Side:エリカ


みほの策が巧く嵌って、黒森峰を引き剥がす事が出来た訳だけど、市街地に向かうにはこの川を渡らないとならないのよね……100m程下流
にある橋を渡っても良いんだけど、其れだと市街地に入るのに遠回りになるから使えないわ。
取り敢えず川の深さ的に水没する事だけは無いでしょうけど、結構流れが強いわね……どうやって渡る心算なのみほ?



「上流から軽い戦車順に並んで渡るのがベターかな?
 下流に重い戦車を配置しておけば、早々簡単に流される事は無いと思うし、上流の戦車がガードになる事で、足の遅い重戦車でもスムーズ
 に川を渡れると思うしね。」

「モータースポーツで言う所のスリップストリームの応用って訳ね?」

「確かにその方法なら、可成り安全に川を渡る事が出来ると思います♪」

「えへへ。でしょ?」



えぇ、間違いなく此れなら川を渡る事が出来ると思うわ――予想外のアクシデントが起こらない限りはね。
尤も、アクシデントが起こった所で、みほなら最善の一手を選択して何とかしちゃうんでしょうけれど……今更言う事でもないけど、ホントにみほ
ってば凄い戦車乗りだわ。
みほ自身は『まだまだお姉ちゃんには及ばない』って言ってたけど、私に言わせれば貴女はとっくにまほさんを超えてるんじゃないかと思うわ。
だからこそ、此の試合は負ける気が全くしないわ!

まほさんが率いる黒森峰は確かに最強かも知れないけれど、まほさんを超えたみほが率いる大洗は黒森峰を凌駕してるって胸を張って言う事
が出来るからね。
一部では大洗は『危険な素人集団』とも言われてるみたいだけど、危険な素人集団だからこそエリート集団の常識は一切通じない――黒森峰
の鉄壁の牙城は今日崩れる……ふふ、戦車道戦国時代の幕を私達の手で開けるとしましょうか!









ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer133
『エンジントラブル?其れを超えます。です。』










No Side


黒森峰の奇襲を受けた大洗だが、その後はみほの指示の下で大勢を立て直して稜線での攻防を行い、黒森峰の戦車を3輌狩った所で稜線を
離れ、一路市街地へと向かっていた――市街地戦ならば、みほの能力を十全に生かせるからだ。
だが、その前に立ち塞がる関門――其れが目の前の川だ。
浅い川なので水没する危険は無いが、だが流れが其れなりに速いので渡る際には注意が必要になるだろう。
そういう意味では、みほが提言した、『上流の方から軽い戦車順に並んで渡る』と言うのは、実に理に適った作戦だったと言える――実際に、
上流方面に重量の軽い戦車を並べる事で川に流されるリスクを減らし、同時に其れが重戦車への水流を軽減し、足の重い重戦車の水面移動
をサポートする事になっているのだ。

因みに隊列は上流から


Ⅲ号戦車J型改(L型仕様)
ルノーR35改(R40仕様)
38(t)改(ヘッツァー仕様)
クルセイダーMk.Ⅱ
Ⅲ号突撃砲F型改(G型仕様)
Ⅳ号戦車D型改(H型仕様)
パンターG型
ポルシェティーガー
ティーガーⅡ


と言う編成だ。
よくよく見れば、最も軽いルノーR35改(以降R40と表記)ではなくⅢ号が最上流に配置されているようだが、これは『重すぎず軽すぎず』の絶妙
な重量を持っていた事に依る配置だろう。
Ⅲ号戦車の重量は凡そ21tで、パンターの半分以下だが、其れでも最軽量のルノーR40よりも9t近く重量がある――加えてⅢ号は取り立てて
強力な戦車ではないが、攻守速のバランスが高い水準で纏められている戦車であり、大戦期の『T‐34ショック』が起きるまでは『傑作中戦車』
の名を欲しいままにしていた名機なのだ。
そのバランスの良さから、みほはⅢ号を最上流に配置したのだ――信頼できる性能と適度な重量がある戦車を最上流に配置すれば、最高の
水除けになると考えたのだろう。
勿論それだけでなく、其処には副隊長である梓へのみほの絶対の信頼があったからこそ任せる事が出来た訳だが。


「其れにしても凄いね戦車って……こんな急な流れの川も渡る事が出来ちゃうんだ?」

「フッフッフ、これ位は戦車ならば朝飯前でありますよ武部殿!
 技術的な難が有ったので計画倒れに終わりましたが、大戦期には水陸両用の戦車の開発も行われていたくらいですから。」

「其れってマジなのゆかりん!?
 だとしたら戦車凄いじゃん!特撮映画とかだと速攻で踏み潰されて退場しちゃうやられ兵器なのに、実際にはめっちゃ強いじゃん!!
 みぽりん、これは戦車を低く見てる特撮映画スタッフに物申すべきだよ!!」

「うん、その気持ちはよく分かるよ沙織さん……私も子供の頃ゴ○ラ映画を見るたびに、戦車が速攻で踏み潰されるのを見て良い気分じゃなか
 ったし――って言うか、戦車の扱いの悪さにお母さんが抗議に乗り出そうとしたくらいだからね。
 だけど、中学時代に私が弱小校だった明光大を優勝させた事と、去年の黒森峰のV10達成で、戦車道は盛り上がりを見せてるから、更に盛
 り上がれば戦車への見方も変わる筈だよ。
 だから、更に戦車道を盛り上げる為にもこの戦いには勝たないとね♪」

「ふむ……確かに絶対王者の名を欲しいままにしている黒森峰を、殆ど素人の集まりである大洗が下して優勝したら戦車道が大いに盛り上が
 るのは間違いないだろうな。」

「ポッと出の新参校が優勝したとなれば、其れはとても痛快極まりないですものね。」


その渡河の最中でも、あんこうチームの面々は緊張せずに、何時も通りのノリで会話をしている。――此れは、ある意味で凄い事であると言え
るだろう。
可成りの集中力が必要となる渡河の最中であっても、普段の調子を崩さないというのは、其れだけ精神に余裕があると言う事なのだから。
そして、其れはあんこうチームだけでなく他のチームも同様だ。
ライガーチームではエリカが檄を飛ばして仲間達の気を引き締め、オオワシチームでは小梅が川と言う事から去年の救出劇を語って仲間の士
気を高め、ウサギチームでは梓が『此処を渡り切れれば必ず勝てるから』と掛け声をかけて仲間の力を引き出しているのだ。
此れならば無事に川を渡る事が出来るだろう――観客席の大洗ファンもそう思った矢先に、其れは起きた。



――ブブ……ブブブ……ブスン



「へ?」

「エンジンが止まった……トラブルが起きたみたいだネ。」


あと20m程で対岸に到達するという所で、副隊長車であるⅢ号が突然のエンスト!
20年以上も放置されていた戦車をレストアして使っているのだから、不具合は起きて然りなのだが、このタイミングでのエンストと言うのは、あ
まりにもバッドタイミングが過ぎるだろう。


「Ⅲ号が……梓ちゃん!!」

『こちらは大丈夫です!自分達で何とかしますので、西住隊長達は行って下さい!!』


みほは咄嗟にⅢ号と通信を行うが、梓から返って来たのは『自分達を置いていけ』と言う趣旨の物だった――其れは間違いではないだろう。
後から黒森峰が追ってきている状況ならば、エンストした戦車は見捨てるのが上策だ……動けなくなった1輌にかまけていてフラッグ車が撃破
されたなど、冗談にもならないのだから。

無論、みほも其れは理解している。
黒森峰に勝つ事を優先するのならⅢ号は此処に捨ておくべきだと――だが、其れをしてしまったら自分が否定する祖母の西住流と同じになっ
てしまう……故にみほは悩むのだ。
去年の事故の時は、人命の危機があったから試合を止める事も出来たが、今回の事は試合を中断させるには理由が弱いと言うのも有るのか
もしれない――この川で立ち往生した所で人命の危機があるとは言い難いからだ。
勝利を目指して見捨てるか、其れとも勝率を下げてでも助けるか……普段のみほならば迷わず後者を選ぶ所だが、大洗の廃校と己の戦車道
の正しさを証明する為には勝たねばならない状況にあっては、迷いが生じるのも当然だろう。


「……行ってあげなよ、みぽりん。ううん、行くべきだよ。」

「沙織さん?」

「みぽりんは、助けたいんだよねウサギチームを。
 だったら、そう思った通りに行動するのが一番じゃないかって思うんだ。――って言うか、此処で見捨てるとかみぽりんらしくないと思うから。
 だから、ウサギチームを助けてあげてきて?」

「沙織さん……うん、そうだよね!!」


だが、ここでみほの背中を押したのは沙織だった。
通信士と言う事で目立った活躍が見られない沙織だが、これまで精神的な面でみほを支えて来たのは間違いなく彼女だ――そもそも、転校し
て来たみほ達にクラスの生徒で最初に声を掛けたのは沙織なのだ。
其処からあれよあれよという間にみほ達が戦車道を行う事になったと考えるなら、ある意味で沙織こそが大洗の戦車道を復活させた立役者と
言えなくもないだろう。

その沙織の後押しを受けて、みほも迷いを断ち切りⅢ号の救援に向かう事を決意し、腰に命綱を巻き、手に牽引用のワイヤーを持ってパンター
の外装甲の上に立つ。
此れから、戦車間を渡ってⅢ号まで行こうというのだ。――勿論それは無謀な一手であるのは間違い無いが、しかしみほの目に最早迷いはな
い……それどころか『仲間を救った上で勝つ』と言う思い、否、信念が宿っているかのようにすら見える。

いずれにせよ、隻腕の軍神は己の道を突き進む一手を選んだのだった。








――――――








大洗が川でもたついていた頃、黒森峰の部隊は漸く大洗に追い付こうとしていた――まほの双眼鏡は大洗を捉えていたので、精々後数分も
あれば大洗に追い付く事が出来るだろう。

程なく、黒森峰の部隊は大洗が渡河している場所を見下ろす高台に到着したのだが……


「みほが戦車を飛び移っている?……エンジントラブルでも起きたか?」


其処でまほが目にしたのは、最上流のⅢ号に向かって、戦車間の八艘飛びを披露しているみほだ――其れだけで、まほはみほが何をせんと
しているのか理解した……みほは仲間を助けようとしているのだと。

其の事にまほは安堵の表情を浮かべつつも……


「全車砲撃用意。」

「へ?本気ですか隊長!?」

「単なる威嚇だ……だが、絶対に当てるなよ?――撃て!!」


攻撃命令を下す!!!
『絶対に当てるな』と言っている辺り、此処で大洗を撃破する心算は無いのだろうが、この局面を単純に画面で見たら最悪な事この上ないだろ
う……戦車間を八艘飛びしているみほに対して攻撃してるとしか思えないのだ――如何にまほが『絶対に当てるな』と言った所でだ。


そして、実際にこの光景を見た観客席からは即座に罵声が上がった。


「キタねぇぞ黒森峰!!仲間を助けようとしてる相手を攻撃するなんて、武士の情けって言葉を知らねぇのか!!」

「其れでも王者か!!恥を知れ!!」

「どんな形でも勝てばいいのだってか?そんな物が黒森峰で西住流だってんなら、王道名乗るの止めちまえ!お前等は王道じゃなくて外道の
 方が合ってるぜ!!」


彼方此方から上がる、黒森峰に対してのブーイングと非難の声……戦車道と言う競技の特異性から、競技を行っている選手に観客の声が届く
事は先ず無いが、もしも客席の声が聞こえていたら、黒森峰の隊員達は思い切り顔を歪めていただろう。
それ程までに客席からの『黒森峰バッシング』は凄いのだ。


「ガッデメファッキン黒森峰!!アイアムチョーノ!!
 オイコラ、ふざけた事してんじゃねぇぞアー!!テメェ等、戦車道ってモンを何だと思ってやがんだ馬鹿野郎!!ヒールをやるにしても、ヒール
 にはヒールの守らなきゃならねぇ一線があんだぞオー!!!
 ヒールとして点数つけるなら100点満点中の10点だオイ!テメェ等はヒールじゃなくて外道だオラァ!分かってんのかガッデーム!!」


其れは勿論、大洗応援隊『nOs』を率いる黒のカリスマも同様だ。
両校のオーダーを見た時以上にブチ切れ、もしも此処が観客席でなかったら、手当たり次第にケンカキックを叩き込んだ後に、STFで絞め上げ
ている所だろう。……既にパイプ椅子を手にしている辺り、場外乱闘が始まる可能性が捨てきれないが。

観客席がこれ程紛糾するまでに黒森峰の行為は問題だったのだ――当たり前だ、戦車外に人が出ている所に攻撃しているのだから。
まほの『絶対に当てるな』と言う命令を知らない観客からしたら、戦車間を八艘飛びしているみほに、何時砲弾が当たるか気が気でない訳であ
って、其れが結果として黒森峰に対してのバッシングになっているのだ。

が、この光景に誰よりも衝撃を受けた人物がいた。


「しほ……まほは一体何をやっておる?」


其れは誰であろう、他でもない西住流家元の西住かほだ――此れまでの勝利絶対至上主義を掲げていた不遜な老婆ではなく、オーロラビジョ
ンに映し出されている光景に衝撃を受けているようだ。


「何って……お母様の仰る西住流を、極めて正しく行っているのでしょう?」

「何じゃと……?」

「何を驚いているのです?
 お母様は勝利は命よりも重いと考えているのでしょう?ならば、相手チームの人間が戦車外に出ている所に攻撃したとてマッタク問題はない
 筈では?――特に相手の隊長が戦車外に居るのであれば。」

「馬鹿者!戦車に乗っている相手ならば、特殊カーボンが護ってくれるから手加減も容赦も必要ないわい!
 じゃが、生身の相手では……仮に人に当たらずとも、戦車に当たればその衝撃でみほが落ちるかも知れん……そうなったら!!」

「そうなったら、大洗は指揮官を失い、黒森峰に勝利が舞い込む事になるでしょうね。」


その姿を見たしほは、かほからの問いかけに『まほは貴女の言う西住流を正確に体現しているだけだ』と告げ、寧ろ何処に問題があるのかと
言わんばかりの態度で接する。
しほとて、かほの『勝利至上主義』が『戦車道に於ける戦車の安全性』が前提になって居る事は知っている。(尤も、特殊カーボンで、砲弾が装
甲を貫通しない安全性しか見ていないのだが。)
だからこそ、相手の事まで心配するみほの事を『甘い』と断じ、みほの戦車道を『邪道』としていたのだ――が、生身の人間が戦車の外に出て
いる状況での攻撃に、一気に血が冷めたらしかった。


「そして、黒森峰が勝利すれば、賭けはお母様の勝ちとなり、お母様の言う西住流を――勝利の為ならば、自他問わず命すらコストにする流派
 を広める事が出来るのですから、もっと喜んでも良いのでは?」

「違う……ワシが言って来たのは、こんな事では……」

「いいえ、こんな事なのですよお母様。
 その証拠に、お母様は去年、水没したプラウダの生徒を助けたみほ達の行為を非難しました……其れはつまり、勝利の為ならば相手の命が
 どうなろうと構わないという事でしょう?
 あぁ、特殊なカーボンがと言うのは聞きませんよ?……戦車内への浸水は、特殊なカーボンで防げるモノでは無いのですから。」

「!!」


更にしほから、これまで声高に主張して来た西住流の間違いを真っ向から指摘された上で、更に暗に否定された事にショックを受け、かほはそ
の場に膝をついてしまう。
如何やら、真に人の命が危険に晒されている状況を自らの目で見た事で、漸くかほは己の過ちに気付き、気付かされたのだろう――今まで自
分が何を言って来たのかを理解したかほは、完全に家元としてのプライドが砕かれてしまったようだった。


「まぁ、みほに砲弾が当たる事は無いでしょうけど……あの子ってば、どこぞの英雄みたいに『矢避けの加護』を受けてるんじゃないかって錯覚
 する位に砲弾を避けるのよね。
 キューポラから身を乗り出してる時だって、あの子に砲弾が当たった事ってないし……回避と運の値が255なのは間違いないわね。」

「いえ奥様、更に見切りと幸運の重ね掛けで運と回避は260まで上昇しています。」

「あらそうなの?なら、みほに黒森峰の攻撃が当たる事は絶対にないわね。」


しほと菊代の会話は兎も角、この一件でかほの考えは粉砕されたと見て間違いないだろう――まほが、これを見越して攻撃命令を下したのか
は分からないが、もしそうだったのだとすれば目論見は成功したという事だ。

だが、そうだとしても観客席からの怒号は止まらない。
其れはつまり、かほが提言し、まほが体現した西住流が世間から『ノー』を突き付けられたという事でもあった。








――――――








観客席でそんな事が起きてるとは露知らず、みほは戦車間を八艘飛びで渡って、遂にⅢ号に到達。……助走なしで、最大3m超の距離を跳躍
したみほの身体能力は恐るべきだが、其れこそ今更だろう。


「西住隊長?」

「梓ちゃん、助けに来たよ!」


だが、Ⅲ号に到着したみほを、梓は驚いた顔で見ていた。
当然だ。梓は自分達を捨て置いて行けとみほに言った――無論、エンスト程度ならば何とか出来ると思っていたし、置いて行かれても黒森峰
の戦車を数台は道連れにする心算で居たのだから。


「隊長、如何して!!」

「如何してって……此れが私の戦車道だからだよ梓ちゃん♪」

「隊長……そっか、そうですよね。其れが西住隊長の戦車道ですから!!」


だが其れも、みほの一言で納得の表情に変わる。
此れが私の戦車道――其れはつまり、『チーム皆で勝つんだ、其れが私だから』と言う事に他ならない。ならば、一番弟子としては師の思いを
無下に出来る筈はない。

すぐさま他のクルーを戦車上に呼び出すと、みほが持って来たワイヤーを引っ張り車体に巻き付けて固定して行く。こうしてしまえば、残る8輌
の戦車で対岸まで引っ張る事が出来るのだ。
更にエンジンが動かなくとも、Ⅲ号は攻撃は可能なので黒森峰に対して応戦する事も出来る。


「これで良し……エンジントラブルはアクシデントだったけど、でもエンジンが死んだとは考え辛いから、必ず復活するから諦めないで。
 諦めなければ、必ず道は開けるって言うしね。」

「分かってます。
 と言うか、エンストが原因で撃破されたとか洒落にもなりませんから……大丈夫です、必ず復活しますから信じていてください西住隊長!」

「うん、信じてるよ梓ちゃん。」


牽引の準備が整うと、みほと梓は拳を一度軽く合わせる――だけでなく、みほは梓の頬に『頑張って。期待しているよ』の意を込めて軽いキス
を落とした後に、再び八艘飛びでパンターへと戻って行った。


「西住隊長……此れは絶対に此処で終わる事は出来ないよ!!」


みほとしては軽い挨拶の心算だったのだが、其れが梓のやる気を爆増させる事になったのだから、隻腕の軍神恐るべきである。
そして、その甲斐あってか――



――ドルゥゥゥン!!



「動いた!!」

「此れなら行けるネ……梓!!」

「全速前進!砲塔を後ろに回して黒森峰に応戦!!当たらなくても良いから、此方が対岸に渡り切るまでの間、相手の攻撃の手を緩めて!」

「アイサー!了解したよ副隊長!!」


エンジンが復活し、Ⅲ号は戦線に復帰!
紗希の装填速度と、あゆみの射撃がこの上なくかみ合って黒森峰の部隊に損害は与えられなくとも、攻撃の手を緩める事に一役買う活躍をし
たのは間違いない。


「其れじゃあ、次は市街地で会おうね、黒森峰の皆さん!」

「でも、市街地に来るなら覚悟を決めて来なさい――市街地戦こそが、みほの本領発揮なんだからね。」


程なく、川を渡り切った大洗の面々は、そのまま全速力で対岸から離脱し、一路市街地に!
其れを追う黒森峰だが、火力重視の重戦車メインの構成が仇となって、思いのほか川を渡るのに手間取ってしまい、手早く大洗を追撃する事
は出来なかった――つまり、大洗に市街地戦での準備の時間を与えてしまったのだ。みほが最も得意とする市街地戦の準備をさせる時間を。
……この事実は、黒森峰からしたら悪夢でしかないのかもしれない――と言うか悪夢其の物と言えるだろう。

何れにしても、これから始まる市街地戦に於いては、己の常識は通用しないと言う事を再確認すると共に、市街地戦でみほ率いる大洗と戦うと
言う事が何を意味するのかを心の留めておかねばだ。――如何に王者とは言え、軍神の庭に入ったら、只では済まないのだから。








――――――








Side:みほ


ふぅ、Ⅲ号がエンストするトラブルはあったけど、其れは何とかなったから大した問題じゃなかったかよ――寧ろ、問題があるとしたら、この市街
地の何処かにマウスが潜んでる可能性が有るって言う事だよ。
攻守力は最強だけど、鈍足の超大型のネズミを使うとすれば此処だから。



「みほ、如何やら貴女の予想は当たったみたいよ――来たわよ、奴が!!」

「やっぱり市街地に配置されてたか……」

現存する大戦期の戦車では間違いなく最強の主砲と、分厚い装甲を備えた、最強にして最悪の戦車――其れが此処で遂に解禁されたか。

「マウス……!」

コイツだけは、其れこそどんな手を使ってでも撃破しないとだよ……!!マウスを生き残らせてしまったら、こっちの計画は失敗してしまうから。
だから、必ず撃破しなくちゃだね!



「まぁ、行けるんじゃない?
 こっちには私のティーガーⅡに貴女のパンター……ネズミの天敵であるネコ科の大型肉食獣である虎と豹が居る訳だし。」

「ネズミは猫に狩られるモノって?巧い事言うねエリカさん♪」

「なら、食物連鎖の掟に従って、狩るとしましょうか――史上最大級のネズミを。」



勿論だよ小梅さん。
マウスが相手である以上、無傷で撃破って言うのは難しいかも知れないけど、市街地である以上は必ず撃破する事は出来る――使える策が
無限大になる市街地戦なら、裏技・搦め手上等だしね。
隻腕の軍神の真骨頂、少しだけ味わって貰おうかな♪










 To Be Continued… 





キャラクター補足