Side:アイシス
え〜っと、此れ如何言う状況!?
街の様子を見て戻ってきたら、トーマは確かめるまでもなく体調が悪そうだし、リリィはそんなトーマを抱きかかえて放そうとしない。
アタシが居ない間に何かのっぴきならない事が有ったってのは間違いないだろうけど、恐らく原因は上空に居る3人だよね?
ダークブラウンの髪に褐色肌の、如何にも『悪者』って感じの女の人と、黒い服を纏った銀髪の女の人と、其れとよく似た青い髪の女の子。
って、あの銀髪の人って前にアタシから指輪買ってった人――じゃないよね、良く似てるけどあの人とは雰囲気が違うし……他人の空似って奴かな?
じゃなくて!如何考えてもこの状況は『一触即発』って事で間違いないじゃない!?下手したら、今直ぐここで弩派手なドンパチが始まるっての!?
「………………」
「――――――」
む、無言で睨みあってるし……此れは交戦は回避不能ですか、そうですか。
だけど、それでもトーマとリリィは、アタシの大事な『友達』だけは絶対に護って見せる!
如何考えても平穏無事に事が終わるとは思えないけど、弩派手なドンパチであればあるほどこの場から離脱する隙も出来る筈――其れを使えば!
「あ……ぐ……あぁぁぁぁ………」
「!!――!!!」
トーマ、リリィ……大丈夫、安心して!
2人とも、このアイシス・イーグレットさんが必ず護ってあげるから!!
魔法戦記リリカルなのは〜月の祝福と白夜の聖王〜 Force6
『凶鳥−その名はフッケバイン』
Side:アインス
「さて、拘束をぶち破ってお前の前にこうして立ってやった訳だが、如何する心算だ公僕?」
フン、安い挑発だな?
その程度のあからさまな挑発に乗ると思ってか?生憎とお前程度の三下の挑発に激昂するほど私は気が短くはない、安い挑発は全く無意味だよ。
まぁ、せめて聞かれた事くらいには答えてやるが、如何する心算かを其処で問うか?
バインドを砕いて抵抗の意思を見せたその時点で、お前には『公務執行妨害』が適応されるんだ――言って分からないバカは叩き伏せるのみだろ?
「クックック……大凡公僕の言う事とは思えんが、その考えには全面賛成だ。
言葉で言って分からない阿呆には、真正面から力で叩き潰して分からせる以外に手はないからな。――だが、お前が其れをやると言うのか?」
「言うまでもないだろう?異常を感じ取ってこの場に駆けつけたのが私なのだからな。
お前達エクリプスドライバー『魔導殺し』が、嘗て『第一級封印指定ロストロギア』と言われた私に何処まで通じるかを見るのもまた一興なのでね!」
――ガキィィィン!!
「第一級封印指定ロストロギアだと?……まさかとは思うが、お前が『闇の書』だとでも言うのか?」
そのまさかだ――尤も『闇の書』は永遠に失われ、今この身は『夜天の魔導書』だがな。
だが、我が主はやてが私を救って下さった事で、私は融合機能以外は嘗ての力を完全に取り戻している、魔導殺しが相手とて簡単にやられはせん!
――斬!
「!?……剣だと!?……何時の間に!!」
「私は夜天の魔導書の管制人格――故に書の守護騎士達の技は全て使う事が出来るし、使用する武器とて簡単に再現が出来る。
武器に関しては、あくまでもイミテーションであるが故に本物よりも性能は落ちるが、それでも一般的なアームドデバイスよりはずっと強力だ。」
序に教えておくが、魔導殺し云々は兎も角として、私の身体能力はお前の数倍は下らないぞ?
第一にして、相手に魔導の一切が通用しないのならば普通に殴って蹴って叩きのめせばマッタク持って無問題だろう?……覚悟は出来ているな?
「大凡公僕の言うセリフとは思えんが、お前となら久しぶりに真面な戦いが出来そうだ!」
「其れは何とも光栄な事だが、此方はお前の欲求に応えてやる程暇ではないのでな……悪いが全力で叩き潰させてもらうぞ!!」
――――――
No Side
アインスとスコールの一騎打ちは、一見すれば一進一退の攻防に見えるだろうが、戦いのペースを握っていたのは間違いなくアインスの方だろう。
本人が言っていたように、アインスは守護騎士『ヴォルケンリッター』の技と武装を略完璧に使う事が出来るのだ。
更にアインスは元々の能力も他の魔導師や騎士の追随を許さない程に高く強力である――如何に魔導殺しでも簡単に斬り捨てられる相手ではない。
「ハンマー・シュラーク!!」
「がはっ!!」
加えてアインスの恐ろしい所は、魔導を必要としない純粋な肉弾戦でも一線級の強さがあると言う事だ。
現に今も、マックスレベルに力を込めたボディブローの一撃で、スコールに決して無視できるレベルではないダメージを叩き込んだのだから。
――ちぃ……居るものだな『本物の強者』と言う者は――!!
其れを喰らって尚、この戦闘を楽しんでるスコールにはある意味で脱帽なのかもしれないが、兎も角戦況そのものはアインスが絶対有利だった。
加えて言うならば、今まで戦闘を行っていたのはアインスのみで、ツヴァイは周辺の状況分析を行っていたのだ。
《周辺のフィールドエフェクト分析完了――何時でも行けるですよお姉ちゃん!》
《良し――来い、ツヴァイ!!》
《はいです!ユニゾン――!》
《イン!!》
――ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!
そのツヴァイと融合し、アインスは本来己が持っていた力の数倍の力を得た『絶対強者』のオーラを纏ってスコールに相対する。
銀髪赤眼が、黒髪黒眼となり、更に蒼銀のオーラを纏ったユニゾン状態のアインスは正に最強レベルの存在と言っても過言ではないだろう。
この状態のアインスを圧倒できるのはあらゆる次元世界を見ても、祝福の月光状態のルナか聖王状態のなのは、冥王状態のはやて位なモノだ。
「仕留める前に聞いておくが――その刀はディバイダーで、お前はフッケバインの一味とみて間違いはないな?」
そしてその状態での終幕宣言とも取れる問いに、しかしスコールも怯む事なく体勢を立て直すと、不敵な笑みを浮かべてアインスに向き直る。
スコールもスコールで、まだ『隠し玉』があるのだろう。そうでなければ、この状況に置いて尚、戦闘態勢などとりはしないだろうから。
「確かにこの刀はディバイダーで、私はフッケバインの最初期からのメンバーだが、貴様等と何か因縁があったかな?」
「3カ月ほど前の事だが、第14無人世界の開墾地――その地でお前達が殺した人々、民間人67名と局員12名を覚えているか?」
だが、先程の問いとは別に、アインスから発せられたのは更なる問い。
果たしてこの問いにどんな意味があると言うのだろうか?
「あぁ……そう言えばそんな事も有ったか?」
「以前に他の局員と視察に訪れた事があってな、静かで穏やかな良い土地だった。
何を持つでもない穏やかな開拓者達だった……そんな、平和に暮らしていた人々をお前達が一人残らず虐殺した理由は何だ?……答えろ!!」
「つまらん殺しは本意ではないが、此方にも色々と都合があってな――だがまぁ、喜べ。お前に言われて思い出した、やったのは私だ。
あの日あの場所で、老若男女を問わずにその場に居た者を全て惨殺しつくしたのは、間違いなくこの私だよ。」
サイファーが時折浮かべる偽悪的な笑みとは違う、真実邪悪な笑みを浮かべて言い放ったスコールの此のセリフ……それが合図だった。
――ドガァァァァァァァァァ!!
「がは!?」
一瞬どころか、其れよりも早い刹那の瞬間にスコールのボディに、アインスの凶器とも言える横蹴りが突き刺さった。
速いどころの騒ぎではない、攻撃の気配は勿論の事、蹴りの予備動作すら認知できなかった。衝撃を感じたら既に蹴り足がボディに突き刺さっていた。
「其れを聞いて安心したよフッケバイン……如何やらお前をこのまま叩き潰しても、心が痛むと言う事だけは無さそうだ。」
言い放ち、そのまま今度は回し蹴りを喰らわせて吹き飛ばし、吹き飛んだ先に回り込んでアッパーカットで打ち上げる。
そのままそれを追いかけて膝蹴りを炸裂させると、無理矢理掴んで上下を反転させてから膝を使った背骨折りを喰らわせ、肘打ちで叩き落す。
恐らくは攻撃されているスコールですら、衝撃を感じるだけで何をされているのかは良く分かっていないだろう。
其れほどまでにアインスの攻撃は速い。まさに目にも留まらぬ……否『目にも映らない』程の速度で凶悪な連続攻撃が繰り出されているのだ。
「く……此れは!!」
「この程度で息を上げてくれるなよ?――ツヴァイ!!」
《はい、準備完了!行けるですよお姉ちゃん!》
「良いタイミングだ!
更にギアを上げるぞフッケバイン、付いてこれる物ならば付いて来てみろ!おぉぉぉぉ……トランザム!!」
――ゴォォォォォォォ!!
更に、あろう事かアインスは、ルナの切り札とも言えるトランザムを発動!
否、ある意味では使えて当然なのかもしれない――嘗ての闇の書事件の際に、アインスはルナを取り込んだ(取り込まされた)のだから。
その際にルナの持つ能力の一部をコピーしたのならば、ルナの使用するブライトハートの能力もコピーしていたとしても不思議ではない。
ならば、アインスがツヴァイの補助があるとは言え、Tran-S・A・Mを発動出来たとしても何らオカシイ事ではないのである。
そして、此れが発動したと言う事は攻撃は更に苛烈になるのは火を見るよりも明らかだ。
スコールは身動きする事すら許されず、空に赤い閃光が煌めく度に、その身体が折れ曲がり揺らぎ、完全に生きるサンドバック状態になり果てている。
「お前達が無慈悲に殺した者達の無念……此れで思い知れ!!」
「しまっ――!!」
「牙突・零式!!!」
その猛攻の締めは、美由希から教わった零距離射程から放つ左片手一本突き!
其れをまともに喰らったスコールは、衝撃に抗う事も出来ずに吹き飛ばされ――そして地面に激突し、その衝撃で大地に大きなクレーターを形成した…
――――――
Side:アインス
《やったですか!?》
「いや、未だ『腕一本』だ、急ぎ捕縛にかかる、頼むぞツヴァイ。」
《ハイです!》
しかし、美由希直伝の牙突・零式を喰らって腕一本で済ますとは、呆れた頑丈さだな?
ルナからエクリプスドライバーの持つ異常な耐久性は聞いていたから、一切の手加減をしないで撃ったのだが、其れでも決定打にならなかったとはな。
おまけに――
――ピキッ
《レヴァンティンが!?》
イミテーションとは言え、アームドデバイスであるレヴァンティンがアイツを突いただけで此処まで破損するとは、魔導殺しの名は伊達ではないらしい。
とは言え、捕縛そのものは難しくないだろうが、如何だツヴァイ?
《準備完了です!彼女との接触状態を0.2秒維持してくれれば即座に拘束完了ですよ!》
「見事なモノだ、私は良い妹を持ったよ。」
接触状態を0.2秒確保する事は造作もない事だ……まして、お前と融合した状態の私には児戯にも等しい事さ。
尤も――
「そこの騎士と融合騎!」
奴がエクリプスドライバーである以上は一筋縄では行かないのだろうがな。
「お前が言っていた開墾地の連中だが、初めの10人ほどは此れで斬り殺した。」
《お姉ちゃん、あの人腕が!!》
再生したんだろうな。
ルナが言うには、肉体の即時再生能力は中期以降のエクリプス感染者の特徴らしい――つまりアイツは最低でも中期感染者であると言う事だ。
「残り全員は、此れから見せる武装で喰った。」
『Engage Konig 944――React.』
――轟!!
……黒刃の双剣、其れがお前の切り札かフッケバイン。
「如何にも、此れがエクリプスの起動状態――ディバイダー944『ケーニッヒ・リアクテッド』、世界を殺す猛毒さ。
お前は確かに強者だが、魔導殺しのこの双剣を果たして止める事が出来るか?止められるなら止めて見せるが良い、公僕風情が。」
止められるかどうかはあまり問題ではないな?――大事なのは止めるか止めないかだ。
確かに、切り札を魔道による一撃としている私にとって、その双剣とエクリプスの本質を解放したお前は最悪の相性と言える、寧ろ天敵と言って良いさ。
だが同時に、お前がエクリプスドライバーでも、ルナやなのはには遠く及ばない事も良く分かる。
如何に魔導殺しと言えども、其れに頼り切って居るような奴など私の敵ではない。
何よりも『世界を殺す猛毒』だと?
あくまでもその可能性があると言うだけで、実際に世界を殺した事がないくせに偉そうな事を言うな――まして、世界を殺した業を背負う覚悟もなくな。
世界を殺すと言うのならば、世界を殺した業を背負う覚悟位は決めてこい。
もっと言わせてもらうならば、エクリプスの持つ破壊と殺戮の衝動を抑える為に殺すと言うのならば、本当にお前達は三流だぞ?
ルナもなのはもサイファーも、その衝動に呑まれる事なく、しかし完璧にエクリプスの持つ利点のみを扱う事に成功しているのだからな?
「と、そんな事はお前には如何でも良い事だったな?――今此処で私に負け、管理局の独房にぶち込まれる運命の奴には無用の情報だったね。」
「ムカつく奴だなお前も……良いだろう、お前を殺して私達を追う者への見せしめにしてやる!」
やってみるが良い――出来るモノならばな!!
――――――
Side:アイシス
よし、上で戦ってる2人は戦いに集中して気が逸れてる。今の内に離脱するよリリィ!
「―――!!!――――!!!」
「大丈夫だって、スティードが脱出経路を探してくれてるからきっと巧く行くよ!」
それ以前に、このまま此処に居るのは拙いから一旦逃げるのが上策でしょ?
色々考える事も有るのは分かるけど、それらを含めて後の事は、安全な場所に行って、トーマが目を覚ましてからじゃないと考えようがないじゃない?
「―――!―――――!!!」
「『でも』も『だけど』も今はなし!
リリィはアタシよりもトーマとの付き合い長いんだから、こう言う時こそ女の子がシャキッとするの!分かった!?」
「………!!」
うん、良い返事。
トーマはアタシが運ぶから、リリィはトーマの荷物を――
――バシィ!!
「!?」
と、トーマ!?
「ア……が……アガァァァァァァァアァァァァァッァアァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」
え……ちょ、何此れ!?一体何が起きてるの!?
確りしてトーマ!アタシとリリィの事が分かる!?……ねぇ!ねぇってば!!――返事をしてよ、トーマ!トーマーーーーーーーーーーーーーー!!
To Be Continued… 
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