Side:遊里
よし、兄さんのアクセルシンクロを越えたアクセルシンクロが途轍もない力を発揮して、ユウリを倒す事が出来た!流石は兄さんって言う所
だわ此れ。
後はこの空間から脱出するだけなんだけど……なんか、敗者が飲み込まれるブラックホールが近づいて来てる気がするんだけど何で!?
勝てばブラックホールに呑み込まれる事は無かったんじゃないの!?
「そうだったのだが、如何やら私を倒すのに時間がかかってしまったようだ――私達のデュエルの決着がつく前に、ブラックホールは巨大化
して、勝者も敗者も関係なく呑み込むモノとなったみたいだわ。」
「マジかオイ!
冗談にしては性質が悪いし、其れが本当なら幾らなんでもあり得ない。」
其れ以前に、勝てばブラックホールには呑み込まれないっていうルールだったのに、どうして此処でブラックホールに呑み込まれなきゃなら
ないのよ!正直言って、納得できないわ!!
逃げ切る事は……出来そうにないわね。Dホイールのエンジンを全開にしても、全く持って振り切る事が出来ないからね。
もう逃げる術は無いって言う事か……く、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
「ぐ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
兄さんまで!――此れは、どんな方法でもいいから、此のブラックホールから生還する事を第一に考えないとゾーンを倒すどころじゃ……!
異聞・遊戯王5D's Turn177
『遊里とユウリと世界の運命と』
く……此処は、赤黒いこの空間は一体?まさか、此処がブラックホールの内部?
だとしたら、ある意味で世紀の大発見よねこれは?今の今まで、著名な宇宙研究科ですら、ブラックホール内部の構造を突き止めた人は
居ないんだから。
とは言え、このGは流石にきついわ。何とか逃げ出さないと、身体が潰されちゃう――!
「シルバー・ウィンドとスターダストを召喚しなさい。
2体の守護の龍の力が有れば、ブラックホールの中のGにも耐える事が出来る筈。」
「ユウリ?其れって信じて良いの!?」
「そんな事を言ってる場合じゃないぞ遊里……このままでは3人揃ってお終いだ。
今は、彼女の言葉を、そして決闘龍に秘められた力を信じよう。俺達は、此処で終わる訳には行かないんだ。」
兄さん……そうだね。
こんな所では終われない!此処で終わったら、ゾーンを倒しアーククレイドルを止める事は出来ない……シティを、守れない!だから、力を
貸してシルバー・ウィンド!
『任せろ、遊里!』
「スターダスト、破滅を包む星となれ!『ヴィクティム・サンクチュアリ』!!」
『グオォォォォォ……!』
――キィィィィン
あ、身体が軽くなった……シルバー・ウィンドとスターダストの効果で、本当にブラックホールのGを遮断する事が出来たんだ。
でも、何故アタシ達に其れを伝えたのユウリ?貴女がゾーンの仲間で、その目的を達成する事を望んでるのだとしたら、アタシも兄さんも道
連れにした方が良かった筈なのに……
「確かに其の通りだけれど、でも彼方達ならばゾーンの方法とは別の方法も見つけられるのかも知れないと、そう思ってしまったんだ。
……否、違うな。託してみたくなったのだろう、未来を。5000年前に、人々の未来をジャッキーに託した時の様に。
分かっていた筈なのに忘れてしまうとは……所詮私は紛い物に過ぎないか――破壊による救済などないと、知っていた筈なのにな。」
「ユウリ?紛い物って、如何言う事?」
「お前には分かる筈だ遊里。
ゾーンの話によると、お前は私の記憶を映像として見た事があるし、お前自身もある程度の私の記憶を持っているのだろう?――ならば
私に違和感を感じはしないか?
お前の記憶の中の私と、今目の前にいる私では、容姿は同じであっても性格や人格と言った面で大きな違いがある筈だろう?」
「……そうなのか遊里?」
…言われてみれば、確かにそうかも。
アタシの記憶にあるユウリは、アタシをもっと清廉で誠実にした感じだったけど、貴女は……何て言うか、言い方が悪いかもだけど戦う為の
マシーンみたいに感情の起伏がないわ。
言うなれば『生体デュエルロボ』とでも言うかの様に。
「あながち間違ってはいないさ、私はお前達と戦う為だけに存在していた。
そもそもにして、私自身が偶然生まれた産物なんだ――ゾーンが、未来を救う為に過去の英雄の力を得ようと試行錯誤した過程で生まれ
たのが私だ。
過去の英雄のデータを構築する上で偶然生まれてしまった、ユウリ・エーベルバインの劣化コピー、其れが私だ。
だが、そんな物であってもゾーンにとっては有効な手札となり得る存在だったのだろうな――生まれた私のデータを、すぐさま開発中のア
ンドロイドにインストールし、そのアンドロイドの外見を人工皮膚と人工毛でユウリそっくりに作ったんだ。
そして、私を仲間に引き入れ、今回の計画に参加させたんだ……記憶の中に残っていた5000年目の後悔が計画に参加させる事を決意
させたが……其れは正解ではなかったんだ。」
「……一つ聞かせてくれ。遊里の前世であるユウリが偶然生まれたと言う事は、ゾーンはまさか……」
「お前の考えてる通りだ不動遊星。」
「矢張りか……!」
貴女が如何言う存在であるのかは分かったけど、アタシを放って2人で納得しないでよ兄さんもユウリも!ゾーンが何だって言うの!?
「其れは、己の目で確かめた方が良い。」
「そうだな……答えを教えてやるのは簡単だが、ゾーンの正体については遊里自身が確かめないと意味がないだろう。何よりも、今此処で
知ってしまったら、余計な動揺をする事に成るかも知れないからな。」
「何よ其れ、益々気になるんだけど……そう言う事なら、聞かないでおくわ。どうせ、ゾーンと戦えば分かる事だろうしね。
其れよりも、シルバー・ウィンドとスターダストの効果で無事とは言え、どうやって此処から抜け出すのよ!?此処から抜け出せないんじゃ
潰されなくても意味ないじゃない!」
「安心しろ、ダーク・ウィンドとブラック・ヴァルキリアの力を使って、お前達をブラックホールの外に、あの疑似空間の外に転移させる。」
でも、其れじゃあ貴女が!貴女がこの空間に取り残される事になるじゃない!貴女も一緒に行こう――過ちに気付けたなら、やり直せる筈
だから!!
「お前も来るんだ!態々、死ぬ事もないだろう!」
「……其れは出来ない。
ダーク・ウィンドとブラック・ヴァルキリアの力を使っての転移は、2枚のカードを使う術者を転移させる事は出来ないんだ……だから、私は
此処に残る。
何、此れで良かったんだ……私は既に5000年前に死んでいる人間だ。そんな物が、今の世に居る方が異常なのだからね。
其れに、遊里達に魂が受け継がれたとは言え、私だけが現世でのうのうと生きている事など出来ないよ……ジャッキーを冥界に1人で置
いて置く訳にも行かないからね――劣化コピーが言う事でもないかもしれないが。
だから、お前達は生きろ遊里、遊星!私よりも、もっと多くの人々の命を守ってくれ……行け、不動遊星、上条遊里ーーーーーー!!」
『グオォォォォォォ!!!』
『あるべき場所に、戻れ。』
ユウリ?ユウリーーーーーーーーー!!!
――ギュオン!!
……此処は……この無機質な部屋は、アーククレイドルの内部?戻って来たの?
「如何やらそうみたいだな……ブラックホールのGに晒されたが、Dホイールには問題がないみたいだ。遊里、お前の機体は如何だ?何か
不具合とかは生じてないか?」
「大丈夫よ兄さん。レーゲンは絶好調だから。」
だけど、ユウリは……アタシは彼女を見殺しにした。
術者は転移させる事は出来ないって言ってたけど、方法はあった筈なのに、アタシは其れを探す間もなくユウリの手によって転移させられ
てしまった……5000年前も今も、ユウリは自分の身を犠牲にして後人に希望を託した。
絶対に手が有った筈なのに……死ななくても良い筈だったのに、アタシは其れが出来なかった……!!!
「気に病むな遊里。」
――ギュ…
「兄さん?」
「割り切れと言うのは無理かもしれないが、彼女は覚悟していたんだ――俺達に負けた暁には己が消えると言う事をな。
だからこそ、俺達に未来を託したんだ……彼女の死を乗り越えろとは言わないが、俺達は彼女に託されたんだ、未来を。なら、此処で止
まって居る事は出来ないだろ?」
其れは、そうだね兄さん。
ユウリが己の命を投げ出して、ブラックホールからアタシ達を生還させてくれたんなら、アタシは其れに応える義務がある。ユウリの命懸けの
願いに応える責務がある!
OK、行こう兄さん、ラスボスが待ってる最上階へ。きっと皆も辿り着いてるであろう、アーククレイドルのラストステージに!!
「あぁ、行こう遊里。未来を救う為に!!」
「其れだけじゃないわ兄さん。今のシティを救う為にも、でしょ?」
「……そうだな。」
其れじゃあ行きましょうか!!
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・・・・・・・・・・・・
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・・・
で、走る事5分、漸くアーククレイドルの最上階に到達したわ。
最高時速150km以上出るDホイールで5分かかるって、ドンだけ入り組んだ構造をしてるのよアーククレイドルは!?って言うか、Dホイー
ルが無かったら、絶対に最上階に辿り着く事は出来ないでしょうね。
其れよりも、皆も辿り着いてたのね?まぁ、全員辿り着くって信じてたけどさ――シェリー、貴女もね。
「クロウと鬼柳に目を覚ませられたわ――此処からは、私も貴女と一緒に戦うわ遊里。」
「其れは頼もしいねシェリー。貴女ほどのデュエリストが一緒なら頼もしいからね。
んで、大体予想してたけど、アタシと一緒に現れたDホイーラーに目が点になってるわね~~~?流石に意外だったかしら此れは?」
「意外などと言う物ではないだろう此れは!
Dホイールの形状から見て謎のDホイーラーなのだろうが、その正体は衛遊だったと言うのか!?幾ら何でも予想外過ぎるぞ遊里!!」
そう?なら更なる予想外をぶっこむわ。
この人は『星津衛遊』なんていう名前じゃなくて、本当の名前は『不動遊星』――ゼロ・リバースに巻き込まれて、その影響で遥かなる未来
に飛ばされたアタシの兄さんです!!
「何だとぉ!?」
「「マジで!?」」
「嘘だろオイ……本当だとしたら、満足どころの騒ぎじゃねぇぞ……」
「い、インチキ設定も大概にしろぉ!!」
「クロウ、貴方が言っても説得力がないわ。
だけど、否定は出来ないわ。次元の狭間に投げ出された私が、こうして生きているのだから、ゼロ・リバースに巻き込まれた者が、時を超
えて生存していたとしても不思議はないわ。」
「……言われてみればその可能性は否定出来んか。
抑々俺と遊里と鬼柳も、前世の魂を受け継いだ存在だからな――其れを踏まえたら、時空転移など大した事ではないし、あり得る事なの
かも知れんな。」
うん、思った以上に、あっさりと納得してくれたね――まぁ、ダークシグナーとか地縛神とか、イリアステルとか、世の常識をぶっ壊す連中と戦
って来たから、時空転移如きは大した事じゃないのかも知れないけどね。
其れは其れとして、この扉の先がラスボスの間なんだろうけど……どうやって開けろってのよこの石扉?軽く見積もっても、片方1tは有るん
じゃないの此れ?
此れだけの人数が居るとは言え、開けるのは容易じゃないわ。
「其れについては大丈夫だ遊里、俺に秘策があるからな。」
「兄さん?」
「違う世界の俺じゃない俺の仲間だが、今は力を貸してくれ――悪役召喚!!」
「調子こいてんじゃねぇぞオラァ!!!」
どこぞの世界の悪者:ATK100万
――バガァァァァン!!
はいぃぃ!?兄さんのデュエルディスクから現れた、赤い帽子の悪役全開の奴が、喧嘩キックで石扉を打ち破ったぁ!?って言うか、質量
を持ったソリッドビジョンて……
「すまない、手間をかけさせたな遊哉。」
「気にすんな、丁度暇だったから良い運動になったぜ――何より、違う次元の存在とは言え、ダチ公の頼みを断るってのは俺の流儀に反す
るんでな?
まぁ、また必要だったら呼べや。そんときゃ力を貸してやるからよ。」
「あぁ、頼りにしている。」
「そんじゃあ俺は帰るぜ?霧恵を待たせておく事も出来ねぇからな。」
ソリッドビジョンじゃなくて実体だった!?……其れを呼び寄せるとは、ドンだけよ兄さん!!
だけど此れで、ラストステージへの道が開けた――その面、拝ませて貰うわよゾーン!
――――――
Side:アポリア
……私は、生きているのか?
あれだけの事に巻き込まれて生きているとは、奇跡で済ます事は出来ない――ならば、私が生き残った意味がある筈だ。
そして、私には其れが何であるのかが理解できる――絶望の果てに得た希望、其れを絶やさぬように繋ぐのが私の使命に他ならない!!
この壊れかけの身体ではもう少し時間がかかるだろうが、必ず届けて見せるぞ、私の希望を!!
だから、もう少しだけ待っていてくれ、チーム5D'sよ!!!!
To Be Continued… 
登場カード補足
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