Side:みほ


青子さんが、無事に中間考査を突破してくれたから、次の試合も万全の状態で臨む事が出来る。――戦車は一人じゃ動かせないから、誰一人
として、欠ける事は出来ないからね。

其れこそ、私達が搭乗する隊長車の装填士不在なんて言うのは笑うに笑えない事だから……よく頑張ってくれました、青子さん。



「まぁ、やれるだけやってみたって所だけどな。
 ぶっちゃけ、丸暗記したところ以外はマッタク持って何もかにも分かってねーからな~~~~。てか、覚えても理解出来ねーってのよ此れ?」

「自慢気に言わないで青子さん。」

「先ずは、理解しようとする心構えが重要よ青子?」

「そう言われても、苦手なモンは苦手だからどうしようもないってのが本音だぜ?
 てか、テストで良い点を取るだけなら理解力って必要じゃないだろ?現に、アタシが今回其れを証明しちまったからなぁ~~~~♪」



其れを言ったら其れまでなんだけど、青子さんは其れを実践しただけに過ぎませんから。
テストで良い点を取るという事と、どれだけ理解しているのかって言う事は別物って言っても過言じゃないって思ってますから、少なくとも私は。

兎に角、次の準決勝の相手は、問答無用の最強にして無敵の黒森峰な上に、指揮官は多分お姉ちゃんだろうから、何ともやり辛いね。

ともあれ、負ける心算はないから出来るだけの作戦を考えて行きましょう!!
それに加えて、当日までに皆の士気も上げていく必要もあるだろうから、此れはもう徹底的にやる以外に他はない……何よりもフラッグ戦だっ
ら黒森峰が相手でも、勝利の可能性は0じゃないからね。
頑張っていきましょう!










ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer13
『いざ、絶対王者への挑戦です!』










さて、準決勝の黒森峰戦は、どんなフィールド何でしょうか近坂部長?



「荒野と林が入り混じっていて、更には小高い丘もある最も基本的な形のフィールドになるわ。
 どんな戦術でも使うことが出来る、ある意味でチームの実力がストレートに問われるフィールドであるとも言えるわね。
 悔しいけれど、チームとしての実力は黒森峰の方が圧倒的に上なのは覆しようがない事なんだけど……王者相手に、如何戦う心算西住?」

「この地形なら稜線を抑えた方が有利になると思います。ですが今回は、敢えて本来抑えるべき稜線は取らずに行こうと思います。」

「敢えて有利な条件を手放すって言うの!?」


より正確に言うのなら、最初から稜線を取りには行かないと言う事ですね。
此のフィールドなら稜線を取った方が絶対有利なのは火を見るよりも明らかですが、其れはお姉ちゃん――黒森峰の隊長だって分かってるだ
ろうから、私達に稜線を取らせる事はしない筈です。
なので、行き成り稜線を取ろうとはせずに、逆に黒森峰に稜線を取らせるように仕向けて、其処に奇襲をかけます。



「…成程、そう言う事ね?流石はみほさん、よく考えているわ。」

「セオリー外しの裏の裏か……マッタク、貴女の智将ぶりには頭が下がるわねみほ。」

「良く分かんねーけど、みほの考える作戦ならだいじょーぶだろ?現に、大会で2回勝ってんだから♪」

「……今ので理解できる隊長車のクルーも大概トンでもないと思うわね。」

「「「「戦車が紡いだ絆の前に、多くの言葉は必要なし!」」」」

「何故、J○J○立ち!?」



何となくです。
とは言っても、実力的には黒森峰の方が圧倒的に上な事実は変わらないので、此方の持てる力を100%……以上を出さなくちゃならないとは
思いますよ?
セオリーから外れる、この考えも、セオリーと言う『枷』を外す事で、限界以上の力を出すことが出来る筈だって考えたからですし。



「敢えてセオリーから外れるか……それで実力以上が出せるかどうかは別として、黒森峰の虚を突く事が出来るかも出来るかも知れないわ。
 偉そうな事を言う心算はないけど、黒森峰は徹底したマニュアル戦術だから、そのマニュアルから外れた事が起こった場合に、即座に対応す
 る能力は決して高くないでしょうからね?」

「不測の事態への対応能力は寧ろ低いと思いますよ、近坂部長。」

黒森峰は、圧倒的な火力を持ってして相手を殲滅する『蹂躙戦法』とも言うべき戦い方が特徴ですよね?
ティーガーを主力にした圧倒的な火力を持ってしての殲滅攻撃は、確かに超強力で、ソコソコの相手ならば簡単に押し潰せる半面、実力が拮
抗している相手とは泥仕合になり易く、奇手や搦め手を使ってくる相手には分が悪いんです。
特に、奇手や搦め手を使われて、不測の事態に陥った場合は極端に脆くなります――隊長の指示に従って、敵を殲滅する事に慣れてるから、
そう言う状況になった時でも、隊長からの指示がないと如何して良いか分からなくなるんです。

隊長であるお姉ちゃんは兎も角として、黒森峰のレギュラー陣で、そう言った事態に自分で対処出来る人は少ないんじゃないでしょうか?
組み合わせ抽選会の時に会った、逸見さんや赤星さんは、余程の事態に陥らない限り、自分で考えて行動する事が出来るかも知れないけど。



「確り分析してるのね貴女って。
 で、こんな事を聞くのはどうかと思うんだけど、黒森峰の隊長って貴女のお姉さんなのよね?――実の姉と戦う事に抵抗とかないのかしら?」



ありませんよそんなモノ。
って言うか、小学生の時にも友達と一緒にお姉ちゃんと戦った事もありますし、そもそも学校が違うんですから、大会に出れば何処かで当たる
可能性って言うのはある訳ですから、抵抗なんて有りませんよ?

其れは、多分お姉ちゃんも同じだと思います。
例え姉妹でも、戦う時には全力を持ってして戦うのが正しい事で、姉妹だから手心を加えようとか考える方が間違いだって思ってますからね?
と言うか、抵抗どころか、お姉ちゃんと戦うのが楽しみですから♪



「楽しみ?」

「考えてもみて下さいよ近坂部長。
 万年1回戦負けの弱小校が、準決勝で王者黒森峰に徹底的に喰らいついて、その末に倒して決勝に進んだなんて、凄くワクワクしません?」

「其れは……言われてみれば確かにそうね?弱小校が王者を退けて決勝に進む……其れは何とも最高な事じゃない!!!
 普通なら『無理だ』って斬り捨てる所だけど、貴女なら其れが出来るんじゃないかって思うわ西住!!――OK、黒森峰の常勝伝説に、私達
 が終止符を打ってやろうじゃないの!!」



勿論その心算です!
私はお姉ちゃんを、黒森峰を倒す。倒して、更にその先に進む!!

勿論、簡単に勝てる相手じゃないけど、車長専任免許をとるために、お姉ちゃんが色んな戦術を見せてくれたから、大抵の戦術は頭に叩き込ま
れてるから、どんな事があっても私は対処できるって自負してるからね。

持てる力の全てを出し切って、黒森峰の牙城を崩して見せる!!








――――――








Side:まほ


明光大付属は――みほは、間違いなく準決勝に駒を進めて来るだろうとは思っていたが、其の予想が当たってくれたおかげで、準決勝は何と
もやり辛い試合になってしまったな?

みほが相手だという事ではなくて、明光大の戦い方はあまりセオリーや定石と言うモノに捕らわれていない事を考えると、戦術がマニュアル化
されている黒森峰にとって、これ以上の天敵はないだろう。
黒森峰の地力は高いが、其れはあくまでも優秀な火力を持って居る重戦車と錬度の高い隊員が充実しているからだが、逆に錬度の割に隊員
夫々が自己の判断で動く事は極めて苦手だ。

攻めている時は兎も角として、一度守りに回ると如何して良いのか分からなくなってしまう部分があるからな。――実際に、大会前に行った練
習試合では、相手の奇襲から陣形を崩されて危なくなる場面も1度ではなく有った事だし。

何よりも厄介なのは、みほは戦車道での定石と非定石を入り交えて戦う事が出来ると言う事だろうな。
定石に則って戦う相手ならば次の一手が予想出来るし、逆に奇策を得意する相手ならばその奇策だけを警戒して居れば何とかなる……しかし
両方をバランスよく混ぜ合わせて使う事が出来るとなると厄介極まりない。
奇策か正攻法かの二者一択とは言え、次の一手がこれほど読み辛い相手もいない。……加えて、みほは1回戦と2回戦で全く異なる戦術を使
って居たから、事前の対策を立てる事も難しいか。

「準決勝は、逸見と赤星に頑張って貰うのも良いかもしれないな。」

「あら、期待のルーキーに出張って貰う心算なの、隊長さん?」

「天城さ……副隊長。」

「今はプライベートだから名前で良いわよ隊長……うぅん、西住。」

「では、そうさせて貰います。」

天城春奈――今年の黒森峰の副隊長を務める『3年生』で、私を今年の新隊長に推薦した人だ。
本来ならば、去年の引き継ぎの際に彼女が隊長職を引き継ぐ筈だったのだけれど、その場で私を隊長に推薦し、自分は副隊長の儘で居る事
を選んだ稀有な先輩だ。
黒森峰の隊長は、黒森峰の戦車道チーム全員が憧れる物だと言うのに、其れを自ら辞退して私に譲るとは、ドレだけの度量があるのやらだ。

で、何用でしょうか天城さん?



「用って程でもないんだけど、次の準決勝は西住にとってはやり辛いんじゃないかと思ってね。
 次の相手の隊長さんは、貴女の妹さんなんでしょ?……幾ら貴女であっても、実の妹とやり合うって言うのは少し抵抗があるんじゃないの?」

「其れに付いては大丈夫です。相手が妹であっても、全力を持ってして相手をするのが西住流ですから。
 ただ、別の意味でみほとはやり辛いのは事実ですよ……ハッキリ言って、あの子の実力は計り知れない物があります。姉の贔屓目を抜きに
 してもです。」

「ふぅん?そう言う物?」



そう言う物です。
天城さん、貴女は戦車乗りとしての私に対してどのような評価を下しますか?



「え?……そうねぇ、先ず押しも押されぬ隊長の器であるのは間違いないわ。実際、部隊を統率する能力はピカ一だと思っているもの。
 其れと、黒森峰の火力部隊の運用法は、冗談抜きで黒森峰始まって以来の物だと私は思っているわ。貴女は最高で最強の隊長よ西住♪」



思った以上の高評価、恐縮です。
でも其れは、逆を言うなら『最高の戦力を与えられた上で、最高の結果を残した』に過ぎないでしょう?――言葉が過ぎるのは百も承知で言わ
せて貰うのならば、今の黒森峰の戦力ならば、誰が指揮をしても、それなりの結果を残す事が出来る筈ですよ。
だからきっと、私が隊長でなくとも黒森峰は此処まで勝ち進んだでしょう。

でもみほはそうじゃない。
あの子は、万年1回戦負けの弱小校を、隊長就任1年目で準決勝にまで引き連れて来た――此れは、私では絶対に出来ない事です。
時間を貰えば、私も弱小校を鍛える事は出来るでしょうが、隊長就任数ケ月で、此処までのレベルにする事は到底不可能――西住流の型に
捕らわれないみほだからこそ、此れが出来たと言えますので。

加えて、あの子は此方の戦い方を徹底的に研究して対策を立てている筈ですからね。



「………西住、アンタの妹さんて人間よね?」

「間違いなく人間ですが、戦車道に関しては、最強無敵の『軍神』と言っても過言ではないと思っています。
 私も一部から『武神』等と言われているようですが、軍神と武神では格が違う――今は未だ私の方が僅かに上でしょうが、あの子が完全に其
 の力を覚醒させた暁には、私は絶対に敵わないでしょうね。
 あの子に秘められた才能は、私を軽く凌駕する…其れこそみほこそが、100年に一度現れると言われる伝説の戦車乗り『スーパー戦車長』
 であるのかも知れませんから。」

「ゴメン、少しだけ髪が逆立った金髪になって、目が碧色になった貴女の妹さんを想像したわ。
 てか、スーパー戦車長って――実の姉である貴女がそう言うなら、きっと間違いないのでしょうね……隻腕隊長を侮ったら、手痛いしっぺ返し
 を喰らうという事ね西住。」



そう言う事です天城さん。
だからこそ、逸見と赤星に頑張って貰うんですよ――あの子達は1回戦と2回戦でそれなりの成果を上げていますが、だからと言ってエース級
の大活躍をした訳じゃない。

だから、みほもこの2人に関してはあまり厳しくマークはしていない筈……だからそこを利用する。
逸見と赤星に、事前に『独立機動権』を与えておけば、私の指示に従わなかったとしても問題にはならないし、あの二人ならばみほともやり合う
事が出来るだろうからね。

……それでも、逸見と赤星二人が力を合わせて、みほと同等と言う所ではあるだろうけれどな。


だが、黒森峰は王者だから簡単に負けてやる心算はない。
私の持てる全ての力を持ってしてみほと対峙する以外の選択肢など有りはしないし、私自身がみほとの戦いに試合前から昂っているからね。

贅沢を言うのならば、決勝でないのが残念だが、準決勝で妹と戦うのも悪くはない。
みほを倒せば、決勝への弾みにもなるからな――厳しい戦いになるかも知れないが、今回は勝たせて貰うぞみほ?

何よりも、此処で負けてしまっては、間違いなく決勝に駒を進めて来るであろう安斎と戦う事は出来なくなってしまうからな?――最高の気分で
大会を終える為にも、私は勝つ!!!

だから、お前も持てる力の全てをぶつけて来いみほ!――其れを正面から受け止めてやるからな!!








――――――








No Side


そして準決勝当日。
既に決勝戦の2つの椅子のうち1つは、安斎千代美が率いる『愛和学院』が取って、残る椅子は一つ。

即ち準決勝の第二試合を戦う、明光大付属と黒森峰の勝者が決勝に進む事が出来る――逆に言うなら、負ければそこで終わりの戦である。

何よりも――


「万年1回戦負けの弱小校を準決勝の舞台にまで引き連れて来るとは……正直な事を言って驚いている。――一体どんな訓練をしたんだ?」

「其れは企業秘密です♪」

「厳しいな、お姉ちゃんにも企業秘密なのか?」

「お姉ちゃんでもです♪」


其れを戦うのは、西住流の姉妹なのだから。
とは言っても、対峙した西住姉妹の間に、緊張やら何やらは感じられない――ともすれば、軽い冗談を言う事が出来る位の空気が其処に出来
上がったと言うべきなのかも知れない。



「SSS級のプロテクトが掛かっていると言う訳か?」

「そう言う事です♪」

「ならば仕方ない、実践の場でその力を知って、その上で考察するしかなさそうだ。――良い試合にしよう、みほ。」

「うん、最高の試合をしようお姉ちゃん!」



――ギュ



その空気の中で握手を交わし、明光大付属も黒森峰も気合は十分に充実!!



「良いか諸君、実力では我等黒森峰の方が上回っているが、相手はその力量差を埋める為にどんな事をしてくるか分からない。
 ともすれば、我等の予想もつかない戦術を繰り出してくる可能性が高いので、不測の事態に陥った場合でも動揺せずに動いて欲しいと思う。」



「実力は黒森峰の方が圧倒的に上ですが、だからこそ其処につけ入る隙がある筈です。
 幾ら指揮官が気を引き締めろと言っても、相手が格下である以上は、人は無意識に自分の方が有利だと言う感情が働いて、其処に絶対的な
 隙が出来ます……其処を突いて行きましょう!」



それぞれの陣営に戻った指揮官は、己が率いるチームに最後の訓示をする。


「では、行くぞ。」

「其れじゃあ行きましょう!」




「「Panzer Vor!」」


そして、試合開始と同時に、両チーム『戦車前進』を指示し、此処に西住姉妹の手加減なしのガチンコバトルの火蓋が切って落とされた!落とさ
れてしまった。

嘗て、姉妹のタイマン模擬戦で、西住流の演習場を半壊させたみほとまほが戦う以上、此の準決勝の第2試合は只では済まないだろう。と言う
か、只で済む筈がない。

試合開始直後であるにも拘らず、フィールドは既に熱狂の渦が巻き起こっている様だった。








――――――








Side:まほ


さて、みほは如何出て来るのだろうか?
普通ならば稜線を取ろうとしてくると考えるのだが、あのみほがそんな定石通りの戦術を展開して来るとは思えんが、だからと言って地の利を
得る事の出来る稜線を自ら放棄するとは考え辛い……果たしてどんな戦術で来るのか。

とは言え、みほ達が狙ってこないのであれば、此方が稜線を取りに行っても良いかも知れない。
――稜線を取れば地の利を得ることが出来る訳だし、序盤での戦果も期待出来るだろうからな。

「全車前進、稜線を取って有利な陣形を展開する。」

「了解――」



――ズドン!!



「のわあぁあぁぁぁぁ!?」



!!……如何した直下!!――其れに今の砲撃音は!!まさか、みほか!?
パンターの有効射程ギリギリの距離から狙い撃ちして来るとは、アイスブルーのパンターの砲撃手の腕前は、高校以上なのは間違いないな。

それ以上に、稜線を取ると言うセオリーを敢えて無視して奇襲を仕掛けてくるあたりにみほの指導の彼是が垣間見えるが……それだけに簡単
には終わらないだろうな。

先ずは定石を外れての奇襲で来たか……上等だ、相手になってやろうじゃないかみほ。
絶対王者黒森峰が相手を屠るのか、それとも万年1回戦負けを脱却した奇跡のチームが絶対王者を退けるのか、実に楽しみであるからな!!

「怯むな、即時陣形を整えて、相手の攻撃に対処しろ。
 逸見と赤星も、周囲の状況を常に確認して的確な対処をしてほしい――頼めるか?」

『『勿論です!!』』



其れを聞いて安心した。

さぁ、初手は譲ったが、本番は此処からだみほ――見せてもらうぞ、お前が明光大付属で培ってきたもの全てを!!得た力の全てを私に見せ
てくれ!

見事な奇襲だったが、その次の一手は何だ?――其れを見せて貰うとしようじゃないか…!!












 To Be Continued… 




キャラクター補足




天城春奈
黒森峰中の3年生で、本来ならば今年度の隊長を務めていた実力者。
だが、まほの方が自分よりも優れていると言う理由から、次年度の隊長にまほを推薦すると言う豪胆な精神の持ち主でもある。
取り敢えず、キレると危険なので、その兆候が見られたその時は、一発殴ってKOするのが上策であろう。