Side:フォルティス


知っておかなければならないとは言え、流石に年頃の少年に、あの事実は重すぎましたかねぇ?
まぁ、彼は素直な上に頭も悪くないようなので、この『飛空艇フッケバイン』から逃げ出そうなどと言う愚行はしないでしょう――彼のお友達も居ますし。

「彼をどう思いますか、ドゥビル?」

「素直で真っ直ぐな少年であるのは間違いないだろうが――其れだけに危険だな。
 あの手の者は、素直で頭が悪くない反面、一度感情が爆発したら、その暴れ狂う感情のままに行動するのが大半だ……故に有用だが危険だな。」


其れについては僕も同意見です。
ですが同時に、彼を取り込む事が出来たらフッケバインは更なる躍進が出来るのも間違いないでしょう。

何よりも、古来より『毒を持って毒を制す』と言う言葉もある位ですから、彼位の『毒』を制する事が出来なくては僕達の未来はお先真っ暗ですよ。

まぁ、其れでも簡単に恭順するとは思えませんが、彼の大切なお友達もまた僕達の手中にある訳ですから、彼だって――



――ビー!ビー!!


おや?


『現在、本機に向かって大型航空戦力が接近中。
 対象はLS級管理局艦船と思われますが、識別名称以外は全てが不明――唯一判明してる識別名称は『超時空戦闘艦 ビッグバイパーXX03』!』


管理局の艦船!!まさか、この船を補足して直々に攻めて来るとは――!!
















魔法戦記リリカルなのは〜月の祝福と白夜の聖王〜 Force8
闘え、闘え!兎に角闘え!!』











No Side


スカリエッティが造り上げた、この『超時空戦闘艦 ビッグバイパーXX03』は、現行のどんな次元航行艦よりも優れた能力を有していた。
圧倒的な外壁の堅さと、通信能力の強さ、そして次元間のみならず重力下においてもマッハでの飛行を可能とする運動能力が最大の特徴だった。

その最強の戦闘艦の艦長席に座るのは、勿論特務六課の総司令である八神はやて、その人である。


「フッケバインの移動拠点、飛空艇『フッケバイン』――あれもエクリプスウェポンの一種や。
 有り得へんレベルの機動力と相転移能力に加えて、艦載魔導武装の一切合財が通らん馬鹿げた装甲を誇る超重量&超機動力を誇る飛空艇や。
 此れまでフッケバインが無敵を気取ってられたのもこの飛空艇の存在が大きいけど、せやけど何時までも勝手はさせへんで!!」

モニターに映るフッケバインを睨みながら、はやてはそう宣言する。

フッケバインの犯罪行為は、目を瞑れるレベルを遥かに超えているうえに、彼等が起こした犯罪行為で命を落とした者は決して少なくないのだ。
だから、これ以上野放しには出来ない。

まして、アインスが命懸けでフッケバインの構成員に追跡装置を取り付けたおかげで漸く本拠地を補足できたのだから、はやての気合とて充分だ。


『操舵長、此処を逃したら次はないと思ってや?』

「了解!逃がしません!!」

操舵長のルキノに激を飛ばしたはやては、すぐさま別の回線を開いて通信を始める――そう、艦外で攻撃準備を完了している2人に対して。


射程に入り次第、機関部に向けて主砲発射!――主砲2人、準備はえぇか?』

「了解!
 レイジングハートエクセリオン&ルシフェリオンシュバリエ、共にストライクカノンモードを起動、スタンバイOK!」

「何時でも撃てます――タイミングは任せますよ艇長。」


艦外で準備していたのは、なのはと星奈の砲撃上等コンビ!
2人ともスカリエッティが追加した『対EC』機構を組み込んだ己の愛機を手に、やる気も気合も充実しているようだ。

同時に、ビッグバイパー自体も主力武装である『魔導砲サイクロンレーザー』展開し、一斉掃射開始!!

相手がエクリプス兵器の艦船であろうとも、お構いなしにぶっ放す!!
普通なら、魔導砲は掻き消されてしまうところだが、其処は正義のマッドサイエンティストであるスカリエッティ!その辺の対策もバッチリとされていた。



――ゴウン……


「中和フィールドを抜けて来た!?……如何やら只の魔導砲ではないようですね?」

「フォルティス、ビル兄!此れは流石に楽観視でき無くね?」

サイクロンレーザーは只の魔導砲ではなく、アンチ魔導バリアの性質を持っていた。
嘗てのガジェットが搭載していたAMFを応用したこの機構は、まだ不完全ながらも魔導殺しに対して魔導の効果を半分程は与えられるレベルである。

この予想外の攻撃に、流石のフッケバインも余裕綽々と言う訳には行かない。


「これは、逃げおおせるのは難しいようですね?
 ともすれば、管理局が此方に乗り込んでこないと言う保証もないですし――スコール、ヴェイロン、ドゥビルの3人は侵入があった場合に備えて。
 アルナージは、戦闘が艦外に及んだ場合の戦力として待機しておいてください!」

「確かに、侵入者があった場合は、私とビルとヴェイで対処するのが適切だな。」

何時の間に集まって来たのか、スコールとヴェイロンもこの場に。
しかもヴェイロンは、昼寝の邪魔をされたとか言う理由で酷く不機嫌である――艦内戦闘が勃発した場合は、如何足掻いても乱闘は確実である。






そんなフッケバインをよそに、特務六課はいよいよ相手を射程内に捕らえていた。

「射程圏内入ったで!!主砲二人、思いっきりぶちかましたって!!」





「「了解!!」」


はやての号令に合わせるように、なのはと星奈は己の相棒の先端をフッケバインへと向ける。
その先端には、『対エクリプス』の効果が付与された膨大なエネルギーが集中している――それこそ、普通だったら艦船を撃沈しかねない程の物が!


「行きましょうか、ナノハ。」

「そうだね、手加減抜きの……」

「「全力全壊で!!!」」

『『Divine Buster.』』


そして放たれた、全次元世界最強とも言える長距離直射砲撃!!
桜色と真紅の砲撃が、いとも簡単に中和フィールドを突き破り、更にフッケバインの外壁に風穴をブチ空ける。


此れで突入の準備は整った。

「さて、準備は良いか2人とも?」

「勿論!」

「何時でも行けます。」

敵艦船に突入するのは、サイファー、スバル、エリオの3人。
単純に制圧するだけならば、サイファーだけでなくルナも組み込むべきだったのだが、不測の事態に備えて最強のECドライバーは待機状態らしい。

だが、其れでも最古の感染者であるサイファーと、成長著しいエリオ、そして六課切り札の1枚であるスバルの組み合わせは悪くはない。
寧ろこの構成なら、相手が魔導殺しであろうとも互角以上に戦えるのは間違いないだろう。


「時に大丈夫かハチマキ?」

「え?」

「トーマの事、心配ではないか?」

「心配してないって言ったら嘘になりますけど――平気ですよ?何より今からトーマを助けに行くわけですから。」

「ふ……その意気だ。
 では行くとするか2人とも!魔導殺しの上に胡坐をかいて、無敵を気取っている馬鹿共に一泡吹かせてやりにな!!」

「「はい!!」」


スバルの事が気になったサイファーだが、如何やら無用な心配だったらしい。
その迷わぬ意思を見たサイファーは、満足そうかつ不敵に笑うと、一気にハッチから飛び出しフッケバインに!スバルとエリオも其れに続く!!



あっと言う間に侵入に成功し、機関部へ向けて進んでいくが――流石にそう簡単に行けるはずもない。

サイファー達が侵入した瞬間に、操舵士であるステラがフッケバインとエンゲージして、機体の破損を修復し、更に航行速度を上昇させる。
無論六課だって、黙ってはおらず、はやてがビッグバイパーXX03のエンジン出力をレベル2に設定し、速度を倍加させて逃がさないように追う。

同時に、なのはと星奈による誘導射撃と砲撃での攻撃も持続中と、中々に弩派手な空中戦が展開されているようだ。



「侵入して来た外壁、完全に修復されたみたいです!」

「構わないよ、制圧して出るんだから!!」

「ふ、吠えるな――だが其れで良い。」

突入組も、機関部に向かって進行中!外壁修復もお構いなしに進んでいく。


「ほう、大層な自信だな公僕。
 我々の本拠地に土足で踏み込んで生きて帰れるとでも思っているのか?」

が、少しばかり開けた場所に来たところで、スコール達が立ちはだかった――当然この先に進ませないためにだ。――が、


「此れはまた懐かしい顔が居た者だな?
 ……久しいなスコール、彼是17年ぶりか?相も変わらず無駄に元気そうじゃないか?」

「あぁ、本当に久しいなサイファー姉さん……生きていてくれて嬉しいよ、此れで私自身の手でお前を殺す事が出来るからな…!!」

如何やらサイファーとスコールは知り合いであるらしい。
まぁ、容姿は確かに似ていると言えるのだが……


「知り合いですか、サイファーさん?」

「知り合いも何も、アイツはスコール――私の妹さ。」

「妹!?」

なんと、姉妹であった。だがしかし、先程のやり取りを見る限り、決して仲が良い訳では無いのだろう……サイファーもスコールも殺気が凄まじいのだ。


「子供の頃の恨み、存分に晴らさせて貰うからな!!」

「恨みって、何かしたんですかサイファーさん?」

「したと言えばしたか?……だが、精々アイツのカレーを『驚くほどはちみつ』にしたくらいなんだがなぁ?」

「ある意味地味にきついですよね其れ?」

「だが、先ずはアイツの方が私のナポリタンを豆板醤とタバスコで『元祖激辛バーニングナポリタン』にしてくれたんだから、報復としては優しいだろ。」

「つまりアイツのアレは単なる逆恨みであると…」

「そうとも言えるな。」

しかしながら、その殺気の原因は非常にくだらなく……


「だが、お前が私を恨む以上に、私はお前が憎いよスコール。
 17年前のあの日、お前は私と父さんと母さんに毒を盛って意識を奪い、家を爆破してくれたな?――マッタク、家族を手に掛けるとは信じられんよ。
 父さんと母さんは死んでしまったが、私は運悪く生き残り、そしてあのクソ共に捕まってエクリプスの実験体にされてこうなった。
 まぁ、そのお蔭でなのはやルナ達と出会えたのだから、一概に悪かったと言う事は出来んが、お前がECドライバーとして現れたのは気に入らん。
 その力をどこで手に入れたかは知らんが、イタズラに只強い力を振り回しているだけの貴様等は、正直見ていて反吐が出るよ。」

もなかった。
明かされたサイファーの過去の何と重い事か。
しかも自分を殺そうとした妹が、エクリプスの力を得て目の前に居ると言うのは、如何考えても心中穏やかでないのは確実だろう。


「だがまぁ、今の私は特務六課に身を置く民間協力者なのでな?
 ……武器を置いて投降しろ、其れに従わん場合は、武力をもって貴様等を制圧する。」

「面白れぇじゃねぇか?やってみろよ公僕風情が!!」

其れでも民間協力者の立場を踏まえて投降を呼びかけたサイファーだが、聞くまでもないとばかりにヴェイロンが飛び出し、一気に交戦状態に!!
艦内は瞬時にして戦場へと姿を変えたのだった。








――――――








Side:アイシス


戦闘、続いてるな〜〜〜…しかも結構派手にドンパチやってるっぽいし。

アルとか言うアノ無駄おっぱい、動くなとか、じっとしてれば安全とか言ってたけど、艦内放送を聞く限り、此処は空中戦艦の中なのは間違いない。

「……っしょ、縄抜け完了!」

だとしたら、攻撃されて落ちるって事もある訳じゃん?
なら、自分の身と友達を護る為の行動なら『抵抗』には当たらないっしょ?つーか、当たらないに決まってる!!

「アーマージャケット、オン!!」

アノ無駄おっぱいに丸裸にされたけど、此れなら動く事も出来る――先ずはリリィとトーマを探さないとね!!








――――――








No Side


アイシスが行動を開始したころ、艦内での戦闘は激しさを増していた。

サイファーとスコールは、互いに双剣で切り結び、スバルはヴェイロンのディバイダーをソードブレイクで破損させる。
エリオもドゥビルの事を見事な槍術で牽制し、そして互角以上の戦いをしている――正に完全拮抗の戦いになっていたのだ。


だが、その激しい戦闘が、トーマに異常を起こしていた。


――止めろ、耐えられないほど痛い!!


戦いの波動を感じ取ったトーマは、其れを痛いと感じて居た……


――傷つけようとする意思が、壊そうとする力が……頭の中に突き刺さる――!
   どうして、何でどいつもこいつも、俺や、俺が大切にしているモノに、酷い事ばかりしやがるんだ!!!!



――ヴォン


その痛みは、増幅されて怒りと憎しみに転化していく。
そして、更にトーマの感情の昂ぶりと同時に現れたのは一冊の魔導書――銀十字の書だ。

現れた銀十字は、あろう事かトーマの中の負の感情を更に増大させていく。


――傷つけるものみんな、邪魔をするものみんな、怖い戦いも全部みんな全て――消えて無くなっちまえ!!!


『Divide Zero“Eclipse”』


――轟!!



トーマの感情が爆発したその瞬間に――戦闘は強制的に停止させられていた。



「ぐ…ゲホ……な、なんや!?何が起きた!?
 操舵室ルキノ!!通信室、誰か応答してや!!!」



『AED operation.』

「げほ……かは!!!」


「心停止してる子も居るわ!確認と蘇生を急いで!!!」

「は、はい!!!」



無理もない、今のトーマの一撃で、六課の面々は実に半数が心肺停止状態に陥ってしまったのだ。
尤も制服に心肺蘇生装置であるAEDが内蔵されているために、即時に心肺蘇生がなされ、死者が出ると言う事は無さそうだが、状況は厳しい。


甲板に出ていた主砲二人も、星奈が砲撃不可能状態に追い込まれていた。

「く…これしきで不覚――!!」

「仕方ないよ……まさか、ゼロ因子って言うのが此処までだとは予想外だからね…」

「魔力と命を根こそぎ持って行くとは――成程、これは確かに『世界を殺す猛毒』になりかねないな……」

だが、それにも拘らず、なのはとルナの二人だけは、この状況に於いても全く平気――一切トーマの影響を受けてはいなかった。


「此れは、如何やら思った以上に面倒な事になりそうだが――如何する?」

「其れを聞く?……厄介事は、砕いて行くだけだよ。」

「ふ、そうだったな。」

影響を受けなかったのは、恐らくなのはとルナの特異性故だろう。
エクリプスドライバーでありながら、聖王の力を宿すなのはと、次元世界最強の力を有するルナには、ゼロドライバーの力も及ばないのかもしれない。


「それにしてもゼロの力……此れが兵器に使われたらって考えると、なんともぞっとしない話だね……」

「マッタク持ってな……」

その最強の2人は、高度を落とし始めているフッケバインを只静かに睨みつけていた。








――――――








Side:スバル


なに?……一体何があったの!?
エリオもサイファーさんも、フッケバインの連中まで倒れてるみたいだけど、視界がぼやけて良く分からない――此れって如何言う事!?

ぐ……現状を確認したいけど、身体が動かないし知覚も感覚も機能してない――戦闘機人としての力が全て停止させられてる!!
先ずは視界をクリアーにして現状を正確に把握しないと!

視力回復を最優先!!早く、早くーーー!!!



――カツーン……カツーン…



え?靴音?……誰?


「管理局の人、要救護者が2名います。
 お願いです、この子達を、助けてあげて下さい―――――!!」


!!貴方は!!
髪の色も目の色も違うけど、間違える筈がない!その独特のキノコ頭は――!!

「トーマ――――――?」

「その声……若しかして、スゥちゃん―――?」


やっぱりトーマだよね!?……その姿は――如何やら本当にエクリプスドライバーってのになっちゃってたみたいだねトーマ……


なんで、如何して――こんな事になっちゃったんだろうね?……もしも本当に居るなら教えてよ、神様――











 To Be Continued…