Side:みほ


2回戦は難なく突破出来たけど、次の準決勝はそうは行かないだろうね?
だって、準決勝の相手は、お姉ちゃんが率いる『絶対王者』である黒森峰なんだから――如何に、互いにドイツ製の戦車を有してるとは言っても
保有してる車輛の質も、隊員の錬度も黒森峰の方が絶対的に上だから、綿密な作戦を立てないと、真面に戦う事すら出来ないかもしれない。

だけど、今はそれ以上の敵が私達の前に立ち塞がってるんだよねぇ?



「中間テストって、もうそんな時期か!?ヤバイ、全然勉強してねー!!!」

「テスト何て嫌いだ!!テストなんて、この世界から消えちゃえばいいんだ!!って言うか、本気で消えてなくなれよ!百害あって一利なし!」

「今回も炎上か……俺の未来は真っ赤に燃えてるぜ――」



あらら、クラスの大半が最終回状態だね……まぁ、気持ちは分かるんだけど。

そう、大会の準決勝前に、私達の前には『中間考査』って言う、有り難くない敵が現れてくれたんだよね?
主要五教科のうち、3個以上が赤点だと追試が有って、その追試の日って言うのが、丁度戦車道大会の準決勝の日だから、絶対に3教科以上
で平均以上を取らないとだよ。



「まー、大丈夫だろ?何とかなるって♪」

「私的には、そう言ってる青子さんが一番心配なんですけれどね?」

事と次第によっては、例え付け焼き刃でも勉強合宿を行う事も考えておいた方が良いかも――主に、青子さんの為にやる事になるのは確定な
んだけど。
はぁ……マッタク持って、ラスボス前のラスボスと戦う前に、最悪のラスボスと戦う事になるとは思わなかったよ。










ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer12
『最強ボス:その名は中間考査です』










で、中間考査前の小テストの結果が返って来たんだけど――此れは、如何考えても青子さんはヤバいよね、ナオミさん、つぼみさん?



「ヤバいなんてものじゃないわ――ヤバすぎる何かよこの結果は。」

「一体全体、如何やったらこんな点数が……装填士不在では、隊長車は只のデコイになり下がっちゃうわ!!」

「あはは……返す言葉もねーわ此れ。」



ある筈がないよね青子さん?って言うか、散々にも程があるよこの結果は!!
中間考査前の五教科の小テストの結果が、国語30点、数学31点、社会35点、理科39点で英語に至っては25点の全教科赤点の完全炎上っ
て言うのは、幾ら何でも笑えないよ!?

このままじゃ、中間考査が炎上して補習になって、準決勝は欠場が確定しちゃうから……取り敢えず、中間考査を突破できるように今日から青
子さんの為に勉強合宿だね?



「其れしかないでしょうね、このバカを準決勝に連れて行くには。」

「装填士としての能力は日々向上しているのですから、勉学の方にも精を出せないものなの青子さん?」

「いや~~、やらなきゃいけないのは分かってんだけど、教科書を開くとどうしても眠くなっちゃってどうしようもねーんだわ此れが♪
 寝ちゃダメだとは思ってんだけど、先生の声が子守歌になっちゃって、眠気を抑えることが出来ねー訳よ?……アレに抗うのは無茶振りだ。」



な~~に、其れらしい事言ってるんですか青子さん?
って言うか、授業中に何度シャープペンで突いても、起きた事はただの一度もありませんよね?……だから、勉強合宿は確定だから。手加減な
んてしないから、覚悟しておいてね青子さん?



「大会に出れないのはアタシとしても嫌だけど……だけどお手柔らかに頼みたいんだけど……」

「西住流に撤退の文字はない。ですよ、青子さん?」

「ですよねーーー……上等だ、覚悟決めたらぁ!!
 皆揃って大会に出て、そんでもって勝たなきゃ意味ねぇからな!中間テスト如き、アタシのノリと勢いをフルスロットルして乗り越えてやる!」



その意気や良し!
それじゃあ、今日から放課後は、青子さんの寮室に集まって、徹底的に中間考査前の追い込みをかけて行くよ?ナオミさんとつぼみさんも協力
の程、宜しくお願いします♪



「OK、任されたわ隊長。」

「お任せ下さい、みほさん♪」



せめて、3教科以上で50点取れるようにしないとだよ。
取り敢えず3教科以上で50点取れれば、赤点3つは回避することが出来るから、補習を受けずに済む――だから、教える側も頑張らないとね。








――――――








Side:ナオミ


で、戦車道の練習も終わって、私と青子とつぼみは一旦寮に戻ってから、外泊届を出して、そして今はみほと一緒に西住家の自家用ヘリで、み
ほの家に移動中。
青子救済の勉強合宿を何処でやるかって言う事になった時、当所は青子の寮室の予定だったんだけど夫々の寮の部屋じゃ4人全員が入るの
は厳しい物があるし、みほは外泊の用意なんてしてないから、家に連絡して持って来てもらうかなんかする必要がある――だったら、逆に外泊
の用意がすぐに出来る私達の方が、みほの家に行った方が面倒がないって言う事になった訳。

そしてヘリの中では、青子の小テストの回答がどんな物かを確認しているんだけど……此の回答は、ボケかネタか突っ込み待ちか悩むわね?



「鎌倉幕府が開かれたのは何時か?……296年。
 いい国作ろうの『1192(いいくに)』じゃなくて『296(作ろ)』で書いちゃったんだ――2960年て書かなかっただけましかな?」

「こっちはもっと凄いわ……鉄と酸素が反応してできる物質は?の答えなんですけれど……『錆』。
 間違ってはいないけれど、テストの答えとしては大間違いよ!此処は『酸化鉄』と書かねば誤答になってしまうんですよ青子さん!!!」

「英語は実にベタね。
 『此れはペンです』を英語で書きなさいの答えが、I am a Pen(私はペンです)だからね………こう言っちゃなんだけど、此れは可也拙いわよ
 青子?まさか、漫画とかでしか見た事がないような回答が現実に現れるとは思わなかったわ。」

「いや、取り敢えず空欄てのはどうかと思ったから埋めといた方が良いなと思ってさ?」



だからって此れは無いわ。
他にも国語のテストで『どんよりを使って文章を作りなさい』の答えが『うどんより蕎麦が好き』とか、数学の角度を求める問題での答えが『多分3
5度くらい』って、酷いにも程があるでしょう……此れは、徹底的に叩き込まないとダメね。

如何するのみほ、このバカを短期間で如何にかするのは楽じゃないと思うんだけど?



「可成り骨が折れそうだよナオミさん……此れは、究極の付け焼刃方式を使う事も考えておかないとならないかもしれないね……」

「付け焼き刃でもなんでも、取り敢えず赤点取らなければ何でもいいんだけどな~~~♪」

「貴女が其れを言ったら、元も子もないでしょう!!」



はぁ……この勉強合宿は前途多難だわ。
とは言っても、青子が居ないと隊長車は立ち行かなくなるから、何とか『中間考査』と言う名の強敵を突破しないといけないから、覚悟を決めても
うわよ青子?中間考査までの期間、貴女には地獄を見て貰うわ――!!








――――――








Side:みほ


そして始まった勉強合宿。
お母さんは、私が学校の友達を連れて来た事を喜んでたけど、今回はちゃんと紹介してる暇もないから、ちゃんと紹介するのはまた今度……凄
く残念そうだったけど、青子さんが準決勝に出れるかどうかが掛かってるって言ったら、アッサリ納得してくれたね。

で、合宿を始めて分かった事は、青子さんは記憶力は良いけど、理解力が壊滅的にない事。
実際に、歴史とか理科の化学反応の結果みたいに明確な答えを記憶すれば良い物に関しては、此れまでの間違った記憶を上書きする事で可
成り改善されてきたから。

逆に理解力が必要になる数学の方程式とか、英語の文法は壊滅的で、数学担当のナオミさんと、英語担当のつぼみさんが、如何したものかと
本気で頭悩ませてるよ。

社会と理科は何とかなるかもだけど、もう1教科赤点を回避しないとダメだから……しょうがない、此処は青子さんの記憶力の良さに物を言わせ
た最終手段を使う事にしよう!
丁度今、ナオミさんが青子さんに数学の例題の解き方教えてるから――青子さん、その例題の解き方を覚えて。兎に角、解き方だけ覚えて!



「へ?あぁ……まぁ、解き方覚えるくらいなら何てことはねぇって!――よっしゃ、覚えた!」

「覚えたって……じゃあ此れが、如何言う問題で如何言う式の末に答えが導き出されるか分かったのね?」

「いや、全然?」

「は?」

「でも覚えたよね、青子さん?」

「そりゃもうバッチリ。だから、次の問題頼むぜナオミ。」

「って、分かってないならダメでしょ!?分かってないのに次の問題やったって、丸っきり無意味よ其れ!?
 と言うか、私が教える意味ないんじゃないの其れじゃ?」



普通はそうなんだけど、今はその限りじゃないんだよナオミさん。だって圧倒的に時間が足りないんだから。
もう青子さんには、一々理解してる暇なんてない。と言うか、理解させるのが多分無理だから、赤点を回避する為には『全部』覚えてもらうしかな
いんだよ。



「え?ちょっと……まさかそれって――」

「大丈夫だ、覚えたから。」

「まさか、この究極の方法を使うとは――!!」



それ以外に方法はないから。
こうなったら、テスト範囲にでる数学の数式の解き方やら、英語の文法やら、国語の文章問題まで、全部みんな全て覚えて貰う……言うなれば
『丸暗記』して貰うよ!

考えてみれば、戦車道でも青子さんは、私の作戦を逐一全部詳細に記憶してたから記憶力は抜群に良い。だから、テスト範囲の丸暗記だって
やって出来ない筈がない!!
だから青子さん、理解しないくて良いから、兎に角覚えて。全部脳味噌に叩き込んじゃって!!



「おっしゃあ、任せとけ!!理解する事は出来なくても、覚えるだけなら簡単なモンだ!!
 赤点回避の為に、覚えるべき事は全部覚えてやる!!だから、ナオミもつぼみも遠慮しないで、兎に角アタシの頭に叩き込んでくれ!!記憶
 容量だけは自信あるから、5教科全部のテスト範囲の彼是覚えてやるぜ!!」

「何と言う極端な脳味噌をしているのやら……」

「100か0か……分かりやすいと言えば、分かりやすいと言えるわ。
 でも、それ以外に手もなさそうだし、丸暗記させるしかなさそうね?……良いわ、装填士が居なくちゃ戦車は戦えないんだから、徹底的に貴女
 の脳味噌に覚えさせてあげるわ青子。
 それで、追試喰らうような事態になったその時は、パンターに括りつけて、校庭引き摺り回すから覚悟しておきなさい。」

「おうよ!ドンと来いってんだ!!」



中間考査まであと3日……赤点回避の為に青子さんに全部覚えさせます!!ぱんつぁー・ふぉー!!!








――――――








No Side


そんなこんなで、兎に角青子に『覚えさせる事』のみを考えた『丸暗記作戦』はこれでもかと言う密度で展開され、青子は都合数十ページに及ぶ
テスト範囲の彼是を全て頭に叩き込んで行ったのだった。

で、中間考査前日になんとかそれも終わり、教える側のみほとナオミとつぼみも漸く一段落。
一方の青子はと言うと、全部終わったその瞬間に、CPUを上書き保存した上で自動シャットダウンしたPCの如く活動を停止して現在爆睡中。
言わせて貰うならば、女の子にあるまじきイビキをかいて爆睡中。此れはもう、明日の朝まで引っ叩こうが、頬っぺたを抓り上げようが、何をして
も目を覚ます事はないだろう。


「其れでみほ、彼女は何とかなりそうなのかしら?
 まほが率いる黒森峰との準決勝、欠員が1人でも居たら明光大付属に勝ち目は無いと思うわよ?いえ、間違いなく勝てないと思うわ。」

「多分、大丈夫だと思うよ其れは。」


で、現在みほは、母のしほと共に入浴中。(ナオミとつぼみには、先に風呂に入って貰った。)
余談だが、西住家の浴室は、ちょっとした温泉くらいの広さがあるので、2人で入っても全然マッタク余裕があるのだ……流石は西住流である。

尤も母娘の入浴は、全くの偶然――脱衣室にみほとしほが同時に訪れたから、そうなったに過ぎない。
それでも、自然と話は勉強合宿の事になる辺り、しほも可成り気にはしていたのだろう。
実の娘二人が、夫々全く異なるチームを率いて戦う準決勝――其れは、双方が万全の状態で行われて欲しいと言うのが、しほの偽らざる思い
であったのだから。


「必要な範囲は全部教えたし、青子さんの記憶力なら、全部覚えてくれたと思うから。」

「ならいいのだけれど、正直な事を言うなら丸暗記と言うのはあまり当てにならないと言うのが私の考えなのよね……個人的な意見だけれど。
 と言うか、仮に全部丸暗記できたとして、まさかそれで赤点を回避できるなんて言う事にはならないのではないかしら?」

「其れはそうかも知れないけど……でも、やらないよりはマシだから。」

「確かにそうかも知れないけれどねぇ………」



ところがギッチョン、その『まさか』だった。



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中間考査が終わった明光大付属中では、その結果が学年毎に渡り廊下に張り出されるのだが、1年生の結果と順位にはトンデモない事が起こ
っていた!
何故ならば……



『1位:辛唐青子:500点』



中間考査前の小テストで、全教科炎上していた青子が、まさかの500点満点でぶっちぎりのトップ!!
此れだけでも驚く事だが、続く2位以下の面子が、2位がみほで合計451点、3位はナオミとつぼみの同点で447点と、戦車道の隊長チームが
1位から同列を含めた3位までを独占したのである。


勿論これには、誰もが驚いたが、一番驚いたのは隊長チームの面々だった。


「徹底的に覚えさせたとは言っても、まさか500点満点を取るとは……丸暗記恐るべしだね。」

「青子の記憶力があればこそなんだろうけれど、此れは流石に驚きね?――若しかしなくても、青子はタモ○さんと記憶術勝負できるんじゃない
 かしら?割と本気で。」

「出来るかも知れないわね此れは……」


徹底的に覚えさせたとは言え、まさか500点満点を達成するとは思わなかったのだろう――記憶力に特化した青子の脳味噌は、みほの予想を
遥かに超えるモノであったらしいのだから恐るべしだ。

ともあれ、此れで青子が追試を受ける事はなくなったので、黒森峰との準決勝にも出場する事が出来る。
其れはつまり、みほが指揮する鋼鉄の豹と、まほが指揮する鋼鉄の虎の正面激突が略確実になった事でもあるが故に、今年の『全国中学戦
車道大会』の準決勝第2試合が大荒れになるのは間違いないだろう。








――――――








Side:みほ


まさか、青子さんが500点満点を達成しちゃうとは思わなかったよ……記憶力特化の脳味噌にとっての丸暗記って言うのは最高で最高の作戦
だったみたいだね。
だけど、此れでパンターブルーは万全の状態で準決勝に臨む事が出来る。
恐らく、次の試合はお姉ちゃん自身が――隊長車がフラッグ車になるだろうから、こっちも隊長車である私達がフラッグ車になって戦わないと多
分勝ち目はないからね。

其れはそれとして――



「其れじゃあ此の問題を……辛唐、解いてみろ。」



今日の数学の授業中、担当の先生が青子さんを指名して問題を解くように言って来たんだけど、其れは明らかなミスチョイスじゃないかと思う。
多分500点満点を達成したから、此れ位は解けるだろうと思って指名したんだろうけど――



「ゴメン先生、全然分かんねー。つーか、其処は覚えてねーから当てられても如何しようもねーわ此れ。」

「ぬあにぃぃぃぃぃぃぃ!?」



青子さんには、赤点回避の為に覚えさせただけで、理解をさせた訳じゃないから、新しい応用問題を出しても解ける筈がないよ。だって、其れの
解き方は覚えてないんだから。



「中間までの事だったら出来るけど、新しいのは覚えてねーから如何しよーもねーな~~~。」

「あの500点満点は夢だったのか!!一時の、泡沫の夢だったとでも言うのか~~~~!!!誰か、嘘だと言ってくれ!お願いだから!!」



認めたくないかもしれないですけど、此れは現実なんです先生。
とりあえず分かってる事は、勉強で大事なのはテストの点数じゃなくて、本当の意味でドレだけちゃんと理解できているのかって言う事だよね。

今回の青子さんは、そのいい教訓だったみたいだよ。



とってんぱらりのぷー。ちゃんちゃん♪













 To Be Continued… 




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