Side:アインス


!?なんだ、このプレッシャーは!?――あの少年から発せられているのか?


「目覚めたか……此れは何とも好都合だ。
 さて、試みに問おうか公僕、あの少年は真なるエクリプスドライバーとして覚醒し、最早普通の人間に戻る事は出来んが――如何する?
 アレは私達と同等、或はそれ以上に世界にとって『毒』なる存在だ。――あの少年も私達と同様に『社会の悪』と見捨てて斬り捨てるか?
 まぁ、貴様等公僕はそうするしかないのだろうから其れを咎めはせん。
 だが、我々フッケバインはあの少年を見捨てない。あぁなった以上は……いや、それ以前にエクリプスに感染した時点で彼は我等の同胞だからな。」


意外と人情派なのだなお前達は。
だが、このプレッシャーはあの少年がエクリプスドライバーとして完全に覚醒したが故の事だと言うのならば納得だ。

此れだけの殺意が混じったプレッシャーは早々放てるものではない――其れこそ、破壊と殺戮の衝動に精神が蝕まれでもしない限りはな…違うか?


「大正解だ公僕。
 だが、其れが分かった所で如何する?お前が私を倒すよりも、あの少年が暴走する方が早い。
 仮にあの少年を確保しようとしても、その時はその時で、私がお前を背後から斬り捨てる!――詰め手は略封殺されているが、如何する心算だ?」

「さてな?果たして如何したモノかと頭を悩ませては居るが、妙案と言うのは中々思いつくものでもないらしい。」

故に如何したモノかと思ってるんだが、あの少年を確保するには、ユニゾン状態では無理があるな流石に。

ツヴァイ、コイツは私が引き受けるから下の子供達を頼んでも良いか?

……了解です。
 一応念のために、遅延魔法として右手に治癒&蘇生魔法を、左手に捕獲輪を置いて行くです!――気を付けて下さいお姉ちゃん!!


無論だ――では頼むぞツヴァイ!ユニゾン……アウト!!
















魔法戦記リリカルなのは〜月の祝福と白夜の聖王〜 Force7
祝福の風が鳴らす始まりの鐘』











「融合状態の解除とは、如何言う心算だ?この局面に於いて降参すると言うのか?」

「まさか、そんな訳がないだろう?
 貴様の制圧と、あの少年の鎮静化には此方の方が都合が良いと判断しただけの事だ――なにより、お前程度ならユニゾンしなくとも余裕だからな。」

エクリプスの特性は厄介だし、お前自身の戦闘力は管理局の魔導師ランクで言うならばSランクはあるだろうが、その程度は何の脅威にもならんさ。
何よりも、お前は確かに強いだろうが基礎はそれ程できているとは言い難いようだ――其れでは私に勝つ事など未来永劫不可能と知るが良い!!


「口も達者だな公僕――ならば魔導殺しの力をたっぷりと味わって死ぬが良い!!」

「フン、お断りだ!!」



――ガキィィィン!!



と、思った以上に堅いな?――腕の一本でも持って行ってやる心算だったんだがな。
だが、それ以上にグローブの金属部分で攻撃を受けた事に驚いているようだが――そんなに珍しくもないだろう?やろうと思えば誰だって出来るさ。


「何だそのグローブは!?しかも損傷0って、ドレだけの性能なんだ?――それ以前に何故砕けない!!」

「魔導殺しが有効なのは、その名の通り魔導を基本にしたデバイスなんかに限られる。
 だが、今私がお前の剣を止めたのは、魔導体ではなく、正真正銘の物理体であるグローブの金属パーツだったから止める事が出来たと言う事だ。」

そもそもにして、さっきも言ったが魔導の一切が効かないのであれば、魔導以外の何かを使えば良いだけの事だからな。
何を勘違いしてるかは知らないが、魔導殺しは絶対無敵にして唯一無二の力でも何でもない――戦い方次第では、其れを超える事も出来るのさ。


「成程、だからこそこの格闘と言う訳か。
 確かに魔法よりは幾分効果は有るだろうが、私レベルの感染者ともなれば肉体そのものが凶器となる……素手で鋼鉄を砕くのは略不可能だろう?」

「まぁな、素手で鉄板を砕く事はまず不可能だろう。
 だが、如何に頑丈だろうとも、お前達の身体は『異常に頑丈な人間の身体』だと言う事を忘れるなよ?
 確かに肉体強度は増しているだろうが――鎧で関節技のダメージを軽減する事は出来んぞ?」


――ミシィィ!!!


「グガアッァァ!……実戦の場で使うか普通、飛び付き三角締めを!?」


使える物は何でも使うのが戦場格闘だ!
そして、この関節技は、同時にお前を捕縛する為の一手でもある!!


――ギュルルルルルル!!


「捕獲輪だと!?……小癪な、魔導殺しにこの程度の小技が通じると思うなよ!!」

「通じるなどと思ってはいないが、だがそれでも動きを止めるには充分だ。
 元より、捕獲輪で縛り上げたまま連行できるとは思っていないのでね――先ずは其の意識を刈り取らせてもらう!!喰らえ『ビッグベン・エッジ』!」



――ズドォォォォォン!!!



……やれやれ、呆れた頑丈さだな?
あの高さから、しかも頭から叩き付けられて全くの無傷で意識も飛ばさないとは――此れは、思った以上に捕縛の難易度は高そうだ。

ふむ、此処は作戦変更でアイツを捕縛するよりも、泳がせてフッケバインの本拠地を突き止めた方が有効かもしれないな?
幸いツヴァイが自動発動式の治癒&蘇生の魔法を残していってくれたから、少なくとも死ぬ事だけはない。後は私の演技力次第か。


「多少は効いたが、当てが外れたな公僕?
 貴様等が得意とする魔法は通じず、魔法ではない攻撃も大した効果は期待できないときた――絶望したか?ならば死ね!!」


左右連続の袈裟斬り――将に比べれば遅いとは言え、其れでも普通の剣士の物と比べれば遥かに速い!!


――ズバァァァァァアァ!!!


「がっ………」


「お姉ちゃん!!」


「そうか、小煩い蚊蜻蛉も居たな?」


――ドォォォォン!!


ツヴァイ!!……いや、ギリギリで防御したから致命傷ではないか?流石に意識は吹っ飛んだろうが……
だがしかし、思った以上に傷が深いな?……此れは死ななくとも、本気で意識が飛びかねんレベルだ――!




「純粋な剣や格闘の勝負ならばお前の方が上だが、殺し合いでは私の方に分があったようだな?
 我々を追う愚かさを、お前の死を持って改めて世に知らしめてくれ――我々を追おうとしている六課の面々にもな。」



――ドスゥゥゥゥ!!!



「ガハッ!!」

と、トンでもない奴だなアイツは……?
だ、だが巧く行った――アイツの攻撃に合わせて、スカリエッティ特製の『追跡用ナノマシン』を奴に撃ち込む事が出来た。
未だ試験段階故に追跡可能なのは48時間以内だが、はやてならば即刻追跡を開始してくれる筈だ……そうなれば、フッケバインとてきっと!!


ぐ……だが、ここらが限界か……少しばかり、眠るとするか……








――――――








Side:アイシス


う、嘘でしょ!?
あの眼帯女、銀髪のお姉さんと青髪の女の子を、何の迷いもなく殺したって言うの!?――人をそう簡単に殺すなんて、どんな神経してんのよ!?

幾ら何でも拙すぎる――このままじゃ、トーマは多分アイツに連れてかれる。
何とかしてこの場から逃げなきゃならないんだけど、当のトーマは完全に意識が飛んでるみたいで、アタシやリリィの呼びかけにも反応してくれない。

此れは如何にか眠らせて連れてくしか……



――ギュル…!



「「!?」」


此れ、捕獲用のワイヤーロープ!?何時の間に…!!


「ヘイヘイヘイ!如何よこの見事な捕獲術?そしてアル様颯爽と御登場ってな?」


コイツ、あの眼帯女の仲間?
マッタク厄介な……だけどこの程度の拘束じゃアタシは捕らえられないよ?生憎と、自由に間接外すくらいは出来るモンで!!


「おぉっと、あぶねぇ真似してんじゃねぇよペッタン胸。」


――プシュ!


わぷ!?……は、はれ?なんだか眠気が強烈に……い、今のって睡眠スプレー?
や、ヤバイ……立ってられないって…


「まぁ、そうイキんな……ンタ…夢見ここ……してやっから………」

「…んだ、アル………後の昼……もしてると……ったが?」

「…の心算だったんだけど………クで出てったじゃん?コ……等……える心算だったの?」


何か言ってるけど、会話が聞き取れない……だけど、如何考えたって碌な事じゃない。
トーマが連れて行かれるのは多分確実――そして、アタシとリリィも多分……なんで、如何してこんな事になっちゃった……の、かなぁ……トーマ……








――――――








Side:ルナ


現場に駆けつけてみれば、既に終わった後だったか……此れはまたこっぴどくやられたものだが――おい、そろそろ目を覚ませ!!


「…………」

「起きろアインス!弩派手に血の跡が残っているが、とっくに傷は治っているし、致命傷だとしても蘇生が済んでるだろうが!
 何時までも寝てないでさっさと起きろ!……起きないと、クアットロにお前とはやて嬢を題材に一冊描かせるぞ?」

「其れは絶対に止めてくれ!!」


「うわぁ、本当に無傷で生きてた!!!」
「ある意味でスゲェ!!」
「つーか今ので起きたのが一番スゲェ!!!」


だから言っただろう、アインスは絶対に無事だとな――雷華、ツヴァイは見つかったか?


「見つけたぞ〜〜〜?何か眠ってたから、2、3発引っ叩いたら目を覚ました。」

「あう〜〜〜、雷華さんはもう少し手加減してください!頭が吹っ飛んだら如何してくれるんですか!!」

「大丈夫、手加減したから!」


取り敢えずツヴァイも大丈夫そうだな?

で、お前がムザムザやられるとは思わないから聞くんだが――どんな状況だ?


「流石に鋭いなルナ……死と敗北を演出して、フッケバインの一味に追跡用ナノマシンを撃ち込む事が出来た。
 既に作動してるだろうから、その反応を追えばフッケバインの本拠地を割り出せる――本拠地を割り出してしまえば、後は叩き潰すだけだろう?」

「中々の――いや、最高の仕事をしてくれたじゃないか?
 連中の本拠地が分かれば、此方から仕掛ける事は可能だ……と言うか、作動しているならばジェイルが速攻で追跡を開始して居る筈だろうな。
 恐らくは、そう時間が経たないうちにはやて嬢から出撃命令が出るだろう――既に管理局はエクリプスに関しては全権を六課に任せたようだしね。」

数時間後にはまた戦闘になるのは確実だが、お前は行けるか?


「愚問だなルナ?――腐っても元封印指定ロストロギアと言われた身だ、傷が治っている以上戦闘行為に支障はないさ。
 尤もツヴァイの方は安静にして貰った方が良いかもしれないがな。」

「えぇ!?私だって戦えるですよ、お姉ちゃん!!」

「かも知れんが、お前の残してくれた魔法のおかげでほぼ無傷な私とは違い、お前のダメージは結構深いだろう?
 シャマルに治癒魔法をかけて貰って、その上でシャマルがOKをだしたらその時は、また頼りにさせて貰うけれどね。」


まぁ、シャマルの治癒魔法ならば全快は間違いないから、出撃許可は出るだろうけどな。
何よりも、エクリプスドライバーで構成された凶悪な犯罪集団を一網打尽にする最大のチャンスを、みすみす棒に振る理由は何処にもないだろう?

何よりも、私自身がエクリプスドライバーであるが故に、この力を犯罪に使われると言うのは何とも気持ちの良いモノではなくてね?



――精々教えてやらねばならんだろう?幾ら強い力だと言っても、その力に溺れてしまっては何の意味もないと言う事を骨の髄にまでな!!








――――――








Side:トーマ


………此処は?俺は一体………?


「おや、目が覚めましたか?良いタイミングで目を覚ましてくれたものですね?
 あぁ、無理に答えなくても結構ですよ?酷い頭痛がするでしょうし、気分も良くないとは思いますが少しばかり我慢してくれると助かります。
 取り敢えずこれでも飲んでください、少しは気分がスッキリすると思いますので。」


飲んでくださいとか言いつつ、強制的にグラスの中身口に流し込むなよ!飲むしかないじゃないかこんなの……うげ、滅茶苦茶苦い……

「ゲホッ……此処何処だ?アンタ等は一体?」

「此処は僕らの本拠地で、僕達は世間から『凶悪犯罪集団』何て呼ばれてるファミリー『フッケバイン』のメンバーです。
 そして僕達は、君の最大の味方でもあります――僕達もまた、君と同様のエクリプスドライバーですからね。」


エクリプス……ドライバーだと!?


「其れを含め、少しばかり話を聞いてもらえませんか?
 少なくとも現状において僕達は君の敵ではない――君のお友達2人にも決して危害は加えないと約束します………如何ですか?」


俺の友達って、リリィとアイシスも此処に居るのか!?
2人は何処だ!!もし、俺に妄言かまして2人に危害を加えてたら、絶対に許さねぇ!!テメェ等纏めて皆殺しにしてやるからな!!!


「そ、そういきり立たないで下さい、流石にむき出しの殺意は堪えます。
 君のお友達2人には天地神明に誓って危害を加えてはいません、事が済めば会わせてあげる事も出来ます……尤も全ては君次第ですけどね。」


気に入らねぇな?……結局はリリィとアイシスを盾に、俺をアンタ等にとって都合のいい駒にしようって事だろ?
だけど、2人に何かあったらそっちの方が嫌だから、ひっじょ〜〜〜〜〜に、不本意かつムカつく事だけど、アンタの話を聞いてやる――さっさと話せ。


「大分浸食されているようですが、未だ意識は残っているとは見事ですね。
 ですが、其れだけに君には残酷な現実を躊躇せずに告げる事が出来そうだ…」

「残酷な真実?」

「えぇ、如何足掻こうとも君は二度と普通の生活に戻る事は出来ません――何故ならば、エクリプス感染者は人を殺さずには居られないのですから。」


え?……な、何だよ其れ!?
人を殺さずにはいられないって、そんな、そん馬鹿げた事が有るのかよ!!嘘だよな、そんなの嘘だよな!!


「嘘ではありません、僕が知る限り、エクリプス感染者でその殺戮衝動を完全に制御し、克服したのは3名しか居ませんからね。」


そんな……其れじゃあ俺は、只の殺戮兵器になり下がるって言うのか?……嘘だろ……嘘だよな?……嘘って言ってくれよ…ねぇ、スゥちゃん……












 To Be Continued…