Side:遊里


取り敢えず、アタシの冤罪が晴らされた云々はおいといて、此れからどうしようか?
大体予想は付くけど、病院の周りは――


「マスコミだらけだ。
 ついでに言うなら、お前の冤罪云々の報道がトリガーになって、お前にインタビューを申し込まんとしている輩がうじゃうじゃだ……」

「やっぱし…」

正直言ってマスコミとは関わり合いになりたくないのよね…面倒だし。
てか、其れ以前に散々ぱら人の事を犯罪者扱いしてたくせに、冤罪が報道された途端に今度は『悲劇のヒロイン』扱い?……冗談じゃないわ。

なんとかマスコミに掴まらずに病院を出たい所だけど、如何したモノかなぁ…


「ふ、安心しろ遊里。既に病院屋上のヘリポートにヘリを手配してある。
 あと5分もすれば到着するだろうから、其れで病院から出ればいい――此れならばマスコミ共に囲まれる事も有るまい。」


!!
ありがとうジャック!それなら面倒なく病院から出られるよ!


「ふん、俺は絶対王者だぞ?此れ位は造作もない。
 其れに、俺と最高のデュエルを繰り広げたお前が、マスコミ共のエサになると言うのも気分が良くないのでな。」

「其れでもありがとうだよジャック。」

でもこのヘリでシティのどっかに行っても直ぐにマスコミは嗅ぎ付けるだろうから行き先としてはサテライトが一番だけど、その前に…

「ねえ恵、矢薙の爺ちゃんは未だダウンタウン地区に住んでるの?」











異聞・遊戯王5D's Turn27
『It's begining…Let's rock!』










アタシの問いに対する恵の答えは『是』。

と言う訳で、ただいま絶賛ヘリでダウンタウン地区に向けて飛行中。
ジャックも一緒なのは、ジャック自身もマスコミと関わりたくなかったから――シティの絶対王者もマスコミにはうんざりしてた様子…気持ちは分かるわ。
ダウンタウン地区にはよっぽどの事がない限り、マスコミは入ってこないからね。

「色々あるだろうけど、取り敢えず当面の問題は此れね。」

アタシとジャックと龍可の右腕に刻まれた謎の赤い痣――まるで、赤き竜の身体の一部を極端にデフォルメしたとでも言うような独特の形の痣。
此れが現れたからって何が如何と言う事はないけど、やっぱり不気味なのは否めないわよね――痣の正体が分からないから余計に。

「てか、矢薙の爺ちゃんに会うのも随分久しぶりだな〜〜…元気だと良いけど。」

「元気だよ〜〜?てか、遊里が逮捕された時めっちゃ心配してたもん爺ちゃん。」

「治安維持局に乗り込むって息巻いてた事も有った…」

「僕達で抑えるの大変だったよね。」


あはは…そうだったんだ。
じゃあ、久々に顔見せて安心させてあげないとね。


「随分と親しい奴のようだが、誰なんだ矢薙と言うのは?」


ダウンタウン地区に住んでる爺ちゃんなんだけど、若い頃は世界中を旅してて世界中のあらゆる『不思議な事』に詳しいのよ。
古代遺跡とかが特に大好きで、家の中は怪しげな骨董品で満ちてるんだけど、その手の知識量はホントに半端じゃないの。
その爺ちゃんならこの痣の事も何か知ってるかもしれないし――妥当な判断だと思うんだけど?


「確かにな……だが、お前達は如何してそいつと親しいのだ?
 恐らくはお前が冤罪を被る前に知り合ったんだろうが、ダウンタウン地区などアカデミアの、其れも女子生徒が近づくような場所ではあるまい?」

「ただ何となく、ダウンタウンの方が強いデュエリストが居そうだったから休日に4人で、本当に遊びに行く感覚で行ったのが始まり。
 よからん事目的で近付いてくる破落戸を、デュエルとリアルファイトで叩きのめした所に矢薙の爺ちゃんが偶々通りかかって意気投合したのよ。
 爺ちゃんにとってはアタシ等は孫みたいなモンだろうし、アタシ等も爺ちゃんの不思議な話聞くのは好きだったからね。」

「……色々突っ込みたい所はあるが、取り敢えず分かった。」


なら此れは此れで。
取り敢えず、爺ちゃんの所に着く前に簡単に状況を整理しておこうか?

先ず、謎の痣が現れたのはアタシとジャックと龍可の3人で、3人とも赤い竜の『幻想』を見てるけど、龍可はアタシとジャック程は深くは知らない。
そして、デュエル終了後にアタシだけが再び赤い竜から幻想を見せられた。

でもって、あの幻想の中に出て来た『破滅の究極神』に対抗しうる力が、痣持ち3人のエースモンスター――アタシのシルバー・ウィンドと、


「俺のレッド・デーモン。」

「其れから、私のエンシェント・フェアリーね?」


そうなるわ。
だけど、アタシが寝てる間に見た幻想の内容を考えると、多分他にも『龍』は存在してるんだと思う。
同様に『痣』を持つ人物もアタシ達以外に存在してると考えた方が妥当だわ。


「確かにそう考える方が普通だな。
 それに、お前さん達の痣も竜の身体の一部を模した形だってんなら、その3つの痣だけじゃ、集めても竜にゃならねぇからな?」

「龍可が『腕』で、ジャックが『翼』、遊里は……多分『尻尾』?」


でしょうね。
少なくとも、足と頭の痣が存在していないとオカシイのよね……胴体はちょっと痣にするのは難しそうだから除外してもアレだけど。

「取り敢えず今の範囲で、予想も含めて分かってるのは此れ位ね――後は矢薙の爺ちゃんがどれだけ知ってるかよ。」

さてと、そろそろ到着ね。



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「爺ちゃん久しぶり!元気だった!!」

「おぉ!遊里ちゃん、無事じゃったか!TVで冤罪報道を聞いて、やっぱり遊里ちゃんは無実じゃったと喜んだわい。
 それと、大会優勝おめでとう。エキシビジョンは引き分けじゃったが、とてもいいデュエルだったぞい。」


ありがと爺ちゃん。
それでさ、早速で悪いんだけど、聞きたい事が有るんだ。


「……エキシビジョンデュエルの時に現れた『赤き竜』の事じゃろ?……『紋章』も現れたかな?」

「何故分かった?」

「年寄りの勘と言うか、そんなモンじゃよ。
 立ち話もなんじゃし、中で話そうかの?ワシの知る限りの赤き竜の伝説を話してやるわい。」


やっぱり知ってたんだ爺ちゃん……てか年寄りの勘てデュエリストの勘以上かも。
取り敢えず、久しぶりにおじゃまします―――何て言うか、相変わらず凄い部屋だね爺ちゃん?何このミイラ?


「そりゃ江戸時代に輸出品として造られた『人魚のミイラ』じゃよ。珍しいし、保存状態が良いから買ったんじゃよ。」

「さいですか…」

「まぁ、他にも面白いモンは増えとるから、後でゆっくり見ればいいじゃろ。」


だね。
で、赤い竜の伝説って?


「うん…ワシが中南米の方を旅してた頃に聞いた、現地の古い言い伝えじゃよ。
 この世界では、有史以降5000年の周期で、赤き竜と邪神の戦いが繰り広げられてきた。
 邪神の長である究極神は、配下の邪神を扱うモノを冥府より選び出し、生者を狩らせる。
 赤き竜は、その死の戦士と邪神――引いては究極神に対抗する為に、力ある者に『証』と『龍』の力を授けて戦いに臨んだ。
 この、赤き竜によって選ばれた者は『シグナー』と呼ばれておったそうじゃ。
 今も世界が続いているのは、どんな形でアレ、最終的には赤き竜の戦士達が邪神と究極神を打倒したからと言う事になるじゃろうな。」

「その話が本当だとすれば確かにそう言う事だな。
 とすれば、あの戦いも最終的には赤き竜の側が勝利したと言う訳か――ユウリと言う犠牲者を出しながらもな。」

「遊里ちゃんが犠牲に?」


アタシじゃなくて、アタシによく似たユウリって言うのが過去に居たみたいなのよ。
赤い竜が消える直前に、アタシとジャックと龍可は、その過去に行われたと思われる戦いの光景を見たのよ。
その中で、アタシによく似たユウリと、ジャックによく似たジャッキーが究極神に挑んだけれど力及ばず、ユウリは命を落としたの。
アレで究極神が勝ったのかと思ったけど、きっとあの後で誰かが究極神を打ち破ったって事よね――その伝承が正しいとすれば。


「まぁ、眉唾じゃろうが、実際に伝承通りの現象が3人の人間に現れとるから、此れは歴史的な事実なんじゃろうて。
 そうそう、その時に赤き竜が描かれた石板を見る事が出来ての……確かこんな感じじゃったかな?」


うわ、爺ちゃん絵も上手いね!
此れが赤い竜の――私の痣は龍亞の言う通り『尻尾』みたいね。


「けど爺さん、その話が本当だとして遊里達が赤き竜に選ばれた戦士だってんなら、邪神側はどうなるんだ?
 その話の通りなら、邪神を扱う死の戦士ってのが居るんだろ?そんな連中も何処かに出てきてるってのかよ?」

「そうなるのう…じゃが、出て来たところで遊里ちゃん達の敵じゃなかろうて。
 その伝承では、戦いは石板から精霊を呼び出して戦わせると言う方法じゃった――現在で言えばデュエルじゃろ?其れなら負けないわい。」


デュエル――確かに其れなら負けないわよ?
アタシとジャックは勿論、龍可だって子供ながらに一人前のデュエリストですもの!


「フン…絶対王者に敗北など有り得ん――俺の前に立ち塞がると言うなら、其れを砕くまでだ。」

「流石はジャック…そう来なくちゃ!」

「私も、やるからには全力でやる…其れで勝つ。」


龍可も良い気迫だわ。
あれ?でもさ爺ちゃん、究極神側の手下にはアタシ達の痣みたいな印は無いの?


「其れが謎なんじゃよ。
 そもそもこの伝承は少しばかり不自然での、赤き竜に関しての事柄は痣や龍の事も書かれてるんじゃが、究極神サイドが謎だらけなんじゃ。
 究極神と邪神とその配下の戦士は『居る』と言う事しか書かれとらんのじゃよ……他の事は誰かが意図的に削除したみたいにないんじゃよ。」

「何それ…凄く不気味なんだけど。」

まぁ、其れを気にしても仕方ないか――兎に角、痣が現れたアタシ達3人は遠からず何らかの戦いに巻き込まれる事は確実。
其れに戦いの方法がデュエルだって言うなら面倒くさくなくて分かり易いしね。


「その意気じゃ……うんうん、遊里ちゃんが変わってなくて安心したわい。
 時に遊里ちゃん、久々に会ったんじゃから、今夜一杯如何じゃ?丁度極上の一本が手に入って、良い肴も有るんじゃが…」

「是非お呼ばれします!!」

と言うか、此処に居る面子全員で!
ジャックも飲めるわよね?あ、龍可と龍亞と宇里亜だけはマダマダ子供だからジュースね?


「プライベートで偶にワインをたしなむ程度だが……まぁ、こういうのも良いだろう。」

「じゃ決まりね♪」



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で、あれから昼間はダウンタウンのデュエリスト相手にデュエルを沢山して、夜は宴会。
ダウンタウンに絶対王者が来た事には、みんな驚いてたわね〜〜〜〜……因みにアタシとジャックは全勝でした。


宴会も終わってすっかり夜。
ジャック以外は潰れる程飲んだのに、アタシは殆ど素面状態。足元も確りしてるし、アタシの身体ってどうなってるんだろう?

如何ジャック?偶にはこういうのも良いでしょ?


「偶にはな……或は此方の方が日々が充実しているかもしれん。」

「言えてる。」

さて、もう遅いしそろそろ……



――キィィィィン!!!



!!痣が!!…ジャック!


「いや、俺の痣は何ともない、龍可のもだ……一体なぜお前の痣だけが…?」

「分からない……ん?」

外に誰か……黒いフードを目深に被った…あんなの居たっけ?


「…………」


――ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥン


「「!!!」」


黒い痣ですって!?……あ、待ちなさい!!


「追うぞ遊里!」

「勿論!!」

態々、アタシ達の前に現れてあんなモノを見せるなんて、如何考えても普通じゃないわ。
其れにあの黒い痣は、まるでアタシ達の痣の対極にあるかのような感じじゃない――余計に無視できるもんですか。





確かこの廃ビルに逃げ込んだはずだけど……


「ようこそ上条遊里…」

「見つけた…」

貴方は誰?アタシに何か用かしら?


「あぁ…勿論用がある――俺はお前を…シグナーであるお前を倒しに来た…!」


何ですって!?……まさか、貴方は…


「究極神の配下…邪神を操る『ダークシグナー』だ…」

「ダークシグナー…」

「何とも安易なネーミングだな。」


確かに……だけど、そのダークシグナーが態々アタシを倒しに来た……なら、返り討ちにするまででしょ?
ダークシグナーとやらが、ドレだけのデュエルの腕を持っているのか、見せて貰おうかしら?


「くくく…そうでなくては面白くない…闇に沈めてやるぞ上条遊里!!」

「貴方では無理ね。」


「「デュエル!!!」」


遊里:LP4000
黒い痣の男:LP4000








――――――









――同刻・南米のとある小さな町



Side:???



………右腕の赤い痣が疼く――こりゃ只事じゃねぇな。
痣が継げる地は日本のネオドミノシティ……俺の生まれ故郷かよマッタク――色んな意味で最高だぜ。

「ニコ、ウェスト、少し出掛けて来る。留守を頼むぜ!」

「ちょ、何処に行くの!?」

「俺の生まれ故郷だ……其処が俺を呼んでるみたいなんでな――無視は出来ないだろ?」

出来るだけ早く帰ってくるようにするから、その間だけ留守を頼む。


「ん〜〜〜〜…分かったわ、くれぐれも気を付けてね。」

「いってらっしゃい!」


ネオドミノシティの土産を楽しみにしてな。




さて、この痣の疼き…ネオドミノシティで何が起きてやがるんだ?
今から楽しみで仕方ない――其れこそ期待に胸が膨らんで狂っちまいそうなくらいだぜ!


何が待ってるか知らねぇが………精々俺を、満足させてくれよな!!














 To Be Continued… 






登場カード補足