*はじめに。


この話(中編?)は、祝福第79話の感想(Pixiv)に書いた、なのはとはやての人工リンカーコアの会話が発端となりました(笑)。
祝福の世界観を出来るだけ壊さずに(笑)、ちょびっと?オリジナルな設定を加えております。


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 人工リンカーコア移植計画……。

 最高評議会の依頼により、リンカーコアを持たない人間に対して人工的に作られたリンカーコアを移植し、魔導師不足を解消しようとする計画。
 だがそう上手く適合する筈もなく、何百人と言う尊い命が失われた……。否、正しくは奪われたと言うべきか。

 これから語られる話は、魔法の概念のない世界に生まれ落ちた、とある二人の魔導師に纏わる物語。




終焉(ハジマリ)の歌
  〜夜天を渡る(祝福)に乗せて、聖なる月へ捧ぐ〜




―――新暦5X年―――

  ―――第21管理外世界ズラール
             人工リンカーコア研究所―――


 「えぇいっ!何故だっ!何故こうも失敗するのだっ?
  理論も何もかも全てに於いて問題ない筈だっ!なのにどうして成功せんのだっ!」



 ダンッ!と目の前のコンソールを殴り付けながら、年老いた一人の研究者が声を荒げる。

 彼の名は、ツルーヒ・カハゲール。

 最高評議会派に属する元時空管理局の局員にして、技術開発部の局員だった男だ。

 そんな彼に、上司が人工リンカーコア移植計画の話を持ってきた。

 慢性的な魔導師不足を彼自身も嘆いており、何とかしたいと常々思っていた。
 其処へ降って沸いた様に人造魔導師計画の一角である、人工リンカーコアの研究開発計画の話。

 飛び付かない訳はない。

 こうして彼は人工リンカーコアの研究開発の責任者に抜擢されて現在に至る。

 そして、そんな彼を冷ややかな眼差しで見つめる研究員が一人。


  「(こんな事が成功する訳がない。
   リンカーコアのない者に、人工的に作られたリンカーコアが適合するとしたら、アイツが言ってた様に何らかの特別な要因がなければ無理だろう……)」


 そう心の中で悪態を吐くと、頭を掻き毟っているツルーヒを無視して研究室を後にする。

 彼の名は、リオン・アークヒール。

 元々はA+ランクの空戦魔導師……階級は二等空尉だったが、とある事故が原因で大怪我を負い、一線を退かざるを得なかった。

 何の事はない、リオンの上司がその実力を妬み、事故に見せ掛け亡き者にしようとしたが失敗。
 死ぬ事はなかったが、結果的にリオンはリンカーコアを損傷。

 「飛べなくなった空戦魔導師なぞ、我が隊に必要無し。だがその知識は管理局の為に役立てて貰う」

 リオンは魔法に頼らずとも、徒手空拳のみで相手を圧倒する事も可能なのだ(因みに剣術もそこそこのレベルである)。
 勿論魔導戦技に於いては言うに非ず。
 なので本来なら陸士訓練校の教師でも可笑しくはないのだが、何かしらの裏工作をされたのだろう、結果この研究所に体よく追い出されたのだ。

 表向きは新たな魔導技術に関する研究を掲げているが、実際に行われているのは非人道的な実験。

 己の力は力無き者を護る為のモノ。平然と命を蔑ろにしている連中に、己の知識を差し出す事なぞ愚の骨頂。
 
 故にリオンの正義が許す筈もなく、研究開発に対しては消極的である為、雑用に甘んじているのだ。


 常時この研究所には40〜50人程の研究員がいるが、誰一人として廊下を歩くリオンとすれ違う者はいない。

 そんな研究所内にある地下の一角、リオンはとある壁の前で立ち止まり左右を確認し、壁をタッチする。

 ピピピ、と電子ロック音が響き、音もなく壁の一部が左右に開き、リオンはスッと身を滑り込ませた。

 リオンの目の前に浮かぶ、二つの人工リンカーコア。
 この研究所が所有している1,200個ある人工リンカーコアの中でも、魔力素が飛び抜けて高いコアなのだ。

 リオンは開発された人工リンカーコアの中から、初めは特に反応の薄かったこの二つのリンカーコアを抜き出し、密かにこの部屋へと移し調整を行っていたのだ。

 当初はあわよくばどちらかを使って、自分のリンカーコアの修復に使えないかと試行錯誤していたが、
 コアを調整しているうちになんとなく違和感を覚え詳しく調べてみると、実際は高い魔力素を内包しており、
 また僅かではあるが『意識』のようなモノを確認、自分のコアの修復や実験の為に使用するべきではないと、リオンは結論付けたのだ。

 そんな二つのコアの様子を確認した後、ピピピ、と目の前に浮かぶモニターのコンソールをタッチし、何処かに連絡を取る。


 『やあリオン君、久し振りだね』

 「……あんたもな、スカリー」


 通信の相手は、ジェイル・スカリエッティ。

 スカリエッティとリオンが使用している通信回線は特殊なモノで、魔力を関知される事も通信を傍受されることもない。


 『それでそちらの様子はどうだい?』

 「相変わらず実験は失敗ばかりさ。
  確かに人工リンカーコア自体は作る事は出来るが、それがリンカーコアを持たない人間に適合するかと言えば話が違ってくる。
  体内にない臓器を、無理矢理くっ付けるようなモンじゃねぇか……」

 『クックックッ、言い得て妙だね。確かにその通りだよ。ところでリオン君……本気かね……?』


 一頻り楽しそうに笑った後、スカリエッティは表情を引き締めてリオンに訊ねる。


 「……あぁ、本気だ。こんな命を蔑ろにする下らねぇ計画はぶっ潰す」


 スカリエッティ同様、表情を引き締めてリオンはキッパリと告げる。


 『……だが実行するには君自身が起爆剤に成らなければならない。
  私にしてみれば、君のような優秀な魔導師を失いたくは無いんだがね……』

 「……魔導師として飛べなくなって、既に5年も経った。リンカーコアが修復している兆しもない。
  局の連中が本気で、俺が培ってきた技術技能を教えてやって欲しいと思っていたなら、訓練校への異動なりを言ってきた筈。
  それすらなかったと言う事は、俺の存在自体が邪魔だったんだろうよ」


 だから応援要請を掛けても生返事で、端っから応じる気はなかったんだろう、とリオンは結論付けている。


 「それにスカリー。あんたも近い内に密かに開発されてる『戦闘機人計画』の機体を強奪……保護する予定だろう?
  どんなタイプが開発されてるかは知らねェが、俺が残したデータを後々あんたが保護した子等の役に立ててくれればそれでいいさ」

 『……リオン君……。そうだね、彼女たちを保護した暁には、君の残してくれたデータを活用させて貰うよ』


 瀕死の重症を負ったあの日、リオンは咄嗟に砕けたデバイスに特殊なジャミングを施し、スカリエッティが回収に来る事を信じて地中に埋めた。
 直感的に『嵌められた』と感じた為だ。

 それからそう日が経たないうちに、リオンが撃墜された事を知ったスカリエッティが、
 その現場に現れ微弱ながらに魔力を感じ取った地中を掘り返すと、砕けたデバイスのコアを発見、
 持ち帰って解析した後データのバックアップを行い、リオンに返す為修理を行ったのだ。
 尤もリオンは必要ないと突っ返したので、スカリエッティは何れ必要になるだろうと思い、
 新たに造る事になるデバイスのコアにオーバーホールし、保存する事にしたのだ。


 そんなスカリエッティとリオンが出逢ったのは、とある管理外世界の一つで墜落される何ヵ月か前。

 出逢った時点で、既にスカリエッティは死亡したとされていた為(自作自演だが)、
 生きていた事にリオンは警戒したものの、見た目の年齢も近かった事もあり何故か意気投合。

 研究所へ左遷されて1年経った頃に、スカリエッティから連絡が入り、
 管理局にも最高評議会に対しても不信感が在った事(この時にその正体をスカリエッティよりもたらされた)を切欠に、
 お互い秘密裏に情報交換を行う様になったのだ。

 スカリエッティにすれば、最高評議会によって産み出されてから数年、初めて友と呼べる存在と巡り逢ったのだ。


 『それよりもその子達の状態はどうだい?』

 「ん?あぁ、順調だよ。ツルーヒ達にバレないよう認識結界を張っているし。
  自我の様なモノを持っているなら、インテリジェントデバイスに作り替えた方が無難だとは思うが、デバイスとなったこの子達を十全に扱える魔導師が現れるとは限らないし……」

 『何より君の勘が告げるのだろう?』


 何の問題もなく、この子達が適合する人間が現れる、と。


 「まぁね。適合者が居たとしても、管理外世界の可能性だって無きにしも非ず。
  むしろその方が管理局に飼い慣らされ潰されるよりかはマシさ。」

 『成る程。そうなると送り先は管理外世界、と言う事になるね?』

 「あぁ、幾つか候補はある。決まれば連絡しよう。
  管理世界広しと言えども、柵もなく管理外世界まで追跡調査が出来るのはスカリーだけだろうしな」


 管理局法に於いて管理外世界への干渉は禁じられている。稀に管理外世界にて魔力を持つ者が現れる事もあるが。

 そんな事もあり、既にスカリエッティにはこの二つの人工リンカーコアのパターンのデータを渡してあり、リオンの計画が実行された後、スカリエッティにその経過を観察して貰う手筈となっている。


 『っと、そろそろ時間だね』

 「だな。今度は計画を実行する前日にでもするよ。追跡の準備もあるだろうし」

 『うむ、了解した。ではな』


 そう短く挨拶をするとスカリエッティは通信を切り、リオンもまた、通信を切った。そして首をコキリ、と鳴らしながら二つのリンカーコアに向き合い、調整を始めた。


 「管理外世界……。余りにも辺境過ぎるとスカリーと言えども追跡出来ない……。かといって近すぎるのもなぁ……。
  ……つー事はやっぱ『彼処』かぁ……」


 既に帰りを待つ家族もない故郷の星を思い描いて、リオンは寂し気に笑みを浮かべた。
 そして小さく「うし、」と洩らしながらカーソルに指を滑らせ、リンカーコアに新たなデータを書き加えて行く。

 そのデータは、適合者とのリンカーコアと融合した時点でデリートされる程度のモノだが。

 しかしリオンが計画実行を予定していた日を待たずに、事態は急展開をみせるのだった。






  To Be Continued…