Side:エリカ


つくばガーディアン中学――黒森峰、明光大、愛和以外が初出場校である今大会で、準決勝まで上り詰めて来たって言うのは、其処まで3強
である私達と当たらなかっただけだと思ってたけど、つくばガーディアンの隊長は中々の物だわ。
稜線を取ろうとした相手を妨害するのは当然だけど、まさか今のレギュレーションで許されている戦車の中では、最強の380mmロケット砲を使
えるシュトゥルムティーガーを投入して来るとはね。

しかもルールで許されている『SECRET』を使ってでの使用だから、みほでも此れは予想出来なかったでしょうね。
何よりも、みほが明光大に入ってからの3年間で、本当の意味で先手を取ったって言うのも見事ね……此れまでは、初撃破を取ったとしても、
みほはそれを補って有り余る戦術を展開していたからね。
だけど、今回は全てにおいて明光大が圧倒的に不利……こんな事は、初めてよ。



「でも、みほさんが負けるとは思ってませんよねエリカさん?」

「当たり前でしょ小梅。」

つくばガーディアンの隊長が切れ者であるのは間違いないし、実力だってあるのは認めるわ。
だけど、其れでも最終的に勝つのはみほ率いる明光大よ。其れだけは、絶対に覆る事はないって私は思ってるからね。



「えへへ、実は私もですよエリカさん。
 と言うか、Ⅲ突2輌を失った代わりに、みほさんはつくばガーディアンがシュトゥルムティーガーを使ってる事は看破したと思うんですよ?
 となれば……」

「先ずはシュトゥルムティーガーを撃破しに行くでしょうね。」

超長距離砲撃は、近くに敵が居ないから出来る事であって、逆に近寄られてしまったら、其れに対処しなくてはならなくなるから、近付く事さえ
出来ればシュトゥルムティーガーの砲撃を封じることができるモノ。

さぁ、この局面を如何引っ繰り返すか……自分の試合でもないのに、楽しみになって来たわね。











ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer54
激突!撃滅!そして大喝采です!!』









No Side


序盤でⅢ突2輌を失った明光大だが、Ⅲ突2輌の犠牲をコストに、みほは砲撃を放った相手を看破するに至っていた。
着弾直前に一瞬見えた弾丸から、超長距離砲撃を放ったのはシュトゥルムティーガーだと見破ったのは流石としか言いようがないが、着弾前
の一瞬で、弾丸の詳細を読み取った動体視力は凄まじいとしか言えないだろう。

だが、超長距離砲撃を放った犯人を看破してからのみほの決断は早かった。


「此れより、私達はシュトゥルムティーガーを撃破しに行きます。隊長車1輌のみで。
 残った部隊は、進軍しつつ、敵チームの動きに細心の注意を払って下さい――重装甲、重火力の戦車と戦う場合は、何時も以上に気を引き
 占めておかないと、即撃破されちゃいますから。
 接敵して、交戦可能な状態になったら、攻撃よりも回避重視の戦術で戦って下さい。」


自らシュトゥルムティーガーの撃破に向かい、残る部隊にはつくばガーディアンと交戦状態になった際にどう戦うべきかをザックリ伝えて行く。
アバウトと思うかもしれないが、此れが中々どうして功を奏しているのだ明光大は。
と言うか、明光大の隊員にとっては、このみほの指示のアバウトさこそが武器とも言えるのである。

みほの指示は、一見すると『大筋は伝えたから、後はお前等で考えてやれ』と言わんばかりの物にも見えるが、其れは実は、大筋だけを決め
ておいて、細かい所は各員の裁量に任せた物であるのだ。
そして、其れが出来るのはみほが仲間の事を信じているからに他ならない。何よりも、明光大の戦車道はみほが立て直した様なモノであるの
は間違いないが、その隊員達は、みほからあらゆる戦術を教え込まれていたのである。

だから、ザックリとしたアバウトな指示であっても、其処から自分のチームが動くべきかを判断することができるのだ。


「そして、隊長車が戦線を離れている間は、副隊長の梓ちゃんに隊の全指揮権を譲渡します。
 ――私が居ない間、やってくれるね梓ちゃん?」

「――はい!大役ですが、務めさせて頂きます!!」


更にみほは、此処で一時的に隊の全指揮権を副隊長の梓に譲渡。
普通なら、隊長車自らが1輌のみで、敵の超長距離射撃砲撃を担っている戦車を撃破しに行こうとは考えない故に、如何に副隊長とは言えど
も、一時的に指揮権の全権譲渡など行わないだろう。

しかし、明光大の誰もがその決定に異を唱えはしない。
みほ率いる隊長車が、明光大戦車道チームの中でも群を抜いた実力であるのは、誰もが認める事であるし、副隊長の梓も、みほの直接指導
によって、戦車道を始めて僅か1年であるにも拘らずジュニアユース選抜選手級の戦車乗りとなっている。
だからこそ、最も高い実力を持つ者がシュトゥルムティーガーの撃破に向かうのは当然であるし、みほの愛弟子とも言うべき梓が、一時的とは
言え指揮権を譲渡されても当然だと思っているのだ。

同時に此れは、みほが梓を心底信頼しているからこそ出来た事でもある。
全くの素人であったにも拘らずメキメキと成長し、通常の練習以外の時間でも己の個人指導に弱音一つ吐かずに喰らい付いて、そしてその全
てを自分の血肉にして来た梓だから、みほも全権譲渡をする決断をしたのだ。


「それじゃあ、ちょっと大虎退治に行ってきます。撃破したら、発煙筒で合図しますので。」

「了解。隊長、御武運を。」

「うん、頑張って来るね。」


シュトゥルムティーガー撃破に向かうみほに対して、梓が敬礼すれば、みほも其れを返す。

其のままみほ率いる隊長車は本体を離脱してシュトルムティーガーの撃破に向かい、此処からは梓が本体の指揮官だ。


「シュトゥルムティーガーは、必ず西住隊長が撃破する筈ですから、私達は敵本隊との戦闘に集中しましょう。
 重装甲の高火力戦車は、総じて足回りが弱いので、唯一私達が勝ってる機動力を駆使して、敵戦車の足元に攻撃を集中するのが良いと思
 います。
 足を止める事が出来れば、相手は『堅いだけの的』になると思いますから。」


すぐさま、敵本隊との戦闘になった際の作戦を伝えていく。――其れも、みほが指示した内容を確りと踏まえた上での作戦だ。
みほが指示した『攻撃よりも回避を優先』と言う前提を抑えつつ、梓は高火力重装甲戦車の共通の弱点であると言っても過言ではない足回り
に注目し、其処への攻撃を指示したのだ。

履帯や転輪の破壊は、戦車道においては合法の物であり、合法であるのならば、其れを活用しない手はないのである。
尤も、みほの指示を確りと覚えておいて尚、この作戦を思いついた梓は、真に才能が開花してなかっただけで、戦車道の才能をその身に秘め
ていたのだと言う事が分かるだろう。


「西住隊長達が。シュトゥルムティーガーと交戦状態になれば、あの砲撃は止みます。
 その間に、敵本隊に攻撃を仕掛けます――行きましょう、Panzer Vor!!」

「「「「「「了解!!」」」」」」


だから、迷う事は何もない。
明光大の本隊は、梓の乗るパールホワイトのティーガーⅠを先頭に、つくばガーディアン校の本隊を目指して進撃を開始した。








――――――








梓達が進撃する中、シュトゥルムティーガーの撃破に出たみほ達は、つくばガーディアンの本隊に見つからない様に、大回りをした事で、予定
よりも大分時間が掛かってしまったが……


「見つけた……!」

「此処であったが100年目!ぜってーぶっ倒す!!」


その甲斐あって、みほが『此のフィールドでシュトゥルムティーガーが砲撃を行う事が出来るのは此処だ』と予測した場所で発見する事が出来
たのである。


「つぼみさん、適度にフェイント入れながら全速力で走り回って!」

「了解よみほさん!!」

「青子さん、可也無茶だって言うのは分かってますけど、私が指示したら1秒だけ装填速度を上げて装填してくれる?」

「1秒か……結構きついけどやって出来ねぇ事じゃねぇ!任せとけや!!」

「任せたよ。
 ナオミさん……『狙う事』って出来るかな?」

「愚問ねみほ……私を誰だと思ってるの?
 ネットでは中学戦車道最強の砲手って言われてる私に、仕損じはないわ――貴女の望みの物、狙い撃ってあげるわ。」

「其れは頼もしいね……なら、指示したら頼むよ!!」


そして、シュトゥルムティーガーを目視したみほは、すぐさま仲間達に指示を飛ばす。
内容だけを聞けば、結構な無茶振りであると思えるのだが、仲間を信じているみほだからこんな指示が出せるのだ――己の乗る戦車の仲間
ならば、其れができるだろうと信じて。

同時に車長に任されたクルーもまたその思いに応えようとせんとするのは当然の事と言えるだろう。

操縦士のつぼみは、パンターの最高時速55kmを維持しながら、的を絞らせない様にフェイントを入れながら兎に角動き回る。
シュトゥルムティーガーは自走砲なので回転砲塔がない為、方向転換する場合には車体全体を動かさねばならない為、相手に動き回られると
可成り戦い辛いのだ。
シュトゥルムティーガーの主砲ならば、大抵の戦車は、其れこそマウスであっても当たれば一撃必殺だが、逆に言うなら当たらなければどうっ
て事ないのである。

ナオミは未だみほから『狙って』の指示は出ていないモノの、牽制目的の砲撃を行い、其れを青子の装填がサポートする。
因みにナオミが撃破狙いで打って居ないのは、パンターの主砲では、シュトゥルムティーガーの150mm装甲を抜く事が出来ないのと、動き回
る中でみほが何かを数えている様だったからだ。


「(みほは何を数えてるの?……っと、今のは際どかった、よく避けたわねつぼみ?)」

「1、2、3……」

「(……カウントが1からに戻ってる?……まさか!!)」

「18、19、20……」


――ドン!!


みほが20まで数えた所で、シュトゥルムティーガーの主砲が火を噴く!
無論それはつぼみが巧みな操縦技術で回避するが、此れでナオミはみほが何の数を数えていたかが分かった――そう、みほはシュトゥルム
ティーガーが1発発射してから次弾発射までの間隔を数えていたのだ。

交戦を開始してから、シュトゥルムティーガーが放った砲撃は4発だが、その全てが発射までに20秒かかっている。
普通に考えれば遅い装填速度だが、380mmロケット砲はクレーンの補助を使っても通常は乗員5人全員で行わなければ不可能なのだ。
が、つくばガーディアンのシュトゥルムティーガーは、車体を動かしながら砲撃を行っている為、操縦士と砲撃手以外の3人で装填を行っている
事になる訳で、其れで20秒と言うのは逆に驚異的なスピードである。

では、なぜみほは次弾発射までの時間を数えていたのか?
其れこそが、ナオミと青子へ出した指示に必要だったからだ。

砲撃が放たれた直後、みほは再びカウントを開始。


「11、12……青子さん、最速装填!!」

「よっしゃー、任せろい!!」


12まで数えた時点で、青子に『1秒早い装填』を指示し、青子も其れに応えて高速装填!この時点で、14カウント。


「ナオミさん、狙って!!」

「了解!」



そして、ナオミもみほの指示を受け、狙いを定めて発射!
みほは『何処を』『何を』狙えとは言わなかったが、みほが砲撃の間隔を計っていた事を知ったナオミは、自分が何処を狙って撃つべきなのか
を、確りと理解していた。

パンターから発射された砲弾は、真っすぐとシュトゥルムティーガーに向かって行き、そして、なんと主砲に吸い込まれて行く。
そしてその直後……


――ドガァァァァァァァァァァァァン!!!

――キュポン!!



凄まじい爆発が起こり、シュトゥルムティーガーの主砲は元より正面装甲が吹っ飛んで白旗判定に!
此れだけの爆発が起こったと言うのに、シュトゥルムティーガーの乗員は無事だと言うのだから、特殊カーボンの防御力は素晴らしいと言わざ
るを得ないだろう。

しかし、幾ら主砲内部に砲弾が飛び込んだからと言って、此処までの爆発は起こさない。
では、なぜ爆発したのか?
それは、シュトゥルムティーガーの主砲が発射された直後、まだロケット砲弾が主砲から出る前にパンターの弾丸が飛び込んだからだ。
その為に、本来ならば目標物に着弾して炸裂する筈のロケット砲弾がパンターの砲弾にぶつかって砲身内部で炸裂してしまい、結果として正
面装甲を吹き飛ばす程の爆発が起きたのである。

そしてみほが砲撃の間隔を計っていたのは、此れを成功させるためだ。
シュトゥルムティーガーの短砲身からロケット砲弾が射出されるまでの時間は殆どないが、そのギリギリに打ち込む事が出来れば暴発を誘発
出来ると考え、間隔を計っていたのだ。
計4発の砲撃から、何秒目で装填を終えて、何秒までに撃てばいいのかを計算し、実行したのだ……其れは、コンマ1秒レベルでの計算であ
るのだから、マッタク持って恐れ入る物だ。


「数を数えてたから、若しかしてと思ったけど……主砲の方針にぶっ放すのは正解だったみたいね?――マッタク、よく思い付くわこんな事。」

「シュトゥルムティーガーは正面が傾斜150mm装甲、側面が傾斜80mm装甲だから、パンターの超長砲身75mmで抜くのは難しいから、撃破
 するにはアレしかないと思ったんだ。
 でも、成功できたのは青子さんの装填速度のアップと、ナオミさんの正確な狙い、其れから相手の砲撃を悉く躱してくれたつぼみさんの操縦
 が有ったからこそだよ♪」

「ま、アタシ等全員で倒したって事だな!!」

「それじゃあ、本隊に合流しましょうかみほさん!」

「うん、行こう!」


見事シュトゥルムティーガーを撃破したみほ達は、梓達の本隊に合流すべく移動を開始。――この、シュトゥルムティーガーの撃破が、戦局に
大きな影響を与えたのは言うまでもないだろう。








――――――








――時は少し遡り、みほ率いる隊長車が単独行動を介した直後。



Side:エリカ


隊長車の単独行動……みほは如何やら小梅の予想通り、相手のSECRETが何であるかを看破したみたいね?その上で、隊長自ら其れを倒
しに行くって訳か……良いじゃない。
みほの隊長車がフラッグ車だったら褒められた事じゃないけど、そうでないのなら、この判断は全然ありだわ。普通は、やらないけれどね。
其れに、仮に撃破出来なくても交戦状態になれば超長距離砲撃は封じる事が出来るし、戦闘が長引けば、それだけシュトゥルムティーガーが
不利になる……搭載できるロケット砲弾は14発しかない訳だからね。
尤も、此の試合では固定砲台としての運用を前提としてるから、無理矢理な方法でもっと持って来てるかもしれないけど。



「隊長車自らシュトゥルムティーガーを撃破しに行くとは、相変わらず大胆ですねみほさん。
 シュトゥルムティーガーの存在を看破したら、真っ先に倒しに行くとは思いましたけど、まさか自分で倒しに行くとは思いませんでしたよ?」

「まぁ、みほだからね。」

本気であの子は、『普通ならあり得ない事』を簡単に選択するのよね。
普通に考えれば、隊長が本隊を離脱しての単独行動は指揮系統の混乱を招くだけだけど、恐らくみほは副隊長である澤に、一時的に指揮権
を譲渡して、隊の指揮を任せたのでしょうね。

同時にそれは、訓令戦術が浸透している明光大だから出来た事……車長が夫々『自分で考えて動く事が出来る』から、詳細な指示がなくとも
動く事が出来る訳だからね。



「ですね。
 だけど、澤さんはつくばガーディアンの重装甲高火力の戦車を相手にどう戦う心算なんでしょう?幾ら機動力では勝ってるとは言え、このフィ
 ールドじゃあ、障害物もあまりありませんから、機動力もあまり活かせるとは思えないんですけど……」

「そうね。
 でも、此のフィールドだからこそ活かせる機動力の戦術がある――相手の動きの重さを利用した戦術がね。……分かるでしょう、小梅?」

「まさか!――相手の動きの重さに付け込んで、機動力に物を言わせて動き回りながら攻撃と回避を同時に行う、ヒット&アウェイならぬ、ヒッ
 ト&エスケープ!!」



正解。
更に、幾ら重装甲のブラックプリンスとトータスとは言えども、パンターの75mmなら兎も角として、ティーガーⅠの88mmを連続で撃ち込まれた
ら堪ったもんじゃないわ。
其れでも、分の悪い戦いである事は間違いないけれど、みほがシュトゥルムティーガーを撃破すれば戦局が大きく動く事になるのは間違いな
いわよ小梅。



「ですね!……って言うか、みほさんなら、撃破せずとも、シュトゥルムティーガーに搭載されてる14発のロケット砲弾全部撃ち切らせそうな気
 がするんですけど、その辺如何考えます?」

「……其処は、シュトゥルムティーガーが、固定砲台として運用する事を前提にしてるから、無理矢理搭載限界を超えた砲弾を搭載してる可能
 性を考えて、弾切れは狙わないって事で如何?」

「まぁ、その可能性もありますね確かに。」



まぁ、其れでも積めて20発まででしょうけどね。
さて、此処から如何試合が動くのか、楽しみだわ――少し離れた席で見てる、西住師範も楽しそうに試合の行方を見守ってるものね。








――――――








No Side


エリカと小梅がこんな会話をしてた頃、梓率いる本隊は、つくばガーディアンの本隊を捕捉し、そして迷う事無く進撃を開始していた。
普通に考えれば、攻守力で上回る相手に、真正面から戦いを挑むのは自殺行為でしかないのだが、明光大の戦車は重戦車であっても、レギ
ュレーションギリギリの改造が施されているせいで、カタログスペック以上の機動力を有しているのだ。(ティーガーⅠ、Ⅱ共にカタログスペック
は最高時速38kmだが、明光大のティーガーⅠとⅡは最高速度が40km出る。)

だからこその正面突撃!
梓は、明光大の機動力と回避能力を持ってすれば、つくばガーディアンの攻撃を回避する事は可能だと考えたのである。

だがしかし、つくばガーディアンの隊長である雛菊とて、伊達に準決勝に駒を進めて来た訳ではない。


「(アイスブルーのパンターが、みほさんが居ない?
  ……成程、Ⅲ突を2輌失った事で、私達のSECRETが何であるかを看破し、自ら其れの撃破に向かったと言う所ね……と言う事は、シュトゥ
  ルムティーガーの超長距離砲撃の援護は、遠からず望めなくなる。
  なら、此方は此方で、フラッグ車を狙うのが上策――相手も、フラッグ車を、私を徹底して狙ってくるはずだから。)
 各員に通達。防御力が高い私達ならば、そう簡単に撃破される事はないわ――だから、あまり動かずに砲塔だけを回転させて敵戦車を狙っ
 て!如何に最強と名高いティーガーⅠとパンターであっても、ブラックプリンスとトータスの砲撃なら、何処に当てても倒せるから。」


みほ率いる隊長車が居ない事を確認すると、すぐさまそれが何でかを看破し、シュトゥルムティーガーの超長距離砲撃による支援は、遠からず
望めなくなると言う事を見越して、隊に指示を出す。

隊員も其れに従って攻撃を開始し、明光大の戦車を攻め立てる。

しかし、梓率いる明光大の本隊も、其れに負けずに応戦し、開けた平原では、凄まじいまでの戦車戦が展開されて行く。
明光大のヒット&エスケープは決定打を出せないが、つくばガーディアンもまた、動き回る明光大の戦車を捉えきれずに砲撃をクリーンヒットさ
せる事が出来ない。

此のままでは膠着状態になるのは避けられないが、


「(やっぱり堅い……だけど、西住隊長は『無敵の戦車なんて無い』って言ってたから、ブラックプリンスにもトータスにもどこかに必ず弱点が存
  在してる筈……
  其れは、重装甲の隙間だと思うんだけど……その隙間があるとしたら――)」


梓は、つくばガーディアンの戦車の弱点を探していた。
ブラックプリンスもトータスも、正面装甲の厚さが150mmあると言う、ダイヤモンドの甲羅を持つ戦車であり、その防御力は88mm砲であっても
余裕で防ぐ事が出来る代物なのだ。
だがしかし、多くの兵器がそうであるように、動きを阻害しない為に、可動部の防御力と言うのは、如何しても低下してしまうのだ。

そして、梓はその弱点を見つけた。


「(装甲が薄い所……ターレットリングと足回り!!回転砲塔と本体の僅かな隙間と、転輪と履帯を撃ち抜けば倒せる!!)
 全車に通達!ヒット&エスケープを仕掛ける時、可能な限り、車体とターレットリングの隙間か足回りを狙って下さい!」


如何に重装甲の戦車であっても、絶対に隠す事が出来ない本隊と回転砲塔の隙間と転輪と履帯――全ての戦車が持っている共通の弱点を
梓は看破し、その弱点を攻めるように指示を飛ばす。

そして、その指示は効果抜群!
如何に強固な防御力を誇る重装甲の戦車であっても、装甲の『隙間』と『足』を狙われたら、幾ら何でも如何にもならない。
その甲斐あって――



『つくばガーディアン中学校、トータス2号車、トータス3号車、行動不能。』



見事トータス2輌を撃破!
しかし、つくばガーディアンも負けてはおらず――



「撃てぇ!!!」


――バガァン!!


『明光大付属中学校、パンター4号車、行動不能。』


すぐさまパンターを撃破!
此れで残存車輌数は、明光大が7、つくばガーディアンが8と略同数だ――故に、気が抜けない。
だから自然と、梓と雛菊の視線にも熱が籠る――特に雛菊の其れは相当なモノだが、其れもまた仕方ないだろう。雛菊としては、隻腕の軍神
と名高いみほと戦えることを光栄に思っていたのだが、梓と言う予想外の強敵と相見える事になったのだから。

いざ尋常にと言う所で、其れは起きた。



『つくばガーディアン中学、シュトゥルムティーガー、行動不能。』(此処で、みほがシュトゥルムティーガーを撃破した時と時間が同期。)



入って来たのは、つくばガーディアンのSECRET車輌であったシュトゥルムティーガーが撃破されたと言うアナウンス。



「く……隊長車が居ない事から予想はしてたけど、シュトゥルムティーガーをパンターで撃破するなんて……流石としか言えないわみほさん。」

「超長距離砲撃を行う戦車を撃破したんですね隊長……流石です!!」


其れを聞いた雛菊は、パンターがシュトゥルムティーガーを撃破した事に驚きながらも、みほの手腕に感心し、梓はみほの戦車乗りとしてのレ
ベルの高さに、改めて惚れ直していた。

何れにしても、此れで残存車輌数は五分になり、超長距離砲撃も封じた――準決勝の戦いは、クライマックスが幕を上げようとしていた。


「行きます!!!」

「受けて立つわ!!」


そして、この準決勝第2試合が更に白熱するのは間違いだろう。











 To Be Continued… 





キャラクター補足