Side:ルナ


はやて嬢、本気でこの手配書を使う心算か?……サイファーの話を考えれば、幾ら何でも……


「ルナさんの言わんとしとる事は分かっとる。
 せやけど『教会襲撃の容疑者の最有力候補』として、件のトーマ君を手配した方が色々面倒がないのは分かるやろ?
 序に言っとくと、フッケバインの構成メンバーを手配したところで一般市民の手に負えるモンやない――やったら、保護対象の情報のほうがな……」

「其れに、あくまでも『容疑者』なら、保護後に『違った』って言う事も出来るって事だね。
 尤も、その為にはトーマに『冤罪』を吹っかけた存在が必要になるんだけど……その泥は、崩壊した研究所の職員さんに被って貰う心算?」

「言うまでもないやろなのは?
 碌でもない実験しとった連中に慈悲をくれてやる程、私は優しくもないし平和ボケもしとらん。
 連中が、良く情報を精査しないまま管理局に垂れ込んだって事にするわ――それでも、管理局への多少のパッシングは覚悟せなアカンけどね。」


……此れはまた、なんとも裏技と寝技が巧くなったモノだな。
確かにこの方法なら、トーマに関しての情報を得るのは難しくないし、管理局へのパッシングも最小限に留める事が出来るだろう。

だが、そうだとしてもトーマを確保するのは恐らく簡単ではないと思うぞ?
私達だけでなく、恐らくはフッケバインとやらもトーマの事は狙っているだろうからな……何事もなく無事にトーマを保護するのは難しそうだな。
















魔法戦記リリカルなのは〜月の祝福と白夜の聖王〜 Force5
Blood&Frame……&More』











と、取り敢えず当面の方向性は決まった訳だが……ジェイル、私達を集めて一体何をしようと言うんだ?


「あぁ、そんなに身構えないでくれたまえ、何もない……いや、正確に言うのならばあるのかな?――まぁ、どちらでも良い事だ。
 集まって貰ったのは、少しばかり見て貰いたいものがあってね……いや、エクリプスの歴史が此処まで深いとは思っていなかった次第だよ。」


エクリプスの歴史?
確か基礎理論は、リオン・アークヒルが構築したモノだと思っていたが………


「人をエクリプスドライバーへと変貌させる基礎理論を確立したのは確かに彼だ、それは間違いない。
 だが、エクリプスウィルスと、その制御方法となると話は変わって来てね――取り敢えずこれを見てくれるかな?」


――ヴィン……


モニターに映し出されたのは、一冊の魔導書?
見てくれは、白夜の魔導書や夜天の魔導書にも負けないくらいのハードカバーで、表紙にあしらわれた銀の十字の装飾が目を引くな。

「この魔導書が如何かしたか?」

「うむ、これは『銀十字の書』と言ってね、『夜天の魔導書』『白夜の魔導書』に続く『第3の古代ベルカ時代の大いなる書』なのだよ。
 だが、此れの特性は白夜と夜天とはまるで異なる物でね、どうやら『特定のエクリプスドライバー』のみが扱う事が出来る代物であるらしい。」


そんなモノが……!!
いや、だが待てジェイル、もしもそんなモノがあるのだったら、とっくの昔に管理局が『ロストロギア』として捜索を開始してるんじゃないのか?


「あぁ、言い方が悪かったね――此れは本物じゃない。本物を99.99%再現したコピー品だよ。
 恐らくオリジナルは既に失われているだろうが、しかし此れの歴史的背景を考えるに、エクリプスは既に古代ベルカ時代には存在していた筈だ。
 恐らくリオン君は、過去の文献やら何やらからエクリプスの存在を知り、その当時では不完全だった理論を再構築して確立したのだろうね。」


なんとまぁ、まさかエクリプスが古代ベルカの遺産の一つだったとは驚きだ。
もっとも私の記憶にはないし、なのはも『?』と言う顔をしているから、オリヴィエがゆりかごで全てを終わらせた後の時代の事なんだろうがな……


「うむ、其れは分かったがジェイルよ、その銀十字の書とやらが一体何だと言うのだ?」

「『特定のエクリプスドライバー』言うのが何とも気になるんやけど、如何言う事やの?」

「それはね………正直な事を言うと未だ分からない。
 だが、大事なのは、この銀十字の書のデータは崩壊した研究所から押収した物の中で奇跡的に残っていたメモリーに有った物なのだよ。
 其れを踏まえると、かの研究所では其処から消えた『何か』に加えて銀十字の研究をしていた可能性は非常に高い――略確定と言っても良い。
 そうなると、件のトーマと言う少年が銀十字の力を手にする存在となってしまったとしても不思議ではない。寧ろその可能性を疑うべきだろう。」


確かにその線で捜査した方が良いだろうが――大丈夫か、ナカジマ姉妹の皆は?


「……大丈夫……とは言い難いけど、もしほんとにトーマがエクリプスに感染しちゃってるなら――

――アタシ等は管理局に人間として、アイツの姉貴分として何とかしてやらなきゃならねぇ……そんだけの事だ……!!」


――其れで良い。
 顔見知りが大きな事件に巻き込まれているのに、動揺するなと言うのがそもそも無理だ――だがその上で己の役割を理解しているなら問題ない。
 彼には悪いが、此れだけの大規模手配となれば、入って来る情報だって少なくない筈だ……きっとすぐに見つかるさ。」

「「「「はい……!!」」」」


良い返事だ。

其れでジェイル、銀十字の書と『特定のエクリプスドライバー』とやらの事で、現時点で何か分かっている事はないのか?


「捜査の進展に繋がるような物は特にないが――銀十字の力を手にする事が出来るエクリプスドライバーは『ゼロ・ドライバー』と言うらしい。
 研究所のデータと過去の文献からの推測に過ぎないが、恐らくこのゼロ・ドライバーとやらは文字通り全てのエクリプスドライバーを超越した存在…
 詳しい事は不明だが、その力に目覚め、更に完全制御出来るようになれば――恐らくルナ君やなのは君、はやて君に匹敵する者になるだろう。」

「私やルナ、はやてと同レベル……其れは何ともありがたくない相手だね。」

「マッタクや……自分で言うのもなんやけど、こんだけのチートキャラは私となのはとルナさんだけで充分や。
 ……って、よくよく考えたら王様達も魔導師としては弩チートやし、サイファーちゃんもトンでもないし、特務六課の面々も色んな意味で限界突破…
 あっはっは!!突き詰めりゃ、私が再編成した特務六課が一番のハイパーチート部隊やったな!!」


言われるまでもなく過剰戦力だからな。
此れが6年前の管理局だったら、メンバー全員に能力制御のリミッターが必要だろうに……私となのはは20ランクリミッターでも足りないだろうけど。

だがしかし、油断は禁物だな。
私となのはとサイファーが居るから、特務六課も3人のエクリプスドライバーを戦力として持ってはいるが、フッケバイン構成員の戦力は未知数だ。

サイファーが戦った奴は『そこそこ』でも、その後ろにどれだけの奴が居るかは分からないからな。




尤も、フッケバインとは別に、この事件の黒幕となる人物は存在するんだろうけどな………








――――――








Side:アイシス


アレから数日経って――トーマは体調を崩した。
スティードが言うには、原因不明の高熱って事でまかり間違っても『風邪』なんかじゃない事は私でも分かる。

リリィはトーマがこうなったのは自分のせいだって言ってたけど、そんな事は絶対無い!ある筈がない。
出逢って少しだけだけど、トーマが正義感の強い純粋な男の子だってのは間違いないし、そのトーマが助けたリリィが悪い子な筈がないモン!!




そのトーマが指名手配ってのは如何言う事よ!?
此れじゃあ完全に、教会での件もトーマがやったみたいじゃん!……だからって言って私が何か言っても聞き入れてはくれないだろうけどさ。

だけど、だからって見捨てるなんて事はしないけどね。
てか、そもそも自分から首を突っ込んだんだから此処でバイバイなんてのは無責任にも程があるってモンよ。

それに、同年代の友達ってのも初めてだし、あの2人が死なないように、私の正体がばれないように、精々頑張りますか!!








――――――








Side:ヴェイロン


ったく、アルの奴は少しは食い意地を制御しろってんだ。胃袋がエクリプスの影響で無限状態になってんのかあのボケは?
一応トラック1台分の食糧を帰りがてらに調達して来たが、あのボケが無節操に食いまくったら1週間も持たねぇ……如何なってんだアイツは?


「おかえりなさい、結構かかりましたね?」

「るせぇ、飯を確保してただけだ。」

「其れはご苦労様。
 実は君が出てる間に面白いニュースが入ったんですよ――管理局が嘗てゆりかごを落としたメンバーを再結集した特務隊を再編成したようです。」


其れは、つまり俺等を潰しにか?……ご苦労なこった。


「ディバイダーの確保が優先だろうが、我々も逮捕対象となって居るだろう。」


序に追われるとは随分と舐められたもんだな?


「ま、僕達を追う事の無意味さは理解しているでしょうからね。
 何よりも連中は組織のしがらみやら何やらがありますし、何よりも戦力を魔道に頼り、我等の手に魔導殺しがある以上は何者も脅威にはならない。
 ――と、そう言いきる事が出来たのならば非常に楽だったのですけれどね。」


あん?違うってのか?


「全くの偶然ではありますが、君が交戦した『ホワイトナイツリベリオン』が管理局と協力体制を取っているとなるとね。
 ヴェイロン、かのゆりかごを落としたのは表向きには当時の『機動六課』となっていますが、実はそうではないと言う事は知っていますか?」

「知らねぇな、興味もねぇ――だが其れが如何したってんだ?」

「ゆりかご撃墜の直接の要因となったのはたった2人の魔導師――高町なのはと、高町リインフォース・ルナ。
 この2人が、ゆりかごの最大全力を撃滅し、其れがゆりかごを落とすに至ったと言われています……表沙汰にはならないことですけれどね。
 そしてこの2人が所属していた組織こそホワイトナイツリベリオンの前身となる『リベリオンズ』――反逆の名を冠した私設武装組織なんですよ。
 ――更に調べてみて驚いたんですが、そのトップ2である、高町なのはと高町リインフォース・ルナは、如何やらエクリプスドライバーらしいのです。」


エクリプスドライバーだと!?
って事は管理局のクソ共もこっちに対抗できる力は持ってるって事か……あの眼帯クソアマもエクリプスドライバーみたいだったからな。

だが其れが如何した?
連中がエクリプスドライバーを戦力に持ってたとしても、ディバイダーを持ってるのは俺等とあのクソガキだけだ。

何よりもディバイダーとリアクターが揃えば、俺達エクリプスドライバーは『世界を滅ぼす猛毒になる』……だろ?


「其れがカレンの見解です。」

「俺はそっちにはあんまり興味はねぇがな。
 で、そのカレンは兎も角として、スコールの奴は如何した?」

「お前と入れ違いで地上に降りた――確かめたい事があるそうだ。」


そうかい、まぁ如何でも良いがな。

……そういや、あの眼帯クソアマの事をどこかで見た事があると思ったが、スコールに似てる――寧ろ瓜二つってやつだ。
若しかしてだが、スコールと眼帯クソアマは血縁関係でもあるってのか?……だとしたら其れは其れで面白い事になりそうだけどなぁ!!

正直エクリプスの事も、フッケバインの目的も俺には大して意味はねぇ……俺はこの力を発揮する事が出来る場所があれば其れで良いんだからな。

だが今回の案件は、思った以上に楽しむ事が出来そうだぜ…!!








――――――








No Side


アイシスが買い出しに出ている間に、トーマの症状は誰の目に見ても明らかに悪化していた。
顔は紅潮し、息も荒く目の焦点が合って居ない――此れだけでも即刻緊急搬送確実と言える状態だが、立場的に其れが出来ない状態なのだ。

もしも此処で救急搬送されようものならば、リリィとアイシスだって只では済まない。
特にリリィは『最重要証拠品』として人として扱われないのは確実だろう。(尤も特務六課は、そんな事は絶対にしないのだが……)


とは言え、トーマが動けないのは事実で、リリィもまた精神感応で意思を伝える事しか出来ない。


だからだろうか?……トーマは覚醒のカウントダウンに入ってしまった……


「あ…ぐ……うあぁぁぁぁぁぁっぁぁぁっぁあっぁあぁ!!!」

――!!」


苦しむトーマに対してもリリィは精神感応で呼びかける事しか出来ない。



如何してこんな時にも声が出ないのか――己の不甲斐なさに苛立ちを覚えるも、現状では如何する事も出来ない。
――尤も、この場にルナかなのはかサイファーの何れか1人でも居たなならば状況は変わったかもしれないのだが………


「放っておけ、エクリプスドライバーが真の姿に覚醒するだけだ。」

そんな時に林の中から現れたのは、サイファーにそっくりな女性――フッケバイン構成メンバーの1人であるスコール。
容姿はサイファーにそっくりだが、眼帯の位置は逆で、頭髪も金髪ではなくダークブラウン……サイファーよりも怪しさ爆発である。


それはさて置き、突然の訪問者に、リリィは抱き着くようにしてトーマを護ろうとする――恐らくは本能なのだろう。
自分が何者であるかを忘却していようとも、一番の根幹部分は忘れないと言う事だ。


だが其れもスコールにとっては下らないモノなのだろう。


「倫理が破損している?……破損プラグインか。
 悪いが我等が用があるのはそっちの少年だけでな、破損プラグその他に用はない――この場で!!」

無意味と判断し、斬り捨てようとするが、そうは問屋が卸さない。


――バシィィィ!!


「!?」

何処からともなく現れた鎖がスコールを拘束し、その身動きを完全に封じる。


此れをやったのは一体誰なのか?

先ずトーマは除外だ……そもそも暴走中なのだから、こんな事が出来る筈がない。
別行動のアイシスに何か出来る筈もないし、リリィに至っては全くの戦力外だからそもそも論外だ。


ならば一体誰なのか?


「全員動くな!!武器を捨てて大人しく両手を上げろです!!」

「時空管理局の特務六課だ――お前達を危険物所持と暴行の現行犯で逮捕する。」


その正体は、アインスとツヴァイの『祝福の風姉妹』。
捜査の途中でこの現場付近を通り、そして異常を感知して駆けつけたのだ。


「貴様は魔導師――いや、どちらかと言うと騎士だな?連れているのは融合騎か?」

「答える義理はないが、ツヴァイは『動くな』と言った筈だ。
 もしも指一本動かし、それ以前に瞬き一つしようものならば――その時は相手が誰であろうと磨り潰すまでだ。」


バインドをぶち破ったスコールと、リインフォース姉妹は互いに睨みあう――戦いは避けられないだろう。



一触即発の空気の中、ただ1人リリィだけが、不安そうに事の成り行きを見守っているのだった――













 To Be Continued…