Side:鬼柳


ブランシュとか言うガキは、どうやら自分を見失ってるみてぇだな?
鋭い目つきと、身体から溢れ出すサイコデュエリストのパワーは凄まじいが――これじゃ、ムカついて八つ当たりしてるガキンチョと大差ないだろ?

恐らく、遊里はアイツの全てを吐き出させた上で自分を取り戻させようとしてるんだろうが……新たに現れたコイツは何とも不気味極まりねぇぜ………


今まで出て来たシェルアーマー系と比べると、あちこち先鋭化した見た目に、その身体に纏った漆黒の分厚い鎧――正に、暗黒の鎧って言う所だな。
しかも、ソイツから感じ取れる闇の気配はハンパねぇ……其れこそ、一歩間違えば世界を滅ぼしちまいかねない程のモンだ。

正直な事言うと、俺ですらヤバイと思う程のモンだが――アレと実際対峙してる遊里が感じてる脅威ってのは一体どれほどなんだ?
マッタク持って想像出来ないが、相当なモンを感じてるのは間違いねぇ……其れなのに、遊里の瞳には恐れも迷いもないってのは、正直凄い事だぜ。

だが、だからこそ俺も、俺達もお前の勝利を信じて疑わねぇ。


何よりも、お前は俺達の半身たる決闘龍を背負ってデュエルしてるんだ、俺達の魂と共に戦って負ける事なんて有り得ないよな?


だから、一発かまして目を覚ましてやれ。
癇癪起こして暴れてる困ったガキをさ?………其れ位してくれないと満足できねぇからな?……お前のデュエルで俺を満足させてくれよな遊里!!











異聞・遊戯王5D's Turn65
『闇を吹き飛ばす銀の清風』










遊里:LP1200
輝天龍 シルバー・ウィンド:ATK2500
プリンセス・ヴァルキリア:ATK2500
龍滅剣士 バスター・ブレイダー:ATK2600



ブランシュ:LP2100

鎧殻黒龍 ダークネス・アーマー:ATK3500
CX トライエッジ・ポセイドン:ATK2300




Side:遊里


この局面でレベル10のシンクロモンスターを呼び出してくるとはね……しかも攻撃力は3500もあると来たもんだ。


「シェルアーマーの効果発動!
 このカードが墓地に送られた時、テメェのフィールド上のモンスターの攻撃力は全て500ポイントダウンするぜ!!!」


輝天龍 シルバー・ウィンド:ATK2500→2000
プリンセス・ヴァルキリア:ATK2500→2000



「?……バスター・ブレイダーの攻撃力はダウンしてねぇだと?」

「シェルアーマーの効果は確かに厄介だけど、アレもまたドラゴン族なのよね?……だったら竜破壊の剣士にその力は及ばない!
 龍滅剣士 バスター・ブレイダーは、相手のドラゴン族モンスターの効果を一切受け付けない!よってシェルアーマーの効果も受けなかったのよ!」

「龍に対しては無類の強さを誇る……龍滅剣士の名は伊達じゃねぇか。
 だが、攻撃力が2000にまで下がったテメェのモンスターをどちらかぶち殺せば、其れでテメェのライフは風前の灯火……そろそろ決着かオイ?」


確かにそうなんだけど、アタシがそう簡単にやられるとでも思ってるの?
だとしたら甘いわねブランシュ?極甘のショートケーキにはちみつとガムシロップを目一杯ぶっかけたくらい甘いわ!……想像しただけで胸焼けが……


「お、恐ろしいもん想像させんじゃねぇ!!思わず想像して、胸焼け起こし掛けただろうが!!」

「うんゴメン、アタシも自分で言って胸焼け起こし掛けた。まぁ、冗談は兎も角として、トラップ発動『ブラックミスト』
 このカードで、フィールド上に表側表示で存在する全てのモンスターのモンスターの攻守力を元々の値に戻すわ!」
輝天龍 シルバー・ウィンド:ATK2000→2500
プリンセス・ヴァルキリア:ATK2000→2500



「ち……だが、攻撃対象になったモンスターに対してシルバー・ウィンドの効果を発動しても攻撃力は3000…ダークネス・アーマーの敵じゃねぇ!!
 バトルだ!!鎧殻黒龍 ダークネス・アーマーで、輝天龍 シルバー・ウィンドに攻撃!!滅ぼせ…『激流葬送滅殺波』!!!」


シルバー・ウィンドの効果を、シルバー・ウィンド自身に適応!
此れにより、シルバー・ウィンドの攻撃力は500ポイントアップし、このターン破壊されない!!耐えて、シルバー・ウィンド!!


この程度の攻撃で、我が風の盾は貫けん!!
輝天龍 シルバー・ウィンド:ATK2500→3000
遊里:LP1200→700




まぁ、ダメージは受ける訳だけど………この衝撃、今までよりも更に強い!?
若しかして、ブランシュの中の闇がモンスターとして具現化した事で、負の感情によるパワーが増強されてるの!?……だとしたらトンでもないわね…
つーかブランシュ、アタシが勝ったらライダースーツとレザージャケット弁償しなさいよ?随分とズタズタにしてくれちゃってまぁ……


「テメェが勝ったら幾らでも弁償してやるよ!まぁ、そいつはない未来だけどな。
 ダークネス・アーマーの効果発動!このカードが相手に戦闘ダメージを与えた場合、このカードの攻撃力は与えた戦闘ダメージ分アップする!」

『グガァァァァァァァァァァ!!!』
鎧殻黒龍 ダークネス・アーマー:ATK3500→4000



うわぁぁ……何つ~効果よ其れ?
仮にダイレクトアタックかましたら、其れだけで攻撃力が倍になるっておかしくない!?こりゃ長引くとヤバいかもしれない……


「俺はカードを1枚セットしてターンエンドだ。」


輝天龍 シルバー・ウィンド:ATK3000→2500


「アタシのターン!!」

さてと如何しようかな?
バスター・ブレイダーなら、攻撃力が4000のダークネス・アーマーでも問答無用で破壊できるし、アレを倒せれば後は直接攻撃で何とかなる。
だけど、多分この程度の事はアイツだって読んでる筈……だったら此処は!

アタシはチューナーモンスター『ツメクリボー』を召喚!!


ツメクリボー:ATK300


そして、レベル7の龍滅剣士 バスター・ブレイダーに、レベル1のツメクリボーをチューニング!
集いし魔法の胎動が、新たな世界を切り開く。光射す道となれ!シンクロ召喚、突き進め『ダーク・マジシャン・ガール』!!


さぁて……少し頭冷やそうか?
ダーク・マジシャン・ガール:ATK2500


えっと、なんだかいつもと雰囲気違って微妙に怖いんだけど……兎に角頼りにしてるわよ?


「此処で新たなシンクロ?なんだよミスったか?
 バスター・ブレイダーを使えばダークネス・アーマーを倒す事が出来たんだぜ?」

「確かにそうだろうけど、其れ位の事はアンタだって読んでるでしょ?――だから此処は別の手で行かせてもらうわ!
 リバースカードオープン、トラップカード『フラットアタック・ディスティーション』!!
 アタシのフィールド上に同じ攻撃力のモンスターが3体存在する場合、相手フィールド上のカードを全て破壊する!!此れで消し飛べぇぇぇぇ!!」

「その為に!!」



――バガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!



やった…かな?


「何てカードを……その為にバスター・ブレイダーを素材にしやがったのか……」
鎧殻黒龍 ダークネス・アーマー:ATK4000



!!ダークネス・アーマーは無傷!?……まさか、そのモンスターは!!


「ダークネス・アーマーは1ターンに2度まで、相手の魔法と罠の効果を受け付けない、コイツで生き延びさせて貰ったぜ。
 まぁ、吹き飛ばされたリバースカードは『ポセイドン・ウェーブ』だから、其れを除去したってのは悪くねぇかもしれないけどよぉ!!」


なんとまぁ……だけど、バスター・ブレイダーで攻撃してたら一巻の終わりだったって事か……アタシは全てのモンスターを守備表示に――


「おぉっと、ダークネス・アーマーが存在する限り、互いにモンスターを守備表示にする事は出来ないぜ?
 大方守備表示にして、シルバー・ウィンドの効果と併せて防御に入る心算だったんだろうけど、読みが甘かったな!!」


結構な反則効果ね其れも!?……カードを2枚セットしてターンエンド!!


「俺のターン!!
 今度こそ終わりにしてやる……ダークネス・アーマーで、シルバー・ウィンドに攻撃だ!!砕け散れ『激流葬送滅殺波ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』!!」

「シルバー・ウィンドの効果発動!これでシルバー・ウィンドの攻撃力は500ポイントアップし破壊されない!
 更にトラップ発動『スキル・サクセサー』!このカードの効果でシルバー・ウィンドの攻撃力は更に400ポイントアップする!!」

早々簡単にはやられん!!
輝天龍 シルバー・ウィンド:ATK2500→3000→3400
遊里:LP700→100



「ダークネス・アーマーの効果発動!相手に与えた戦闘ダメージ分、攻撃力を上昇する!!」
鎧殻黒龍 ダークネス・アーマー:ATK4000→4600


ついに攻撃力が究極竜を超えたか……だけど、其れだけのモンスターを従えて居ながらもアンタはアタシのライフを削りきれなかったわね?


「そうだ……其れなんだ!
 俺のデュエルタクティクスはテメェにゃ負けてねぇし、此れだけのモンスターを従えてる……なのに、如何してお前のライフを削りきれない!?」


其れはアンタが、自分を見失ってるからだよ。
今のアンタは、シグナーとダークシグナーへの憎しみから忘我の状態であると言っても過言じゃないし、アンタ自身の心の闇が恐ろしく強くなってる。

其れは確かに強い力を与えてくれるかもしれないけど、同時に脆い。だからアタシのライフを削りきれなかったのよ!!


「何だとぉ!?」

「気付いてないの?
 ダークネス・アーマーを召喚してからのアンタの戦術は酷く単調で分かり易いモノになってる……此れ位を見切る等と言う事は造作もないわよ?」

だけどブランシュ、一度自分の操るモンスターを見てごらん?……こんなに禍々しい黒龍が、貴女の望んだ力の正体だって言うの?其れで良いの?



「え?……あ、違う……コイツは俺の、俺のモンスターじゃない!!
 俺のエースは、トビーの命が与えてくれたシェルアーマー……こんな、こんな醜悪なモンスターじゃない!!!」


――パリィィィィィィン!!


!!此れは……少しは落ち着きを取り戻したかな?
なら、改めて問うわブランシュ、アンタは一体何がしたかったの?自分を利用した者への復讐?それともこの世の全ての破壊?其れとも――


「違う!!……俺は……俺は、きっとこんな力なんて関係なく、平和で穏やかな時を過ごしたかったんだ。
 家族が居て、友達が居て、笑い合いながらデュエルをして………そんな、何の変哲もない日常を、きっと望んでた……こんな事を忘れちまうとは…」

「……自分の中の原初の願望を思い出したみたいね?――其れで如何してほしい?」

「……今更虫が良いかもしれないけど、助けてくれ……親に捨てられ、クソッ垂れに良いように使われ、その挙げ句が此れだ。
 嫌だ……俺はもう、これ以上暗い闇の道を歩みたくねぇ!!だけど、自分では如何しようもないんだ……もう良いだろ?俺は…」


其れが聞きたかった。
暴走とか表面上の取り繕いじゃないアンタの本心を!!――其れが聞ければ充分よ、アンタの闇を砕いてやるわ!!


「……だけど、どうやって其れをやるんだよ?……ターンエンド。」


輝天龍 シルバー・ウィンド:ATK3400→2500


まぁ、確かに攻撃力4600のダークネス・アーマーを倒すのは容易じゃないわ。
おまけに1ターンに2度まで、魔法と罠の効果を受けないと来てるから除去も難しそうだしね?



だけど、手が無い訳じゃない!!アタシのターン!!

「!!……来た!!」

このデュエル、アタシの勝ちよブランシュ!


「え?」

「アタシは手札から魔法カード『ユニオン・アタック』を発動!!
 このターン、相手モンスター1体を、アタシのフィールド上に表側表示で存在するモンスターの攻撃力を集約した連係攻撃で攻撃する!
 アタシのフィールド上のモンスターの攻撃力の合計値は7500!!3体のモンスターの合体攻撃がダークネス・アーマーを襲うわ!!」

更にトラップ発動『シンクロン・デストラクター』
このターン、アタシのシンクロモンスターが相手モンスターを戦闘で破壊した場合、相手に破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える!!

ユニオン・アタックの効果でアンタに戦闘ダメージは発生しないけど、シンクロン・デストラクターの効果ダメージは普通に通る!!
此れで終焉よブランシュ!輝天龍 シルバー・ウィンド、プリンセス・ヴァルキリア、ダーク・マジシャン・ガールの3体でダークネス・アーマーを攻撃!!
人の心に巣食う闇を穿ち貫け!!『アルティメット・オーバー・クラッシャー』!!!!


穿ち貫く!

斬り捨てる!!

全力全壊でぶっ放す!!




――バガァァァァァァァァァッァアァァッァァアァァァァァァン!!


『グオォォォォォォォォォォォォォォ!!!』
――ジュゥゥゥゥゥゥゥ…



カード本体すら消え去った!?……本気でブランシュの心の闇が具現化した物だったって言う事か…


「ぐはあっぁぁぁぁ!?」

「未だよ!シンクロン・デストラクターの効果で、ダークネス・アーマーの元々の攻撃力3500ポイントのダメージを受けて貰うわ!!」


――ドォォォォォォォォォォォォォォォォン!!



「ぐ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっぁぁぁぁぁ!!!!」
ブランシュ:LP2100→0



はぁ、はぁ……か、勝てた――ったく、トンでもない実力者だったけど、大丈夫なの?動ける?


「あ、あぁ………何とかな?
 ……にしても今の一発は効いたぜ……まさかやられちまうとはな………俺の負けだ……ん?」


如何やら無事みたいだけど、此れ何!?……ブランシュの右腕が輝いて………


――シュゥゥゥゥン……


「あ、痣が消えた!?あの忌まわしい痣が!!!」


偽りの役目から解放されたって事かな?……だけど、貴女のデッキを見てごらん?


「……此れは…シェルアーマーが残ってる!?……如何して……」

「そのカードは貴女が人造シグナーとであるとか関係なく、貴女の友達のトビーの魂が具現化したカードだからじゃないのかな?
 きっとトビーは、死して尚友達である貴方と一緒に居たかったんじゃないの?……だから、そのカードは痣が消えてもなくならないのよ…多分ね。」

「え、あぁぁぁぁぁぁ………トビー……お前、死んじまっても俺の事を考えてくれてたのかよ?
 なのに俺は、復讐に走って、ミスティを殺して……本気で如何しようもねぇ……ゴメン……本当にゴメンなトビー……俺は、僕は…私は……!!」


――ギュ……


「え?」

「もう、自分を責めて、世界を憎むのは終わりだよブランシュ。
 漸く気付けたんなら其れで良いじゃない?諦めない限り、人生は幾らだってやり直しがきくし、貴女はまだ14でしょ?遅過ぎたなんて事はないわ。」

だから、もう一度最初から頑張ってみようよ?――今の貴女なら出来るでしょ?


「あ……あ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっぁ!!俺は…俺はぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


はいはい……もう我慢しなくて良いから思い切り泣きなさい。
どうせ、今の今までどんなに辛くたって泣いた事なんて無かったんでしょ?……だったら、数年分の涙と感情を此処で流してしまいなさい?

大丈夫、貴女の気が済むまで、アタシは一緒に居てあげるからさ……だから今だけは、思い切り泣いて、溜まった物を吐き出しちゃいなさい。
其れが終わったら、きっと新しい世界が、貴女の前に広がっているだろうからさ――













 To Be Continued… 






登場カード補足



ブラックミスト
通常罠
フィールド上に表側表示で存在する全てのモンスターの攻撃力と守備力を元々の数値に戻す。



フラットアタック・ディスティーション
通常罠
自分フィールド上に同じ攻撃力のモンスターが3体存在する場合に発動できる。
相手フィールド上のカードを全て破壊する。
また自分フィールド上に表側表示で存在するモンスターのレベルが全て同じ場合、このカードの発動と効果は無効に出来ない。