しめる方が良いだろう。
折角の休日なんだから楽しまなきゃ損々だし、そもそもゴールデンウィークなんぞ楽しんだ者が勝者なのだから、楽しむ事が最優先!
人様に迷惑を掛けないのならばトコトン楽しむべきなのだ!
「其れじゃあ行こうか簪君?」
「はい、夏姫さん。」
逸れない様にと夏姫が右手を出せば簪は其れに左手を重ねる……タイプは違うけど眼鏡美女が手を繋いで一緒に居るってのも何と言うか中々良い絵になる
わ、うん。
さて、簪と夏姫のコンビは先ずはアニメイトにやって来た。アニメグッズ専門店最大手のこの店は、地方店であっても大抵の物が手に入るのだが、秋葉原店と
なれば、其れこそ手に入らないアニメグッズなんぞないと言えるだろう。
「炭治郎と禰豆子のコンビフィギュアが二万円……禰豆子の表情が通常状態と怒り状態の差し替えが出来る事を考えれば此れは安い。迷わず買いだね。」
「仮面ライダーBlackRXのフィギュア――RX単体だけでなく、ロボライダーとバイオライダーのセット品か。
夫々が決めポーズをしてるフィギュアと言うのは珍しいから買っておくか……三体セットで二万五千円ならばお買い得と言えるからね――CDコーナーも見て
おこうかな?そろそろボーカロイドの新作が出る頃だからね。」
当然の様に、アニメイトでの買い物を簪も夏姫も満喫してるみたいだ……激レアフィギュアに五桁の金額を払うって言うのは非オタには理解出来ないかもだけ
ど、ガチファンのオタには其れだけの価値があるんだよ!俺だって、ALTERさんがリインフォース・アインス(劇場版)のフィギュア発売したら価格が五桁でも速
攻で購入するからな!ディープなオタクワールドを甘く見てはイカンのだよ!
まぁ、そんな感じで簪も夏姫もアニメイトでのショッピングを楽しみ、続くアニメージュでの買い物では簪はコスプレ衣装に使えそうな物を幾つか購入し、夏姫は
バラ売りされている『遊戯王カード』を購入していた……購入したカードは『氷結界の龍 トリシューラ』、『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』、『インフェルニティ・ガン』
……ガチのハンドレスデッキかな此れは?トリシュとガンが無制限だった頃は、マジで極悪だったからね『トリシュインフェルニティ』は。
まぁ、簪も夏姫も夫々に良い買い物が出来たので良しとしよう。
ショッピングを終えた二人は、買った物を秋葉原駅のコインロッカーに預けて今度はランチタイムだ。
これまた偶然な事に、夏姫も本日のランチは簪が予定していた『萌えラブレストラン・メイドキッチン』で摂る事を考えていたので、アッサリとランチは決まった。
簪は予定通り『萌え萌えエビカツバーガー』をセットで注文したのが……
「アタシは……激辛照り焼きチキンバーガーのセットをドリンクはLサイズで、ポテトはアメリカンロングポテトで。
其れがメインで、サブにハートフィッシュバーガーとメイドオニオンリングフライ1.5倍盛りとメイド長チキンナゲット10ピースを宜しく。ナゲットのソースは『萌える
メイドの超激辛滅殺昇天ハバネロソース』で頼む。」
夏姫の注文がバグってる……百歩譲って激辛照り焼きチキンバーガーのセットのドリンクでLサイズでポテトがアメリカンロングポテト良いとして、追加メニュー
のナゲットのソースがヤバいって!超激辛滅殺昇天ハバネロソースって、其れもう絶対に人が食っていいもんじゃねぇからマジで!ってか、食ったら脳の血管
がぶっちぎれんぞマジで!!って言うか其れもう『萌えるメイド』じゃなくて『燃えるメイド』だろ!
「夏姫さん、其れって辛くないの?その赤さに一抹の不安を覚える。」
「見た目ほどは辛くないよ簪君。
其れにこの赤さは唐辛子パウダーの赤さではなく、パプリカパウダーの赤さだからね――唐辛子だけで此処まで赤くしたら、其れこそ人が食べられるモノで
は無くなってしまうよ。
激辛を謳った商品の多くは、赤さを出すのにパプリカパウダーを使ってるんだよ……赤ければ赤い程、辛そうに見えるモノだからね。」
何やら簪の口調が砕けた感じになってるみたいだけど、此れはアレだな、先程のショッピングで夏姫が割とガチのオタっぷりを発揮したのを見て、『頼り甲斐の
ある生徒会長』から、『同じ趣味を持つガチオタ仲間』にランクアップしたからだろうな。……ランクアップか此れ?
まぁ、夏姫も夏姫で特に何も言ってないから不快な事とは思ってないのだろう……或は、生まれ育ったエジプトで使われているアラビア語には敬称はあっても
敬語みたいな表現が無いらしい事も関係してるのかもね。
「試しに食べてみるか?少しだけ付ける分には大丈夫だろうから。」
「……其れじゃあ、ポテトに少しだけ……あ、思ったより辛くない。
確かに刺激的な辛さは感じたけど、予想してた程じゃないかな?うん、此れなら普通に食べられると思う……パプリカを使う事で、辛さを抑えながらも凶悪な
見た目にする事が出来るんだ。」
「あぁ、パプリカ色素は偉大だ。」
でもって、激辛メニューの異常な赤さはパプリカパウダーであるらしかった……だよね、赤唐辛子オンリーであの赤さを出してたら食べた人間が激辛好きであ
ったとしても、『火炎放射』、『熱風』、『オーバーヒート』、『大文字』を習得しちゃうだろうからね。
その後は平和にランチタイムが続き、夏姫が頼んだオニオンリングフライやナゲットは簪も堪能させて貰ったが、元々夏姫は簪とシェアする心算で注文したらし
らしかった……まぁ、オニオンリングフライ1.5倍盛りとナゲット10ピースは一人で食すには多いとは思ったけどな。
あぁ、其れから簪が注文した期間限定の『萌え萌えエビカツバーガー』は、バンズとエビカツがハート型になってて、ソースがタルタルソースじゃなくてオーロラ
ソースになってるエビカツバーガーだった。
尚、ランチ代は夏姫が全額支払った。曰く『こういう時は、年上が払うものなんだろう?』とかなんとか……必ずそうだと言う訳じゃないんだけど、大間違いって
訳でもないから良しとしよう。
「さて、お腹も満たされた所で、本日のメインイベントに行くとするか簪君。」
「はい!気合入れるよ、夏姫さん!」
『萌えラブレストラン・メイドキッチン』を後にした夏姫と簪は午後のメインイベントである、コスプレイベントが開かれる会場に向けて出発!
イベント会場は大きな商業施設らしく、秋葉原での同人誌即売会やアニメやゲーム関連のイベントで使われる事が多いらしい……その会場に近付くにつれて
レイヤーさんが増えてるのは気のせいではないだろうきっと。
ざっと見ると、ブームに乗った鬼滅コスが圧倒的に多いみたいだが、他にも遊戯王、リリカルなのは、ファイナルファンタジー……何故か『Final凰タジー』って変
換されたんだけど何でさ?……其れは兎も角、ストリートファイターにKOF、ボーカロイドなど様々なコスプレをした人達が要るようだ。……だが、其処のザンギ
エフとエドモンド本田はちょっと待とうか?
気合が入ってるのは分かるけど、流石にプロレスラーと相撲取りの格好で往来を歩くってのは如何かと思うからね……ってか、ザンギコスは兎も角、本田コス
は裸足とか気合入れ過ぎだって。足を怪我しない様に気を付けろよ。
「夏姫さん、アレはエヴァンゲリオン初号機?」
「アレはグレンラガンか簪君。」
まぁ、中には人じゃないコスプレをしてる人も居るみたいだけどな……エヴァンゲリオンは人造人間だからギリギリ人間だとしても、グレンラガンはマジモンのロ
ボットだからね?ギガ・ドリルブレイクまで作ってる辺り、かな~りガチっぽいけどな。
そんなこんなで夏姫と簪も会場に到着し、控室でコスプレ衣装に着替える。
「よし、こんな感じかな。」
先ずは簪のコスプレが完成。
簪がチョイスしたのは遊戯王でも屈指の人気モンスターである『水霊使いエリア』だ――簪の髪の色はエリアと同じ水色なのでピッタリと言えるだろう……髪の
長さが足りないが、足りない部分は付け毛で補う事が出来るので問題なしだ。
「後か赤いカラコンを入れて、良し完璧だな。」
続いては夏姫。
夏姫が扮したのは、格闘ゲーム『侍スピリッツ』屈指の人気キャラである『色』だ。
褐色肌である以外は、髪型も衣装も身体に刻まれた紋様までも完璧に再現されているだけでなく、目には赤いカラコンを入れて、手には独特の剣も装備して
いると言う見事な完成度だ……そう言えば、色のコスプレをするレイヤーさんは其れなりに居るけど、一度として『羅刹』の色は見た事が無いな?――まぁ、銀
髪は兎も角灰色の肌は再現が難しいから仕方ねぇか。
「似合ってるじゃないか簪君。」
「ありがとう。夏姫さんも完璧だね。」
「やるからには、拘りたいからね。」
「其れは分かる。」
そんな訳でコス衣装に着替えた夏姫と簪が会場入りすると、既に会場内ではオタク連中によるレイヤーさんの撮影会が行われていたんだけど、直ぐに夏姫と
簪の周りにもカメラを持った人達が集まって撮影会が始まった。
セクシーさ抜群の夏姫の色と、可愛さが前面に押し出された簪の水霊使いエリアはメッチャ目を引くし、全く関係ない作品のコンビと言うのが注目されたのだろ
う。
「如何やら注目されているようだね?」
「コスプレイベントで注目されるっていうのは、其れだけコスプレの完成度が高いって事だから、此れは喜ぶべき事だよ夏姫さん。」
「そうなのか?なら、カメラマン達の注文には可能な限り応えるのがアタシ達の義務かな?」
「うん、あまり過激なモノではない限りは応えるべきだよ。」
其処からは、物凄い撮影会が始まり、カメラマンが寄越したギゴバイトのヌイグルミを使った『エリアが使い魔を色に紹介する図』や、『窮地のエリアを助けに来
た色の図』、『色vsエリアの図』等々、様々なシチュエーションでの撮影が行われた。……絶対にありえないシチュエーションを即座に考えちゃうとか、オタカメラ
マンの妄想力ハンパないわ。
でもって、此れだけで終わらずに、夏姫は同じくサムスピのキャラで色とも縁深い『アスラ』のコスプレをしたレイヤーさんとも撮影会を行い、簪もまたエリアが揃
わなかった『霊使い』のコス集団に誘われて、霊使い勢揃いの撮影会を行っていた。……コスプレの世界はディープだぜ。
とまぁ、こんな感じで撮影会が続いて、気が付けばそろそろイベントも終わりの時間だ。楽しい時間はあっという間に過ぎるって言うけどマジでその通りだな。
「其れじゃあ、最後に集合写真お願いします。」
イベントの最後を飾るのは集合写真で、大抵の場合は同じ版権キャラが集まった集合写真になるのだが、夏姫と簪の場合はサムスピと遊戯王って言うマッタ
ク異なる二つの版権キャラが入り混じる集合写真となった。
霊使いにブラマジ師弟、エルフの剣士にバスター・ブレイダー、色とアスラ、覇王丸に橘右京に柳生十兵衛と、遊戯王とサムスピオールスターとも言えるこの上
ない豪華な集合写真は、即刻SNSにアップされてメッチャバズる事になった。――そこでも注目されたのは夏姫の色と簪のエリアだったのは言うまでもないだ
ろう。マジでクオリティが突き抜けてたからね。
「ふぅ……充実した一日だったな簪君。特にコスプレイベントは思った以上に楽しかった……機会があればまた参加したいモノだね。」
「なら今度は夏コミかな?コミケもレイヤーにとっては外せない場所だから。」
「そうなのか?……其れは楽しみだ。ならば、今度は何のコスプレをするか考えないとだな――今度は、FFⅩ-2のユウナに挑戦してみようかな?オッドアイ
はカラコンで再現可能だからね。」
「夏姫さんなら良いレベルで再現出来ると思うよ。」
「そうかな?
簪君は今度は……そうだな、KOFのレオナは如何だろう?クールな雰囲気が簪君とよく合ってると思うんだけれどね?」
「レオナ……うん、アリかも知れない。」
イベントが終了すると、夏姫と簪はそんな会話をしながら着替えて会場を後にすると、水道橋まで足を延ばして、東京ドーム前に出ていた屋台のラーメンで夕
食を済ませた。野球のシーズン中は、東京ドームでの試合がある時には必ずこの屋台は現れるんだわ。
簪は基本の醤油ラーメン、夏姫は通の塩ラーメンだったが、何方もとても美味しかったので満足出来たようだ――ラーメンは日本が世界に誇る日本食です!
――――――
「ただいま。」
「おぉ、お帰り簪。楽しめたか?」
「うん、とっても。夏姫さんも一緒だったしね。」
「夏姫って、生徒会長も?……あの人もお前と同類だったって事か、少し意外だが楽しめたのならば良かったさ。……で、頼んでいた『唐揚げに勝手にレモン
をかけるエルフの剣士を滅びの爆裂疾風弾で抹殺する青眼の白龍』はあったか?」
「激レアモノだから見つけるのは大変だったけど、アニメージュで見つけたよ、『荒野の女戦士が入った風呂の残り湯を啜る戦士ダイ・グレファーを黒炎弾で爆
殺する真紅眼の黒竜』をね。」
「あったのか!幾らだった?」
「値切りに値切って五万円。」
「五万ならば安いな……手数料を込めて五万五千円で良いか?」
「うん、充分。」
寮に戻った簪は、同室の円夏から楽しめたかと問われると共に頼んでいた物はあったかと問われ、其れは無事に購入出来たと伝えたのだが、円夏が簪に要
求したモノがバグって聞き取れなかった……本気で何を頼んだんだろうな円夏は?
取り敢えず、簪が円夏に渡したモノはフィギュアとモデルガンっぽかったので危険なモノではないのだろう。――まぁ、何にしても簪のゴールデンウィークの1コ
マは充実したモノだったのは言うまでもないだろう。
「(夏姫さん……何だろう、あの人の事を考えると胸がドキドキする……此れは一体何?)」
そして、簪には夏姫に対する特別な感情が芽生えたっぽかった……甘酸っぱいですな此れは。頑張ってくれ簪ちゃん!
――――――
「この世界のアタシはオタクなのか?……オタク趣味を否定する気はないが、なんか複雑だな此れは……」
「其処はアレよ、この世界の簪ちゃんの良いお友達になれたって事で手打ちにしましょう?……オタ友にはオタ友の良い部分があるから、此の世界の夏姫と
簪ちゃんはきっと良い関係を築く筈よ。」
「だな、そうである事を信じようか。」
ミラージュコロイドで姿を隠しながら低空散歩をしている最中に簪と夏姫を発見した自由と正義の使者は、ちょっとした興味から二人の一日を観察していた様で
ある……他にやる事もなかったのかもしれないが。
そして今は、今日見た事を話しながら夜空の散歩を謳歌していた。――彼女達はマダマダ静観する立場のスタンスは崩さないみたいだ。
まぁ、彼女達が出張る事態なんぞは起きないに越した事はないから、此のまま平和にこの世界が続いて行く事を願ってやまないわ……まぁ、その願いが叶う
事は絶対に無いって事は、良く分かってるんだけど、取り敢えずね。願うだけならタダだからな。
取り敢えず、ゴールデンウィーク位は平穏無事に過ごして欲しいもんだねマジで。本気と書いてマジでね。
To Be Continued 
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