Side:ジャック


最強にして最悪の邪神だと!?
まさか遊里、アレは俺とお前が見た幻想の中であの2人が言っていた『破滅の究極神』だとでも言うのか!?


「其れとは違うと思うけど……だけど、其れと密接な関係にあるのは間違いないと思う。
 多分矢薙の爺ちゃんが言ってた、究極神の僕に当たる邪神て言うのがアレなんじゃないかしら……トンでもない闇の、負の力を感じたわよ……」


アレで究極神の配下に過ぎんと言うのか!?
ヘリに乗って居た俺ですら相当に強い不快な波動を感じ取ったと言うのに……身近にいたお前はその比ではなかっただろう。

だが配下の邪神でアレならば、その長たる究極神は一体どれほどの力を秘めていると言うのだ?……正直言って想像が出来んぞ?


「結果を言えば、Dホイールがクラッシュした事によりノーデュエルって事になったけど、あの攻撃が成立してたらアタシは負けてたわ…悔しいけどね。
 そして、多分邪神は亜美が使って来たCcapac Apu1体だけじゃない筈よ?……略間違いなくダークシグナー全員が邪神を従えてると見て良いでしょうね。」

「あんなインチキ効果を備えた奴が他にも居るのかよ!?
 ったく、聞けば聞くほどトンでもない上に碌でもねぇ連中だなダークシグナーってのもよ……そんな奴等に勝てんのかよ……」


フン……相手がどれだけ悪辣なカードを使って来ようと、奴等に対抗できるのが現状で俺達だけなのならばやるしかあるまい!
其れに完全無欠にして無敵のカードなど絶対に存在せん!!神や幻魔と呼ばれるカードですら、絶対無敵の存在ではなかったのだからな。

其れを踏まえれば、地縛神とやらにも必ず抜けられる『穴』が存在して居る筈だ。
其れが分かってしまえば、究極神の配下の邪神も恐れる相手ではない!『己を知り相手を知れば百戦危うからず』と言う奴だ。

地縛神の弱点が分かってしまえば、其れは俺達にとって大きなアドバンテージにもなる――遊里が大怪我をしたのも無駄ではなかったと言う事になるだろう?


「そうね……事実上の負け戦も、次に繋がるなら無駄じゃない……だから、ちゃんとアタシの話を聞くように!!」

「ふ、言われるまでもない。」












異聞・遊戯王5D's Turn38
『対策・思惑・交錯する意思』










Side:遊里


とは言っても、地縛神は分からない事だらけだし、アタシの憶測が多分に入る事になるわ――其れほど大きく間違ってる事はないと思うけどね。

「取り敢えず地縛神の特徴は幾つかあるわ――カードによる違いも多分あるとは思うけどね。
 アタシが戦ったCcapac Apuに限定して言うと、レベル10の闇属性・悪魔族で攻撃力3000の超大型モンスターだったわ…見た目も含めてね。」

まさか高層ビルクラスのモンスターが出て来るとは思わなかったから、流石に驚いたけどね。


それで、あの時の状況を考えると、効果への耐性と相手への直接攻撃効果を持ってると見て間違いないわ。
そうでなかったらシルバー・ウィンドが、Ccapac Apuを迎撃できなかったのも、ダビデスターバインドが効かなかった事も説明できないしね。
付け加えると、自分よりレベルの低いモンスターの効果も受け付けない……レベル10未満のモンスター効果は一切通じないのよ。


「えぇ~~~~!?攻撃力が3000もあるのに、ダイレクトアタック出来て、カード効果も効かないなんて反則じゃん!!」

「最上級モンスターだから、早々簡単には出て来ないだろうけど其れって凄まじい脅威よ遊里!!」



確かにね。
攻撃力が3000もあってダイレクトアタックが可能な上に効果耐性まで持ってるんじゃ、普通は一見打つ手なしと思うわよね?

だけど、私が思うにCcapac Apu――って言うか地縛神は、『地縛神』って言う名前そのものが弱点になってる可能性があると思うんだ。


「如何言う事だ?」

「地縛神は『地』に『縛』られた『神』って事でしょ?
 地に縛られてるって事でその力を発揮できるって言うなら、その力の源である地がなくなれば大幅に弱体化……下手したら存在できないのかも。」

あくまでもアタシの予想だし、そもそも『地縛神』の名に其処まで深い意味があるかも分からないんだけどさ。
そもそもデュエルに於いて、地――要するに地面に相当するモノなんて思い浮かばないし……


「大体にして、デュエルは地に足を付けてやるスタンディングが、大地を駆けるライディングの2種類だろ?
 あの伝説のバトルシティでは、飛行船でのデュエルってのが有ったらしいが、其れでもデュエリストの足は床に付いてたんだ…地面が鍵ってのも…」

「デュエルで地面って言うならフィールドだけどさ……若しかしてフィールド魔法がないとダメ~~~、とかじゃないよね?」

「「「「!!?」」」」

「もう、何言ってるのよ龍亞?幾ら何でも安直過ぎ。」

「あはは……やっぱそんな事ないよn「ううん、ビンゴよ龍亞!」…へ?遊里!?」

「成程、フィールド魔法は盲点だったぜ……ナイスだ龍亞!子供の直感てのも中々馬鹿に出来ねぇ……満足させてくれるじゃねぇかよ。」


そうよ、フィールド魔法が関係してるなら、Ccapac Apuを召喚した時に、亜美の奴が妙に強気になったのも納得できるわ。
フィールド魔法を除去する事が出来ないライディングデュエルなら、地縛神は正に無敵のモンスターと化すからね……!!


「確かに龍亞の仮説が正しいとしたら、地縛神はライディングデュエルでは無敵となるな…
 そうなるとDホイールを使えない龍可は兎も角として、俺とお前と鬼柳は可成りの苦戦を強いられるのではないか?
 俺達の本分はライディングデュエルだ……奴等も、当然自分達の切り札が最強モンスターと化すライディングデュエルを俺達には挑んでくるはずだ。」


でしょうね。
龍可は、狙われてもデュエルスタイルはスタンディングだからフィールド魔法を除去する事は出来る。
だけどアタシとジャックと鬼柳は間違いなくライディングデュエルになるから、フィールド魔法を除去する事は出来ないのよね……まぁ、手がなくはないけど。

「まぁ、ジャックは地縛神を相手にしてもレッド・デーモンをバスター・モードにモードチェンジすれば問題ないと思うわ。
 地縛神はあくまでも『自身よりもレベルの低いモンスターの効果を受けない』だけだから、レベル10のレッド・デーモン/バスターの効果なら有効でしょ?」

其れに鬼柳もインフェルニティ・クイーンの効果使えば、ダイレクトアタックで一気にライフ削れるしね。
一番きついのはアタシかも知れないけど、アタシだって同じ相手に二度やられるほど間抜けじゃないわ……次やる時は亜美をオーバーキルは確定だしね♪


「参考までに聞きたいんだが、差分ダメージ幾つで勝つ心算だお前は?」

「目標は最低でも差分ダメージ3000は喰らわせないとダメでしょ?
 つーか喰らわす、お腹に刺さった破片を蹴り込んでくれた上に、傷痕残してくれた礼は差分3000でも生温いわよ?……寧ろ完全滅殺していいわよね?」

「確認するまでもねぇだろ遊里?
 やっちまえ!キッチリリベンジ極めなきゃ満足できねぇだろ?」


勿論!!二度も闇に喰われた大馬鹿は魂魄残さず撃滅してやるわ!!
あ、其れとは別にダークシグナーとライディングデュエルする際にはDホイールの『オートパイロット』はオフにして『マニュアルモード』を使った方が良いわ。


「マニュアルモードを?」

「うん、アイツ等とのデュエルはダメージが現実になるからね。
 地縛神の攻撃を喰らったら、その衝撃でDホイールが一撃でクラッシュしかねないのよ。
 ジャックなら『フィールバニッシュ』で軽減できるかもしれないけど、リスク軽減を考えたらマニュアル操作で地縛神の攻撃を躱した方が良いと思う。」

直撃さえしなければライフは削られてもDホイールが一撃クラッシュする事はないと思うし、何よりアイツ等の思い通りにデュエルを進めるのも癪だしね。
ライディングデュエルなら自分達が絶対有利だと思ってるダークシグナーなら、マニュアルモードでのデュエルでも受けると思うから。


「確かにそいつが一番だろうな……アレの攻撃は自分のDホイールテクニックで躱すしかなさそうだからよ。」

「でしょ?……って、クロウも戦うの!?」

「ハッ、当たり前だろ?俺はシグナーじゃねぇが、訳の分からない連中にサテライトで好き勝手されて堪るかってんだ。
 此処で好き勝手な事されたら、俺が面倒見てるガキ共にも影響があるのは間違いねぇ……其れを見過ごす事なんて出来る訳ねぇだろ!!」


成程…確かにその通りよね。
此れは既にシグナーvsダークシグナーってだけじゃない……アタシ達のデュエルの結果ははシティとサテライトの未来に直結してるって事か…

尚の事負けられなくなったわね?
そうと決まれば、早速レーゲンを直してあげなきゃ!あの子が壊れたままじゃ、アタシもデュエルは出来ないからね!!


「あ、待て遊里!行き成り起きたら!!」



――ズキィィィ!!!



「はうぁぁぁぁあ!?足が…滅茶苦茶痛いんですけどーーーーーー!!!」

「まったく……お腹の傷だけじゃなくて、右足も派手に捻挫してるんだ、イキナリ立ったら痛いのは当たり前だろう?
 はやる気持ちは分からないじゃないけど、少し大人しくしておいでよ遊里?」


マーサ……だけど、レーゲンの修理は急務なのよ~~!
アレがないと移動にも困るし、何よりライディングデュエル挑まれて『Dホイールが故障中だから無理』なんてカッコ悪すぎるでしょう!?

要は負荷を掛けなければいいだけなんだから……ジャック!


「何だ?」

「抱っこ。若しくはおんぶプリーズ、レーゲンの所まで連れて行って欲しいんだけど…ダメ?」

「そう言う事なら、仕方あるまい……失礼するぞ。」


――ヒョイ


って、まさかのお姫様抱っこ!?其れを普通にやるのジャックは!?気恥ずかしさとかはないの!!?ねぇ、ないの!?


「絶対王者たる者、女性には常に敬意を払うのがマナーだ。
 まして、手負いの女性を相手にするならば、其れこそ何よりも丁寧に接さねばならん――其れも出来なくて『絶対王者』は名乗れん!!」

「左様ですかい……まぁ、楽だから良いか~~…」

……時にアインもマーサもデジカメでちゃっかり撮影しないように!!
アタシからジャックに頼んだとは言え、予想外のお姫様抱っこは意外に恥ずかしいんだからね!?








――――――








Side:亜美


「マッタク、勝手な行動をして貰っては困るな日堂亜美……我等はまだ全員が揃った訳ではないのだぞ?」

「別に良いでしょう?……あのデュエルは遊里達への宣戦布告に過ぎないわ。」

それに、アイツには地縛神の恐怖を植え付ける事が出来た筈……おまけにアレだけの重傷を負ったんだからデュエルへの恐怖心も芽生えているかもね。
まぁ、仮に再起したとしても、その時は地縛神の力で完全に挽肉に変えてやるわ……くくく、アイツには惨めな姿こそがお似合いなのよ!!


「フン……貴様程度が奴に完全勝利できるとは思わんが……奴を倒すと言うのなら其れでも構わんか…
 俺達とのデュエルに負けたモノの末路は『死』……ならば、奴が死んだらその暁には此方にダークシグナーとして取り込めばいいだけの事だしな。」

「そうなったらその時は、アイツを私の下僕にしてやるわ……くふふ、想像するだけでゾクゾクするじゃない!」

「……其れは認められんな、奴の事は俺が貰う……それが妥当なのでな。」


へぇ?……ホントにアンタはアイツに御執心じゃない?そんなにアイツの事が気に入った訳?
人の好みは十人十色とは言うけど、アンなのが良いとは物好きも居たもんね?……今のアイツはサテライトのクズに過ぎ……「……オイ。」


――ガシィ!!!


!?な、何よ!!


「貴様如きが、○○○の龍を受け継いだ奴を気安く評価などするな……奴とお前では地力に月と鼈でも生温いほどの差があると知れ。
 貴様が今回『結果的に勝つ事が出来た』のは地縛神が初見だったからに過ぎん……2度目のデュエルでは恐らく見切られると覚悟しておけ!!」


!……こ、コイツ……ドレだけ遊里に執着してるんだ?
まさか、軽口叩いただけで此処まで激昂するなんて――く……分かったわよ、アイツに関してはこれ以上は何も言わないわよ!


「分かれば良い………どんな形であろうとも、俺は奴を手に入れる。
 5000年前に俺の手からすり抜けて行ったアイツを…もう一度取り戻すために!!」


意味が分からないわねコイツ……まぁ、適当に付き合うほうが無難だわ。

「ふぅ……アレ、何処か行くの?」

「ダークシグナーとなるべき存在が居るのでな…そいつを覚醒させて連れて来る――お前達は此処でしばし待って居ろ。」


新たなダークシグナーを……まぁ、誰でも良いわ、私が遊里を殺すのを邪魔さえしなければね。
○○○○○がやたらと遊里に執心してるのが気になるけど、遊里を殺したところでアイツもダークシグナーになれば問題ないわ…其れは其れで楽しそうね。


何にしても、今度はDホイールの破片が腹に突き刺さる程度じゃ済まさないわ。
地縛神 Ccapac Apuで粉々の挽肉に変えてやるわ遊里……そしてアンタも闇に堕ちると良いわ……闇に喰われて狂えばいいのよ!!

「徹底的に嬲りつくして殺してやる……私の恨みを全てその身で受けさせてやるわ……!!」

精々恐怖に怯えながら生きると良いわ遊里……死の闇がお前を迎えに行くその時までね!!







――――――








No Side


陽が傾き始めた頃、サテライトの埠頭にはシティからの『廃材』を積み込んだ大型船が接岸し停泊していた。
日に3度やって来るこの大型船から降ろされる廃材も、サテライトの住人にしてみれば貴重な資源であるのは言うまでもないだろう。

其れにこの廃材は、中には廃材と言うのが憚れるほどに『新品』に近い物まで紛れ込んで居る事が有るのだ……見つけたら超幸運である。



――閑話休題(それはさて置き)



其の大型船から、誰にも気付かれずに降りた者が1人居た――恐らくは廃材置き場に潜り込んで息を潜めていたのだろう。

その人物は小柄で、一見すれば『少年』に見えなくもないが、れっきとした『少女』である。


「此処がサテライト……シグナーとダークシグナーの戦場となる場所か……」


少女は如何やらシグナーとダークシグナーに何か関係があるらしい……尤もその声に込められた感情は友好的なモノではなさそうだが…


「先ずはダークシグナーからか……奴等に好き勝手されて、俺が狩るシグナーが居なくなっても面白くないからね…
 とは言っても、俺はダークシグナーが今何をしてるかは知らない……サテライトの奴等に聞けば何か分かるかもな……」

言うと、少女の姿は其処から消え、1kmは先の場所へと移って居た。


「シグナーもダークシグナーも、全て俺が狩りつくす……その後でこの忌むべき印も破壊してやる…」

冷たい炎を宿した瞳が仄暗く光り、そして右腕には赤い痣が…!!
つまりは少女もまたシグナー……だがだとしたら、何故ダークシグナーだけでなくシグナーをも標的にするのだろうか……?




シグナーとダークシグナーの戦いは、如何やらダークシグナーを全て倒せば其れで良いと言うモノでもないらしい。



何れにせよ、シグナーvsダークシグナーが此れから激化するのは間違いないだろう――














 To Be Continued… 






登場カード補足