No Side


ダークシグナーとの戦いも終わり、一つの街に統合されたネオ・ドミノシティは、多少のいざこざがあるとは言え、概ね平和であると言って良いだろう。

嘗てサテライトと呼ばれて居た場所も、現在は『旧市街地』と名を改め、ネオ・ダイダロスブリッジを使って自由に行き来する事が出来るようになって居るのだ。

僅か半年で此処までになったのは、疑いようもなくダークシグナーと戦ったデュエリストの功績であり、中でも遊里、ジャック、鬼柳の功績は特に大きいだろう。
尤も、遊里達は其れをひけらかしたりはしないので、シティの多くの住人が何故こんな事になったのかを知らないと言うのが現実ではあるのだが……



だがしかし、得てして平和とは長続きしないモノなのだろう。


「良いタイミングだな……此れは俺のカードだ。」

「何だよお前から?――何でプラシドのが……僕のカードから送ってくれたらよかったのに。」

「焦るなルチアーノ……プラシドのカードが最初に来たのにはきっと意味がある。――世界の為になる意味がな。」


シティの郊外に突如として現れた巨大な石板の前に佇む白いローブを纏った3人の男達。
一人は小柄で如何見ても子供。もう一人は平均的な身長の青年で、残る一人は2mはあろうかと言う巨躯の老人と思しき人物。

彼等が何者であるかは、彼等以外には知り得ないだろう。


「クックック………俺のカードが来たのは最高だな?
 ホセ、ルチアーノ、お前等のカードが来るのを待つまでもない……俺が此れで終わりにしてやるぜ――この『機皇帝ワイゼル』でな!!」

だが、この3人と石板が、ネオ・ドミノシティの新たな厄災になるであろう事は間違いないだろう。


事実、彼等が現れてから3日後、ネオ・ドミノシティでシンクロやエクシーズを使うDホイーラーを狙った、無差別通り魔事件が発生したのだから。












異聞・遊戯王5D's Turn73
『新たな脅威-現れしSXキラー』











Side:遊里


ダークシグナーとの戦いから、もう半年も経ったのよね……何だか、昨日の事の様に思い出せるわ。其れだけ、激しいデュエルだった事かも知れないけどね。


アレから半年が経った今、アタシはシティの一画にあるコンドミニアムで、修理業なんかをして暮らしてる。
で、なんでそうなったのか、鬼柳とジャックとクロウも一緒のコンドミニアムで暮らしてるのよね。序に鬼柳の弟&妹分であるニコとウェストも。

鬼柳一家は兎も角、ジャックとクロウは一応自分の家あるんだから、そっちに戻ったらどうよ?


「確かにそうなんだが、こっちの方が気分が落ち着くのでな。」

「俺の方は、ネオ・ダイダロスブリッジ建設の際に立ち退いちまったからなぁ?
 ガキ共はマーサハウスの方に預けたが、俺の住む場所がな……そんな訳で、居候させて貰ってる訳だ。」


工事で立ち退かせるなら、アフターケアしなさいよ治安維持局!
……ま、いっか。気心の知れた相手だし、大勢でってのは楽しいからね――あ、ジャック悪いけどボックスレンチ取ってくれる?


「ボックスレンチ……此れで良いのか?」

「うん、ありがと。あとは此処を絞めて……其れからこうすれば……よし、修理完了!」

「見事なモノだとは思うが、少しは己の見てくれに気を配ったらどうだ?
 仕事柄、仕方ないのだろうが、女性が顔や髪を埃と煤と機械油で汚していると言うのは如何かと思うぞ?――少しは、気にしても罰は当たるまい。」


かも知れないけど、サテライト時代から此れが普通なのよねアタシは。
まぁ、ちゃんとシャワーは浴びてるし、髪のケアもしてるから大丈夫よ?――それに、仕事の汚れが付いたアタシはダメな感じかしら?如何よジャック?


「うむ……今のお前は、此れは此れで『働く女性の美しさ』が有ると言えば有るがな。」


でしょ?
寧ろ、サテライトの女の子にとって仕事での汚れなんて普通よ?アインだって、時と場合によっては、あの銀髪が泥水と灰と油で、真っ黒になってたからね?

此れ位は如何って事ないわ。


ところで、話は変わるけどWRGPは如何する?
アタシとしては、このメンバーをメインに、チームスタッフに龍亞と龍可と宇里亜と弥生、それからニコとウェストを迎えてって考えてるんだけど。


「其れで良いんじゃねえか?
 リザーバーを入れて、1チーム5人まで参加デュエリストが認められてる訳だし、チームスタッフについても特に規定はなかったからな?」

「此れで最強チームだろ?……俺達で大会を制覇して、満足しようぜ!」


勿論狙うは優勝のみ!
世界中から、強豪デュエリストが集まってくる大会だから、簡単には行かないかもしれないけど、だからこそ挑む甲斐も有るってモノだしね!

あ、そう言えば今日からだっけ?ライディングデュエルのフィールドが『スピードワールド』から『スピードワールド2』になるのって?


「確か今日からだ。
 スピードワールド2では、ダメージ1000ポイント毎のペナルティがなくなった代わりに、スピードカウンターを消費しての新たな効果発動が可能らしいな。」

「4つ取り除いて、手札のスピードスペルの数×400のダメージ。
 7個取り除いて、デッキから1ドローで、10個取り除けばフィールド上のカード1枚を問答無用で破壊出来る……より深い戦術が必要になる感じだぜ。」


だね。
んで、WRGP用にDホイールも調整した訳だけど、使ってみてどんな感じだったジャック?


「悪くない、寧ろ良い仕事だと言えるが、矢張り世界で活躍するプロのマシンと比べると、些かトップスピードに至るまでに時間が掛かる気がするのも事実だ。
 一度トップスピードに乗ってしまえば無敵だろうが、其処に至るまでの僅かな差と言うのは存外後に響いて来るからな?」

「やっぱり課題は其処か~~~。
 エンジンの質をもっと向上させられれば良いんだろうけど、心臓部であるモーメントの出力を上げるには機体強度の強化の数倍のお金が掛かるしね……」

つーか、アタシの修理業じゃ限界があるから、アンタ等もさっさと仕事見つけて来てよ!?
ジャックは防衛戦のファイトマネーや、各種メディアからの出演料とかがあるけど、ぶっちゃけ鬼柳とクロウは殆どニート状態じゃない!仕事しろ仕事!!


「いやぁ……そりゃ分ってんだけど、此の顔だと何処も雇ってくれなくてよ……」

「右に同じく。マーカー付は未だに偏見が強いからな。」

「だったら、アタシみたいに自営業的な事をすりゃいいでしょうが!!
 其れこそ、Dホイールを使ってのデリバリーとか、現金輸送車の護衛業とか、或はデュエルの腕を生かしてフリーのバウンサーデュエリストとか!ねえ!!」

「「その手があったか!」」


気付いてよマッタク……


「よう!相変わらず此処は賑やかだな?」

「牛尾、如何したの?」

アナタが此処に来るなんて、結構珍しいわね?何かあったの?


「いや、ちょいと気になる噂を聞いたんで、教えといた方が良いと思ってな?
 オメェ等『ゴースト』ってのを聞いた事有るか?最近、シティのDホイーラー達の間で噂になってる、正体不明のDホイーラーなんだが……」


ゴースト?……名前だけなら聞いた事が有るけど、其れが如何かしたの?


「如何したもこうしたも、如何やらゴーストと戦ったデュエリストが、軒並み病院送りになってるのが気になってな?
 強烈なフィールで吹っ飛ばされたにしても、何れもが最低1週間の入院が必要なほどのダメージを喰らってるってのは、流石に見過ごせねぇだろ?
 しかも噂じゃ、ゴーストはシンクロやエクシーズを使うDホイーラーをピンポイントで狙ってくるらしいから、一応お前さん達にも教えとこうと思ってな。」


相手を病院送りにするDホイーラー……随分とふざけた輩みたいじゃない?
デュエルに於いて、己のフィールをぶつけるのは当たり前だけど、あくまでも其れは『相手に入院レベルの怪我をさせない事』が暗黙の絶対ルールなのに!!

其れを破って、相手に大怪我をさせるなんて、最低ねゴーストって言うのは。


「だろ?……だから、Dホイールで出掛けた時には用心しといてくれ。」

「フン……ゴーストだが何だか知らんが、来るならば来るが良い。
 デュエルにおける暗黙のルールも守れないような三下は、俺のレッド・デーモンが焼き尽くしてくれる!」


そうね……そんな最低野郎は、ギタギタのケチョンケチョンにして、二度とふざけた事が出来ないようにしてやらないとよね?
大丈夫よ牛尾……アタシ等が、ゴーストに如何にかされる事は絶対に有り得ないから――寧ろ、襲ってきたら倍返しの返り討ちにしてやるから安心しなさい♪


「まぁ、俺もお前等がやられるとは思ってないが一応な。
 まぁ、ゴーストの事は色々と気になるが、お前さん達もWRGPには出場するんだろ?――大会での活躍を楽しみにしてるぜ♪」


なら、その期待には応えるわよ牛尾?
世界中の強豪を全部倒して、アタシ達が大会を制して見せる!楽しみにしててよ♪


「応よ!熱いデュエルを期待してるぜ!」

「任せなさい!!」

WRGPは絶対に制すから!


だけど、改めて聞くと気になるわねゴースト……一体、何が目的でDホイーラーを襲ってるのかしら?……取り敢えずは用心しておいた方が良いかもね……








――――――








Side:牛尾


遊里達にゴーストの事を伝えてから買い物してたらすっかり暗くなっちまったな――コイツは急いでマーサハウスに戻らねぇとだ。
時間が押したおかげで、タイムセールで食材を安く手に入れられたが、急がねえと晩飯に間に合わねぇからな……うし、全速力で―――


――キィィィィン……!!


あん?なんだこんな時に……猛追して来たって事はデュエルの申し込みか?えぇ、ゴーストさんよぉ?


「ホウ?ワタシガ、ゴーストダトヨクワカッタナ?」

「良く言うぜ、俺を狙ってたくせによぉ?
 どうせ、見逃しちゃくれねぇんだろ?……だったらやってやるが――俺を今までの奴等と同列に見たら痛い目を見るぜぇ?」

「ソレハタノシミダ……セイゼイ、タノシマセテミセロ。」


すかしやがって……俺に挑んだ事を後悔させてやるぜ!!


「「デュエル!!」」


牛尾:LP4000    SC0
ゴースト:LP4000    SC0



ファーストコーナーを取ったのは俺だから、先攻は貰うぜ!俺のターン!!
コイツは、中々良い手札が来てくれたぜ――俺は『サーチ・ストライカー』を攻撃表示で召喚!


サーチ・ストライカー:ATK1600


カードを1枚セットして、ターンエンドだ。


「ワタシノターン。」


牛尾:SC0→1
ゴースト:SC0→1



『ワイズ・コア』ヲ、シュビヒョウジデショウカン!」
ワイズ・コア:DEF0


「カードヲ1マイセットシテ、ターンエンド。」


攻守共に0のモンスターとは、何を狙ってやがる?
だが、その程度の事で尻込みする俺じゃねぇ!!俺のターン!!


牛尾:SC1→2
ゴースト:SC1→2



リバースカードオープン、永続トラップ『シェイプシスター』
コイツは発動後、レベル2のチューナーとなるトラップモンスターだ――目にモノ見せてやるから覚悟しなゴースト!

「俺は、レベル4のサーチ・ストライカーに、レベル2のシェイプシスターをチューニング!
 一つになった二つの街を、護る漢が此処にあり!シンクロ召喚!出番だぜ、『ゴヨウ・ガーディアン』!!」

『フリャァァァァア!』
ゴヨウ・ガーディアン:ATK2800



テメェがどんな戦術を持ってるか知らねぇが、ゴヨウ・ガーディアンはハンパじゃないぜ?
ゴヨウ・ガーディアンは、戦闘破壊したモンスターを奪い取る強力な効果がある……其れを抜きにしても、ゴヨウ・ガーディアンの攻撃力は超えられねぇ!!
ブチかませ『ゴヨウ・ラリアット』!!


「オクサズコウゲキシテクルトハ……ダガ、ソレモマタバンユウニスギン。
 ワイズ・コアハ、1ターンニ1ドダケセントウデハハカイサレナイ……」


限定的な破壊耐性か……何とも厄介な相手だぜ、ターンエンド


「ワタシノターン!」


牛尾;SC1→2
ゴースト:SC1→2



「トラップハツドウ『ステルスマイン』。テフダヲ1マイステ、フィールドジョウニオモテガワヒョウウジデソンザイスルカード1マイヲセンタクシテハカイスル。
 ワタシハ、コノコウカデ『ワイズ・コア』ヲハカイスル。」


自分のカードを破壊だと?何を考えてやがるんだ一体?


「ソシテ、コノシュンカンニ『ワイズ・コア』ノコウカハツドウ。
 コノカードガハカイサレタトキ、アラタナモンスターガコノチニマイオリル……イデヨ『機皇帝 ワイゼル∞』!!」

『ゴォオッォン!!』
機皇帝 ワイゼル∞ATK2500



「機皇帝 ワイゼルノコウカハツドウ!」


――ギュル……


な!?ゴヨウ・ガーディアンが機皇帝に取り込まれただと!?


機皇帝 ワイゼル∞:ATK2500→5300


「ククク………コレデオワリダナ?キサマハショセン、イッパンジンニケノハエタテイドノツヨサデシカナタカッタトイウコトダ……キエウセロ、ハイシャァァァァァ!」


う……ぐ、うおわぁぁぁっぁあぁぁぁ!!


牛尾:LP4000→0


まさか、此処までとは……ぬかった、ぜ……








――――――








Side:遊里


牛尾、牛尾!!確りして!!大丈夫?アタシの事が分かる!?


まさか次のゴーストの被害者が牛尾だったなんて……お願い目を開けて牛尾!!アタシ達のWRGPでの暴れっぷりを見ないまま死ぬなんて許さないからね!
だから起きてよ牛尾……


――ぎゅ……


え?…あ、牛尾!?



「アイツ等は普通じゃねぇ……ゴーストにシンクロとエクシーズは使うな……それを使ったら、奴等の思うつぼだからな……
 だが、アイツ等を野放しにしちゃけねぇ……頼む、奴を倒してくれ!!」


牛尾……OK、受けたわその仕事!
てか、アタシの兄貴分である牛尾に、此処までの怪我を負わせたのはやっぱり許せないからね……徹底的に叩き潰してやるわゴースト!
ゴーストだか何だか知らないけど、アタシの怒りに触れた事を後悔すると良いわ……牛尾の仇、取らせて貰うからね!!

解錠覇王の怒りに触れた事を、精々後悔すると良いわ!!








――――――








Side:???


よし、奴等が飛んだ座標が割り出せた……此処に飛べばまだ何とか出来るかも知れない――破滅の未来を止める事が出来るかも知れないな。
いや、止めて見せる!!この悲惨な未来を回避する為に、過去を壊すなんて言うのは絶対に間違っているからな。


「……行くのね?」

「あぁ、アイツ等を見過ごす事は出来ないからな。」

「……貴方ならそう言うと思ったわ。
 だけど、必ず帰ってくると約束して『  』……貴方が居なくなるなんて、絶対に嫌よ……其れで世界が救われたとしても、私は受け入れられないわ。」


大丈夫、必ず俺は此処に帰ってくる――約束するよアキ……だから、信じて待っていてくれ。


「えぇ、待って居るわ……気を付けてね?」


あぁ、行って来る!
何の因果か、俺はこの世界で生きる事になったが、イリアステルの野望を見過ごす事は出来ないからな……だから俺は時を超える!破滅を防ぐためにも!


『クァァァァァァアァァ……!』


力を貸してくれ『スターダスト』!!
未来を、世界を救うために……時を超えろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!













 To Be Continued… 






登場カード補足




ステルスマイン
通常罠
手札を1枚捨てて発動する。
フィールド上の表側表示で存在するカード1枚を選択し破壊する。