Side:ジャック


く……矢張り俺の予想は間違っていなかったか!!
平静を装ってはいるが、ブランシュとやらのサイコパワーを喰らった遊里は無事ではあるまい――下手をしたら骨の一本くらいやられてるかも知れん。

だとしたら相当にきついだろうが――そうであっても敢えてお前は其れを聞くのか遊里!!
ブランシュに対して、『何故シグナーを憎むのか』と――それを問うとはな、奴の心に救う闇を払う心算か!?……失敗すれば一巻の終わりだが…



「あぁ?何でシグナーを憎むかだぁ?……つまらねぇ事聞いてんじゃねぇよ!!――テメェも刺身になりてぇのか、あぁ!?」

「つまらない……果たしてそうかしら?
 憎しみによる復讐を否定する気はないけど、だけどその復讐心が何に起因してるのかを忘れたら、アンタは只のテロリストになり果てるでしょう?
 だから、今此処で吐きだしなさいよ!!――其れすら出居ないようじゃ、アンタは一生負け犬のままだよブランシュ・ノーチラス!!!」



実に言葉巧みと言うか、『巧い』な遊里は。
いや、それ以前に遊里はブランシュに救う心の闇をも払う心算で居るのか?――だとしたら凄まじい事だがな。


果たして己の事を話すかどうかはブランシュ次第だが――だがしかし、何が起ころうとも遊里が負けると言うビジョンだけは想像する事すら出来ん!


上条遊里、この俺が……絶対王者が唯一認めたデュエリストよ、サイコデュエリストとやらを相手にしても、絶対に負けてくれるなよ!!
貴様を倒すのはこの俺だ!――その時が訪れる前に負ける等と言う事は、この俺が許さん!!必ずやブランシュを制して見せるがいい!!











異聞・遊戯王5D's Turn64
『逃げるか、其れとも立ち向かうか』










遊里:LP1000
輝天龍 シルバー・ウィンド:ATK2800(ギルファー・デーモン効果)
プリンセス・ヴァルキリア:ATK2800(ギルファー・デーモン効果)
漆黒魔族ギルファー・デーモン:ATK2500(ギルファー・デーモン効果)



ブランシュ:LP2100

解殻龍 ネイキッド・シェルアーマー:ATK1600
CX トライエッジ・ポセイドン:ATK2300




Side:遊里


「負け犬…だと?……随分と舐めた事言ってくれるじゃねぇか!!」


そうかしら………アタシにはアンタが自分の闇を口にする事を怖がってるように見えるんだけどね?


同時に勿体ないのよ、歪みに歪んじゃったアンタのデュエルはね……
アンタの基本的なデュエルタクティクスは、間違いなくトップレベルだって言うのに、余計なモノに邪魔されて本領が発揮しきれていないんだから。

その邪魔なモノを払拭しない限り、アタシに勝つ事は絶対に出来ないよアンタは?


だからもう一度だけ言うわ――アンタに一体何があった?如何してアンタはこんなにも歪んじゃったのかしら?



「あくまでも聞きだすってか?……なら教えてやるよ、俺がサイコパワーを、そしてシグナーの証である赤い痣を何故憎むのかをな!!!」


えぇ、是非とも教えて頂きたいわね。


「……俺には生まれながら、類稀なサイコデュエリストとしての資質があったらしく、赤ん坊の頃からその力を発揮していたらしい。
 だけど、そんな赤ん坊が疎ましく思われないなんて事はなく……俺は捨てられ、そしてあのクソッ垂れの前髪に拾われたんだよ!」

「クソッ垂れの前髪……?若しかして、地縛神に飲み込まれた挙げ句、地縛神に乗っ取られた、ディヴァインの事……かな?」

「そう、そのクソ野郎だ!!……って、地縛神に乗っ取られた!?」


身体ごと確りとね。
まぁ、其れは鬼柳が余裕綽々で速攻撃滅して、冥府の底に叩き落して終わりにしたから大丈夫だけど。


「フン……クソにはお似合いの末路だぜ。まぁ、今更アイツがどうなろうと知ったこっちゃねぇけどな。
 兎に角あの野郎は、サイコデュエリストを集めたある意味でのテロ組織『アルカディアムーブメント』の総帥で、俺の力に目を付けやがったらしい。
 アイツに拾われてからは、来る日も来る日もサイコデュエリストとしての能力を伸ばすだけの、一種の拷問みたいな日々がずっと続いていた。
 それでも俺が耐えられたのは、其処で出会ったダチが居たからだ!!
 アイツは……トビーは、自分だって苦しいのに何時も俺の事を気に掛けててくれてた!能力開発の合間に沢山デュエルをした!!
 だけど……アイツは奴等に殺された!アイツ等の『人造シグナー開発計画』の被験体に選ばれ、無理矢理な実験の末に死んじまった!!」


何ですって!?……あの前髪星人、トンでもない外道だった訳ね?――鬼柳がぶちのめしたのは、ある意味で大正解だったか……
でも待って、だとしたら何でアンタに痣があるの?今の話だと、トビーって子に痣が発現するんじゃないかしら?


「全くの偶然だが、トビーが死んだ事で、トビーに発現した痣と力は俺に移ったって訳だ。
 俺もこの痣が移ったせいで、死ぬほど苦しんだしな……だけど、シグナーがこの世に居なければトビーは死なずに済んだのは間違いない!!
 シグナーも、ダークシグナーも居なければ良い………だから俺は全てのシグナーとダークシグナーをぶっ殺す!!」


成程ね……確かにシグナーが存在してなければ、そしてサイコパワーが無ければアンタは静かに、平和に暮らす事が出来てたかもしれない訳だ。
だけど、その二つの力のせいで人生が狂ってしまった――まぁ、シグナーとダークシグナーを滅するには充分な理由になり得るわ。

「其れが理由か……カードを2枚セットしてターンエンド。」

「これ以上言う事はないぜ……俺のターン!!」


確かに、アンタがこれ以上語る事はないだろうけど――だけど、シグナーとダークシグナーを全て滅して、その先にアンタは何を望むの?


「え?」

「アンタの言う事は分かったし、シグナーとダークシグナーを滅する理由も、まぁ分からなくはないわ。
 だけど、アンタは目的を果たしたら、その先は如何するの?
 仮にアタシ達を倒しても、アンタって言うシグナーは残る事になるんじゃない?全てのシグナーを滅するなら、目的を果たした後で自害でもするの?」

「お、俺は……」


言われて気付いた?だとしたら案外間抜けじゃない?
それ以前に、アンタの不幸は良く分かったけど――アンタは、自分の身に宿った力と向き合った事が有るの?


「向き合った事……だと?」

「サイコデュエリストとしての力も、シグナーとしての力も、アンタ自信が望んで手にした事じゃない事は良く分かったわ。
 だけどアンタはその力で一体何をしたの?
 アンタのした事って、力にモノを言わせた破壊と殺戮よね?シグナーでない龍亞にすら怪我を負わせたわけだし――何がしたいのアンタは?」

こんな力は望んだものじゃない、この力のせいで自分は不幸になったって思う事は簡単だし、多分そう思った方が色々と楽なんだろうとは思うわ。
だけど、アンタはその力を忌むべき物としながら、実際にはその力を使って暴れただけで、只の1人でもその力を使って救った事があったの?

忌むべき力とか、己の不幸を身に宿った力のせいにしておきながら、結局アンタは自分の鬱憤晴らしの為にその力を使ったのよ!!


「……黙れぇぇ!!テメェにそんな事言われる筋合いはねぇんだよ!!
 俺は手札から、魔法カード『RUM-アルカディア・フォース』を発動!コイツで、ネイキッド・シェルアーマーをランクアップする!!
 カオスエクシーズチェンジ!混沌の力を鎧に纏い、その力で迷える魂を導け!『CX 漆殻龍 シェルアーマー・アビス』!!」

『グゴアァァァァァァァァアァ!!』
CX 漆殻龍 シェルアーマー・アビス:ATK2900    ORU1


「アルカディア・フォースの効果で、シンクロモンスターをコントロールしてるお前に800ポイントのダメージだ!!」

「ぐ……!!」
遊里:LP1000→200


また強烈な……ライフも残り200か……結構キツイわ。
だけど、何度でも言うわブランシュ――アンタのやった事は所詮は子供の八つ当たりと大差ないのよ!アンタは自分の力から逃げただけじゃない!!


「うるせぇ!テメェに何が分かる……何も知らないくせに知った風な口利きやがって、本気でムカつくぜ!!
 俺はシェルアーマー・アビスの効果発動!
 このカードのオーバーレイユニットを1つ取り除き、相手のモンスター1体をこのカードのオーバーレイユニットとして吸収できる!!
 俺はこの効果で、モンスターのステータスのアップダウン効果を持つ、厄介なギルファー・デーモンを吸収するぜ!!」
CX 漆殻龍 シェルアーマー・アビス:ATK2900    ORU1→0→1


輝天龍 シルバー・ウィンド:ATK2800→2500
プリンセス・ヴァルキリア:ATK2800→2500



ギルファー・デーモンが!
だけど、アビスの攻撃力には変化が無い……だったら攻撃されても、攻撃対象になった方にシルバー・ウィンドの効果を適応すれば大丈夫だけど…


「更に装備魔法『アビス・フォース』をシェルアーマー・アビスに装備!
 コイツの効果で、シェルアーマー・アビスの攻撃力は700ポイントアップし、戦闘では破壊されないぜ!!」
CX 漆殻龍 シェルアーマー・アビス:ATK2900→3600


流石にそう簡単には行かないか!!


「コイツで終わりだ!!ムカつく御託並べやがって……この一撃で消し飛べ!!
 漆殻龍 シェルアーマー・アビスで、輝天龍 シルバー・ウィンドに攻撃!!『ブラック・スティンガー』!!」


シルバー・ウィンドの効果をシルバー・ウィンド自身に対して発動!
これで、シルバー・ウィンドはこのターン破壊されず、攻撃力は500ポイントアップする!!


輝天龍 シルバー・ウィンド:ATK2500→3000


「其れが如何した!!どの道この攻撃でお前はお終いだぜ!!!」


――バガァァァッァァァァァァァァァッァァアッァァァアァァァァッァアァァァッァン!!


「フン……吹っ飛んだか。」

「……其れは如何かな?」
遊里:LP200→1200


「!!テメェ……何だって無事でいやがる!!」


このカードを発動させて貰ったわ!トラップカード『シンクロ・ヒール』
このカードはアタシのフィールド上のシンクロモンスター1体につき800ポイントのライフを回復するカード。

アタシのフィールドには2体のシンクロモンスターが存在しているから、1600ポイントのライフを回復させて貰ったのよ!!


「ちぃ……ターンエンド!」


輝天龍 シルバー・ウィンド:ATK3000→2500


「アタシのターン!」

ブランシュ、確かにアタシはアンタの事なんて何も分からない。
だけどさ、自分が一番不幸だなんて思うってのは虚しくない?……そう思って、全てを何かのせいにして生きて何になるって言うの?


「未だ言うか……サテライト暮らしとは言え、なんの不幸もないテメェが偉そうな事言うんじゃねぇ!!」

「……アンタは親に捨てられたって言ってたけど、親の顔は知ってるのよね?」

「あ?ムカつくが知ってるぜ……其れが如何した?」


……生憎と、アタシは親の顔すら知らないわ。
アタシの両親はモーメントの開発者だったらしいけど、17年前のゼロリバースに巻き込まれて死んだ……そして多分、兄さんもね。

だけどアタシは運良く生き残り、伯母の下で育ったわ。
そしてデュエルアカデミアに入学したけど、アタシの強さを妬んだ奴に嵌められて、冤罪吹っかけられた挙げ句に投獄されてマーカーを刻印された。
おまけにデッキまで没収された上でサテライト送り……我ながら、齢17にして何とも波乱万丈な人生を送ってると思うわよ。


「何だと……お前も……だが、だとしたら何でお前はそうして居られる!!
 憎くないのか、お前をそんな状況に追い込んだ奴等が!世界が!!――如何してお前は!!」

「憎んでどうなるの?まぁ、アタシに冤罪吹っかけてくれた馬鹿にはキッチリと借りを返したけどさ。
 過去を悔み、今の状況が誰かのせいでそうなったって思っても意味は無いでしょ?
 大事なのは、自分が置かれた状況を受け入れ、そしてその中で前を向いて生き続ける事!
 自慢じゃないけど、アタシは自分を不幸って思った事はないわ!!だって、自分が置かれた状況を受け入れて、そして前を向いて生きてたからね。」

結果的にはサテライトで掛け替えのない仲間も出来たから悪くはなかったし――何よりもサテライト送りになった事で得た物も有るから!
だから、アタシは過去には捕らわれない!今の自分が置かれた状況を受け入れて、その上で前を向いて生きるだけ!!

「アタシのフィールド上にシンクロモンスターが2体以上存在する場合、手札の『黒狼獣 バウ』を特殊召喚できる!」
黒狼獣 バウ:ATK1800


そして、チューナーモンスター『月夜のシルバー・フォング』を通常召喚!!


月夜のシルバー・フォング:ATK1200


行くわよ?アタシはレベル4の黒狼獣 バウに、レベル3の月夜のシルバー・フォングをチューニング!
集いし破竜の魂が、破壊の剣士を呼び覚ます。光射す道となれ!シンクロ召喚、切り崩せ『龍滅剣士 バスター・ブレイダー』!!

『ウオォォオォォォォ!!』
龍滅剣士 バスター・ブレイダー:ATK2600




「テメェ……如何してだ……如何してテメェはこの世界を憎まない!!」

「憎んでも何も始まらないからよ――そんな事に時間を割く位なら、この世界を楽しむ事を考えようって思った……只それだけ。
 だけどまぁ、お互いに不幸自慢は此処までで充分でしょ?……後はデュエルで白黒つけるだけ!!」

龍滅剣士 バスター・ブレイダーで、漆殻龍 シェルアーマー・アビスに攻撃!『ドラゴン・ブレイク・ソード』!!


「な!?攻撃力で劣るモンスターで攻撃だと!!?」

「バスター・ブレイダーは、ドラゴン族モンスターと戦闘を行う場合、ダメージ計算を行わずに戦闘を行うモンスターを破壊する!」


――バガァァァァァァッァッァァァァァァアァッァァァァァン!!


「効果破壊できたか!!…だが、オーバレイユニットを持ったシェルアーマー・アビスが破壊された時、墓地の『鎧殻龍 シェルアーマー』を呼び出す!
 舞い戻れ、我が最強の僕たる『鎧殻龍 シェルアーマー』!!」

『グガァァアァアッァァァァァァ!』
鎧殻龍 シェルアーマー:ATK2600


此処でシェルアーマーを蘇生か……やっぱりブランシュのデュエルタクティクスは決して低くない――寧ろ最上級レベルって言っても過言じゃないわ。
だけど、幾らモンスターを並べたって、まだシルバー・ウィンドと、プリンセス・ヴァルキリアの攻撃は残ってるのよ?……此れに耐えられる!?

「輝天龍 シルバー・ウィンドで、トライエッジ・ポセイドンに攻撃!『シューティング・ストリーム』!!!」

「させるかよ!カウンタートラップ『攻撃の無力化』!コイツでテメェのバトルフェイズは強制終了だ!!」


バトルフェイズの強制終了じゃしょうがないわね……アタシはカードを2枚セットしてターンエンド!!……ブランシュには届かなかったのかしら?


「俺のターン……チューナーモンスター『ブライ・シュリンプ』を召喚!!」
ブライ・シュリンプ:DEF400


「俺は、レベル8の鎧殻龍 シェルアーマーに、レベル2のブライ・シュリンプをチューニング!!
 深き深淵と、人知の及ばぬ海底より世界の支配者として現れろ!!!シンクロ召喚!!『鎧殻黒龍 ダークネス・アーマー』!!」

『ウオォォォォォォォオォォォォォ!!!』
鎧殻黒龍 ダークネス・アーマー:ATK3500



シェルアーマーを素材に新たなシンクロモンスター!?
其れだけなら兎も角、このモンスターからは途轍もない闇の気配を感じる……若しかしてブランシュの心の隙間に入り込んで心の闇を喰らっていた?

だとしたら厄介極まりないけど、逆に言えばこのモンスターを倒してしまえば、ブランシュは正気を取り戻すかもしれない。



なら迷う事は何もない――その醜悪なモンスターを叩きのめして、アンタの目を覚ましてやるわ、ブランシュ・ノーチラス!
さぁ、何処からでも掛かってきなさいよ!――どんなにトンでもない奴が相手だって、アタシは絶対に退かないからね!!

全て受け止めた上で、アンタの目を覚ましてやる……遠慮しないでぶつかって来ると良いわ!!アタシは簡単にはへこたれないからね!!















 To Be Continued… 






登場カード補足



RUM-アルカディア・フォース
通常魔法
自分フィールドのエクシーズモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターと同じ種族でランクが1つ高い「CX」と名のついたモンスター1体を、
対象のモンスターの上に重ねてエクストラデッキからエクシーズ召喚扱いとして特殊召喚する。
その後、相手フィールドにシンクロモンスターが存在する場合、相手に800ダメージを与える。



アビス・フォース
装備魔法
「シェルアーマー」と名の付くモンスターにのみ装備可能。
装備モンスターの攻撃力は700ポイントアップし戦闘によっては破壊されない。



シンクロ・ヒール
通常罠
自分フィールド上にシンクロモンスターが2体以上表側表示で存在する場合にのみ発動できる。
自分は、自分フィールド上に表側表示で存在するシンクロモンスター1体につき800ポイントのライフを回復する。