Side:遊里
ふむふむ成程。
シェリーが手に入れたカードは、普通に見たら何も書かれてない真っ白なカードだったけど、カードデータをパソコンに取り込んで解析してみたら、カードの詳
細が分かって来たわね。
「何か分かったかしら遊里?」
「適当にね。……まず、このカードは表面が特殊な偏光加工がされてたせいでパッと見ただけでは白紙のカードだったんだけど、データを取り込んで解析して
見たら、その加工の下にあったカードが明らかになったわ。」
「本当に!?」
えぇ、本当よ。――このカードの正体は、ドラゴン族のシンクロモンスター『EndlessDragon~Z-ONE』って言う、闇属性レベル8のモンスターよ。
でも、テキスト欄と攻守は、コンピューターでも解析できない特殊加工がされてるみたいで、其れを読み取る事は出来なかったわ……悪いわねシェリー?
「いえ、此れがどんなカードか分かっただけでも充分よ。
そして、此処までの厳重な特殊加工をしなければならなかったカードと言う事なら、私の両親がこのカードを狙う輩に殺されたと言う事も、ある意味では理
解する事も出来るもの――納得する事は出来ないけれどね。」
「理解と納得は別物だからね……理性と感情は相いれないモノだから。」
「そうね……何れにしても、私の両親がこのカードを残してくれた事には絶対意味がある筈だから、私は其れを見つけ出すだけよ。」
さいですか……でも、無理はしないでよシェリー?
この間のデュエルはノーコンテストになっちゃったから、貴女とは白黒つけたいと思ってるからね……其れがWRGPの舞台なら言う事なし!!そうでしょう?
「そうね……貴女との決着も付けなくてはならないから、無茶して途中退場だけは出来ないわ。
改めて礼を言うわ遊里――次は、大会で会いましょう?」
「勿論、その心算よシェリー。」
願わくば、その時までに貴女が其のカードを使えるようになって居ますようにってね。――WRGP、俄然楽しみになって来たわ!
異聞・遊戯王5D's Turn118
『鉄砲玉の追憶・隠されし玄鳳龍』
Side:クロウ
……此処に来るのも1年ぶりか……いや、シティとサテライトが統合されて、色々と区画整理もされたから、其れを踏まえると此処に来るのは初めてって言う
事になるのかもしれねぇな……まぁ、其れは別に大した事じゃねぇけどな。
其れは兎も角、久しぶりだなピアスン。手持ちがなくて、悪いが手ぶらだ。今度来るときは、酒の一本でも持って来るから勘弁してくれ。
まぁ、アンタも行き成り墓が動かされて驚いたかも知れねえが、シティとサテライトが一つになった結果って事で納得してくれよな?……俺の方も、仲間達と
一緒に、適当にバカやりながら元気でやってるから安心してくれ。
尤も、お前を殺した犯人を諦めた訳じゃないけどな!!
幸いにも、シティとサテライトが一つになった事で、以前よりも多くの情報を得る事が出来るようになったし、俺の一番のダチである遊里のツテで治安維持局
のお偉いさんとも面識があるからな……絶対に犯人を見つけ出してやるぜ!!
「……此処にいたのね、クロウ君?」
「深影さん?……如何したんだよ、こんな所に?……こう言っちゃなんだが、セキュリティの敏腕捜査官が、日中に訪れる場所じゃないぜ?」
「それは、分かって居るけれど……貴方にとっては大切な情報を持って来たのよ――ロバート・ピアスン殺害の犯人の手がかりをね。」
「!!!!!!」
マジか!!?犯人の手がかりが見つかったのか!?
ずっと探してたのに分からなかった、ピアスンを殺した野郎の手がかりが手に入ったって言うのかよ!!一体何処の誰なんだ、ピアスンを殺したのは!!
「気持ちは分かるけど落ち着いて。
彼を殺害――より正確に言うならば、致命傷を負わせてあの場所を火事にした犯人が分かった訳ではないの。でも、あの時行われていたと思われるデュ
エルで、使われていた1枚のカードが、あの事態を引き起こした可能性が高く、其のカードが何であるかが分かったの。」
「1枚のカード?なんなんだよ其れ。」
「偶然にも違法商売で摘発したカードショップから、あの事件の捜査線上に浮かんで来た其れと同じカードを手に入れたのだけれど、其れが此れよ。」
「『ブラッド・アポカリプス』…レベル8の悪魔族シンクロモンスターじゃねぇか?ダークシンクロみたいな感じは受けねぇ……見た目は普通のカードだよな?」
「見た目はそうだけれど、念の為鑑識で鑑定してみたら驚いたわ。
このカードには『バーチャルソリッドフィール増幅機能』を有してる、特殊なフィルムが表面に施されていたの。更に調べて見たら、このカードは直ぐに回収さ
れたのだけど、何枚かは市場に出回ってしまっていたと言う事なのよ。」
フィール増幅機能だとぉ!?
高められたデュエリストのフィールは、時にはDホイールだって吹っ飛ばすことが可能だってのに、それが違法に、そして異常に増幅されたとしたら……其れ
は相手に致命傷を負わせるだけの物にだってなりかねねぇし、その衝撃で火事を起こす事だって出来るかも知れねぇ。
つまり、ピアスンをあんなにしてくれた下手人野郎は、其れと同じカードを持ってるって事かよ深影さん?
「そうなるわ……ただ、其れが誰なのかまでは分からないのだけれどね……。
当時の彼と交流があったのは、貴方と『ボルガー&カンパニー社』の社長であるボルガー氏なのだけど、貴方達は何方も『シロ』だから、それ以外だと…」
いや、そんだけ分かれば充分だぜ。
腐れ外道であっても、デュエルでピアスンをぶっ殺した以上は、其れなりの腕を持ったデュエリストって事になるだろうからな……だったら、どんな方法を使っ
てでも、ソイツが俺達の前に現れるようにしてやるだけだ。
あとは俺に任せといてくれ深影さん。ピアスンを殺した犯人は、必ず俺がセキュリティに突き出してやるからよ。
「クロウ君………分かりました、お任せします。
だけど、絶対に無理はしないように。貴方に何かあったら、遊里さんをはじめ、悲しむ人が沢山居るのだから。」
分かってるって。
この鉄砲玉のクロウ様は、間違ってもダチ公やガキ共を悲しませるような間抜けな事はしねぇよ――やっちまったら、其れこそピアスンに顔向け出来ねぇし。
しかしだ、漸く手掛かりを手に入れたぜ。
下手人野郎は、絶対に見つけ出して叩きのめしてやる――!
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・・・
んで、やって来たのは『ボルガー&カンパニー社』の社長室。
普通に考えりゃ、一般市民が大企業の社長さんと会う事なんざ出来ねぇんだろうが、俺の場合は『社長と顔見知り』って事で、受付で名前を言えば簡単に会
う事が出来るんだよな……まぁ、面倒くさくなくていいけど。
「スマナイ、待たせたなクロウ?」
「いや、こっちもアポなしだったからお互い様だぜボルガー。」
「ふふ、確かにその通りだな。
しかし、今日は一体如何した?WRGPも近いし、お前も忙しいと思っていたんだが、態々アポなしでやってくるとは、何かあったのか?」
「あぁ、あったぜ?其れも特大の奴がな――ピアスンを殺した奴が使ってたカードってのが何だか分かったんだ。」
「なに!?本当か、クロウ!!」
あぁ、セキュリティの知り合いから得た情報だから間違いねぇ。
ブラッド・アポカリプスってカードで、このカードには違法な『フィール増幅機能』が搭載されてたらしいんだ。そんでピアスンは、其れのせいで……
――詳細説明中だ。少し待ってろよな。
「そんな事が……いや、だが犯人が使って居たカードの存在が分かっただけでも僥倖だ。
即時回収されたと言うのならば、市場に出回った枚数はそんなに多くは無い筈……精々20枚も出回って居れば多い部類だろうから、其れを持って居る者
は、そんなに多くは無いだろうからね。」
「とは言え、犯人を探し出すのは容易じゃねぇ……これ以外にも何か手掛かりがありゃ違うんだろうが……」
「確かに………っと、そう言えば!!」
如何したボルガー?何か思いついたのか?
「いや、思い出したんだよ。
あの頃、やたらとピアスンに付きまとっていた男が居たんだ。ピアスンのデッキのあるカードを譲ってくれと、うんざりする程やって来ていたんだよ。
勿論、ピアスンが首を縦に振る事は無かったが……或はその男が、応じないピアスンに怒りを覚えて、衝動のままデュエルを挑み、そして件のカードを使っ
た可能性はあるかも知れない。」
「マジかよ……そんな奴が居たのか。」
だけどソイツは、一体ピアスンのデッキのどのカードを欲しがってたんだ?
ピアスンのデッキは、俺と同じ『BF』デッキだから、同系統のデッキじゃない限り、欲しがるようなカードはねぇと思うんだが……
「確かにその通りだが、ピアスンには切り札にしていたシンクロモンスターが有ったんだ。――其れが『玄鳳龍 ブラック・フェザー』と言う、世界で1枚しか存
在していない、ドラゴン族のモンスターだ。」
世界に一枚って、まるで遊里やジャックの『決闘龍』だな。
つまり、犯人はその『玄鳳龍 ブラック・フェザー』を欲しがってた訳か……そして、その過程でピアスンを殺すに至ったってのか……マジでクソだぜ。
って、でも其れを踏まえると、其のカードは犯人の手に渡っちまったのか!?
「いや、その可能性は低いだろう。
ピアスンは大胆だが慎重な奴だったから、最後のデュエルは玄鳳龍を使わずに、寧ろ玄鳳龍のカードを何処かに隠したのではないかと思う。
仮に、彼が玄鳳龍のカードを手に入れていたとしら、その力を振りかざして、良くも悪くも何らかの情報が入ってくるだろうからね。」
「成程、言われてみりゃ確かにそうだ。」
だけど、其れが分かっても、その最大の容疑者をどうやって見つける?何処に居るかも分からない奴を、世界中虱潰しに探すのは現実的じゃないぜ?
「其処は現代のネットワーク社会を大いに利用しようじゃないか。」
「ってーと……具体的には如何すんだ?」
「ネット上に『鉄砲玉のクロウが玄鳳龍のカードを手に入れた』と言う『噂話』をアップする。恐らく多くの人は関心を示さないだろうが、玄鳳龍のカードを狙って
いた輩からすれば、此れは見過ごせないだろう?
そして、君がレーンを走って居れば必ず犯人の方から、玄鳳龍を手に入れようと近付いて来る筈だから……其処をデュエルで討つ!!悪くないだろう?」
悪くない所か最高だぜボルガー。
ぶっちゃけて言うと、この方法だと関係ない奴が現れる可能性もあるけど、そんな奴は速攻でブッ飛ばしてやれば問題ねぇしな。
「その意気だクロウ。
ネットの情報操作の方は私がやるから、クロウは現れた相手を倒す事だけに集中してくれ……あの時の一件に、此れで漸くケリを付ける事が出来る!!」
「任されたぜボルガー!!」
ピアスンを殺した奴は絶対に許さねぇからな……絶対にとっ捕まえてやるぜ!!
――――――
Side:遊里
あふ……流石に眠いわね。
昨日は深夜までジャックとデュエル談義してて、気が付けば日付が変わったからね……なのに、なんで私がこの場所に居るのかと言うと、如何やら此れから
クロウが因縁の相手とデュエルするかも知れないって言う事でね。
大丈夫だとは思うけど、くれぐれも気を付けてねクロウ?
「言われるまでもねぇ……気を付けるのは当然だらな
つっかー、ぶっちゃけて言うと、負ける気がしねぇ!!相手が誰であってもな!!!」
「言うわねクロウ?流石は鉄砲玉を自称するだけの事はあるわ。」
――ブロロロロロロロロロロロロロロロロ……
っと、此処でエンジン音?
見れば、クロウのすぐ近くに全身黒ずくめのデュエリストが……此れは、まさか!!!
「君がクロウ君ですね?ネットや新聞で読みましたよ、君が『玄鳳龍』のカードを手に入れたと言う事をね。」
「だったら如何する?」
「決まっているでしょう……そのカードを掛けて私とデュエルをしていただきます!!」
「餌に魚が掛かったみてぇだな……上等だ、相手になってやるぜ!!」
クロウの因縁の相手?
だとしたら、このデュエルは普通じゃ済まないのは確実よね……だけど負けるなクロウ!!こんなにやけ面の奴に負けるようなアンタじゃないでしょ?
絶対に勝って来なさいよ?
「おうよ!!コイツは必ずぶっ倒してやる!!」
その意気よ!!
頑張れクロウ――アンタの過去を拭えるのは、アンタ以外には存在していないんだからね。
「俺に勝てると思ったら大間違いだぜ?」
「何とでも言うがいいでしょう、勝つのは私なのだから……」
「「デュエル!!」」
クロウ:LP4000 SC0
???:LP4000 SC0
そして始まったライディングデュエル!!
如何にもこのデュエルは、大人しく終わるとは思えないわ――間違いなく一悶着あるような気がするけど其れは其れで、ね。
頑張れクロウ、絶対に負けないでよ!!
To Be Continued… 
登場カード補足
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