Side:遊里


クロウの住んでる場所に向かって寄り道しないで一直線に驀進中~~~……なんだけど――サテライトの広場に何とも妙な連中が集まってるわね?
目深に被った黒のフードと、そのフードと一体化した漆黒のローブ……アタシに言わせれば何処からどう見てもダークシグナーです。


「サテライトの賢者諸君……シティの愚者は、諸君等賢者を斬り捨て、己が幸福の為に全てを喰らい尽くさんとしている。
 其れを許して良いモノだろうか?……否!断じて否!!権力にモノを言わせたシティの圧政に屈する事などあってはならない!
 神は諸君等、サテライトの賢者を選んだのだ!……今こそ決起し、シティの愚者に裁きの鉄槌を下す時なのだ!!!」


うん……何処のカルト集団よアレ?怪しいどころの騒ぎじゃないっての。
サテライトだからアレだけど、シティで同じ事やってたら間違いなく通報されて、セキュリティにお縄になってるわね……寧ろ捕まってしまえ。


――ギュゥゥゥ…


だけどアタシの痣が反応してる以上、連中はダークシグナーと見て間違いないわ……サテライトを主戦場にするって言うのは間違いないみたい。



まぁ、貴方達の思い通りにはさせないわダークシグナー……その野望を砕くために、アタシ達シグナーは存在しているんだろうしね。


「如何かしたか遊里?」

「…別に……ただ、怪しいカルト教団が居るみたいだから、変に勧誘されないようにと思っただけ。」

「あぁ――アイツ等か?……最近イキナリ出て来て、訳の分からねぇ事をほざいてやがるんだよな~~。
 サテライトの賢者とかシティの愚者とか知るかってんだ!――俺達はサテライトに誇りを持ってんだ、シティの奴らを潰そうとかは考えてねぇよ。」


だよねぇ?……それにも係わらずに異常とまで言えるほどの『勧誘活動』――意外と人手不足なのかしらダークシグナーって?











異聞・遊戯王5D's Turn34
『サテライトの伝説-未完の橋』










取り敢えず、怪しげなカルト教団改め、ダークシグナーのチームは後で何とかするとして、先ずは無事にクロウの家に到着~~~!!
言えとは言っても、廃材を組み合わせただけの簡素な小屋と、ダイダロスブリッジの跡地である広場があるだけなんだけど……此れが落ち着くのよ。



「帰ったぜガキ共!」

「「「「「「「「「「おかえり、クロウ兄ちゃん!!」」」」」」」」」」

「おし、今日も元気一杯だな?
 そんな元気なオメェ等に、今日はこのクロウ様から特別なプレゼントをくれてやるぜ!
 先ずはセキュリティに力尽くで奪われたカード達だ!……かび臭い倉庫で死蔵されるよりは、お前達に使って貰った方がカード達も嬉しいってな!」


其れらしく吹くよねぇクロウって……だも、現実にこの子達の方が強いかもしれないね……早速デュエルしてるみたいだし。



この子達は心からカードを大事に思ってるわ。
クロウが持って来たカードを皆で分けて、そしてデッキを再構築して仲間とのデュエルに挑む……此れが一番重要な事だよ――間違いなくね。


「でもって2つ目の土産は。この度めでたく、シティのチャンピオンになったサテライトの女帝様だ!」

「はぁぁぁぁぁぁ!?」

ちょ、アタシが土産って何よ!?そもそもそんな事何一つ聞いてないんだけど!?

てかそれ以前に勝手にアタシをお土産にしないでよ!!幾ら何でも急転直下過ぎよクロウ?


「遊里姉ちゃん!」

「すっげ~~~…絶対王者と引き分けたらしいよ?……此れはもう最強だぜ!!!!」


う……あぁ……穢れなき少年少女の視線を目一杯受けたら、遊里さんは何も言えないですよ……やってくれたわねクロウ!



ふぅ、まぁ良いわ、アタシも子供は嫌いじゃないし、無限の可能性を秘めたデュエリストの卵の面倒を見るって言うなら悪い気はしないわよ?
クロウも本音を言うと、アタシに子供達の相手をさせる心算で此処に連れて来たんでしょ?


「やっぱ分かるか?
 ちっとずるい方法かと思ったんだけどよ、晩飯の準備をする間だけでもガキ共の相手をしてくれる奴に居てほしかったんだよ……ダメか?」


ダメ……なんて言うと思ってるの?
其れこそあり得ないわよ――こんなに期待を込めた目でアタシを見て来る子供達を無碍にする筈がないでしょう?

「はいは~~い!其れじゃあご飯が出来るまでの間、皆でデュエルしようか?
 アタシとデュエルしたい子は、一列に並んでね~~!あ、順番で喧嘩しないように!ジャンケンで決めなさ~~~い。」

「「「「「「は~~~~~い♪」」」」」」


うん、子供は素直が一番だわ。
クロウがしっかり責任もって面倒見てる証拠よね――あ、あとで潜入用の光学迷彩作っといてあげないと。

さて、先ず誰からデュエルする?


「私から~~~!」

「良いよ、思いっきりやろうか?」

デュエルでは誰が相手でも手加減はしないからね?


「「デュエル!!」」


遊里:LP4000
少女A:LP4000



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



「バトル、龍滅剣士 バスター・ブレイダーで、F・G・Dに攻撃!」

「えぇ!?攻撃力は倍近くあるのに攻撃!?」

「バスター・ブレイダーの効果発動!ドラゴン族モンスターと戦闘を行う時、ダメージ計算を行わずに効果破壊するわ。
 龍滅剣士の名の通り、バスター・ブレイダーはあらゆるドラゴンを滅する力を持ってるのよ?切り裂け『破龍斬一閃』!!」

『ウオォォォォ!!』


――ズバァァッァァァ!!



そして此れで終わり!ヘル・カースド・ドラゴンでダイレクトアタック!『カーズ・フレア』!!


――ゴォォォォ!!!


「うわぁぁあぁぁ!!!」
少年B:LP2000→0



ふぅ……此れで全員とデュエル終了。
全勝はしたけど、どの子も強い強い……案外この中から未来のデュエルキングが生まれるんじゃないかしら?クロウとデュエルしてる影響もあるわね。


「くっそ~~~~!強過ぎだよ遊里姉ちゃん~~~~!全然敵わなかった~~!」

「そんな事ないよ?
 完全にペース掴んだと思ったのに、あの土壇場で『龍の鏡』から『F・G・D』を出してくるとは思わなかったわ。」

攻撃力5000がイキナリ出て来たのには驚いたわよ、一撃でライフを残り300にまで削られたしね。
其れに君だけじゃなく、此処に居る子達は全員が将来有望なデュエリストの卵だわ……10年後位には世界に名が轟く子が居るのかも。


「かもな?何せそいつ等は、暇さえあれば俺とデュエルしてるから、経験はサテライトのガキ共の中でも群を抜いてんじゃねぇか?」

「クロウ、ご飯できたの?」

「おうよ、お前がガキ共の面倒見てくれてたお蔭で滞りなくな。
 おら、飯にするぜ!今日の晩飯はクロウ様特製の『サテライトカレー』だ!沢山作ったから腹いっぱい食えよ!」

「「「「「「わ~~い!!!」」」」」」


クロウってばすっかり『保父さん』だよねぇ……いっそ通信制で保育士免許でも取ってみれば?案外行けるかもよ?


「こんなマーカーだらけの顔で保育士ってか?ガキ共が泣きだしちまうって。」

「そうかなぁ?案外『顔面模様のお兄ちゃん』て人気が出るかもよ?」

「そりゃ褒めてんのか貶してんのか分からねぇ渾名だなオイ……まぁ良いか、お前も喰ってけよ、ガキ共の相手してくれた礼だ。」


勿論お呼ばれするわクロウ。
正直、お腹減って仕方なかったのよ~~~……あぁ、カレーの匂いが食欲をそそる……それじゃあ、いただきます!


「「「「「「いただきま~~す!!」」」」」」



うん、美味しい!
アタシ的には少しパンチが足りないけど、スパイシー過ぎない辛さは子供には丁度いいかも。皆の笑顔が美味しさを物語ってるわね。


「おいし~~~♪
 ねぇねぇ、クロウ兄ちゃん、ご飯の最中だけどアノお話ししてよ。遊里お姉ちゃんとデュエルしたら、何か聞きたくなっちゃったの。」

「アレか?ったく本当に好きだな……良いぜ。だが、聞き入ってねぇでちゃんと飯も食えよ?」


アレって……何だろう?
アタシが聞いた事ある話かなぁ?


「コイツは、ある国と、その国から切り離されちまった島の話だ。」

「変な言い方するなよクロウ兄ちゃん、其れってシティとサテライトの事だろ?」

「バッカ、こう言った方が雰囲気出るだろ?お前にゃデリバリーってモンがねぇのかよ?」


其れを言うなら『デリカシー』よクロウ。
てかその話ね?サテライトに来たときに聞いたけど、アタシもその話は好きだなぁ。


「う……まぁ、そうとも言う。
 その通り、コイツはシティとサテライトの話だ……半ば伝説と化してるな。
 昔、サテライトには1人のDホイーラーが居た……そいつは相当な腕前だったらしいが、シティとサテライトが分断されてるのはオカシイと思っていた。
 だが、サテライトの住民である自分が何を言ったところで、シティの連中がサテライトとシティを自由に行き来出来るようにしてくれるはずがねぇ。
 だからそいつは自分の力で2つの場所を繋ごうと橋を造り始めた。
 最初はサテライトの連中も『シティとサテライトを繋ぐなんて……』と思ってたんだが、橋の建設は思った以上に巧く行ってたんだ。
 で、次第に男のやる気や熱意は周囲に伝わり、1人また1人と橋の建設を手伝う奴が出て来た。
 けど、シティ側からしたら勝手にサテライトとシティを繋げられたら堪ったもんじゃねぇからな……遂にセキュリティが動いて男を逮捕しようとしたんだ。
 当然男は捕まる事を拒んでDホイールで逃げ……自ら建設してた橋を疾走した。全然未完成の橋をだ。
 幾ら進んだ所でその先に道は無いが――其れでも止まらず男は全速力で突っ走り、そして橋から飛んだ。
 その男がどうなったか知る奴は居ねぇ……セキュリティが行方を捜査したが、海から男の遺体が上がる事もなかった。
 以来、男が造ろうとしてた橋は『ダイダロスブリッジ』と呼ばれるようになり、サテライトのシンボルとなり、男は伝説になった……
 コイツの勇気と行動力は、サテライトの連中にとって確かに希望となったのさ!今のサテライトの活気はコイツが作ったと言っても過言じゃねぇ。」


アタシもそう思うな……常に前だけを見て進んだDホイーラーなんて、其れだけで尊敬に値するモノ。
この伝説を現実にするためにも、アタシ達はダークシグナーを倒さないとね――そうすれば、その伝説の男の願いは成就するんだから。


「だな……ったく、この伝説に更なる続きが出来るかもしれないなんて誰も思わなかったんじゃねぇか?
 或は遊里、お前こそがこの伝説を継ぐ奴なのかもしれねぇな。」

「そうなれるように頑張るわよ♪」

まぁ、アタシ自身そうなるとは思ってなかったけどね。

《時に、シルバー、プリンセス、ガール……気付いてるよね?》

あぁ……何者かが此方の様子を窺っているな?……恐らくはダークシグナーだろう。

子供達は気付いていませんね――尤もクロウは気付いているかもしれませんが……

如何するの遊里?


言うまでもないでしょ?態々来てくれたんなら相手になるわ。
ジャック達が来るまではこっちから仕掛ける心算は無いけど、向こうから仕掛けて来たんなら受けるのがデュエリストってモノでしょ?

「ふぅ……ごちそうさま!美味しかったよクロウ!」

「おう!……って、何だよ泊まって行かねぇのか?」

「久しぶりにサテライトに戻って来たからね――アタシの住んでるところも気になるのよ。」

そんな訳で、これでお暇させて貰うわ。
じゃあね皆、今度会ったらまたデュエルをしましょう?その時には今回よりも強くなってる事を期待するわね♪


「うん!一杯頑張る!」
「次は勝つから!!」


その意気だよ♪……じゃあ、またね。












で、気配がしたのはこっちだけど……人影はない。
代わりに瓦礫に残されたメッセージが……『旧モーメント跡地まで来られたし』………何とも素気のないラブレターだわ。

「だけど、折角のラブレターを無碍にするわけには行かないよね?」

本より無視する気はないのだろう?……ならば、ダークシグナーとの戦いの前哨戦としてやってやろうじゃないか。


だよね!行くわよ皆!!



「……んで?1人で行く気かよ遊里?」

「!クロウ……もしかして、やっぱり気付いてた?」

「まぁな……アンだけこっちに向かってオーラ向けてたら、二流のデュエリストだって気付くだろ?
 オメェが泊まって行かねぇってのを聞いて『厄介な事が起きた』ってのを確信したのは事実だけどよ。」


あはは……流石にクロウを誤魔化す事は出来なかったか。
だけど、アタシを追って来たって事は、やっぱり一緒に来るんでしょ?そうじゃなかったらアタシを追ってくる意味は無いもんね?


「ったり前だろ?ダークシグナーとやらをこの目で拝ませてもらおうじゃねぇか。」

「クロウらしいわ……だけど、このデュエルはアタシに対して申し込まれたモノだから、横槍だけは入れないでね?」

「わ~ってるって……だが、やる以上は負けんじゃねぇぞ?」


えぇ、勿論負けないわ。
本格的に始まる前に突っかけて来た奴を返り討ちにして、シグナーvsダークシグナーの戦いの始まりを告げる合図にしてあげるわよ!


「うし!んじゃあ行くか!
 サテライトの道ならお前よりも俺の方が詳しいからな、旧モーメントまでの最短距離を案内してやるよ。」

「其れは助かるわ、任せるよクロウ。」



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・・・



で、旧モーメント跡地到着――初めて来たけど、サテライトの中でも特に凄まじい状態になってるわね此処。
ゼロリバースの発生点で、その中心ともなればこの壊れ方は当然か?うん、此れに巻き込まれて良く生きてたわねゴドウィンは…若しかして不死身?


「んだよ、誰も居ねぇじゃねぇか?
 呼び出したんなら、呼び出した相手よりも指定場所に来るくらいは常識だろうがよ……ったく、マナーが成ってねぇなぁ?」

「ホントにね…」

だけどまぁ、来たみたいよ?……濃厚な闇を内包した禍々しいデュエリストのオーラを感じるもの。
てか、このダークシグナーってアタシに何か関係でもあるのかしら?禍々しさの8割が『遊里ぶっ殺す』的な感じがするんだけど……


「逃げずに来たわね遊里……そうでなくては面白くないわ。」

「貴女がアタシを呼んだの?……確認するまでもないと思うけど、貴女はダークシグナーよね?」

「言うまでもないでしょ?
 そう、私はダークシグナーだ……お前のせいで、全てを失い、自ら命を絶ったけど……ダークシグナーとして蘇ったのよ!お前を殺すために!!」


――バサァァ!!!


ローブを脱ぎ捨てて………って、アンタは!!

「此れは予想外だわ……マンションから飛び降りたって言うはニュースで流れてたけど、まさかダークシグナーになっているとはね…
 と言うか、その執念深さにだけは敬意を表するわ、其処までしてアタシを叩きのめしたかったの――――ねぇ、日堂亜美……!!」

「アンタを叩きのめすためなら、私は悪魔にだって魂を売り渡してやるわ……クフフフフフフフ…!!」


マッタク面倒な奴がダークシグナーになってくれたモノね……















 To Be Continued… 






登場カード補足