Side:イェーガー


マッタク持って、新たな長官も人使いが荒い……よもや、上条遊里の開発したDホイールの強化プログラムを盗み出して来いとは、無茶も甚だしい。
ですが、其処は公僕の悲しさ故に、上の命令に逆らう事は出来ません――逆らったら最期、私の首が飛びかねませんからね……公僕は、割と厳しい。

まぁ、幸いにして外から注入した催眠ガスの効果で、彼女達が目を覚ます事は無いでしょうから、この間にやる事やって、さっさと退散するが上策です!
アナタ方に恨みは有りませんが、私が生きる為にも、このプログラムは頂いて行きますよ!

其れではまた何れ――……って、うん?

「こ、此れは……シティで、300食限定で販売された、幻のカップラーメン『真紅眼印の黒炎弾ラーメン』!!
 その刺激的な味は、一度食べたら忘れる事の出来ないとまで言われた伝説のカップラーメンがこんな所にあるとは……こ、此れも頂くとしましょう!」

そう、此れはこんな困難なミッションを熟した自分へのご褒美です!


催眠ガスの効果で、彼女達が目を覚ます事は当分ないでしょうから、じっくりゆっくりと、この伝説のカップラーメンを堪能するとしましょう!

此れだけのご褒美があるのならば、多少無茶かも知れないと思った命令も、聞いた甲斐が有ったと言うモノです――ひっひっひっひっひ!!!




ですが、まさか伝説のカップラーメンが、一般的には伝説クラスの劇物だとは思っても居ませんでしたよ……私的には、全然OKでしたけれどね。












異聞・遊戯王5D's Turn92
『窃盗犯の正体を暴け!!』










Side:遊里


あふ……もう朝か……な~~~~~んか、頭がぼ~~~~~っとするわね~~……昨日は、衛遊と最新プログラムの構築に入れ込み過ぎたかしら?
マッタク持って、1年に1度、有るか無いかレベルで、頭がぼ~~~っとして、思考に霞が掛かってるわ……取り敢えず、シャワー浴びて目を覚ますか。

っと、其れよりも先にジャック達を起こして―――って、アレ?


――ウィ~~~~~~ン


パソコンがスクリーンセーバー入ってる?
アレ?アタシ、昨日パソコンをシャットダウンしなかったっけ?……少なくとも、つけっぱなしでの寝落ちはしてない筈……其れなのに起動してるって……


「くあぁ……なんだか、妙に眠気が残るが…気のせいか?」

「あ、おはようジャック。」

「あぁ、おはよう遊里。
 俺達よりも早く起きるのは、何時もの事だが何かあったのか?寝起きにしては、些か表情が厳しいみたいだが……」


あ~~……えっと、昨日シャットダウンした筈のパソコンが起動して、スクリーンセーバー入ってたのよ。

衛遊と新しいプログラムを組んだ後で、データを上書き保存して、確かに電源は切ったはずなのに、其れが起動してるって、ある意味物凄いホラーよ!


「そんな悠長な事では済まんだろうが!!
 電源を落としたはずのパソコンの電源が入っているという事は、間違いなく誰かが起動して、何らかの理由で電源を落とさずに此処から立ち去った事
 は、略間違いない――泥棒が入ったのではないか此処は!?」


泥棒ですって!?……えっと、金品その他は無事。冷蔵庫の食糧も大丈夫だけど――あれ?ゴミ箱のなかのこのゴミは――!!


「如何した遊里?何か見つけたか?」

「どうもこうも……此れって、アタシが限定発売の日に、並んで手に入れた『真紅眼印の黒炎弾ラーメン』のカップよね?
 アタシは、食べてないのに、カップ麺のゴミがゴミ箱に有るって言う事は、誰かが此れを食べて、ごみを此処に捨てて行ったって言う事よね……?
 泥棒に入っただけじゃなく、限定300食の激レアカップラーメンまで食していくとは……この泥棒許すまじ!絶対に探し出して撃滅してやるわ!!!」

「食い物の恨みは怖いか……
 だが遊里よ、パソコンが起動して居たという事は、こそどろの目的は、俺達の持っている何らかのデータであった可能性も高いのではないのか?」


言われてみれば、その可能性は大いにあるわよね?
って言うか、パソコンが起動状態だったことを考えると、其の線が濃厚だから、早速調べてみましょうか?
もしも、パソコンから何らかのデータを盗み出したんだとしたら、最後にこのパソコンを操作した人間が誰かを調べれば、犯人は直ぐに分かる。シティでオ
ンラインになってる全てのコンピューターは、セキュリティによって監視されてるから、アクセス履歴を調べればあっと言う間よ!!


「ん…あぁ~~~……思いの外、良く眠ったみたいだな。
 おはよう遊里、ジャック……と、朝から遊里は如何したんだ?」

「衛遊か。如何にも、此処に盗みに入った不届き者が居たらしく、電源を落としたはずのパソコンがスリープ状態になっていたので、少しチェックをな。
 盗みに入った奴の目的が、パソコン内の何らかのデータであった可能性も否定は出来んだろう?」

「確かに、盗人が態々パソコンを起動させた以上は、何らかのデータが目的だったのかとは考えられるが、一体何のデータを?」


其れを、今調べてるのよ衛遊。
え~~と、アタシのデッキレシピOK。音楽及び、動画データOK。ジャックのスケジュール表OK。マーサハウスの家電品定期メンテナンス表OK。
Dホイールのメンテナンス結果及び、機能チェック表OK……あとは――!!!

「ない!昨日、衛遊と組み上げた、Dホイールの新しいエンジンプログラムがない!!」

「何だとぉ!?」

「マジかよ!!」

「其れって大変じゃん!!」

「遊里と衛遊が、頑張って組み上げたのに!!」

「人のモンを盗むとは、満足出来ねぇぜ……!!」


おぉっと、皆起きたのね!?
ゴメン、聞いた通り、Dホイールのエンジンプログラムが盗まれたみたいなの……此れだけの人数が居るから、盗みに入られても誰か起きるだろうと思っ
て油断したわ……!

まぁ、プログラムはもう一度組めばいいだけの事だけど、盗み出した犯人は絶対に捕まえないと!
序に、盗み序にアタシの黒炎弾ラーメンまで盗み食いしてくれた礼を、キッチリとバッチリとしないと気が済まないからね………!!


「ジャック……遊里がなんだか怖い……」

「己が苦労して組み上げたプログラムが盗まれ、更には楽しみにしていたカップラーメンをも食されたとなれば、その怒りは半端ではなかろうな。
 しかも遊里の場合は、その怒りが大爆発するのではなく、地下を流れているマグマの如く、静かなる烈火の怒りだから余計に恐ろしいのだろう。」


まぁ、怒り大爆発して冷静な思考を失ったら、大事な事を見落としちゃうからね。
取り敢えず、此のパソコンに最後にアクセスしたのが誰かを突き止めないとだわ――間違いなく、そいつがデータ&黒炎弾ラーメンの窃盗犯だから!!


「けどよぉ、調べるったってどうやって調べるんだ?
 オンラインのコンピューターは、全てセキュリティの管轄下にあるって言っても、其れのアクセス履歴なんて簡単に調べられないんじゃねぇか?」

「甘いわよクロウ。アタシを誰だと思ってるの?
 確かに、セキュリティの管理するアクセス履歴を調べる事は、普通なら出来ないけど、アタシにとってはセキュリティのホストコンピューターにアクセスす
 る事くらいは、デュエルで1ターンキルを決めるよりも簡単な事、正に『朝飯前』よ!」

「あぁ、確かに今は『朝飯前』だな。」


……真顔でボケないでくれるかしら衛遊?


「ボケ?実際に朝飯前だろう?」

「ボケかと思ったら本気で言ってたのか?……真顔で、そして素でボケをかます……油断できないな衛遊は……コイツは満足出来そうだぜ。」


いや、ある意味性質が悪いと思うよ鬼柳さんや……と、第5層エリア突破!次のエリアを突破すれば、アクセス履歴を見る事が出来るわ。
んで、第6層に現れたデータのガーディアンは『F・G・D』……デュエルモンスターズの中でも、最強のステータスを誇る闇属性のドラゴンが護り手か……

でも甘い!!
カードデータ転送『封印されし者の右手』『封印されし者の左手』『封印されし者の右足』『封印されし者の左足』、そして『封印されしエクゾディア』


――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


今此処に5枚の封印カードが揃った!よって幻の召喚神が降臨する!!


『フゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……』
エクゾディア:ATK∞


如何に『F・G・D』であっても、エクゾディアに勝つ事は出来ないでしょ?
此れで終わりよ!最終層の守護者を葬り去れ、エクゾディア!怒りの業火『エクゾード・フレイム』!!!


――ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!……バリィィィィィン!!


OK、余裕で最終層突破。
後は、此処でアクセス履歴を調べて……って、何此れ!?マジだったら笑えないんだけど!!


「如何した?」

「如何したもこうしたも、此のパソコンに最後にアクセスした人物の情報は『閲覧制限』が掛かってて、此れを見るにはパスワード代わりの詰めデュエル
 を突破しないとダメなんだけど……閲覧制限が掛かってるって言う事は、少なくとも相手は其れなりの政治的力を持って居る相手って言う事よ。」

「其れはまた………そんな奴が盗みを働くとは、世も末か……」


マッタク、そうとしか思えないわね。
取り敢えず詰めデュエルなんだけど………此れはまた、何ともアレな問題を設定してくれたもんだわ――その辺のデュエリストだったら匙投げるわよ?

だって、フィールドと手札の設定が……


自分:LP100
タイラント・バースト・ドラゴン:ATK900(召雷弾効果)
伏せカード1(リバースエナジー・アンチダウン)
手札:ドラゴン目覚めの旋律、伝説の白石、融合、トレードイン


相手:LP10000
手札:6枚
オシリスの天空竜:ATK6000
伏せ1


だからね?
って言うか、神が相手とか幾ら何でもガチ設定し過ぎでしょ此れ?……ドンだけ、自分の情報を漏らしたくないのやら……本気で徹底してるわね。

だけど、詰めデュエルである以上はドローするカードは固定設定だから、其れを利用すれば何とかなるかも知れないけど、問題は相手の伏せカード…
其れが何か分からないと……


「……でもって、リバースエナジー・アンチダウンの効果で、青眼の究極竜の攻撃力は2000ポイントアップ!
 更にタイラントバーストを装備して、攻撃力は400アップだ!!」
青眼の究極竜:ATK4500→6500→6900


「此れで終わりだーーー!青眼の究極竜で、オシリスの天空竜に攻撃!『アルティメット・バースト』!!!」

『この瞬間にトラップ発動『聖なるバリア-ミラーフォース』。攻撃表示モンスターを全滅させます。』

「なにぃ!?ミラーフォースだと!?
 攻撃宣言に反応して発動する、最強の攻撃反応型トラップが伏せカードとは、此れは一筋縄ではいかないかもしれんな……!!」


って、龍亞が挑戦して見事に散ったわね……でも、そのお蔭で伏せカードの正体が判明した訳だから、良くやってくれたわ龍亞。


「くっそ~~~……行けると思ったんだけどなぁ……」

「うん、着眼点は悪くなかったよ龍亞。
 だけど、この詰めデュエルはもう一工夫が必要になるみたい――この詰めデュエルは、アタシが解くわ!」

「ふ……お前ならば、安心できると言うモノだ。見事突破して見せろ遊里!!」

「言われるまでも無いわよジャック!」


――詰めデュエルスタート!


この詰めデュエルの肝となるのは、究極竜を召喚し、オシリスの召雷弾をあまのじゃくの呪いで強化に使う事にある。
だけど、其れだけじゃミラーフォースで返り討ちにされるだけだから……この『トレードイン』を使うのが重要になって来るんでしょうね。



良し、読めた!
アタシは手札から魔法カード『ドラゴン目覚めの旋律』を発動。
手札の『伝説の白石』を墓地に捨て、デッキから攻撃力3000以上で、守備力2500以下のドラゴンを2体まで手札に加える!
アタシはこの効果で、デッキから2体の『青眼の白龍』を手札に加え、更に伝説の白石の効果でもう1体『青眼の白龍』を手札に加えるわ。

そして魔法カード『トレード・イン』
手札の『青眼の白龍』を墓地に送り、デッキからカードを2枚ドローする!……詰めデュエルでのドローカードは固定だけど…成程、この2枚なら行ける!

更に速攻魔法『銀龍の轟咆』を発動し、アタシの墓地からドラゴン族の通常モンスター1体を特殊召喚する!
アタシが、このカードで呼び戻すのは、当然『青眼の白龍』!!


『グシャァァアァァァァァァァァァァァァァァ!!』
青眼の白龍:ATK3000



『この瞬間にオシリスの効果発動『召雷弾』
 相手フィールドに現れたモンスターの攻撃力を2000ポイントダウンさせます。』


――バチィ!!


青眼の白龍:ATK3000→1000



当然そう来るでしょうけど、青眼の白龍の攻撃力は3000だから破壊はされない。
そして、この詰めデュエルで大切なのは、トレード・インでドローしたカード――1枚は『銀龍の轟咆』、そしてもう1枚は『スタンピング・クラッシュ』!

ドローカードは何であるかはドローするまで分からないけど、この詰めデュエルに於いては、ドローソースを使う事が重要だった訳ね。

アタシは手札より魔法カード『スタンピング・クラッシュ』を発動!
アタシのフィールドにドラゴンが存在する時、相手フィールド上の魔法・罠カード1枚を破壊し、相手に500ポイントのダメージを与えるわ!!!


――バガァァァァン!!


相手:LP10000→9500



此れでミラーフォースは破壊した……一気に行くわ!
手札より魔法カード『融合』を発動!フィールドの青眼と、手札の青眼2体の、合計3体の青眼を融合する!
集いし無敵の力が、絶対強者を呼び起こす。光射す道となれ!融合召喚、殲滅せよ『青眼の究極竜』!!!


『グガァァァアァァァァァァァアァッァァァ!!』
青眼の究極竜:ATK4500



『この瞬間にオシリスの効果『召雷弾』発動。』


甘い!其れにチェーンしてトラップ発動、『リバースエナジー・アンチダウン』!このカードの効果で、このターンのみ攻撃力ダウンの効果は攻撃力アッ
プの効果に逆転する!
つまり、このターンのみ攻撃力を2000ダウンするオシリスの効果は、攻撃力を2000ポイントアップする効果に成る!
よって、究極竜の攻撃力は2000ポイントアップするわ!


青眼の究極竜:ATK4500→6500


更に、タイラント・バースト・ドラゴンを装備し、究極竜の攻撃力は400ポイントアップし、バトルフェイズ中に3回の攻撃が可能になる――覚悟は良い!?


青眼の究極竜:ATK6500→6900(タイラント・バースト・ドラゴン装備)


青眼の究極竜で、オシリスの天空竜に攻撃!!『アルティメット・バースト』!!


――バガァァァァァッァァァァァァァァァン!!!


相手:LP9500→8600




神は撃滅したけど、究極竜には、あと2回の攻撃の権利が残されている……此れで終わりにするわ!
青眼の究極竜で、プレイヤーにダイレクトアタック!!『アルティメット・オーバードライブ・バーストォォォォォォォォォオ』!!!!!!


――バガァァァァァァァァァァァアァァァン!!


相手:LP8600→0




アタシの……勝ちだ!!

取り敢えず、此れで相手の詳細を見る事が出来るわね――何処の外道か、その面拝ませてもうじゃないの!!―――って、此れってマジ!?

閲覧制限を超えて、アタシのパソコンに最後に触れたのは、イェーガーだった……と言う事は、コイツが犯人と見て、大凡間違いはないでしょうね。


セキュリティの副長官が盗みの犯人だなんて、流石に此れは笑う事すら出来ない事態よね?……アンタ、一体何が目的なのよ、この妖怪ピエロは!


此れは、妖怪ピエロの動きを追跡するのが先決だわ。


アタシ達のコンドミニアムに盗みに入ったその罪は、キッチリと払って貰うから――捕まった時の言い訳位は考えておく事ね、妖怪ピエロ!!


そして、エンジンプログラムは返して貰うわよ、治安維持局副長官の妖怪ピエロ――改め、イェーガー!!!














 To Be Continued… 






登場カード補足



リバースエナジー・アンチダウン
通常罠
このカードを発動したターンのエンドフェイズまで、「フィールド上に表側表示で存在するモンスターの攻撃力をダウンする効果」は「フィールド上に表側表
示で存在するモンスターの攻撃力をアップする効果」になる。