Side:遊里
時が流れるのは早い物で、気が付けばゾーンとのデュエルから半年が経とうとしてる。
そして、この半年で、シティは表立ってはあまり変わりなないけど、その裏では大きな動きを見せていた。――其れがどういう事なのかと言う
と……
「やりましたチーフ!新型モーメント『フォーチュン』、安定稼働に入っています!」
「Good!そのまま、運転を続けて。運転開始から10分経って異常が出なければ、このモーメントは成功したって言う事になるから。だからこ
そ、些細な異常も見逃さないで。
見逃した些細な異常が、大事故に繋がりかねないから。」
「了解です。」
シティは新型モーメントの開発に乗り出していて、しかもあろう事か、その開発チームのチーフリーダーにアタシが抜擢されたってんだから驚
くなってのが無理ってモンでしょ!?
アタシを推薦したのは、新たに治安維持局の局長もとい、ネオドミノシティの初代市長に就任したイェーガーだったってのも驚いたけど。(ゾー
ンの一件以降、治安維持局は再編成されてシティ警察隊になって、治安維持局局長は、警察隊最高司令官とシティ市長に分けられた。因
みに、警察隊最高司令官は深影さんだったりする。)
でも、任された以上はやるのがアタシの流儀だから、とことんやらせて貰った。
数少ないけど、ゼロリバース以前にお父さんが残した資料は残ってる物だけとは言え徹底的に頭に叩き込んで、更にゾーンが危惧した未来
が訪れない様に、モーメントの機構にも細心の注意を払ったから大丈夫なはず――10分が、これほど長く感じるのは初めてだわ。
「3、2、1……0!10分経過!異常、何処にもありません!――新型モーメント『フォーチュン』……完成です!!」
「完成……完成したんだ『フォーチュン』が!!」
良かった……此れで、ゾーンの絶望の未来を訪れさせない事が出来る。
フォーチュンには制御装置として、シンクロ、エクシーズ、融合、儀式の4種類のモンスターのデータを使ってる。
此れならシンクロだけで制御してた時と違って、より柔軟に異常に対処する事が出来るから逆回転を起こす事もないし。
何よりも逆回転の原因である人の『人のマイナスの意識』も、多分如何にかなるんじゃないかと思う――あの一件以降、世界中で人の意識
が変わり始めてるからね。
きっと未来は大丈夫!そう、アタシは思ってるわ。
異聞・遊戯王5D's Turn189
『三度見える女帝と王者』
「ふい~~~……取り敢えず、完成してよかった~~。」
本気で10分が永遠にも感じたからね……本気で、巧く行ってよかったわ~~。――もし、アレでダメだったら、チーム全員で最低2徹が確定
してたからね……其れは流石に勘弁だわ。
とは言え、結構頭と体使ったから、疲れてるのは否定できないわ……だから、自販機でめっちゃ甘いと評判のマックスコーヒーをポチっとな。
缶コーヒーは大概甘いけど、その中でも『激甘』って言われるマックスコーヒーの甘さは半端ないのよね~~?甘党で辛党のアタシからした
ら、あのくらいの甘さは丁度良いんだけど。
「ぷは~~、最高!!疲れた頭と体には、この甘さが助かるわぁ~~。」
「ひっひっひ、お疲れ様です上条チーフ。」
イェーガーか……てか、上条チーフって呼び方はやめて。
確かにアタシはチーフリーダーを務めさせて貰ってるけど、其の呼ばれ方は慣れてないのよ……出来れば、普通に読んで欲しい所だわ。
「ならば、せめてもの敬意を表して上条博士と言いましょう。」
「其れって、あんまり大差なくない?」
「かも知れませんが、私なりの敬意の表し方と思って下さい。
実際に、貴女のプロジェクトチームが開発した新型モーメント『フォーチュン』は、安定稼働状態に入り、シティの未来は安泰となりましたから
ね――真に感謝に尽きません。」
アタシは、アタシのすべき事をしただけよイェーガー。
尤も、其れがシティの人達の役に立ってるって言うのなら、其れは其れで悪い事ではないと思うけれどね。
「貴女ならばそう言うと思っていました。
だからこそ、貴女には開発が終わってからも、このチームに残って欲しい……貴女が居れば、モーメントの開発・研究は更に加速するでし
ょうからね。
……が、此れはあくまでも私の見解に過ぎません――貴女の道は、貴女が選ぶものです。どうか、後悔だけはしない選択をして下さい。」
「私の道……か。」
思えば、プロジェクトが立ち上げられて、アタシがチーフリーダーになって、そして完成に至る今日まで、モーメントの研究と開発に明け暮れる
毎日で、考えてみると真面にデュエルもしてなかったわ。
精々、休み時間にアタシを訪ねて来た龍可や龍亞とデュエルする程度……シェリーと戦ったのを最後に、ライディングデュエルもしてない。流
石に、新しいパックを買ったりデッキの調整をしたりはしてたけどね。
モーメントの開発に明け暮れていたとは言え、アタシは少し皆に置いてかれちゃったかな?
ジャックは、相変わらずシティの絶対王者として君臨しながらもデュエルの腕を磨いて、多くのプロリーグから参戦の誘いが来てるって聞くし、
鬼柳は用心棒を務めてる義村組が経営するデュエルバーの店長を任されてるみたいだし、クロウに至っては驚くべき事にセキュリティのパト
ロールになってる訳だからね……顔面マーカーだらけのパトロールってのもどうかと思うんだけど……
――ドォォォォン!!
ん?ハイウェイの方から煙が……って、ブラック・フェザーが居るって事は、どこぞの馬鹿がクロウに成敗されたって所ね。
そうだ、折角だから、ポチっとな。
――RRRRRRR
『こちらクロウ。てか、仕事中に電話かけてくんなよ遊里。』
「ごめんごめん。だけどお仕事ご苦労様。
今も誰かとっ捕まえたみたいね?研究所の休息室から、ブラック・フェザーの姿がバッチリ見えたわ。犯人は何をやったの?」
『見えてたのか?……まぁ、下らねぇコンビニ強盗だな。
盗んだDホイールで逃走しやがったから追いかけてたら、デュエル仕掛けて来やがってな……返り討ちにしてやったぜ!』
お見事。
それでさクロウ、久しぶりに皆で集まって食事でも如何かな?最近中々時間が合わなくて、一緒にって言うのなかったじゃない?ジャックに
鬼柳、龍可と龍亞も誘って外でバーベキューとかどう?
『そういや、最近はバラバラだったな?
そうだな、良いんじゃねぇか?バーベキューなら畏まる事もねぇし、立食パーティみたいな感じで、互いの近況とかの話で盛り上がるかも
知れねぇからな。』
「でしょ?皆にはアタシの方から連絡入れとくわ。」
『了解だ。
あ、でもバーベキューでもお前特製の『レッドアイズ・ブラック・バーベキューソース』だけは勘弁な……アレは相当にヤバいから。』
え~~?何で?
あの刺激的な味が、肉の美味しさを更に引き出してくれるって言うのに~~!!!
『アホ!あんな、赤唐辛子と黒コショウをふんだんに使って、更にコチュジャンと豆板醤をラー油で伸ばした代物が食えるかぁ!!
前に、『なんだろう?』って舐めた龍亞が、リアルに黒炎弾放ったのを忘れたとは言わせねぇからな!!』
あ~~~、そんな事もあったね。
じゃあ量産しないで、アタシの分だけ作る事にしとくわ。
『どうやっても作るってか……まぁ、個人的に楽しむ分には構わねぇけどよ。
そんじゃあ、7時にポッポハウス集合で良いよな?俺も勤務は5時で終いだが、其の後で報告書やら何やら上げてたら、セキュリティの本
部を出るのは6時半近くになるからな。』
了解、その方向で調節してみるわ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
そんでもって久々に皆で一緒にご飯の時間。ジャックは少し遅れるみたいだけどね。
さぁ、じゃんじゃん焼くからじゃんじゃん食べてね~~!ほらほら、龍可と龍亞も、ニコとウェストも遠慮しないで食べて♪それとも、何か気にな
る事でもある?
「遊里、その真っ黒なお肉と、真っ赤なお肉は……」
「見たまんまメッチャ辛そうなんだけど……」
「黒コショウで固めた牛串と、赤唐辛子で固めた牛串。ぶっちゃけアタシ用。そして此れに、特製の『レッドアイズ・ブラック・バーベキューソー
ス』をたっぷり付けて食べる。」
「「其れ、絶対にあり得ない!!」」
美味しいんだけどなぁ~~?
そう言えばさ、クロウ達は此れから如何するの?今までの仕事続けていくの?
「ん?何だよ藪から棒に?」
「ちょっとね……イェーガーに言われたんだ、自分の道を選んで進めって。
アタシは、ずっとモーメントの開発と研究に没頭してたけど、その間にクロウはセキュリティに、鬼柳は義村組が経営する店の店長になって
るじゃない?……だから、如何するのかなって思ったのよ。」
「……俺は、正直言うと迷ってるな。」
鬼柳?
「確かに今の仕事は悪くねぇ。
稼ぎも良いし、ガラの悪い客はデュエルで叩き潰してやる事も出来る……だが、其れでも俺は満足出来てる訳じゃねぇ……刺激のある仕
事だが、物足りねぇな。」
「其れは俺もだぜ……犯罪者相手だからスリルはあるが、物足りないんだよな。」
ヤッパリ迷ってたんだ。
でも、その迷いの原因は、プロリーグへの勧誘じゃないの?
「お前、何で!――って、当然か。
俺の所に誘いが来るなら、遊里の所にも来て当然だよな……」
「アタシの場合は、モーメントの開発と研究が有ったから保留にしてたけどね。――でも、其れが一段落付いた今、決断をしないといけないっ
て思ってるわ。」
「だよな……俺も義村のオヤッさんの厚意に甘えてるのは良くねぇからな……」
だから、如何するか考えないとね。
龍可と龍亞も、アタシ達とは違うけど、悩みがあるんじゃない?
「うん、お父さんとお母さんから手紙が来たの――一緒に暮らさないかって。」
「ずっとシティのトップスで2人で暮らしてたから、何て言うか、会いたいんだけど、どんな顔して会えば良いのか分からないって言うか……ち
ょっと決めかねてるんだよね。」
成程ね。
まぁ、誰にも悩みは有るって事だよね……
「聞いていれば下らん事を……一体何処に悩む要素がある!己のやりたいようにやれば良い、違うか!!」
「ジャック……!」
まったく、遅刻したくせに言ってくれるじゃない?
取り敢えず此れ食え。アタシ特製の『スタミナニンニク牛カルビネギま串』を。特製激辛ソースは使ってないから安心して食べて良いわよ♪
「うむ、旨い!
其れは兎も角として、貴様等は一体何を悩んでいる!人は二物を得る事は出来ん……ならば、最も己のしたい事を選ぶべきだろう!!
今の仕事を続けるのか、それともプロに行くのか!両親と共に暮らすのか、それとも今の暮らしを続けるのか、二者択一ではないのか!!
己の心に従えば、迷う事等ない筈だ!!」
「ま、確かに其の通りだけど、そう簡単に行かないのも人間なのよね。――実際に、アタシもプロに行くか、其れともこのままシティに残るかで
迷ってるからね。
――だから、アタシとデュエルしようよジャック。」
「ほう?」
デュエルは、何時だってアタシ達を導いてくれた。
だから、貴方とのデュエルで、アタシは自分が進むべき道を見つける事が出来るかも知れないから。
「良いだろう。
俺もいい加減、お前との決着は付けなくてはならないと思っていたからな!――明朝、ライディングデュエルで決着をつけてやるぞ!!」
「うん、決着を着けようジャック!」
そして、そのデュエルの果てに、アタシの選ぶ道がある筈だからね……全力で行かせて貰うわ!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
でもって翌朝!
シティを流れる川の河川敷で、アタシとジャックはスタンバイOK!
このデュエルの観客はクロウと鬼柳に龍亞と龍可、そしてニコとウェスト――ポッポハウスの面々が見守ってるって事ね。
そう言えばジャック、こうして戦うのはフォーチュンカップのエキシビション以来ね?
「そうだな……あの時は引き分けに終わったが、今度はそうはいかん!このデュエル、俺が勝つ!!」
「悪いけど、アタシだって負ける気はない――勝つのはアタシよ!!」
互いに全力を出したとは言え、結果は引き分けだから、スッキリしてなかったからねあのデュエルは!
だから、このデュエルで貴方を倒して、あの時のモヤモヤを解消させて貰うわ――行くわよジャック!!準備は良いわね!?
「無論だ……行くぞ!!」
「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」
――ドォォォォォォォン!!!
そして始まったライディングデュエル。
互いにロケットスタートをして、ファーストコーナーを取らんとするのは当然で、ジャックは何時も以上の攻める走りでコーナーを取りに来てる。
だけど、ファーストコーナーは譲らない!!
――ガン!!
――グゥゥゥン!!
「なにぃ!ガードレールを蹴って強引にインに割り込んでファーストコーナーを取っただと!?」
「此れ位やらないと、ジャックからファーストコーナーを取る事は出来ないからね。」
でも、此れで先攻はアタシが貰った――行くわよ!
「「デュエル!!」」
遊里:LP4000 SC0
ジャック:LP4000 SC0
「アタシのターン!
アタシのフィールド上にモンスターが存在しない時、手札の『白銀突撃隼』を特殊召喚出来る。」
白銀突撃隼:ATK500
「そして『スター・ブライト・ドラゴン』を召喚。」
スター・ブライト・ドラゴン:ATK1900
スター・ブライト・ドラゴンの効果発動。
このカードの召喚に成功した時、フィールド上のモンスターのレベルを2つ上げる事が出来る。アタシは、この効果で白銀突撃隼のレベルを2
つ上げて、レベルを4にする。
白銀突撃隼:Lv2→4
レベル4のスターブライト・ドラゴンに、レベル4となった白銀突撃隼をチューニング!
集いし願いが、天空を駆け抜ける疾風となる。光射す道となれ!シンクロ召喚、飛翔せよ『輝天龍 シルバー・ウィンド』!
『さて、手合わせ願おうか絶対王者よ!』
輝天龍 シルバー・ウィンド:ATK2500
白銀突撃隼がシンクロモンスターの素材となって墓地に送られた時、アタシはデッキからカードを1枚ドローする。
カードを1枚セットしてターンエンド。
「俺のターン!」
遊里:SC0→1
ジャック:SC0→1
「俺は、チューナーモンスター『ドラゴン・リゾネーター』を召喚!」
ドラゴン・リゾネーター:ATK1300
「ドラゴン・リゾネーターの召喚に成功したとき、デッキか手札から、攻撃力1500以下のドラゴン族を特殊召喚出来る!
竜召喚の音に導かれ、現れよ『異次元竜 トワイライトゾーンドラゴン』!」
異次元竜 トワイライトゾーンドラゴン:ATK1200
特殊召喚効果を持ったチューナーを使って行き成りベル8のシンクロの素材を揃えて来たか……まぁ、アタシが初手でレベル8シンクロを決
めた以上、ジャックも1ターン目からレベル8のシンクロを展開して来るとは思ったけどね。
「レベル5のトワイライトゾーンドラゴンに、レベル3のドラゴン・リゾネーターをチューニング!
万物を焼き尽くす孤高の絶対王者よ、天地鳴動の力を揮うが良い!シンクロ召喚!降臨せよ『煌魔龍 レッド・デーモン』!!」
『バオォォォォォォォォォォォオォオォォォォォォォォォ!!!』
煌魔龍 レッド・デーモン:ATK3000
そしてそうなれば、呼び出すのは当然レッド・デーモン!相手にとって不足はないわ!!
「行くぞ!煌魔龍 レッド・デーモンで、輝天龍 シルバー・ウィンドに攻撃!『アブソリュート・ヘル・バーン』!!」
「其れは通さない!
トラップ発動『スター・エクスカージョン』!
シンクロモンスター同士がバトルを行う場合に発動。互いのモンスターは除外され、相手の3ターン後のバトルフェイズが終了した時に除外
されたモンスターは夫々のフィールドに戻る。」
つまり、アタシのシルバー・ウィンドと、貴方のレッド・デーモンは未来へと飛ばされた。
「未来へ……」
「そう、未来へ。」
このデュエルは、未来を占うデュエルでもあるからね。――何よりも、このデュエルは、アタシにとっては久々のライディングデュエルだから目
一杯堪能させて貰うわ。
行くわよジャック!!
To Be Continued… 
登場カード補足
スター・エクスカージョン
通常罠
相手ターンのバトルフェイズ中に、自分フィールド上のシンクロモンスター1体が相手シンクロモンスターの攻撃対象になった時に発動できる。
戦闘を行うお互いのモンスターはゲームから除外し、相手ターンで3ターン後のバトルフェイズ終了時にこの効果で除外したモンスターを特殊
召喚する。
|