Side:しほ


まほもみほも、無事に1回戦を突破したわね……まぁ、今の中学戦車道界隈で、あの子達に勝てる相手は早々いるモノじゃないと思うから、この
結果は、ある意味で予想通りとも言えるわ。

尤も、1回戦からまほとみほの違いが出ていたとも言える戦いだったとも言えるわ。
みほが、基本的に相手のフラッグ車の撃破のみを狙っていたのに対して、まほは黒森峰の圧倒的な戦力に物を言わせて、フラッグ車の撃破どこ
ろか、敵戦力を殲滅ての完全試合をやってのけてくれたのだから。

お母様に言わせれば、みほの戦い方は『邪道』と映るのかも知れないけれど、私はそうは思わない。
確かに、まほはお母様の言う西住流を体現していると言えるけれど、其れが出来るのは、あくまでも戦力的に恵まれている黒森峰だからこその
事であり、戦力に恵まれていない環境では、それを体現する事は難しい――と言うか、まず不可能でしょう。

寧ろ、保有戦車の質は兎も角として、隊員の質では劣るであろう、明光大付属中でアレだけの戦いをしてのける、みほの方が本当の意味での
『西住流』を体現しているのではないかしら?

『撃てば必中、守りは堅く、進む姿は乱れ無し。鉄の心、鋼の掟。』と言う、西住流の理念は、一見すれば圧倒的な戦力を持ってして相手を蹂躙
し、ともすれば、勝利の為に犠牲もやむなしとも取れるけれど、逆に言うなら強い心を持ち、必中の思いで引き金を引き、犠牲を出さない為に守り
を堅め、仲間と共に進むと取る事も出来るのだから。

言うなれば、まほは『本西住流』で、みほは『裏西住流』と言った所ね?
小さい頃から、まほは『静』で、みほは『動』な部分があったけれど、其れが戦車道にまで現れるとは思っていなかったわ。



「楽しそうですね、奥様?」

「菊代……えぇ、楽しいわ。其れは否定しない。
 だって、私の娘達が、戦車道で活躍しているのよ?まほの黒森峰は言うに及ばず、みほの明光大は、万年1回戦負けの弱小校なのに、一昨
 年の準優勝校を破っての1回戦突破なのよ?其れが楽しくないと思う?」

「思いません、奥様の――しほちゃんの仰る通りですね。」

「ぶほぉっ!き、菊代、貴女ねぇ…!!唐突に昔の呼び方をするのは止めて頂戴。嫌ではないれども、行き成りやられると結構驚くモノなのよ?
 時々そう呼ばれると言うのは、少し懐かしい感じがすると言うのは否定しないけれど――人前では絶対にやらないで。特に娘達の前では。」

「畏まりました、奥様♪」



全くもう、幼馴染が使用人と言うのは、見ず知らずの人間を雇うよりは気楽だけれど、少し気楽になり過ぎる事があるわね……まぁ、適度に気が
抜けると思えば、悪い事ではないか。

さて、続く2回戦、あの子達はどんな戦いをするのか、楽しみだわ。










ガールズ&パンツァー~隻腕の軍神~ Panzer11
『次は水戸市立第二中学校です!!』










Side:みほ


「おはよう!青子さん、ナオミさん、つぼみさん!」

「おう!おはよーみほ!」

「おはようございます、みほさん♪」

「おはようみほ、今日も元気そうね。」



1回戦を突破した翌日。今日も今日とて、ヘリポートで青子さん、ナオミさん、つぼみさんの3人と合流しての登校――私が、此処から登下校をし
てるって事が分かってから、何時の間にかこれが当たり前になったね。
下校時も、此処で解散するのが最近の御約束……友達と一緒に、登下校って言うのは、それだけで楽しいから、私的には全然OKなんだけど♪



「じゃあ、行きましょうか?」

「だな……にしても、一晩経っても昨日の興奮が全然醒めねぇ。
 練習試合の時はそうでもなかったんだけど、やっぱ公式戦だと違うって事なんだろうなぁ?尤も、此の余韻てのもまたいい感じだけどな!!」

「其れが、大会での勝利の醍醐味よ青子さん。
 しかもただ勝っただけじゃなくて、万年1回戦負けの弱小校が、一昨年の準優勝校を破っての1回戦突破なんですから、昨日の勝利は格別な
 事この上ないわ!!」

「もっと言うなら、チーム一丸となって、皆で勝つ事が出来たからだね。」

「そうね、チームの皆が自分の力を100%以上発揮してくれたからこその勝利と言えるわ。――尤も、其れも全ては、隊長が良いからだけど。」

「隊長が良い?馬鹿言ってんじゃねぇナオミ、『良い』じゃなくて『最高』だろうが!」

「此れは失礼。確かに、私達の隊長は、最高の隊長だったわね。」



最高の隊長かぁ……そう言って貰えるのは嬉しけど、そう呼ばれるのはまだ先かな?
1回戦は勝ったけど大会は始まったばかりだし、2回戦を突破したら、その次は間違いなくお姉ちゃんと当たる事になる……今の中学戦車道界
隈で、間違いなく最強のお姉ちゃんと。

ううん、お姉ちゃんだったら、若しかしたら高校生のチーム相手でも勝っちゃうかもしれないからね?――そのお姉ちゃんを倒さないで、最高って
呼ばれる事は出来ないよ。



「みほの姉ちゃんか……確かに半端ねぇってモンだぜ。
 フラッグ戦だってのに、相手を全滅させて、そんでもって自軍は被弾した車輛は有っても撃破された車両は0って言う、完全試合だったしな。
 だけどよぉ、みほだって負けてねぇと思うぜアタシは?ナオミとつぼみもそう思うだろ?」

「愚問ね青子。」

「言われるまでもないわよ。」

「あはは、ありがとう。
 だけどね?黒森峰のパンツァージャケットを身に纏ったお姉ちゃんが、ティーガーⅠの前で腕組してる姿を想像してみて?バックの背景は黒雲
 と、稲光で……さて、どんな感じ?」

「「「凄く、ラスボスです!!」」」



でしょ?だからこそ、お姉ちゃんに勝たないと、最高とは言えないんだよ。
去年2回戦で黒森峰と当たった学校の隊長さんは、『中ボス前にラスボス戦だーーー!!』て言う、意味不明の発言をしていたらしいからね。



「マジでラスボスかみほの姉ちゃんは……なら、確かに其れを倒さなきゃ『最高』を名乗る事は出来ねぇよな。」

「うん、そう言う事だよ。」

自惚れかも知れないけど、お姉ちゃんを倒すことが出来るのは私か、或はお姉ちゃんが『私が唯一ライバルと認めた相手だ』って言っていた『安
斎千代美』さんだけだろうからね。

さてとそろそろ学校に到着――って、なんか校門前が賑わってるみたいだけど……



「号外!号外ーーー!」



新聞部が号外をばらまいてるね?
一体何が書いてあるのか……って、此れは!!!



『祝・明光大付属中戦車道部!!
 悲願の一回戦突破で、万年1回戦負けの汚名を返上!!』




戦車道大会の1回戦突破を伝えるための号外をばらまいてたの!?と言うか、見出しは兎も角この記事は――



『万年1回戦負けの我が校の戦車道部が、今年は一昨年の準優勝校を破って、初の初戦突破を成し得た。
 この快挙は、今年新たに隊長に就任した『西住みほ』の存在を無くしては有り得なかっただろう――彼女こそは、我が校の新たなるヒーローと
 なり得るのかも知れない……彼女のこれからの活躍に期待したい所だ。』




も、持ち上げすぎにも程があるよ。
確かに私は、隊長としてやるべきことをやったけど、一回戦を突破出来たのは、私1人の力じゃなくて、皆の力が有ったからこそだし、こういう風
に書かれると、どうしても気恥ずかしさが先にたっちゃうんだよね。



「あ、西住隊長!一回戦を突破したことについて何か一言!!」

「へ?えぇぇぇぇ!?」

えっと、一回戦突破は通過点に過ぎませんし、私達の戦車道は始まったばかりですから、此処で止まる事は出来ません。
新隊長として、若輩者の私が何処まで出来るかは分かりませんけど、私の持っている全ての力を出し切って大会を戦っていく心算ですので!!



いぃやっほーーーー!!此れは良いコメントが頂けた~~~~!捏造の必要すらないわ此れ!!
 と、言い忘れたわね!私は、新聞部3年の『原尾恵未(はらおえみ)』!いやーー、連敗続きだった綾南中との練習試合を完封勝ちしたって聞
 いて、此れは今年は若しかしたらと思って、会場に足を運んだ甲斐があったわ!
 まさか、一昨年の準優勝校を倒しちゃうんだからさーーー!いや、一戦車道ファンとしても、アレは魂が震えたわ~~~~!!!」

「……みほのコメントが今一だったら捏造する心算だったのかよ?其れって、記者としてどうなんだ?」

「ダメでしょう普通に。
 と言うか、会場に来ていたって……確かにこの号外には、試合中の写真が使われてるから、本当なんだろうけど、昨日は普通に授業があった
 筈だと思うんだけど?」

「新聞部の顧問が担任だから『取材』の名目で公欠扱いにして貰ったわ♪」

「「「「人、其れを職権乱用と言う。」」」」


何をしているんですかマッタク……でも、其処までして試合を見に来てくれたんなら、尚の事勝てて良かったです。
折角見に来て、写真まで撮ってくれていたのに、其れで負けちゃったら格好悪いじゃ済みませんし、何よりも来た事が無駄足になっちゃったかも
知れませんから。
職権乱用は兎も角、次の試合も頑張るので、これからも宜しくお願いします。



「了解!てか、次の2回戦は土曜日で、学校休みだから堂々と取材できるわ~~~!
 あ、勝ったら取材と撮影させてね?今度は号外じゃなくて、月曜日に正式な『新聞』として発行するから。其れでは、アデュ~~~~~~!!」



――バビュン!!



行っちゃった。って言うか、目の前から消えたよね今!?
……何て言うか、嵐みたいな人だったね?



「本当に嵐のような人だったわ――だけど、此の号外のせいで、一気に戦車道部は注目されるでしょうから、無様な負け方は出来ないわね?」

「無様な負けどころか、そもそも負けねーってんだ!
 次も勝って、そんでもってラスボス前のラスボスも倒して、ラスボス倒して優勝しかねぇだろ!!」

「青子、其れ意味が分からないわ。否、言わんとしてる事は分かるんだけれどね?
 ともあれ、私達の目標は只一つなんだから、一つずつ確実に勝って行こうじゃない――そうでしょ、みほ?」



うん、其の通りだよ!
私達が力を合わせれば、きっとどんな相手にだって勝てる筈だから。私はそう信じてるから!!優勝目指して、ぱんつぁーふぉーーーー!!!



「「「おーーーーーー!!!」」」



――キ~ンコ~ンカ~~ンコ~~ン!!



って予鈴!?
恵未さんとのやり取りで、意外と時間取っちゃってたみたいだね此れは――じゃあ、ナオミさんとつぼみさんは、また昼休みに会いましょう!!!
行くよ青子さん!遅刻したら大変だからね!!!



「授業は睡眠学習だから、遅刻しても問題ねぇけどな~~~♪」

「主要五教科の小テストが炎上してるんですから、少しは危機感持ってください青子さん!!」

此れは若しかしなくても、試験前には、勉強会が必至かも知れない――って言うか、今の状態だと確定だね此れは絶対に。



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と言う訳で放課後の戦車道の時間です。――言ったにも拘らず、青子さんは今日も今日とて授業は睡眠学習でした、体育以外は。

さて、次の2回戦の相手は『水戸市立第二中学校』ですけど、この学校の部隊編成はどうなってるんですか、近坂部長?



「二中は、アメリカ製の戦車を使う学校なんだけど、対ティーガーの為に作られたパーシングは持ってなくて、部隊全てがM4シャーマンで構成さ
 れているわ。
 其の内3輌はファイアフライだから、此方の装甲を抜く事は出来るけど、逆に言うならファイアフライを撃破してしまえば、パンターとティーガーⅠ
 が撃破される可能性は極めて低くなるって言えるわね。」

「確かにその通りですね。
 ファイアフライなら、ティーガーⅠの正面装甲すら――其れこそ『食事の角度』を取っていたとしても抜くことが出来ますから。
 だけど、逆を言うなら、ファイアフライさえ仕留めてしまえば、残ったシャーマンでは此方の戦力の要であるパンターとティーガーⅠの装甲を抜く
 のは難しい――76mm砲を搭載したM4でも、500m圏内でなければ100mm以上の装甲を抜く事は出来ませんから。」

「なら、2回戦は如何行く?」



試合開始直後に、Ⅲ号にファイアフライを、ティーガーⅠが潜んでいるキルゾーンに誘導して貰ってこれを撃破。
その後は、パンターとⅢ号で敵部隊を強襲しつつ、Ⅲ突とティーガーⅠの援護射撃を貰って、私のパンターブルーが、敵フラッグ車を誘導して、近
坂部長のティーガーⅠA車が待ち構えているキルゾーンに誘導します。

誘導したら、後はお願いしますね近坂部長?



「任せなさい隊長。
 シャーマン如き、ドイツ戦車の代名詞とも言われているティーガーⅠの、最強の88mm砲(アハトアハト)で、容赦なく撃ち抜いてやるわ!!」

「お願いします。」

戦力的は、此方に分があるとは言え、次の相手も去年はベスト4に名を連ねているので、くれぐれも油断だけはしないようにして下さい。
2回戦も、私達の戦車道を貫いて勝ちましょう!!



「言われなくても、その心算よみほ――私達は、その為に此処に居るんだから其れを忘れるんじゃないわよ?」

「うん、分かってるよナオミさん。」

それじゃあ、次の試合も皆の力を合わせて頑張りましょう!!!2回戦に向けて……Panzer Vor!!(パンツァーフォー!!)








――――――








No Side


そうして始まった2回戦だが、此れはもう面白い程にみほの予測した通りの展開となっていた。
試合開始と同時に、Ⅲ号4輌が敵部隊のファイアフライに奇襲をかけ、其のまま撃破されないように2輌のティーガーⅠが待ち伏せている『キル
ゾーン』に誘き出して、そしてティーガーⅠがファイアフライ3輌を瞬く間に撃破!!

如何に強力な主砲を備えた『蛍(ファイアフライ)』であっても、最強の爪牙を備えた鋼鉄の『虎』の前には、所詮狩られる側でしかなかったのであ
る……蛍で虎には勝てないのだ。

そして、ファイアフライを全車撃破してからは、正にみほが率いるパンターブルーの独壇場!
Ⅲ号とⅢ突をお供に連れて、二中のシャーマン部隊を次々撃破し、文字通りの粉砕!玉砕!!大喝采!!

無論、敵部隊とて此方のフラッグ車を撃破せんとしてくるが、2回戦のフラッグ車たるみほのパンターは、正面が110mmの傾斜装甲であるので
シャーマンの主砲で抜かれる事は先ず無い上に、Ⅲ号が所謂『食事の角度』を保った状態で、パンターブルーの盾になってくれたおかげで撃破
はされていない。



そして――



「近坂部長、お願いします!!」

「任せて!!貫けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」



――ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!



みほが、敵フラッグ車を凛のティーガーⅠが待ち伏せているキルゾーンに誘導し、誘導されたシャーマンにティーガーⅠ必殺の88mm砲炸裂!
重戦車の代名詞とも言われるティーガーⅠの砲撃を受けては、いかに優秀な性能を誇るM4シャーマンと言えども無事では済まない――と言う
よりも、お陀仏間違いないのだ。



――キュポン



『水戸市立第二中学校、フラッグ車行動不能。明光大付属中学校の勝利です。』



結果は言うまでもなく、フラッグ車は白旗を上げて、明光大の勝利!それも、1輌も撃破されずのパーフェクトゲームでの勝利であったのだ。



「あ……ぐぅ……私達の出番此れだけか?」



撃破された二中のフラッグ車から、隊長と思しき人物がふらふらと出てきたが……ぶっちゃけて言おう、君達の出番は此処だけだ。敢えて言うな
らば、踏み台ご苦労である。



「んあぁ!!そんなの、納得できねーべ!!」


納得できなくとも、現実は変わらないのだから、大人しく負けを受け入れるべきだろう。――と言うか、地の文と普通に会話しないで頂きたい。


「よっしゃ、大勝利!!」

「私達の敵じゃなかったみたいね?」

「此のまま、一気に頂点目指すわよーーー!!」

「うん、この勢いに乗らない手はないからね!!」


ともあれ、2回戦は明光大のパーフェクト勝利!!
だが、それは同時に、次の準決勝は無敵にして最強の王者に挑むと言う事になる――弱小校の烙印を捺された明光大は、次の準決勝で、まほ
率いる黒森峰と激突する事が、略確実に決まったのであった。


「次は、いよいよお姉ちゃんとだね――」


そして、最強への挑戦になるにも拘らず、みほは気負う事なく、姉との戦いに向けて静かに、しかし確実に熱く、己の中で闘志を燃やしていた。
ほぼ確定した、準決勝の姉妹対決は、ともすれば中学戦車道の伝説となる試合になるであろう事は、きっと確実と見て間違い無い様だ。













 To Be Continued… 




キャラクター補足




原尾恵美
明光大付属中学校の新聞部に所属する3年生。
記者としての腕前は高く、極めて的確な情報を学校新聞でも書き連ねている。
また、可成りの戦車道ファンであり、戦車道の試合があるのならば、公然と授業をさぼって現場に赴く筋金入り。突っ込み所は多いが、不思議と
憎めないキャラクターをしている。