Side:遊里


………此処は何処?…アタシはジャックとデュエルをしてて……そうだ、デュエルが終わった後で気が遠くなって、身体の力が抜けて…

そうだ、アタシは意識が遠くなって…だけど其れなら少なくとも安静にできる場所に運ばれてはいるはずよね?
幾ら何でもデュエルの大会のエキシビジョンが終わったら、キングに挑戦したデュエリストがぶっ倒れた事になるんですもの。



だけど…


俺もお前も神官決闘者としての証である龍を手にしたが……果たしてこの力だけで奴を止められるかどうか…

確かにね……破滅の究極神に対抗しうる力を持つ龍は私の銀龍と、貴方の魔龍の他にも存在しているとの事だもの。
 果たして全部で何体居るのか分からないし、全て揃ったところで本当に究極神を止められるかどうかは分からない…だけど、ね?

今はこの龍の力を使い熟し、完全に我が物とする方が先決…か。

そう言う事。


此れはデュエル中に見た幻影よりも、昔の出来事?究極神に戦いを挑む前の光景よね?
ユウリとジャッキーが、シルバー・ウィンドとレッド・デーモンを手に入れた頃の話なのかな……うん、多分間違ってない。

破滅の究極神に対抗しうる龍は他にも居るって……まさか、龍可の『精霊龍 エンシェント・フェアリー』?
だとしたら龍可もあの時、私とジャックが見たのと同じ幻影を見たのかしら?……後で聞いてみよう。


それにしてもよく似てるわねこの2人――アタシとジャックに。
若しかしてアタシとジャックの間には、時間を超えた因縁みたいなものがあるのかしら?……だとしたら、其れは其れで面白いけどね。




さてと、何時までも夢の世界に居る訳には行かないわね?
取り敢えずアタシを起こしなさい赤き竜………この夢は貴方が見せているんでしょう?

「アタシを現実世界に戻してくれるかしら?」

『クェエエエエエエ…!』


ん?うん……またその内ね。











異聞・遊戯王5D's Turn26
『急転直下!そして蠢く闇!』










Side:ジャック


デュエルが終わって、イキナリ倒れるとは一体何事だと言うのだ?
少なくともデュエル前から体調が悪かったとは思えん――いや、悪いどころか俺との決着を付けるために、遊里は心身共に最高の状態を作り上げて来たはずだ。

だとすれば、デュエルが終了したからとてイキナリ倒れるのは矢張りオカシイ。
よもや、赤き竜が見せたあの謎の光景と関係があると言うのか?――だがそうだとすれば、同じ光景を見た俺にも影響があって良い筈だ。


だが、倒れたのは遊里だけで俺はこの通り何ともない……遊里の全力フィールを受けたが故に、少しばかり身体が痛いがな。


――ギィ…


む…検査が終わったか……遊里の容体は如何なのだ?


「危険な状態からは抜け出したよ。運び込まれた時は体温が41℃も有ったが、今は37℃程度まで落ち着いているから命に別条はない。」


命に別条はないか…ならばひとまず安心だが、イキナリ倒れた原因は分かったのか?


「悪いけれど、其れについては何も分からないと言うのが正直なところだね。
 強烈なフィールを受けた反動とも思えるが、それだとキングに一切の影響がないと言うのは解せない。彼女が連戦である事を除いてもね。
 医者の身分としては、こんな非科学的な事は言いたくないんだが……デュエル中に現れた赤い竜が彼女に何らかの影響を与えたとしか思えない。」


医者の目から見てもアレが原因としか思えないと言う訳か。
突然現れた赤き竜と、俺と遊里の腕に浮かんだ謎の痣――そしてデュエル後に突然倒れた遊里……分からん事だらけだ。

時に遊里との面会は問題ないのか?


「特に病気と言う訳ではないから問題ないよ。
 ただ、今は薬が効いてるから目を覚ますのは、明日の朝くらいだとは思うけれどね。」

「明日の朝か……悪いが、今日は此処に泊まらせてもらうぞ?病室に泊まるのならば問題なかった筈だからな。」

今ここを出ようものならば、外でハイエナの如く待ち構えているマスコミ共に囲まれて動けなくなるのでな。流石に病院内にまでは入り込んでこないだろう。
加えて、奴等の眼を盗んでマンションに戻った所で、明日の朝にはマンションのエントランスが奴等で埋め尽くされるだろうからな。


「心中お察し申し上げるよキング。有名人も辛いモノだよね。」

「全くだ。」

何よりも、サテライトの住人がシティのデュエル大会で優勝し、エキシビジョンで絶対王者と引き分けたなど、奴等にとっては美味しすぎるネタだからな。


「あ〜〜〜…そりゃ絶対喰いつくな。
 遊里の優勝も『サテライトデュエリストが疑惑の優勝?フォーチュンカップには裏がある』とか書きそうだよな?牛尾の旦那もそう思うだろ?」

「だなぁ…シティの連中の8割はサテライトの住人がシティの大会を制したなんざ気に入らねぇだろうからな。」


……お前達の勘の鋭さは脱帽ものだな。
そうだ、奴等にとってデュエリストが魂を賭したデュエルなど如何でも良いのだ……自分達の報道に読者や視聴者が喰いつけばな。
今此処で出て行って、奴等に餌をばら撒いてやる必要もあるまい

其れと、お前達も今日は此処に泊まって行け、遊里の人間関係位は既に調べが付いているだろうから、お前達も奴等の標的になりかねん。
遊里が目覚め次第、絶対王者の権限で病院屋上のヘリポートに迎えを寄越すから、其れで此処から離脱した方が安全で面倒もない。


「ヘリまで要請できるんだ…ジャックってやっぱスッゲー!流石は絶対王者!」


ふん、使えるモノは何でも使うに限る……其れに此れだけの権限を使わない手は無いのでな。



時に、如何した龍可?さっきから何か考えているようだが…


「うん……ねえ、遊里とジャックの腕にも赤い痣が現れたよね?」

「!?……あぁ、確かに現れたが……まさか、お前にも現れたと言うのか?」

「うん……其れから不思議な光景も見た――赤き竜が吠えた後で、どこか遠い時代の悲しい結末の何かを見たの…あの人達が誰かは分からなかったけど。」


あの光景も見たと言うのか――だが、龍可にはユウリとジャッキーは判別できなかった……と言う事は俺と遊里だけがあの光景をハッキリ見たと言う事か。

ん?



――キィィィィン…!!



「痣が!其れもさっきよりハッキリと!!」

「此れは一体…!」



――シュゥゥゥン…



光が消えたか……だが、此れは…

「さっきと違い、今度は光が消えても痣が腕に残ったか…」

「そう…みたい。」


さっきよりも強い光が気になったので袖を巻くってみれば、赤い痣がくっきりと腕に――此れは何かの翼のようだな?
龍可のはまるで『龍の腕』のようだな?……痣の形は個人によって違うと言う事か?

この分だと、恐らく遊里の腕にも痣がハッキリと刻印されている事だろう。
赤き竜とこの痣と謎の光景……全ては繋がっているのだろうな――そして俺と遊里がサテライトで出会ったのは偶然ではなく必然だったと言う事か…


俺と遊里には、一体どんな関係――いや、因縁が有ると言うのだ…?








――――――








Side:ゴドウィン


「準備は出来ていますか?」

「はい、一切抜かりありません――後は流すだけです。」


矢張り貴女は優秀な秘書ですね深影さん……では、予定通り『アノ情報』を全ての報道機関に流してください。


「御意に……けれど、本当によろしいのですか?彼はセキュリティでも可也高い地位に居る筈ですが…」

「高い地位に居ればこそです……今までは野放ししておきましたが、彼が嵌めた人物がフォーチュンカップの覇者であるとなれば話は別。
 彼女――上条遊里がサテライト送りになった真の理由を知らぬまま、マスコミにあれこれ憶測記事を書かれても面倒ですのでね。
 何よりも、私自身が彼女をこの目で見て、彼女が『カード盗難と複製』などと言う犯罪行為をする者ではないと確信できましたので。」

其れに、彼の様に権力と地位にどっぷりと浸かった人間は、組織のマイナス要素になりますのでね――ここらで切っておくのが上策なのですよ。


「分かりました……明日の朝には、全ての報道機関が此れを流すように致します。」

「任せましたよ。」

……此れにて計画の第1段階は終了――明日の朝からは第2段階と言うところですね。
さて、精々絶望してください日堂亜美さん――貴女の絶望の果ての行動こそが、私の計画の第2段階の始まりなのですからね…フフフフフ…








――――――








Side:遊里


………知らない天井ね。


「……お約束のボケをかませるならば、如何やら大丈夫のようだな?」

「えぇ、すっかり体は大丈夫よジャック。………ゴメンね、デュエルの最後の最後で醜態曝しちゃって。」

「気にするな。第一あの高熱はお前の体調管理不足ではないのだろう?――あの竜か?」


多分ね……夢で、また『アノ時代』のある光景を見たし――其れにこの痣が、赤き竜の関与を肯定しているわ。
ジャックの腕にも痣が残ってるんでしょ?……昨日のデュエルでは竜が消えたら痣も消えたのにね。


「昨日突然痣が輝いてな……光が治まったらこんな事にな――因みに龍可にも痣が現れているぞ?」

「マジで?」

って事は、究極神への対抗手段の龍の1体はエンシェント・フェアリーだったって事よね。

ところで、今何時?アタシどれくらい眠ってた?


「今は朝の8時だ、決勝戦の翌日だな今日は。」

「って事は略一日眠ってた訳ね?……夢はそんなに長くなかったのに随分寝てたのね…」

1日経ったって事は、多分報道機関が昨日の決勝戦とエキシビジョンの事を派手に取り上げてるんでしょうね…アタシがデュエル後に倒れた事も含めて。
アタシが何か言われるのは兎も角として、大会のデュエルを如何こう言われるのは嫌だわ……全力を出したデュエルだったんだからね。



――ドドドドドドドドドド…



そしてこの地鳴りは?


「「「「遊里ーーーー!!」」」」

「目が覚めて良かった…」


龍可と龍亞に、ひなたとディレと恵!其れに弥生と宇里亜と牛尾まで……態々お見舞いに来てくれたの?


「見舞いっつーか、昨日は此処に泊まったからな――お前さんの様子を見に来たんだよ。」

「其れは態々…見ての通り、どこも問題ないわ。」

それで如何したの?なんか、物凄く慌ててたみたいだけど…


「テレビを付ければ分かる…」


テレビを?………はい?何此れ。



『実録!フォーチュンカップの覇者は嵌められてサテライトに送られた!?』



アタシの冤罪が報道されている?
な、何で今更!?……アタシの無実の訴えは、あの時は聞き入れられないで有罪が確定してサテライト送りになったって言うのに…如何して今?


「…ゴドウィンめ…フォーチュンカップの覇者がサテライト出身者である事への疑惑を晴らすためにか…」

「ゴドウィンが?」

あ〜〜…でもあの人ならやるかも……


『そして、この冤罪を握りつぶしたのは現在の日堂捜査部長である事が判明し、セキュリティは彼を――』


逮捕に踏み切るでしょうね……恐らくはアタシの無罪を証明する証拠は幾らでも出て来ると思うしね。

まあ、因果応報って奴ね――他者を嵌めた報いは、回り回って何れ自分に戻ってくるって言うこと――忘れちゃダメよ龍可に龍亞に宇里亜?


「「「は〜〜い!」」」


宜しい!


取り敢えず此れで日堂が失脚する事は間違いないけど、気になるのは亜美の事だわ――アイツは追いつめられたら何をしでかすか分かったモノじゃない。
この報道がトリガーになって馬鹿な事をしないと良いんだけどね…








――――――








No Side


「嘘だ、嘘だ、嘘だ!!…パパが失脚するなんて…!!」

トップスのあるマンションの一室で、日堂亜美は膝を抱えて震えていた。
今朝のニュースやワイドショーの報道で、約1年前の冤罪事件が表沙汰になり、彼女の父親は弁解の機会もなくセキュリティを解雇され逮捕されたのだ。

其れはつまり、日堂家はトップスでの地位を失った事に直結する――犯罪者はトップスに居続ける事は出来ないのだ…無論その家族も。


だが、彼女が震えている理由は他にある。
其れは自分もまた逮捕されると言う恐怖が原因だ――そもそも、遊里を嵌めたのは彼女なのだ……ならば彼女が逮捕されるのは自然の流れだろう。



――バガァァァン!!



程なくセキュリティの武装隊が突入し、彼女は一番奥の和室でそれを感じて居るだけだ………尤もその心には暗い闇が出来掛かっていたが。


「日堂亜美、お前を逮捕する!」

「逮捕?…逮捕ですって!?……冗談じゃないわ、私は逮捕なんてされないから〜〜〜〜!!!」


逮捕……其れを聞いて亜美の心は限界を迎えたのだろう――セキュリティの隊員が拘束するよりも早く出窓に飛び乗り――そして其処から身を投げた。


「「「「「「「「「!!!!!」」」」」」」」」」」

「あはははは!!アンタ等に逮捕されるくらいなら、私は死を選ぶわ!……あははは、私は最強のデュエリストなのよ!!」


そして此れが日堂亜美が『人』として発した最後の言葉となった。



数秒後、亜美の身体は地面に激突し、亜美は絶命。





が、物言わぬ屍となった亜美に近付く、黒いローブを纏った者が1人……

「………来い、我が同胞よ――お前にはその資格がある。」

その者が指を鳴らすと、殆ど挽肉になった亜美の身体が再生し―――そして、あろう事か立ち上がったのだ。

「…………」

「上条遊里が憎いか?………ならばお前に力を与えてやろう……アイツを倒せるほどの力をな。」

「………」

ローブの人物は何かを亜美に渡すと、闇に溶け込むように消え、亜美もまた同じように消えた。










亜美のイキナリの自殺に驚いたセキュリティが落下現場に到着した時、其処には何も残って居なかった。


いや、何も残っていなかったわけではない……亜美の物と思われる血液はその場に残っていた――だが、ある筈の遺体がないと言う状況なのだ。
何が起きたのかは誰にもわからないだろう――ただ1人を除いては。


「予想以上ですね亜美さん……だが、此れで貴女も資格を得た……精々活躍してください。」


そして、その1人――レクス・ゴドウィンの思惑を知る者は只の1人も存在してはいなかった…













 To Be Continued… 






登場カード補足